◎ MEYER-OPTIK (マイヤー・オプティック) 28mm/f2.8《後期型》(PB)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
今回初めて扱うモデルになりますが、レンズ銘板を見ると供給元 (製造元) メーカー銘が刻印されていない、モデル銘と焦点距離データだけを刻印したオールドレンズです。もっと言うならレンズ銘板刻印の「MEYER-OPTIK」を販売元 (製造元ではない) と捉えるのかモデル銘と捉えるのか、甚だ迷うレンズ銘板とも言えます。
そしてさらに当方の癖で文句を垂れるならば(笑)、その後に続く「Made in Germany」刻印はどうして「Germany」単独表記が許されているのか???
ここまでの文章を読んですぐにピ〜ンと来た人は相当なオールドレンズマニアです!(笑)
旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaを示すロゴマークを上の左端に載せても良いのですが、ちょっとつまらないのでここは取り敢えず前身たる「PENTACON」のロゴを載せておきました (この ブル〜の色合いキレイですョね?/エルネマンタワーのロゴです)(笑)
このモデルの背景は相当複雑なのですが、もとを正せば (ルーツを探れば) 戦前ドイツはHugo MeyerからスタートしたMeyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) の成れの 果てであり、それはPENTACONを経て旧東ドイツはCarl Zeiss Jena製モデルとして供給されたのが最後です。
もちろん左のロゴのとおり現在もなお皆さんの知る「ZEISS」としてドイツに現存していますが、それはあくまでも1989年11月勃発の「ベルリンの壁崩壊事件」 により旧東西ドイツが再統一されて現在のドイツとして一つの国家に戻ったからに他なりません。
詰まるところ、戦前ドイツのMeyer-Optik Görlitzは戦後暫くは単独で開発/販売を続けましたが、1968年には経営難からPENTACONに吸収合併され、さらにそのPENTACONも1981年にやはり危機に陥りCarl Zeiss Jenaに吸収され、その後1991年についに現在の「ZEISS」として旧西ドイツのOberkochen市に位置していたCarl Zeissに統合されました。
これら当時の時代背景などはMeyer-Optik Görlitz製やPENTACON製モデルの解説欄に年表付で詳しく解説しているので、興味がある方はチェックしてみて下さいませ。
さて、ここで冒頭のとおり当方が抱いた疑問の答がまだ出ていません・・。
今回扱うモデルのルーツ/系譜を調べなければ内部構造の変遷を正確に捉える事ができません。逆に言うなら内部構造から捉えるべき製造元の判定と言うのが現在のネット上の何処にも用意されていない現実を踏まえる必要があると考えます (つまり憶測だけで語られたサイトばかりが存在する問題)。
今回扱うモデルのルーツ/系譜を探るのにまずは戦後ドイツの旧東ドイツ側Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズから探ります。
【ORESTEGON 29mm/f2.8】(Meyer-Optik Görlitz製)
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
※すべてネジ込み式マウント「M42マウント規格」
前期型:1961年発売
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (細かいストライプ)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ
後期型:
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (大柄なストライプ)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ
【PENTACON auto 29mm/f2.8】(PENTACON製)
★前期型−I:1969年発売
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (大柄なストライプ) レンズ銘板入り替えのみ
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ
前期型−II:
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:黒色鏡胴に変更 (ゼブラ廃止)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ
中期型:
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MC (赤色刻印)
絞り羽根形状:新形状に設計変更 (PENTACONのカタチ)
後期型−I:
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ
後期型−II:1975年発売
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環) 廃止
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ
上記モデルバリエーションを分かり易くする為に冒頭で当時の時代背景を解説しました。上のモデルバリエーションで★を附記したPENTACON銘「前期型−I (1969年発売)」は、実際にはMeyer-Optik Görlitz製モデルのレンズ銘板だけをPENTACON銘に入れ替えて出荷していた ワケですが、それを検証してみました。
左は1969年にPENTACONから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「PRAKTICA L」の取扱説明書の抜粋ですが、オプション交換レンズ群はMeyer-Optik Görlitz製とCarl Zeiss Jena製モデルだけで占められています。
さらに同じ1969年の後期に追加で発売された「PRAKTICA LLC」取扱説明書から、同じように交換レンズ群一覧を抜粋しました。Meyer-Optik Görlitz製のモデル銘が消滅してPENTACON製とCarl Zeiss Jena製モデルのみに変わっています。
Meyer-Optik GörlitzがPENTACONに吸収合併したタイミングが1968年なので、その時点で既に製産していた個体がそのままMeyer-Optik Görlitz銘でフィルムカメラにセットされ、吸収合併後の新たな製造出荷分よりPENTACON銘にモデル銘がチェンジしたという話もこれで検証できました。
ちなみにレンズ銘板をチェックしたり鏡胴意匠で確認する手法もありますが、最も間違いが 無い正しい相違点のチェック方法は「絞り羽根のチェック」と言えます。
絞り羽根枚数:6枚
形状:L字型、右回り
キーの配置:片面に2個
絞り羽根枚数:6枚
形状:円弧型、左回り
キーの配置:両面に1個ずつ
すると上記の通り絞り羽根のカタチはもちろん駆動回転方向も変わっているのが分かります。
どうして絞り羽根をチェックする事が最も正確なのかと言えば、それは内部の「設計を変更 しているから」と言い切れます。そもそも絞り羽根の役目は絞り環で設定する「設定絞り値」に見合う入射光遮蔽が目的ですから、その駆動の回転方向をワザワザ変更する道理が成り立ちません。
つまりは「製造元が変わったからこそ設計に変化が起きている」と捉えるのが筋道であり、 単にレンズ銘板の刻印を替えただけではありませんね(笑)
その中で今回扱うモデルは今まで説明してきたネジ込み式マウント規格「M42マウント」の 爪付バヨネット型マウントへの発展系と言える「PRAKTICA Bayonet Mount」であり、頭文字を採った「PBマウント」ですね。
このPRAKTICAシリーズは相当息が長く多岐に渡る製品を数多く送り出されてきた一眼レフ (フィルム) カメラなのですが、1979年12月に「PBマウント規格」として発売されたのが一眼レフ (フィルム) カメラ「PRAKTICA B200」です。
上記 (右側) 写真では「中期型」のオールドレンズが装着された写真になっているので正確ではありません。
正しくは右写真のとおり当時の取扱説明書にちゃんと印刷されているオールドレンズが「前期型」である事を赤色矢印を使って解説して います。
赤色矢印が指し示している箇所は、オールドレンズをフィルムカメラマウント部に装着する際の目安になる「リリースマーカーのオレンジ色突出」が用意されているのです。
プラスティック製円形突起物で備わっていたのが「前期型」であり、その後にモデルチェンジした「中期型」では単なる鏡胴刻印に変わってしまいました。逆に言うなら、このリリース マーカーで判定しないとレンズ銘板の刻印が数多く存在するので少々分かりにくい印象だからです。
《モデルバリエーション》(焦点距離:28mmのPBマウントモデルのみ)
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
レンズ銘板:PRAKTICAR MC 表記
リリースマーカー:プラスティック製突起
最短撮影距離:25cm
ローレット (滑り止め):4列
レンズ銘板:MEYER-OPTIK 表記
リリースマーカー:鏡胴オレンジ色刻印
最短撮影距離:25cm
ローレット (滑り止め):5列
レンズ銘板:PRAKTICAR MC PB 表記
リリースマーカー:鏡胴レッド刻印
最短撮影距離:22cm
ローレット (滑り止め):3列
ちなみに最後の「後期型」モデルの最短撮影距離:22cmと短縮化していますが、実はこのモデルは日本製で「SIGMA製OEM」モデルです。
1988年に発売されたフィルムカメラ「PRAKTICA BMS」後に前述の「ベルリンの壁崩壊事件」が勃発し東西ドイツ再統一へと雪崩れ込んだので旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaも旧西ドイツ側Carl Zeissに統合される経緯を辿った為、とても新型モデルを製産できる状況ではなかったと推測できます。従って純然たるMeyer-Optik Görlitzからの系譜として捉えた場合、1988年の発売が最後だったと考えても良いのではないかと思います。
なおこれら「PBマウント規格」モデルには一部にネジ込み式の「M42マウント」も製産され供給されていたようです (時々市場流通しています)。
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ネット上サイトの様々な解説をチェックすると、何処も皆同じで「光学系は7群7枚のレトロフォーカス型構成」と記載され、且つMeyer-Optik Görlitz時代の「Orestegon 29mm/
f2.8」から変化していないかのように記載されていることが非常に多いですが、焦点距離数値が違う以上「同一の光学系設計のままで済むハズがない」と考えています。
右図は当初のMeyer-Optik Görlitz製Orestegon 29mm/f2.8 zebra時代の7群7枚レトロフォーカス型構成を、実際に個体をバラして 光学硝子レンズ清掃時に逐一デジタルノギスで計測してトレースした 図なので「モノコーティング」(時代) での光学設計と言えます。
さらにこちら右図は今度はPENTACON時代のマルチコーティング化 された (ちゃんとレンズ銘板にMC刻印があるタイプ) 個体を、やはりオーバーホールした際に光学硝子レンズ清掃時逐一デジタルノギスで計測したトレース図です。
各群の曲率や厚み等がビミョ〜に異なっていて、特に第3群〜第7群までが大幅に再設計されているのが見て分かります。
さて、いよいよ今回扱うモデル「PRAKTICAR MEYER-OPTIK 28mm/f2.8 (PB)」です。同様今回のオーバーホールに際し完全解体してから光学系の清掃時に各群の硝子レンズを逐一デジタルノギスで計測してトレースしました。
如何ですか???(笑)
もぅ一目瞭然ですが、同じ7群7枚レトロフォーカス型構成である点は確かに間違いありま せんが、そもそも絞りユニットを挟んだ前群/後群パワー配置が全く別モノに換わっています。特に第1群〜第2群までがあくまでもバックフォーカスを稼ぐ意味合いが強い凸メニスカスの使い方だとすれば、第3群からは明らかに収差改善と解像度を補う性格を持たせてきているのが推測できます。
レンズ銘板には確かにマルチコーティングを示す「MC」刻印が省かれてしまいましたが、それは時代の潮流として既に「MC表記が差別化にならない」時代に入っていた為と考えられるので、大きな相違点にはなりません (つまりこのモデルもマルチコーティングモデル)。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。
◉ 一段目
左端から本当はシャボン玉ボケを見つけたかったのですが、数百枚実写をチェックしてもシャボン玉ボケは見つけられませんでした。従って円形ボケをピックアップしています。シャボン玉ボケの表出が低減してしまったとするなら、別の何かの要素を強化してきた光学設計なのではないかと憶測が進みます(笑)
円形ボケが破綻してさらに滲んで溶けていきますが、背景ボケへの移り具合は非常に柔らかくマイルドなので相応に被写体の背後がザワついていてもご覧のとおり違和感になりませんから、相当素性の良い描写性能だと受け取りました。
◉ 二段目
その理由になる根拠がこの段でのピックアップ写真になりますが、左からの3枚を見て唸りました!(笑) 決して今ドキの流行りで言うところの「ライトト〜ン」に偏った撮影ではなくて (つまりハイキーの設定にしていない) ちゃんとメリハリ感を付けたコントラストを維持した 実写で「これでけの階調幅をキープできる素性の良さ」別の表現をするなら非常にビミョ〜なグラデーションの相違まで明確に表現し得ているところが凄いなと感心してしまったのです!
残念ながらMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの名だたる銘玉 (?) ではこれ程までの階調幅の滑らかさで表現する事ができませんし、そもそも立体感の表現性でもうアウトです!(笑)
(Meyer-Optik Görlitz製モデルの中で立体感を表現できるのはPrimoplanだけだから)
オールドレンズなので今ドキのデジタルなレンズとは比較になりませんが、それでもこれだけ情報量が多いと錯覚を覚えさせるほどに緻密感を写し込むところが当方は唸ったしまった次第です。低コントラストではなく、ちゃんとコントラストを維持してメリハリ感を残しつつも実は階調幅が狭いようなこのような現場でのこのモデルの使い方は、相当カメラワークを熟している人ではないかと感心してしまったとも言えます。
◉ 三段目
左端の写真で分かりますが、意外にもダイナミックレンジは特に暗部の潰れが早く、アッと言う間にコケますから(笑)、ある意味使い方での工夫がし易いモデルとも言えるでしょう (暗部の少ないシ〜ンで使う)。また焦点距離:28mmですがこの当時のオールドレンズとしては残念ながらパースペクティブの歪みが改善しきれておらず多少樽形の歪みが視認できます。被写界深度もそれほど狭くなくて扱い易い印象です。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は他の焦点距離モデルと一貫性のある概念で設計されているのがよく分かる内容です。特に細かく各部位の設計をチェックしていくと、実は「Meyer-Optik Görlitz製時代の設計特徴」さらには「PENTACON時代の設計特徴」そして極めつけの「Carl Zeiss Jenaの特徴」と全部で3つの設計概念の要素を明確に指摘できるからバラしていてとても楽しかったですッ!(笑)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。ネット上や下手 すればカメラ店や特にヤフオク! のオールドレンズ出品者の「逃げ口上」に多いのが「旧東 ドイツ製オールドレンズなので切削が甘い/雑なので多少の問題は仕方ない」と言う弁明ですが、しかしご覧のとおりヘリコイド:オス側のネジ山切削は相当なレベルで仕上げられておりともすると当時の日本製カメラメーカーが造っていたオールドレンズのモデルよりも切削精度はシッカリできていたりします(笑)
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑一つ前の写真では前玉側方向から鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を撮影していましたが、上の写真は今度は後玉側方向からの撮影になり、絞り羽根は後から組み込まれることが分かります。
すると絞りユニット内部 (鏡筒内部) には「開閉環/位置決め環」がそれぞれ用意され (赤色矢印)、そこに絞り羽根のキーがそれぞれの位置で刺さるワケです。「位置決め環」側は締付ネジで固定なので「絞り羽根は位置決めキーを軸として開閉環の操作で絞り羽根の角度が変化して設定絞り値まで閉じる仕組み」と言う、この当時の一般的な概念で設計されているのが分かります。
ところが、この工程をちゃんと「観察と考察」すると前玉側方向からは微調整ネジが見えており (一つ前の写真でちゃんと楕円の穴が用意されている)、且つ絞り羽根を後玉側方向から組み付ける概念は「Meyer-Optik Görlitz時代の設計概念の特徴」と言えます。
さらに「後群格納筒」を絞りユニットの被せて「蓋の役目を兼ねさせている考え方」またグリーンの矢印で指し示した「イモネジ用の穴」も実はMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの設計概念の大きな特徴です。
この「後群格納筒」の中に光学系後群がセットされて、その締め付け固定に「イモネジ」を使い3方向から締め付け固定します。しかしその際にただ単に「イモネジを締め付けていけば良い」のではなく(笑)、ちゃんと光軸ズレしないような手法があるので、逆に言えば単に締め付けていった整備者の場合は「必ず仕上がってから甘いピント面に堕ちる」と断言でき、実際今回の個体もバラす前の実写チェック時点で既に「甘いピント面」でプラスして「極僅かな光軸ズレ」まで起きていましたから、おそらく過去メンテナンス時にただ単にイモネジを順番に締め付けていっただけなのではないかと推測しています(笑)
◉ イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種
↑さらにこのモデルの光学系が非常に厄介なのが上の写真解説で「後群格納筒」のさらに先に「もう一つ中群格納筒がある」と言う、何と二段構えでイモネジ締め付け固定が必要になる設計です (グリーンの矢印)。
これは相当ヤバいですね・・!(泣)
何故なら、組み上げが終わって最後実写チェックした時に甘いピント面だったり光軸ズレを確認した場合、後群格納筒でイモネジの締め付けをミスったのか、或いは中群のほうでミスったのか、両方なのかの判定が相当難しいです!(泣)
さすがにこの6箇所でのイモネジによる微調整を強いられる組み立て方法と言うのは、製産時点で「治具を使った組み立て工程」でなければ相当難しいと言えます。
従って今回のオーバーホールでもこの工程だけで3時間を費やす結果になりました (但しあくまでも当方の技術スキルが低いのが原因です)(笑)
↑単に積み上げただけで撮影しましたが、こんな感じでそれぞれの光学系「後群/中群」が段々で積み上がる時に「イモネジで微調整が必須 (グリーンの矢印)」と言えます。
ここで「後群/中群」と表現しているのには理由があり、ここで使っている「後群格納筒」は実は焦点距離:50mmとの「共通部品」だからです。標準レンズでは中群の光学硝子レンズが存在しないので「後群が入るだけだから後群格納筒だけで良い」ので「後群格納筒」と言う言い方になります。
ところがこのモデルでは7群7枚のレトロフォーカス型構成なので、さらに後群側で硝子レンズの枚数が増えている光学設計となれば、共通部品を使うなら「延長筒がさらに必要」なので、中群の要素 (光学硝子) をスッポリ収める設計にしてしまった賢いやり方です。
従って「後群の中に中群が入るので」そういう表現で記載した次第です。
このような事柄がちゃんと注意深く「観察と考察」できていれば、実は今回の6箇所もあるイモネジ固定の算段が見えてくると言う次第です(笑) 逆に言えば「設計者の意図が見えてきた時点で製産時にはいったい何処で専用治具を使っていたのかが明白になる」とも言い替えられるので、特にサービスマニュアルなど手元に無くても組み立て工程手順が分かってしまうワケです(笑)
なお鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の途中に用意されている「直進キーガイド」なる溝部分には「直進キー」と言う板状パーツが刺さります (赤色矢印)。
↑ようやく絞りユニットが完成し鏡筒が出来上がりました。ご覧のように前玉側方向からの撮影ですが絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) の微調整用締付ネジが3本見えます。この方式の微調整を好んで使っていたのが実は「PENTACON時代のオールドレンズの設計概念」とも言えます。
もっと言うなら「直進キーを1本だけで済ませてしまったのもPENTACONの設計概念」であり、その前のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの時代では「直進キーは両サイドに必ず1本ずつ (計2本)」と言う設計概念だったので、ここでもちゃんと指摘できますね(笑)
↑距離環やマウント部が組み付けられる基台です。パーツをバラして洗浄した際に筐体外装の全ての刻印指標値が褪色してしまったので、当方で再着色しています。
↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ひっくり返して撮影していますが、既に鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込んでいます。このモデルでは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
すると右横に前述の「直進キー」を並べて撮っていますが、ご覧のようなカニ爪型のカタチをしたパーツで板状です (カニ爪の部位がヘリコイド:オス側のガイドに刺さる)。
↑上の写真はエンジニアリング・プラスティック製の距離環をひっくり返して撮影していますが、一部に「制限壁」と言う出っ張り部分が備わっており、この一辺が突き当て停止することで「∞位置で止まったり最短撮影距離位置で停止したりする仕組み」です (ブルーの矢印)。
ところが今回の個体は「無限遠位置側」の制限壁が削れてしまっていて、当初バラす前の時点で「∞刻印を越えてさらに先まで回って詰まって停止していた」状況でした。
その原因が上の写真を見ると分かります。制限壁の縁部分が削れてしまったワケですが、これは経年で使っていてそうなったのではなく (使っているだけで削れない/突き当たる箇所が違うので経年で削れない) 過去メンテナンス時の整備者が何かの問題でムリヤリ強く回していて削ってしまったのです!
これだけ削れてしまうと下手すればいずれ破断してしまうか、良くても相変わらず∞刻印の 先まで回ってしまい詰まって停止するまま改善できません。
そこで仕方ないので削れた箇所に薄いアルミ板を作って接着しました。
↑こんな感じで「直進キー」が鏡筒 (ヘリコイド:オス側) のガイド部分に刺さります。従って「直進キーを1本だけで設計していたのはPENTACON」なので、距離環を回すトルク感の微調整にはそれ相応のコツが必要になってきます (赤色矢印)。それをムリヤリヘリコイドグリースだけの種別や粘性だけでどうにかしようとするから「白色系グリース」が多用され、さらにヘリコイド (オスメス) のアルミ材削り出しネジ山が摩耗してしまい「トルクムラがさらに増大してしまう」因果関係に至り、やがて製品寿命に至ります(泣)
↑こちらはマウント部のベース部分でアルミ材の鋳造パーツです。
↑「開閉アーム」を組み付けますが、このシンプルな駆動方式の絞り羽根開閉駆動を執っている設計概念も「やはりPENTACONの考え方」です。さらにもっと言うなら「マウント部を分割して/鋳造にして設計してきた考え方はCarl Zeiss Jenaのモノ」とも言えます。逆に言うならPENTACON製オールドレンズの中で鏡胴/マウント部を二分割方式で設計しているオールドレンズが存在しませんが、一方Carl Zeiss Jena製黒色鏡胴モデルの多くは二分割方式を採っています。
なお「開閉アーム」が操作されると (ブルーの矢印) その動き方で絞り羽根が開いたり閉じたりしますが、その時同時進行で「なだらかなカーブ」にカムが突き当たることで「絞り羽根の角度が決まる/設定絞り値により閉じる角度が決まる」仕組みであり「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側で、坂を登り切った頂上が開放側になります (ブルーの矢印)。
↑こんな感じで絞り環がセットされマウント面に見える「電気接点端子」も組み込まれます。
↑完成したマウント部を基台にセットしたところですが、グリーンの矢印で指し示した箇所に3箇所イモネジがはいる穴がちゃんと見えます。さらにそのイモネジ締め付けの際に作業がやりやすいように赤色矢印で示した箇所がえぐれて用意されています。
従ってこの点を確認できて時点で自ずと「組み立て工程手順が見えてくる」ワケで、特にサービスマニュアルなどが手元に無くても光学系前後群の組み付け工程をいつやれば良いのかが明確になってきますね(笑)
もっと言うなら前述のとおり光学系中群のイモネジ締め付け固定まで作業があるので、それとの兼ね合いまで全て見えてくるのが「観察と考察」であり、同時に「原理原則」に則った考え方です。
↑実際に光学系前後群を組み付けたところを撮影しました。ちゃんとグリーンの矢印で指し示した箇所にイモネジが入っています。特に「後群格納筒」と「中群格納筒」の配置が反転している点にちゃんと気づけたのか否かが整備者のスキルに関わってきます(笑)
この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。当初バラす前の時点で甘いピント面だったのはキッチリ鋭いピント面に改善できていますし (イモネジの締め付けがダメだったから甘いピント面だった)、前述の∞刻印の先まで距離環が回ってしまい詰まって停止していたのも確実に「カチン」と音がして停止するよう変わりました。それが本来の操作具合ですョね?(笑) ただ単にその状態に戻しただけなので当方の技術スキルの問題では一切ありません!(笑)
↑光学系内の薄いクモリもきれに除去できて非常に透明度の高い状態を維持した個体に戻りました。もちろんLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリも皆無です。
↑光学系後群/中群共に適切なイモネジ締め付け固定を施し、当然ながらLED光照射でも極薄いクモリが皆無です。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「ほぼ正六角形を維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、エンジニアリング・プラスティック製の筐体外装がほとんどなので、既に経年劣化進行に伴い少々材が柔らかく変質しているように感じます。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を塗り距離環を回すトルク感は「全域に渡って完璧に均一」になるよう仕上げており、人により「普通」或いは「重め」に感じるトルク感です。但しピント合わせの際は極軽いチカラだけで微動でき、もちろん当初甘い印象だったピント面も鋭く改善できています (光軸ズレも無し/簡易検査具で確認済)。
↑赤色矢印で指し示していますが「中期型 (後期型)」なので刻印によるリリースマーカーの表示に設計変更していますね。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離25cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
このような事柄をイチイチ指摘して当方を貶すほうがむしろ幼稚だと考えますが (当方の老眼のせいではありません)?!(笑) 逆に言えば解説しない限り分からないほうが認識不足/知識不足ではありませんか (それ結構笑えますョ)?
↑最小絞り値「f22」での撮影です。もうほとんど絞り羽根が閉じきっていますが、当初バラす前の閉じ具合はテキト〜だったようなので(笑)、簡易検査具を使ってキッチリ合わせています。「回折現象」の影響も視認できないので相応に描写性能が良い部類だと考えます。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます・・。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。