◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) RoBoT Tele – Xenar 75mm/f3.8 ▽(M30)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツSchneider-Kreuznach製中望遠レンズ『Tele-Xenar 75mm/f3.8 (M30)』です。


Robot用オールドレンズのオーバーホール済でのヤフオク! 出品を続けてきましたが、今回の 中望遠でひとまずRobot用は一旦終了です。

実は今回立て続けにSchneider-Kreuznach製のRoBoT用交換レンズ群を取り扱う動機に至った原因が左の写真だったのです。
この写真を見た時にそのリアルさに驚いてしまい、すっかりRoBoT用オールドレンズの虜に堕ちてしまいました。ブル〜ジャケットの発色性も然ることながらその素材感を表現しきっていること。さらにそれにも増して人肌のリアルさ/美しさ、画全体を包み込む臨場感などなどスッカリ惚れ込んでしまった写真が・・この1枚でした。

いわゆるポートレートレンズとして捉えると、このような感動を覚えたのはMINOLTA製の オールドレンズ以来だったようにも思います。特にコッテリ系の色乗りの良さ/誇張感があまり好きではない当方にとっては、この控え目に原色に反応するSchneider-Kreuznachの素性の 良さに感心してしまい、ピント面の鋭さ/エッジの際立ち方とは裏腹に画全体に漂わす「柔らかさ/優しさ」に独特な描写性を感じ取ってしまいました。

オールドレンズに観るリアルさとは、決して鋭さや情報量だけではない、むしろ収差や流れ等の影響をふんだんに受けているからこそ画全体の印象が個性豊に現れるのであって、今ドキのデジタルなレンズでは味わえない面白みがあると考えます。その意味では等倍鑑賞するようないわゆるスペック至上主義には受け入れられない世界なのでしょうが、人の目で観たがままに現場感にリアルに没入できる要素というのはオールドレンズと言えどもそう多くないと考えています。

当方にとっては、意図的に美しくキレイに仕上げられた撮影者が訴える写真よりも、このように目の前を横切る老人のワンシ〜ンに遭遇した瞬間にリアルに目で追ってしまうような錯覚を覚える1枚に魅入ってしまいます。その意味では映画の没入感に近い感覚があるのかも知れません (当方は映画が大好きです)。ムービーではないたった1枚の写真なので、そのシ〜ンの先は妄想するしかないのですが、それは自然に必然的に瞬時に妄想している世界であって、その愉しみ感が当方にとっては写真鑑賞時の重要なファクターになっているように考えます。

その時の音、光、匂い、雰囲気、そして気温と湿度感、日射し感までも伝わってくるような「人の五感に訴える」1枚の写真に感動します。そしてそれは意外にも今ドキのデジタルな レンズでは味わえないオールドレンズだからこその世界観であるようにも思います。

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今回のヤフオク! 出品に際しご落札者様の特典としてヘリコイドアダプタのシステムをお選び頂けるよう用意しました。

カメラボディ側マウント種別
※装着するカメラボディ側のマウント種別として以下2種類よりお選び下さいませ。
 (下記以外のマウント種別には対応できません)

① SONY Eマウント用セット
② 富士フイルム FXマウント用セット

上記 いずれのマウント種別でも、左写真の中央 (Tele-Xenar 75mm/f3.8 と前キャップ/M42後キャップ) は共通の出品商品です。

ご落札者様が装着使用されるカメラボディ側マウント種別を左右いずれかよりお選び頂きます。

オールドレンズ側のマウントは「M30→M42変換リング」を硬締めでキッチリ締め付け固定させています (ヘリコイドアダプタ着脱の際に一緒に外れたりしません)。


① SONY Eマウント用セットの場合

セット内容:(途中でM42マウントに変換しています)
前キャップ、オールドレンズ本体、M30→M42変換リング、M42→M42ヘリコイドアダプタM42→SONY Eマウント変換アダプタSONY Eマウント用キャップ、M42後キャップ

・・以上の7点セット (左写真は全て装着した状態です)

② 富士フイルム FXマウント用セットの場合

セット内容:(途中でM42→L39マウントに変換しています)
前キャップ、オールドレンズ本体、M30→M42変換リング、M42→L39ヘリコイドアダプタL39→富士フイルムFXマウント変換アダプタ富士フイルムFXマウント用キャップ、M42後キャップ

・・以上の7点セット(左写真は全て装着した状態です)

※上記 いずれのセットでも一般的なマウントアダプタ (はM42用 / はL39用) に
装着すればさらに最短撮影距離を短縮できますがその時は無限遠が出なく (合焦しなく) なり
ます (ヘリコイドアダプタのマウントがはM42用 / はL39用で出てくる為)。

ご落札後の一番最初の取引ナビでご希望のマウント種別をメッセージにてご申告下さいませ。

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製産/供給メーカーはSchneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ:旧西ドイツ) ですが、販売も同じ旧西ドイツで1931年に戦前ドイツのデュッセルドルフで創業したフィルムカメラメーカー「Otto Berning & CO. (オットー・ベルニング商会)」です。長い歴史の中で「RoBoT Berning & CO、KG」や「Robot Visual Systems GmbH」を経て、現在はJenoptik AGの完全子会社「Jenoptik Robot GmbH」として現存している主にスピードカメラや公衆監視システム開発/導入に至るオペレーションを請け負っている会社のようです。

基は1933年に世界初のゼンマイ式自動巻き上げ機構を装備した「24x24mm」スクエアフォーマットの連続撮影 (最大54枚) が可能なフィルムカメラ「RoBoT I」を世に送り出した会社であり、その後第二次大戦中にはドイツ空軍にも採用され連続撮影による航空撮影を実現していたようです。

実はこのゼンマイ式自動巻上げによる連続撮影を考案/開発した人物が当方が愛用している世界初のマクロレンズ「Makro-Kilar 4cm/f2.8 D 」の開発/設計者「Heintz Kilfitt (ハインツ・キルフィット)」であり、27歳の頃に想起し5年間の開発期間を経て1931年にようやく 最初のプロトタイプを完成しています (箱形筐体にゼンマイ式の巻き上げ機構を備えCarl Zeiss Jena製Biotar 2cm/f1.4を装備)。

このパテントを基にOtto Berning氏らと共に設立した会社でKilfittはゼンマイ式巻き上げ機構を装備する前の小型フィルムカメラを幾つか開発した後に退社し、長い間温め続けていた自ら光学製品を開発設計する会社「Kamerabau-Anstalt-Vaduz (KAV)」創業へと繋げていき1955年の世界初マクロレンズの発売に漕ぎ着けています。

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今回扱うモデルは、その初代のフィルムカメラ「RoBoT I」や「RoBoT II」用から発展した「RoBoT Royalシリーズ」用交換レンズ群として用意されたSchneider-Kreuznach製中望遠 レンズ『RoBoT Tele-Xenar 75mm/f3.8  (M30)』になります。

そもそもフィルムカメラ側が「24x24mmスクエアフォーマット」ですからオールドレンズ側のイメージサークルも小さい設計です。
あるシ〜ンを撮影しようとした時 (右写真)、今ドキのデジカメ一眼/ ミラーレス一眼でフルサイズ (ライカ判:36x24mm) はブルーラインになり「24x24mmスクエアフォーマット (イエローライン)」に対して四隅にケラレ (黒っぽくなる/或いは減光される) が発生しますが、カメラボディ側の撮像素子サイズがAPS-C (23.6x16mm前後) なら 四隅のケラレの影響も受けずにちょうどピタリと画角に収まります (ピンクライン)

もちろんフルサイズのデジカメ一眼/ミラーレス一眼で使うならばクロップ、或いはスクエアのフォーマットで撮影すれば良いのですが今回のモデルはまさにAPS-Cサイズのボディにマッチする筐体サイズでもあり、画角も気にせずフルでご活用頂けるメリットがあるので今回扱う気持ちになりました。

RoBoTマウントはフィルムカメラ本体側マウント仕様が初期「M25」から「M26」に代わり、マウントネジ山径:⌀26mm xピッチ:0.75mm、或いは後に⌀26mm xピッチ:1.0mmと チェンジ、さらにその後も「M30」や「M45」と仕様変更を繰り返しており、オールドレンズ側の規格として捉えると後期の黒色鏡胴モデル時代には「M30/M45」が多くなっています。

ヤフオク! などのオークションどころかカメラ店やネット通販などを見ていても、RoBoT用 オールドレンズのマウント種別でバヨネットマウントであること以外にスクリューネジのマウント部規格 (M26/M30/M45) をちゃんと表示している会社が皆無です。下手するとCマウント用のマウントアダプタに装着して使えますなどと平気で謳って販売している会社もあるくらいなので困りモノです。

ちなみに一部のカメラ店などでCマウント (M25:⌀25.4mm xピッチ:0.79mm) のマウントアダプタに装着して使えると案内していますが、初期型はそのままCマウントアダプタに装着可能だとしてもフランジバックがRoBoTは31mmなので使いモノになりません。マウント径が一致しなければ装着できませんがピント合焦しなければ意味を成しません (初期型は数が少ないので圧倒的に多いのはM26のほう)。

左写真は既にオーバーホールが完了した今回の出品商品を撮影して いますが、マウント部はRoBoT用のバヨネットマウントであり当時のフィルムカメラ「RoBoT Royalシリーズ」用と言うことになります。

ところがこのバヨネットマウントの先にさらに「スクリューネジ部」のマウントがちゃんと備わっておりその径が初期型の「M25」から「M26」→「M30」を経て最後の「M45」へと変わります。

今回出品個体のネジ部は「M30」規格になり「ネジ径:⌀ 30mm x
ピッチ:0.75mm」になります。ご覧のようにスクリューネジは全周に渡って切削されておらず3箇所のみに切られています。

バヨネットマウントの設計がマウント面から外側に位置しているので実際のマウント面はM30ネジ部と言うことになります。それを利用してフランジバック:31mm内に収まるよう変換リングなどを駆使してカメラボディ側「SONY Eマウント / 富士フイルム FXマウント」で使えるようにしたのが 今回の出品目的になります。
今回初めて気がついて変換リングなどを入手したのですが、既にネット上の超有名サイトで 案内されていましたね(笑)

SONY Eマウントのフランジバック:18mm
RoBoTマウントのフランジバック:31mm
その差=変換リング類の許容値:13mm (上のご落札者様特典①の場合)
 富士フイルム FXマウントのフランジバック:17.7mm
RoBoTマウントのフランジバック:31mm
その差=変換リング類の許容値:13.3mm (上のご落札者様特典②の場合)

但し、結果的に同じことをやっただけにしても、当方が関わる以上バラしたからこその何某かのメリットが無いとオモシロくないです(笑) 今回は敢えて最短撮影距離を短縮化することを最優先として調整すると同時に、実はオーバーホール工程の中で意外な事実まで判明してしまい一石二鳥だった感じです。

このページ一番下にオーバーホール完了後の今回出品個体で撮影した実写を掲載していますがヘリコイドアダプタ繰り出し前 (12mm) と繰り出し後 (17mm) で違いが分かるよう、各絞り値で2枚ずつ撮影しました。このモデル本来のボケ量からさらに増大したボケ味まで愉しめるのがお分かり頂けると思います。そのメリットを活かすために今回のオーバーホール工程ではワザと故意に開放側の絞り羽根開閉をイジっており、絞り環絞り値「f3.8」の少し先まで動くようにセットしました (極僅かですが絞り羽根がさらに広がるよう調整したと言う意味)。
マクロレンズとは言えませんが、可能な限り許される範囲でボケ量を増やして疑似的なマクロ撮影に近い状態にしたかったからです。その結果を導き出すために内部の調整を変更させて、オーバーインフ量を増やしたりしています。

つまり何のためにヘリコイドアダプタを介在させるのか、介在させるならばその結果として どのような恩恵を受けるのか、その「原理原則」が理解できているなら最大限にその恩恵を 受けたいと考えるのは自然な成り行きでありそう調整するのが筋 (拘り)というものです。

なお、このフィルムカメラ「RoBoT Royalシリーズ」のバヨネットマウントはフィルムカメラ側マウント部にリリースレバーが下部に用意されているため、上の写真で見えている「斜め状にカッティングされている部位」はそのリリースレバーでオールドレンズを「保持する/固定する」締め付けのための斜め状です (この件についてネット上では一切解説されていないので今までRoBoT用オールドレンズを扱うまで意味が不明だった要素です)。

RoBoT用の交換レンズ群は後の黒色鏡胴も含めて全て鏡胴にはカラフルな着色が施されています (赤色矢印)。これはこのモデルが「目測撮影用」だったことを表しており目測の目安を示しています。絞り環絞り指標値の「3.8816」のそれぞれにセットした時 (◇基準マーカーに合致させた時:)、距離環距離指標値をそのカラーリングに合わせると ()、その時のパンフォーカス (近くから遠景までピント合焦していること) 領域 () を同色ドット (●) で表しています。

例として左写真ではf値を「8」にセットしましたから距離指標値を参照すると10m〜∞域までピント合焦することが示されています。実際に実写確認すると各絞り値のカラーリングで確かにほぼパンフォーカスであることを確認しました。但し、そもそもこのモデルはピントの山がアッと言う間なので老眼の当方では確実に見切れていない部分もあります。

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【モデルバリエーション】

 M25:Cマウントシネレンズ
(Cマウントアダプタにて使用可能)

発売のタイミングなどは調べていません
※一部M25はフランジバック31mmなので
Cマウントとして使えない

前期型:M26マウント

光学系:3群4枚アンチプラネット型
※バヨネット非対応



中期型:M30マウント

光学系:4群5枚ビオメター/クセノター型
※バヨネット対応



後期型:M30マウント

光学系:4群5枚ビオメター/クセノター型
※バヨネット対応


なお後期型のタイミングではM42マウントのモデルも用意されていたようです。

当初の「前期型 (M26)」時期は光学系が3群4枚のアンチプラネット型なので一部ネット上の解説とは違います。
※装着対象フィルムカメラ「RoBoT I/II、RoBoT Starなど」


今回出品するモデルは「中期型」なので光学系が再設計されて4群5枚の
ビオメター/クセノター型に変更になりました。
右構成図は今回バラして各硝子レンズを清掃時にスケッチしたイメージ図なので曲率や寸法は正確ではありません。
※装着対象フィルムカメラ「RoBoT Royalシリーズ」

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「リアル感・人肌・シュナイダーブル〜・質感」で、下段左端に移って「発色性①・発色性②・背景ボケ・動物毛」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。オール真鍮製の内部構成パーツなので、筐体サイズが小振りにも拘わらず製品重量自体が300g越えとズッシリと重みを感じるモデルです。

推測の域を出ませんが、おそらく生産当時に使われていたのはグリースではなく「粘性が高めの潤滑油」のほうだと考えています。その理由はヘリコイドのネジ山数が多く細かいからなので、ここに現在の整備で白色系グリースを塗布すると2〜3年で液化進行からトルクムラが生じ下手すれば重くなってきます。

内部構造や構成パーツ点数はそれほど多くないので一見すると簡単なように見えますが、今回のモデルも「高難度モデル」と言えます。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは一応鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するモデルなのでヘリコイド (オスメス) 部は鏡胴「後部」に配置されています。二分割式なのに「一応」と言うコトバを附した理由は後ほど出てきます。

↑8枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させますが、絞りユニットの固定を光学系 第3群に代行させているのでこの状態のままひっくり返すと絞り羽根がバラけてしまいます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。絞りユニットが固定されていないのが気になって仕方ないので先に絞りユニットを固定していきます。

↑光学系前後群を一気に組み付けます。これで絞りユニットが固定されたので一安心。

↑絞り環用のベース環である「開閉環」をセットします。このモデルは絞り環の操作時には
クリック感を伴う操作性なのでこの後の工程で鋼球ボールを組み込む必要があります。

↑今でも十分通用してしまう斬新なRoBoTのロゴが刻印されている絞り環をセットします。
この時点で既に鋼球ボールが組み込んでありカチカチと小気味良いクリック感を伴う操作性に仕上がっています。鏡胴「前部」はこれで完成なので鏡胴「後部」組み立て工程に入ります。

↑一般的なオールドレンズと同一で基台に対してヘリコイドのオスメスです。このモデルでのポイントはヘリコイド (メス側) の外周部分に用意されている多くの「ネジ穴」がいったい何の為なのかを理解することですが意外にもちゃんと「原理原則」に則って理解されていません。

↑鏡胴「後部」側はヘリコイド (オスメス) と基台にマウント部の構成なので至ってシンプルです。距離感やマウント部を組み付けるための基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑やはり真鍮製のヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で19箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

このモデルもヘリコイド繰り出しで鏡筒位置が最深部まで格納される一般的なオールドレンズとは逆の動きをする構造です。

↑マウント部をセットします。

↑距離環に附随するローレット (滑り止め) 環を組み付けます。

さてここがポイントと言うか難度が高くなる理由です。上の距離環用ローレット (滑り止め)
はヘリコイド (メス側) の外周に数多く用意されている穴3箇所で締め付け固定です。穴は全部で30個あるので締付ネジ1本あたり10箇所も位置をズラせるワケですね。さらに距離環の指標値環 (距離指標値が刻印されている環) は独立しておりやはり3箇所の締め付けネジ固定です。

実はここがトラップになっており(笑)、このローレット (滑り止め) 或いは距離環自体が10箇所のネジ穴位置分ズラして固定できる→「無限遠位置調整機能を装備している」と受け取って しまうのが落とし穴だったりします。

今回のオーバーホールでこのことに気がついたのは、実は当初バラす前の実写チェックで撮影した写真よりもオーバーホール後の実写のほうがピント面の鋭さが向上していたからです。
となるとお話はまた別の要素を含んでくるので単なる無限遠位置調整のために10個の穴が用意されているとは考えられません。つまり適正な光路長の確保を10個の穴の位置を替えることで調整する役目と考えるべきであり、それは取りも直さず鏡胴「前部/後部」二分割方式と言う一般的なオールドレンズの思考から一歩進んだ設計概念です。

そこで試しに10個のネジ穴を1個ずつ替えて最後まで組み上げ実写確認をしていきました。
すると予想したとおりある一定の箇所のみ鋭いピント面になりますが、それ以外はピントが 甘くなってしまいます。つまり単なる無限遠位置の調整機能ではないと結論しました。

それは鏡胴「前部/後部」の二分割方式である以上、その間に「シム環」がサンドイッチされているのですが、どう見てもそのシム環は鏡胴「前部」の構造からして無限遠位置を調整しているようには見えません。それで納得でした!(笑)

かく言う当方も実はこのオールドレンズが監視カメラたるフィルムカメラ「RoBoT」にセットされることをスッカリ忘れて整備していた「」でもあり(笑)、当方の技術スキルはその程度と言うことになもなります。

つまり「シム環」に無限遠位置の調整機能を持たせていないので適正な光路長確保は「10個の穴」で調整することになります。結果、ピント面も鋭さに変化が生じてしまうワケですね。
(このモデルのシム環は鏡胴「前部」と「後部」間に適切なスペースを確保し互いに接触しないようにする役目だけのために用意されているに過ぎない/無限遠位置調整機能を担っていない)

↑鏡胴のスリーブ筒を組み付けます。「」マーカーがあるので必然的に適正な位置で固定しないと絞り環との整合性も無くなります。

↑完成している鏡胴「前部」をセットして、この後距離環指標値環を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

修理広告 DOHヘッダー 

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回のヤフオク! 出品では「目的」があったので附属する変換リング類がテンコ盛りです(笑)

今回の出品個体はシュナイダーの製造番号表から1955年3月の製産出荷個体であることが判明しました。バラす前はとても撮影に使えるような状態ではありませんでしたが、63年ぶりに ようやく復活して再び活躍の場を得ることになりました。ヘリコイドアダプタを駆使してトロトロなボケ味のマクロ的な撮影に使うのも良し、本来の描写性能に期待して製品仕様のままで使うのも良し、貴方の撮影スキルを存分にお試し頂きたいと思います!
(ヘリコイドアダプタ装着のままで製品仕様状態/最短撮影距離短縮化の両方で使えます)

↑今回の個体も光学系内透明度は驚異的な状態を維持しています。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

残念ながら第1群 (前玉) 表面には経年相応に拭きキズやヘアラインキズが無数にあるのでLED光照射すると浮かび上がりますが、コーティング層の経年劣化が進行しているにも拘わらず 薄いクモリが発生していません。

↑後群側も透明度が高い状態を維持しています。後玉表面もコーティング層の経年劣化に伴うコーティングハガレが数多く存在しますがLED光照射では極薄いクモリすら存在しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。コーティングハガレは光学硝子面に付いたキズではないのでLED光照射時には視認できません (キズは視認可能)。一部「極微細な気泡」だったりしますが、この当時の光学メーカーでは光学硝子精製時に規定の時間高温度帯を維持していた「」として気泡を捉えていたので、出荷時の全数検査でも引っ掛からずに正常品としてそのまま出荷されていました。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:17点、目立つ点キズ:14点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
・前玉表面に目立つカビ除去痕1点があり後玉表面コーティング層の経年劣化に拠るハガレが複数あります(キズではありません)。また前玉表面は経年相応に微細な拭きキズやヘアラインキズ等無数にあります。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
・今回附属の各種変換アダプタやマウントアダプタ装着状態で光学系の固定位置を調査しており最も鋭いピント面になるよう光学を調整済です (このモデル特有の必須作業です)。

↑8枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真ですが経年相応のキズやハガレ、或いは打痕などが複数あります。当方による筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽め」を塗布しました。距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「重め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・距離環を回すと僅かにトルクムラを感じる箇所がありますがヘリコイドネジ山の経年劣化が原因の為改善できません(クレーム対象としません)。
・ヘリコイドアダプタは極僅かにガタつきがありますが製品仕様です。またSONY Eマウント用のスリムアダプタもカメラボディ装着時にガタつきありますが、これも製品仕様なので改善できません。附属のアダプタ類は新品を入手してセットしているためクレーム対象としません。但し精度はオーバーホールの際にそれを含めて確認し調整を施してあるので結果的には影響を受けません。
・内部構成パーツのうち「直進キー」が2本セットするとトルクムラが増大し且つ非常に重くなり、非実用状態に陥るため1本を外したまま組み上げています(外した1本を同梱します)。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・真鍮製の筐体は経年の使用感が相応にありメッキが薄い箇所や目立つ大きな打痕なども数箇所あります。

↑完璧なオーバーホールが完了した個体の出品です。

今回の個体は光学系の透明度が素晴らしく (極微細な点キズやヘアラインキズ/拭きキズはある)距離環を回すトルク感も当方にしては上出来な仕上がりで組み上がっていますが真鍮製のヘリコイド (オスメス) に対して構造的な与件もありトルク感は「重め」です。

もちろん無限遠位置 (当初バラす前よりさらにオーバーインフの量を故意に増やしています)、
光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環の絞り値との整合性を 簡易検査具で確認済です。また当方所有のSONY α7II装着時に基準「」マーカーがなるべく 真上に来るよう位置調整も済んでいます。
クロームメッキ部分の「光沢研磨」は研磨後に「エイジング」工程を経ていますから、数年で再び輝きが失せたりポツポツと錆が浮き出たりすることもありません (昔家具屋に勤めていたので職人から磨きについて直伝されており多少なりとも詳しいです)。

当方がヤフオク! に出品するオールドレンズで特にシルバー鏡胴の場合に「光沢研磨」により自然で美しい仕上がりになっているのは、この「エイジング処理」を施しているからであり「光沢剤」などの化学薬品を塗布したり (却って将来的に問題を起こす)、金属質が剥き出しになるまで磨ききったり (1年で再び酸化してしまう) していません。同じことは黒色鏡胴にも通用する話で、すべてに於いて必ず「磨きいれ」工程の最後には「エイジング」処理を経ています (エイジングにより酸化被膜で再び保護され耐食性を得る)。

なお、黒色鏡胴のオールドレンズを光に翳すと塗膜面に「斑模様」が見えたりしますが、これは汚れ/手垢などではなく経年で「カビ」が塗膜面に根を下ろしている状態であり、必然的にカビの代謝からいずれ腐食が進行します。つまり筐体外装の「磨きいれ」は最終的に製品寿命の延命に僅かながらも貢献しています。

しかしそうは言っても、描写性には一切関係ない話なので何の価値もありませんね(笑)

↑さて、ここからが今回の出品で拘った「調整の目的」に関する解説です。目的を以下に列記します。

マウントアダプタ経由デジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着使用可にする
SONY E/富士フイルムFXマウントに装着して使えるようオーバーホール時の調整を施すことでこのモデルが 再び活躍するよう仕上げる。

最短撮影距離を短縮化する
本来仕様である「最短撮影距離:1m」から「最短撮影距離:約40cm (実測時)」に短縮する。

最短撮影距離の切替をシームレスにする
ヘリコイドアダプタ介在により最短撮影距離短縮化と同時にシームレスな操作性を確保する。

可能な限り距離環を回す際のトルクムラを軽減し「軽い」ピントあわせを実現する
当初バラす前のチェック時点でピント合わせできないほど重いトルク感だったのを改善する。

このモデル本来の鋭いピント面を復活させる
当初バラす前の実写チェック時に僅かに甘いピント面だったのを改善させる。

まず今回出品個体のマウント面に「M30 → M42変換リング」をセットします。カニ目レンチできつめに締め付けたのでそう簡単には外れないようになっています。

↑次に「M42 → M42ヘリコイドアダプタ」をネジ込みます (上の写真はSONY Eマウント用です)。こちらも簡単に外れないよう少々強めにネジ込んであります。

M42マウントのヘリコイドアダプタは何種類も市場に流通していますが、今回選択した商品はヘリコイド部のトルク感がシッカリした重みを感じるものを選択しています。その理由はこのヘリコイドアダプタ装着によりオールドレンズ本体側の距離感操作とダブルでヘリコイド駆動させることになるからです。

つまり、オールドレンズ側の距離感を回したいのにヘリコイドアダプタ側が動いていては使い辛くて仕方ありません (実際市場流通品には軽い操作性のそのような商品が幾つも存在する)。そこでシッカリしたトルク感ながら実際に操作する際はそれほど重く感じない「適度なトルク感を有する商品」を選んだほうが最終的な操作性が向上する考え方です。

↑最後に「M42 → SONY Eマウントアダプタ」をセットします。こちらの商品は市場流通品が限られておりSONY Eマウントのカメラボディに装着した時僅かにガタつきを感じる仕様ですが仕方ありません (製品仕様なのでクレーム対象としません)。

これでSONY Eマウントのカメラボディに装着可能な環境が揃いました (前述の) 。

 M30→M42変換リング:厚み変化無し (0mm)
M42→M42ヘリコイドアダプタ:厚み12mm〜17mm (無段階可変)
 M42→SONY Eスリムアダプタ:厚み1mm
合計:厚み13mm〜18mm

富士フイルムFXマウントのカメラボディの場合は以下になります。

 M30→M42変換リング:厚み変化無し (0mm)
M42→L39ヘリコイドアダプタ:厚み12mm〜17mm (無段階可変)
 L39→富士フイルムFXスリムアダプタ:厚み1mm
合計:厚み13mm〜18mm

従ってヘリコイドアダプタが繰り出されていない時のみ規定のフランジバック差分「13mm」を維持できているので計算上は適正なピント面で合焦する (使える) ハズなのですが、実際には商品を組み合わせていくとそれぞれの誤差分が影響してピッタリと13mm以内に入りません (0.3〜0.4mmほど極僅かに超過してしまう)(笑)

それが今回バラす前の実写チェックで問題視した「ピント面が僅かに甘い印象」だったワケで (0.3〜0.4mmのフランジバック超過で僅かにピンボケだった) なかなか計算上の仮説だけでは鋭いピント面には至りませんね(笑)

そこで今回のオーバーホール工程ではピント面の甘さ解消のためにオーバーインフ量を増やして (具体的には当初位置より1個分穴をズラして) 組み上げることで鋭いピント合焦位置を割り出しています。その意味でこのような変換リングの組み合わせで対応させる場合、内部再調整は必須作業になると考えます (計算上の仮説だけでは上手く仕上がらない)。

↑オーバーホールが完了してすべての変換リング類をセットした状態を撮影しました (SONY Eマウント用セットの場合)。

↑附属品全てをセットするとこんな感じです (M42用汎用後キャップのみ1個余ります/SONY Eマウント用セットの写真)。

↑ここから使い方を解説していきます。まずヘリコイドアダプタ収納時に距離環距離指標値が無限遠位置「∞」では少々多めのオーバーインフ量にセットしました (SONY Eマウント用セットの写真)。

理由は前述のピント面が甘い印象だったからです。構造的に適正な光路長を確保するためには鏡胴「前部/後部」の間にサンドイッチしている「シム環」では調整不可能なので、ヘリコイド (メス側) の10個の穴を使って位置調整するしか手がありません。従って、当初位置でピント面が甘い印象でしたから固定位置を変更した次第です。

この点が有名なネット上サイトに掲載されている写真のピント面にも僅かながらの甘さを感じた原因だと推測しています (つまり個体別の調整を施していないから)。

↑ヘリコイドアダプタ収納状態 (つまり12mmのまま) でオールドレンズ側距離環を回していくと最短撮影距離1mmまで使えます (本来のオールドレンズ製品仕様諸元のままと言う意味/SONY Eマウント用セットの写真))。

↑次にその状態のままヘリコイドアダプタ側ローレット (グリーンの矢印) をブルーの矢印方向に回すことでヘリコイドが繰り出されて最大「17mm」まで変化します。この時最短撮影距離は実測ですが約40cmくらい (フィルター枠端までの距離) になっています。もちろんこの間でピント合わせすれば良いのでフツ〜に1m〜40cmまで鋭いピント面で合焦します (SONY Eマウント用セットの写真)。

↑ヘリコイドアダプタ側が繰り出された状態 (最大で17mmまで取り出し可能) でご覧のようにオールドレンズ側の距離感を回して無限遠位置まで持ってくれば1m付近でピント合焦していることになります。この時距離環距離指標値は「∞」ですが無限遠合焦しているのではなく1m付近でピント合焦している意味です (ヘリコイドアダプタが繰り出されているから/SONY Eマウント用セットの写真)。

もちろんこのままオールドレンズ側の距離感を∞刻印位置のままでヘリコイドアダプタ側を収納させて12mmに戻せば無限遠位置での合焦が可能です。

重要なのは、この時にヘリコイドアダプタ側が不用意に動いてしまわないことであり、その為に幾つかの市場に出回っているヘリコイドアダプタを調べて適度なトルク感を持っている商品をピックアップしました。

これらの環境が整うことで前述のが実現できたことになります (任意の距離でも楽に ピント合焦できるシームレスな操作性の実現)。このような話が意外にネット上のサイトで案内されていないので、おそらく幾つもヘリコイドアダプタを入手しないので、トルク感の違いを知らないまま使っている人が多いのだと思います(笑)

自らメンテナンスしている当方はヘリコイドアダプタに使われているであろうグリースも分かっているのでちゃんとチェックして商品選択できています。

なお、についてはヘリコイド (メス側) に用意されている10個の穴の中から最も鋭いピント面で合焦する位置を、その都度組み上げてちゃんと実写確認しながらチェックしていったので調整が完了しています。

↑ご覧のように鏡胴には至る処に経年の使用感を感じるキズやハガレ、或いは打痕などがあります。

↑距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目の「直進キー」と言うパーツが本来両サイドに1本ずつ (合計2本) 内部にセットされるのですが何度試してもグリースを入れ替えてもどうにもこうにもトルクが改善できなかったので、仕方ないですが常套手段で片側の1本だけ抜きました (同梱します)。

今回の個体はマウント面のネジ部を見ると一目瞭然ですが過去メンテナンス時にイジったみたいでその影響が出ているように考えます (内部パーツの一部にもペンチの痕や削り箇所が見られる)。

↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

1枚目がヘリコイドアダプタ収納時 (12mm厚) での仕様上の最短撮影距離1mで、2枚目がヘリコイドアダプタ繰り出し時 (17mm厚) での最短撮影距離約40cm付近での開放実写です (SONY E マウント用セットで実写した写真です / 富士フイルムFXマウント用セットはカメラボディが無いので実写確認できていません)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f5.6」で撮影しました。同様1枚目が仕様上の最短撮影距離1mで、2枚目がヘリコイドアダプタ繰り出し時の約40cm付近です。

↑さらに回してf値「f8」で撮っています。

↑f値は「f11」になりました。

↑f値「f16」になっています。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。