◎ YASHICA (ヤシカ) AUTO YASHINON 5cm/f2 black(M42)
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現在出品しているオールドレンズが少ないままなので再び補充の意味での出品です。完全解体でキッチリ仕上げると1日に数本仕上げることは不可能なのでなかなか本数が増えません。
1961年に発売されたフィルムカメラ「PENTA-J3」用のセット用レンズとして用意された標準レンズです。市場でよく出回っているのはこのモデルの「シルバー」タイプのほうでブラック&梨地シルバーのツートーンになりますが、今回出品するタイプは生産数が少なかったのかあまり見かけないブラックモデルです。よく見ると距離環ローレットの意匠がシルバーモデルとは異なっています。
このモデルの原型は富岡光学の「TOMINON C. 5cm/f2」になり富岡光学製のOEMモデルです。また旭光学工業の「Auto-Takumar 55mm/f1.8 zebra」も同じく富岡光学製のOEMモデルで焦点距離の相違や距離環の回転方向が異なるなどの相違点があるものの内部の構造化は構成パーツも含めて全く同一であり富岡光学製であることは疑いようがありません。
光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型で原型の「TOMINON C. 5cm/f2」とも同一です。描写性は富岡光学製オールドレンズにしては珍しく意外とピント面のエッジは太めです。しかし画全体の印象は「繊細」に感じる独特な画造りです。「富岡光学の赤色」の発色性もそのまま受け継がれており、もちろん被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力の素晴らしさは特筆モノです。「半自動絞り」方式を採ったモデルなので (フィルムカメラで使うには) 扱いにくさがありますがこのモデルを見つけるとついつい整備してしまいます。
前玉側に絞り環を配しており絞り環を回すとそのまま絞り羽根が閉じてしまいます。設定絞り値にした後マウント側に用意されている「チャージレバー」を引き回して絞り羽根を一旦開放にしピント合わせを行い、フィルムカメラのシャッターボタンが押し込まれると設定絞り値まで自動的に絞り羽根が閉じる仕組み・・半自動絞りです。
そもそもデジカメ一眼やミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する場合には「手動絞り (実絞り)」になりそのまま設定絞り値で絞り羽根が閉じてしまいますから「チャージレバー」自体は何の意味も成さなくなりイミテーション的な存在になりますがギミック感を愉しむのもオールドレンズのひとつの魅力です。
なお、マウントアダプタに装着する場合、使うマウントアダプタは「非ピン押しタイプ (絞り連動ピン押し込み底面を有さないタイプ)」に装着しなければなりません。理由は絞り連動ピンの長さが長いためにピン押し底面を有する「ピン押しタイプ」のマウントアダプタにネジ込んでしまうと絞り連動ピンが途中で当たってしまい最後までネジ込めなくなるからです・・当然ながらその場合無限遠が出ません (合焦しません)。また内部の構造的な問題もあります。絞り連動ピンが押し込まれる際の必要以上のチカラを逃がす設計がまだ成されていない頃のモデルなので「ピン押しタイプ」のマウントアダプタにネジ込むと絞り連動ピンが必要以上に押し込まれてヘリコイド (オス側) の底に当たってしまい距離環自体も回らなくなります。ムリにそれを繰り返すと距離環のトルクムラを生じます。無限遠位置の調整機能が全く装備されていないのでオリジナルの無限遠位置で組み上げるしか手が無く「ピン押しタイプ」のマウントアダプタに装着することを前提とした改善処置が施せません。この当時のオールドレンズにはそのような問題点を抱えているモデルがありますから注意が必要です。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するモデルなのでヘリコイド (オス側) は独立しており鏡胴「後部」側に内包されています。
この状態で鏡筒を立てて撮影しました。クリック感を伴う絞り環をセットしていきます。上の写真で「溝」がある部分は絞り環の絞り指標値に対応した鋼球ボールがカチカチと填り込む溝 (キー) です。
鋼球ボール+マイクロ・スプリングを組み付けてから絞り環をセットし同時に「絞り羽根開閉アーム」を組み付けます。この特大サイズの真鍮製アームがチャージレバーと連係して引き回され絞り羽根を一旦開放にしてくれます。フィルムカメラのシャッターボタンが押し込まれるとこのアームのロックが外れ附随する特大のマイクロ・スプリングによって引っ張られセットした絞り値まで絞り羽根が閉じる仕組みですね・・マイクロ・スプリングは鏡筒の周りをグルッと回っています。
真鍮製のアームがダイレクトに絞りユニット内の「絞り羽根制御環」に固定されているので、絞り羽根の駆動が確実かどうかは「磨き研磨」の仕上がりに架かっています。当初バラした直後には真鍮製の構成パーツに経年劣化に拠る腐食が生じており、その必要外の摩擦で絞り羽根は緩慢な動きになっていました。半自動絞りのこの当時のモデルをバラしていると、過去のメンテナンス時のこのような場合に相応のスキルを持っている人はマイクロ・スプリングを短く切ってしまい強制的にアームを引っ張るチカラを増大させたりしています。しかしそれはあくまでも「ごまかし」であり本来は必要外の摩擦を取り除いてあげれば小気味良く駆動する絞り羽根が戻りオリジナルの状態を維持させることができます。マイクロ・スプリングを切って短くするのはその時点では改善させたような動き方をしますが、強制的に収縮力を強くされてしまったマイクロ・スプリングはさらに劣化が進みすぐに緩んでしまいます・・結果製品寿命に近づいてしまうことになります。マイクロ・スプリングを短くしても問題ない場合もありますがそれは最後の手段と考え「磨き研磨」でまずは改善効果を試します。
光学系前後群を組み付けて鏡胴「前部」を完成させます。次は鏡胴の「後部」の組み上げに移ります。
写真撮影を忘れてしまいましたがマウント部内部もすべてのパーツを取り外して「磨き研磨」を施します。上の写真は絞り連動ピンの機構部を組み付けた後に撮影したものです。絞り連動ピン自体の長さも長いのですがさらに絞り連動ピンを戻しているチカラはこのような「銅板の板バネ」を使っているワケです。この板バネも経年劣化で必要なチカラを及ぼさない状態になっていることがあるのでここでキッチリ適正な反発力に戻します。
チャージレバーを引き戻す仕組みが上の写真の「環 (輪っか)」なのですがコの字型の環の中に長いマイクロ・スプリングが格納されます。
マウント内部の外壁に沿ったカタチで環がセットされチャージレバーのツマミを取り付けて機構部が完成します。もちろん「磨き研磨」によりとてもスムーズなチャージと戻りができています (当初バラす前の段階では非常に緩慢でした)。チャージレバーを引いて絞り連動ピンを押し込んだ後のツマミの戻りを見ているだけで楽しくなってギミック感をタップリと遊んでしまいます(笑)
真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。このモデルの場合は無限遠位置の対応するネジ山のネジ込み位置は一つしか存在しないので無限遠位置の調整ができません。
距離環を適正な場所に固定します。このモデルは距離環も無限遠位置を調整する機能を装備していないので、要するにキッチリ適合させたネジ込み位置でヘリコイドを組み上げなければ最後に全く無限遠が出ない (合焦しない) 個体になってしまうと言うワケです。この当時のモデル (半自動絞りモデル) に多い宿命です。この後は鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
市場にはあまり出回らないブラックタイプの「AUTO YASHINON 5cm/f2」です。富岡光学製オールドレンズの特徴を上手く凝縮したような画造りのモデルですね・・。
光学系内は清掃の他にカビ除去のためにコーティング層表層面に対する手作業による「ガラス研磨」を施したので大変クリアになりました。
上の写真は光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。前玉や第2群に極僅かなカビ除去痕が汚れ状、或いはコーティングムラ状に残っているのですが他の極微細な点キズと共にあまりにも微細すぎて写真では写せませんでした。
光学系後群も特に後玉にカビが生じていたのでカビを除去しています。
上の写真は光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。極僅かに微細な点キズが残っていますが上の写真で白っぽく移っている箇所はスタジオのライトの写り込みですので現物にはありません。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:11点、目立つ点キズ:7点
後群内:13点、目立つ点キズ:9点
コーティング層の経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
LED光照射時の汚れ/クモリ:あり
LED光照射時の極微細なキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。前玉中央から少し外周寄りに汚れ状に見えるカビ除去痕あります。コーティングのムラ状に見える経年劣化部分もありますが写真への影響にはなりません。光学系内の極微細な点状は極微細な点キズ等であり塵や埃の混入ではありません。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズや汚れ、クモリなどもあります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。チャージレバーとの連係動作も小気味良く正常です。絞り環のクリック感は少々硬めですがこのモデルの構造なので仕方ありません (クリックがハッキリしている感じです)。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かに感じられますが当方の判定では「美品」としています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜軽め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・デジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する場合は「非ピン押しタイプ」のマウントアダプタをご使用ください。ピン押しタイプの場合は絞り連動ピンが長い為に当たってしまい最後までネジ込めず無限遠が出ません (この当時の日本製半自動絞りのモデルはすべて同一です)。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
完璧なオーバーホールが完了していますのでお探しの方は是非ともご検討下さいませ。開放f値「f2.0」のモデルですがその描写性はなかなか侮れず、いまだにファンが多いモデルのひとつです。
当レンズによる最短撮影距離55cm附近での開放実写です。この立体的な写りが素晴らしいですね・・。