◎ LEITZ WETZLAR (ライツ・ヴェッツラー) SUMMILUX 50mm/f1.4《貴婦人》1st(LM)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホールが終わってご案内するモデルは、旧西ドイツは
ライツ・ヴェッツラー製標準レンズ・・・・、
『SUMMILUX 50mm/f1.4《貴婦人》1st (LM)』です。
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainie! Geroyam Slava!
今回オーバーホール済でご案内する個体は「オーバーホール/修理ご依頼分」にて承りました。
当方がオーバーホール作業を始めた10年前からの累計でカウントしても今回の扱いが初めてになりますが、以前に今回の「初期型」とは異なる「前期型」を扱っているので内部構造面では同一です。
何しろ普段からしてオールドレンズを調達するにも資金力が皆無なので、そもそもライツ製、或いはライカ製オールドレンズを入手する事など120%の勢いで叶いません(笑)
そのような状況の中、今回のように「オーバーホール/修理ご依頼」を頂くのは本当に感謝以外のコトバがありません(涙)
・・ありがとう御座います!!!
小心者な当方の精神性からして現在は「オーバーホール/修理ご依頼」の受け付けを止めており一部の今までにお取り引きやお付き合いがあったファンの方々のみに限定しています。
申し訳御座いません (一般の方々からの新規ご依頼は受け付けておりません)。
今回改めてSUMMILUXを扱いましたが、何だかんだ言って旧型だろうが現行品だろうが製産
された時期を汲んでもなおライカ製に勝るオールドレンズが存在しない事を今一度確認でき
ました(涙)
・・本当に素晴らしいです!!!
それは一般的には吐き出す写真とその描写性を指して物言う話しですが、当方の場合はそこに「内部構造と構成パーツの造り」があからさまに関わるので、当方が感嘆以上に感動を覚えているその内容とは「まさに造りが裏打ちした写りそのモノ」とも言えると個人的には受け取っています。それほどの素晴らしい「完全なるこだわりに基づく設計概念」の一部を以下にご紹介していきたいと思います。
ちなみに前回扱った「前期型」タイプが2017年だったので5年も経過しており、ほぼ内部構造も記憶の彼方に飛んでいた状況です (微調整する際のコツなどが必ず必要なので記憶や
手の指に伝わる感触の印象が何よりも重要)(怖)
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先ずのっけから当方の大きな疑念をぶつけていきます。
↑上の一覧は何しろ当方は基本的に「ライツ製/ライカ製オールドレンズとカメラボディの事を何も知らない」のでネット上の解説を読み漁って勉強して知り得た情報から作ったモデルバリエーション上の気になる諸元を示す一覧です。
そもそも当方はカメラ音痴ですし (カメラボディに対していまだに興味が一切湧かない) 既に
オールドレンズ以外の為に用意されていたハズの脳の領域も歳で日々縮小著しい状況です(笑)
巷ではこのSUMMILUXシリーズを「第1世代 (貴婦人)」から「第4世代」まで4つのモデルバリエーションに分けて捉えるのが一般的なようですが、そもそも当方は「第1世代」からして皆様の認識と異なってしまいます (恥ずかしい)(汗)
さらに製造番号とモデルバリエーションの関係性を逐次調べていくと (それだけで半日かかりました/泣) どうやら世代間と付番された製造番号とが跨いでいる事実を掴み、凡そ当時の世界中の多くの光学メーカーで執られていた「符番ルール/概念」を踏襲するとも言えます。
つまり製造番号の区切りとモデルバリエーション上の「世代交代」の要素/諸元値が一致していない製産を執っていた事が明白で、もっと言うなら「世代交代の際に製造番号のシリアル値が一瞬飛んでいる現象」も確認できました。予備の符番用として空けておいたシリアル値なのかは当然ながら知る由はありませんが、少なくとも世代を跨ぐ際にシリアル値が必ずしも積み
重なっていません。
一部にはこれら製造番号帯の中に別の焦点モデルが飛び込んでいたりするので、他社光学メーカー同様「製造番号の符番ルールは事前割当制」であり、計画台数、或いは計画台数修正タイミングとの関係性から製造番号のシリアル値が必ずしも一つのモデル/世代の中だけで完結していないのが世界中の光学メーカーの製造番号符番ルールの概念と一致しています。
逆に言うなら製造光学メーカーとして考える時に純粋な製造番号シリアル値で付番してしまうといったい計画台数に対しどのシリアル値で世代交代させるべきかの判断が相当難しくなります。それは当時のどんな光学メーカーでも月産能力が限られていた問題と「合わせて市場の反応/需要の問題」の把握が最も重要であり、可能な限り需給を辻褄合わせしつつ合理的な製産体制を維持しなければアッと言う間に赤字に陥り火の車になるのが見え隠れしているからです。
そのような臨機応変に対応できる製産体制を執らずに拡大傾向に鼻息を荒くして多角経営に
走り、気がつけば倒産していった光学メーカーやカメラメーカーがどれだけあったのか、既に歴史が物語っています。
その中で冒頭でも述べたとおり、ライツ製/ライカ製オールドレンズ達の内部構造や造り自体がその吐き出す写真の描写性能の裏打ちになっていた事実は、内部構造はもとより「各部位の
構成パーツの設計思想」にまで一貫した思想が伺われ、徹底的でそしてあまりにも頑なにこだわって「それを具現化し世に送り出す事で製品価値を維持し価格帯を標準化していった企業
姿勢」こそが当方には今もなおとても新鮮な想いでビジネスモデルとして感銘を受けざるを
得ません(泣)
今の世の中、まさにロシア軍によるウクライナ侵攻/侵略で世界中を巻き込んで国際秩序を破壊し食糧危機を促している状況ですが、だからこそ日本も目を覚まして「中国の製産拠点化に頼らず国内回帰に今一度目覚める」事を真剣に考えない限り、次はロシアではなく中国に様々な日本の流通商品が根底から握られてしまい「その製産と供給を人質にして日本の脅威に至る」まさに経済安全保障の最たる武器に変化するなど、ド素人の当方でさえ容易に妄想できます。
(例えば光学製品も中国工場が停止すれば核心的最先端技術さえ中国に依存する)
先般のマスク問題も同じですが、製薬製造に関しても今の時代中国工場の稼働率が鍵を握っている始末で、それら総て「中国共産党からの下令の元」コントロールされてしまえば、アッと言う間に日本の普段の生活自体からして崩れます。
如何にも防衛手段の一つの如く「経済安全保障」と当然の如く語られていますが、当方からすれば「生活安全保障」と言う日々の生活/生きていく上で必須な物事を中国に握られてしまう
環境をいまだに公然と平気に推し進めている企業体こそが問題だと考えます。政治と商業経済は別モノなどと言う概念は「取引先相手にその道理が通る環境下でしか担保されない」事を
もう既に新幹線でイヤと言う程味わって懲りているハズなのにいまだに改めようとしません。
話しが反れましたが、ライツ製/ライカ製オールドレンズ達の内部構造には特に異質な要素が存在しない点も意外と重要で「理に適っている構造」こそが最も合理的な生産を支える事の一つの表れとも考えられます。当然ながらそこには「各構成パーツのひたすらなこだわり」があるからこそ適う話であり「何もかもが一貫している設計思想」に高額なお金を払う価値が存在し得るのだと「企業イメージを確立させてしまった光学メーカーの中で唯一成功した会社」ではないかと感銘を受けざるを得ません。
・・何故なら光学製品の中で右往左往していない唯一の会社だからです!
今回製造番号を基にモデルを調べていく中で「何とたった一台だけ製産している/或いは3台だけ生産した年がある」事実をあからさまに知るにつけ、相当な脅威を感じた次第です (それでもいまだに生き残り続け勢いすら失わない)。
・・だからライツ/ライカなのだとただただ覚悟するしか無い!
《モデルバリエーション》
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
第1世代:1958年製造 (初期型)
光学系:5群7枚初期型構成 ①
ローレット (滑り止め) :山部分の「逆ローレット」
最短撮影距離:1m
フィルター枠:⌀ 43mm
カラーリング:シルバー鏡胴のみ
第1世代:1959年〜1961年製造 (前期型)
光学系:5群7枚初期型構成 ①
ローレット (滑り止め) :谷部分のローレット
最短撮影距離:1m
フィルター枠:⌀ 43mm
カラーリング:シルバー鏡胴のみ
第2世代:1961年〜1989年製造
光学系:5群7枚再設計 ②
ローレット (滑り止め) :リブ形
最短撮影距離:1m
フィルター枠:⌀ 43mm
カラーリング:シルバー/ブラック
第3世代:1992年〜2006年製造
光学系:5群7枚再設計 ③
ローレット (滑り止め) :リブ形
最短撮影距離:0.7m
フィルター枠:⌀ 46mm
カラーリング:シルバー/ブラック/チタン
第4世代:2006年〜2015年製造
光学系:5群8枚再設計 ASPHERICAL ④
ローレット (滑り止め) :リブ形+ツマミ
最短撮影距離:0.7m
フィルター枠:⌀ 46mm
カラーリング:シルバー/ブラック/復刻版2色
↑上のモデルバリエーションは一部wikiなどを参考にして、且つライカリストから製造番号とも紐付けして製造年度を示したので一般的な認識とは違うかも知れません。
また「第1世代 (貴婦人)」については当方独自の区分けとして「初期型/前期型」と距離環ローレット (滑り止め) の仕様相違を以て分けています。
なおネット上解説の中にはこれら世代の中で「光学系の捉え方が違う」解説が幾つも顕在します。基本的に当方の概念では「最短撮影距離が変化したら同一光学系の設計のままでは製品化できない」との認識なので、それら解説を参考にしていません。逆に言えば最短撮影距離が異なるのにどうして同一の光学系を実装していると述べているのかその根拠に見合う説明が成されていないからです。
例えば今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着するなら、或いはもっと古い時代で言う処のエクステンション/延長筒を介在させて「最短撮影距離以上に延伸させて近寄って撮影できる」のは当然な話ですが、その際「無限遠位置で合焦できない」事を犠牲にした概念なので、それを以てして「光学設計の範囲内に収まる描写性」とは当方は認識できず「光学設計を逸脱した写り具合」としか言いようがありません (そんな使われ方まで想定して光学設計していない/何故なら何処まで延伸できるのか明示していないから)。
従ってこのような捉え方が基本にあるとすれば「自ずと最短撮影距離が変化したら同一の光学設計で済むハズがない」との認識が当方の捉え方です。
↑上の写真 (4枚) は「第1世代 (貴婦人)」だけをピックアップして解説しています。左側2枚が「初期型」で右側2枚が「前期型」です。
1958年だけ製産されていた「製造番号:164xxxx〜」モデルだけが距離環ローレット (滑り止め) が山の位置に切削されており、且つ距離環刻印距離指標値には「20mが存在する」相違点が筐体外装だけでチェックできます。
ちなみに「前期型」のほうではローレット (滑り止め) の切削の違いはともかく「距離環刻印の相違は単に刻印していないだけ/ちゃんと目盛分空きが備わる」為それを以てして「ヘリコイド (オスメス) のネジ山勾配は設計変更していない」と断言でき、要は鏡筒の繰り出し/収納に変化が起きていないと言う事は (もちろん最短撮影距離も同じなので)「光学系の設計は同一設計のまま」と明確に指摘できます。
だからこそ一覧では「5群7枚 ①」と両方とも表記しています。
・・ネット上でもこのくらい根拠を示して解説頂けると頭が悪い当方でも理解できます(笑)
なお「第4世代」のタイミングでは復刻版モデルとして左写真のように「第1世代」当時のスカラップタイプで距離環ローレット (滑り
止め) を造ってきました (スカラップは波形の意味)。
しかし実装光学系はレンズ銘板からも明白なとおり「ASPHERICAL (アスフェリカル) 仕様」なので「第3群に非球面レンズを配置」しています (シルバー/ブラックの2色展開)。
ここから光学系の解説に入ります。基本的に当方は光学知識も無くて全くのド素人レベルですので、バカな事を述べていてもウソを記しているワケではありません。もしも間違った事を解説していたらご教授頂けると助かります (ヨロシクお願いします)。
右の構成図はネット上の何処にも存在しない構成図だと思います(笑) 5群7枚の拡張ダブルガウス型構成ですが、今回扱った「初期型構成 ①」として前出の一覧でも表記している構成図です。
今回のオーバーホールに際し完全解体して光学系の清掃時に当方の手でデジタルノギスを使って各群を逐一計測してトレースした構成図になります。従って信憑性が限りなく低いので参考にもならないとお受け取り頂けると幸いです (正しいのはネット上の構成図です)。
右構成図をパッと見ただけでは分かりにくいですが第5群の後玉は内側面の曲率が高く、一方反対側の露出面側の曲率が緩いのでほとんど平坦に見えますが、計測するとちゃんと歴とした両凸レンズです。
そうは言ってもまたSNSでウソを拡散し続けていると批判の嵐になるので(笑)、今回もちゃんと証拠写真を撮って決してウソを流している確信犯ではない事を以下にご案内します。
↑上の写真は光学系の第1群 (前玉) から純に第5群 (後玉) までを左から並べて撮影しました。第1群〜第2群までの光学硝子レンズは上の写真では「前玉前玉側方向を向いて置いてある」状況で、一方第3群〜第5群は「後玉側向を上に向けて並べた」撮影です。
従って左端の第1群は前玉なので上部分が露出している話になり、同様に右端の第5群も上の部分が後玉として外に露出している側に当たります。
↑上の写真は前述の中で「第2群の貼り合わせレンズ」だけを拡大撮影しています。赤色矢印の箇所に今回扱った個体のカビの繁殖部分が写っています。
なお実測するとこの貼り合わせレンズの曲率が一般的にネット上で掲載されている多くの構成図とは違っています (後で解説しますが第1群前玉がピタリと合致していたのに第2群は全く別モノ)。詰まるところ前玉を透過して入ってきた入射光の料理方法が違うのではないかと勝手に捉えています(笑)
◉ 貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す
◉ バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態
◉ ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態
◉ フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーやパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く
◉ コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない
↑上の写真も同様に同じ「第2群の貼り合わせレンズ」ですがひっくり返して「ウソを拡散していない事の証」として撮影しています(笑) ちなみに光学硝子レンズコバ端位置の「鉛筆書きの丸印」は当方が書き込んだモノではなくて当初取り出した時からこのようになっていました。
・・ご覧のように第2群の裏側は光学硝子自体が段々の階段状に切削されていました。
↑今度は光学系「第3群貼り合わせレンズ」を撮影していますが、同様赤色矢印の箇所にカビの繁殖なのか汚れなのか真偽不明な部分があります。
↑同様にひっくり返して撮影するとやはりこの第3群裏側も段々状/階段状に切削されているのが分かります (ウソではありません)。
マジッでSNSでウソを拡散していると広げている人が居るようなので閉口します。一応ネット保険を適用して現在弁護士先生に簡易裁判所に対し個人の確定のために「情報開示請求」を
お願いしていますが事情があって訴訟には進められないかも知れません。その場合はまた別の方法を考えなければイケマセン。いずれにしても個人の確定は必要です (警察署への被害届は
受理完了しました)。当方はこれらオールドレンズの作業を生業としている個人事業者なので、少なくとも事実無根な批判を拡散された事でその時点からの被害を受けたとの趣旨で弁護士の先生に相談しています (被害届の内容もそれに準ずる)。被害金額は該当SNSの知名度と拡散の度合いなど勘案して当方の年間事業収入から算出した損害を被った被害額としています。
これらの貼り合わせレンズの状況からして前述の光学系構成図のトレース図に至ります。
次のこちらの構成図はネット上で確認できる構成図からトレースしたものになります。同様5群7枚の同じ配置での拡張ダブルガウス型
構成になります。
こちらの構成図を前出の一覧表では「5群7枚再設計 ②」と表記しています。
・・その根拠は!
第1群 (前玉) の実測値、当方の手でデジタルノギスを使って計測した値が全くこのネット上の構成図と100%ピタリと一致していたのです。つまり適当に別モデルなどから転載した光学系構成図ではない事がこれで明白になります。何故なら第1群の前玉で入射光を取り込んでいるので、その設計/サイズ/厚み/曲率などが同一なのは「同一の製品の光学系」との判定にならざるを得ないからです。
すると今回扱っている「初期型」の構成する第2群以降の光学硝子レンズのカタチや/特に曲率などが違う点で「初期型の構成図である可能性がゼロ」と考えられ、同様に前述解説から「前期型」もその対象から外れるために「第2世代」の構成図ではないかとの推測に至っています (まだ扱ったことが無い)。
さらにこちらの構成図もネット上に数多く掲載されている構成図で、下手すると「第1世代 (貴婦人)」の解説でも使われている場合がありますが、当方の考えは違います。
同じ5群7枚の拡張ダブルガウス型構成ですが、パッと見ただけで判る大きな相違点は第2群の貼り合わせレンズを分割させて空気レンズ層を設け、且つ第4群〜第5群を逆に接着した貼り合わせレンズに
設計変更しています。
この「空気レンズ層」を配置する設計概念はおそらく色収差の改善を狙ったものと推測していますが、この構成図で一番問題となるのは「後群側の第4群と第5群の貼り合わせレンズの曲率の大きな変更」であり、当方はこれを「最短撮影距離を70cmに短縮する為の設計変更」と捉えました。
従って前出の一覧では「5群7枚 ③」と表記して分けています。
最後に登場するのは最も現在に近いタイミングで設計変更された構成図です。
5群8枚の拡張ダブルガウス型構成と捉えていますが、右構成図の中の 部分が「ASPHERICAL (アスフェリカル)」で「非球面レンズ」です。このモデルでの型番/レンズ銘板に刻印されている「ASPH.」がそれを現しています。
さらに同じ後群内に配置されている第5群の貼り合わせレンズは「昇降機能」の中に組み込まれている「フローティングシステム」を採用した設計で 部分で示しています。昇降する/フローティングする機構部なので距離環の回転に伴い前後に直進動するので背景に薄いグレー色でその移動範囲を示しています (分かり易いように少々大袈裟に移動量を表したので実物はもっと狭い範囲での移動だと推測しています/グレー色の範囲程移動しない)。
この昇降機能は様々な日本の光学メーカーにも多数取り入れられていますが、例えば距離環が無限遠位置「∞」に近い時に必ずしも上右図のように第4群と第5群の貼り合わせレンズが互いに近接した状態とは限りません。距離環の距離指標値に対してどのように直進動するのかは現物の動きを観察しない限り不明のままです。
こちらが前出一覧で「5群8枚 ④」と表記しています。
以前このような「昇降機能/フローティングシステム」を内蔵したモデル、例えばOLYMPUS製「開放f値:f2シリーズ」のオーバーホール/修理の際にクレームになった事がありますが、距離環の回転に対して「鏡筒はそのまま直進動しかしない (つまり回転しない)」ものの、肝心な「昇降筒側は距離環の回転に伴い内部での直進動に合わせて僅かに回転もする設計」を採っていた事があり、たまたまその時オーバーホール/修理ご依頼を承った個体が「昇降筒内の光学硝子レンズにカビ除去痕に伴う薄いクモリが生じていた」為にご依頼者様が「直進動するだけなのにどうして撮る写真によってコントラスト低下の度合いが変わるのか納得できない」旨お叱りを頂きました。
当然ながらご請求金額からはご納得頂けない分を減額されてしまったワケですが、そのご依頼者様はただただひたすらに「昇降筒/フローティングシステム」のコトバの概念だけを信じていて「内部で極僅かに回転している事など考えられない」と頑なにお考えになりクレームになりました(泣) 実際に証拠になる写真をお目にかけても「そのような解説はネット上の何処にも載っていない」と反論され、もしも仮に僅かに回転するならどうしてOLYMPUSは「昇降回転
機能」と表現しないのかと最後までご納得頂けませんでした(泣)
現実には距離環の回転に伴い「内部で斜め状に昇降移動する仕組み」だったので移動するガイドが垂直状ではない事から「極僅かに昇降筒内の光学硝子レンズが回転しながら直進動する」為にその極薄いクモリを伴うカビ除去痕の領域が距離環の回転に伴い影響する場合と影響しない場合が現れてしまったワケです。
当方ではこのような場合「オールドレンズに対する認識の齟齬」と受け取っていますが、頑なに信じ切っている方にはどうしても「当方の言い訳」にしか聞こえないようですね(涙)
このような感じでそれぞれの光学系構成図に対してその製産時期を考察して当てはめましたが実際に現物を完全解体して確認したワケではないので、今回扱う「初期型〜前期型」以外の「第2世代〜第4世代」についてはあくまでも当方の妄想の範疇を超えません(笑)
なお2017年に「前期型」を扱った際の考察がまだ未熟だったので (デジタルノギスで計測もしていなかった) 今回の解説とは違っています。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造や使われている各構成パーツなどはその全てが100%すぐ後/翌年の1959年に登場する「前期型」と同一です。
今回扱った個体は光学系内のチェック時点で「相当に薄いクモリや汚れ状 (?) が多い状況」だった事と合わせ「バラす前の実写確認時にミョ〜な歪み/色ズレ非常に僅かながら現れていた」点を鑑み、第1群〜第3群までの光学硝子レンズを完全に格納筒から引っ張り出しました。
特に前回2017年に扱った「前期型」も同じでしたが「第2群と第3群の貼り合わせレンズは格納筒から取り出せない」状況です。何をしようともビッチリ/カッチリハマッていてどんなにチカラを入れようとも身動きしません。
こんな時に使う非常手段が「加熱処置」ですが、何しろ相手が貼り合わせレンズなので下手に加熱し続けると「バルサム切れを誘発しかねない」のでチンチンに熱くするまでは加熱できません。もちろん加熱した後に溶剤でも流し込めば「急激に冷却されたために光学硝子を破壊
する一因」にもなり兼ねません(怖)
・・ではどうしてそこまでビッチリと格納筒にハマッてしまったのか?
その一つの因果関係はまだこの当時1958年時点ではアルミ合金材の成分配合と切削レベルに課題が残っていたものの「アルミ合金材格納筒の肉厚を薄くして設計してしまった」点が少なからず影響している事を以前金属加工会社を取材した際に社長さんからご教授頂きました。
(1960年代初頭辺りまでアルミ合金材の成分配合/切削がまだ苦手な時代だったらしい)
今思い返せば「取材中に録音していれば良かった」のに古い人間なので必死にメモ書きしていました (スマホも苦手だし/相変わらず子供達に呆れられる)(笑) 痺れを切らした社長さんが近場の鰻屋さんに連れていってくれてご馳走頂き、この時も何だか立場が逆転してると恐縮しまくりでした(汗) 取材が終わっても何しろ当方のオーバーホール記事を読むのが愉しみの一つと談義に入ってしまいなかなか帰ることができませんでした (とても幸せな1日でした!)(笑)
話しが反れました。第2群〜第3群の貼り合わせレンズの「コバ端に塗られていた反射防止黒色塗料のせい」でビッチリと格納筒に入ってしまい加熱しようが何しようがビクともしなかったのです。
然しバラす前の実写確認時点でミョ〜な印象 (明確な描写の異常を感じない) があったので、
バラした直後にその確認作業を執ってしまったのが仇となりました(泣)
・・厚さ0.2mmのカーボン紙を露出面と格納筒の隙間に差し入れた!
・・ら何と、第3群側の格納筒で露出している面の半分くらいの領域でカーボン紙がススッと入ってしまい、残りの半周分ほどで紙が詰まって動かなくなりました。
つまり第3群貼り合わせレンズが本当に極僅か、凡そ0.2mmくらいの感じの隙間で「斜めッている」のが判明したのです。そうなると光学硝子レンズを取り出して「ちゃんとアルミ合金材の格納筒内壁を磨き研磨する」必要性が発生してしまい取り出すしかない話しに繋がりました(涙)
何しろ相手が相手なので (ライツ製オールドレンズ!) その恐怖感と言ったら大キライなホラ〜映画以上です!(怖)
「加熱処置」も様子を見ながら細心の注意を払い、且つ溶剤を流し込まずに別の手法で取り
出すコツを使い1時間後にやっとの事で前出写真の如く5つの群を並べるにまで至りました。
・・怖かったぁ〜!!!(怖)
何しろ製産されてから64年も経っているワケですから、下手に「加熱処置」するとアッと
言う間にピシッと割れが入って「イキナシ製品寿命」の結末に到達します!(怖)
当然ながらオールドレンズに実装している光学硝子レンズは熱伝導率が極端に控えられていますが、そうは言っても半世紀以上を経ていれば既に光学硝子材の組成から捉えても「限界値」なのが自明の理です。
だからこそ下手に「加熱処置」に頼るととんでもない結末を迎えます。そしてそのような恐怖の状況に追い込んでいるのは一にも二にも「過去メンテナンス時の反射防止黒色塗料の着色」が影響しています!(怒)
・・どんだけこのせいで今までに数多くの恐怖感を味わってきたことか!(怖)
例えば自分で調達してオーバーホール済でヤフオク! に出品する予定だったオールドレンズの
貼り合わせレンズを取り出す際に「加熱処置」で引っ張り出そうとしたら「パシッと音が聞こえて貼り合わせ面が剥がれてしかも取り出した側の光学硝子にヒビが入った」と言う次第で、せっかく取り出せたのに「ジャンク品」と言う結末です(涙)
ちゃんと事前に光学構成図を確認して取り出す側の光学硝子レンズの厚みがあるのを調べたのにこのような結果です (むしろ薄い残った光学硝子レンズのほうが無事だった)。だからこそ「原理原則」に頼れない要素もあり、オールドレンズ作業とはそのような恐怖感の中での闘いになっていたりします(怖)
↑絞りユニットや光学系ぜいご群を格納する鏡筒です。アルミ合金材で造られています。赤色矢印の箇所には両サイドに「絞り環と連結する為のスリット/切り欠き」が備わります。
通常一般的なオールドレンズはこの絞り環との連結は「1箇所だけで両サイドの用意しない」点をまずは覚えておいて下さいませ。後で解説します。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑相当な肉厚を持つ12枚の絞り羽根を組み込んで絞りユニットを鏡筒最深部にセットしました。とかく一般的なオールドレンズ、特に当時の旧ソ連製オールドレンズなどは「絞り羽根がペランペラン」ですが、ライツ製/ライカ製オールドレンズは必ずどのモデルでも十分以上の
肉厚で絞り羽根が設計されています。
・・どうしてそんなに肉厚を採って設計するのか???
答えは「絞り羽根にプレッシングされるキー脱落を防ぐ」目的です。そのような今回のライツ製オールドレンズでさえも12枚の絞り羽根を組み込んでいくと「経年の油染みで界面原理が働いていた」影響から互いの絞り羽根が吸着しあって特に最小絞り値側で「絞り羽根が膨れあがる現象」に至り3枚の絞り羽根に極僅かな浮きが現れていた (つまりキーが垂直を維持していない状況) 次第です。
オーバーホール工程の作業として12枚の絞り羽根を順に重ねて組み込んでいくと「3枚だけ浮き上がって穴に入ろうとしない」ヤツが居ます(笑) もっと言うならどうして経年の間に「一部の絞り羽根だけが擦れていくのか」或いは「絞り羽根の一部領域だけ擦れ痕が残る」のはどうしてなのか?
もっと言うなら12枚でも8枚でも同じように総ての絞り羽根が閉じたり開いたりしているのに、どうして一部の絞り羽根に限定して浮き上がったり擦れ痕が酷かったりするのか?
・・誰か説明できますか???(笑)
それが互いに重なり合った時の金属同士の「界面原理」或いはもっと酷くなれば「経年の揮発油成分に拠る油染み」からもっと激しい「界面原理」作用が働き互いが吸着し合うので「最小絞り値側に至るほど互いが重なり合う領域が減って癒着の応力が及び膨れあがる」次第です。
つまり長期間保管する時は「完全開放させて保管したほうがまだ良い」ワケですが、今度はその時両面にある「キーの酸化/腐食/錆びはより増大する」ので堪ったものではありません(泣)
詰まるところ絞り羽根の油染みを放置プレイすると「製品寿命を短くしている」との認識に
立つことが必要です。絞り羽根の開閉動作 (つまり絞り環操作) に違和感を感じないので多少の油染みを放置プレイしている人が圧倒的多数ですし、そもそも「転売屋/転売ヤーの輩は絞り羽根の油染みを影響しないと言い繕って売っている」ので、同業者たる当方も反省至極と言ったところです(泣)
・・『転売屋/転売ヤー』とは当方含めそういう煮ても焼いても食えないヤツらばかりです!
赤色矢印で指し示した箇所には「開閉環」がセットされていますが一部が黄金色に光っています。実はこの部分だけ「平滑処理」で仕上げられているので今回のオーバーホールに際し当方の手で「磨き研磨」した次第です。
・・その理由は後で出てきます。
また両サイドに「シリンダーネジ」が飛び出ているのをグリーンの矢印で指し示しています。この「シリンダーネジ」が絞り環に入る事で絞り環操作により設定絞り値まで絞り羽根が開閉する原理です。
左写真はその「シリンダーネジ」で円柱の中心にマイナスの切り込みが入っただけでその他はネジ部になっているネジ種です。
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上部が前玉側方向です。鏡筒の1箇所には「絞り値キー」と言う溝が切削されており (赤色矢印)、そこに水平方向にキズが一直線に残っています (オレンジ色矢印)。
この「水平方向のキズ」に注目する整備者がネット上を観ていても誰一人居ません(笑)
・・当方は天の邪鬼な性格なので目一杯気にします!(笑)
重要なのは「このキズ/横線の存在ではなくて細さ」なのです!(驚)
実はここにライツ製/ライカ製オールドレンズ達の優れたこだわった「設計思想の一つ」が如実にその実証として残っているのです。
この点に注目する整備者が居ないのは甚だ数多くのライツ製/ライカ製オールドレンズ達を整備する会社が居るのに不思議で仕方ありません(笑)
この横方向のキズが残ってしまう原因は「鋼球ボールでカチカチと各絞り値でクリック感を
実現しているから」と言うのが詰まるところ理由ですが、一般的なオールドレンズではもっと太いキズとして残ります。
どうして太くなるのかと言えば「鋼球ボールの鋼球が接触する面積とそのクリック感のチカラ加減の設計/正確さに違いがあるから」と指摘できます。
たいていこの当時の光学メーカーは日本含め世界中で板バネを使うかスプリングで鋼球ボールにクリック感のチカラを与えます。しかしライツ製/ライカ製オールドレンズの設計は「常に同じチカラで経年でもチカラを及ぼし続ける設計」にこだわっていたからこそ「ハガネの板バネの材質とその構造にこだわった」結果なのです。
・・初めてこの鋼球ボールが接触していたキズを見た時に涙が出そうになりましたねぇ〜(笑)
その理由がすぐに判ったからです。前述のとおり他社光学メーカーが「絞り環との連結は1箇所」としている中、ライツ製/ライカ製オールドレンズの多くのモデルはこのように両サイドの2箇所で絞り環と連結させて「絞り環操作時に均質な抵抗/負荷/摩擦の感触を保証しようとしている」設計の表れなのです!(驚)
たかが絞り環操作にそんなにこだわるのかと言うでしょうが、当方はそのようにこだわる姿勢にホロッとくるのです。片側1箇所で鋼球ボール+スプリングのチカラ/応力の影響をウケてカチカチとクリック感を実現するよりも「両サイドのほうがより滑らかで心地良いクリック感に至る」のが間違いないからです。
これら2つの要素「鋼球ボールの接触痕が細い=経年で同じ強さを維持」合わせて「両サイドで絞り環と連結=均質で滑らかな心地良いクリック感の実現」なのであり、まさに他の光学メーカーの設計思想とは別モノなのをず〜ッと踏襲し続けているのです (他社光学メーカーは
サッサと合理化して簡素化してしまった)。
ちなみに前述した「シリンダーネジ」が両サイドに飛び出ています (グリーンの矢印)。
↑絞り環が被さる「絞り環用ベース環」を先にセットしたところです (赤色矢印)。オレンジ色矢印の箇所に小さな穴が空いていてそこに「鋼球ボール:⌀ 1.2mm」が入ります。且つそこに横方向でやはり手前に並べている「鋼の板バネ」がセットされる事で「クリック感が実現される」設計ですが、実はこの板バネは「への字型にカタチが付いている」のにプラスして「両サイドにその抵抗を経年で維持できるよう折り返しまで施してある」のが素晴らしいのです!
・・単なる板バネを組み込む光学メーカーなどいくらでもあります!(笑)
ちゃんと鋼に経年の間に反発力まで維持できる能力を与えて設計している時点で別世界なのだと指摘しているのです。
やはり「シリンダーネジ」がグリーンの矢印で両サイドに飛び出ていて既にベース環と連結しています。
↑ベース環に光沢サテン仕上げの絞り環をセットしたところです。
↑さて、ここからもまたライツ製/ライカ製オールドレンズ達に見られる独特なこだわりの設計です。前述した「鋼球ボールの接触痕が細い」のを実現している理由が上の写真解説で「位置確定環」なる締付環がネジ込まれる事で「絞り環の鋼球ボールの位置を1箇所に決めている設計」なのです。
一般的なオールドレンズではここまで絞り環の締付固定にこだわりません (多くの場合でこのような締付環が存在しません)。
何故なら絞り環裏側にネジ山を用意してネジ込んで最後にイモネジなどで締付固定すれば十分絞り環の固定は適います。
ライツ製/ライカ製オールドレンズはそれだけでは満足せずに「均質なクリック感を長年維持するにはどうしたら良いのか?」と考えて末に出てきた設計思想です!(驚)
↑完成した鏡胴「前部」をひっくり返して後玉側方向から撮影しました。一つ前の工程で解説した「絞り環用の位置確定環」が赤色矢印で指し示したように締付固定終わっています。
その一方で他にも重要な役目の締付環が存在します。ブルーの矢印で指し示した「締付環」は前出の「絞り環用ベース環」を締付固定する為の環/リング/輪っかです。さらにグリーンの矢印で指し示した箇所が「絞りユニット内部の開閉環の縁にある平滑処理した面が接する箇所」であり、まさに黄金色に光り輝いていた理由がこの箇所に接触する「詰まるところ絞り環操作に抵抗/負荷/摩擦が及ばない」からこそ「ハガネの板バネのチカラだけでクリック感を制御できる設計」が適った次第です。
そして最後のオレンジ色矢印はこの鏡胴「前部」が距離環などのヘリコイド (オスメス) が配される鏡胴「後部」側にセットされる際の接触面なので「平滑処理」が必要なのです (実際は
クッションによる緩み防止を持たせたクッション環が間に挟まりつつ後部側に組み込まれる
設計/それでもちゃんと絞り環用のマーカー刻印●がズレずにピタリと一致するから凄い)。
このように上の写真を観ただけでもそれぞれの環/リング/輪っか部分の「平滑性がちゃんと違う設計」なのが一目瞭然であり、まさに理由がある証拠そのモノです(笑)
↑いよいよ今回の個体の写りが当初バラす前に気になった問題を解説していきます。
左側の前群格納筒は光学系の第1群 (前玉) と第2群貼り合わせレンズが組み込まれる格納筒ですが、上の写真ではひっくり返して前玉側が下に位置しています (ブルーの矢印)。重要なのは第2群の貼り合わせレンズが格納される時にダイレクトにコバ端 (光学硝子レンズの横側面側) が接触する内壁部分を赤色矢印で指し示しています。
この内壁の直径が僅かでも格納される第2群貼り合わせレンズよりも大きすぎると「カパカパになって色ズレ/収差の原因に至る」のでビッチリしたサイズで設計されています。
同様右側に並べた後群側の「第3群貼り合わせレンズ」が格納される格納筒も内壁部分をグリーンの矢印で指し示しています。第3群の2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤/バルサム剤を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指すのコバ端がダイレクトに接触するので過去メンテナンス時に反射防止黒色塗料を塗られてしまうとキッチリ最後まで格納できません (ブルーの矢印方向が前玉側方向)。
そのような背景から今回の個体の光学系第3群貼り合わせレンズだけが「アルミ合金材の格納筒内壁に抵抗/負荷/摩擦により最後まで格納されていなかった/極僅かに斜めになっていた」とみています。但しそれはあくまでもトレース紙を隙間に差し込んだら凡そ半周分の領域で紙が入った為にそのような判定をしているに過ぎず、決して電子検査機械で計測した結果の話ではありません。
またこの第3群貼り合わせレンズを格納筒に入れ込む際はキツキツなので目一杯のチカラで指で片側ずつ押し込んでいくしかありません。チカラを入れて押し込む度に「パチンパチン」と音がするので相当怖い作業です。「加熱処置」するにも冒頭でお話したように温度を上げすぎるとバルサム切れを促す懸念にも繋がるので要注意です(怖)
そんなワケで格納筒から取り出す際と組み込む際の2回分最低でもこれら恐怖感との闘いに
陥ります。
↑上の写真は今一度全ての5つの群:光学硝子レンズを並べて撮影しました。第1群が前玉になり第5群が後玉です。
するとグリーンの矢印で指し示した箇所が既に製産時点でメッキ加工が施されていて「溶剤で溶けて剥がれ落ちない」のが判ります。
↑同様に第1群〜第5群を今度はひっくり返して裏側を撮影しました。同じように「黒色にメッキ加工が施されている箇所」をグリーンの矢印で指し示しています。
すると最終的に前出の格納筒に組み込まれる「第2群の貼り合わせレンズ」と「第3群の貼り合わせレンズ」のそのコバ端の一部分に均質な濃さになっていない黒色塗料が残っているのが判ります (オレンジ色矢印で指し示している箇所)。
要はこの箇所の反射防止黒色塗料の厚みが影響してキッチリ格納筒に最後まで格納されずに「本当に極僅かに斜めッていた」のが実写の画像として現れたのだと推測しています。
普通のメモ紙を同じ位置に差し込んでも入らなかったので「その隙間の空きは僅か0.2mm程度」と推測でき、且つ凡そ半周くらいの領域で少しずつ空きが広がり再び閉じており「要は斜めに入っていた」のが間違いないと考えます。
↑第1群 (前玉) 〜第5群 (後玉) までを全て適切に格納してこれで鏡胴「前部」が完璧に仕上がりました。
ちなみに後群側の第4群と第5群 (後玉) にはその光学硝子の周囲に「黄銅製の型枠がモールドされている」設計ですが、この2つの群は「互いに積み重ね式」で格納されるので「黄銅製の部分を磨き研磨」する事で格納時の内壁に当たって抵抗/負荷/摩擦により同じように斜めってしまうのを防いでいます。
↑ここからは鏡胴「後部」の工程に入ります。鏡胴「後部」は簡素でヘリコイドとマウント部だけです。
距離環やマウント部が組み付けられる為の基台ですが、下部には「距離計連動ヘリコイド」が備わっています (ヘリコイドオス側ではありません)。
内側には赤色矢印で指し示したとおり「空転ヘリコイド」が格納される箇所があるので当然ながらここも「平滑処理」が欠かせません。さ・・年ながら今回の個体は当初バラす前の時点で既にトルクムラが出ており、重いトルクでもあったので「空転ヘリコイドが摩耗している」と考えられ「磨き研磨」で何処までその摩耗を相殺できるのかが最大のポイントです。
↑この基台を前玉側方向の真正面から撮影しました。こんな感じで「距離環が廻る駆動域」を限定するスリット/切り欠きが内側に備わります。
その一方で「空転ヘリコイド格納箇所」も備わりますが、その内側をグリーンの矢印が指し示しています。空転ヘリコイドがダイレクトに接触する箇所 (黄銅製の面) の次に内側に少々茶色っぽい場所が備わり (グリーンの矢印の箇所)、さらにその内側には「黒っぽい箇所」があります。
この3つの箇所で色合いが違うのが目安となりますが「その理由がちゃんとある」のでそれをキッチリ組み上げ工程で適えられるるのかがこのモデルでの距離環を回すトルクを決める最大のポイントです。
逆に言うならどんなに軽いトルクのヘリコイドグリースを塗布しても意味がなく (何故なら空転ヘリコイドだから)、且つ「距離計連動ヘリコイドを牽引するチカラまで含めて距離環を回すトルクが決まっていく」点もこの3つの内側の色合いの相違を以て「何が必要なのか」を認識していないとこのモデルを適切なトルク感には仕上げられないと考えています。
↑問題となる「空転ヘリコイド」と「直進キー」を並べています。「空転ヘリコイド」には1箇所に「直進キーガイド」と言う溝が備わり、そこを「直進キー」が行ったり来たりスライドする事で最終的に鏡筒を繰り出し/収納する動きを実現しています。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
↑今回の個体も当初バラした時には上の写真の「直進キーガイド」部分に過去メンテナンス時に塗布されたグリースの乾燥したこびりつきが残っていました。
この「直進キーガイド」を見れば一目瞭然ですが「製産時点の切削で平滑面になっていない」のが明白です (縦方向にバタバタで微細な凹凸/筋があるのが分かる)。
その一方で溝の下側グリーンの矢印で指し示した辺りから「削れて/摩耗して黄銅材が剥き出しになっている箇所がある」のが分かります。
つまりこの削れた/摩耗した箇所が「経年で空転ヘリコイドの平滑性が失われてその抵抗/負荷/摩擦の影響が直進キーが擦れる後として残った」のが判明します。
要はこの箇所に直進キーが来ると最終的なトルクムラに至っていたと推測できる次第です。
さらにこの「空転ヘリコイド」のブルーの矢印で指し示した箇所には「ちゃんと面取りしてあってアール付けされている」点も大きなポイントなのに過去メンテナンス時には一切処置されておらず、残念ながらやはり摩耗が進んでいます。
そもそも上の部分の水平方向に金属質の筋が入っている箇所と「その滑らかさ/平滑性が全く別モノ」なのが一目瞭然なのに過去メンテナンス時の整備者は何も処置を講じなかったのです。
・・一度削れて摩耗してしまった金属材は元に戻りません(涙)
「例え経年で摩耗して平滑性が犠牲になってもまた磨いて滑らかにすれば大丈夫じゃないか」と言う人が居ますが(笑)、そんなに生易しい話ではありません。摩耗が進んだからと言って「下手に磨きすぎると例え平滑性が戻っても隙間がその分増えた事になるのでヘリコイドグリースを塗っても却ってトルクムラの原因になる」のが金属加工をしている人なら熟知しているお話です(笑)
特に「空転ヘリコイド」となればほぼ全周に渡って均質な真円で平滑性が担保されない限りトルクムラが必ず現れますから「内部構造を知る事ですぐにでも整備に出す気持ちを促せる」点にも気を払うべきですね。
・・それがオールドレンズの延命処置の第一歩です。
直進キーも既に組み込んであるので下に飛び出てきています。この2つのネジ穴がマウント部の外側に存在する「クロームメッキ加工の締付ネジ」で締付固定される次第です。
要は距離環を回すと直進キー自体は固定なので「距離環を回したチカラの分だけ空転ヘリコイドが回転して直進キーのおかげで鏡筒が繰り出し/収納する原理」なので、詰まるところトルクを軽くしようと考えたら「空転ヘリコイド/直進キー/距離計連動ヘリコイド」の三つ巴で適切なトルク感に仕上がるよう処置を施す必要があると言う意味です。
・・はたしてどれだけの人がそのような整備ができるのでしょうか?(笑)
↑光沢サテン仕上げの美しい距離環をセットしてこれで鏡胴「後部」が完成しました。既に完成している鏡胴「前部」をセットしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。大変貴重な「製造番号:164xxxx」から始まる数少ない「20m刻印がある」山ローレット (滑り止め) のタイプ「初期型」です。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無ですが、実はおそらくカビ除去痕だと思われる「薄いクモリの箇所/汚れ状に見える」が幾つか在ります。
その多くは「第2群貼り合わせレンズ」と「第3群貼り合わせレンズ」でいずれも工程の中で赤色矢印で指し示して説明した箇所です (大きく2箇所残っている)。
第2群側の貼り合わせレンズは1箇所に8mm大ほどのコーティング剥がれがそのまま薄いクモリに至っており (コーティング層も剥がれている)、菌糸状にカビが繁殖していたワケではありませんがカビ除去の際にコーティング層まで剥がれています。その一方薄いクモリの程度は相当除去できて透明度が増しました。
合わせて第3群貼り合わせレンズにも2箇所同じようなカビ除去痕と推測できる「薄いクモリ状」が残っており、中心付近に重なっています (重なっているので大きな薄いクモリの円形状にも見える)。
当初はバルサム切れかと思いましたがその薄いクモリの位置がバルサム面ではないのでコーティング層のハガレと共にカビ除去痕の薄いクモリと認識していますが正確にな事は不明です。
こちらもクモリの程度がだいぶ低減できたので透明度が増しています。
さらに過去メンテナンス時に塗布されていた反射防止黒色塗料のインク成分だと考えられますが、シルボン紙にグレー色にインク成分が残らなかったにもかかわらず「コーティング層に薄いクモリとして何かが外周から中心に向かって残っている」状況でした。
溶剤を使っても何も改善できず仕方なく少々擦ってクモリを除去しています。その関係で後群側のコーティング層・・第3群の後玉側方向・・が剥がれています。
↑観後群側も当初の薄いクモリが相当な領域で除去できたので透明度が増していますが前述のとおりコーティング剥がれが一部にあります (この角度だと見えません)。
↑この角度にすると明確に視認できます。細かいヘアラインキズ状にコーティング層が剥がれていますが光学硝子面の物理的なキズではないので光学系内を覗き込んでLED光照射しても視認できません (従ってコーティング剥がれです)。
また円形っぽい白っぽい箇所が前述の円形に剥がれた箇所です。これはカビ除去薬をつけた時点でアッと言う間に剥がれました (従って菌糸のクモリもとれた)。
↑12枚の絞り羽根は意外にも相当なレベルで「赤サビ」が出ていたのでキレイになりました。絞り環と共に確実で適切なクリック感に仕上がっています。
上の写真赤色矢印の箇所も同様カビ除去痕ですがコーティング層の剥がれた箇所なので、視認する角度によっては上の写真のような明確なキズのように見えます。
数枚の絞り羽根に残る擦れ痕の領域がそれぞれで違う事からも「経年に拠る油染みの影響で界面原理が働いていた」のが推定できます。
↑当初相当起きていたトルクムラと重いトルク感はだいぶ改善されました。前述のように既に「空転ヘリコイドが摩耗している」ので、それを見越して今後の摩耗を防ぐ意味からも「軽めのトルク感」に仕上げています。
またその一方で「空転ヘリコイドの摩耗箇所」と「直進キーの位置関係」により時々クッと抵抗/負荷/摩擦を極僅かに指に感じますが、距離環を回しているウチに消えます。しかしまたそのうちにクッと抵抗/負荷/摩擦を微かに感じるので摩耗の影響がまだ残っていると考えられますが、これ以上「研磨」してしまうのは怖いのでヨシとしています。
・・気になるようなレベルではないのでそのままご使用下さいませ。
クッと抵抗/負荷/摩擦を感じてもそのまま回して頂いて構いませんし、まさにそのまま回せる程度の抵抗/負荷/摩擦にしか感じません (つまり本当に微かなレベル)。
↑一応当方でできる限りの微調整を心掛け仕上げましたのでこれ以上は当方の技術スキルでは改善できません。
・・申し訳御座いません。
他のオーバーホール/修理ご依頼者様同様ご納得頂けない要素については「ご請求金額の減額」が可能です。ご納得頂ける分だけ減額下さいませ。最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし当方による弁償などは対応できません。
純正フィルターのほうも清掃してあります。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
・・ピントは本当に手前側ヘッドライトの電球中心部分にしか合焦しません。
・・逆に言うならそれ程の鋭さと共に繊細なエッジに戻りました (当初は変な曖昧さだった)。
↑f値「f11」ですがそもそもダイナミックレンジが広いモデルなので背景のお城の模型の下部にある「空洞部分」にもちゃんと背景紙が写っていて素晴らしい限りです!(驚)
↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が現れ解像度の低下が見られますが、もぅほとんど絞り羽根が閉じきっている状態なのにこれだけのコントラストと自然な写りを相変わらず残している時点でオドロキです。
・・これがライツ製/ライカ製オールドレンズの凄みなのですね!(驚)
大変長い時間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。