◎ Heinz Kilfitt Müunchen (ハインツ・キルフィット・ミュンヘン) Makro-Kilar D 4cm/f2.8 ● ● ●(M42)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは旧西ドイツのHeinz Kilfit München製マクロレンズ・・・
『Makro-Kilar D 4cm/f2.8 ・・・ (M42)』です。
今回出品する個体のオーバーホールは「距離環を回すトルク感 / 絞り環操作 / 光学系の驚異的な透明度 / 色ズレの無さ」全てに於いて最高の仕上がりとしてその完成度をご報告できます。さらに「純正の化粧箱」をはじめ「純正前後キャップ」が附属し、今回改めて専用のスイスはALPA製「フィルター40番」を同梱させました。
当方ではかつて無い完璧な完全セットとして出品します (待っていても値下がりしません)。
このモデルを前回オーバーホール済でヤフオク! 出品したのは2年前の2017年でしたが、その時の個体はマウント種別が「exakta」でした。同じ「M42マウント」をやはりオーバーホール済でヤフオク! 出品したのは2015年ですから、実に3年ぶりになります。
Makro-Kilarは海外オークションebayでは常時数十本流れていますが、実はその中で1:1等倍撮影が可能な開放f値「f2.8のタイプD」モデルは少なく1年に2〜3本レベルです。さらにマウント種別が「純正のM42」となると1〜2年で1本レベルと言う非常に希少価値の高い個体になります。
しかし、実際に撮影する時に問題になるのはそのような「マウント種別」の話ではなく「光学系の状態」です。ハッキリ言って後群側の貼り合わせレンズにバルサム切れ/コーティング層劣化によるクモリが生じている固体が非常に多いのが現実であり、毎月必ず調達の為にチェックしているのですがついに3年が経ってしまいました。
つまり3年ぶりに発見し調達し得た「完璧な透明度を維持した個体」と言えます。
日本国内のヤフオク! でも数本が流れていますが、例えばマウント種別「exakta」に「exakta → M42変換リング」を附属させ2つのマウントで使えると平気で謳って出品している (6万円) 出品者が居ます。ところが「フランジバック」がこの2つのマウント種別では異なるので、仮に変換リングで適合させたとしても光学性能に影響が出ます。
● exaktaマウントのフランジバック:44.7mm
● M42マウントのフランジバック:45.46mm
たかが「その差0.76mm」の相違ですが、距離環を回した時の刻印されている距離指標値で捉えれば「2〜3目盛分のズレ」にあたるワケで、特にこのモデルは焦点距離:40mmですから距離指標値の「∞」刻印の一つ手前はもう「4m」であり、さらに2目盛分手前は「2m」です。
つまり「M42マウント」として使った時オーバーインフ量が相当に及んでいるワケで、その分最短撮影距離側が短縮されるとしても、このモデルはアポクロマートレンズなのでそれを想定した光学設計をしていません。従って最短撮影距離位置での特にf値「f2.8〜f4」辺りで色ズレの収差が発生してしまいます。まぁ〜、それを一つの「味」として受け入れられる方には有難いことかも知れませんね(笑)
逆に言えば、当方がオーバーホールの際に苦心して調整しているのはそのような事柄とも言えます (何故なら当方が使っているのが簡易検査具だとしても色ズレは明確に判定できてしまうから)。
また別のヤフオク! 出品者の中には「大半の修理業者はそもそも製造元ではないのでレンズの光学性能/技術的詳細データを持っている訳がないのに適当な整備をしている」と貶していますが(笑)、その自分が出品しているオールドレンズ自体が自らの実写確認だけで何ら諸元値を基に判断していません(笑) 言っていることとやっていることが伴わない矛盾を抱えたままのヤフオク! 出品者ですね(笑)
当方などはまさしく貶される対象なのでしょうが(笑)、修理業者の中には厳密な機械設備を使って0.1mm単位でキッチリ無限遠位置をチェックしたり、10倍の精度で光学系の検査をして調整している会社もあります。それら全てを貶していると受け取れる指摘は如何なものかと考えますね。製造元の光学メーカーが既に存在しない場合もあり、仮に現存していても外部に設計諸元書が流れることは日本の場合まずあり得ません (従業員には秘守義務が課せられている/雇用関係時の商業上義務なので守秘ではなく秘守の範囲内)。オールドレンズを最低でも光学系の清掃をして使いたいと思うのは人情であり、光学系を外す以上は検査して組み戻すしか手がありませんから、そのような状況を踏まえれば設計諸元書を参考に整備しろなどと言うのは屁理屈としか言いようがありませんね(笑) そもそもその出品者は改造レンズも集めているそうなので、何だか貶される意味がよく分かりません(笑)
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今回オーバーホール済でヤフオク! 出品するモデルは、旧西ドイツのHeinz Kilfitt München製マクロレンズですが、1955年に世界初のマクロレンズとして登場しその後1958年に追加された開放f値「f2.8」の「後期型」にあたります。
開発設計者は「Heinz Kilfitt (ハインツ・キルフィット:1898-1973)」で戦前ドイツ、バイエルン州 München (ミュンヘン) の Höntrop (ハントロープ) と言う町で1898年時計店を営む両親の子として生まれます。時計職人の父親に倣い自身も時計の修理や設計などを手掛けていましたが、同時に光学製品への興味と関心からカメラの発案設計も手掛けていました。
Kilfittは27歳の頃想起して5年の歳月を掛けて開発したゼンマイ仕掛けによる自動巻き上げ式カメラ (箱形筐体にCarl Zeiss Jena製Biotar 2.5cm/f1.4レンズを実装したフィルムカメラ) のプロトタイプに関する案件をOtto Berning (オットー・ベルニング) 氏に31歳の時に売却しています。
このカメラは後の1933年にはより小型になりカメラらしい筐体となって世界で初めての自動連続撮影が可能なフィルムカメラ「robot I」型 (ゼンマイ式自動巻き上げ機構を搭載した 24x24mm フォーマット) としてオットー・ベルニング社から発売されています。ネット上の解説では、このフィルムカメラ「robot I型」の設計者がHeinz Kilfittであると解説されていますが、正しくはKilfittの案件を基にオットー・ベルニング社が小型化してカメラらしいフォルムにまとめ上げて自動巻上げ機構を開発設計したので少々異なります。
このパテントを基にOtto Berning氏らと共に設立した会社でKilfittはゼンマイ式巻き上げ機構を装備する前の小型フィルムカメラを幾つか開発した後に退社し、長い間温め続けていた自ら光学製品を開発設計するためにこの案件売却の資金を基にミュンヘン市の町工場を1941年に買い取り試作生産を始めています。
大戦後1947年には隣国リヒテンシュタイン公国首都ファドゥーツ (Vaduz) にて、念願の光学製品メーカー「Kamerabau-Anstalt-Vaduz (KAV:ファドゥーツ写真機研究所)」を創業し様々な光学製品の開発・製造販売を始めました (Kilfitt 49歳)。会社名は「Heinz Kilfitt」「Kilfitt」後に1960年念願の生まれ故郷München (旧西ドイツ) に会社を移し「Heinz Kilfitt München」としたのでレンズ銘板刻印もそれに伴い変わっています。
その後1968年70歳の時にアメリカのニューヨーク州ロングアイランドで会社を営むFrank G. Back博士に会社を売却し引退してしまいます。Kilfitt引退後に社名は「Zoomar」(商品名もMakro-KilarからMACRO-ZOOMATARに変更) に変わり終息しています。つまり会社名はKilfitt在籍中のみ自身の名前が使われていたワケですね。なお「Makro」はドイ語表記なのでラテン語/英語表記では「MACRO」ですね。従って自身が在籍していた時代はドイ語表記で出荷していたことになります。
Münchenに戻ったのが62歳 (1960年) だったワケで、戦後の混乱期を避けて人生の黄昏はやはり生まれ故郷に戻りたかったのでしょう。意に反して写真機のほうではOtto Berning & CO. (オットー・ベルニング商会) の「RoBoTカメラ (フィルム自動巻上げ/連続撮影)」への足掛かりを与え会社が存続しましたが最後まで情熱を注ぎ込んだ光学製品は、残念ながらZOOMAR社のシネマ業界への傾倒から消滅していく運命でした。しかし戦前戦後を生き抜いて念願の光学製品に没頭できた人生はまさに栄光の日々だったのではないでしょうか・・引退してから5年後の1973年に75歳でその生涯を閉じています。
ちなみに会社売却先のFrank G. Back博士は有名な現代物理学の父とも呼ばれるノーベル物理学賞受賞のアインシュタイン博士の友人でもあり、2人はこぞってKilfittが造り出す光学機器に高い関心を抱いていたようです (特に光学顕微鏡など)。
Makro-Kilarが登場した1955年と言う年代を考えると、それ以前までの標準レンズ域の概念が人間の目で捉えた認識できる画角として焦点距離40mm〜45mmだったので、自然に焦点距離40mmとして開発し製品化してきたのだと推測できます。その後ライカ判のフィルムカメラに於ける交換レンズ群で焦点距離50mmが標準レンズとして世界規模でスタンダート化してくると業界の認識は一変します。しかし却ってそれが貴重な存在価値になって少々広角寄りに採ったマクロレンズ (世界初) として現在に残る結果になりました。焦点距離で僅か10mmの話ですが使っていると違和感を感じない (もう少し広く/もう少し隣を出したいなどの) 画角のハマりの良さを強く感じています。これは特に後の時代に登場した標準マクロのオールドレンズなどを使うと、むしろちょっと消化不良的な感覚でシ〜ンに臨むことになるので、その時に初めて気がつくような感じです (焦点距離40mmの画角に慣れきっている)。
後の時代に登場したマクロレンズの如く味付けが一切されていない粗削り的な描写性能なのでボケ味は決して褒められるような印象ではありません。さらにピント面のエッジが意外と太く出てくる特性から必然的にインパクトの強い写真に至り易くなります。発色性は本来ナチュラル派でもコッテリ派でもない中庸的な出方をするのですが、一方「初期型」の開放f値「f3.5」モデルでは意外にも低コントラストなシ〜ンが苦手だったりするので、その辺のバランスの良さも「後期型」の安心感に繋がっています。
上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
(各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています)
◉ 一段目
シャボン玉ボケから円形ボケに至るまでを集めてみましたがエッジが骨太に出てくる性格から繊細なシャボン玉ボケを表出させるのが苦手です。また二線ボケの傾向がある滲み方なので最後の右端のように背景がワサワサと煩くなってくることがあり、それを逆手に利用するとこのような写真が撮れます。
◉ 二段目
まさにその二線ボケを上手く活用した写真が左端1枚目でまるで「油絵」のようなイントネーションです。マクロレンズだけあってピント面を非常に正確に描くので被写体の材質感や素材感まで映し込む質感表現能力は相当なものです。また3枚目の写真のようにドライな感覚を留める写り方が特徴で空間表現も得意です。
◉ 三段目
左端の赤色は色飽和せずアポクロマートレンズの特性がそのまま表れています。焦点距離40mmなのでパースペクティブもそれほど歪曲が酷くありません。意外にも人物撮影がナチュラルでクセがなかったりします。
光学系は典型的な3群4枚のエルマー型です。光学系は外径サイズ僅か⌀15.13mmしかありませんから、よくぞこの小さな硝子にこれだけのポテンシャルを注ぎ込んだと感心してしまいます。
【モデルバリエーション】
※ 製造番号の先頭3桁がモデル系列番号を表す。タイプ別はレンズ銘板に刻印あり。
※ xxxx はシリアル値の製造番号 (終盤期には1桁増え5桁に到達)
① 1:2 倍撮影が可能なシングルヘリコイド:タイプE
初期型:モデル系列番号「209-xxxx」
開放f値3.5、最短撮影距離10cm、実絞り、フロントベゼル無し
後期型:モデル系列番号「246-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離10cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り
② 1:1 の等倍撮影が可能なダブルヘリコイド:タイプD
初期型:モデル系列番号「211-xxxx」
開放f値3.5、最短撮影距離5cm、実絞り、フロントベゼル無し
後期型:モデル系列番号「245-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離5cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り
③ 1:2 倍撮影が可能なダブルヘリコイド:タイプA
モデル系列番号「254-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離10cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り
※初期型は存在せず
今回の個体はレンズ銘板に「●●●」ドットが刻印されているので「アポクロマートレンズ」であることが分かり、球面収差/コマ収差/非点収差/像面歪曲/歪曲収差等の諸収差に対して硝材の組み合わせで収差を改善していく際に、屈折率と分散率が異なる2つの硝材 (凸凹) を組み合わせる事で入射光の2波長に対して厳密な色収差を改善させた「アクロマートレンズ」の発展系として、3つの硝材 (凸凹凸) 組み合わせによりアクロマートで補正しきれなかった3つ目の波長 (紫成分) を補正させたレンズを指します。さらに光学硝子の表面反射で片面あたり4%ずつ入射光を失うことを考えると色収差を厳密に補正させようとした時、自ずと入射光に対する3波長分の透過率を向上させる必要が生じるので「青赤黄」の3色について資料 (基となる材料のこと) を用意してコーティング層を蒸着しています。
光学系を光に翳すと「アンバーパープルブルー」の3色の光彩を放ちます。この光彩の色合いが3色なのを以てマルチコーティングと主張する人も居ますが、モデルの変遷や技術的な時代背景などをもとに考察するとマルチコーティング化が達成されるにはさらに10年の歳月が必要でしたから、あまりにも先取りしすぎです (マルチコーティング技術の目的は色収差改善のみに留まらず解像度の向上やその他の様々な収差の改善を狙った技術だから)。
そもそも当時の自然光の解釈 (つまり色の三原色) が「赤青黄」であり、現在のデジタルに於ける「RGB (赤緑青)」とは異なっています (現在の最新技術では「RGBY (赤緑青黄)」も採用されている)。「色の三原色」は総天然色を表現する上での考え方なので、必然的に入射光の色ズレ (色収差) を改善させようとすれば (当時は)「赤青黄」つまり「パープルブルーアンバー」の
3色に対して入射光の表面反射を防ぐ必要があったワケですね。ちなみに当初Makro-Kilarシリーズでは「赤青黄 (つまり●●●)」でしたが「後期型」では「青赤黄 (●●●)」に変更されています (おそらくコーティング層蒸着レベルも変更しています)。
またモデル銘「Makro-Kilar」の「Makro」と赤色刻印にしているのは一部ネット上の解説で案内しているアクセント表示ではなく(笑)「モノコーティング」を表す赤色表示です (初期型モデルに刻印されているモノコーティングを示すCの代用)。従って「C」と「Makro」は同格の位置付けですが「●●●」は当時生産数自体が少なく非常に高額な製品だった「アポクロマートレンズ」を意味するワケです (逆に言うと「初期型」はドットが無い個体も出回っている)。
なお、フィルターはフロントベゼルに装着して使う⌀ 30mm径で厚み:4mm以内に限ります。時々フロントベゼルにフィルターをムリヤリ取り付けている人が居ますが、フィルターによっては光学性能を低下させます (開発設計者のKilfitt自信が前玉直前にしかフィルター装着を認めていない)。今回はそのフィルターの中でもMakro-Kilar専用と謳われているスイスはALPA製フィルター (40番) を附属させました (なかなか手に入りません)。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は非常に簡素ですが、そもそもマクロキラーをここまで完全解体できるスキルを持っている人は世界中探してもそんなに多くは居ません (それほど特異な構造です)。しかし完全解体する必要性がこのモデルにはあることが意外にも世間では注視されていません。
ましてやこのモデルは「無限遠位置調整機能」を装備していませんし、さらに構造上無限遠位置の調整をする「シム環」の類をセットすることが不可能ですから「原理原則」を熟知している人しか無限遠位置を適合させることができません。しかもダブルヘリコイドで、且つ鏡胴が回転式繰り出しともなればヘリコイドのネジ込み位置は当然ながら基準「|」マーカーや絞り指標値との合致など全てをピタリと合わせた上で組み上げて最終的に適切なトルク感で仕上がるレベルと言うのは、相当ハードな世界です。
何故なら、このオールドレンズがマクロレンズでありピント合わせ時に重いトルク感では意味を成さないワケで、それでいて回転式繰り出しなのでピント合わせ後にボケ味の調整で絞り環操作するとなれば、距離環と絞り環のトルク調整が必須 (絞り環操作するたびにピント位置がズレて使い辛くなるから) と言う厄介な問題を含んでいるからです。
つまりこのモデルは「絞り環操作のトルク<距離環を回すトルク<ピント合わせ時のトルク」と言う方程式の下で仕上げなければとても使い辛くてしょうがないことになります (絞り環のトルクが距離環よりも重いとピントがズレて仕方ない)。
当方は毎日のようにこのモデルを使っているので (愛用レンズ) 既に当たり前に認識していますが、マクロレンズですから最も最優先されるべき事柄は「ピント合わせ時のトルク」です。
ビミョ〜な質感表現を合わせるために微動させる時のトルクが重くてはピント合わせ自体が困難になります。かと言って距離環のトルクが軽すぎるとボケ味をイジっただけで (絞り環操作した時に) 距離環がすぐに動いてしまいどうにもなりません。
そうやって考えると、このモデルに関しては、よくもまぁ〜6万円以上もお金を払って未整備の個体を手に入れるものだと感心してしまいます(笑) 逆に言えば、完璧な整備で仕上がっていれば (自分が使っている愛用レンズはもちろん完璧だから) これほど使い易いマクロレンズは無いと考えています。とてもこの後の時代に登場してくる1/2マクロにエクステンションを装着したバカデカイ「等倍マクロ」を使う気持ちにはなりませんねぇ〜(笑)
それほどこのモデルはちっちゃくて軽いですから・・。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。この鏡筒を取り出せたのか否かで全てが決まります (つまり完全解体しない限り取り出せないから)。物理的に鏡筒の直径がマウント部の内径よりもデカイので完全解体以外に取り出す方策がありません(笑)
そして、この鏡筒を清掃して初めて絞り羽根の開閉がスムーズに至るワケですが、それは先見の明があり既にフッ素加工が施された絞り羽根を装備していたとしても、根本的に絞り羽根の「キー」が薄いのでバラして清掃しない限り「絞り環操作を軽く仕上げられない」と言う問題に尽きます。それをごまかして潤滑油を絞りユニットに注入したりして軽くしている個体ばかりが多いので(笑)、必然的に絞り羽根のサビが多くなり製品寿命にどんどん近づいていきます (今までにバラした経験値から言っている話)。
↑10枚のフッ素加工が施された絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根の「キー」のサビが少なければご覧のとおり大変キレイな「円形絞り」になるワケで、それは絞り羽根の「キーの向きが変形していない証」でもあります。だから絞り羽根のサビが問題なのです。
↑このモデルは絞りユニットの固定を光学系前群が肩代わりしているので、一つ前の写真の状態では逆さにすると絞り羽根がバラけてしまいます (従って先に光学系前後群を組み付ける)。
↑こちらは後群側を撮影しています。このモデルはコーティング層の蒸着が既に限界に達しているのでキレイな状態を維持したコーティング層の個体が非常に少ないと言わざるを得ませんが、今回の個体は「希にみるキレイな状態」です。正直、自分が今使っている愛用レンズの代用に予備として確保しておこうかと言う気持ちがフツフツと湧いて出てきたくらいですが(笑)、そんな余裕は当方の生活には無いのでヤフオク! 出品です。
「7」と鉛筆書きされているのはご落札者様だけ意味が分かります。
↑ヘリコイド部 (ダブルヘリコイド) や鏡筒/距離環が組み付けられる基台 (内ヘリコイド:オス側) です。
↑「絞り環」をネジ込みますが最後までネジ込んでしまうと適正な絞り環操作に至りません。絞り環の表面にポチポチと「穴」が空いているのは各絞り値に見合う位置で用意されている鋼球ボールがカチカチと填り込む「絞り値キー」です。
先ず、この「絞り環」のトルク調整が一番最初のハードルです。ここを軽く仕上げてしまうと絞り羽根がすぐに動いてしまう原因に至りますし、かと言って重すぎるとピント合わせ後の絞り環操作時に距離環が動いて使い辛くて仕方ありません。ハッキリ言って、過去メンテナンス時にこのことに気づいてちゃんと調整している整備者は居ませんね(笑)
↑ネット上の解説などで鋼球ボールと言われているフロントベゼルをカチャッと固定してくれる「ダボ」です (鋼球ボールではありません)。
↑プリセット絞り環に先にダボをセットしてから「ハガネ」を入れます。このハガネの強さで心地良くフロントベゼルがカチャッと着脱できるワケです。
↑鋼球ボール+スプリングを両サイドに組み付けてからプリセット絞り環を正しい場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうとプリセット絞り機構が機能しなくなりますし、そもそも無限遠位置の時に絞り環の基準「■」マーカーが鏡胴の基準「|」マーカーと一直線上に並んでくれません(笑)
↑完成している鏡筒をセットします。後玉の下辺りにシルバーにキズが付いているのは後玉のガード位置をムリなチカラで過去に動かそうとした跡です (当方が付けたのではありません)。
↑こんな感じで後玉のガードが付きます。ご覧のように絞りユニットは裏側 (後玉側) から ネジ止め (4本) ですから完全解体しない限り取り出すことができないワケです。
↑内ヘリコイドと外ヘリコイドを組み付けて (ダブルヘリコイド方式だから) マウント部をセットしたところです。大変申し訳御座いませんが企業秘密なので内外ヘリコイドのネジ込み工程は撮影できません(笑)
全部で26箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。もちろんご覧のとおり「Ι」マーカーとマウント部の「△」とがピタリと合致しなければイケマセンし、当然ながらプリセット絞り環や 絞り環のマーカー位置とも合致しているのが正しい組み上げです。
↑いつもなら距離環を仮止めして無限遠位置の調整をしますが、前述のとおりこのモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されていないので、単純に確認するだけです。無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑ご覧のようにオリジナルな化粧箱はもちろん、純正の樹脂製被せ式前キャップに金属製の被せ式後キャップが附属します。当時なら本当は取扱説明書とアポクロマートレンズなので光学系の性能検査値のシートを同梱していましたが、残念ながらそれらはありません。それにプラスαで今回は特別に専用のフィルターを準備して附属品にしました。これはなかなか手に入らないフィルターです・・。
↑光学系内は驚異的な透明度を維持しておりLED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。ハッキリ言って、このモデルで極薄いクモリが生じていない (カビ除去痕も含めての意味) 個体と言うのは本当に希の中の希です!
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
前玉外周附近には経年相応の拭きキズが僅かに数本ありますが写真には一切関係ありません。
↑今回の個体の光学系の状態が良い極めつけがこの後群です。このモデルは後群 (後玉) が突出しているので、そのまま置いたりすると容易に当てキズが付きますから、相当な確率で後玉にキズが残っているのですが「この個体にはありません!」しかも後群側は貼り合わせレンズですからバルサム切れの心配も多いのですが (オークションなどではよく薄いクモリがあると案内されている) どうにも改善できないのでこのモデルでは致命的だったりします (マクロレンズですし)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:5点
後群内:11点、目立つ点キズ:7点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり (前群内:微細)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が数点ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑10枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。
プリセット絞り環はクリック感を伴う操作ですが重すぎず軽すぎずのシッカリしたクリック感に調整しています (ちゃんと調整しているので明言できる)。また絞り環の操作性は軽すぎると絞り羽根がすぐに動いてしまい面倒くさいので相応のトルク感を持たせています。然し、前述のとおりボケ味を調整する為に絞り環操作した時に「不用意に距離環が動かないレベルのトルク感に仕上げている」ので絶妙なバランスです。
ここからは鏡胴の写真ですが経年の使用感がほとんど感じない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。このモデルの筐体外装の塗色「黒色」は、実は「濃い紫」を基色として塗り重ねた黒色になっている焼付塗装なので、ちゃんとそれが分かる程度に磨いてありますが、もちろん「エイジング処理済」なのですぐにくすんできたりしません(笑)
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:重め」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります (僅かなゴリゴリ感)。
・絞り環操作は確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・ダブルヘリコイド方式の設計上、内外ヘリコイドが突き当たる際に「カツン」と一瞬僅かな抵抗感を伴いますが構造的な問題なので改善はできません。クレーム対象としません。
また距離環でピント合わせ後に絞り環操作した時設定絞り値によっては突き当たり動作をするために距離環側が微動してピント位置がズレることがありますが設計上の仕様なのでクレーム対象としません。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑よく当方がヤフオク! 出品している即決価格を「強気」と伺いますが(笑)、それは拘りを持ったオーバーホールを施して出品しているからで、その分の対価を乗せているに過ぎません。だいたい整備している場合でも (ネット上の解説を見ていても) 個別のモデルのピント面に合わせたトルク調整でヘリコイドグリースを選択している人は非常に少ないと言わざるを得ません。
オールドレンズはモデルによってピントの山がアッと言う間の場合があれば、なかなか掴みにくい場合もあったりしますから、それらのピント合わせ時の使い易さを想定の基にちゃんとヘリコイドグリースの種別と粘性をチョイスして、さらにトルク調整まで施して仕上げている細かさは、それなりに評価されるべきものと考えています。
今回のモデルで言えば、前述の方程式が成り立ってしまう以上、距離環を回すトルクと共に絞り環の操作性も考えて、且つそもそもマクロレンズとしての使い易さにも気配りした仕上がり状態と言うのは、そう簡単にできるものではないと思います。ましてやこのような小さな筐体のモデルですから、操作性の良さは何よりも有難いと感じるハズであり、それが当方の即決価格の設定に反映しています。
もちろん無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済ですし、それぞれのマーカー位置 (基準マーカー) もピタリと合致しています。
↑ネット上の解説やライターの記事を見ると「フード」と案内されていますが、一つ前の写真のとおり僅か数ミリしか突出しないのに何でフードの役目をするのでしょうか?(笑) そもそも前玉が奥まった位置に配置されているので既に遮光環が周囲に存在しています (マクロレンズでは当たり前のこと)。
このパーツの役目は、アポクロマートレンズであるが為に前玉直前にしか開発設計者のKilfittがフィルター装着位置を認めていなかったから用意された附属品であり、決してフードではありません(笑)
フィルター装着用の「フロントベゼル (前カバー)」と英語圏では解説されており実際ひっくり返せば一目瞭然です。
↑ひっくり返して反対側を撮影しましたが、ご覧のとおり装着板が用意されています。これを以てしてフードなどとテキト〜な解説をすること自体意味が分かりません(笑) ではいったい何の為に前玉の遮光環にダボが用意されているのでしょうか? 何も考察せずにテキト〜なことを言うのはダメですね(笑)
↑今回特別に用意した (届くのに1カ月近くかかりました) スイスの有名な光学メーカーALPA製フィルター「40番 (スカイライト)」です。
今回ワザワザALPA製フィルターを用意したのには理由があり、この後にカラーフィルター (色付フィルター) をプラスして装着できるよう特別に薄いタイプを探したからです。つまりダブルで (2枚で) フィルターを装着できます。但し2mm厚までしか装着の猶予はありません (全体で合計4mm厚)。
↑この通りスイスのALPA製「40番」のフィルターであり、このフィルターだけで1万円以上します。
↑樹脂製の被せ式前キャップ (右) と金属製の被せ式後キャップ (左) です。前キャップはフロントベゼル装着状態のままピタリと被せることができます。また金属製の後キャップは後玉の当てキズが非常に心配ですから有難いことこの上ないですね(笑)
↑こんな感じで後キャップが填ります (ただ差し込むだけ) が、ちゃんと被せる際に適度な抵抗を感じるよう調整済です (下に向けてすぐに落下したりしない/紛失したら悲劇ですから)。
↑フロントベゼルにフィルターを装着してセットした状態を撮りました。この状態のまま梱包してお届けします。フロントベゼルの着脱は端を2本の指で摘んでカチャッとやるだけでシッカリ着脱できますから簡単です。
↑原産国表示が旧西ドイツ製ですし、ちゃんとドイツ語で「国外特許申請中」と刻印されています。
↑距離環のラバー製ローレット (滑り止め) は1箇所切り込み (赤色矢印) が入っています。オリジナルのラバーは経年で硬化してツルツルになっていたので (しかもボロボロ) 手を滑らせる懸念があった為に貼り替えました。
1:1等倍撮影が可能なので最短撮影距離は上の写真の距離環距離指標値のとおり「5cm」です。この距離になるともう被写体にほぼ接触するかどうかと言う距離ですね(笑) それでもこの筐体サイズなので、本当に他のマクロレンズ (標準マクロ) がチョ〜大型に思えてしまいます(笑)
↑こんな感じでオリジナルの化粧箱に入ります。この赤色と黒色の配色が何ともドイツらしさを醸し出しています。
渾身のオーバーホールが完了し100%納得ずくの仕上がりで完成しました。プリセット絞り環/絞り環/距離環のどれをとっても操作性を最大限に優先したトルク感に仕上がっています。しかも光学系の状態がここまで良いとなれば、残念ながらヤフオク! 出品の即決価格は「値下がりしません」
そもそも今回の個体を入手するのに3年が経過したワケですから、また次回の入手まで2〜3年必要であることを考えれば「その間ず〜ッとヤフオク! に出品」するつもりです(笑) 逆に言えばそのくらいの出来です。
以下の実写をご覧頂ければ分かりますが、最小絞り値「f22」でも相応にピント面周囲のボケ味を持っているのが「さすがマクロレンズ」です。もちろんアポクロマートレンズなので色ズレは皆無です (簡易検査具で確認済)。
↑当レンズによる最短撮影距離5cm付近での開放実写 (1枚目) と離れて撮影した同じく開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。