◎ YASHICA (ヤシカ) AUTO YASINON 55mm/f1.2 TOMIOKA(M42)

1970年に発売された標準レンズで富岡光学によりOEM生産されたモデルです。当時富岡光学は1968年にヤシカに吸収合併していますが、生産されていたモデルの殆どは他社への供給用OEMモデルが主体でした。一部初期の頃のモデルにのみレンズ銘板に「TOMIOKA」銘を刻印していましたが、それ以降のモデルには殆ど刻印が成されずに、現在もネット上で様々に解説されています。当レンズの背景や詳細などは有名なspiralさんが「AUTO REVUENON 55mm/f1.2 TOMIOKA (同型のOEMモデル)」で解説していらっしゃるのでこちらのページをご覧下さいませ。当方の解説では当レンズの内部構造や構成パーツをもとに他社のOEMモデルが「富岡光学製」なのかどうかの検証をしたいと思います。

富岡光学がOEM供給していたモデルとして、当方で既に解体オーバーホールを行い内部構造や構成パーツを確認した上で「富岡光学製」との判断を下しているモデルが他にあります。これらのモデルの原型は富岡光学の「AUTO TOMINON 55mm/f1.2」になります。

・「AUTO YASINON 55mm/f1.2」(ヤシカ)

・「AUTO CHINON 55mm/f1.2」(チノン)

・「AUTO COSINON 55mm/f1.2」(コシナ)

・「AUTO REVUENON 55mm/f1.2」(Revue/レビュ)

上記モデルはすべて内部構造から構成パーツに至るまで「AUTO TOMINON 55mm/f1.2」と同一で純粋なOEMモデルと考えられます。ただし距離環ローレットの意匠デザインや光学系コーティングなどは一部仕様を変更しているモデルもありました。

別掲載のページ「オーバーホール中の写真」にて詳しく解説していますが、今回の解体オーバーホールでの最優先事項は、同じように「富岡光学製」とネット上で解説されているモデルの、その構造と構成パーツに於いていったいどの要件が「富岡光学製」との判断になるのかを検証したかったからです。

当レンズ自体は国内海外共に市場では希少価値の高いプレミアムモデルの一つのようですが、それ以外の「開放F値1.4」あたりのモデルでもレンズ銘板に「TOMIOKA」刻印がない「富岡光学製」モデルが存在します。それらのモデルとの共通パーツが実は「オーバーホール中の写真」にて解説しているパーツ類になります。開放F値「1.4」のモデルは「55mm/f1.4」になりますが、こちらの解説ページで「AUTO TOMINON 55mmf1.4」を原型とした富岡光学によるOEM生産モデルを解説しています。逆に原型モデル「TOMIOKA」銘のモデルが存在せず、さらにレンズ銘板にも刻印されていないモデルはどうなのか・・?

その判断材料になるのが内部の構造や構成パーツです。例えば「AUTO YASINON-DX 50mm/f1.4 (ヤシカ)」もマウント部内部に使用している絞り環連動アームにネジ止めされている特異な形状のバネがあります。まったく同一のパーツですね。さらに光学系前群の鏡筒への収納方法も同一でした。それ以外は微妙に形状や厚みなどが異なっていましたが基本的な構造は同じでした。そのような与件を積み重ねていくと、別の光学メーカーでワザワザ同一の設計仕様パーツを用意して構造を似せるのは理に適っておらず、むしろ部分的なパーツの使い回しが各社で行われていたと考えるほうが自然です。

もっと異端的な例では「Vivitar AUTO-WIDE ANGLE 25mm/f2.5」も製造番号の先頭2桁から「キノ精密工業製」と言うことになりますが、内部の構造や構成パーツはほぼ今回の当レンズと同一の内容でした。もちろん外観は異なりますし絞り羽根の形状や回転方向なども違いますが「富岡光学製」と判断するに足る要素が多過ぎました。こうなると富岡光学で生産してレンズ銘板の製造番号だけを出荷先メーカーに合わせてシリアル値で刻印していたと考えざるを得ません。

その意味では内部構造や構成パーツなどが、どの程度富岡光学製レンズの仕様と同一なのかの判断で「富岡光学の血が薄くなる」との印象を受けるようになりました。

因みに「AUTO COSINON MC 55mm/f1.2」や「PORST COLOR-REFLEX MC 55mm/f1.2」などもよく取り沙汰されていますが、最短撮影距離が60cmのモデルに関しては「富岡光学製」ではなく「コシナ製」であることが当方の解体オーバーホール経験値から判明しています。「AUTO COSINON MC 55mm/f1.2」には残念ながら「富岡光学製」を匂わせる構造もパーツも含まれていませんでした。

但し「PORST COLOR-REFLEX MC 55mm/f1.2」には一部の個体に最短撮影距離40cm刻印が成されている個体が存在し、このモデルに関しては構造とパーツの与件から「富岡光学製」と判断しています。

当レンズ「AUTO YASINON 55mm/f1.2 TOMIOKA」も距離環は最短撮影距離50cmを越えて撮影でき実測値では40cmに近い位置でした。

解体してみると様々な事柄が見えてきてなかなかオモシロイですね。


今回は少々趣向を変えて解説していきます。

当レンズの発売メーカーは「YASHICA (ヤシカ)」ですがレンズ銘板に「TOMIOKA」銘の刻印がある「富岡光学製」OEMモデルです。

レンズ銘板に「TOMIOKA」刻印がある正真正銘の「富岡光学製」モデルですから、その内部構造や構成パーツなどを実際に検証しながら他のOEMモデル (開放F値の「1.2」や「1.4」などのOEM供給レンズ) に於ける「富岡光学製」の根拠を示していきます

オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

次の写真に写っている構成パーツは、当レンズ以外の富岡光学製OEM供給モデルでもよく使われている構造や構成パーツです。

手前左端から「絞り羽根」と、絞りユニット内に使われている構成パーツで絞り羽根の位置決め環 (左端から2つ目の真鍮材) に絞りユニットのメクラ蓋 (3つ目)。そして中央の絞り連動ユニット内の構成パーツ、一番奥のヘリコイド(オス側:奥左)と鏡筒 (奥右) です。

まずは「絞り羽根」です。通常絞り羽根には表裏に1個ずつの突出した「キー」が打ち込まれていますが、ご覧のように「富岡光学製」の場合にはキーは片側に1つしか打ち込まれていません。もう1つは単なる「穴」が空いているだけです。他社製品では絞り羽根に「穴」が空いているモデルはとても少ないですね。

次の写真は絞り連動ユニット内部で使われている構成パーツです。真鍮材で作られている左側のパーツは絞り羽根の位置を確定させるためのベース環です。絞り羽根の穴の為に突出した棒を用意していますね。その隣の黒色のリング状 (右側) は絞り連動ユニットを塞ぐメクラ蓋です。

そして光学系前群を収納する「鏡筒 (手前)」と、その鏡筒を収納するヘリコイド(オス側:奥)です。

他社でも同じように鏡筒とヘリコイドを分けて設計されていることもありますが、鏡筒はネジ止めによる固定です。しかし「富岡光学製」の場合は鏡筒は固定されずそのままヘリコイドに差し込むだけの仕様になっています。

下の写真はマウント部内に組み付ける「絞り環連動カム」です。そのパーツに独特な形状の針金状のパーツがネジ止めされています (写真右横)。

これが「富岡光学製」の最大の「証」で他社には存在しない「方式」です。このなだらかなカーブを描いた針金状に見えるパーツは「バネ」の役目を持っており「絞り連動アーム」を適度に制御する目的があります。「自動/手動スイッチ」の切り替え操作によって、このバネのチカラで絞り連動アームが戻ったりして絞り羽根の開閉をコントロールしているワケですね。

最近多い不具合で「絞り羽根の開閉異常」がありますが、大抵の場合このバネの「変形」或いは「固定ネジの緩み」などが上げられます。

ここからは解体したパーツを実際に組み上げていく組立工程写真になります。

まずは絞りユニットと光学系前群を収納する鏡筒です。

この鏡筒内に構成パーツをセットします。前述の真鍮材による絞り羽根の位置決め環をセットしました。

内側の四角い穴が空いている黒色の環は裏側に絞り連動ピンが付いており、絞り羽根の開閉動作をする仕組みです。

実際に絞り羽根を組み付けました。絞り連動ピンの動きに従い絞り羽根の向きが変わって絞り羽根の開閉動作が行われます。一斉に同一の動きをしますから絞り羽根が開いたり閉じたりするワケです。

次の写真はヘリコイド(オス側)やマウント部を組み付けるための基台になります。

基台に距離環(ヘリコイド:メス側)をネジ込みます。この時点で無限遠の当たりをつけておきます。

「富岡光学製」の場合真鍮材が使われていることが多いですね。

ヘリコイド(オス側)を正しいポジションでネジ込みます。これを誤ると最後に組み上がった時点で無限遠が出ません (無限遠で合焦しない)。

こちらはマウント部のユニット基台です。

実際に前述の特異な形状のバネが付けられている「絞り環連動カム」を組み付けます。

この特異な形状の「棒状のバネ」を使って制御するという考え方は「富岡光学製」モデルにしか採用されていません。他社では存在しない唯一の「証」です。

同じように、例えばヤシカ製のレンズで「AUTO YASINON-DX」やその他のモデルなどにてマウント部内部にこのバネが組み付けられており、しかも全く同一の「環」と「バネ」になります。形状や部材の厚みまで全く同一です。こうなると必然的に富岡光学からこの部材を調達していたのか、或いは生産そのものが富岡光学製であったとしか考えられません。

経年の使用に於いて、この「バネ」の形状が変形してしまい、正しく絞り羽根の開閉動作ができなくなってしまった個体が、最近は多くなってきています。

それにしてもこの「バネ」は大変悩ましいパーツで、ほんの僅かな「カーブ」と「曲がり位置」がズレただけで、絞り羽根の開閉動作に影響を来してしまいます。あまりにもメンテナンス性の悪いパーツと仕組みです。

下の写真でこの真鍮環が組み付けられているマウント基台の部分がテカっていますが、スムーズな操作感になるようワザワザグリスを薄く引いています。たかが「自動/手動スイッチ」の操作感とは言え、実際の使用に際しては気になる部分でもありますから・・。

その他の絞り環連動キーやアーム、自動/手動スイッチなどを組み付けてマウント部内の絞り連動ユニットを完成させます。

これらの構成パーツは単独で動いても意味が無く、それぞれが密接に連携して各構成パーツが適正に駆動するような仕組みになっています。

完成したマウント部をマウント側から写しました。

「自動/手動切替スイッチ」は絞り連動ピンの動きと共に「自動絞り」と「手動絞り (実絞り)」とを切り替えるスイッチですが、内部ではペアリングを使ってクリック感を出しています。その鋼球ボールに適度なチカラを与えているのが・・何と「板バネ」なんですね。

この特異な形状をした板バネによる制御方法も「富岡光学製」モデルだけに見られる考え方です。写真の一番奥部分に鋼の小さな「板バネ」がセットされています。その膨らみのある部分のチカラがクリック感となって「カチッ」とスイッチの切替になっているワケです。

前述のヤシカ製レンズでも一部のモデルで採用されている考え方とパーツです。

絞り環をセットして調整をしておきます。

光学系前群を組み上げます。と言っても実際にはほとんどが貼り合わせレンズなので簡単です。開放F値が「1.2」ですから大玉のレンズです。

下の写真は光学系後群なのですが、こちらも貼り合わせレンズであり1つの大きなガラスの「塊」でしかありません。

この光学系後群内のレンズには入射光の屈折率を高めて最大限に収差の補正を行うために「酸化トリウム」を含有しています。経年劣化により硝子材自体が茶褐色色に変色してしまうレンズの「黄変化」が生じていますね。

こちらは同じ光学系後群をUV光の照射により「黄変化」をほぼ無色に近い状態まで改善した後の写真です。

デジカメ一眼での使用ならば「オートホワイトバランス (AWB)」の設定で色合いがアンバー寄りに偏ってしまうことは回避できますが、入射光としては影響を受けたままですから写真としてはコントラストに影響が出てしまいます。ですから「黄変化」が生じているよりはない方がありがたいですね。

光学系後群もたった1つのとても大きなガラスの塊ですがキレイになりました。

このモデルは、光学系後群が当時のフィルムカメラ内のミラーに干渉するために、特異な形状に切削加工を施して生産していました。

誰かが削ってしまったワケではありませんね(笑)(たま〜にそのように勘違いしていらっしゃる方が居るので・・)

しかも、このようにレンズを収納している鏡筒の厚み分だけの硝子材を横からワザワザ入れ込んで貼り合わせレンズとしての後群に経年使用で「誤差」が出ないようキチッと配慮されています。すごいですねぇ〜。

これは家具などでも使われている手法ですが、製品化されても家具の木部は生きていますから、その狂いを失くすためにクサビを打ち込んだりします。拡大してみましょう。

単に削っただけではないのですね・・ものすごい「拘り」の証ではないでしょうか!

鏡筒やヘリコイドとマウント部をすべて組み付けて後は距離環をセットして無限遠調整と光軸確認をすれば完成間近です。

ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

市場でもなかなか入手できない「TOMIOKA」銘がレンズ銘板に刻印された稀少なプレミアムレンズです。

完璧なオーバーホールにより、しかもレンズの黄変化を改善した上で出品します。滅多にないチャンスですよ!

光学系内もカビも無くキレイです。

絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真です。経年の使用感が極僅かにありますが (一部着色済) 年代のワリにはとてもキレイな状態を維持した個体です。

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距離環も絞り環も共に大変滑らかな操作性になりました。距離環には内部パーツに真鍮材が使われているためにヘリコイドグリスは考慮して入れています。急激に距離環を回したりすると重く感じますが (普通にゆっくり回転させれば重く感じません) ピント合わせ時にはほんの僅かなチカラでも軽く動くようにしてあります。ピント合わせが硬いと大変ですからねぇ〜。

光学系後群もカビも無くキレイになりました。

光学系は順光にて目視できるレベルでは、前玉にはコーティングスポットが1点と極微細な拭きキズ、また前群後群共にレンズ内は貼り合わせレンズなので、その貼り合わせ時に混入したと思われる極微細な塵が数点視認できます。また後群にはコーティングスポット1点があります。LED光照射にてようやく視認できるレベルの極微細な拭きキズや汚れはありますが、それらすべて写真への影響はありませんでした。

凡そ光学系内は経年のバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤が経年劣化で剥離し始めて白濁化している状態) やカビの発生も無く、とてもクリアな状態を維持した個体です。

当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放による実写です。開放ですとさすがに被写界深度が狭くなりエッジにハロが生じるのでソフトな描写になりますが、数段絞って「F値2」辺りからは鋭いピント面を構成してくれます。

当方のカメラボディに適合するEマウント用のマウントアダプタを調達し忘れており、仕方なくマイクロフォーサーズの古いカメラに装着して実写しています。カメラが古いので少々色バランスが悪く解像度が低く撮れています。

後玉の突出があるため、デジカメ一眼でマウントアダプタ経由装着される場合には注意が必要です非ピン押しタイプのマウントアダプタをご使用下さいませ。絞り連動ピンを強制的に押し込む底面を有する一般的なM42マウントアダプタ (ピン押しタイプ) に装着すると最後までネジ込めずにご使用頂けません。