◎ ACCURA (アクラ) P. C ACCURAR 35mm/f2.5 zebra《藤田光学工業》(M42)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、当方が7年間も探し続けて、やっと入手した藤田光学工業製OEM輸出仕様の広角レンズ『P.C ACCURAR 35mm/f2.5 zebra (M42)』です。
このオールドレンズのブランド銘を何と読むのか・・調べてみると、唯一ノルウェー語で「アクラ」と発音しました (意味は不明)。そしてモデル銘もハッキリと「アクラール」と発音しています。距離環の距離指標値が「フィート」と「メートル」の両表記なので、おそらく欧米向け輸出品として生産された個体ではないかと推測します・・ところが、バラしてみると、今回初めて発見した事実がありました (オーバーホール工程の中で出てきます)。
当時、民生用の一眼レフカメラ (フィルムカメラ) のために用意されたレンズ群には、広角レンズとしての光学系設計モデルがまだ存在していませんでした。1950年に世界で初めてレトロフォーカス型構成の広角レンズが、フランス屈指の老舗光学メーカー P.Angenieux Parisより「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」として発売されます。その後1953年には、旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaからも同じレトロフォーカス型光学系を採用した広角レンズ「Flektogon 35mm/f2.8 (silver)」が発売されました。しかし、当時の日本には、まだ広角レンズを世に送り出せる会社が存在せず、遅れることさらに4年後の1957年になり、ようやく日本初の広角レンズとして「H.C FUJITA 35mm/f2.5 (zebra)」が藤田光学工業より発売されます。
今回出品する個体は、その藤田光学工業製広角レンズを原型モデルとした欧米向け輸出仕様のOEM製品になります。
【モデルバリエーション】
原型モデル:藤田光学工業製 (1957年発売)
H.C FUJITA 35mm/f2.5 (zebra)
あくまでも、このモデルが原型であり、それ以外のブランドモデルはすべてOEMモデルになります。
出現頻度は海外オークションでも1年に2〜3本レベルですから希少品の一つです。
OEMモデル:アメリカ向け輸出仕様
H.C JUPLEN 35mm/f2.5 (zebra)
海外オークションでも1年に5〜6本レベルで流通しているので、このモデルの中では最も出現数が多いタイプでしょうか。近年はヤフオク! でも出回っています・・。
OEMモデル:欧米向け輸出仕様
P.C UNEEDA 35mm/f2.5 (zebra)
7年間で1本しか出回っていない珍品です。当方が前回入手したのはアメリカ向けの輸出仕様品でした。レンズ銘板を見るとモノコーティングの名称刻印が「P.C」になっており少々異なります。
OEMモデル:欧米向け輸出仕様
P.C ACCURAR 35mm/f2.5 (zebra)
こちらも7年間で1本しか見つけていない超稀少品 (珍品) になります。やはりレンズ銘板のモノコーティング刻印が「P.C」になっています。
他にもアメリカ向け輸出仕様品として「H.C VOTAR 35mm/f2.5 (zebra)」或いは「H.C PEEROTAR 35mm/f2.5 (zebra)」「H.C TOWER 35mm/f2.5 (zebra)」なども見かけたことがありますが、いずれも珍品です。製造番号には必ず「No.FTxxxxx」といったようにシリアル値の前に「FT」が附随しており藤田光学工業製であることを現しています。さらに、製造番号の「No.FT」の次の「2桁」は暗号になっていることも掴んでいます・・それは、当方が7年間で扱った同型モデルが、今回でちょうど10本目にあたるワケですが、その中でブランド銘との関連を調べると、明らかに同じブランド銘で「No.FT」に続く次の「2桁」が同一番号になっています。これはいったい何を意味するのか???・・何と生産されていた本数は (輸出されていた本数は)、そのブランド銘では、たったの1,000本しかなかったことを意味します (シリアル値は3桁しかありません)。どんだけ希少なのか・・と言うことになりますね(笑) 一例では、本家の藤田光学工業製原型モデルは、すべて製造番号が「No.FT27xxx」で始まります。
ちなみに、モノコーティングを示す「H.C」や「P.C」の「H.」と「P.」が一体どのようなコトバの頭文字を現すのか当方はいまだ知り得ていません。「C」は当然ながら”Coating”の頭文字を現しているのだと推測できますが、当時のモノコーティングであることは間違いなさそうです。しかし、後玉のコーティングを見ると、モデルによっては「プリシアンブルー」に光彩を放つ個体もあれば、今回のように「パーブルアンバー」の輝きもあります。
今回出品する個体は、絞り羽根のキーの仕様からワリと「後期」に生産された個体ではないかと推測していますが、必然的に後玉のコーティングをイジっており「パーブルアンバー」の光彩を放っていますから、解像度の面では向上させているのではないかと考えています (初期の頃の出荷製品はプリシアンブルー)・・つまり、入射光を集光してきた後玉のほうでコーティング種別をイジっているワケですから、明らかに何かしらの狙いがあると言う考えです。その意味ではネット上の解説を見ると、前玉側のコーティング層の相違に拘っている方もいらっしゃいますが、描写性に大きく変化をもたせるならば「光学系後群 (後玉だけではありません)」のほうのコーティング層を変化させるほうが改善度合いが大きくなりますね。もちろんベストなのは、光学系の前後群共にコーティング層をイジるのが改善度合いが高くなります。要は光学系設計時の方針に拠ると思います。
以前、ロシアンレンズでコーティング層の相違による光学系諸元値 (解像度や色収差/歪みなど) の違いを調べたことがありますが (ロシアの光学研究所発行書に拠る諸元値データ一覧/ロシア語のキリル文字)、コーティング層をイジっただけで明らかに解像度などが向上している結果になっていました。つまり、ノンコーティング (コーティング層の蒸着無し) モデルよりは、プリシアンブルーのモノコーティング層を蒸着したモデルのほうが諸元値が向上しており、さらに、同じモノコーティング層でもパープルアンバーなコーティング層を蒸着してきたモデルのほうは、最も改善率が高い結果に至っていました。時代の流れと共に時系列で追っていくと、やがてはモノコーティングからマルチコーティングの多層幕コーティングへと技術は発展し現在に至っています。たかが、光学系硝子レンズが放つ光彩の相違だとは言え、逆にその違いによってオールドレンズから吐き出される画には、明らかな相違が現れてくるからオモシロイです。その意味では、同型モデルでも、生産時期の相違による描写性の違いを知って手に入れるのも「あり」ではないでしょうか・・。
- ノンコーティング (コーティング層の蒸着無し/無色透明):
光学諸元値の解像度が低く、諸収差/歪み率などが最も多い状態 (つまり改善がない状態) と言える。 - モノコーティング (プリシアンブルーのコーティング層蒸着モデル):
光学諸元値の改善を狙ってコーティング層を蒸着してきたモデル - モノコーティング (パープルアンバーのコーティング層蒸着モデル):
同じく光学諸元値の、更なる改善を狙ってコーティング層を蒸着してきたモデル - 複層コーティング (グリーンのコーティング層を重ねて蒸着したモデル):
モノコーティング層の上に、さらに薄い複層コーティング層を蒸着してきたモデル
(光学諸元値の改善よりも、描写性に何かしらの個性をもたせる目的で蒸着する技術) - マルチコーティング (多層幕コーティング蒸着モデル):
最も光学系の諸元値改善度が高いコーティング層を蒸着しているモデル
(光学諸元値の改善のみならず、描写性の相違を狙ったコーティング層も含んで蒸着)
・・こんな感じですが、ひと言で「コーティング」と言っても、これだけの相違が出てくるワケですから (しかも光学系前群と後群による違いもある)、オールドレンズを手に入れる際にはチェックして手に入れるのも一つの選定基準になると思います。例えば、ライカ製やMINOLTA製オールドレンズなどでは複層コーティング (アクロマチックコーティング/AC) が施されていたモデルがありますから、緻密でリアルな画にも拘わらず何処となくマイルド感漂う独特な描写性のモデルがあったりもしますし、逆に精緻な画造りのマルチコーティングモデルを手に入れるのも「あり」ですョね? もちろん、解像度の低さや諸収差を「味」として捉えるなら、オールドレンズライクな描写性を堪能する目的でワザとノンコーティングの戦前モデルなどを手に入れるのも楽しいです。オールドレンズ・・なかなか奥が深いですね。
製品の諸元値はすべてのモデルで同一であり5群6枚のレトロフォーカス型構成を採っています。ネット上を探しても光学系構成図などは一切掲載されておらず、今回バラした際の各硝子レンズのカタチを基にスケッチしたイメージ図を右に掲載しています (従って正確ではありません)。
光学系の構成は、まさしくP.Angenieux Paris製「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」を倣っていますが、最短撮影距離を50cmと短縮化させてきているので (Angenieuxは最短撮影距離:90cm)、第2群が平凸レンズに代わり、第3群も凸メニスカスを配置してきています。数が大変少ないですが、このモデルの参考になりそうな実写をFlickriverにて検索してみましたので興味がある方はご覧下さいませ。
筐体外観は、当時の日本では珍しいゼブラ柄ですが、第一印象は「頭でっかち」でした(笑) もう少しスマートな筐体のカタチを考えても良かったのではないかと思いますが、設計していったらこうなった・・的なところが、また逆に良いのかも知れません。実は、当方が一番最初に手に入れた広角レンズが、このモデルでしたので思い入れもあるワケですが、どこまでもナチュラルな描写性と、それでありながら何かインパクトを感じる画造りに魅了されました。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回初めて光学系を完全にバラすことができたので完璧に清掃を施しています。大抵は、光学系内の一部にコーティング層の経年劣化の進行が確認できたりするのですが、今回の個体は非常に良い状態 (つまり経年劣化が軽度なレベル) をキープした個体だったのでラッキ〜でした!
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在しています。
↑今回、このモデルを扱っていて7年間で初めての発見が上の写真です。絞り羽根に用意されている問題の「キー」の部分が、従来のプレッシングによる切り込み/折り返し方式 (つまり4枚の羽根) から、一般的な金属製突起棒の「キー」に変わっており、耐久性が大幅にアップしています。
この「キー」と言うのは、絞り羽根の表裏に1本ずつ打ち込まれている金属製突起棒で、一方は「絞り羽根の位置を確定する役目」であり、もう一方は「絞り羽根の角度を制御する役目」のキーになります。当然ながら、絞り羽根を組み込む際に「向き」をミスると、絞り環の設定絞り値に見合う絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) の大きさにならず、適正な絞り値になりませんから注意が必要です。
↑上の写真は過去にオーバーホールした際の別モデルの写真から転用しましたが、プレッシングで十字形の切り込みを絞り羽根に入れ、同時にプレッシング時に折り返すことで4枚の羽根が出来上がって「キーの代用」になる方式を採っていました。従って、経年の油染みなどを放置していると、このキーの代用としている「小さく薄い4枚の羽根」の一部が欠落してしまい、アッと言う間に絞り羽根の向きが制御できなくなりイキナシ「製品寿命」を迎えてしまいます・・この方式のキーは、欠落した場合一切修復ができません。
↑12枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成し組み込みます。さらに、従来は「カーボン仕上げ」の絞り羽根でしたが (油染みで錆びてしまう)、今回の個体は初めて「フッ素加工」が施された一般的なオールドレンズと同じ絞り羽根に変わっていましたから、これも耐久性の面で非常に安心です。
↑この状態で鏡筒を立てて撮影しました。このモデルは前玉側に「絞り環」と「プリセット絞り環 (機構部)」を備えているので、ここからその組み立て工程に入ります。
↑まずは大変美しい梨地仕上げ「ブライトシルバー」の絞り環をセットします。このモデルには必ず備わっている「ロック解除ツマミ」が独特で異彩を放ちます。
↑次に「絞り環」をセットしますが、この時に「ロック解除ツマミ」が機能するようセットするのと同時に絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り指標値との整合性も調整しておきます。上の写真では開放F値「f2.5」の位置に「プリセット絞り環」の「Ι」マーカーを合わせてあるので、プリセット絞りの設定は「f2.5」と言うことになります (つまり開放のまま動かない)。
↑他の絞り値にプリセット絞り値を変更する場合は、まずツマミを押し込みロックを解除したまま (上の写真ブルーの矢印:①)、プリセット絞り環を希望する設定絞り値まで回します。そこでツマミを押している指を離すと「カチッ」と言う音がして、プリセット絞り環がハマるので (②)、開放F値「f2.5」〜設定絞り値 (上の写真ではf4) の間で絞り羽根の開閉ができるようになります (クリック感の無い無段階の実絞り)・・つまりプリセット絞り機構ですね。
↑ヘリコイド (オス側) を組み付けます。鏡筒を直進動させる設計を採っているので、距離環を回して鏡筒を繰り出しても絞り環操作やプリセット絞り環の操作などは完全に独立しており、合焦させた後にボケ具合をイジったとしても、ピント位置に影響してしまう (ピント位置がズレてしまう) ことはありません。
当時、日本のオールドレンズで前玉側に絞り環やプリセット絞り環を配置しているオールドレンズは数多く存在していましたが、「頭でっかち」な絞り操作関係の部位を繰り出しても、その「重さ」に決して負けないような、とてもシッカリとした厳密な精度でヘリコイド (オスメス) のネジ山を切削していたこと・・さらには、上の写真のとおり大変小径なヘリコイドとネジ山数 (ネジ山の長さ) で設計してきたところに、当時の日本工業技術の確かな「自信」を感じずにはいられません。
このモデルの原型となった「H.C FUJITA 35mm/f2.5 (zebra)」が登場したのは1957年ですから、1964年開催の東京オリンピック、或いは1964年開業の新幹線など、それ以前のまだ戦後の匂いが日本中に漂っている僅か12年足らずで、このような素晴らしい生産品を世に送り出せたことに、同じ日本人として何か誇りのような思いが込み上げてきます・・国を挙げて国民が皆、同じ方向を向いてひたすらに頑張り国の再建を目指していた当時の方々に感謝の念に堪えません。
↑この状態でひっくり返して撮影しました。このような感じで小径のヘリコイド (オス側) がセットされます。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割になっている構造なのですが、二分割方式を採ってきている一般的なオールドレンズのように完全に独立した状態で組み上げていくのではなく、鏡胴「前部」から順番に組み上げていくと鏡胴「後部」もセットされて完成すると言う、少々異なる手順 (積み重ね式) による組み立て方法です。
↑いよいよ、このモデルの組み立てに於いて最も調整が難しい佳境を迎えます。上の写真は「直進キー」と言う真鍮製の環 (リング/輪っか) になりますが、距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツになります。ヘリコイド (オス側) には、上の写真の赤色矢印のところに「溝」が用意されており (両サイドに1箇所ずつの計2箇所)、そこを直進キーがスライドすることで鏡筒が繰り出されたり収納したりしています。
・・何を言いたいのか? つまり、上の写真をご覧頂くと分かるのですが、黄金色に輝く真鍮製の直進キー (環/リング/輪っか) の「厚み (深さ/長さ)」が相当あり、その部位が完璧に滑らかな駆動をしなければ距離環を回した時にトルクムラや重さを感じる結果に繋がってしまいます。当然ながら金属のカジリ付 (固着してしまう現象) を防ぐ意味合いから異なる材質であるアルミ材と真鍮材を使って、これらの構成パーツを用意しているワケですが、そうは言っても、この部位の切削精度に架かっていることは想像に難くありません。前述のとおり、ヘリコイド (オスメス) のネジ山切削精度に見る日本工業技術の粋のみならず、これだけの深さを持った直進キーを装備させてきたことに、図らずも職人魂のような「匠」の精神に感じ入ってしまいます・・こうやって眺めると、直進キーからフィルター枠方向に向かって順に構成パーツの外径が大きくなっており、架かってくる「重さ/抵抗/負荷」に負けない確かな技術力が一目瞭然です。当方が冒頭の解説で「頭でっかち」と申し上げたのは、実は単に筐体デザインの印象としてではなく、内部構造や設計に纏わる「拘り」を感じ得た総合的な印象として (褒めコトバとして) 申し上げている次第です・・「頭でっかち=日本工業技術の自信の賜物」のようなニュアンスでしょうか。
↑金属の性質 (カジリ付防止) を考慮するならば、次に入るヘリコイド (メス側) の材質は「アルミ材削り出しパーツ」であるべきですが、何と同じ真鍮材を採ってきています。上の写真グリーンの矢印のヘリコイド (オス側) にネジ込まれるヘリコイド (メス側) は、確かに材質が異なる (アルミ材に対して真鍮材) のですが、よ〜く観察すると直進キーの環 (リング/輪っか) 部分とヘリコイド (メス側) の内側部分とは接触する設計であることが判ります。つまり同じ真鍮材同士が接触している箇所・・と言うことになりますね。ここでピ〜ンと来た人は、バラして整備している経験が豊富な方です(笑)
↑上の写真は、前述の真鍮材で作られているヘリコイド (メス側) に先に距離環を組み付けてから (後から距離環をセットすることができません)、無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込んだ状態で撮影しています。このモデルでは全部で4箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
同じ真鍮材の直進キー環 (リング/輪っか) とヘリコイド (メス側) を用意していた理由が、上の写真の解説になります・・何と「空転ヘリコイド」だったワケです。「空転ヘリコイド」は360度グルグルといつまでも止まらずに回すことができるヘリコイドを指しますが、単に金属表層面の平滑性を確保しただけではダメで、塗布するヘリコイド・グリースの性質がそっくりそのまま距離環を回す際の印象に現れてしまう性質があります。つまり、この「空転ヘリコイド」に最近では「白色系グリース」を平気で塗っているメンテナンスが横行していますが、実は当時ここに塗るヘリコイド・グリースは「黄褐色系グリース」しか想定していませんでした・・それもそのハズで、何しろ1957年当時のお話ですから、まだ「白色系グリース」が普及していない時代です。
従って「空転ヘリコイド」が出てきたことから必然的に「黄褐色系グリース」を塗布することが前提になり、同時にそれは構成パーツ (直進キー環とヘリコイドメス側) の平滑性が大変重要な話になってきます・・ところが、大抵の整備では、これら真鍮材は経年劣化から酸化が進んでしまい、表層面は「焦茶色」に変色しており想定外の「摩擦」が生じています。一般的なメンテナンスでは、その上からグリースを塗るので自動的にトルクムラが生じにくい「白色系グリース」を塗布すると言う結果に結びつきます。しかし、白色系グリースを塗ると「擦れ感」があるので距離環を回す際の (おそらく生産当時には感じられていたであろう) シットリした感触のトルク感は・・実現できません。
長々と解説してきましたが、このモデルの最大の山場は・・この「空転ヘリコイド」の仕上げ方と言うことになるワケです。当然ながら、当方は (そのために)「磨き研磨」をしているのですから「黄褐色系グリース」を塗布してシットリとした、それでいて粘性を感じる独特なニュアンスの仕上がりに調整しています。鏡胴の動きとしては、上の写真で距離環を回すとグリーンの矢印で示した「梨地仕上げのブライトシルバー」な部分が繰り出されたり収納したりするワケです。
↑ようやくマウント部のベースにあたる指標値環がセットされました。この後は、マウント部を被せて光学系前後群を組み付け、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすればいよいよ完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑正直、7年間も探し続ける必要があるのか否か、自分でも確たる理由が無いのですが(笑)、少なくとも存在するハズのブランド銘だったなので、意地になってしまったのかも知れません・・しかし、頻繁にお目にかかる「JUPLEN」や本家「FUJITA」と比較すると大変貴重な1本 (逸品) であることだけは間違いない事実でしょう。距離環の距離指標値が「フィート」と「メートル」の両表記による刻印なので、このモデル「ACCURA」ブランドはアメリカのみならず欧州にまで流されていたのかも知れません・・ロマンを感じますね(笑)
↑光学系はとんでもないほどに透明度が高く、何ひとつ明記することがありません!
↑上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。「何も無い」などと言うと必ずクレームを付けてくる人が居ますから(笑) マジッで極微細な点キズや汚れ、薄いクモリなどを探しまくりました・・しかし、ありません(笑) 上の写真で薄いクモリがあるように見えているのは光の反射でそのように写ってしまっただけで (光学系内部をご覧頂こうと考えたのですが写真スキルが皆無なので、こんな写真でスミマセン)、実際にLED光照射しようがライトに透かしてみようが「極薄いクモリは皆無」としか言いようがない状態です。極微細な点キズが「ゼロ〜ぉ!」とは書けないので、ほんの微かにチラッと見えただけでもカウントして、何とか数を揃えました(笑) ちなみに、前玉のコバ面は一部にコバ塗膜が僅かに浮いている箇所があるので、白っぽくなっています (前玉表面のキズではありません/写真への影響なし)。
↑光学系後群も恐ろしいほどにクリアです。某国人が「恐ろしい」と言うコトバをよく使うのですが (例:日本人は恐ろしいほど○○○だ)、この「恐ろしいほどクリア」と言う表現を自ら使って、初めて意味が理解できたような感じです・・(笑)
↑実は、このモデルは (すべてのブランド品で) 距離環の停止位置が無限遠位置だった場合に、上の写真のように後玉の先端部分がほんの僅かに顔出ししています。従って、無限遠位置にした状態で後玉を下側にして置いてしまうと「当てキズ」を後玉中央に付けかねません・・要注意です!
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。よ〜く見ると、やはり過去の使用に於いて、後玉中央付近に当てキズならぬ、擦れを付けてしまったのかと思しき非常に薄い汚れ状の箇所がありますが、本当に薄いので写真には一切影響しません (何とか反射させて写してみました)。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:6点、目立つ点キズ:4点
後群内:7点、目立つ点キズ:5点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ有り)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・汚れ/クモリ (LED光照射/カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
・光学系内の透明度は非常に高い個体です
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
↑このモデルでは大変珍しい金属製のキーを装備している、新しい設計の絞り羽根12枚を使った大変美しい真円に近い「円形絞り」です。しかも、従来の「カーボン仕上げ」から「フッ素加工仕上げ」に絞り羽根は処理が変わっているので、将来的な油染みによるサビも安心です (カーボン仕上げの絞り羽根は油染み厳禁!)。オールドレンズの内部で使われている構成パーツは、例え固定ネジ一つにも、その材質から目的や役割に至るまで、何かしらの理由なり必然性があって存在していますから、たかが絞り羽根かも知れませんが「カーボン仕上げ」か「フッ素加工」なのかにも注意が必要です (経年のサビによりキーが脱落、或いは欠損してイキナシ製品寿命を迎えるからです)。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感をほとんど感じ得ない、とてもキレイな状態をキープした個体ながらも、当方による「磨きいれ」を施したので大変美しい落ち着いた仕上がりになっています。
↑距離環の距離指標値を見ると分かりますが、「フィート」のみ、或いは「メートル」のみとせず、ギリギリの位置ながらも両表記していることがポイントです・・つまり、欧米の両方に輸出していたことを伺わせています (アメリカ向け輸出限定モデルはフィートのみの表記個体が多い)。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「軽め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑このモデルをパッと見た時に「気品」とか「品格」を感じたのですが、絞り環やプリセット絞り環に施された「ブライトシルバー」な梨地仕上げのメッキ加工が大きく影響しています (フツ〜多いのはマットな梨地仕上げによるシルバー)。そして、何と言っても当時のに日本製オールドレンズではキチョ〜な「ゼブラ柄」です。もちろん、ゼブラ柄部分 (アルミ材削り出し部分) も「光沢研磨」を施したので (当然でしょ!)・・眺めているだけでウットリですョ(笑)
このモデルのピントの山が大変掴みにくいので、敢えて距離環を回すトルク感は「軽め」に仕上げました。もちろん、前述のとおり「黄褐色系グリース」を塗布したのでシットリ感を優先しています。
↑さて、今回の個体で唯一問題になってくる話です。今回の個体はマウント部が「M42マウント」なのですが、当時のフィルムカメラに装着することしか想定していない時代の設計ですから、上の写真のとおりマウント部の突き出しが最大「8.3mm」あります・・つまりデジカメ一眼やミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着される場合は「非ピン押しタイプ」のマウントアダプタしかご使用頂けません (ピン押しタイプのマウントアダプタの場合、最大でもピン押し底面の深さは6mmしかありませんから最後までネジ込めません)。ここを誤って解釈してしまうと無限遠が出ません (合焦しません) からイキナシ使えないオールドレンズになってしまいます・・事前告知しているのでクレーム対象としません (それでも時々、平気で返してくる人が居ますが)。
↑上の写真のような「ピン押し底面が無い」マウントアダプタ・・つまり「非ピン押しタイプ」のM42マウントアダプタが必要になります。もちろん、フィルムカメラに装着されるならば、そのままご使用頂けます (但し、ミラー干渉などは当方の責としませんからお願い申し上げます/そのためにマウント面の突き出し量をワザワザ調べて告知しています)。
どう言うワケか、市場に流通しているM42マウントアダプタは、ほとんどが「ピン押しタイプ」ばかりなので、現状「非ピン押しタイプ」で (安く手に入るの) は、上の写真のモデル「FOTGA製M42マウントアダプタ」しかありません。残念ながらすべてのカメラボディ用が用意されておらず、現状入手可能なのは「SONY Eマウント用」と「富士フイルムXマウント用」に「マイクロフォーサーズ用 (Panasonic/OLYMPUS共に対応)」しかありません。
今回のオーバーホールでは上の写真のマウントアダプタ (SONY Eマウント用新古品) を使って整備しましたので、もしもご入り用の方はご落札後の一番最初のメッセージにてお申し出頂ければ「別途1,000円加算」にてお譲り申し上げます (同梱発送します)。今回出品個体も距離環の距離指標値位置や無限遠位置 (合焦) も、このマウントアダプタにて装着して位置調整しています (ほぼ真上に近い位置/僅かにズレ有りで停止します)。
↑今回の出品個体には上の写真のような附属品があります・・オリジナルの化粧箱 (ACCURAR LENSと謳っています)、純正かどうかは不明ですがシルバーなフィルターと金属製の後キャップです。もちろん、フィルターも金属製後キャップも「光沢研磨」を施したのでピッカピカに輝いており「所有する悦び」を増幅してくれますョね?(笑)
↑今回、さらに社外品ですが (KONICA製) 樹脂製のピタリとハマる前キャップも探して附属しました。パカパカではないシッカリと被せられる前キャップです・・上の写真は、実際にフィルターと金属製後キャップを填めて撮影しました。
↑非ピン押しタイプのM42マウントアダプタに装着すると・・こんな感じです。マウント面に (当然ながら) 隙間が空きませんから、無限遠合焦もキッチリです (ほんの僅かにオーバーインフ設定にしてあります)。なお、距離環の距離指標値で無限遠位置は刻印の「∞」手前下にある「・ (ドット)」白点が無限遠位置になりますが、これはズレた位置で組み上げてしまったのではなく、このモデルの仕様上 (設計上) ですからクレーム対象としません (すべてのモデルで同じ設計です)。
↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。
↑絞り環を回して設定絞り値を「f2.8」にセットして撮影しています。