◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Biotar 4cm/f2《戦前型》(M26)

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この掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のご依頼者様/一般の方々へのご案内なのでヤフオク! 出品商品ではありません。
写真付解説のほうが分かり易いですが今回は初めての扱いモデルだったので記録の意味もあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全行程写真/解説は有料です)。製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


オーバーホール/修理のご依頼を承り概算見積をお送りした際には気がつかなかったのですが作業を始めるので現物を手に取るとズッシリと重みを感じる「総真鍮製」の個体でした。

RoBoT用のオールドレンズとして旧西ドイツのSchneider-Kreuznach製モデルを「こちらの特集ページ」で掲載しています。RoBoT用オールドレンズの描写性能の高さに魅入られてしまい気に入っているので、そのCarl Zeiss Jena製バージョンとなれば大喜びでオーバーホール/修理を承りました。

しかしBiotarモデルで「総真鍮製」となると戦前〜戦中辺りの製産個体が多かったりします。以前「Biotar 5.8cm/f2《初期型》(exakta)」を完全解体してオーバーホールした際、あまりにも調整が大変すぎて「最初で最後 (今後は二度と扱わない)」と決めたのですが、うっかり今回のご依頼を承ってしまいました (実際に現物を手に取って初めて気がついた)。

Carl Zeiss Jena製RoBoT用モデルを扱えると有頂天になっていたワケですが、何のことはなく製造番号から戦前モデルの1938年生産個体であることが分かりました。バラす前から調整に難儀することに思い至り、しまったと後悔先に立たずです(笑)

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Biotar (ビオター) の登場は非常に古く、1910年に第一次大戦前のドイツで開発されたシネレンズとして8.5cm/f1.8が考案されますが量産化までは進まず、1928年にはやはりシネレンズとして量産モデルが焦点距離2.5cm〜7cmまで揃えられたようです。1932年にはフィルムカメラのRoBoT用モデルとしてようやく4cm/f2モデルが登場し、後に1936年一眼レフカメラ用の「Biotar 5.8cm/f2と7.5cm/f1.5」が発売され1965年まで製産が続きました (その後Pancolarに継承されBiotar自体は消滅する)。

なお、このBiotarの開発履歴を知ることで、当時旧西ドイツ側で活躍していた世界初のマクロレンズ「Makro-Kilar」開発設計者であるHeintz Kilfitt氏が、当初27歳から想起し開発した連続写真撮影機 (後のRoBoT) プロトタイプに「Biotar 2.5cm/f1.4」シネレンズを使用したタイミング (1929年31歳の時にプロトタイプ案件を売却している) とも合致するので、当時の横の繋がりが見えてきてオモシロイです(笑) 「Makro-Kilar」についてはこちらのページで解説しています。

今回扱うモデルは、まさにBiotarの変遷の中で一番最初にフィルムカメラ用として開発されたタイプなのですが、その対象となるフィルムカメラは2種類用意されました。

1つが1932年に登場したレンジファインダー式フィルムカメラ「CONTAX I」で、1936年には「CONTAX II」も登場し併売されます。この時に用意された交換レンズ群の中に「Biotar 4cm/f2」が存在しますが、セット販売されていた中心的な標準レンズは「Tessar (沈胴式)」や「Sonnar 5cm/f1.5〜f2」あたりだったようです。

ところが1939年のドイツ軍によるポーランド侵攻により第二次大戦が勃発すると軍用備品としてもフィルムカメラを割り振ったようです。

・ドイツ陸軍:Leica
・ドイツ空軍:RoBoT
・ドイツ海軍:EXAKTA

このように陸海空軍別に備品として用意されるフィルムカメラが決められました。そしてそのタイミングで1934年に登場していた世界初の自動連続撮影が可能なフィルムカメラ「RoBoT I型」がOtto Berning & Co. (オットー・ベルニング商会) から発売されるとすぐにドイツ空軍用として採用されました。

ドイツ空軍で使用していたモデルは「RoBoT I型」をベースとした専用設計モデルで、48枚 (一部は24枚) の連続撮影を実現し主に「Biotar 4cm/f2 (M26)」が装着されていたようです。ちなみに製品のレンズ銘板刻印は「Biotar 4cm/f2」ですが光学系設計上の実焦点距離は4.25cmなので「4 1/4cm」と記載されている個体も僅かですが存在します。

特に急降下爆撃機 (ユンカース Ju78 スツーカ) の左翼中央辺りにこのフィルムカメラが実装され射爆記録を撮影していたようですが、大戦末期には肝心なスツーカの帰還率自体が低かった為に現存する個体が非常に少ないのが現実です。その意味で狙っている人は海外オークションebayなどでもBiotar付のRoBoTが出回ったら即ゲットですね (そもそも生き存えたこと自体が貴重)。

このフィルムカメラの裏面トップには右写真のように「Luftwaffen Eigentum」とドイツ語で「空軍備品」と刻印されています。48枚の連続撮影と言っても、そもそもフィルムのフォーマットが24×24のスクエアフォーマットなのでフルサイズで『Biotar 4cm/f2 (M26)を装着すると四隅にケラレ (黒っぽくなる) が出る懸念が高くなります。

フィルムカメラのファインダーは構えた時に左横上部にも用意されているので、左横からファインダーを覗いて構えて撮ることも可能です (1つ前の写真に写っています)。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
シャボン玉ボケから円形ボケが破綻してトロトロに溶けた背景ボケへと変わっていく様を集めてみました。シャボン玉ボケを筆頭に様々な円形ボケやグルグルボケなど、今となっては同じ4群6枚ダブルガウス型光学系を実装したロシアンレンズの「HELIOS 44-2」のほうが有名になってしまいましたが、当時のソ連 (ソビエト連邦) が狙っていたのは戦前ドイツのCarl Zeiss Jena製Biotarシリーズ (光学系の設計を模倣) でした。しかし模倣した同じダブルガウス型光学系でも実はその描写性が対極的です。

基本的にCarl Zeiss Jena製Biotarはピント面のエッジが繊細なのですが、この当時のBiotarには収差が非常に多く画の四隅に向かって極端に乱れていきます。ところがコントラストが非常に高いのでピント面のインパクトがより強調されてしまい画全体的な繊細感だけに終わらない独特な写り方です。むしろロシアンレンズの「HELIOS 44-2」のほうがコントラストが極端に低く出てきて、且つロシアンレンズのほとんどのモデルに共通する「骨太なエッジのピント面」からホワイトト〜ンの世界に終始してしまう、こちらも独特な描写性です。つまり写真を見れば本家Carl Zeiss Jena製Biotarの写真なのかHELIOSなのかがすぐに分かります (そのくらい対極的な描写性)。

二段目
ピント面の繊細感がより強調されている写真を左端に用意しました。またダブルガウス型光学系の特徴的なグルグルボケは収差の影響から相殺されてしまうので少々少なめです (2枚目)。むしろロシアンレンズのHELIOSのほうがグルグルボケの表出は誇張的な印象を受けます。発色性はご覧のとおりコントラストの高いドイツレンズらしい写り方をします。

典型的な4群6枚のダブルガウス型光学系ですが、以前扱った「Biotar 5.8cm/f2《初期型》(exakta)」同様特殊な光学系の設計をしています (右図はほぼ正確にトレースした構成図です)。
何が特殊かと言えば、前後群の間に挟まれている「絞りユニット」でありそれは「歪曲型の絞り羽根」であると言えます。さらに今まで2,000本以上のオールドレンズを扱ってきて、今回初めての発見がこのモデルにはありました。
以下オーバーホール工程の中で解説していきます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は簡素ですが、その調整まで含めるとこのモデルはやはり「高難度モデル」の分類に入ってしまい、残念ながら今回の扱いが「最初で最後」になります。従ってBiotarに関しては総真鍮製の戦前型、或いは初期型に関して当方では今後扱いません。

総真鍮製なのでアルミ材削り出しの構成パーツは一つもありません。また真鍮製であることから当初バラした時はクロームメッキ加工されていない構成パーツ (上の写真で黄金色に光り輝いているパーツ) は全て「焦茶色」に経年劣化で酸化/腐食しており、上の写真のようにピカピカに光り輝いていません。ピカピカに光り輝かせるのが目的ではなく経年の酸化/腐食による不必要な抵抗/負荷/摩擦を可能な限り低減させて、より製産時点に近い状態まで構成パーツを近づけることで、必要以上のグリース塗布を避け今後数十年の経年劣化に伴う光学系内の劣化を防ぐのが目的です。つまりその為に当方による「磨き研磨」を施しており、それは「DOH」にて解説しています。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑先ずはこの絞り羽根のカタチが特殊ですね。ご覧のとおり「歪曲型絞り羽根」を採用しており縦横奥行き方向全てに渡り直線部分が存在しない丸みを帯びた絞り羽根です。数多くオールドレンズを扱っていますがBiotarの戦前モデル (或いは初期型) のみに限定してこのようなカタチの絞り羽根が使われています。

問題なのは、この絞り羽根1枚ずつが適切なカタチで丸みを維持していないと重なり合った時にスキマや引っ掛かりが起き、その余計なチカラ全てが「キー」と言う絞り羽根の表裏に打ち込まれている金属製の突起棒に集中してしまう点です。

特に今回の個体は絞り羽根に経年による赤サビが相当量生じていたので (もちろん油染みも酷かった) 全て除去した上でカタチを整え、可能な限り「キー」に負荷が掛からないよう配慮して整備しています。その理由は、サビが原因で「キーの脱落」が発生した途端に「製品寿命」に至るからです。もちろん「キー」が垂直を維持しなくなると絞り羽根が閉じていく際に円形絞りにはなりません。

またこの「歪曲型絞り羽根」はご覧のとおり「開閉環/位置決め環」共に丸みを帯びたカタチで用意されているので、ここにピタリと8枚の絞り羽根が重なり合わなければ将来的な問題が発生します。

従って、まずは絞り羽根を1枚ずつカタチを整え、都度位置決め環に差し込んではピタリと形状が一致しているのか確認/調整しながら工程を進めた次第です (何と面倒くさいことか)。実際に作業すると半分の4枚の絞り羽根のカタチが不適合でしたから、おそらく過去の一時期には経年による揮発油成分の油染みが生じ、且つ粘性を帯びてしまい絞り羽根がさらに膨れあがる「癒着現象」が起きてしまい僅かに変形してしまったのだと推測できます。逆に言えば、オーバーホールの工程で絞り羽根のカタチを整えなければ、8枚全てがキレイな状態で格納され開閉してくれません (もちろんキレイな円形絞りにもならない)。

↑同じようにダブルガウス型光学系を実装しているオールドレンズの絞り羽根を閉じて光学系内を覗くと、ご覧のように「まるでカメレオンの目」の如く突き出た感じで絞り羽根が出っ張って見えますが、99%他のオールドレンズではダブルガウス型光学系の第2群が貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) だからそのように見えているだけです。

ところがこのモデルでは本当に「カメレオンの目」状態ですから正直キモイですね(笑)

↑写真が下手なのでよく分かりませんが、今度は後玉側方向から絞りユニットを撮影しました。閉じている絞り羽根は「すり鉢状」にすぼまって (沈降して) います。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。前回Biotar 5.8cm/f2のオーバーホールの際に絞りユニットの組付けだけでとんでもない時間が掛かった経験があるので(笑)、今回のオーバーホールではそれが役に立ちコツが分かっていたのですぐにセットできました (フツ〜一般的な絞り羽根の組み付け作業でやろうとしてもこのモデルの絞りユニットは完成しません)。絞り羽根が歪曲していることがこれほど面倒な (難しい) 作業になるとは気がつかないでしょう。

↑先に光学系前後群を組み付けてしまわないと以下の工程で調整ができないので、ここで先に光学系前群をセットしてしまいます。レンズ銘板を見ると「4cm」と焦点距離が刻印されていますが、光学系設計上の実焦点距離は「4.25cm」です。

↑光学系後群も組み付けてしまいます。当初バラした時はこの後群側が僅かに緩んでいたので、バラす前の実写確認でもピント面が思ったほど鋭く感じませんでした。

↑ここで先ずは絞り環用のベース環をネジ込みますが、最後までネジ込んでしまうと絞り環が機能しなくなります。

今回のオーバーホール/修理ご依頼内容の一つに「絞り環が軽すぎてすぐに動いてしまう」とありましたが、このモデルの絞り環操作は「手動絞り (実絞り)」なのでクリック感がありません。つまり単にネジ込んで回しているだけなのでグリースを塗布して絞り環の操作性を重くするしか方法がありません。今回のオーバーホールでは黄褐色系グリース粘性重め」を塗布しましたがたいして重く変わっていません。

これは設計上の問題なのでこれ以上改善できません。もしもご納得頂けない場合は「減額申請」にてご請求額よりご納得頂けない必要額分減額下さいませ。申し訳御座いません・・。

↑ヘリコイド (オス側) をネジ込んで固定します。ここでスキルがある方は気がついたと思いますが、鏡筒がダイレクトにヘリコイド (オス側) と固定されるので、このモデルは絞り環操作すると距離環まで動いてしまう構造です。

つまりここで前述のご依頼内容「絞り環が軽すぎる」と言う問題を徹底的に重くすること自体がそもそも不可能です。何故なら絞り環を重くした分、今度は距離環側もさらに重いトルク感に仕上げなければボケの調整をするたびにピント位置がズレることになって使いにくくなるからです

オーバーホール/修理のご依頼を承っていると今回のようなご依頼内容を頂くことが多いのですが、以下の点について皆様の使い方は当方の認識とは違うようです。フツ〜一般的な撮影時の手順として・・、

撮影する時は先にピント合わせを行う
ピント位置が決まってから次にボケ具合を調整する

これは例えばボケ具合 (撮影絞り値) が決まっている場合には (例:開放で撮影する) 絞り環を最初にイジるので上記の順番が逆になります。しかし、それは必ずしも全てのオールドレンズに当てはまる使い方だとは当方は考えていません (むしろ上記の手順で操作させる方のほうが多いと認識しています)。

これを絞り環側を重くしてしまうとどうなるでしょうか・・?

ピント合わせを行う
ボケ具合を調整する
絞り環を触った時にピント位置が微動してしまうので、再びピント位置を確認/調整

と言う3回の作業が必要になります。これが当方が言っている「使い辛い」と言う話なので、当方のオーバーホールでは通常「絞り環よりも距離環側を重くする」ように調整して仕上げています (もちろんこれはあくまでも絞り環操作に連動して距離環側が動いてしまう構造のモデルに限定した話)。

従って、今回のモデルで言えば「絞り環を操作するチカラ (つまり軽め) <距離環を操作するチカラ (つまり重め)」にしないとピント位置がいちいちズレてしまい面倒だと思うのですが、以外とこのようなご依頼を承ることが多かったりします。

どうなのでしょうかねぇ〜。

↑距離環用のベース環をセットします。ここまでの工程でお分かりだと思いますが、このモデルは絞り環/距離環、ひいては指標値環まで全てに「ベース環」が用意されており、単にそれら3つの環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) で締め付け固定しているだけです。

絞り環/距離環/指標値環の3つは、それぞれ3本のイモネジを使って均等に締め付け固定しますが、そのイモネジは下手すると「胡麻粒の1/5」くらいの極微少なネジだったりします(笑)

↑マウント部を組み付けます。この時無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で8箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらは距離環の裏側を撮影していますが、解説のとおり「クリック感を実現する為のキー ()」が各距離指標値毎に用意されています。これが今回初めての発見なのですが、オールドレンズで距離環を回す時に「クリック感がある」モデルを今まで知りませんでした。このモデルは距離環の刻印距離指標値毎にクリック感を伴う操作性になっています。

↑一方、こちらは絞り環側ですが、クリック感が無い操作性なので実際裏側にも縁にも何処にもキー (溝) が存在しません。つまり手動絞り (実絞り) と言うことになりますね。

この後は絞り環/距離環/指標値環の3つをイモネジで締め付け固定して無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑無事に完璧なオーバーホールが完了しました。

↑光学系内のクモリ (ご依頼内容の一つ) は、第1群 (前玉) と第2群、及び第4群 (後玉) はキレイになりましたが、第3群の貼り合わせレンズだけは残念ながらバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) なのでクモリは除去できません。

しかし、実際にクモリが生じている箇所は第3群貼り合わせレンズの外周附近なので写真には影響しないレベルです。光学系内には数点「気泡」が含まれています。この当時の光学メーカーは光学硝子レンズ精製時に一定時間規定の高温度を維持し続けた「」として「気泡」を捉えており正常品としてそのまま出荷していましたので写真には影響しません。

↑当初バラした際に緩んでいた光学系後群側もキッチリ締め付け固定しました。

なお、附属頂きました「M26L39変換リング (真鍮製)」を装着すると無限遠位置が僅かにアンダーインフでした (無限遠まで極僅かに到達していない)。そこで当方手持ちの同じ変換リングを装着しましたが、ヘリコイドのトルク調整をする際に装着したまま作業していたら外れなくなってしまいました。大変申し訳御座いません・・。

専用工具を使うにも、このモデルは絞り環/距離環共に内部の構成パーツの問題からチカラいっぱい回すことができないので外せません。申し訳御座いませんがこのままご使用下さいませ。

なお、この変換リングでは適正な無限遠位置を出せていたのでむしろ問題にはならないと思いますが、もしもご納得頂けない場合は同様「減額申請」にてご請求額よりご納得頂けない必要額分減額下さいませ。申し訳御座いません・・。

↑8枚の絞り羽根も赤サビがとれて油染みも無くなりキレイになりました。絞り羽根のカタチ自体を成形したのでご覧のとおり可能な限りの円形絞り状態まで仕上げています。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリース粘性中程度」を塗りました。当初バラす前のチェックでは確かにご依頼内容のとおり非常に重いトルク感でしたが、原因は過去メンテナンス時のネジ込みミスだと推測します。確かに過去メンテナンス時に「白色系グリース」が塗布されていたのですが、ヘリコイド (オスメス) のネジ山をチェックすると一部のネジ山が削れていました。おそらくネジ込み位置をミスったまま締め付けてしまったのではないかと考えます。その結果非常に重いトルクに至っていたようです。

どうしてそのように考えるのかというと、今回のオーバーホールで洗浄後にヘリコイドグリースを塗布しても一切トルク改善しなかったからです。他のグリース種別に変更してもダメでした。それでネジ山を細かくチェックしたところ一部に削れが視認できました。

結果、今回のオーバーホールでは「地獄のストレッチ」を実施しました。このモデルのヘリコイド (オスメス) は2周と3/4回すと外れます (オスメスが分離する)。そこで以下の作業を実施して真鍮製のネジ山部分を強制的に馴染ませました。

ヘリコイド (オスメス) を両手で掴む。
左手にヘリコイド (オス側)、右手にメス側。
両手は互いに親指が接触する状態でヘリコイド (オスメス) を掴む。
雑巾の硬絞り」のイメージでネジ込んでは戻す作業を繰り返す。
この時ヘリコイドを90度分ネジ込み/戻しを1秒間に3回繰り返す。
チカラを目一杯入れつつこの動作を行い90度分を15秒間続ける。
さらに次の90度分に移動して再び15秒間実施。
ヘリコイド (オスメス) 2周と3/4分を90度ずつ行う。
これをもう1セット () 行う。

ヘリコイド (オスメス) を90度分ずつ2周と3/4実施すると、ちょうど約500回分「雑巾の硬絞り」動作を行ったことになり、もちろんチカラを目一杯入れつつやっているので、さすがに両腕と両手がプルプルに震えてしまい、且つ両手の親指と人差し指が赤くなって豆ができそうな感じです(笑)

それで当方ではこの作業を「地獄のストレッチ」と呼んでいます・・(笑)

おかげで真鍮製のネジ山が馴染んで削れてキズが付いていたヘリコイドのネジ山部分が滑らかになりトルク改善が完了しました。真鍮製同士のヘリコイドの場合はこれをヤラない限り改善が期待できません。

この作業をしている時に前述の変換リングを装着したまま作業したので外れなくなってしまった次第です。申し訳御座いません・・。この変換リングをムリに外そうとすると (チカラを入れて試みると) 内部で絞り環やヘリコイドに附随する「シリンダーネジ」の軸が破断する (折れる) 危険性が高いのでご留意下さいませ。

↑当初バラす前の距離環を回すトルク感に比べればだいぶ軽く仕上がりましたが、そうは言っても真鍮製のヘリコイド同士なので「軽いトルク感」とは言い難い状態です。ご納得頂けない場合は申し訳御座いませんが「減額申請」にてご請求額よりご納得頂けない必要額分減額下さいませ。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑筐体外装はバラして洗浄した際にほとんどの刻印指標値が褪色してしまったので当方にて「着色」しています。

↑当レンズによる最短撮影距離70cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

なお、この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回してf値「f2.8」にセットして撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせしてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。

善い年をお迎え下さいませ。