◎ Tokyo Kogaku (東京光学) Auto-Topcor 10cm/f2.8(R/exakta)
1957年に発売された東京光学のフィルムカメラ「Tocpon R」用システムとして用意されたレンズ群の中のひとつです。当モデルの中望遠レンズ「Auto-Topcor 10cm/f2.8」は、チャージレバーをマウント部直前に装備した「セミオート (半自動絞り)」方式のモデルでした。
鏡胴から伸びたアームにはシャッターボタンが用意されており、焦点距離別にシャッターボタンの飾り環にはカラーリングが施されています・・当レンズ焦点距離「10cm」は「イエロー色 (ゴールド色ではない)」で、他には5.8cm/f1.8が「シルバー色」3.5cm/f2.8は「グリーン色」です。
光学系は3群5枚の変形Sonnar型構成になります。オリジナルのゾナー型は第3群が両凸レンズですが、当モデルでは凹メニスカスに替えています。最短撮影距離1.2mで8枚の絞り羽根装備です。
絞り環の操作は「ロックボタン」が備わっており、押し込んでロック解除しなければどの絞り値にも設定を変えられない仕組みを採っています。自動プリセット絞り機構を装備しており・・絞り値を閉じていくと絞り羽根も閉じてしまうので、チャージレバーを端まで動かして開放状態にしてからシャッターボタンを押すと、設定した絞り値まで絞り羽根が自動的に閉じると言う「セミオート (半自動) 絞り」です。
今回の個体には当時の専用の化粧箱がそのまま附属していましたが、説明書などはありませんでした。また「exakta」のマウント用では珍しい金属製のアルミ材削り出し「後キャップ (非純正)」が附属しています。中には「MADE IN JAPAN for Tibbin Marketing Co., NEW YORK」とマジック書きがしてあり「テビン・マーケッティング株式会社 (日本製) ニューヨーク」との記載ですね・・当時のアメリカではレンズに自身の名前や番号などを刻み込んだりする習慣があったようです。
描写はSonnar型の光学系を持ちますから優秀な写りです。東京光学らしい線の細いエッジを伴う鋭いピント面を構成し、アウトフォーカス部はキレイで柔らかな階調豊かな滲みになります。Topcor (トプコール) レンズらしく「トブコールの赤」と言われている鮮やかな発色の赤味を表現します。メリハリの効いたコントラストと共に被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に優れ、距離感や空気感と言った立体的な表現が得意なモデルです。暖色に振れるほどではなく、どちらかと言うと寒色系のパキッとした緊張感を伴う印象を受ける画造りですね・・素晴らしいオールドレンズです。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み上げていく工程に入ります。焦点距離100mmですが、そのクラスとしてはコンパクトな筐体です。しかし中の構成パーツの部品点数はハンパではなく、非常に細々としたパーツの集合体でした。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。フィルター枠から一体のアルミ材削り出しによる大柄な鏡筒です。
8枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。この個体の絞り羽根には一部に打痕 (凹凸) や極微細な2mm長ほどの欠損も1枚ありましたが影響はありません。
この状態でひっくり返した写真です。絞りユニットの裏側にはこのような感じで絞り連動アームやプリセット絞り制御アームなどが飛び出ています。光学系後群用の格納環の周囲にグルッと大型なスプリングが用意されています。鏡胴に装備されているチャージレバーを端まで動かすと (チャージすると) スプリングのチカラが蓄えられ、シャッターボタン押し下げと同時に「スコンッ」と絞り羽根が閉じる仕組みですね。
スプリングは既に経年劣化で張力が失せてしまっておりスルスルと動く程度でしたので調整を施しています。
ヘリコイド (オス側) を組み付けます。上の写真で大きめなネジ山はヘリコイドの役目なのですが、その直上に位置している細かいネジ山が何も使われていないネジ山で「意味不明」です。どうやらヘリコイドを固定する「環 (輪っか)」が入るネジ山だったようですが、設計ミスだったのか内部で当たってしまうので、急きょネジ込み式ではない方式の固定環に変更した・・と言うのが実情かも知れません。この細かいネジ山にさらに被さるモノが存在すると、後でマウント部を組み付けた際にチャージレバーの機構部と当たってしまい鏡筒を組み込むことができませんから・・(笑)
こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目の「板状の突起」が両サイドに2本一体の削り出しで用意されています。なかなか手の込んだ基台です。
上の写真は距離環 (写真右奥) に対して「入れ子式」で重ねて組み付ける「距離指標値環」と「指標値環」です。これらの2つま輪っかを先に距離環に入れ込んで、そのまま距離環をネジ込まなければ後から付けることができません。
距離環と指標値環2本一式を基台にネジ込んだ状態の写真です (入れ子なので距離環用指標値環が内側にスッポリ収まっています)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が一切用意されていないので、この時点でキッチリ無限遠位置のアタリを付けておかなければ、最後にいちいちバラしての組み直し作業に陥り大変面倒です。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で9箇所のネジ込み位置があるので、ここも同様キッチリアタリを付けないとイケマセン。2本の入れ子式の指標値環は、この時点ではまだセットできません。マウント部を組み付けてからの最後の工程になります
これで鏡胴の「前部」は完成したので、次はマウント部の組み上げに移ります。
上の写真はマウント部内部のすべてのパーツを外した状態の写真で、既に当方による「磨き研磨」が終わっています。このチャージレバーやシャッターボタンを装備したオールドレンズは、非常に細かい連動・連係機構が採られており、普通ここまでバラしてしまうのは躊躇するかと思います・・しかし、今回は経年の劣化が進んでおり各部の連係動作が「とても緩慢」だったので、覚悟してすべてをバラしました。
各連動系・連係系のパーツを組み付け、チャージレバーの機構部をセットして絞り環も組み付けてあります。シャッターボタンの内部も相当面倒な構造になっていますが、すべてバラして清掃し「磨き研磨」を施しました。結果、各部はとても小気味良くシャキシャキと駆動するように蘇りました。
この個体は既に過去に一度メンテナンスされており、このマウント部の内部はグリースでグチョグチョに塗ったくられていたため、一部が腐食したりサビが出ていたりで相当な経年劣化が進んでいました。せっかくのexaktaマウントのこのギミックな感じが台無しです・・すべて改善され確実に駆動していますから、是非お愉しみ下さいませ。
マウント部の内部はこんな感じで、プリセット絞り機構部のパーツやチャージレバーの仕組み、或いはシャッターボタンとの連動系など、三つどもえのパーツでギッシリと埋め尽くされています。
この後はこの完成したマウント部を、先の鏡胴「前部」にセットして、入れ子にしてあった2本の指標値環を適正位置で固定し、光学系前後群を組み付ければ完成間近です。
・・のハズでしたが、実はそれらの作業をしていく中で、様々な箇所との連動や連係が上手く行かず、何度も調整をするハメに陥り写真撮影をスッカリ失念してしまいました(笑)
例えば、チャージレバーとの連係を調整すれば、絞り環操作が重くなり、絞り環操作を軽くしたら今度はシャッターボタンと連動してくれない・・などなどです。次から次へと問題が生じ、あっちを調整すればこっがダメ、こっちが良くなればまた別がダメと・・非常に神経質な構造であることが分かりました。正直、このモデルはもう二度と扱いたくないですね。今回は懲りてしまいました。
その意味では、このシリーズのモデルとしては、今回はとても良く整備され確実な仕上がりになったと思います・・次回の扱い予定はありません。
光学系前後群を組み付けます。まずは光学系前群です。カビ除去痕があるために極微細な点キズやコーティングスポットも数点あります。しかし、それほど悪い状態ではなく、カビの発生にしてはむしろクリアな状態を維持した個体です。
上の写真 (3枚) は光学系前群のキズの状態を拡大撮影した写真です。1枚目はカビ除去痕としてのコーティングスポットを撮影しています。レンズが薄く白っぽくなっているのは光に反射させてコーティングスポットを分かり易くさせているためですので、現物は大変クリアです。2枚目は極微細な点キズの状態を撮りました、3枚目は中央上に極微細な薄いヘアラインキズが数本あるのですが、微細すぎて写りませんでした。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:12点、目立つ点キズ:6点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:10点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:前後群共に薄い極微細なヘアラインキズが2〜3本あります。前後群内には極僅かなコーティングスポットが数点あります。
・その他:バルサム切れなし。後玉に「気泡」1点あります。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
上の写真 (3枚) は後玉のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目〜2枚目は極微細な点キズの状態を撮りました。3枚目は唯一存在する「気泡」1点を撮っています。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣 化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。
絞り環操作時にはこのロックボタン (写真中央のシルバー色丸頭のボタン) を押し込んでロック解除をしながら (押し込んだまま) 設定絞り値に変更するやり方です。
こちらはチャージレバーです。絞り環操作で絞り羽根が閉じてきますので、このチャージレバーを端までスライドさせて絞り羽根を一旦開放にします。
ミラーレス一眼でexaktaのマウントアダプタ経由装着される場合には、手動絞りですからこのチャージレバーをスライドさせてしまうと「開放」になったままで絞り羽根が閉じませんから、チャージレバーの意味は無くなり単なる「お飾り」です。
シャッターボタンを押し下げると同時にマウント部内部でチャージレバーの解除機構が働くので、上の白色矢印部分のパーツが勝手にスライドしますが、これは当方の作業時に於ける「固定忘れ」でも何でもなく「正常」です。以前それを理由に (勝手に動いて気持ち悪い/出品ページに明示していない) 返品してきた方が居ますので、敢えてアナウンスしています。勘弁してほしいですね・・そういうのは。
鏡筒カバーのクロームメッキ部分も当方による「光沢研磨」を施しました。ピカピカにしてありますが、一部にはスレキズや汚れが残っています・・無傷ではありません。
この個体には金属製の後キャップ (非純正) が附属しています。写真のようなマジック手書きによる書き込みがあります。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。
一部ハガレがありますが、オリジナルの化粧箱とアルミ材削り出しによる金属製後キャップ (非純正) が附属しています。
カビ除去痕に拠る極微細な点キズやコーティングスポットなどが多少ありますが、光学系内、特に第2群の貼り合わせレンズにはバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) も進んでおらず、大変クリアな状態を維持した個体です。後玉に1点だけ「気泡」がありますが、写真への影響はありません。
絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。絞り羽根には数枚に打痕による凹凸や1枚には2mm幅の欠損もありましたが影響はありません。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感があまり感じられないとてもキレイな状態を維持した個体です。一部の擦れやキズなどは当方にて着していますが、使用しているうちに剥がれてきます。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を使用。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
内部の構成パーツは、ヘリコイドも含めてすべて当方にて「磨き研磨」を施しているので、ほぼ生産時の環境に近づいた状態に戻っています。また、使用したヘリコイドグリースは、距離環を回す際は「僅かに重め」なのにピント合わせをする時は「とても軽いチカラ」でスッと微妙なピント合わせができる (ピント合わせしていることを意識したチカラの入れ具合) ことを最優先した粘性を選択しています。すでに1,000本を越える本数の整備をして参りましたが、ヘリコイドグリースに纏わるクレームは数件レベル (まだ1桁) です。
数件だとしても、この「言葉じり」を引用してクレームを付けてくる人が居ますが、感覚的な要素なのでそのようなクレームはご勘弁下さい。何かしら適確に説明したいので「コトバ」で表現しているに過ぎませんから・・。
その意味では、使い倒すつもりならば整備する必要は無いでしょうし (スルスル回るのは既にグリースの限界が来て液化が始まっているからです)、少しでも長く使うならば整備したほうが良いコトになります (グリースを入れ替えるワケですから、トルクはそれなりに変化します)。その辺のリスクが分からない (気がつかない) 方が最近は多くなってきました・・当然ながら、当方のスキルレベルは低いですから、完璧な整備を望まれる方は「プロのカメラ店様/修理会社様」に整備をご依頼されるのが最善かと思います。ヤフオク! に出品しているオールドレンズの入札/落札も、このブログをご覧頂き「オールドレンズ/修理」のご依頼をされるのも、すべてスルーして頂くようお願い申し上げます。
それでもヤフオク! の当方評価に「非常に良い/良い」をお付け頂ける方がいらっしゃるのは、或いは「オーバーホール/修理」のご依頼を頂けるのは、市場に出回っているオールドレンズの状態を既にご存知だからです。問題なのは、このブログが検索でヒットして「オーバーホール/修理」のご依頼をされる方々の中で「認識」「感覚」が「プロのカメラ店様で販売しているオールドレンズしか知らない」と言う方々です。そのような方々からのご依頼では、トラブルになることが最近は多くなってきました・・ご勘弁下さいませ。何度も言いますが、当方の技術レベルは低いです・・。
あまり出回らないモデルですが、ミラーレス一眼にexaktaマウントアダプタ経由装着される場合には、鏡胴から伸びているアームのシャッターボタンやチャージレバーなどは、単なる「お飾り」にしか過ぎません (使いません)。しかし、そのギミック感を愉しむのもexaktaマウントのオールドレンズとしては、ひとつの魅力です。
光学系後群もキレイになりクリアになりました。光学系前後群は、カビ除去痕としての極微細な点キズなどが僅かにありますが、総じて状態の良い個体です。
当レンズによる最短撮影距離1.2m附近での開放実写です。細い線のエッジを伴う鋭いピント面ですが、繊細感だけに終わるのではないコントラストのあるメリハリ感と相まって、ボケ味も柔らかくシッカリした端正な画造りです。