◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Biotar 5.8cm/f2《初期型-I》(exakta)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製標準レンズ『Biotar 5.8cm/f2《初期型》(exakta)』です。
ハッキリ言って、最高の仕上がりです!(笑)
『Biotar 5.8cm/f2《初期型》(exakta)』は、戦前のドイツで1936年に登場しますが、今回の出品個体は1938年1月に生産された個体です。
そもそも当方は今まで戦前のCarl Zeiss Jena製オールドレンズを手掛けたことがありません。今回初めての扱いだったのですが、想像もし得なかった様々な発見があり非常に有益な経験でした。久しぶりにオーバーホールの楽しさを味わったような印象でとても新鮮です!(笑)
(これがオーバーホール/修理となると他人様の所有物ですから恐怖感のほうが高まりますが)
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
初期型-I (左) 〜 初期型-II (右):1936年発売
絞り羽根枚数:8枚 (初期型-IIは不明)
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f16
前期型-Ⅰ 〜 前期型-Ⅲ
絞り羽根枚数:17枚
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f22
中期型-Ⅰ
絞り羽根枚数:12枚
最短撮影距離:50cm
プリセット絞り機構:有
最小絞り値:f22
中期型-Ⅱ
絞り羽根枚数:10枚
最短撮影距離:50cm
プリセット絞り機構:有
最小絞り値:f16
後期型
絞り羽根枚数:10枚
最短撮影距離:60cm
プリセット絞り:有
絞り連動ピン:有
最小絞り値:f16
この中で「前期型-Ⅰ 〜 前期型-Ⅲ」については過去に整備した時の掲載が「こちらのページ」にあるので興味がある方はご覧下さいませ。
今回出品する個体は、上のモデルバリエーションの中で「初期型-I」になり、市場に出回るのは年に1〜2本レベルでしょうか (圧倒的に「中期型-II」以降が多い)。
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当方は、子供の頃は野っ原を暗くなるまで駆けずり回って真っ黒になって遊んでいたのですがこの歳になると虫や爬虫類が全くダメです(笑)
しかし、今回の個体をバラし始めて光学系前群を外した途端に、思わず「ギョッ!」として
レンズを落としそうになったほどです。
左の写真は、このモデルの絞り羽根を撮影しましたが、ご覧のとおりとんでもないカタチをしていました(驚)
グリーンの矢印のとおり、絞り羽根は上下左右の方向に全て湾曲したカタチの設計です。こんなのは見たことも聞いたこともありません!しかも、この絞り羽根は上下方向も湾曲しているので「一切平らな箇所が無い丸まったカタチの絞り羽根」です。
しかし、光学系前群を取り外して「ギョッ!」としたのはこのカタチを見たからではなく、当方にはこの絞りユニットが「カメレオンの目」のように見えたのですョ(笑)
ビックリしたと言うよりも「うわッ!キモイ!」と言うほうが正しいかも知れません。その瞬間指を滑らせてしまいレンズが手から落ちたのですが、キャッチできたから良かったです。
まるッきしカメレオンの目と同じでグリグリッと突き出ているから、今見てもキモイです!
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光学系は様々なサイトで解説されているとおり4群6枚のダブルガウス型なのですが、この絞りユニットが間に挟まっているとなるとネット上で案内されている構成図が全く違っています。
上図は今回バラして清掃した時にスケッチした構成図なので、曲率や厚みなどは正確ではないイメージ図ですが、そうは言っても「絞り羽根のカタチと位置」はほぼ正確です。
後に登場する「前期型」Biotarでは一般的な絞り羽根と同じ平なカタチに設計変更していますが、この「初期型」は第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 直下ギリギリの位置に絞り羽根を配置しており、光学系の設計として入射光遮蔽をこの位置で行う必要があった為に、このようなカタチの絞り羽根に至ったと推測できます (つまり硝子レンズの中心部と外周部とで同一の位置/距離で入射光を遮蔽する必要があったために絞り羽根が丸まってしまった)。
そして、今回この絞り羽根を清掃して絞りユニットに組み込んだのですが、それがまた大変な作業で、正直もう二度とやりたくないと感じました(笑)
と言うのも、絞り羽根3枚が極僅かに変形しているのですが (材質が何なのか分かりませんが) 鋼/ハガネのようにカタチをキープしており修復できません。おそらく生産時は熱処理しつつ叩き込んでカタチを丸めていたのではないかと推測しますが、できる限りカタチを正すので精一杯でした (材質が異なるのでどこまでチカラを加えて良いのか全く分からない)。
この後に登場する「前期型」以降のモデルで再設計された構成図が右図ですが「初期型」は絞りユニットの配置も絞り羽根のカタチも全く別モノと言えますし、第1群 (前玉) の厚み自体がそもそも違います。最短撮影距離が同じ90cmの前期型が存在するにも拘わらず、設計が違うのがオドロキでした (当方にとっては大発見でした)。
上の写真はFlickriverでこのモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「リングボケ・玉ボケ・背景ボケ・背景」で、下段左端に移って「油絵風・水彩画風・動物毛・逆光」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
他の写真などを見ても、典型的なでダブルガウス型光学系要素のひとつである「グルグルボケ」は、どちらかと言うと大人しめに感じます。また、収差が多いので円形ボケがすぐに破綻してしまい、且つエッジが出てくるので真円状態の玉ボケになりません (口径食も影響しているようです)。
それでも、背景に気を遣ってあげればトロトロとまでは行かないまでも相応のボケ味まで楽しめます。しかし、戦前モデルだからと決してバカにはできないのが動物毛で分かります。ピント面の解像度がこんなに高いとは思ってもいませんでした。
そこで思いだしたのがネット上の解説 (有名処) で、この「初期型」はノンコーティング (コーティングが蒸着されていない無色透明玉) だと案内されていました。しかし、以下のオーバーホール完了後の掲載写真をご覧頂くと分かりますが、今回の個体には第1群 (前玉) の表面と第4群 (後玉) の表面にコーティング層があることが分かりました。
つまりノンコーティングではないことになります。「前期型」以降のモデルでは「T」コーティングが施され (レンズ銘板に刻印されているから間違いない)、モノコーティングであることになりますが「初期型」に関してはシングルコーティングだと結論しました。ノンコーティングのモデルはさらに昔に遡る必要がありそうです。
【当方のコーティングに対する認識】
- シングルコーティング
単層膜コーティングを指しマルチコーティングの対義的な位置になる。 - モノコーティング
複層膜コーティングを指すが、単なる進化/発展途中の技術/考え方に留まらない。 - マルチコーティング
多層膜コーティングを指し、後にはさらに複層膜コーティングを重ねている場合もある。
例えばCarl Zeiss Jena製オールドレンズでも「T」コーティングが主流だったシルバー鏡胴の時代に一時期生産されていた「Tessar 50mm/f2.8 silver 王」は「パープルアンバーブルー」の3色の光彩を放つアポクロマートレンズ (厳密に色収差を補正したレンズ) です。すると3色の光彩が見える以上、3つのコーティング層を蒸着していると考えなければ説明が付きません。つまり「擬似的なマルチコーティング」或いは「複層膜コーティング」と言えるのではないかと考えています (実際にマルチコーティング化技術が確立されるのはさらに後の時代)。これはちょうどロシアンレンズの「Π」コーティングにも似た考え方だ (マルチコーティングではない) と思っています。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部の構成パーツ点数は少なめですが、実はバラす際に注意しないと (解体手順をミスると) 組み上げできない箇所があったりするので、難度は高いレベルではないかと考えます。ご覧のとおり、8枚の絞り羽根が全て丸まったカタチをしています(笑)
このモデルは筐体外装も含めて全ての構成パーツが「真鍮製」なので、ズッシリと重みを感じる重量感です。ネットを見ていると、よくこの「重み」を「硝子の塊」として捉えている人が居ますが、そうではないですね(笑)
まぁ、そう思いたい気持ちも分からないでもありませんが・・。
当初バラした時の真鍮製パーツは、上の写真の光学硝子レンズのように「焦茶色」でしたから2時間掛けて「磨き研磨」しました。ツルツルピカピカに仕上げるのが目的ではなく、経年の酸化による腐食を排除して、表層面の平滑性を担保するのが「磨き研磨」の目的です。
その結果が、今回の仕上がり状態に繋がっています。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するので、ヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」側に配置されています。
ところが、一般的な鏡胴二分割方式のオールドレンズとは異なり、組立手順をミスると全く仕上げられない構造/設計を採っています。なお、上の写真の鏡筒だけでも真鍮製なので相当な重さがあります。
↑冒頭の説明で出てきた丸まったカタチの絞り羽根は、上の写真のように位置決め環 (やはり丸まっている) にセットされて、且つ同様に内側に勾配が付けられている (丸まったカタチの) 開閉環で絞り羽根がサンドイッチされるワケですね (グリーンの矢印)。
↑8枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。この工程がチョ〜大変でした(泣)
冒頭の説明のとおり、この個体は8枚の絞り羽根のうち3枚が極僅かに変形していました。その原因は過去の油染み放置なのですが、油染みを放置し続けると「絞り羽根の癒着」と言う現象が発生し、互いに絞り羽根同士が吸いつきます。すると、絞り環を回している時に絞り羽根が中心部分で互いに吸いついたまま回りますから、絞り羽根の端に打ち込まれている「キー (金属製の棒)」が浮き上がります。結果、浮き上がった「キー」が刺さっていた穴に引っ掛かって絞り羽根が膨れあがります。
つまり、これが絞り羽根が変形する経緯であり、その原因は「油染みの放置」と言うことになります。変形だけで済んでいるうちはまだ安心ですが、下手すれば「キーの脱落」になり、ついに「製品寿命」に至りますから、絞り羽根の油染みは放置プレ〜が多いのですが(笑)、本当は非常に怖い現象ですね。
今回の個体は絞り羽根が鋼 (ハガネ) のようにカタチをキープしているので、変形を修復しようと何度もチカラを入れて試しましたが、僅かに戻った程度です (材質が分からないので怖くてチカラを入れ続けられない)。従って、絞りユニットを覗きながら絞り環を回すと、1〜2枚の絞り羽根に隙間が空いているように見えますが、実は丸まっているので入射光は確実に遮蔽しています (絞りユニット組み込み前にLED光照射しながら実験して確認済)。
↑この状態で鏡筒を立てて撮影しました。4群6枚のダブルガウス型にしては、少々深さがある鏡筒です。その理由は、冒頭解説のとおり絞りユニットの配置と入射光遮蔽の設計が影響しているからです。
↑絞り環用のベース環をセットします。この後はいつもなら絞り環を組み付けるのですが、このモデルではそれは「禁止行為」です(笑)
当方は初めて扱うオールドレンズの場合に、必ず時間を掛けて「構造検討」を行います。これは単に内部構造を把握するだけではなく、本来正しいであろうと考えられる「組立手順」も合わせて考察しています。組立手順をミスると、下手すれば調整が狂ってしまい正しい組み上がりになりません。
それでヤスリでムリに削ったりスプリングを伸ばしたり/縮めたりなどの「常套手段」でムリヤリ仕上げている個体をイヤと言うほど見てきましたから(笑)、当方にとっては「構造検討」と「組立手順」は非常に重要な要素です。
オーバーホール/修理を承っていると、この「構造検討」の料金を請求されることに抵抗感を覚える方がいらっしゃいます。そのような方は、一般的なグリースに頼った整備をしているフツ〜のプロのカメラ店様や修理専門会社様にご依頼頂くのが最善ですね(笑) 当方にはご依頼頂かぬよう切にお願い申し上げます。
↑ここが、まさしく「構造検討」の結果「組立手順」が決まった工程です。鏡胴が二分割のモデルなのにヘリコイド (オス側) を先に鏡筒にセットしなければダメなのです。これを気がつかずに進めてしまうとヘリコイドの位置が狂うので、自動的に無限遠位置も狂います。さらに、指標値の位置までズレてくるので、おそらくまともに組み上がらないでしょう。
↑こちらはマウント部ですが、指標値環も兼ねているため「Ι」マーカーが刻印されています。このマウント部の内側にネジ切りが施されているのがポイントです (つまりネジ込んで組み付ける方式)。
↑ここも「組立手順」から導き出されているので、いつもとは異なる作業に入ります。上の写真は真鍮製のヘリコイド格納筒です。
つまり、鏡胴を「前部/後部」の二分割にしておきながら、どう言うワケかヘリコイド部だけを独立させています。フツ〜多いのはヘリコイド部が鏡胴「後部」側に包括し配置されるのですが、このモデルはヘリコイド部は中立的でどちらにも属しません。
また、マウント部がネジ込み式なのも説明が付きます。exaktaマウント以外のマウント種別に対応させるためにワザワザネジ込み式を採用してきたと考えられます。
↑まずはヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ここでイキナシ完成している鏡胴「前部」をセットすることになります (何故ならばヘリコイド:オス側を既にセットしているから)。「構造検討」でこれに気がつくか否かが、このモデルを完璧な状態で組み上げられるかどうかの別れ道です(笑)
当方は既にこの時点で無限遠位置が適正であることを察知していますが、ご覧のとおりまだ光学系前後群を組み付けていませんから、無限遠が正しく適合しているか否か判断のしようがありませんね(笑) しかし、正しい組立工程を経ていれば、無限遠位置は当然ながら各指標値までピタリと合致します。
なお、このモデルでは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑ようやくマウント部がセットされました。指標値環の「Ι」マーカーとフィルター枠外壁に刻まれている「Ι」マーカーの位置がピタリと合致しているのが分かります。
↑もちろん、距離環を組み付けても「∞」刻印が「Ι」マーカー位置でピタリと合致します。
↑最後になってやっと絞り環をセットできます。しかも、ちゃんと開放f値「f2」の位置がバッチリです!(笑)
このモデルは内部構成パーツが全て100%真鍮材ですから、イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) を使って固定しますが、必然的に「下穴」が用意されています。つまり、組立が適正ではないとイモネジと「下穴」の位置がチグハグになってしまい組み上げられなくなります。
仮にムリに下穴を別の箇所に電気ドリルで開けるのだとすると、3箇所に均等配置して「穴」を空けなければイケマセン。しかし、実際の組立ではイモネジを締め付けますから、締め付け具合に拠っては真鍮材は膨張します (アルミ合金材も同じ)。すると、1本目と2本目のイモネジを締め付けた時点でドリルで用意した下穴の位置が「0.1mm〜0.5mm」程ズレが生じていくので、結局3本目のイモネジは締め付けができなくなります (つまり正しく組み上がらない)。
この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑滅多に見かけない、戦前ドイツのCarl Zeiss Jenaで作られた1938年1月の生産個体です。
戦争を乗り越えたにも拘わらず、これほど良い状態を維持していたのが、何処かのヤフオク! 出品者のように歯が浮きそうですが「奇跡」に感じてしまいます(笑)
上の写真で前玉外周附近に白っぽく写っているのは、第2群貼り合わせレンズのコバ塗膜の浮きです (写真には影響しません) から、前玉のキズ/汚れでも硝子の欠け/欠損でもありません。
↑問題の光学系に差し掛かります。光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体なのが、やはり驚異的です。正直、信じられませんでした (1938年生産ですからね)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
1枚目と2枚目の写真をご覧頂ければ、前玉表面に薄くコーティング層が蒸着されているのがご理解頂けるでしょうか?
今回の個体は前玉 (表面) と後玉 (表面) の2箇所にシングルコーティングが施されていました。しかし、ご覧のようにコーティング層の経年劣化が進行しており、光に翳して反射させただけでうっすらと全面に渡って曇っているのが分かりました。
つまり、当初バラす前の実写チェックでは、前後玉のクモリの影響でコントラストが低下した写真しか撮影できなかったのです。
従って、前玉 (表面) と後玉 (表面) を当方にて「硝子研磨」を施し、全面に渡るクモリをほぼ除去しました (手による硝子研磨なので完全除去まで至らない/手ではチカラが足りない)。その結果が上の写真と言うことになります。
↑光学系後群内もビックリするくらいの透明度を維持しています。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
前述同様、後玉 (表面) を「硝子研磨」したので、こちらはほぼクモリが除去できておりキッチリ透明に戻っています。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:16点、目立つ点キズ:10点
後群内:11点、目立つ点キズ:8点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
・前後玉表側にはコーティング層の経年劣化による極薄いクモリがLED光照射で視認できます。特に前玉表面が酷かったので当方による硝子研磨を施し写真に影響しないレベルに低減させています (但し解消したワケではありません)。
・光学系内一部コバ塗膜の剥がれがあった為当方で着色していますが浮いている箇所は着色できないので現状のままです。
・光学系内は微細な塵や埃に見える複数の「非常に微細な気泡」がありますが、当時は正常品としてそのまま出荷されていました。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。但し、シ〜ンによっては光源や逆光時にはハロの出現率が多少上がる懸念は残ります。
↑こちらの写真は、後玉側から光学系内の「極微細な気泡」を撮影しました。写真に写らないほど微細な気泡がまだあるので、相応に多いと思いますが写真には影響しません。
当時の光学メーカーは、硝子レンズ精製の際に、規定する一定の高温度帯を硝子材が維持し続けていた「証」として「気泡」を捉えており、正常品としてそのまま出荷していました。
↑問題の絞りユニット/絞り羽根ですが、ご覧のように2枚に隙間が空いているように見えます (ワザとそのように見える位置で撮影しています)。しかし、丸まったカタチであるがゆえに、ちゃんと入射光を100%遮蔽しているのを確認済なのでクレーム対象としません (LED光照射で絞りユニット実装前にチェック済)。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年を考慮しても非常に大事に大切に使われてきた個体だったのではないかと考えます。距離環や絞り環のローレット (滑り止め/ギザギザ/ジャギー部分) は一部が既にメッキが剥がれて地の真鍮材が剥き出ていますが改善できません。
↑1枚目赤色矢印のとおり、距離環を回して最短撮影距離位置まで鏡筒を繰り出すと、絞り環と距離環との間に「隙間」が空きます。これは設計上の仕様なので改善できません (クレーム対象としません)。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜重め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回す際に極僅かにヘリコイドのネジ山が擦れる感触を感じる箇所があります。
・筐体外装や内部構成パーツが真鍮材の為ズッシリと重みを感じますが真鍮材ヘリコイドの距離環を回す際のトルク感に特に配慮してグリースを調整しました。結果シットリ感が漂う非常に良い操作性に仕上がっています。
・絞り羽根3枚に僅かな変形ありますが可能な限り修復したので組み上げ後の検査では絞り値との開閉幅(開口部/入射光量)整合性が確認できています (チェック済)。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・距離環を回して最短撮影距離位置まで繰り出すと絞り環と距離環の間に極僅かな隙間が生じますが設計上の仕様なので改善できません(正常です)。
・筐体外装のうち距離環ローレット (滑り止め) のジャギーは経年相応にクロームメッキが剥がれています。また清掃時に刻印指標値が褪色した為、当方にて着色しています。
↑さすがに1938年の生産個体となると、当方自身これほどまでに完璧なオーバーホールで仕上がるとは予想もできませんでした。とにかく、距離環を回す際のトルク感は当方が最も得意とする (黄褐色系グリースによる) シットリした非常に操作性の良い操作感に仕上がっています。
また、逆に絞り環側は「無段階式 (実絞り)」ですから、ここはワザとトルクを与えてスカスカな印象にならないよう配慮して仕上げています (そうは言っても決して重いワケではない)。
もちろん、光学系内も前後玉 (表面) は2時間掛かりで「硝子研磨」したので透明度が増し、以下の実写のとおり驚くほどの鋭いピント面とコントラストを魅せてくれます。
無限遠位置は、図らずも当初位置でピッタシでした(笑) もちろん、「Ι」マーカーも「Ι」マーカーもご覧のとおり一直線上ですし、距離環も絞り環も「カツン」と小気味良い音がして確実に停止します (詰まった感じなどありません)。
つまり・・当方の技術スキルにしては出来の良すぎる仕上がりだと言えますね(笑) そんなに拘って工程を進めたワケでもないのですが、気持ち良いほどに各部位の調整がピッタリだったのが功を奏した感じです (つまり当方の技術だけではありません)(笑)
なお、当方所有の「exakta→SONY Eマウントアダプタ」は日本製の有名処マウントアダプタなのですが、exaktaマウントのオールドレンズによっては装着するとガタつきが発生します (特に1960年代辺りのオールドレンズ)。ところが、今回の個体ではピッタリと言うか、少々きつめでした。
つまり、exaktaマウントにもビミョ〜な規格の相違が顕在することになりますから、マウントアダプタ経由装着される場合にはご留意下さいませ。マウント部は爪も含めて一切「磨き研磨」していませんので、当方の整備の問題ではありません (と言っても年に数人クレームしてくる人が居ますが)(笑)
↑当レンズによる最短撮影距離90cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。
正直に言って、当初の実写 (撮影しておけば良かったですね) とは全く比較にもならないほどコントラストが向上してピント面の鋭さもアップしました。光学系内の貼り合わせレンズ部分はカニ目溝が無いので、おそらく過去メンテナンス時に「手締め」されていたのではないかと推測します (少し緩んでいました)。そのために少し甘い描写に堕ちていたようです (当方が改善させたワケではありません)(笑)
現在は、ご覧のとおり大変鋭いピント面になりりました・・。