◎ Tanaka Kogaku (田中光学) TANAR 5cm/f1.8 (two-tone)(L39)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、国産は
田中光学製標準レンズ・・・・、
TANAR 5cm/f1.8 (two-tone) (L39)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

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【 事 後 談 】
今回扱ったオールドレンズを仕上げてからマウントアダプタに装着しての無限遠位置確認で、中国製K&F CONCEPT製マウントアダプタに装着で無限遠合焦していながら、日本製Rayqual製マウントアダプタに付け替え確認したところアンダーインフ状態だった点について、ご依頼者様から「ライカ M11」をお借りして確認する事ができました、ありがとう御座います!

まさか生きている間にライカカメラを手にできるとは全く以て想定していなかったので、思わず手が震えてしまいそうです!(怖)

結論から申し上げると、何と日本製Rayqual製マウントアダプタ「LM → SαE マウントアダプタ」に装着するとアンダーインフなのが判明してしまいました・・このマウントアダプタ、高かったんですが(泣)

前回の整備時に、まさか中国製K&F CONCEPT製マウントアダプタのほうが適正だとは想定していなかったので、Rayqual製マウントアダプタで無限遠位置を微調整して最終的にご依頼者様にお届けしたのです(泣)

そしたら「当初依頼する前よりアンダーインフが酷い」との事で、汗だくです!(汗)

今回ライカカメラを拝借したので確認してみると、K&F CONCEPT製のほうがまだマシで適切な範囲内でしたが (僅かにオーバーインフ状態)Rayqual製は完璧にアンダーインフでした
(凡そ0.5目盛り分のアンダーインフ)
・・従って、もう整備では使えませんね(涙)

アンダーインフなので距離環の刻印距離指標値「」から凡そ0.5目盛り分先まで回らないと無限遠合焦しないと言う意味になります (オーバーインフの場合は∞刻印手前位置で無限遠合焦する事を指す)。従って「」刻印位置で付き当て停止してしまうので (カツンという音が聞こえて止まってしまうので) 無限遠合焦するにはピント面の鋭さが極僅かに足りていない状態を意味し、僅かにピンボケ状態になるのが「アンダーインフ」です(泣)

たまたまこの個体 (マウントアダプタ) が製品のバラツキとしてハズレだったのかも知れませんが、高価なマウントアダプタだけに悲しい現実です(涙) ライカカメラで無限遠位置をキッチリ合わせてご返送する次第です(泣)・・申し訳ございませんでした!

またもう一つRayqual製マウントアダプタを購入しなければ・・トホホ(涙)

ちなみにこれらの話は「距離計連動ヘリコイド」に於ける無限遠位置の問題なので、距離計
連動機構を装備していないデジタル一眼カメラ/ミラーレス一眼カメラなどにマウントアダプタ経由装着する場合は、全く関係ない話です・・但し「オーバーインフ/アンダーインフ」の概念だけは、全てのオールドレンズとカメラとの関係性に於いて必ず憑き纏う話なのでシッカリ
覚えておく必要があります。

この「オーバーインフ/アンダーインフ」を真逆に覚えている人が居ますが、意思疎通が適わなくなるので要注意です。このコトバの捉え方は、どちらかと言うと欧米圏の写真家が考案した概念なので基準とするべきは現実に実写で無限遠合焦する位置です (オールドレンズ側の
∞刻印が基準ではありません
)。

その位置を基準とした時に、オールドレンズ側距離環の刻印距離指標値で「」刻印が何処に居るのか・・で「オーバーインフ/アンダーインフ」と認識します。

現実の実写確認で無限遠合焦する位置より「さらに回した先に∞刻印が居る=オーバーインフ (Infinityが無限遠合焦位置からoverしているから)」であり、逆に「∞刻印位置に到達しても未だ無限遠合焦しない=アンダーインフ (Infinityが足りていない/underだから)」ですね(笑)
※Infinity:無限遠を指す英単語

アンダーインフ
無限遠合焦しない状態を指し、距離環距離指標値の∞位置に到達するまで一度も無限遠合焦せず、且つ∞位置でも相変わらず無限遠合焦していない状態を現す。一度も無限遠合焦しないので遠景写真が全てピンボケになる。

オーバーインフ
距離環距離指標値の∞刻印に到達する前の時点で一度無限遠合焦し、その位置から再び∞刻印に向かうにつれてボケ始める状態を指す。一度は無限遠合焦しているのでその位置で撮影すれば遠景のピントがちゃんと合焦している。

なお余談ですが(笑)「」刻印の事を「無限大」と呼称するのは「光学関係の話の中では適切ではない」ので間違わないようにしましょう(笑)・・よく「無限大」と述べている人が居ますが
そもそも「無限大或いは無限小」は数学関係の話で「数値がとる状態を表すコトバ」なので、例えば「無限大どんな正数よりも限りなく大きい (状態に向かっている) 数値のこと」であり、逆の状態「無限小限りなく小さいこと (小さい状態に向かっている) 数値のこと」です
・・数学では「無限大/無限小」の2つの方向性を数値に対して捉えられますが、光学関係の話の中では「無限遠被写体の位置が限りなく遠方に位置すること」しか概念が存在しないので
数学的な「無限大/無限小」とは一致しません (限りなく小さくどんどん見えてしまう人は居ないと一応信じてます)(笑)

さらに「パンフォーカス」と言うコトバも光学関係の話で現れます・・「パンフォーカス」は和製英語なので、ラテン語/英語にムリヤリ翻訳するなら「Pan Focus」辺りかも知れません
が、被写体に関係なく「写真の画の中すべてにピントが合っているように見える状態」を指し一方「無限遠 (合焦)」はピント合焦している状態の位置で最も遠方を指します。

従って「被写界深度」と言うコトバとの関係性を考えた時、被写体とそのアウトフォーカス部のボケ具合との関係性から「前方被写界深度」と「後方被写界深度」の2つが必ず存在し「後方被写界深度」が任意距離から以降全てにピント合焦してしまう時「」の状態と言います。よく「被写界深度が浅い/狭い」などと表現する場合、被写体のピント面に対して「前方と後方の合焦領域が広いのか狭いのか/浅いのか深いのか」を表し、詰る処「ボケ始める場所の対語的なニュアンス」と捉えると分かり易いかも知れませんね(笑)・・すると前述の「パンフォーカス」に写真を撮りたいなら「前方被写界深度と後方被写界深度の距離範囲内で画角が入っていればパンフォーカス撮影に至る」次第です。

お勧めサイト:URL=https://keisan.casio.jp/exec/system/1378344145

このブログでのオーバーホール解説で、必ず最後にミニスタジオで「お城の模型とミニカー」を被写体としてチェックしている掲載写真も「被写界深度の状況を各絞り値から確認している
要はボケ具合の確認」であり、決して「前ボケ/後ボケ」で撮っているワケではありません (批判してくる人が居ますが)(笑)

各絞り値でどのくらい被写体に対して、そのアウトフォーカス部のボケ量が増減するのかの「その違いをオールドレンズの個性 (描写性能) として捉える手法で掲載している」ワケで、そこにその対象とするオールドレンズの「画質の良し悪し」を担保していません (ボケ量や収差の程度を画質の善し悪しとして捉える考え方が一切ない:当方のポリシ~)・・そういうボケ量や収差の程度も「オールドレンズの魅力/愉しみ」と認識しているからです(笑)

従って当方はネット上で解説されている「低画質なオールドレンズ」とか「高画質なモデル」との表現に・・右往左往せず(笑)、どんな画質だろうが写り方だろうが、ジャジャ馬であってもクセ玉てあっても「み~んな仲良く楽しい/楽しめるオールドレンズ達」と受け止め、必ず
どんなオールドレンズもそれを魅力/惹かれるとして捉えられるファンの人が居るとの立場です (低画質などと宣うのは以ての外)(笑)・・中には、そのオールドレンズに父親や祖父の背中を (母親や祖母かも知れませんが)、影を、いまだに追っている人達だって居るハズなので、それを貶めるような「決めつけ」たる言行は人としてしたくないですね(泣)

むしろ、そんなに高画質一辺倒を宣うなら「今ドキのデジタルなレンズ」であ~だこ~だ言えば良いのであって(笑)、何十年も前に設計されたオールドレンズ相手に優劣を自慢気に宣言してしまうのは・・気が引けます (Planar一強なのはよく分かってますョ、ハイ!)(涙)

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今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で捉えても今回の扱いが初めてです。

このモデルを今回初めて扱ったものの、ネット上で「不思議な描写をする」とその収差の酷さやフレアの多さ故に酷評を得ているクワセモノのように語られている印象です(泣)

しかし今回オーバーホールしてみると、確かに当初バラす前の実写確認段階はそのような酷評も的を射ていたように感じたものの、オーバーホール工程の途中や仕上がり後の実写確認をするに、とても端正な写りをしているように感じ、その傾向は田中光学の他のモデルと似たような印象を抱きました・・つまり、そんな酷評を得るようなモデルではないと思うのですが、よく分かりません。

ただ今回のオーバーホールで一つだけ「もしかしたら???」とその因果関係を感じたところがあります・・「光学硝子レンズの格納の仕方」・・です。今回の個体もそうでしたが、当初バラす前の実写時点でご依頼者様からご指摘頂いていた「アンダーインフ状態ではないか?」について、まさにその兆候を感じた上に、さらにプラスして「偏心」の傾向もにわかに感じ取りました。

厳密に計測できる検査設備で調べたワケではなく(汗)、単なる自身の感想に過ぎないのでその信憑性は皆無です(笑) しかし、実際にオーバーホール工程を進める中で、いつもの事ですが「光学硝子レンズの格納筒内壁を反射防止黒色塗料で塗りまくる癖」という、当方が「過去メンテナンス時の整備者の自己満足大会」と呼んでいる所為です。

当初バラす前の実写確認時に「偏心」の兆候を感じていたので、実際に光学系を取り出していく際には「偏心の因果関係になり得る光学硝子レンズの格納状況」をシッカリ確認しつつ取り出していきました。このモデルの光学系は典型的な3群6枚のゾナー型構成なので、光学硝子レンズの塊は僅か3つしかありません(笑)

すると、先ず光学系第1群前玉を取り出す際、やはり固着が酷く普通に取り出す事は適わず、仕方なく「加熱処置」するもののそれでもダメ(涙)・・と言う状況でした。但し「偏心」の兆候を調べる明確な与件は見出せていません。

次に第2群は普通に取り出せ、且つ「偏心」の兆候も確認できていません。ところが最後の第3群で発見しました。第3群は2枚の光学硝子レンズが接着された貼り合わせレンズですが、絞りユニット側方向から締付環で締め付け固定されているものの、その締め付けられていた締付環に「極僅かな隙間を発見」したのです(泣)・・締付環なので環/リング/輪っかですが全周で内側をチェックしていくと、ちゃんとピタリと光学硝子面に密着している箇所と「ほんの微かに隙間が空いているように見える箇所」があり、たまたまそこに繊維状の埃が入り込んでいたのを見つけたのです。

つまり「格納筒の中で光学硝子レンズが垂直状にちゃんと格納されておらず、極僅かに斜めッていた」次第です(涙)・・隙間と言っても「厚さ0.2㎜」程度の薄紙が何とか少し入る程度の隙間なので、パッと見では全く分かりません。今回は「偏心」の兆候を事前に感じ取っていたので、注意深くバラしていたったからこそ発見できただけの話です。

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す

バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態

ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態

フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く

偏心
光学系内で上下左右で同じように収差の影響が現れない傾いた入射光の収束状態を指す

迷光
光学系内で必要外の反射により適正な入射光に対して悪影響を及ぼす乱れた反射光

コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない

ハレーション
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す

フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す

上記説明のように、光学硝子レンズの格納が正しく垂直状にシッカリと格納できていなかった場合に「光軸ズレ/偏心/バルサム切れ」の因果関係に及ぶ事が多く、今まで12年間扱ってきた3千本を越すオールドレンズの個体の中で相当数を現実に処置しています。

光軸ズレ/偏心」は連想できるものの、光学硝子レンズを格納する際に垂直状に格納できていなかった場合に「バルサム切れ」に繋がる点は、残念ながらなかなか認識されません(泣)

光学硝子レンズが格納筒の中で垂直状を維持していないまま格納されてしまい、且つ締付環でギッチギチに硬締めされていた場合、格納された光学硝子レンズには「極僅かに斜めって格納している分、上下左右からの圧が常に加わっている中で経年を過ぎていく」事をちゃんと認識しなければイケマセン。

光学硝子レンズを精製する際は、その「熱伝導性」を相応に低減/排除する成分と配合で設計されるのでしょうが、現実的な話で実装している光学硝子レンズが経年で破壊に至る時「最大の天敵圧力」なのです(怖)・・熱の変動で厳冬と盛夏の温度差も大きな懸念だと考える方が多いですが (例えばよく指摘されるシ〜ンに夏日の中で車のダッシュボード放置など)、実は光学硝子レンズの精製時で、例えば石英ガラスの場合は1,400°Cでも耐えられます (但し石英硝子の成形可能推奨範囲は800°C以下) 。その軟化点は1,700°Cです(驚) もっと言うなら一般的に精製光学硝子レンズの試験範囲は20〜300°Cで検査され、その下限もマイナス
30°Cから下のようです。

すると前述の例で言う真夏日の車内ダッシュボード上の温度は、場合によっては70〜80°Cまで上がるものの実装している光学硝子レンズの耐熱性は全く問題外の話です(笑) 逆に厳冬時はどうかと言えば、例えば真冬の標高3,000m辺りでの山小屋内最低温度帯は、マイナス
20〜30°Cくらいではないでしょうか (検査下限がマイナス30°C以下なので許容内)。

ところが光学硝子レンズを格納する役目の格納筒のほうは金属材なので話が変わります。気温による変化で熱膨張も起きるので光学系内の気圧変化は当然ながら懸念が残りますし、何よりも「光学硝子材に架かるチカラの変化」は冬と夏場では変わると想定できます。

話が長くなりましたが、これらの考察から「光学硝子レンズが正しく垂直状に格納されていない場合」には、その光学硝子レンズに架かる圧力は増大するものと推測でき、特に2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着している貼り合わせレンズに於いては「その接着剤たるバルサム剤はそれら圧力には耐えられない」事から剥離が始まるのは容易に想像できます。或いは貼り合わせレンズ以外の光学硝子レンズに於いても、その圧力による経年劣化に伴う破壊の危険性はどんどん上がっていくと考えられます(怖)

従って、皆さんがご指摘なさるような厳冬時や盛夏の耐熱性よりも「光学硝子レンズが正しく垂直状に格納されていない場合に架かる圧力」のほうが、その経年による耐性を考えれば最も怖い状況であり、当然ながら「描写性能にも大きく瑕疵を及ぼす」点も決して蔑ろにできない問題ではないかと強く言いたいですね(笑)

・・過去メンテナンス時の執拗な反射防止黒色塗料着色がどれだけ懸念材料なのか???

ご理解頂けたでしょうか???(笑) 特に今回の個体に関しては光学系第3群の2枚貼り合わせレンズに極僅かな斜め状が確認できたので、それが「偏心」の描写として現れていたように感じ取っています (もちろんオーバーホール完了後の実写確認で偏心の改善をチェック済)(涙)

その意味で、敢えてモノ申すなら(笑)、ネット上で酷評されている個体のその描写性は、もしかしたら光学硝子レンズの格納に大きな瑕疵が残っているのかも知れません(涙)・・少なくともそれらネット上にアップされている掲載写真の執拗に纏わり付くハロや異常な収差を見るにつけ、普段オーバーホール作業をしている当方から見ると「光軸ズレ/偏心/光路長の過不足」の因果関係がチラホラ見えてきます(泣)

確かに光学系内の「迷光」に起因してフレア気味に至ったりする事はあるので一概に指摘できませんが、そうは言っても当方では「白色系グリースの塗布」と「反射防止黒色塗料の着色」に関しては「全てが懸念材料にしか成り得ない」との考え方に凝り固まっています(笑)

但しそうは言っても光学系内で発生してしまうフレアの影響が残ってしまう事も充分リアルなので、必要がある時はオーバーホール工程の中で当方も「反射防止黒色塗料」の着色を行います・・但し必要最低限ですし、何よりも「光軸ズレ/偏心/光路長の過不足」の因果関係になり得る箇所や部位には当然ながら一切着色しません(笑)

・・その意味で迷光で大騒ぎする人には当方のオーバーホールは全く以て向いていません(泣)

いわゆる「見てくれの良さ」にこだわって「反射防止黒色塗料」を塗りまくる事は行わず、合わせて前玉側方向も (つまりレンズ銘板近辺) 後玉側も (マウント部附近) も真っ黒に仕上げる事を別にヨシと捉えていないのです(笑)

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今回のモデルを扱う際いろいろ調べるにしても、その原初から辿るには相当な覚悟が必要なので、結局先の大戦に於けるドイツ敗戦からが当方にとってはスタート地点になります(笑)

ドイツ敗戦に伴う戦後賠償問題からドイツ特許権が剥奪された事が、戦後日本の光学製品発展にも大きく寄与したのではないかと捉えています。戦前から存在し戦中は積極的にドイツ陸軍に軍需供給され続けていた「Oskar Barnack (オスカー・パルナック)」氏の開発/設計に拠る「Leica II系/III系」いわゆる「バルナック型ライカ」登場により、それまで人の目で見た画角に最も近いとの受け取られ方から、戦前〜戦中主流だった標準レンズ域の焦点距離「40㎜45㎜」としたレンジファインダーカメラの中にあって、ライカが1930年以降世に送り出して瞬く間に地位を確実なものにしていった「Elmar 5cm/f3.5 collapsible (エルマー沈胴式)」など「50㎜/f3.5」という焦点距離を標準レンズ域と捉えたのが、後の時代に標準レンズ域の中心的な画角認識に至ったようです。その際、フィルム印画紙のサイズも「ライカ判24X36㎜フルサイズ」との捉え方が一般的になりました。

このような前提を踏まえた上で、今回のモデル登場の背景を探っていったワケですが、戦後すぐに国産として登場したこれらレンジファインダーカメラ「バルナックライカコピーモデル」を辿っていくと、意外にもたった一人の設計者の名前が様々に関与していたのではないかとの憶測に辿り着きます。

戦時中の1940年に東京本所で創設した「光学精機社」と言う光学工房が後のニッカカメラ株式会社の前身ですが (1948年に日本カメラ製作所/1949年ニッカカメラワークスに社名変更/1958年ヤシカに吸収合併)、そもそもCanonの前身たる「精機光学」の元社員7人と共に熊谷源治氏が1930年代に精機光学を退社した後に光学精機社に加わり、さらに1948年にはかつて神奈川県川崎市で創業した「田中光学株式会社」に移りました。

この田中光学にて熊谷源治氏の手により設計されたバルナック判ライカカメラのコピーモデルたるレンジファインダーカメラ「Tanack 35 (Tanack IIc)」が田中光学の最初のフィルムカメラになり1953年に発売しています (右写真はTanack IIc)。

その後、同年「Tanack IIIc」翌年「Tanack IIF、IIIF、IIIS」と続き1955年には「Tanack IV-S」を立て続けに発売し、1957年に
Tanack SD (右写真)」を発売した後、翌年「Tanack V3」発売が最後のモデルになり、1959年には倒産してしまいます。

 

その倒産する直前に開発されていたのが「Tanack VP」と言うモデルでしたが、極少数しか製産されないままだったようです。

ネット上の研究サイトをチェックすると、今回扱った標準レンズTANAR 5cm/f1.8 (two-tone) (L39)』は、この「Tanack VP」のセットレンズとして開発されたように受け取れます (右写真はTanack VP)。

或いはその発展系として用意された「Tanack V3」のほうがまだ市場での流通数は限られるものの目にする機会が多いので、こちらにセットされて登場していたのかも知れません (右写真はTanack V3)。

但しこの「Tanack V3」は専用のバヨネットマウントに変更されているようで、専用の「L39マウントからの変換リング」も用意されていたようです。

いろいろネット上で調べていくと、確かにCanonの前身たる「精機光学」を熊谷源治氏が退社した際に、一緒引き連れて退社した元社員7人含め、その後の各人が創設した会社から登場した、例えば「Melcon I (目黒光学工業)」などもNikonからレンズ供給されていたりします。最後に発売しようとしていた「Melcon II」がNikon S2と非常に近似した意匠を取り入れていた為にクレームが入り、ついにレンズ供給を止められてしまったようですが、そもそも田中光学の創設時からの経緯をみていくと、戦後1948年に創設したものの肝心な「光学硝子溶融解設備」はいったいいつのタイミングで用意できたのかが当方にとっては大きな謎です(泣)

何故なら、今まで扱ってきた数多くの田中光学製オールドレンズは「実装している光学硝子レンズの品質/仕上がりが既に完成の域に達している」としか考えられないレベルだからです。
会社を創設して僅か5年後には最初のレンジファインダーカメラを発売しますが、その時点で既に標準レンズも幾つか登場させています。それら実装している光学硝子レンズをすべて取り出してチェックしてみると、とても数年で仕上げられる光学設計とその製造品質ではないとしか考えられません。

あくまでも妄想の範疇を超えませんが(汗)、当方はこれら田中光学製オールドレンズの扱いから「実装の光学系は当時のNikonから供給を受けていた」と推測しています。他の元社員が創設した会社のほうではNikonからのオールドレンズ製品自体を供給されていたものの、熊谷源治氏が在籍していた頃の田中光学には、Nikonで精製した光学系が流されたのではないかとみています。

逆に言うなら、ネット上で誰一人言及しませんが「光学硝子溶融解設備の所有」については、1959年に倒産してしまう田中光学にいったいどのくらいの猶予があったのか、どう考えてもそれだけの資金を融通できたとは考えられません (溶融解設備は小規模ではないので/大規模なので本格的な工場設備がないと手に入れられないハズ)。例えば当時のチノンでさえ、一眼レフ (フィルム) カメラ向けの光学硝子溶融解設備を工場に設置できたのはやはり倒産間近の話で専らサウンド8㎜シネカメラ用の光学硝子溶融解設備しか1950年代後半には用意できていなかったようです (その為光学系の供給は専ら富岡光学からのOEM製産に頼っていた)。

・・なかなか謎の部分が多くて消化不良が拭えない状況のままです(泣)

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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

ネット上で実写をピックアップする為に探しましたが、上の4枚くらいしか良さそうなのが見つかりません(汗) しかしこれら実写を見る限りは纏わり付くハロも収差の酷さもそれほど違和感として感じないレベルに留まり、むしろ端正な写りにさえ見えてしまいます(笑)

光学系は典型的な3群6枚のゾナー型構成です。ネット上に掲載されている構成図から当方の手でトレースした光学系構成図が右図です。

この間隔で各群との空間を備えた標準レンズなら「相応に大振りな鏡筒サイズのモデル」ではないかとみています。

一方、こちらの右構成図が今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。

やはり鏡筒自体がそれほど大柄な設計ではないので、そこに格納されるわずか3つの光学硝子レンズは各群の間隔からしても、距離を空けられないとみています・・そもそも最短撮影距離が60cmなので、
後群側もそれほど離せないと考えます。ちなみに光学系第1群前玉と第2群の3枚貼り合わせレンズとは互いに接触していません (相互に極僅かな隙間が空いていて非接触です)。

↑上の写真は今回扱った個体から取り出した光学系の硝子レンズで、左端から第1群前玉に3枚貼り合わせレンズの第2群 (中央) と第3群の2枚貼り合わせレンズ (右) です (赤色文字)。

↑同じ位置のまま、今度はひっくり返して各群の裏面側を写真上方向に向けて撮影しています (赤色文字)。この写真を見れば一目瞭然ですが、ネット上で案内されている光学系構成図とは異なり「現物はリアルに第3群の外径サイズが大きい」のが分かると思います。

実際の計測値で言うなら、光学系第2群の3枚貼り合わせレンズは「最大外径25.32㎜」に対し、光学系第3群の2枚貼り合わせレンズは「最大外径24.19㎜」ですから、その差「僅か1.13㎜」しかなく (単に引き算しただけ)、とても最初の構成図の如く明らかに小振りな光学系第3群には (当方の目には) 映りません(笑)

当方がこのようにネット上に案内されている光学系構成図と異なる構成図を載せると「公然と平気でウソを拡散し続けている」と某有名処サイトのコメント欄で大勢を占めているようなので(涙)、ちゃんといちいち「証拠写真」を載せないとイケナイらしいです(笑)

第一、第3群の2枚貼り合わせレンズの裏面側は、ネット上で案内されている光学系構成図を見ると「緩やかな凸レンズ」ですが、今回の個体から取り出した第3群貼り合わせレンズの裏面は「僅か0.1㎜の凹メニスカス」だったので (上の写真を見れば凹んでいるのが分かりますが)、何だか違うように当方には映るのです・・そうは言っても光学知識が皆無なのが当方なので、その信憑性も同様に皆無です(笑)

なお、当方は基本的に「極度のカメラ音痴」であり「光学知識も疎く」プラスしてヤフオク! などに出品している転売屋/転売ヤーである事からも、ここで述べている事柄/内容はその多くに信憑性を伴わず、且つ当方自身の思い込みなども影響してネット上の様々なサイトとの比較には値しない事を事前に告知しておきます (それら比較元サイトのほうを正として捉えて下さいませ)。

従ってこのブログをご覧になりご不満や不快感を抱いた場合は平に附してお詫び申し上げますが、誹謗中傷メールを送信してくることだけはどうかご勘弁下さいませ。

ウソを拡散するような考えなど一切なく、合わせてヤフオク! での出品についても決して詐欺的商法など執る気持ちはなく、どのようなクレームにも必ず対応させて頂く所存です。

そしてこのブログも決してヤフオク! での出品商品を高く売らんが為に煽る目的で掲載しておらず、むしろ純粋にヤフオク! のようなオークションで単にご落札頂くよりも、さらに楽しくそのオールドレンズの素性を知る事ができる事を目指して、その目的にのみ限定してこのブログを添えている次第です (その他の他意は一切御座いません)。

今このブログをご覧頂いている皆様も、何かご指摘事項が御座いましたら以下までお知らせ下さいませ。

ご指摘事項は・・・・
   出品者のひとりごと・・・・pakira3kara@pakira3.sakura.ne.jp
までお知らせ下さいませ。

・・即座に改善/訂正致します。お手数おかけする事になり本当に申し訳御座いません。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は以前に扱った同じ田中光学製標準レンズのTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』と非常に近似していますが、明らかに設計概念が異なり「一部構成パーツの設計概念とその使い方をガラッと変更している痕跡が残る」のを今回のオーバーホール工程で確認済です。

今回の個体のオーバーホール/修理ご依頼は、事前にご依頼者様から「無限遠がアンダーインフに見える」とのご指摘がありました。実際に当初バラす前の実写確認時点でもそのアンダーインフ状況を視認できています。

しかしその因果関係は、どうやらこのモデルの設計概念を過去メンテナンス時の整備者が理解していなかったから、適切に微調整できていなかったとみています(泣)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。フィルター枠やマウント部などが真鍮 (黄銅) 製/ブラス製なのに対し、内部構成パーツの多くはアルミ合金材の削り出しで用意されています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている

↑上の写真は鏡筒最新腑に組み込まれる絞りユニットの所有構成パーツたる「位置決め環 (左) と開閉環 (右)」を並べて撮影しています (赤色文字)。また「開閉環」側には途中に絞り環との連結の為に用意されている切り欠き「連結孔」があります (赤色矢印)。

ちなみにこれら位置決め環と開閉環は以前扱ったTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』の同じ構成パーツと同一とみています。互いに並べたり一緒に比較したりして確認したワケではありませんが(汗)、実は「絞り羽根のカタチが同一」なので、その実装枚数まで同じとなれば、これら位置決め環や開閉環が100%同一なのが道理だったりします(笑)

逆に言えば、それら比較するパーツを並べて確認したり現物同士でチェックせずとも「原理原則」から考察すれば、自ずと同一なのが道理だと導き出されるので、これを以てしてウソ偽り云々とか言われる筋合いもありませんね(笑)

↑今回もチェックしましたが「位置決め環を締め付け固定していたイモネジの締め付け痕」を赤色矢印で指し示しています。するとやはり製産時点に一度イモネジで締め付け固定したあと「一度も外されていない」事がこれで歴然です。

例えば以前着信したメールで「同じ位置にイモネジで締め付けていけば締め付け痕は一つしか残らない」と指摘してきた人が居ましたが(笑)、実はイモネジは全周に均等配置で3本用意されます。この3本のイモネジを締め付けていく際に順番に締め付けていくと「必ず最後の1本は位置が極僅かにズレる」のが整備者の常で(笑)、それは確かに当方がイモネジを締め付ければ同じ位置でピタリと合致してズレた痕跡は残りませんが、一般的に3箇所の締め付け痕のうち最低でも1箇所は極僅かなズレが残ります。

逆に言うなら、当方のイモネジの締め付け方法が、それら過去メンテナンス時の整備者の締め付け手法とは全く異なる事の表れでもあります(笑)・・この点についても、ちゃんと以前取材した金属加工会社の社長さんとの会話の中で、別の日でしたが確認済です(笑) むしろどうしてそういう細かい部分の手法まで、今までに金属加工の仕事を一度もしていないのに体得できるのか逆質されてしまいました(怖)・・そういう思考回路と言うか、仕事をする上での配慮や気配りなどについて、是非ご自分の会社の社員教育に役立てたいと仰り「やっぱり経営者って凄いなぁ〜」なるほどなぁ〜と感心でした(涙)

その時はまた別の日だったので、今度は極上の鰻重ではなくランクAの和牛しゃぶしゃぶ店でいくら食べても口の中でとろけてしまって食べ応え感が溜まらなかったのを覚えています(笑)
(美味しかったです!社長ありがとう御座いました!)

↑10枚の絞り羽根をセットして鏡筒最深部に絞りユニットを組み込んだところです。

↑完成した鏡筒を立てて撮影していますが、今回扱ったモデルの鏡筒が、以前扱ったTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』の鏡筒とは肝心な要素で設計概念が違う点を解説します。

実はグリーンの矢印で指し示している箇所に用意されているネジ山は、以前扱ったTANAR 5cm/f1.9でも備わっていましたが、肝心なここに入るフィルター枠部分に「ネジ山が存在しない設計」で、要は単に被せてイモネジで締め付け固定する手法でした。

今回のモデルも同じでグリーンの矢印で指し示した位置のネジ山は全く使いません、意味を成していません!(驚)・・いったい何のためにワザワザ製産時点にネジ山を切削して用意するのでしょうか???

鏡筒最深部にセットされた絞りユニットの「開閉環が側面の切り欠き/溝/スリットから見えている」ワケですが、そこに備わる「連結孔」がちゃんと確認できますね (赤色矢印)(笑)・・この連結孔に「開閉キー」と呼ぶ板状パーツが刺さって「絞り環と連結する」から絞り環操作で絞り環操作で絞り羽根が開いたり閉じたりする原理です (開閉環はブルーの矢印のように回転する)。

さて、ここで今回のモデルの鏡筒に於いて以前扱ったTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』との根本的な設計概念の相違点です。オレンジ色矢印で指し示した箇所に用意されているネジ山が「2段の切削に変わっている点」です。

これによってこのモデルでの「無限遠位置の微調整機能が初めて備わって設計概念に変化している」事を表しますが、冒頭で述べたとおり過去メンテナンス時の整備者はそれを全く理解しておらず、正しく適切な位置でこの鏡筒を固定していませんでした・・その結果がアンダーインフです(泣)

↑鏡筒の前玉側先端部にフィルター枠をセットしますが、上の写真のとおり前述の「ネジ山にネジ込む方式ではない」単に被せてイモネジで締め付け固定する手法の設計である点をグリーンの矢印で指し示して解説しています (上の写真ではフィルター枠をひっくり返して撮っています)。

↑こんな感じでフィルター枠が鏡筒の前玉側に配置されますが、鏡筒にネジ山が備わるモノの全く使っていないのが分かります(笑)

↑ここで鏡筒をひっくり返して光学系後群格納筒の方向を上に向けて撮影しています。一つ前の工程でセットしたフィルター枠の直下に、今度は「絞り環用ベース環」が組み込まれ (赤色矢印)、その上にさらに右横に斜め状に立てかけて撮っている「絞り値キー環」と呼ぶ「絞り値キーの溝が備わる環/リング/輪っか」を被せます (赤色矢印)。

この溝部分に鋼球ボールがカチカチとハマるのでクリック感が実現できる仕組みです。すると既に鏡筒最深部にセットされている絞りユニットの開閉環「連結孔」に「連結キー」と言う板状パーツが刺さり、このベース環と連結しているのが分かります。

従ってこの「絞り環用ベース環」に絞り環の筐体外装が被さる事で、絞り環が完成する設計としているのが分かりますね(笑)

つまり、当初バラす前の時点で「開放f値f1.8のさらに先まで絞り環が僅かに動いていた」のは、過去メンテナンス時のここの工程で「絞り環用ベース環の組み込み位置をミスっていた」のが判明します(笑)

今回のオーバーホールではピタリと開放f値「f1.8」に合わせてあるので、そこから先に微動したりしません(笑)・・とても気持ち良くカチカチとクリック感のままちゃんと開放f値の位置で被塵と突き当て停止しています(笑)

↑こんな感じで適切な微調整が終わって組み上がっています。赤色矢印で指し示しているとおり、この位置に「絞り値キー環」がセットされていますが、実は以前扱ったTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』では、これで鏡胴「前部」が完成してしまい、無限遠位置の微調整は「シム環」と言う薄い環/リング/輪っかを間に挟む事で微調整させていました。

↑実際に絞り環をベース環の上に被せてイモネジで締め付け固定します。赤色矢印で指し示している絞り環用の基準「」マーカーともピタリと絞り環に刻印されている絞り値の位置が、どの絞り値もキレイに気持ち良くクリック感を伴って合致しています。

↑ここです。この赤色矢印で指し示している環/リング/輪っかの存在が以前扱ったTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』とからの設計変更部分で、無限遠位置の微調整を「機能として新たに附加した」ことを意味しています。

鏡胴前部位置確定環/リング/輪っか」が備わったのに、この環/リング/輪っかによって無限遠位置の微調整を過去メンテナンス時の整備者は実施していません(泣)・・それゆえアンダーインフ状態に陥っていたのです(泣) ちなみにちゃんと前の工程で解説したとおりオレンジ色矢印のとおりネジ山が現れています。

↑鏡胴「前部」が完成したので今度は鏡胴「後部」の組み立て工程に移りますが、鏡胴「後部」は単にヘリコイド群の集合体なので簡単です(笑)

左端からそれぞれ「距離計連動ヘリコイド」に「封入環」とその相手先たる「空転ヘリコイド」、そしてそれらが全て格納される「マウント部」です。するとこれらの中でグリーンの矢印で指し示している箇所だけが「平滑仕上げ」であり、徹底的に平滑性を追求した処置に仕上げなければイケマセン(笑)

逆に言えば、その処置を怠って「潤滑油を注入してしまう」から、経年で黄銅製の酸化/腐食/錆びが進んでしまいます(泣)・・当然ながら当初バラした直後はこんなにピッカピカに光り輝いておらず、経年劣化進行に伴い「焦茶色」に変質したままでした(笑)

↑空転ヘリコイドが封入されたところですが (赤色矢印)、今回のオーバーホール工程では潤滑油ではなくて「ちゃんと粘性が僅かに重めのグリースを封入」したので、オーバーホール後の状態は相応にシッカリしたトルク感に仕上げてあります。

↑距離計連動ヘリコイドを組み込んだところです (赤色矢印)。無限遠位置の微調整機能が鏡筒に設計面でちゃんと備わったので、以前扱ったTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』とはこの距離計連動ヘリコイドのカタチがそもそも異なります。

逆に言うなら「どうして距離計連動ヘリコイドの設計を変更してきたのか???」とちゃんと「観察と考察」を進めれば、自ずと鏡筒の設計変更が目に着き、結果的に無限遠位置の微調整機能が備わった点まで辿り着けますね(笑)・・要は1955年時点と1959年倒産間際の状況との違いまで目に浮かびそうです(涙)

↑距離環を組み込んで、この後は完成している鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからは完璧なオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホール/修理が終わっています。前玉側のほうから光学系を覗き込むと何だかキラキラとキレイに感じると思いますが(笑)、光学系第1群前玉の格納箇所にも過去メンテナンス時に「反射防止黒色塗料」が着色されていて、特に格納箇所の内壁に塗られていたので「前玉のコバ端と干渉する」懸念から、今後の数十年で必要以上に前玉に圧を加え続けたくないので(怖)、敢えて今回のオーバーホールでは「反射防止黒色塗料」を完璧に除去しています (その分でピカピカに見えます)(笑)

↑ご依頼者様のご指摘で「絞り羽根が顔出ししている」とご案内がありましたが、おそらく光学系内を覗き込む時の角度によっても見え方が変わるのだと思いますが、そもそもこのモデルは以前扱ったTANAR 47.5° 5cm/f1.9 (zebra) (L39)』同様、開放時に「絞り羽根が僅かに顔出しする仕様」であり、その見え方が角度で変化します (つまり絞り羽根は顔出しするものの全周で均等のハズ)。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持し個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。光学系内には数点ですが「気泡」が残っています。

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

例えば前述した石英ガラス (合成石英ガラスES) の精製時には、1,400°Cに加熱しと融解した石英ガラスを金型に流し込み、成形時の許容推奨温度800°Cで「その温度帯を60秒間維持させ」そのまま任意の圧でプレッシングを行い、当初の厚みから最終的な目的とする厚みと形状にまで成形します。

このプレッシングしつつ「温度帯を維持させる」時に、当時の工業技術ではどうしても光学硝子材の内部に「気泡」が出現してしまうので、逆にその「気泡の出現を以て初めて温度帯の維持の確証」と判定を下していたようです。特に日本製オールドレンズよりも当時の旧東ドイツ製オールドレンズの光学系に「気泡が多い印象」なのも、そういった工業技術の発展経緯の相違があったりするようです(泣)

ちなみにこの時の石英硝子のプレッシング工程では、完成後にその検査の一環として屈折率も確認しますが、当初プレッシング前時点で1.455であった屈折率はプレッシング成形後は1.458と僅かながらもプレッシングにより向上する事が確認されています。これはプレッシングによる配合光学硝子資料の圧による高密度化が影響しているとの研究成果に至っており、その意味でも成形金型にプレッシングして成形していく工程にはメリットもある事が確認されています(笑)・・特に最近では非球面レンズなどの技術革新にもこのような成形技術が転用されているようですね。

↑10枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正十角形を維持」しながら閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、当方独特なヌメヌメッとしたシットリ感漂うトルク感で、ピント合わせ時のピントのピーク/山で掴んでいる指の腹に極僅かにチカラを伝えるだけで「ピント面前後の微動が適う」軽い操作性に仕上げています。

特に今回のモデルはピントのピーク/山が突然急に到達する癖があるので、その前後での微動に神経を遣うと即操作性の悪さに繋がり兼ねません(泣)・・そういう細かい部分にまでちゃんと配慮して各工程時に微調整していけるのもオーバーホールの醍醐味だったりしますね(笑)

↑ネット上で酷評されているほど収差の嵐の印象はなく、むしろ開放f値「f1.8」が熟れた成果の如く感じられる端正な写りに、改めて感銘を受けた印象です(涙)

↑絞り環側基準「」マーカーと鏡胴側基準「」マーカーの縦方向でのラインも上下で一致させてあります (グリーンのライン)。

↑・・と、ここまでは大変順調に、ある意味いろいろと納得づくで進められてきたものの、ここで壁にブチあたりました!(涙)

上の写真での「LM変換リング」は日本製でRayqual製品です (ご依頼者様の附属品)。それに対して当方で用意したマウントアダプタはの同じく日本製Rayqual製マウントアダプタにの中国製K&F CONCEPT製マウントアダプタです。

実はの日本製Rayqual製マウントアダプタに装着すると、着脱時のロック解除用レバー操作で指が痛くなるので (硬すぎてレバーのツマミが小さい分で指の腹に食い込んで痛い!)、普段は中国製のK&F CONCEPT製マウントアダプタのほうを中心的に使っています。

今回もご依頼者様附属の「LM変換リング」にK&F CONCEPT製マウントアダプタを装着して無限遠位置を微調整しピタリと合わせました。

ところがその上で、念の為にさらに日本製Rayqual製マウントアダプタに付け替えて無限遠位置を確認したところ「何と再びアンダーインフ状態に陥った」次第です!(驚)

そのままの状態でやはりマウントアダプタだけを外してK&F CONCEPT製に戻すとピタリと無限遠合焦します・・これが逆の結果に至るなら「さすが日本製!」と納得しますが、どうしてK&F CONCEPT製マウントアダプタで合わせた後にRayqual製マウントアダプタで狂っているのでしょうか???

例えば仮に中国製たるK&F CONCEPT製マウントアダプタ側がのオーバーインフ量が多すぎて、日本製Rayqual製に付け替えるとピタリと無限遠合焦しているなら筋が通りますが、K&F CONCEPTでピタリでRayqualでアンダーインフと言うのは・・「???」です(泣)

結局仕方ないので、もう一度バラして鏡筒の部分からオーバーホール工程をやり直して「オーバーインフに設定し直した」次第です(涙)・・現状K&F CONCEPT製マウントアダプタに装着すると僅かにオーバーインフですが、Rayqual製マウントアダプタだとピタリです。

スクリュー式のネジ込み式マウントたる「M42マウント規格」ではオーバーインフだ、アンダーインフだと大騒ぎで大変なのは毎度の事でしたが、こちらの「LMマウント規格」で悩むのは、何とも納得できませんね(涙)

・・本当に技術スキルが低すぎると、どうでもいいところであ〜だこ〜だ大騒ぎです(笑)

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

オーバーホール/修理ご依頼者様向けにご依頼者様と当方の立場が「50 vs 50」になるよう配慮しての事ですが、とても多くの方々が良心的に受け取って頂ける中、今までの12年間で数人ですが日本語が口語として普通に語れない、おそらく某国人に限ってここぞとばかりに「無償扱い」される方もいらっしゃいます (漢字三文字、或いは漢字とカタカナ表記を合わせて含むお名前様だけで確定判断はできませんが)(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」での撮影です。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。もう絞り羽根がほぼ閉じきっている状況なので、そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

今回オーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。以上にてご依頼頂きましたオールドレンズ3本が終わりましたので、明日まとめて梱包し発送させて頂きます。どうぞよろしくお願い申し上げます。