◎ P. ANGÈNIEUX PARIS (アンジェニュー) RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《前期型》(exakta)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分に関する依頼者様や一般の方々へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが当方の記録データが無かったので (以前のHDクラッシュで消失) 無料で掲載しています (オーバーホール/修理全行程の写真掲載/解説は有料です)。製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
今までに何本もこのモデルのオーバーホール/修理を扱っているのですが気がついたらまともにオーバーホール工程を解説していませんでした。
今回のオーバーホール/修理ご依頼は「光学系内のクモリ除去/距離環のトルクがほぼ無い」という内容です。
【当初バラす前のチェック内容】
① 距離環を回すとほぼトルクが無いほどにスルスルの状態 (軽すぎ)。
② 逆に絞り環側のトルクが重いので絞り値変更の際ピント合焦位置がズレてしまう。
③ 光学系内に汚れ/薄いクモリがある。
④ 開放時のピント面が甘い印象 (このモデルはもう少し鋭いハズ)。
【バラした後に確認できた内容】
⑤ 距離環を解体することができずヘリコイドにアクセスできない。
⑥ 過去メンテナンス時に潤滑油が注入されている。
⑦ 絞り環の駆動域調整が適正ではない (最小絞り値側が開きすぎ)。
⑧ 距離環の締め付けネジ部に必要外のドリル痕複数あり。
⑨ 光学系の光路長調整が適切ではない。
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P. ANGÈNIEUX PARISはフランスのシネレンズなどで有名な老舗光学メーカーですが、創業者Pierre Angénieux氏がリヨン近郊のSaint-Héand (サン=テアン) で1935年に創業したのが始まりです。実は当時主流だったレンジファインダー方式のフィルムカメラでは標準レンズ域の光学系をムリヤリ広角域の焦点距離まで延伸させた広角レンズがありましたが、レフレックスミラーを装備したミラーボックスを実装している一眼レフ方式のフィルムカメラに使える広角レンズはまだ存在しませんでした。
そこでバックフォーカスを長く採ることでミラーボックスの駆動に影響を与えない広角レンズの光学設計が急務だったのです。P. ANGÈNIEUX PARISは1950年に世界で初めてバックフォーカスを長く採った広角レンズの枠組みとして「レトロフォーカス型光学系」を開発し、今回のモデルを世に送り出しました。
当初「レトロフォーカス」はAngenieux社の商標でしたが、この光学系は「フォーカス (焦点) をレトロ (後退) させる (結果バックフォーカスが長くなる)」の意なのでいわゆる「逆望遠型の光学系 (テレフォト型)」になり、その後は広角レンズの一種として「レトロフォーカス型」が広く使われることになります。但し「広角レンズ=レトロフォーカス型光学系」という方程式は成り立ちません (他の種別も存在するから)。
ところが「逆望遠型」として考えるとどうしても欠点が出てきてしまいます。それは近接撮影時の収差改善が困難なことから最短撮影距離を短縮化できません。
【Angenieuxのレトロフォーカス型光学系にみる長所/短所】
長所 (前群側):
・バックフォーカスを長く採れる (凹レンズ)
・歪曲収差を改善できる (凸レンズ)
短所 (後群側):
・コマ収差の改善が厳しい (フレアの発生を抑制できない)
・歪曲収差の改善には別の限界を伴う (最短撮影距離を短縮できない)
実はここに旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaからレトロフォーカス型光学系を実装した、自社初の広角レンズ「Flektogon 35mm/f2.8」の登場が約3年も遅れて1953年に発売された根本的な理由が隠されているのではないかと考えています。
右図はAngenieuxの光学系構成図で5群6枚のレトロフォーカス型です。
光学系内の 部分 (第3群〜第5群まで) の成分は3群4枚のエルマー型構成になっており基本的に鋭いピント面を構成することが予想できます。
ところが前群側に配置されている第1群凹レンズと第2群凸レンズ ( 部分) によりバックフォーカスを稼ぎながらも実は後群側成分側でフレアの発生を改善し切れていませんからピント面が鋭いのに開放時の撮影でソフトフォーカス的な描写に至ってしまいます (つまりピント面は決して甘くないことがポイントです)。
一方こちらはCarl Zeiss Jena製広角レンズFlektogon 35mm/f2.8の構成図ですが後群側成分 ( 部分) がクセノター型構成なので球面収差と像面湾曲の改善により鋭いピント面を維持しながらもコマ収差 (フレア) の改善も進め、何よりも最短撮影距離の短縮化を図ってきたので当時の広角レンズに対する要求に応えた結果です (最短撮影距離:36cm)。
上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました (クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)。
◉ 一段目
円形ボケは収差の影響を受けながら破綻して背景ボケへと変化していきますが決して二線ボケではありません。
◉ 二段目
開放では左端のようにハロを伴うソフトフォーカス的な写りになりますが、ちゃんとテッサー型構成の成分が出ていてピント面は意外にも鋭いです。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
ローレット (滑り止め) :
ホワイトシルバー梨地仕上げ (細かいジャギー)
距離環指標値:FEETの刻印あり
絞り環:左回り
ローレット (滑り止め) :
シルバー光沢仕上げ (大まかなジャギー)
距離環指標値:FEETの刻印なし
絞り環:右回り
1957年には「RETROFOCUS TYPE R51/R61 24mm/f3.5」を発売していますが、同時に右写真のような自動絞り機構とロータリー式の絞り値制御ツマミを装備した同じ焦点距離「35mm/f2.5」も登場していますから、本来はこのタイプが「後期型」になるのかも知れません。しかし、取り敢えず発売当初の設計をそのまま受け継いだバリエーションとして捉えて「前期/後期」と分けてみました。
↑こちらの写真は当初バラし始めた時に撮影した写真で光学系第2群〜第3群を取り出していますが、ご覧のように第3群の周囲にカビが発生しています。
↑こちらの写真もバラしている最中に撮っていますが、鏡胴「後部」側の距離環内側を撮影しました。距離環はイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 2本で赤色矢印の箇所を締め付け固定しています (距離環が動かないようにする為)。ところが過去メンテナンス時にグリーンの矢印箇所に3箇所続けてドリルで穴開けしています (冒頭問題点⑧)。
本来は製産時点 (設計上) イモネジの締め付け箇所は2箇所なので、どうして余計に3箇所もドリルで穴を開けようとしたのか全く分かりません。しかし、実はこの穴開け箇所のせいで距離環を外すことができません。
↑こちらの写真は1時間ほど距離環と奮闘してようやく解体できた時に撮って写真です。グリーンの矢印箇所のとおり相当深く本格的にドリルで穴開けしているために距離環を締め付ける時のネジ山が切削されてしまい、そのせいで外すことができなかったのです (右横に写っている穴1箇所は正しい製産時点のイモネジ用下穴)。
↑上の写真は距離環用 (右) とマウント部用 (左) のローレット (滑り止め) 環です。本来バラす時にこれらローレット (滑り止め) を外す必要性は全くありません (ローレットを外さずともそれぞれ解体できるから)。
ところが今回の個体は前述の理由 (距離環の締め付け用ネジ山が削れていた) の為に専用の工具を使って距離環を思いっきり回しても一切ビクともせず、溶剤を流し込んでもダメで仕方なく「加熱処置」後に再度溶剤を流し込んで挑戦しました。しかしそれでもダメで最後は逆に「浸透性が非常に高い業務用潤滑油」を注入してようやく外れました (これでも外れなければ作業を断念するしかない) (冒頭問題点⑤)。
その際あまりの強さにローレット (滑り止め) が先に回ってしまい外れてしまったワケですが、当方も肩を痛めてしまいました。
↑ようやくヘリコイド部にアクセスできました (距離環を外さないとアクセスできない)。ご覧のように「潤滑油」がヘリコイド (オスメス) に注入されていました。「潤滑油」と言っても僅かに粘性を持つタイプなので過去メンテナンス者は相当なスキルを有する整備者だったことがこれで判ります。何故ならグリースのほうでこれだけ緩い粘性のタイプを用意することは一般的にムリであり (市場に出回っておらず入手不可能)、逆発想で「粘性が僅かにある潤滑油を使った」からです。そのような発想ができること自体、技術スキルを有する「証」です。
このことから過去メンテナンス者は意図して緩いトルク感に調整したのだと推測でき、もしかすると「動画撮影用」としてこの個体を調整したのかも知れません (トルク感を無くすことで動画撮影時にシームレスに距離を可変できヘリコイドの擦れ音が録音されないから) (冒頭問題点⑥)。
このまま放置すればいずれ数年でヘリコイドのネジ山が噛んでしまい製品寿命に至っていたと思われます。
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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式ですが調整が必要なタイプなのでメンテナンスは決して用意ではありません。むしろ「原理原則」をキッチリ理解していないと完璧な整備で仕上げられません。
↑筐体サイズに比してとても小っちゃな絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オスメス) が独立しており鏡胴「後部」側に配置されています。
◉ イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種 (左写真)
◉ イモネジの有効性
締め付け固定する際に対象となるパーツの固定位置を容易に変更/ズラして固定できる
(但し別の用途で敢えて使う場合もあるので必ずしも微調整を伴うとは限らない)
↑このモデルを解体している整備者で絞りユニットの中までバラしている人は少ないです。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
絞り環を回すとことで「開閉環」が連動して回り、刺さっている「開閉キー」が移動するので「位置決めキーを軸にして絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。
従って一般的なオールドレンズでは「位置決め環」側が鏡筒に直接切削されていることが多いのですがこのモデルではワザワザ独立させています。ここですぐにピンと来た人は相当なスキルの保持者です。逆に言えばここで気がつかない人はこのモデルを適正な調整で組み上げられるスキルが既にありません。
当初バラす前のチェック時点で「絞り環」側の操作が回すと重いトルク感でした。それは確かに古いグリースの経年劣化が影響していますが、そもそもこの絞りユニットの調整をミスっています。このモデルは「絞り環」が距離環と一緒に回っていく回転式なので絞り指標値が絞り環の3箇所に刻印されています (どこから見ても視認できるようにしてある)。
つまりその「原理原則」が既にこの絞りユニットの組み立て工程で試されていることになります。逆に言えば絞りユニットの調整をミスると前述のとおり絞り環操作が重いトルクに至るので距離環でピント合わせ後にボケ具合を調整しようとしてもピント位置がズレてしまい使いにくくて仕方ありません。
こんなところに「使い易さ」を決定づける重要なファクターがあったりしますから、単焦点オールドレンズは構造が簡単などとバカにしてかかると上手く組み上げできません(笑)
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。意外にも小っちゃな鏡筒です。
↑組み付けた絞りユニット内の構成パーツ「位置決め環/開閉環」の固定箇所はご覧のようになりますが、それはあくまでも今回の個体に限った固定位置なので、このモデル全てを同じ位置で固定しても意味がありません。実際、今回の個体は開放時に絞り環が「f2.5」のだいぶ先まで回っていました (暫く回さないと絞り羽根が閉じ始めない/つまり最小絞り値側が開きすぎている)。それは結果的に開放時だけが適正な絞り値になっていて、それ以降の「f4〜f22」までは全て絞り羽根の閉じ具合 (開口部/入射光量) がデタラメと言うことに繋がりますね (実際バラす前に簡易検査具で調べると最小絞り値f22は検査具のf11〜f16の中間辺りだった) (冒頭問題点⑦)(笑)
↑こちらの写真は光学系第1群 (前玉) 〜第5群 (後玉) まで全てを鏡筒にセットした状態を撮影しています。もちろんちゃんと清掃済です。
冒頭問題点の④のとおり当初バラす実写チェックで開放時にピント面が甘い印象でした。いわゆるこのモデルが一般的に「軟調な描写」などと言われているような印象の写りです。その根本原因が上の写真で、各群はすべてイモネジで締め付け固定されています (ポツポツと丸穴が開いている箇所)。
上の写真では今回バラした時に当方にて第2群〜鏡筒までにマーキングを刻み込みました (各々跨いで縦線を刻んだ)。
ところが後群側をご覧下さいませ。後玉はイモネジが一切無く「カニ目溝がある締め付け環」による締め付け固定です。このことからこのモデルの光学系性能を左右してしまう「重要な調整」が必須であることがご理解頂けると思います。
つまりイモネジ固定の第1群〜鏡筒までが光路長の適正化に於ける調整が必須なのだと言うことです。これをちゃんと処置していない個体が非常に多く市場には流れているので巷で言われている「軟調な描写」に至ってしまうワケです(笑)
今回のオーバーホールでキッチリ調整した描写性は、このページの一番最後に実写を各絞り値で掲載しているのでご確認頂けます。もちろん開放時でさえも微細なハロは伴うもののちゃんと鋭いピント面を構成しています。
なお、上の写真で当方がマーキングした縦線箇所は必ずしも一致する必要が無く、あくまでも当初バラした時との「変化」を確認するが為に刻み込んだだけです。第1群〜鏡筒までの締め付け固定箇所は「僅か0.5mm単位」くらいの微動で一つずつ調整していきますからこのモデルの難度がご理解頂けると思います。
ちなみにもう一つマーキングされている「740」と言う数字を思えていて下さい・・。
↑本来ならば鏡胴「前部」を完成するにはまだ絞り環をセットする必要がありますが、前述のとおり光学系光路長の調整が必須なのでまだセットできません。従ってここからは先に鏡胴「後部」側の組み立て工程に入ります。
おそらくほとんどの過去メンテナンス者が鏡胴「前部」を組み上げてしまい単に鏡胴「後部」側にセットしているだけなので、結果的に「軟調な描写」に至っており、それがこのモデルの特徴なのだと思い込んでいるように考えます(笑)
上の写真はマウント部 (今回の個体はexaktaマウント) です。ご覧頂くとマーキングで「338」と刻まれています。この数字は当方がマーキングしたものではありません。製産時からマーキングされている数値なのですが、通常Angenieuxのオールドレンズは鏡胴が二分割方式でも「前部/後部」共に同じ数値が刻まれます。従って今回の個体は過去に「ニコイチ (2つの異なる個体からパーツを寄せ集め合体させて一つを組み上げたモノ)」された個体だったことが判明します。それは鏡胴「前部」のマーキングが「740」なので明白です。
つまり当初バラす前にピント面が甘い印象だった理由は光路長がそもそも異なるマウント種別の個体をそのまま合体させただけだったので調整が適切ではない仕上がりだったと推測できます。従って今回のオーバーホールではそれも含め再調整した次第です。おそらくその辺の「原理原則」(マウント種別の別によって光路長も異なること) をキッチリ理解していなかった整備者が過去にメンテナンスしていると思われます。
↑ヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で3箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑適正なヘリコイド (オス側) ネジ込み位置と、最も重要なヘリコイドの「トルク感」がキッチリ仕上がったら指標値環をセットしてしまいます。グリーンの矢印部分が今回の個体でドリルで穴開けされてしまった箇所ですが当方にて研磨しネジ山に影響を来さないよう処置しました (そうしないと今度は距離環をネジ込めない)。余計な作業を強いられ全くロクなことをしません (何の為に穴を開けたのかやっぱり不明なままです)(笑)
↑この状態で実は未完成の鏡胴「前部」を組み付けて無限遠位置やピント面の鋭さ、収差の状況をそれぞれチェックします。つまり「光路長の微調整」なのですが、それはあくまでも鏡胴「後部」に「前部」がセットされている状態でチェックしなければ意味がありませんョね?
従って、さんざんセットしてはチェックして外し、再び光学系第1群〜鏡筒までの固定位置をズラして (0.5mmほど) またセットしてチェック・・を延々と繰り返します(笑) さすがに20回ほど繰り返すと「もぉ〜触りたくない」とイヤになってきますが(笑)、実際は「原理原則」を理解していれば位置をズラして調整する光学系の場所は自ずと回数を重ねる毎に限定されてきますから10回を越えた辺りで今回は完了です。
その上で上の写真のとおり、やっと「絞り環」をセットできます。完成した鏡胴「前部」を鏡胴「後部」にセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑久しぶりに状態の良い『RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5 (exakta)』です。前玉には表裏共に極微細なヘアラインキズなどが経年相応に残っていますが写真に影響するレベルではありません。それよりも前玉裏面側の極薄いクモリが除去できたのでご覧のように透明環が素晴らしいです。
↑光学系内の透明度も現物を手に取ってご覧頂ければ「おぉ〜!」と声が出ると思います(笑) 前玉裏面側の極薄いクモリは経年の揮発油成分がコーティング層に附着していましたが (少々頑固でした) 第2群〜第3群の極薄いクモリは実際には非常に微細なカビでした。
もちろんキレイに完全除去できています。
↑後群側は残念ながら第5群 (後玉) 表面に中心部からほぼ全面に渡り極薄いクモリが生じていました。このせいでコントラストの低下を招いていたワケですが当方による「硝子研磨」にて中心部を中心的にクモリ除去しました (中心と外周部との間は僅かに残っています)。これ以上処置するとコーティング層を剥がしてしまうのでクモリ除去程度でやめています。
それ故「おぉ〜!」と唸るほどの透明度が戻っている次第です(笑)
↑絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) は開放f値「f2.5」を基準として最小絞り値側を「f22」で合わせています (最小絞り値の先まで回る)。当初バラす前のチェック時に絞り環を回した時「f4」手前辺りでようやく絞り羽根が顔出ししていましたがキッチリ適合させています。
ここからは鏡胴の写真ですが経年の使用感を感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろん「エイジング処理済み」なのですぐに汚れてきたりしませんし刻印指標値も洗浄時に一部褪色したので当方にて「着色」しています (だから指標値がシルバーに美しく輝いている)。
↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリースの「粘性:中程度」になり距離環を回すトルクは「全域に渡り完璧に均一」です。またピント合わせ時は「極軽いチカラだけで微動できる」操作性の良さに仕上げているので全体的に「シットリ感のあるトルク感」です。
また距離環でピント合わせした後に絞り環操作して「ボケ具合を調整する」ことを前提にして調整しているので、絞り環を回してもピント位置がズレないよう配慮したトルク感に「距離環/絞り環」をそれぞれ仕上げています。当方のオーバーホールである「DOH」はこのような操作性の部分にも拘りがあるのでキッチリ仕上げてあります。
↑無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
当初の甘い印象の写り (特に開放時) は少し鋭いピント面に改善でき (冒頭問題点の④と⑨) 距離環や絞り環のトルク調整も完了です (問題点①と②)。光学系内の汚れやクモリはほぼ完全除去できています (③)。
↑当レンズによる最短撮影距離80cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
ご覧のようにピント面の鋭さが向上しています。
↑f値「f11」です。そろそろ「回折現象」が出始めています。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。長き間お待たせしてしまい大変申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座います。