◎ FUJITA (藤田工学工業) UNEEDA P.C 35mm/f2.5 zebra(exakta)
海外オークションの「ebay」でも1〜2年に1本しか出回らないという超稀少品です。
今回はアメリカはテキサス州在住のオーナーより入手できました。非常に状態の良い個体です。意外だったのは「UNEEDA」と言うレンズ銘板の刻印から「輸出用」の個体であると推測できるのですが (実際当時の UNEEDA 光学製品群が存在している) 距離環の指標値には「feet」表記だけでなく「mtr」としてメートル表記まで附随していました・・と言うことは、米国のみならず欧州まで含めて流れていた個体のひとつとも考えられます。「UNEEDA」と言う会社自体はアメリカの会社ですからアメリカからヨーロッパ方面までさらに輸出されていたのでしょうか。製造番号に「FT」の文字が附随しているので「藤田光学工業」の製品であることは明白です。
当モデルは藤田光学工業より1957年に発売された広角レンズですが、当時世界的にも広角レンズは1950年までは存在していませんでした。フランス屈指の光学メーカー「P.Angenieux Paris (アンジェニュー)」社による世界初の広角レンズが1950年に「RETROFOCUS TYPE R1 35mm /f2.5」を発売したのが最初になります。この「RETROFOCUS」はフランス語で「レトロフォーキュイス」が英語圏では「レトロフォーカス」になったために一般的によく使われる呼称になったようです。「レトロフォーカス」と言うとよく「甘い描写」とか「ソフトな写り」「1枚ベール越しの写り」などと言われるコトがありますが、実際には光学系の整備が正しくできていればそのような描写にはならず当ページの最後のほうの写真のように、端正な写りになります。「フォーカス (合焦)」が「レトロ (後退)」するの意なので、「レトロ」 (古めかしい、復古調の) と言うコトバのイメージが先行している嫌いがありますが、実際の描写ではアンジェニューでもそうですが、シッカリした写りをしています。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを実際に組み上げていく組立工程の写真になります。
まずは絞りユニットや光学系前群、距離環を組み付けるための鏡筒です。
ここに「12枚」もの絞り羽根を組み付けますが、絞り羽根自体は「初期」の頃の体裁を成しており、絞り羽根には「キー (金属製の突起)」が打ち込まれていません。穴を開けた際の返り部分をそのまま「キー」の役目として使っています。必然的にこの部分の強度や耐性が低いので、絞り羽根の開閉異常、或いは絞り羽根自体の脱落という個体がそろそろ出始めています・・。
上の写真 (2枚) はその絞り羽根を撮影しました。2枚目は特にその「キー」部分を拡大撮影しています。反対側から穴を開けた際の反り返し部分をそのまま「キー」の代用にしています。
実際に絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。12枚もの絞り羽根があるのでキレイな「円形絞り」になります。
鏡筒を立てて写しました。
前玉側に直ぐにプリセット絞り機構部を装備しているので、まずは「絞り環」を組み付けます。
この「絞り環」に用意されている「ツマミ」が個性的です。このツマミを押し込むことで直下の「プリセット絞り環」のロックが解除され、希望する絞り値にセットできる「プリセット絞り」方式です。開放F値「f2.5」とセットしたF値との間で絞り羽根の開閉を操作できます。
「プリセット絞り環」を組み付けます。
ツマミを押し込んでいる間、プリセット絞り環が個別に回るので「指標値マーカー (縦線) Ι 」を希望する絞り値に合わせてツマミから指を離します。(例) 絞り値「f5.6」で撮影するならツマミを押し込み「f5.6」の位置まで縦線のマーカーを回します。それから指をツマミから離して絞り環を一旦「開放f2.5」に戻します。ピント合わせを開放にて行いシャッターボタンを押す際に絞り環を回せば設定してある「f5.6」位置で止まり絞り羽根がその幅で閉じて撮影されます。
この次はヘリコイド(オス側)を組み付けます。
ヘリコイドの真ん中に縦方向の「溝」が用意されています。この溝は「直進キー」と言う距離環の「回転するチカラ」を鏡筒の前後動する「直進するチカラ」に変換する役目の突出棒が前後に直進スライドします。
このモデルは鏡胴が「前部」と「後部 (マウント部)」の2つに大きく分かれる構造をしています。そのため鏡胴「前部」を保持する役目もこの「直進キー」が兼ねています。
上の写真では真鍮材の「直進キー」が組み付けられていますが、まだフリーの状態で今の段階では固定されていません (差し込んであるだけの状態です)。この「直進キー」は最後にマウント部でネジ止めされ固定されます。従ってマウント部に対して鏡胴「前部」が独立して前後動できる仕組みになっているワケです。
距離環(ヘリコイド:メス側)を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」は装備されていないので、全部で8箇所あるネジ込み位置を間違えずにネジ込みます。ここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラすハメに陥ります。
上の写真ではマウント部のベース環をセットしています。2箇所のネジ止めで先の「直進キー」が固定されましたので、もう既に鏡胴「前部」は独立して前後動できるようになっています。この状態にマウントを固定ネジ3本で組み付ければ、あとは光学系をセットして完成間近です。
まずは光学系前群を組み付けます。
この個体は光学系が非常にキレイな状態を維持しておりキズもほどんど無く大変クリアです。
上の写真 (3枚) は光学系前群のカビ除去痕としての極微細な点キズを拡大撮影で撮りましたが、微細すぎてすべては写りませんでした。実際には、順光目視では上の写真の点キズさえも見つけるのは容易ではないと思われます。
光学系の状況:順光目視にて様々な角度から確認。カビ除去痕としての極微細な点キズ:前群内8点、目立つ点キズ2点、後群内:3点、目立つ点キズ0点。コーティング経年劣化:前後群なし、カビ除去痕:あり、カビ:なし。ヘアラインキズ:前後玉共に光に翳して何とか視認できるレベルの極微細な薄いヘアラインキズが各1本程度。その他:非常にクリアです。前玉に極微細なコーティングスポット1点あり。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
次は光学系後群です。
光学系後群も大変キレイでクリアです。
上の写真 (3枚) は光学系後群を最大倍率の拡大撮影で写しています。最初の2枚はカビ除去痕としての極微細な点キズを撮影しており、3枚目は極微細な薄いヘアラインキズを撮っています。
上の光学系前後群の状態写真は、いずれもすべてワザと光に反射させて拡大し誇張的にキズなどの部分を撮影していますので、実際の現物ではそれらのキズを視認できるかどうかのレベルです。
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ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。日本国内ではほぼ皆無、海外オークション「ebay」でも当方がチェックしている限りでは「1年に1本」程度の頻度でしか出回らない超稀少なモデルです。「ブルシアンブルー」に光り輝くモノコーティングがとても魅惑的な輝きを放ちます・・。
レンズ銘板の製造番号の先頭2桁「FT」は藤田光学工業製であることを意味します。世界初の広角レンズ、フランスの「P.Angenieux Paris」社「RETROFOCUS TYPR R1 35mm/f2.5」とまったく同一の光学系諸元ですが、その筐体は大きく異なっておりだいぶコンパクトな造りになっています。
このように光学系内はオールドレンズなのかと疑うほどに大変クリアな状態をキープしています。
12枚の絞り羽根によるキレイな「円形絞り」です。拘ってアンジェニューの如く最小絞り値「f22」まで対応したのがさすがです・・。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感を全く感じさせない非常にキレイな状態を維持した個体です。
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所あります)。
ゼブラ柄部分の「光沢研磨」のみならず「梨地仕上げ」部分まで磨いているので大変美しい輝きを復活しています。
海外オークションは必ずチェックしていますが、昨年の春には今回の個体とほぼ同じレベルの個体が4万円後半まで進んでしまったので諦めました。熱心なファンがいらっしゃるようです・・。
後玉の出っ張りが僅かにありますので、距離環を「無限遠位置」にしたまま置くと後玉が当たってしまい「当てキズ」になりますのでご注意下さいませ。
せっかく状態の良い個体でしたので、当方の写真データに残す意味からも各絞り値での撮影を行いました。まずは開放「f2.5」での実写です。最短撮影距離50cm附近での開放実写になります。
次が絞り値を1段ずらしたF値「f2.8」です。
さらに1目盛ズラしてF値「f4」になります。
ツマミを押しながらプリセット絞り環を回すと、設定絞り値の場所で「カチッ」とプリセット絞り環がハマるので操作はし易いです。次はF値「f5.6」です。
F値「f8」になります。アウトフォーカス部の滲みが緩和されてきていますね。
F値「f11」です。この辺りが限界でしょうか・・。
次はF値「f16」です。
最後に最小絞り値「f22」になります。
レトロフォーカス型の光学系構成でもなかなか端正な描写をします。発色性が被写体色に近似しているので誇張的な要素は見当たらず、それに魅力を感じられる方に是非お勧めしたい逸品です。渾身のオーバーホールにて仕上げています・・ご検討下さいませ!
この個体には革製ケースが附属しています。蓋の刻印は「JUPLEN」になっていますが同型モデルですのでそのまま収納が可能です。