◎ MIRANDA CAMERA (ミランダカメラ) AUTO MIRANDA 35mm/f2.8《1972年製》(MB)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホールが終わってご案内するモデルは、国産は
MIRNADA CAMERA製準広角レンズ・・・・、
『AUTO MIRANDA 35mm/f2.8《1972年製》(MB)』です。
(オーバーホール/修理ご依頼分につきヤフオク! 出品商品ではありません)
※当方データベース記録用として無償にてブログ掲載しています
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainieie! Geroyam Slava!
今回オーバーホール済でご案内するモデルは当方がオーバーホール作業を始めた10年前からの累計で今回が初めての扱いになります。
このモデルの素性/背景を知りたくていろいろ調べたところ、同じタイプをネット上で探しても凡そ300枚ほどの個体写真をチェックしたにもかかわらずついに同一のタイプは1本も発見できませんでした(泣) 唯一筐体意匠が異なる別タイプ (おそらく同じ時期に発売) を1本だけ発見できたという状況です (つまり今回扱った個体は相当珍しい)。
いえ、当方は極度のカメラ音痴ですが(笑)、正直なところそれでもMIRANDAのフィルムカメラやオールドレンズ達にとても惹かれ大好きなのですが、そうは言ってもなかなか分かり易くまとめてくれているサイトが某有名処しかなく、さすがに毎回このブログにアップする度にオーバーホール作業よりもむしろその調査/探索に時間を要してしまう状況です(笑)
今回はちょっと自分の為にも以降参照できるよう、時系列でMIRANDA製一眼レフ (フィルム) カメラの発売時期をまとめてみようと思います。
《MIRANDA製一眼レフ (フィルム) カメラ発売時期》
※以下掲載一眼レフ (フィルム) カメラ以外にも多数在ります
❶ Miranda T-1:1957年発売
❷ Miranda C:1959年発売
❸ Miranda S:19959年発売
❹ Miranda D:1960年発売
❺ Miranda automex II:1962年発売
❻ Miranda DR:1962年発売
❼ Miranda F:1964年発売
❽ Miranda automex III:1964年発売
❾ Miranda G:1965年発売
❿ Miranda SENSOREX:1966年発売
⓫ Miranda FV:1966年発売
⓬ Miranda SENSOMAT RE:1968年発売
⓭ Miranda SENSOREX C:1970年発売
⓮ Miranda SENSOREX II:1972年発売
⓯ Miranda SENSOREX EE:1972年発売
⓰ Miranda RE-II:1975年発売
⓱ Miranda EE-2:1975年発売
⓲ Miranda dx-3:1975年発売
そこで今度は、発売時期を基に時系列で並べた一眼レフ (フィルム) カメラの取扱説明書を確認し、その中のオプション交換レンズ群から「発売のタイミングで用意されていた準広角レンズ35㎜」を探ってみました (取扱説明書に写真付で明示/一部一覧のみ)。
↑一番最初に登場した準広角レンズは焦点距離35㎜でも開放f値が「f3.5」タイプでした (Miranda 35mm/f3.5 Wide Angle)。そしてこの準広角レンズは上記一眼レフ (フィルム) カメラの❶ Miranda T-1 (1957年発売) 〜 ❸ Miranda S (1959年発売) の期間で取扱説明書のオプション交換レンズ群に掲載されていました。ちなみに実装光学系はレトロフォーカス型としても5群5枚と明記されています。
↑次にモデルチェンジして登場したのが上のタイプで開放f値が「f2.8」と明るくなっています (Miranda 35mm/f2.8 Wide Angle)。この準広角レンズが取扱説明書のオプション交換レンズ群に掲載されていた一眼レフ (フィルム) カメラは❸ Miranda S:19959年発売 でした。当初発売されていた開放f値「f3.5」タイプ同様にプリセット絞り機構を装備していますが、こちらは2段でプリセット絞り環と絞り環を分けています。こちらの実装光学系は5群6枚レトロフォーカス型ですが、以降発売の一眼レフ (フィルム) カメラでも併売を続けていたようです (開放f値f3.5モデルも存在する)。
↑ここから準広角レンズ含め全てのオプション交換レンズ群で自動絞り方式を採用してきます(Miranda 35mm/f2.8 Wide Angle)。鏡胴横のマウント部直前に配された「丸形のA/M切替ツマミ」が特徴的です。この準広角レンズをオプション交換レンズ群に含んでいた一眼レフ (フィルム) カメラは❹ Miranda D:1960年発売 〜 ❻ Miranda DR:1962年発売まででした。なおこのモデルの光学系は6群7枚に変わっているようです。
↑左側の準広角レンズは一つ前のタイプと同一品ですが、どう言う経緯があったのか不明ですがもう1種類の準広角レンズ (右側) を追加しています (両方ともモデル銘が一部変更になりAUTO MIRANDA 35mm/f2.8)。共に鏡胴横マウント部直前に「丸形のA/M切替ツマミ」を配しています。これらの準広角レンズがオプション交換レンズ群に掲載されていた一眼レフ (フィルム) カメラは❼ Miranda F:1964年発売 〜 ❽ Miranda automex III:1964年発売 です。同様光学系は6群7枚レトロフォーカス型構成です。
↑「AUTO MIRANDA 35mm/f2.8」として最も長期間に渡りオプション交換レンズ群に掲載され続けていたのが上の準広角レンズです。該当する一眼レフ (フィルム) カメラは❾ Miranda G:1965年発売 〜 ⓮ Miranda SENSOREX II:1972年発売になります。
↑一眼レフ (フィルム) カメラ⓯ Miranda SENSOREX EE:1972年発売からオプション交換レンズ群のモデルが一新され「AUTO MIRNADA E」刻印が附随し開放測光方式を採り入れています (鏡胴側絞り環の刻印はEE表記)。
↑いよいよ1976年の倒産を向かえる直前たる最後の発売モデルですが、一眼レフ (フィルム) カメラ⓰ Miranda RE-II:1975年発売 〜 ⓲ Miranda dx-3:1975年発売の取扱説明書に掲載されるオプション交換レンズ群は「ECモデル」に代わり事実上最後のタイプとなります。
こんな感じで一眼レフ (フィルム) カメラのモデルは多いですし、合わせて焦点距離「35㎜」準広角レンズに絞って調べてもモデルチェンジが多く、仕舞にはこれに「Soligorシリーズ」が加わりますからとんでもなく複雑です。
残念ながら・・ここまで調べるだけでほぼ半日を要しておりチカラ尽きました・・(笑)
↑上の2つのタイプが実はネット上を探していても全く発見できなかった準広角レンズ「AUTO MIRANDA 35mm/f2.8」ですが、そもそもこの2種類は前記した一眼レフ (フィルム) カメラの取扱説明書全てのオプション交換レンズ群に掲載がありませんでした。
するとネットに個体写真が無くて取扱説明書の一覧でさえも掲載が無いとなるといったいいつ発売されたのかが不明です。
上の写真のうち左側が今回扱った個体になります。この2本のオールドレンズをよ〜く見ると、実は絞り環に附随する/飛び出ているレバーが大きなポイントになります。
・・このツルツルのレバーを装備した個体がネットで発見できないのです!(驚)
しかしマウント部に存在する「絞り連動ピン」にプラスしてもう1本突出している金属製の棒状ピンがヒントになりました。一眼レフ (フィルム) カメラ本体側に「開放絞り値を伝達する棒状ピン」なのが判明し、この事から該当する一眼レフ (フィルム) カメラを逆に探ると分かりました!(涙)
・・⓮ Miranda SENSOREX II:1972年発売で伝達ピンを採用しています。
そして合わせて上の2本の写真右側がflickriver.comに載っていて「1973年」と記載されているので、やはりタイミング的に⓮ Miranda SENSOREX II:1972年発売なのがより補強された印象です。
しかしもっと驚いた現実は「今回扱った個体のフィルター枠が他のモデルと別モノ」である点です。上の2本の写真左側が今回扱った個体ですが、そのフィルター枠径「⌀ 52mm」に対し、当時発売されていた多くのMIRANDA製焦点距離「35㎜」準広角レンズが右側タイプと同じフィルター枠径「⌀ 46mm」で設計してきています。
・・レバーは違うしフィルター枠の設計も違うし、然し中味は間違いなくMIRNADA製。
なかなかハードな現実を突きつけられ、本当にMIRANDA製品はいつもながらの消化不良状態です (胃に良くない)(笑)
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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。
◉ 一段目
そもそも実写が乏しくて参考にする写真がありません。パッと見でコントラストが高めに見えますが、実際はそうではなくて/決してコッテリ系ではなくてむしろナチュラル派的な印象さえ覚えます。
当方はこのMIRANDA製オールドレンズ達のナチュラル感を漂わせつつもキッチリ収めるべき記憶色を残してくれる配慮がいつも堪りません (大好きなんです)(笑)
街中の陰影写真も十分な解像度共にダイナミックレンジを持っていて、決して安易に黒潰れに堕ちません・・素晴らしい。
◉ 二段目
このような風景写真がまたステキなんです。ピーカンでのコントラストの高さが逆にさすがに見えますし、その一方で遠景の霞をちゃんと写真に写し込める要素に頷いてしまいます。SIGMA製の今ドキのデジタルなレンズでもこの要素が本当に素晴らしくて嬉しくなりますね。人間の瞳で見たがままの印象として/記憶色として残してくれるのが嬉しいのです。
光学系は典型的なこの当時の5群6枚レトロフォーカス型構成で、右の構成図は1950年に世界で初めて開発され登場したフランスはP. ANGÈNIEUX PARIS社製の準広角レンズ「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」になり、特に 部分で色付けした基本成分からして「3群4枚エルマー型」なので、必然的にピント面の解像度が高いと容易に察する事が適います。
従って巷で評価される「レトロな写り」或いは「ハイキ〜な写り」との受け取り方は当方には甚だ差別的に聞こえます。そもそも戦前戦後で主流を占めていたのはバックフォーカスが短い一眼 (フィルム) カメラやレンジファインダーカメラでしたから、そこにクィックリターンミラーを装備した一眼レフ (フィルム) カメラが登場して慌てて開発されたのが「レトロフォーカス型」です。
まるで言葉の綾をとっているが如きな話ですが「レトロ:後退 (させる)」にプラスして「フォーカス:焦点 (を)」なので、印画紙たるフィルム面迄の距離が長くなってしまった分、結像点を延伸させる目的が「レトロフォーカス」たる造語の意味なので、これを「古めかしい/レトロチックな」と受け取ってしまう事に齟齬が生まれています。
上の右構成図を確認すれば明白なとおり、基本成分にテッサー型構成を持ってきているので甘い写りになるハズがありません。画の周辺域での収差を指摘しても、そんなのは当時のオールドレンズにすればどれも五十歩百歩だったのではないでしょうか。
詰まるところバックフォーカスを延伸させる目的で前衛に凹メニスカスと両凸レンズを配置しただけの話なので、ハイキ〜だったり甘い写りに至るのは「むしろ個体の光学系の問題」と当方ではみています (特に第2群〜第3群のクモリが多い)。もちろん最後の後玉自体が貼り合わせレンズですからバルサム切れが生じていれば微かに白濁化が始まっていても不思議ではありません。
今回扱った個体を完全解体した後、光学系の清掃時に逐一各群の光学硝子レンズを当方の手でデジタルノギスを使って計測したトレース図が右図です。当然ながら同じ5群6枚のレトロフォーカス型構成で、且つ基本成分まで同一の 部分たる3群4枚エルマー型構成です。
◉ フランジバック
レンズマウント面から撮像面 (フィルムカメラならフィルム面でデジカメ一眼/ミラーレス一眼ならば撮像素子面) までの距離
◉ バックフォーカス
光学レンズの後玉端から撮像面 (フィルムカメラならフィルム面でデジカメ一眼/ミラーレス 一眼ならば撮像素子面) までの距離
◉ 貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す
◉ バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態
◉ ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態
◉ フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーやパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く
◉ コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない
◉ フレア
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す
◉ フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造としてはこの当方ブログにアップ済の他のMIRANDA製オールドレンズとほぼ同一で、多少モデルによって光学系が占める容積が増大するとその影響から一部の部位で設計変更を余儀なくされている背景が伺える程度です。おそらくあ〜だこ〜だ議論しながら必要パーツを残された空間内に上手く収めていったのでしょう。
オモシロイと感じたのは当時の大手光学メーカーで例えばCanonやOLYMPUS他含めて圧倒的多数が「直進キーをヘリコイドの両サイドに備えて可能な限り均一に抵抗/負荷/摩擦を及ぼすよう設計していた」のに対し、NikonやMINOLTAなどは「直進キーを1箇所に用意していた光学メーカー」であり、実はMIRANDA製オールドレンズも直進キーが1箇所と言う設計を踏襲し続けました。
・・これがいったい何を意味するのか?
ヘリコイド (オスメス) は多くの場合で内側に鏡筒を内包する設計なので、互いに必要とする勾配をつけて螺旋状に回転させながらも全体に直進動を目的としたネジ山の構造を採りますが、その一方で距離環は純粋に回転動を目的とした構造を採り、オールドレンズの内部では何処かで「回転動を直進動に変換させる構造」を執らない限り「チカラの伝達が適わない」話になるのは道理です。
皆さんはフツ〜にいつもピント合わせするのに距離環を回しながら暗黙の了承で鏡筒を繰り出したり/収納したりさせつつ操作しています。しかしそれはそもそも「回転動を直進動に変換させる構造」を内部で執っているからこそ距離環を回すその「指で感じるトルク感と抵抗に違和感がない」ワケですが (もちろんあくまでも使っているオールドレンズが正常で適切に仕上げられていると仮定したお話)、その指で加えている「チカラ」がそのまま隅々までロスせずに伝わらない限り、例えばとても重いトルク感だったり引っかかったりと、それらの感触は自ずと違和感として残って不満を募らせます。
すると誰が考えてもオールドレンズのヘリコイドが円筒状である事からも「回転動を直進動に変換する役目のパーツはヘリコイドの両サイドに在ったほうがより均質に伝達が適う」との結論に到達します。
すると何故NikonやMINOLTA、或いは今回のMIRANDAは円周上の1箇所にその役目のパーツ「直進キー」を備えてしまったのでしょうか (両サイドに配置しなかった)?
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
例えば当時のそれら「直進キーが1箇所にしか配置されない光学メーカー」のNikonやMINOLTA、MIRANDAをみても特にオールドレンズの筐体サイズをコンパクト化させて設計していた話でもありません。もしもそれを指摘するならむしろOLYMPUSのほうがコンパクト化にこだわっていたので、直進キーをヘリコイドの両サイドに配置せず1箇所にしたほうが「筐体内部で使える容積が少しでも増える」話に至ります。
しかし実際は逆に設計しています。OLYMPUSの当時の「OM-SYSTEM」のオールドレンズは多くのモデルが「指標値環がマウント部直前の薄い環/リング/輪っかで設計され」合わせて当時の多くの光学メーカーがマウント部側に絞り環を配置していたにもかかわらず「OLYMPUSは旧態依然たる前玉側直下への絞り環配置にこだわり続けた」のが現在市場流通している多くのOLYMPUS製オールドレンズを見ればすぐに分かります。
しかしそのひたすらにコンパクト化にこだわり続けたOLYMPUSでさえ「直進キーはヘリコイドの両サイドに配置」と言う設計が主流です。
内部構造に詳しいか否かは別にしてもどう考えても「直進キーはできるだけ両サイドに配置したほうが均質な操作/チカラの伝達を期待できる」との結論に到達します。
そんな中で前述のNikonやMINOLTA、MIRANDAが「円周上の1箇所に直進キー配置を採り続けた理由/背景」とは例え円周上の1箇所に直進キーが配置されるデメリットがあるとしても、そこにヘリコイドのネジ山の平滑性が担保されれば決してデメリットだけに終わらないとの設計思想があるのではないかと当方は考えています。
前述のOLYMPUSで言えばマウント部直前の指標値環は他社光学メーカーの同格品と比較しても明らかに薄く短い厚みしかなく、さらに絞り環は前玉側に位置しどう考えてもチカラの伝達経路として考えれば不利な話です。ところが距離環を太目/長めに採ってくると話が逆転して指で加えたチカラは「マウント部側の元からググッと前玉側の絞り環方向に伝わる」設計概念なのがバラしていると気づきます。
するとその時OLYMPUSは可能な限り直進キーでの「回転動から直進動へのチカラの変換」にマウント部側からググッと直進方向に伝達させる為に「両サイドが好ましかった」事が理解できてきます。
詰まるところ設計思想/概念からスタートして道理を結びつけていくくらいの切削や加工など凡そそれら「工業技術力」を有し、且つそれが裏打ちとなって「徹底的に光学系の設計を追求できる/集中できる」企業力だったからこそ、直進キーの配置とその数は「決して道理からスタートしていない」ことにバラしていて気づきました。
・・バラしているとそうやって各光学メーカーなりの意地が伝わってくるのです(涙)
おそらくこれこそがまさにニッポンの世界に誇る工業技術力の基本的なモノの考え方、捉え方の原点だったのではないかと感銘を受けてしまいます(涙)
詰まるところ「道理」とは先に立たず後からついてくるべきであって、それにあまりにも愚直にひたすらに真っ正面から挑み続け、汗水流して歯を食いしばって頑張ってきた光学メーカーの誇りのようにも見えてしまい・・ちょっとホロッときちゃいます(笑)
・・と間違いなく今夜もこの個体をイジりつつ酒の肴が決定です(笑)
たかが「直進キーの配置と数」の話から尾びれが付いて長話になりましたが、バラしているからこそ見えてくる要素の一つだったりします。
↑ちょっと話が反れましたがそんくらいにMIRANDA製オールドレンズ達の一貫した設計思想/概念に改めて惚れ込んでしまいます(笑)
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。鏡筒外壁にはヘリコイド (オス側) ネジ山が切削されています。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑完成した絞りユニットを鏡筒最深部にセットしたところです。この当時の焦点距離「35㎜」準広角レンズとして考えた時、鏡筒の長さを短くして「光学系前群の格納筒を2つに分割させて延伸させる設計手法」とその一方で今回のこの個体のように「光学系前群を鏡筒内に実装させてしまう設計手法」の2種類があります。
例えば皆さんがよくご存知の旧東ドイツはCarl Zeiss Jena製準広角レンズ「Flektogonシリーズ」も前述の光学系前群を延伸させる2分割方式の設計を採っています。
その一方で今回のこのMIRANDAは光学系前群をコンパクトに設計してきて鏡筒に収めきってしまいます。そこに良し悪しは問題ではなく、むしろ「光学系の設計力」のほうが試される話ではないかと考えています。何故なら、意外にも今回のこのモデル『AUTO MIRANDA 35mm/f2.8《1972年製》(MB)』に実装されている光学系第2群〜第5群までの外径サイズは、先の「Flektogonシリーズ」よりも僅かですが大きめの外径だったりしますから、せっかく完全解体してオーバーホールしているなら単に自慢話に始終せずにそう言う一面もちゃんとご案内するべきですね(笑)
↑完成した鏡筒をひっくり返して後玉側方向から撮影しています。するとご覧のとおりとても簡素な構造ですが「開閉アーム」がコの字型の爪で用意されているだけで他に何もありません。
上の写真で指し示しているブルーの矢印の領域は、実は当初バラした直後に「反射防止黒色塗料」が厚塗りされていて、その一部がヘリコイド (オス側) のほうまで着色されていて抵抗/負荷/摩擦の一因になっていたようです (上の写真左端に僅かに反射防止黒色塗料が除去しきれずに残っている)。
なおオレンジ色矢印で指し示していますが、既に絞りユニットが組み込まれているので「完全開放状態」に見えますが、実はこのモデルは開放f値「f2.8」としても準広角レンズなので、他社光学メーカー同様に開放時の絞り羽根は「相応に顔出し状態に至る」のが常で、上の写真のように完全に開ききっている状態に設定されません (後で出てきます)。
《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
❶ 距離環を回すとトルクがスカスカ状態 (但しグリース切れの印象ではない)。
❷ 距離環と鏡胴とに相当なガタつきが残っておりガチャガチャしている印象。
❸ 開放時に絞り羽根の縁が極僅かに顔出ししている。
❹ 光学系内に極薄いクモリと汚れ状がある。
《バラした後に新たに確認できた内容》
❺ 光学硝子レンズのコバ端に反射防止黒色塗料を塗っている。
❻ 過去メンテナンス時に「白色系グリース」塗布。
❼ その後おそらく直近で潤滑油も注入されている。
❽ どうして筐体にガタつきが起きていたのか判明。
↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。筐体サイズからするとまるで前述のOLYMPUS製オールドレンズの如く少々薄めで短い印象の基台です。
↑その基台に黄銅製の立派なヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
筐体サイズに比較して既に上の写真を見ただけでもヘリコイドのネジ山数が多く「鏡筒の繰り出し/収納量が多い」のが分かります。
↑再び既に完成している鏡筒を立てて撮影していますが、上の写真解説のとおり鏡筒外壁にはヘリコイド (オス側) が備わります。その1箇所に冒頭でさんざん解説したように「直進キーが刺さる/スライドする先の直進キーガイド」が切削されています。
この「直進キーガイド (溝)」に「直進キー」というパーツが入ってスライドするので距離環を回したチカラ全てが直進キーを伝わって「直進動に変換されてダイレクトに伝達される」原理です。
↑鏡筒 (ヘリコイドオス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
すると基台には「制限壁」と呼ぶ出っ張りが備わり、その両端に距離環の内部に用意されている制限キーがカチンと突き当たるので、それぞれ無限遠位置と最短撮影距離位置で距離環の駆動が停止します (ブルーの矢印)。
しかし実はここの設計が独特で鏡筒 (ヘリコイドオス側) は黄銅製のヘリコイド (メス側) の下方向から潜ってネジ込まれる設計にしています。一般的には多くのオールドレンズで鏡筒 (ヘリコイドオス側) は写真で言う処の上の方向から/前玉側方向からネジ込んでいく設計が多いですが、このモデルは真逆です。
・・何を言いたいのか???
つまり上の写真の状態で鏡筒が相応に既に繰り出している状態で「鏡筒 (ヘリコイドオス側) はこれ以上黄銅製製のヘリコイドメス側に当たってしまい繰り出しできなくなる」のが一般的なオールドレンズとは違うのです。
するとヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置をミスると適切なトルクが実現できなくなると同時に、それは裏を返せば「ヘリコイドのネジ込み位置を変更できない/想定していない設計を採っている」事を意味するので、このモデルのオーバーホール作業は相応に技術スキルを持つ人でないと仕上げられません。
詰まるところ過去メンテナンス時の整備者はちゃんと仕上げていたので (ヘリコイドのネジ込み位置をミスっていなかったので) シロウト整備は難しくおそらくプロの整備会社の手によるものと推察できます。
↑この状態でひっくり返して後玉側方向から撮っています。左上に「直進キーガイド」が見えていますがまだ「直進キー」が入っていないのでこのままではピント合わせする「回転動を直進動に変換」の原理が整っていません (赤色矢印)。
↑上の写真はマウント部内部を撮っていますが、既に各構成パーツを取り外して当方の手により「磨き研磨」が終わった状態です。過去メンテナンス時にはこの内部にもグリースが塗られており、一部に「緑青」が生じていました。
マウント部なのでこの裏側には「マウントのバヨネット/爪」が備わり、当然ながら真鍮 (黄銅) です。
↑向きを変えて (半周分回して) 撮影していますがようやく「直進キー」が現れました。ご覧のとおり冒頭からの解説にも従い「円周上の1箇所に直進キーが用意されている方式」を採っています (赤色矢印)。さらにその附近には「絞り値キー」なる溝が刻まれていて、ここに鋼球ボールがカチカチとハマるのでクリック感が実現される仕組みです。
その一方でブルーの矢印で指し示していますが「絞り連動ピン用の楕円形状の穴」が開いています。
↑さらにその「直進キー」の箇所を拡大撮影しました (赤色矢印)。今回の個体を当初バラす前の時点で既に発生していた問題点の中で以下の点についてその因果関係がこの箇所にあたります。
❶ 距離環を回すとトルクがスカスカ状態 (但しグリース切れの印象ではない)。
❷ 距離環と鏡胴とに相当なガタつきが残っておりガチャガチャしている印象。
❽ どうして筐体にガタつきが起きていたのか判明。
先ずポイントなのは「マウント部が真鍮 (黄銅) 製で造られている事」です。真鍮 (黄銅) 材は相応に応力の影響を受けるのでその対処を考慮しないと組み立てが完成しても適切な操作性を担保できません。
ちゃんとその証拠が存在していて上の写真赤色矢印の「直進キー」及びその両側に切削されている「スリット/隙間」です。同じようにブルーの矢印の箇所にも「スリット/隙間」があります。このブルーの矢印で指し示している「スリット/隙間」はマウント部の爪に附随するので全部で3箇所あります。
つまり真鍮 (黄銅) 材なのでッ。目にしても直進キーにしても「応力を逃がす算段が必要」なのでこのようにスリット/隙間が備わります。
・・しかし過去メンテナンス時の整備者は相応の技術スキルを持つのに配慮しませんでした。
↑このマウント部の中には上に並べた各構成パーツが組み込まれます。
❶ 絞り連動ピンとそのアーム
❷ 開閉レバーとそのアーム
❸ プレビューボタン
❹ 制御キー
❺ リリースロック解除ボタン
・・とこれだけのパーツが組み込まれます。これらのパーツが滑らかに動くよう過去メンテナンス時の整備者はグリースを塗ったのでしょうが、結果的に経年でそのグリースは悪影響を及ぼします。揮発油成分のせいで酸化/腐食/錆びが促されるのでデメリットにしかなりません。
しかしたいていの過去メンテナンス時でこのマウント部内部の駆動系パーツにはグリースが塗られる事が多いです。
・・当方のオーバーホールではこれら構成パーツにグリースは一切塗りません(笑)
その理由は当方のオーバーホールが「個体の延命処置の一環」だからです。整備するのに「製品寿命」を却って短くしているのでは本末転倒です(泣)
↑マウント部内部や内壁、或いは構成パーツの一部に生じていた「緑青」を含む経年の酸化/腐食/錆びを「磨き研磨」にて除去してセットします。
「操作アーム」は鏡筒にある「開閉アームの爪」に刺さってダイレクトに絞り羽根の開閉動作を制御します (赤色矢印)。「プレビューボタン」は押し込むと設定絞り値まで絞り羽根を閉じさせる役目のボタンですね (フィルムカメラ装着時に遣うボタン)。そして「制御キー」が絞り環と連係しているので (赤色矢印) 操作アームが動いた時に突き当たる制御キーの位置により「開放時 (ブルーの矢印)」或いは「最小絞り値 (オレンジ色矢印)」とそれぞれその勾配の何処にカチンと突き当たるのかで「絞り羽根が閉じる時の開閉角度が決まる」原理です。
↑実際に絞り環に鋼球ボールとスプリングを組み込んでからセットしました。絞り環だけはブライトなシルバーの梨地凹凸仕上げ (サテン仕上げと呼称する) なのでステキです。
↑絞り環をセットした状態で上のほうから撮っていますが、グリーンの矢印で指し示したとおり「制御キーの駆動範囲が限定されている」のが分かります (赤色矢印)。つまり絞り環の駆動範囲が決まっている事を意味し、且つ「外側から絞り環に刺さっているネジを見てもマチが無いので締め付け固定するだけで駆動域の微調整機能を有していない設計」なのがこれらの構造面から判明します。
要は絞り環のカチカチとクリック感を感じる時のその刻印絞り値と、その時のクリック感との位置調整ができない設計であると言っているのです。
・・この事実が何を意味するのか過去メンテナンス時の整備者は理解していない。
↑いよいよクライマックスに近づきつつあります(笑) 完成したマウント部を鏡筒と連係させてから基台に3本の締付ネジで締め付け固定します (赤色矢印)。
実は当初バラしていく時に「この赤色矢印で指し示している3本のプラスネジ (締付ネジ) が硬すぎて外せなかった」のです。
・・それがいったいどのような影響を及ぼすのか???
当方が信頼を寄せている国内のプロの整備会社に在籍する整備者ならすぐにこの一文を読んだだけで一瞬で理解しますが(笑)、この個体を整備した過去メンテナンス時の整備者は全く理解していなかったのです。
目一杯チカラ任せでこの締付ネジ3本を締め付け固定してしまったので (おそらく機械締め) マウント部の真鍮 (黄銅) 材が本当に極微量ですがその締め付けたチカラの分だけ撓んでしまったハズです。
その影響は黄銅製のヘリコイド (メス側) が回る時の真円度に影響を来し、且つたった1箇所しか存在しない「直進キー」までやはり真鍮 (黄銅) 製のマウント部内部に位置する事から「極度のトルクムラ」を引き起こしたと推定できます。
下手に検証する為に硬締めすると相手の基台側は何しろアルミ合金材なので変形が怖いですから検証できません。あくまでも当方の考えによる仮説ですが、それをごまかす為に「距離環側の固定ネジを軽く締め付け固定した」のが経年で緩んできてガタつきを生じていたと考えています。
↑再びこの状態でひっくり返して後玉側方向から撮影していますが、赤色矢印のとおり「絞り連動ピン」が飛び出ているものの、その穴の内側がまさに冒頭で解説していた「過去メンテナンス時に鏡筒に着色して厚塗りしていた場所」なのです。
詰まるところこの絞り連動ピンの動きを悪くしていたのはその厚塗りした「反射防止黒色塗料」のせいであり、合わせて鏡筒外壁のヘリコイド (オス側) 附近まで塗られていたのでその影響がトルクにまで及んでいます。
マウント部としてもこのように裏側から視認できるので「真っ黒に仕上げたかった」のでしょうが、まるで余計な処置としか言いようがありません(笑)
実はこのような話は光学系内の「反射防止黒色塗料」着色に限らず見た目の良さを狙うのか何でもかんでも内部が見える箇所を真っ黒に仕上げたいらしくてマジッで余計な事をしてくれます。
おかげで今回のオーバーホールで前出の鏡筒裏側のとおり「厚塗りされていた反射防止黒色塗料を当方が溶剤で除去している始末」です(笑)
ちなみにブルーの矢印で指し示しているとおりマウント部内部の「制御キー」と絞り環、合わせて鏡筒と適切に連携する事でご覧のように「絞り羽根が開放時に顔出ししている」のが正常であり、一般的な他社光学メーカーのオールドレンズにも特に広角レンズ域のモデルで多い手法です (開放f値だからと完全開放していないのが意外でしょうか)(笑)
実はこれにはトラップがあり(笑)、これだけ絞り羽根が顔出ししていれば光学系を覗き込んだら例え開放f値「f2.8」の時でも絞り羽根の顔出しが見えてしまいそうですが、光学系後群側をこの格納筒に組み込むと「そもそも光学系第4群の光学硝子レンズ外径サイズがもう少し小径なのでこんだけ絞り羽根が顔出ししていても光学系内を覗き込んだ時に全く見えていない (つまり完全開放状態にしか見えない)」ワケです。
要は光学系第4群の外径サイズよりも僅かに大きめのところまでなら絞り羽根が顔出ししていても組み上げてしまうと見えないので「完全開放にちゃんとなっている」と言う仕組みです。
これを例えば標準レンズなみにキッチリ絞り羽根の角度を合致させて光学系の外径に合わせて設計すると「もっと鏡筒の外径サイズを大きく採ってこないと絞り羽根の制御部位が組み込めない」と言う壁にブチ当たるので、そんな理由の為に鏡筒サイズを大型化できないのでこんなトラップを仕掛けて完全開放状態になっているように仕向けています(笑) 逆に言うなら鏡筒サイズはそのままにしても今度は絞り羽根を小振りに設計しなければならず、それは入射光の制御面から考えれば必然的に「絞り羽根をもっと小さく設計して、且つ枚数も多くする必要に至る」ので、時勢の流れにまるで逆らう話になり合理的でコストを維持させるなら絞り羽根を顔出しさせつつも光学系後群側の外径サイズより大きめの位置で絞り羽根を閉じさせてしまえば「製品化すれば見かけ上、完全開放していることになる」と言う話です(笑)
・・まるで嘘も方便みたいな話ですが意外にも合理的な設計概念だったりする。
ちなみに別にこのMIRANDA CAMERAだけがこのような仕組みを採っていたワケではなくて、当時の数多くの光学メーカーが挙って似たような手法を採っていたようですから (数多く準広角レンズをバラしてみるとそういう共通項的な設計概念が判明する)、おそらくは当時流行っていた (広角レンズ域モデルでの) 絞り羽根制御に係る設計手法だったのでしょう。
このようにちょっとした部位の「観察と考察」ですが、ちゃんと数多くの広角レンズをバラしつつも納得できる方向に調べていくと、そのような時代の背景みたいな設計概念が垣間見えてきて、やはりオールドレンズは楽しい限りですね(笑)
↑マウント部のリリースマーカー環 (●が刻印されている黒色のジャギーが刻まれている飾り環/リング/輪っか) を締め付け固定しました。
↑さらにまたひっくり返していますが、今度はマウント部のメクラ環/リング/輪っかを組み付けたところです。このモデルはこのメクラ環の1箇所に「絞り値伝達ピン」が突出しているので、初期の頃の製品ではないことが明白になります。
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
↑と言うことで後群側を先に格納しようと作業していたら第5群の貼り合わせレンズが何だか汚れている/曇っているように見えていた為、確認したところ「何と既にバルサム切れで1/3が僅かに薄く汚れているように見えていた」のが判明し、上の写真はその際にバルサム剤を一旦剥がして分割させたところです (上の写真左側)。
従って冒頭の光学系構成図はこの第5群の貼り合わせレンズも接着面まで計測してトレースしています。
上の写真を見ると分かりますが、これら第5群と第4群、合わせて実は第1群の前玉まで「光学硝子レンズのコバ端を反射防止黒色塗料で着色」しまくっており、いつものことですが当方の手で溶剤に拠りこれら全ての「反射防止黒色塗料」を除去しています。
・・本当にマジッで毎回毎回面倒くさい!(怒)
結局、光学硝子レンズのコバ端の「反射防止黒色塗料」着色により鏡筒の格納筒に組み込む際クリティカルに至りキツキツなのが影響してバルサム切れが進行していったと考えられます。
実際今回の個体から当初これら光学硝子レンズを取り出す時もキツキツだったので容易に推測がつきます。上の写真はまだ「反射防止黒色塗料を除去する前」なので黒くなっているのが分かります。
従って、予定外/想定外でしたが「バルサム剤剥がしと再接着工程」を経て処置していますから、申し訳御座いませんがその分の追加請求がプラスされます・・スミマセン。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。おそらく300本以上チェックしたと思いますが、同じタイプの個体をついにネット滋養で探すことが叶いませんでした・・大変珍しいモデルです。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
なお第1群前玉の表側はコーティング層の経年劣化が既に進行しており、特にカビ除去作業をしたところ一部に微細なクラックが進んだのか微かにクモリ領域が増えたように見えました。準広角レンズで前玉の薄クモリは致命的ですので「硝子研磨」して表面のコーティング層を除去しています (従ってクモリは消えています)。この分も追加請求になります・・スミマセン。
↑後群側は前述のとおりバルサム切れで剥がしたので再接着によりカラッとクリアになっています。後玉外周附近に微かに微細な点状キズが複数密集している箇所がありますが写真に一切影響しません・・とにかく気持ち良いくらいにクリアです。
↑当初バラす前のチェック時点で開放時極僅かに絞り羽根が顔出ししていたので「完全開放」するよう微調整を施していますが、前述のとおり内部ではそもそも設計段階で「絞り羽根が相当に飛び出てくる仕様」です。それでも光学系前後群を組み込んだらちゃんと完全開放するのがこのモデルでは「正常で適切な状態」です。
もちろん6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動していて小気味良くクリック感が指に伝わります。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑ローレット (滑り止め) なども経年の汚れ/手垢を除去したのでスッキリと美しい仕上がりです。また距離環を回すトルクはご指示に従い「重め」に設定してありますが、そうは言っても準広角レンズなのでピントのピーク/山は相応に一瞬で、それを見越して/配慮してピント合わせ時には十分に軽いトルク感で前後に微動できるよう年製を選択しています・・はい、違和感は皆無です。
↑何にしてもこの絞り環のレバーがツルツルと言うネット上何処を探しても発見できなかった特異なモデルです。もちろんフィルター枠が距離環の縁と同径である点だけでも実は流通数が極端に少ないので、この個体はまだまだこれから先もず〜ッと活躍してほしいくらいです(涙)
・・ガンバレ、AUTO MIRANDA!!!(涙)
《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
❶ 距離環を回すとトルクがスカスカ状態 (但しグリース切れの印象ではない)。
→ 因果関係を突き止めたので (ヘリコイドが原因ではない) 完璧に改善済。
❷ 距離環と鏡胴とに相当なガタつきが残っておりガチャガチャしている印象。
→ こちらも上記と同じ因果関係なので既に完璧に改善済。
❸ 開放時に絞り羽根の縁が極僅かに顔出ししている。
→ 絞り羽根制御の微調整が適切ではなかったので完全開放させています。
❹ 光学系内に極薄いクモリと汚れ状がある。
→ 第5群貼り合わせレンズのバルサム切れが原因だったので再接着済 (クモリなし)。
《バラした後に新たに確認できた内容》
❺ 光学硝子レンズのコバ端に反射防止黒色塗料を塗っている。
→ 全ての光学硝子レンズコバ端の反射防止黒色塗料を溶剤で完全除去済。
❻ 過去メンテナンス時に「白色系グリース」塗布。
→ 今回のオーバーホールでは黄褐色系グリースを塗布。
❼ その後おそらく直近で潤滑油も注入されている。
→ その影響で「緑青」が生じていたので「磨き研磨」で完全除去済。
❽ どうして筐体にガタつきが起きていたのか判明。
→前述のとおり。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が現れ始めて極僅かに解像度の低下が起きています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。引き続きもう1本の作業に取り掛かります。