◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Tessar 40mm/f4.5 王《前期型》(exakta)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回オーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、旧東ドイツは
Carl Zeiss Jena製標準レンズ・・・・、
Tessar 40mm/f4.5 《前期型》(exakta)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回ご案内する個体はオーバーホール/修理ご依頼分として承りました。当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で、当時のCarl Zeiss Jena製標準レンズ「40mm/f4.5」の括りで捉えると「初めての扱い」です。

正直なところ、当時のCarl Zeiss Jena製標準レンズに「40mm/f4.5」が存在すること自体を知らなかったとも言えます(笑) さらにその中で「レンズ銘板に刻印があるモデルバリエーションの存在はさらに知らなかった」ワケで・・何ともお恥ずかしい限りです(恥)

先日オーバーホール/修理が終わってこのブログにアップしたTessar 50mm/f3.5 《戦後型》(exakta)』の時の事前調査でも同じでしたが、ネット上をチェックするとやはりこのモデルでも「鷹の目テッサー」を強調して説明しているサイトがあります(笑)

日本なら確かに猛禽類の頂点に位置するのは「鷹 (hawk)」なのが一般的なのでしょうが、このオールドレンズを製産していたのは「旧東ドイツのCarl Zeiss Jena」でありヨーロッパです。その地域での猛禽類頂点に君臨するのは鷹ではなくて「鷲 (eagle)」ですョね?(笑)

実際には鷹も鷲も唯一の相違は大きさらしいですが、欧米の歴史を紐解けば中世の時代から「権威の象徴」として家紋や称号にも使われ讃えられ続けてきたのは今も昔も「hawkの鷹ではなくてeagleの鷲」なのは、ちょっと考えればすぐに分かるのではないでしょうか?(笑)

それを如何にもの如く「鷹の目テッサー」と連呼するのはちょっと認識が甘すぎるように思いますね。

日本のオールドレンズ界で「鷹の目」を製造メーカー自身がカタログなどに謳って活用していたのはMINOLTAでありMC ROKKOR-PG 58mm/f1.2《前期型》(SR/MD)」だったりします (要は開放f値f1.2のシリーズを指す)。

実際当方もテッサーが「hawk (鷹)」を掲げていた広告やカタログなどを今までに目にした事がありません(笑) 左の広告は1954年当時の旧東ドイツ国内での雑誌広告です。

これを見ると「ZEISS-TESSAR Das Adlerauge Ihrer Kamera」とドイツ語で記載があり、英訳すると「The eagle eye of your camera」になるので、ちゃんと「eagle eye (鷲の目)」とドイツ語で書いてあったことになります。

これで完璧に納得できました(笑) 旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaが「鷲の目テッサー」の異名を (ワザワザ鷲を表すアイキャッチまで用意して) Tessarモデルに与えて広告していたことが判明しました。

・・オールドレンズというのは、このようにロマンが広がるので本当に楽しいですね!(笑)

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Tessar (テッサー) と言うモデル銘のクラシックレンズは、戦前ドイツで1902年に登場していますから相当な歴史の古さです。1930年代の戦前から戦後までのいわゆるオールドレンズの範疇で捉えると、戦前の旧ドイツCarl Zeiss Jenaは戦後に旧東西ドイツに分かれて存在することになる為、旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製Tessarと、旧西ドイツZeiss-Opton製Tessarといった「同じブランド銘が2つに分かれて存在」していた事になります。

クィックリターン式ミラーを搭載した一眼レフ (フィルム) カメラ用標準レンズとしてのTessar 50mmが登場するのは1936年からになり、総真鍮製のズッシリと重みを感じる造りでした (製造番号20xxxxx〜)。

この時製産されていたのは開放f値「f3.5/f2.8」2タイプですが、初期の時点ではモノコーティングを示す「zeissの」刻印がレンズ銘板にまだありませんでした (シングルコーティングだったから)。

戦中からパープルアンバーの2色の光彩を放つモノコーティングとして「zeissの」が光学硝子レンズに蒸着されるようになると、戦後にはアルミ合金材の筐体で同じく開放f値「f3.5/f2.8」の2つのタイプが発売されます。

【Carl Zeiss Jena (戦前〜戦後) コーティング技術の発展】
1934年ノンコーティング (反射防止塗膜の蒸着無し)
1935年〜:シングルコーティング (反射防止単層膜塗膜の蒸着)
1939年〜:モノコーティング (反射防止複層膜塗膜の蒸着:T)
1972年〜:マルチコーティング (反射防止多層膜塗膜の蒸着:T*)
※ 世界初の複層膜蒸着技術 (世界初の薄膜複層膜蒸着技術開発は1958年のMINOLTAによる
アクロマチックコーティング)

このコーティング層の蒸着技術の中で、よく間違われているのがシングルコーティングモノコーティングの違いで、戦前戦中のシングルコーティングは「ブル〜系」になりますが、戦中戦後のモノコーティングは「パープルアンバー」です。それは真空状態でコーティング層の塗膜蒸着時に「2つの資料 (ここで言う資料とは基になる材料を表す)」を使っているから2色の光彩を見る角度によって放つワケです。

例えば2色の光彩を放つとしても、仮に任意領域で別々の色合いに光彩を放っていたらそれは「斑模様」に見えてしまいますね(笑) つまり「見る角度によって異なる光彩を放つ」から複数のコーティング層が蒸着されていると言えるワケで、同時に「見る角度によって違う」のは「光の成分として波長が異なるから」とも言えます。

そもそも光学硝子レンズに入射光が透過する際、片面の反射で4%が失われます (硝子レンズは必ず表裏面があるので合計8%消失)。それ故、反射防止技術がまだ開発されていなかった (つまりノンコーティング時代) の光学系は、できるだけ光学硝子レンズの枚数を減らして開発/設計していました。

入射光は自然光ですから「色の三原色」として「」の成分として当時はフィルム印画紙に感光させていました (白黒フィルムでも256階調に近い成分でカラー成分を分光する必要がある為)。つまり光を「3つの成分として分光管理」させることで光学硝子レンズ面での反射防止が叶います。そこで最初に考え出されたのが、波長が短くて先に減衰してしまう「青色成分」の透過率を上げることで波長が長い「色成分」と対等に制御することを考えたのだと思います (つまりシングルコーティングの登場)。

次に解像度とコントラストを向上させる目的から「赤色成分」の透過率まで向上させ、同時に明るさを維持させるために「黄色成分」まで透過率向上を狙います。すると「パープル (青色成分)」と「アンバー (黄色成分)」の両方で全体の透過率向上を狙えるのでモノコーティングの必要性が増したと考えられます。結果、光学系内の幾つかの群でそれぞれ単独でシングルコーティング層を用意して「青色成分」或いは「黄色成分」をコントロールしてあげれば、最終的な後玉から射出する光の制御が叶うというものです。

ちなみに現在のデジタル技術ではRGB ()、或いはRGBY ()が色成分の三原色/四原色になり、特に4K/8K技術の黄色成分は輝度/明るさの向上として使われているので、まさに昔の概念と同じ発想と言えるのがオモシロイ
(白色を輝度とし強くすると彩度が下がりコントラスト低下を招く為使えない)

また1960年代に入るとさらに「緑色の成分」制御まで考え出されたようで、まさにMINOLTAの「アクロマチックコーティング (AC) 」技術が当時世界初の「薄膜蒸着技術」として登場し当時のライカにまで注目されました (後に技術提携に至る)。この薄膜蒸着技術が優れているのは既存の単層膜/複層膜/多層膜いずれの蒸着面に対しても薄膜で任意の量で追加できる点です。従って「まるで薬味のような味付け」としてカラー (色成分) コントロールができるようになったのが革新的だったと言えます (光学硝子レンズの群の別で制御せずに済むからより適切で細かい制御が適う)。

話が長くなりましたが、このような経緯を経てモノコーティングの「zeissの」が当たり前になり、1966年にはレンズ銘板から刻印を省いたゼブラ柄モデルが発売されます (実際はそれ以前の1955年からに既にシルバー鏡胴モデルでも刻印を省略していた)。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

1948年〜:シルバー鏡胴時代「前期型」
コーティング層:シングルコーティング/モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し/有り、刻印混在
開放f値:f4.5、絞り羽根枚数:10枚
筐体材質:真鍮製/アルミ合金製混在  (小型)
最短撮影距離:60cm

1950年〜:シルバー鏡胴時代「後期型」
コーティング層:モノコーティングのみ
レンズ銘板:T刻印無し/有り、刻印無し
開放f値:f4.5、絞り羽根枚数:10枚
筐体材質:アルミ合金製のみ (大型化)
最短撮影距離:40cm

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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端から円形ボケが破綻した後に、さらに収差の影響を受けて乱れていく様をピックアップしていますが、同じテッサー型なれど他の開放f値のモデルのような真円のシャボン玉ボケ表出はできないように見えます。そもそも円形ボケの表出も苦手のようにさえ印象を抱くので、このモデルで円形ボケを期待するのは少々酷な話かも知れません。

その一方で円形ボケが破綻した後の収差ボケに至っては、むしろエッジが強調されずに滲んでしまう傾向があり、それが功を奏してと言うと変ですが(笑)、相応に使える印象の「背景ボケ効果」的に写っているのが好印象だと感じました (背景が煩く残りにくい印象とでも言いましょうか)。

二段目
この段ではピント面の発色性についてチェックしています。いわゆる「テッサー型のコッテリしたコントラスト高さ」合わせて「少々誇張感さえ感じるほどにギラギラのピント面」的な少々満腹感を通り越してウッテ来そうなくらいの独特な写りが有名なのでしょうが(笑)、実はそのような描写傾向を強く感じるのは「黒色鏡胴時代」からの話で、むしろこの当時の戦後モデルに関して言えば、ピント面のエッジは繊細感を伴うモデルが多く感じます。

ところが今回のこの「40mm/f4.5」に関してはピント面にも画全体にも何処にも「繊細感を見出せない」印象しか受けず、せいぜい敢えてワザとそういうシ〜ンをもってきて意識的に撮影しない限り、写った写真に繊細感を期待しても難しそうな感想さえ持ちます(笑)

その要素の一つがこの発色性で確認できるのですが「色飽和してしまってノッペリした (立体感を感じない) 写りに堕ちてしまう」とも指摘できそうな程に見えます・・特に右端の赤色に関しては完璧に色飽和しています。これはこのモデルの光学系の設計が拙いのでは無く、おそらく「光学系の径が小さすぎる」いわゆる入射光量不足のような印象を持ちます。と言うのもデジタルノギスで計測すると第1群前玉の外径が「9.78㎜」なので、さすがに小さすぎです・・そこにいろいろを期待しても酷な話と言えそうです(笑)

三段目
ここでは被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力の高さについてピックアップしてみました。やはりビミョ〜な処でリアル感が失せてしまうので質感表現能力の高さもあまり期待できない印象です。

が然し、前述の「背景ボケ効果」的な滲み方がやはり好印象に繋がり質感表現能力の無さをカバーしてくれている写りに見えます。

四段目
それらの印象について、どうしてそこまで厳しい描写に堕ちるのか調べるつもりでこの段のピックアップを用意しました。これはまさに光学設計が大きく影響していると思いますが、ダイナミックレンジの幅が狭すぎるので、暗部は当然ながら明部についても耐性が低く、黒潰れと白飛びに悩まされるのだと感じました。

それはおそらくやはり光学系のサイズが小さすぎるのが影響していると思います。そして開放f値を「f4.5」に採ってきたのも、極端に白飛びの影響を避けつつギリギリの処で「白黒写真の世界で相応にスナップ撮影をこなせるモデル」を狙ったのではないかと結論しました。

もう少しグラデーションが細かく現れて滑らかに階調表現できれば素晴らしい描写に到達するのに、その寸前でストンと堕ちているような印象です。さらに2枚目の写真を観ても分かりますが、明らかに「広角系のパースペクティブに至っている」となれば、情景を写し撮る事に主眼を置いていた (当時の) 撮影概念を踏襲している光学設計ではないかと考察しました。

と言うのも、当時は戦前〜戦後に主流だったのはまだレンジファインダーカメラでしたから、標準レンズの画角は「40㎜45㎜」であり、当時映画撮影のフィルムから静止画を想定して写真撮影を試み、その段階で開発したのがバルナック型ライカカメラの発想原点とも聞くので、そこまで考慮するなら「50㎜が標準レンズ域の画角」に至った話しは「ライカカメラの登場を待つ必要があった」との認識の上に立てば「40㎜45㎜がまだまだ標準レンズ域の時代」と受け取るのが最も理解し易いと考えます。

この標準レンズ域の話についてはwikiなどで調べれば当時の概念が今と違っていたのが分かります。従ってそこからさらに派生して出てくる考察があります。

・・そもそも当時は「広角域の明確な概念がまだ熟成の域に到達していなかった」時代

とも言えそうです。このような考察のヒントになったのが1950年に世界で初めて広角レンズの光学設計が開発されて世に出てきた歴史的事実です。

フランス屈指の老舗光学メーカーP. ANGÈNIEUX PARIS社が1950年に世界で初めて発売した「RETROFOCUS TYOE R1 35mm/f2.5」と言う広角レンズの登場により「初めて一眼レフ (フィルム) カメラに於ける広角域の光学設計が登場した」ワケで、それまでのレンジファインダーカメラでは「標準レンズ域の光学設計のまま広角域まで対応できていた」とのwiki説明も解説の補強材料になって、当時の標準レンズ画角が「40㎜45㎜」だったのは至極納得できる話だと思います (実際人間の瞳で捉えた場合の見たがままの画角は43㎜前後らしい)。

従って、今となってはあたかもライカ判 (36㎜ x 24㎜フォーマットに於ける) 標準レンズの画確たる「50㎜」が当然の如く受け取られがちですが、実は当時と今ではそのような「標準レンズの画角の概念の相違」もっと言うなら「広角域の画角意識自体の喪失」時代とも言及できるほどに、一般的に捉えられていたのではないかと考えています (広角域を全く意識せずに普通に撮影していたとの意味合い)。

これは今となっては「広角域」を具体的に意識できますし、仮に広角レンズで撮影した写真を見せられてもそれを確実に指摘できるでしょうが、当時は広角域も標準域も同じ「カメラのレンズを通して撮影した写真の括り」としか認知していなかったら・・どうでしょうか?(笑)

建物が空に向かって尖っているのはパースペクティブの違いが現れているのだから広角レンズでの撮影・・などと具体的に指摘できる人は一人も居らず(笑)、カメラで撮影したらどのモデルで撮ってもそんな写りになるのは当然だろうと受け取っていたら、どうでしょうか?(笑)

ネット上を観ていてもこの点について真正面からちゃんと向き合って考察しているサイトが非常に少ない印象を受けるので、広角レンズを語る前に、いえ、もっと言うなら「標準レンズを語る前に」ちゃんと画角の認識錯誤が当時と今とで顕在することを、意識的に解説すべきと強く申し上げたいですね(笑)

話が反れました。要は今回扱ったモデルの描写性をあ〜だこ〜だ貶す前に、実はそのような画角の捉え方の違いが長い歴史の中で現実に在ったのだと受け取るなら、むしろ「スナップ撮影的にサクッと撮れるのは当時ならウケが良かったハズ」と、その廉価版価格的な要素まで含んで考察すると、意外にもこのモデルは良くできた標準レンズなのだとの印象に変わるからオモシロイのです(笑)

五段目
さいごに光源を含む場合の実写をピックアップしてきましたが、左端と2枚目などはまさに繊細感を閉じ込めたようなシ〜ンの撮影なので、今回のモデルが苦手としている描写要素を相殺してくれています (要はモノは考えようと言うお話し)(笑)

光学系は当然ながらモデル銘のとおり3群4枚のテッサー型ですが、ネット上何処を探してもこのモデルと思しき光学系構成図が発見できませんでした。

右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。

第1群前玉と第2群との間の距離、或いは第2群と絞り羽根、さらに第3群との距離などそれら全てを逐一正確に計測しています。

とにかく光学硝子レンズの外径サイズが小さいので、そもそも清掃にも困りますし作業していて塵/埃/汚れの類を視認できません(泣) 従って当方の整備では「広角レンズ域21㎜35㎜」を限界としており、20㎜以下の超広角レンズ辺り (魚眼レンズなど含む) の取り扱いができない最大の理由とも言えます (もう完璧に見えません)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は先日オーバーホール/修理が終わってこのブログにアップしたTessar 50mm/f3.5 《戦後型》(exakta)』とほぼ同じです。設計概念は同一としても、当然ながら焦点距離が違うので光学系の構造は異なりますし、絞りユニットも別設計です。実は当初バラす前の実写確認時に少々甘い印象のピント面だったのですが、バラしてみるとやはり過去メンテナンス時に光学系内の「至る箇所に反射防止黒色塗料を塗布」していました。

その関係で特に後群側の格納位置が極僅かにズレが生じていたのだと思います。全ての「反射防止黒色塗料」を溶剤で除去して本来あるべき姿「製産時点に限りなく近い状態」に戻し組み上げています。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑先日の「50mm/f3.5」では実装絞り羽根枚数が14枚でしたが、今回のこのモデルは10枚です。それでもキレイに真円の円形絞りに至ります。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側が前玉側方向にあたります。鏡筒の外回りにはヘリコイド (オス側) のネジ山が切削されていますが、その途中両サイドに「直進キーガイド」なる溝が備わります (グリーンの矢印)。

・・この直進キーガイドが最後に問題になったので覚えておいて下さい。

↑先日の「50mm/f3.5」同様、距離環と絞り環それぞれに「ベース環 (赤色文字)」が介在します (ベース環を先にネジ込みその後に距離環/絞り環がセットされる方式の設計)。距離環や絞り環は均等配置で3箇所にイモネジで締め付け固定にてこのベース環にセットします。

イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種でネジ先端が尖っているタイプと平坦なタイプの2種類が存在する

従って製産時点に備わる「イモネジ用の下穴」はそれぞれに3箇所ずつしか存在しないハズですが、上の写真のように複数箇所に残っています。

本来製産時点に用意されていたイモネジ用の下穴はグリーンの矢印で指し示した箇所になりますが、その他に過去メンテナンス時に別の位置でイモネジを締め付け固定していた痕跡が残っています (ブルーの矢印)。

従って当然ながら距離環に関しては「ヘリコイドオスメスの話」が関わるため、下手すれば無限遠位置がズレていた懸念も捨てきれません。一方絞り環側に関しては無限遠位置には一切関係しませんが、鏡胴に刻印してある基準「」マーカーとの位置がズレていた懸念がやはり残ります。

・・いずれにしてもこれら痕跡は製産時点とは異なる箇所で固定していた事実に相違ない。

↑まずは鏡筒に「絞り環用ベース環」をネジ込んだところです。最後までネジ込んでしまうと絞り環操作時のトルクが重くなったりしますし、前述のとおり基準「」マーカー位置のズレが起きます。

↑絞り環用の基準「」マーカーの環/リング/輪っかをセットしたところです (ブルーの矢印)。この環/リング/輪っかもイモネジによる締め付け固定なので、必然的に下穴が用意されています。

↑絞り環をベース環にセットしたところです (赤色矢印)。

開放f値「f4.5」側はご覧のように少々手前まで絞り環が回りますが、最小絞り値側「f22」はピタリと基準「」マーカーに合致し、且つ開放時も適切な位置まで絞り羽根が出てきて「f4.5」になります。

↑鏡胴「前部」が完成したので (但し光学系前後群はまだ組み込んでいない)、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入ります。指標値の刻印を伴うマウント部です。

↑ヘリコイド (オスメス) にはご覧のように「被せる距離環 (左)」と「制限環 (右)」と言う環/リング/輪っかが存在します (赤色文字)。それぞれに「制限壁」と言う壁が附随し、これらが互いにカツンカツンと突き当たるので「無限遠位置と反対の最短撮影距離位置の両方で突き当て停止する」原理ですね (グリーンの矢印)(笑)

↑距離環 (ヘリコイドメス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでセットし、この後は完成している鏡胴「前部」をネジ込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。溶剤で溶ける「反射防止黒色塗料」が至る箇所に塗布されていましたが、全て除去しました。その塗布により光路長が適切でなくなったり、下手すれば「光軸ズレや偏心を招く」懸念にも至るので、製産時点にメッキ加工されていない「溶剤で溶ける反射防止黒色塗料」は全て完全除去するのが当方のポリシ〜です(笑)

もちろん個体によっては下手すると光学系内のコーティング層経年劣化を促す要因の一つになるので (以前の取材で教えて頂きました) 何にしても製産時点とは違う所為には注意が必要です。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

↑後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。ご覧のように光学系の設計が先日の「50mm/f3.5」とは全く別なのがよく分かります。

別にマウント面の爪 (このモデルはexaktaマウント規格) よりもさらに後玉が突出する必要はないと思うのですが (そういうふうに設計すれば良いと思うのですが) どうして飛び出ているのでしょうか?(笑)

↑10枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環共々とても心地良いトルク感で操作でき、絞り羽根か閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を塗りましたが、どう言うワケか「重いトルク感でさらにトルクムラが起こる」仕上がりです。

実は当初バラす前のチェック時点で、さらに重いトルク感に至っており、且つ無限遠位置側から少々硬めのトルクムラを生じていました。バラしてみると古いグリースは「黄褐色系グリース」でしたが、それにしては「???」の印象でした。

しかし当方のオーバーホールが終わってもなお重いトルク感が残り、しかもトルクムラまで起きているのは納得できません。

↑実は上の写真は6回ほどバラして組み直しが終わり、前述の重いトルク感の改善と智仁にトルクムラの解消が完了した時点で撮影した写真です。原因がちゃんとあったのです・・!(驚)

↑冒頭で鏡筒外回りに備わる「ヘリコイド (オス側)」のネジ山に多石、両サイドに切削されていた「直進キーガイド」を指摘しましたが、その溝部分にグサッと刺さるのが上の写真「直進キー (グリーンの矢印) 」です (両サイドに刺さる)。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑写真撮影する際に向きを傾けて分かり易いよう撮りました。如何でしょうか、左右の2つの直進キーに何か違和感を感じませんか?(笑)

この後の解説用に両サイドに刺さっている「直進キー」をそれぞれ個別に赤色矢印ブルーの矢印で分けました。よ〜く観ると分かるのですが、実はマイナスのネジ頭に注目して下さいませ。

赤色矢印側のネジ頭は「平坦」ですが、反対側のブルーの矢印側は「こんもり膨れあがっているメッキ加工のネジ頭」なのです!(驚)

当初バラしている最中にこの点に気づいていたのですが、特に重要視せずスッカリ失念してしまいました。そのまま組み上げてみたらトルクが重くトルクムラまで起きるので、その時点で疑っていれば良いのに、その段階でもまだ「???」でした(笑)

↑問題の「直進キー」を取り外して並べて撮影しています。ちゃんと赤色矢印ブルーの矢印と個別に示してあります。もうこの段階で気づいた人は相当な観察眼を持っていらっしゃいます・・当方はまだ気づきませんでした(笑)

↑当方が「あ゙ッ!」と気づいたのはこの撮影の時です(笑) ビミョ〜にネジ頭の厚みが異なるのを発見しました。合わせてもう一つ重大に違いがありました!(驚)

↑こうすればお分かり頂けるでしょうか・・?(笑) 2本の「直進キー」に黒色の角棒を挟んで写していますし、ちゃんと個別に赤色矢印のほうの直進キーとブルーの矢印のほうと示しています。

この時点でネジ頭の厚みが極僅かに違うのが歴然ですが、それよりも重大だったのは「グリーンのラインで示したネジ山数の相違」です!(驚)

ブルーの矢印側の直進キーのほうが「1列分ネジ山が多い」のです。しかも先端部分のオレンジ色矢印で囲っている箇所の長さもビミョ〜に違っており「赤色矢印8.85㎜ vs ブルーの矢印9.38㎜」だったのです。

・・何を言いたいのか???

つまりこう言うことです。過去メンテナンス時に何かの理由でブルーの矢印側の直進キーを「ニコイチ」しているのです (別の個体から転用した)。

どうしてブルーの矢印側の直進キーをニコイチ (転用) したと明言できるのかと言えば、赤色矢印側直進キーは両方どちらの穴にねじ込んでも問題なく「とても軽いトルク感でトルクムラも発生せずに組み上げられる」からです。

ところがブルーの矢印側直進キーをネジ込んで時点で急にトルクが重く変わり、且つトルクムラが起きます。それは両サイドどちらの側にネジ込んでも必ずそうなるのです。

この事実から「ブルーの矢印側は過去メンテナンス時にニコイチされた直進キー」と判定を下しました。

そしてその証拠は具体的に「無限遠位置の時の停止状況」から明白だったのです。距離環を回した時、無限遠位置になると「詰まった感じで抵抗/負荷/摩擦を感じながら停止する」ので、一般的なオールドレンズと同じような「カツン音が聞こえて突き当て停止しない」のです!(驚)

つまり「直進キーの長さが長すぎるので直進キーガイドの縁に当たってしまい無限遠位置の時だけ詰まって停止していた」と言う状況が見えてきました (それを示しているのが上の写真オレンジ色矢印の長さの相違)。

・・僅か「0.53㎜」の違いだけでもそのような不具合が起こる。

これがオールドレンズの組み立てでの現実なのです(泣)

今回の個体、及び当方のオーバーホール作業に関して言うなら「さんざん最後まで不具合の因果関係が掴めなかった未熟さ」であり、ひいて言うなら毎度偉そうに言及しているクセに「観察と考察」がちゃんとできていなかったと言うお粗末な話なのです!(恥)

・・恥ずかしいったらありゃしない!(汗)

結局、調整などではどうにもならないので、ブルーの矢印側直進キーを研磨して長さを合わせ組み込んで現状重かったトルク感は半減程度まで改善できました。合わせてトルクムラもほぼ気にならないレベルまで低減していますが「解消したワケではない」のが正直なところです。

・・大変申し訳御座いません!(涙)

以上より、以下の告知に至ります。

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f5.6」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f8」で撮影しています。

↑f値は「f11」に上がりました。

↑f値「f16」です。そろそろ本当に極僅かですが「回折現象」の影響が現れ始めてピント面の解像度低下と共に焦点移動も僅かに起きているように見えます。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き次のオーバーホール/修理作業に入ります。

どうぞよろしくお願い申し上げます。