◎ FUJITA (藤田光学工業) RETROFOCUS f/EXAKTA 35mm/f2.5 (zebra)《初期型》(exakta)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、国産は
藤田光学工業製準広角レンズ・・・・、
FUJITA RETROFOCUS f/EXAKTA 35mm/f2.5 (zebra)《初期型》(exakta)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回オーバーホール済でヤフオク! 出品する個体は当方がオーバーホール作業を始めた11年前からの累計で、当時の藤田光学工業が製産した海外輸出向けOEMモデルまで含めた準広角レンズ「35mm/f2.5」の括りで捉えると累計で13本目にあたりますが、今回扱った個体「初期型」だけでカウントすると初めての扱いになります。

但し内部の特定パーツ要因から「初期型」に今回判定しただけの話しなので、はたして正しいのかどうかは扱い数が少ないだけに難しいところです。しかし逆に指摘するなら「初期型」と判定しない場合、製造番号のシリアル値側が100番以上増えているのに当該特定パーツについては「退化」してしまったと言わざるを得ず、説明が着きません。

従って外観や駆動面、或いは製造番号はもとよりデザイン/意匠やコーティング層の色合いなどからの判定でモデルバリエーションを特定している話しではなく、あくまでも「内部構造の変遷として納得できる説明ができるのか?」との観点から捉えたバリエーションの判定です。

当時の藤田光学工業製と思しきモデルに対しては以前から根強いファン層があり、それらについてネット上の感想などを参考にすると「藤田光学工業製」と言うブランド的な要素よりもむしろ「描写性」のほうに趣向が向いているのが分かります。

このページの一番最後にオーバーホールが終わった個体を使って撮影したミニスタジオの実写が各絞り値で掲載していますが、その実写の「開放撮影」をご覧頂くととても何かしらの特徴的な写り具合を観る事ができます・・光学系の知識が疎いのでいったいどのような環境からそのような写りに至るのかは全く見当が着きませんが、不思議に「チラチラと鮮やかな滲みが現れる変わった写り」とでも言いましょうか、あまり見かけない印象の「滲み方」を魅せるオールドレンズだと感じます。

今回調達した際に特にこだわった点が在り「レンズ銘板の刻印」の特に「FUJITA」銘と合わせて「f/EXAKTA」という2つの刻印について手に入れてバラしてみたいとの触手が働いてしまいました(笑)

以前にも「FUJITA銘入りレンズ銘板の個体」を数本扱っていますが、逆に言うなら「今まで扱った全ての個体でモノコーティング層蒸着を示す赤色刻印・・H.CP.C・・を伴っていた」と指摘でき、赤色刻印モノコーティング層蒸着表記が附随しないタイプは今回初めてだったとも言い替えられます。

刻印されている製造番号やそれらレンズ銘板の特徴からもそれほど多くの期待値が無いままに手に入れましたが、バラした途端に「???」とモデルバリエーションで言う処のいったいどのバージョンに合致するのか判定できなくなってしまったのです。

従って先ずはこのオールドレンズが登場した当時の背景と共に今まで扱ってきたモデルバリエーションを明示しながら解説していくのが分かり易いかも知れません。

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このモデルが登場した当時の背景を探るには、先ず一番最初に「レトロフォーカス型光学系」について認識しなければ見えてきません。但しそうは言っても当方は光学系の知識が疎く、さらに極度のカメラ音痴となればなかなか適確な説明ができない難しさが憑き纏いますので、それを踏まえて読み進めて頂ければと思います。

戦前〜戦中に於いてフィルムカメラの主流はまだまだレンジファインダーカメラだったので、実装している光学レンズとフィルム印画紙との距離が短く、実装している標準レンズ域の光学設計を流用して/延伸させて広角レンズ域までの焦点距離で設計対処できていたようです。

・・要は当時「広角レンズ域の専用光学設計が存在していなかった」と指摘できます。

ところが戦後クィックリターンミラーを備えた一眼レフ (フィルム) カメラが登場すると装着する光学レンズとフィルム印画紙との距離が長くなってしまい、それまでの標準レンズ域の光学設計を転用する手法では対応できなくなり「広角レンズ域専用設計の開発」に迫られていた事が分かります。

この当時のカメラに詳しい方が解説すればもっと分かり易いと思いますが、そのような前提が時代の流れとして起きていた事が一つ挙げられると思います。

そこで「時代が冀求する広角レンズ域専用の光学設計」を一番最初に世界で初めて開発し製品化してきたのがフランス屈指の名門光学メーカーP. ANGÈNIEUX PARIS社になり、着想自体も簡素で「標準レンズ域の焦点を延伸させて結像点を長くする」ことでミラーボックスの裏に位置するフィルム印画紙まで像を結ばせたのだと考えられます。

1950年にP.Angenieux Paris社により世界初の準広角レンズRETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5が現れ、ようやく一眼レフ (フィルム) カメラでの広角レンズ域に活況を帯びた状況のようです。

右写真は当方が過去に扱ったその「世界初の (専用光学設計を持つ) 準広角レンズ」です。

するとそもそもこのオールドレンズのレンズ銘板刻印を見れば明白ですが「RETROFOCUS
(レトロフォーカス)」自体がモデル銘になっており、焦点距離とf値から「TYPE R1」との自社区分けに則っているのが分かります。

つまり「RETROFOCUS (レトロフォーカス)」はこのAngenieux (アンジェニュー) 社の広角レンズ域専用設計に対する「登録商標」であり、本来はブランド銘、或いはシリーズ銘の如く位置付けだったコトバなのが分かります。

そして実装されている光学系は右図のように 色で着色した箇所の「3群4枚エルマー型光学系」を基本成分としながら 色着色で示した1枚の凹メニスカス光学レンズと1枚の両凸レンズの合計2枚を前方配置する事で結像点を後方に延伸させた発想で「逆望遠型光学系」とも言います。

従って全体は5群6枚としても 色着色部分の基本成分と捉えれば十分に鋭いピント面を狙える要素を含んでいるので今ドキに一般的に言われている「レトロフォーカス甘い写り/低コントラスト/低解像度」との受け取られ方が間違っているのだと判ります。

そもそもこの世界初の準広角レンズRETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5がフランスの光学メーカーですから登録商標にした「RETROFOCUS」もフランス語と捉えるべきで、実際は「RÉTRO (レトゥロ後退)」に「FOCUS (フォーキュス焦点)」が合わさった造語である事を鑑みれば、まさに開発意図たる光学設計まで見えてくると言うものです(笑)

これらの事柄から「レトロフォーカス型光学系」を指して「甘い写り/低コントラスト/低解像度」との捉え方は、その基本成分と共にコトバの由来まで踏まえれば全く以て的ハズレなのが十分理解できます。

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レトロフォーカス型光学系」の登場が1950年を待ってからと捉えるなら、では日本国内でこれら広角レンズ域の光学設計が現れたのはいったいいつなのか・・となります。

日本国内で一番最初に一眼レフ (フィルム) カメラが登場したのは1952年で国産初/自社初でもある旭光学工業製「Asahiflex I型」になりますが「M37マウント規格」を採用したネジ込み式マウント規格であるものの、当時はまだ広角レンズ域のオプション交換レンズ群は用意されていませんでした (右写真はその後1954年に発売されたクィックリターンミラーを実装したAsahiflex IIb)。

クィックリターンミラー装備の一眼レフ (フィルム) カメラ登場が1954年ながらもその時点での広角レンズ群供給は無く、そこでようやく藤田光学工業の話しに至るのですが日本初/自社初の準広角レンズH.C FUJITA 35mm/f2.5 (zebra)」が1957年に発売されます。

ド素人感覚で考えると(笑)、その際旭光学工業へ下請け契約を取り広角レンズ群の供給に販路を設ければ良いのにと思いますが、実は日本国内ではなくアメリカのSEARS (シアーズ) 社向けOEM輸出のほうに舵を切り「H.C TOWER 35mm/f2.5 (zebra)」を供給しました。

右写真はその頃に製産出荷されたOEM輸出仕様モデルで、特に距離環の刻印距離指標値が「フィート表記とメートル表記のダブル刻印」なのが分かります。

SEARS (シアーズ) はアメリカの有名な百貨店系列を傘下に持つ当初カタログ通販で一世風靡した小売業ですが、1990年代後半から経営難が続き2018年に連邦破産法11条 (日本の民事再生法に相当) 適用を申請しています。

SERASは1886年創業のカタログ通販を主体とした小売業で時計/宝飾品の扱いからスタートしています。創業当初から展開していたブランド銘は「Seroco」と「TOWER」ですが、特に1950年代〜1960年代は旧東西ドイツの光学製品 (ZEISS IKON、Polaroid、Bolseyの他Kodakなど) 以外に日本の光学メーカー製品を独自の「TOWER銘」ブランドとして製品に銘打ってOEM製品として調達し積極的にブランド展開していたようです (この時点で当初創業時から併走していたSerocoブランド銘は衰退し消滅)。

従って前述の旭光学工業製「Asahiflex IIaIIb」もご多分に漏れず「TOWER 22型から始まるシリーズ製品」として展開していました。この時のオプション交換レンズ群の中に組み入れられたのが前出の「H.C TOWER 35mm/f2.5 (zebra)」になり、左に示した当時のカタログ広告にもちゃんとオプション交換レンズ群に仲間入りして連座しています (一番左端)。

当方が注目した2019年辺りはまだ海外オークションebayでも必ず数本流通していたのに、現在は過去流通履歴を探ってもヒットしないほどにスッカリ消えてしまいました(驚)

当時を日本に於ける一眼レフ (フィルム) カメラ黎明期として位置付ければ、その準広角レンズたる最新の光学設計を具現化してしまった「日本初の準広角レンズ」との評価も十分に納得できる話です。

しかしオーバーホールに際し完全解体して光学系の各群を逐一調べていくとその実装光学系が特殊なのが分かります。光学系はwikiによると5群7枚のレトロフォーカス型構成とのアナウンスになります・・出典「クラシックカメラ専科No.38、プラクチカマウント (p.21)。
(同様に 色着色箇所を基本成分として 色着色を前方配置)

世界初のAngenieux製モデルの最短撮影距離が「80cm」に対し藤田光学工業製モデルの最短撮影距離は「50cm」と大幅に短縮化してきているので、光学知識が疎い当方でも仮に5群6枚とした時に前群側に貼り合わせレンズが存在しないとなれば、後群側のしかも最後の後玉を貼り合わせレンズにするだけで対応できるのか心許ない気がします。

そこで今回のオーバーホールでも特に後群側の光学系第4群について観察してみましたが、その光学硝子レンズの厚みと共に覗き込んだ時の状況からしてやはり「貼り合わせレンズ」と捉えるのが適切なように見えます・・見えると言う話なだけで実際には黄銅材の金属格納筒にモールドされているのでバラす事が適わず確証がありません(泣)

なお上の右構成図は今回の個体を完全解体してバラした際に光学系の清掃時、各群の光学硝子レンズを当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成図です。さらに指摘するなら「光学系第5群の貼り合わせレンズも一旦バルサム剤を剥がして再接着した」ので、その際にデジタルノギスで計測し曲率や厚みなど必要項目について訂正したトレース図として仕上げています (接着面の気泡が気になったので一旦剥がして再接着しクリアに戻しました)。

また当方で使っている再接着用の「バルサム剤」は今ドキの流行りで多用されている「二液性レジン液」ではなく、以前当方が取材させて頂いた工業用光学硝子精製会社のお勧めとご厚意により入手できた「屈折率1.68%を誇る光学硝子レンズ専用バルサム剤」なので経年に伴う褪色がほぼ回避でき、且つ剥離に特殊な溶剤を用意する手間がありません。特に取材で伺ったお話だと市販流通している「二液性レジン液」は一度硬化すると完全剥離が難しいようなのでその使用には相応の覚悟が伴います(怖) 実際先日オーバーホール/修理ご依頼分で作業した旧西ドイツはCarl Zeiss製CONTAREX版準広角レンズ「Distagon 35mm/f4」でも、まさにその「二液性レジン液」が近年の整備で使われていたようで剥離できませんでした(泣) 近い将来での整備作業やそもそもオールドレンズの個体としての「製品寿命の延命処置」たる意識から臨むなら、剥離できない薬剤を接着面に使用するのは如何なものでしょうか・・。

・・絶滅危惧主たるオールドレンズなら定期的なサービスは延命の大前提とも考えます。

そのような意識でオールドレンズ達に接するなら、まさに今回扱った個体も「次の整備にはもう自分は携われない」との想いから・・ただただ丹精に
臨んだ次第です(涙) 一期一会とはなんと儚い想いなのでしょうか・・。

《OEMモデルのモデルバリエーション》
※当方で過去に扱った個体について羅列 (未扱い品を含まず)。

原型モデル:藤田光学工業製 (1957年発売)
H.C FUJITA 35mm/f2.5 (zebra)

あくまでも、このモデルが原型であり、それ以外のブランドモデルはすべてOEMモデルとの認識です。
出現頻度は海外オークションでも1年に2〜3本レベルですから希少品の一つです。

OEMモデル:アメリカ向け輸出仕様
H.C JUPLEN 35mm/f2.5 (zebra)

海外オークションでも1年に5〜6本レベルで流通しているので、このモデルの中では最も出現数が多いタイプでしょうか。近年はヤフオク! でも出回っています (feet表記のみ)。

OEMモデル:アメリカ向け輸出仕様
P.C UNEEDA 35mm/f2.5 (zebra)

8年間で1本しか出回っていない珍品です。当方が前回入手したのはアメリカ向けの輸出仕様品でした。レンズ銘板を見るとモノコーティングの名称刻印が「P.C」になっており少々異なります (feet表記のみ)。

OEMモデル:欧米向け輸出仕様
P.C ACCURAR 35mm/f2.5 (zebra)

こちらも8年間で1本しか見つけていない超稀少品 (珍品) になります。やはりレンズ銘板のモノコーティング刻印が「P.C」になっています (feet/meter併記)。

OEMモデル:フランス向け輸出仕様
P.C RENOIT ETOILE 35mm/f2.5 (zebra)

こちらも8年間で1本しか見つけていない超稀少品 (珍品) になります。やはりレンズ銘板のモノコーティング刻印が「P.C」になっています (feet/meter併記)。

原型モデル:藤田光学工業製 (1957年発売)(?)
FUJITA RETROFOCUS f/EXAKTA 35mm/f2.5 (zebra)

今回の扱い品ですが今までの11年間で1本しか見つけていない超稀少品 (珍品) です。今回初めてレンズ銘板にモノコーティング刻印が無いタイプを扱いました (feet表記のみ)。

他にネット上を探索すると「P.C TOWER 35mm/f2.5 (zebra)」或いは「H.C TOWER 35mm/f2.5 (zebra)」そして「P.C FUJITAR 35mm/f2.5 (zebra)」他「P.C OPTINAR 35mm/f2.5 (zebra)」などというブランド銘の刻印もあったりします。

《製造番号先頭2桁でまとめたOEMモデルの状況》
FT25xxx:
FUJITA、FUJITAR、TOWER、UNEEDA、ACCURA、TAYLOR、RENOIT ETOILE、OPTINAR
FT26xxx:FUJITA、TOWER
FT27xxx:FUJITA、TOWER、ROTAR
FT35xxx:FUJITA、FUJITA RETROFOCUS、JUPLEN、VOTAR

いずれも製造番号シリアル値側は3桁留まりなので (4桁に増えていた個体を未だ発見できず)そのまま計算すれば製造番号の先頭2桁では合計で1,000本を越えない話になってしまう為、おそらくは「モデル銘別管理の製造番号符番方法」を採っていたのではないでしょうか。

なお「FUJITAR銘」のモデルには左写真のような「Asahiflex IIA/IIB」向け刻印がマウント面に刻まれていた個体もあります。
(引用元:BURNT EMBERSのFujitar P.C 35mm F2.5 Asahiflex Lens Testより)
素晴らしい観察力で調査しているサイトです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。オーバーホールの為に完全解体すると冒頭で解説した数多くのブランド銘全てのモデルバリエーションで「内部構造が100%同一」なのが明らかになります (今まで扱った12本全てで同一)。

ところが今回の個体は「初めて黄銅材の種類が2つに分かれていた」点で今までの扱い品12本とは今回の個体だけが別格です。一部の黄銅材は「カッパー色」になっているので黄銅材の成分自体が違うと思われます。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。アルミ合金材の削り出しにメッキ加工を施して用意されています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

左の写真はさらに絞り羽根の「羽根型キー」の部分を拡大撮影しました。

絞り羽根にプレッシング工程で「十字形に切り込みを入れる」とご覧のように折り曲げた時に「4つの羽根状に立ち上がる」のをキーの代用として使う概念です。

絞り羽根の表裏でキーの役目は違うのですが、基本的にこの羽根が根元からパキッと折れたらその絞り羽根は角度を変更できなくなり脱落して、結果的に「製品寿命」に至ります。

さらに今回冒頭で話したように「初期型なのか?」とその判定に窮した内容が左写真です。

このパーツは絞りユニットの中の「位置決め環」で絞り羽根の「位置決めキー」が穴に刺さる事でそこを軸として絞り羽根が角度を変えられるようになります。

ところが今までに扱った12本は全ての個体で同一で「キーの代用にしている羽根を穴に差し込んだ後さらに折り曲げて穴から脱落しないよう処置できる切削」なのです。

どう言うワケか今回の個体だけがこの「位置決め環の穴は単純に垂直状に切削されて開いているだけ」なので、必然的に穴に刺さった絞り羽根の「位置決めキー」は折り曲げられずに単に穴に入るだけの状況です。

下手くそな解説図で大変申し訳ありませんが(汗)、黒色が位置決めキー側を現し「絞り羽根の位置決めキーが刺さる穴が開いている状態」に赤色表示した「絞り羽根の位置決めキー (羽根)」が穴に入った後、折り曲げられて不意に脱落しないよう配慮されています。

今回の個体だけがこのように位置決め環側の穴が切削されておらず「単に垂直状に穴を切削して空けただけ」なので「絞り羽根は穴にキーの羽根が入るだけでひっくり返せばすぐ脱落する状況」なのです(怖)

現実にはこの上から「開閉環」と言う絞り羽根の反対側に用意されている「開閉キー (羽根)」が刺さる先の環/リング/輪っかが被さるので、例えオールドレンズをひっくり返したとしても絞り羽根が抜けて脱落する懸念はありません。

ところが問題なのは製産時点ではなくて「経年で絞り羽根に油じみが生じた時に界面原理から互いが引っ張り合うので容易に脱落してしまう」のが問題なのです。

さらに指摘すると左写真のとおりこれらOEMモデルの中で後のほうに製産された個体の絞り羽根は、その当時の一般的なオールドレンズ同様に「絞り羽根にキーとなる金属棒を打ち込んだ方式」に設計変更していたのです (冒頭ブランド銘で言う処のACCURARやRENOIT ETOILE)。

すると今回の個体の生産タイミングを「後期の頃」と判定を下した場合、まるで設計概念が「退化」してしまうような状況に至り、どのように考えても辻褄が合わず納得できません。

フツ〜に考えるなら単なるプレッシングによる「十字切り込みのキー代用羽根 → 金属棒状のキープレッシング」へと変遷する流れが工業面での進歩ではないかと考えられます。

従って今回の個体のレンズ銘板に「モノコーティングを表すP.CH.C刻印が無い」のも、或いは代用となる羽根のキーが「折り曲げられず刺さるだけ」なのも (位置決め環の裏側が切削されていないから)「初期の頃の製産個体だからそれら配慮が欠けていた」との憶測に至った次第です・・それが今回の個体を「初期型」に据えた根拠です。

↑絞り羽根の枚数も他のモデル同様12枚なので同じですが、前述解説のとおり「キー代用の羽根を裏側で折り曲げられない」状況から1枚ずつ絞り羽根をセットしていくと「最後の3枚で必ず潜らせる必要が発生するのにその時に事前にセットした9枚の絞り羽根一部が外れてしまう」状況に直面し(泣)、絞り羽根の組み込みだけで1時間半も要してしまいました。

さすがに1時間半も絞り羽根の差し込み作業で同じ事を続けていると恍惚に入ってしまいます・・(笑) それだけに上の写真が恨めしい限りです(笑)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上方向が前玉側にあたりますが、レトロフォーカス型光学系なのでご覧のように後玉方向に向かって順番に光学硝子レンズの外径サイズが小さくなる設計です。

↑まず先に「プリセット絞り環」をネジ込んでしまいます。最後までネジ込んでしまうとプリセット絞り機構が働きません。或いは必要な場所までちゃんとネジ込まないと今度は「絞り羽根の開閉時にチカラが及んでしまい前述のキー代用羽根の破断の危険性が高くなってしまう」と言う状況なので要注意です (赤色矢印)。

↑同様に今度は「絞り環」をセットします (赤色矢印)。

↑鏡筒をひっくり返して「プリセット絞り機構部の制限環をセットする」工程です (赤色矢印)。ここの工程をミスると/固定位置が適切でないと、絞り羽根の開閉時にチカラが及ぶようになり前述同様「製品寿命を短命化してしまう」ので重要な工程です。

従ってこの工程ではちゃんとプリセット絞り環と絞り環との関わりを熟知している整備者でないと「適切な固定位置が見出せない」話になり、例えば「バラした時の逆手順で組み立てている整備者」レベルだと適切な微調整ができないと思います(笑)

・・そういう所に神経を遣う必要があるのがこのような代用キー (羽根) のデメリット。

↑ヘリコイド (オス側) を組み込んだところです (赤色矢印)。ヘリコイド (オス側) の両サイドには切り欠き/溝が用意されていて (グリーンの矢印)、そこに「直進キー」と言う板状パーツが行ったり来たりして鏡筒の繰り出し/収納が実現できる駆動概念です。

↑さらにヘリコイド (オス側) の上から今度は黄銅材の切削で用意されている「直進キー環/リング/輪っか」を組み込みます (赤色矢印)。前述の「直進キーガイド (切り欠き/溝)」に板状の「直進キー」が入っているのが分かります (グリーンの矢印)。すると距離環を回した時に「板状の直進キーの場所で回転するチカラが直進動に変換されるので鏡筒の繰り出し/収納ができるようになる」と言う概念の動きをブルーの矢印で指し示しています。

↑ここまでの工程で今まで解説してきた「ヘリコイド (オス側)」も「直進キー環」も2つとも単に刺さっているだけの状態ですが、ここでヘリコイド (メス側) をネジ込む際にちゃんと無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込まないと無限遠合焦しません (赤色矢印)。

このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

つまり無限遠位置が適切なのかどうかを決めているのがたった一つの工程でここの作業と言う話になります。

↑適切な位置でヘリコイド (メス側) がネジ込めたので距離環をセットします。

↑距離環やマウント部が組み付けられる基台をようやくセットできます (赤色矢印)。整備者ならもう明白ですが、一般的なオールドレンズとは真逆の組み立て工程を経る必要があり「基台の組み込みが最後」と言う設計です。今までに扱った12本全てで同一です。

この後は光学系前後群を組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。今まで扱った中で初めて「レンズ銘板にモノコーティングを表す刻印が無い」点と前述の内部構造面で「まるで退化しているような設計」があったりと、当方にはとても珍しい個体でした。

レンズ銘板の「f/EXAKTA」は「for EXAKTA」の意味で旧東ドイツはIhagee Dresden製一眼レフ (フィルム) カメラ「Varexシリーズ (exaktaマウント規格)」など向けのオプション交換レンズ群の一つだった可能性があります。

なお左写真はこれらのモデルの中で「M42マウント規格」だった場合のマウント面を横方向から撮影していますが、ご覧のとおりグリーンの矢印で指し示した「M42マウントのネジ切りの先にさらに突出がある」ために一般的なピン押し底面があるマウントアダプタに装着すると突き当たってしまい最後までネジ込めません。

だからと言って「ピン押し底面がないマウントアダプタ」をチョイスすると、今度はフランジバックが適合せずにアンダーインフ状態に陥ります (無限遠が甘くなるか合焦しない)。

このような問題を抱えているモデルなので今回の調達では「敢えてexaktaマウントをチョイスした」のが理由です。

フランジバック
レンズマウント面から撮像面 (フィルムカメラならフィルム面でデジカメ一眼/ミラーレス一眼ならば撮像素子面) までの距離

バックフォーカス
光学レンズの後玉端から撮像面 (フィルムカメラならフィルム面でデジカメ一眼/ミラーレス 一眼ならば撮像素子面) までの距離

アンダーインフ
無限遠合焦しない状態を指し、距離環距離指標値の∞位置に到達するまで一度も無限遠合焦せず、且つ∞①でも相変わらず無限遠合焦していない状態を現す。一度も無限遠合焦しないので遠景写真が全てピンボケになる。

オーバーインフ
距離環距離指標値の∞刻印に到達する前の時点で一度無限遠合焦し、その位置から再び∞刻印に向かうにつれてボケ始める状態を指す。一度は無限遠合焦しているのでその位置で撮影すれば遠景のピントがちゃんと合焦している。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

ちなみに蒸着されているコーティング層は「モノコーティング」で光に反射させた時のコーティング層が放つ色合いは他の12本の個体と同じままです (但しレンズ銘板にモノコーティングを表す刻印は無い)。基本的にこれら藤田光学工業製モデルは全て同じ光彩を放つコーティング層のように見えますが、OEM海外輸出モデルについては指向先ベンダーの意向を元に「H.C」或いは「P.C」のモノコーティングを表す赤色刻印をレンズ銘板に伴います。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側も「まるでスカッとクリア」ですし、今回の個体は特に光学系第5群の後玉について貼り合わせレンズのバルサムを一旦剥がし再接着していますからクリアなのも当たり前ですね(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

ご覧頂いたように光学系前後群のコーティング層が放つその光彩は、当方では「プルシアンブル〜の魔力」と呼称するほどに美しく、且つ独特な写り具合を示す熱烈なファン層を構成する「魅惑のオールドレンズ」との認識です。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:15点、目立つ点キズ:9点
後群内:15点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(前後群内に極微細な薄い最大3mm長複数あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射で確認しても極薄いクモリが皆無)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑絞りユニット内に組み込むのにメチャクチャ大変だった12枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環や絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。

敢えて述べるならこの頃のオールドレンズは国やメーカーの別を抜きにしてもたいていの場合で「カーボン仕上げの絞り羽根」なので、経年による酸化/腐食/錆びからも「油染みは天敵」です。特に今回扱ったこの個体はここまでで解説してきたとおり「羽根状の折曲げをキーの代用とする設計」であり、赤サビによる酸化/腐食/錆びでそれら代用キー羽根の根元からパリッと折れたらもぅオシマイです(怖)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感で距離環を回す時のトルクの印象は「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が指に伝わります(神経質な人には擦れ感強め)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
HAKUBA製MCレンズガード (新品)
本体『FUJITA RETROFOCUS f/EXAKTA 35mm/f2.5 (zebra)《初期型》(exakta)』
社外品樹脂製被せ式後キャップ (輸送時保護用/中古品)
純正金属製被せ式前キャップ (中古品)

純正の「FUJITA刻印」がある金属製前キャップがちょっとばかり嬉しいです(笑) 距離環を回すトルクは「軽め」に仕上げているのでピント合わせ時の微動も心地良いです。

ご落札者様お一人様だけがその味を堪能できますが、特にこのモデルの開放撮影時のピントのピークの訪れは「今か今か・・」と待ち遠しくもあり、行ったり来たりの中で意を決していく様子はとこしえに楽しい瞬間だと思います。そんな想いを大切にする気概で距離環のトルクも絶妙に仕上げました・・。

↑ここからはご存知ない方のためにこのモデルでの「プリセット絞り機構の使い方」を解説していきます。「プリセット絞り環/絞り環」の別を見誤るとプリセット絞りの設定など含め覚えるしかなくなるので大変です。

絞り値が刻印されているほうが「プリセット絞り環」になり丸いツマミが備わります。またその直下のギザギザジャギーが配されている環/リング/輪っかが「絞り環」です (赤色矢印)。

鏡胴やフィルター枠側面には基準「」マーカーや「」が刻印されています。これを目安にして操作していきます (ブルーの矢印)。また現在設定している「絞り羽根の状況を示す|ライングリーンの矢印で絞り環のローレット (滑り止め) に刻印」されています。

従って現状上の写真の状態は「開放f値f2.5に絞り羽根が完全開放したまま一切微動だにしない状態」なのが観ただけですぐに分かります (実際絞り環は動かない)。

ここからカメラでシャッターボタンを押して撮影すると仮定して仮に「プリセット絞り値をf5.6に設定する」操作をここから解説していきます。

まずはブルーの矢印❶のプリセット絞り環ツマミを押し込みつつ「プリセット絞り環側のf値刻印をf5.6まで回す」操作を行います (ブルーの矢印❷)。

↑すると前の工程操作で「絞り環のジャギーローレット (滑り止め) 途中の赤色|ライン」が設定絞り値「f5.6」に合致しています (グリーンの矢印)。この時基準「」マーカー位置 (ブルーの矢印) には開放f値「f2.5」が合っているので「現在絞り羽根は完全開放したまま」のが分かります (赤色矢印)。いちいち光学系内を覗き込まなくてもこれをチェックしただけで絞り羽根の開閉状態が確認できます。

ピント合わせを行いシャッターボタンを押し込む直前に設定絞り値まで絞り羽根を閉じたいのでブルーの矢印❸の操作を行います。

↑設定絞り値 (プリセット絞り値)「f5.6」で絞り羽根が閉じて撮影が終わりました。グリーンの矢印でプリセット絞り値が分かるので、基準「」マーカー (ブルーの矢印) の絞り値「f5.6」を再び開放f値に戻すとします。ブルーの矢印❹方向に絞り環を回します。

↑すると基準「」マーカー位置に開放f値「f2.5」が来るので (赤色矢印) グリーンの矢印で指し示している「プリセット絞り値」を開放f値「f2.5」に戻すのでブルーの矢印❺のツマミを押し込みながら絞り環のほうを回して (ブルーの矢印❻) 「赤色の|ライン」をf2.5に持っていきます。

↑最初の状態に戻っただけの話ですが(笑)、基準「」マーカー位置 (ブルーの矢印) に開放f値「f2.5」が合致して (赤色矢印)「絞り環側の赤色|ライン」も一致しているので (グリーンの矢印) ブルーの矢印❼のように「プリセット絞り環も絞り環も共に微動だにしない状態」なのが分かります。

以上長々と解説してきましたが「プルシアンブル〜の光彩」を眩しく放つ様はまるで日本のオールドレンズ史上に黎明期を背負ってきた意地と誇りを未だに魅せつけているようにも見え、なんと健気なのでしょう・・。
是非ご検討下さいませ・・。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮りましたが、このモデルは開放f値が「f2.5」なのでほとんど変化しません。それでいて冒頭で解説したように「チカチカと鮮やかな滲み背景のボケ具合に現れる」描写性なのが一つ前の「f2.5」の時との比較で分かると思います。

↑さらに回してf値「f4」で撮っています。

↑f値は「f5.6」に上がりました。相当な鋭さのピント面です。

↑f値「f8」での撮影です。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」での撮影ですが、絞り羽根が閉じきってきているのでそろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。焦点移動も起きていますね。