◎ Carl Zeiss (カールツァイス) CONTAREX Distagon 35mm/f4 (silver)《前期型》(CRX)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、
旧西ドイツはCarl Zeiss製広角レンズ・・・・、
『CONTAREX Distagon 35mm/f4 (silver)《前期型》(CRX)』です。
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainieie! Geroyam Slava!
今回オーバーホール/修理ご依頼を賜ったモデルは当方がオーバーホール作業を始めた11年前からの累計でCONTAREX版オールドレンズの括りで捉えると累計で41本目にあたりますが、今回扱った「35mmの広角レンズ」だけでカウントすると僅か2本目ですが前回が「Flashmaticモデルの”Blitz“」だったので純粋なシルバー鏡胴モデルは今回が初めてです。
先ずは冒頭でこのような貴重なオールドレンズのオーバーホール/修理ご依頼を賜りお礼申し上げます。何しろ調達するにも高額なのでとても当方などは手が出せずなかなか考察が進みません。そのような中今回の機会を得たことは本当にありがたいです。
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1959年に旧西ドイツのZeiss Ikonから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「CONTAREX (コンタレックス)」は後に「CONTAREX I型」と呼ぶようになり、巷での俗称「Bullseye (ブルズアイ)」の愛称と共に今もなお憧れの的であり続ける僅か約32,000台しか製産されなかったフィルムカメラです。
大きな円形窓が軍艦部に備わりますが、絞り羽根開閉動作とシャッタースピードの両方に連動する世界初のクィックリターン式ミラーを装備した一眼レフ (フィルム) カメラになり、この円形窓を指して「Bullseye」と呼ばれています。
この丸窓はセレン光電池式連動露出計であり俗称の由来「bulls (雄牛) のeye (目) を射貫く」から来ており「射る的」転じて最近では軍用語でもある「攻撃目標地点 (ブルズアイ)」に至っています (攻撃目標を無線などで傍受されても分からないようする暗号として使われた)。
1959年の発売と同時に用意されたオプション交換レンズ群は実に多彩で、発売当初は焦点距離21mm〜1,000mmまで揃えており本気度の違いすら感じてしまいます。
↑当方がこの「CONTAREXシリーズ」の魅力に憑かれて虜に堕ちてしまったのは2016年に扱った標準レンズ「CONTAREX Planar 50mm/f2 (CRX)」ですが、たった1枚の写真 (上の写真です) を見てまるで自分の五感に訴えるが如く生々しいリアル感に鳥肌立ったのを覚えています(笑) そして他のモデルも幾つか扱いましたが、それらも全て共通項的に自分の五感が反応してしまう状況に至りいまだに新鮮な心持ちのまま受け入れることができます・・素晴らしいオールドレンズ達です!
今回扱ったモデルは広角レンズ「CONTAREX Distagon 35mm/f4 (silver)《前期型》(CRX)」ですが、前回の扱いは『CONTAREX B-Distagon 35mm/f4 “Blitz“ (CRX)』でした (右写真は過去に扱った個体からの転載です)。
同じモデル銘「Distagon」を冠しながらも実はこの2つは全く別モノです。
CONTAREX版焦点距離35mmの広角レンズ「Distagon銘」は当時全部で4種類が揃っていたことになります。
❶ Distagon 35mm/f4 silver (1959年発売)
❷ Distagon 35mm/f4 black (1960年発売)
❸ B-Distagon 35mm/f4 “Blitz“ (1960年発売)
❹ Distagon 35mm/f2 silver (1960年発売)
右写真は以前に海外オークションebayから拾ってきた写真ですが大変珍しい「黒色鏡胴のほうのPlanar 50mm/f2」が装着されている写真で「距離環ローレット (滑り止め) 部分まで鈍い光沢を放つメタリックブラック」なのが分かります! このことから「Distagon 35mm/f2 (black)」も同様距離環ローレット (滑り止め) がメタリックブラックではないかと推測できます。
❶〜❷は互いに発売年度が異なりますが純粋に鏡胴のカラーリングが違うだけのタイプであり且つ最後に登場している明るい開放f値「f2モデル」が上位格なのに対し「Blitz」をモデル銘に伴う❸だけは同じ開放f値「f4」でも仕様が異なります。
「Flashmatic (フラッシュ・マチック)」機構を実装したモデルで、ストロボ/フラッシュ撮影時に鏡胴のプリセット値環に刻印されているガイドナンバーを合わせてセットすると、自動的に「距離環の駆動範囲と適切な絞り羽根の開閉幅が限定される仕組み」であり、失敗しないフラッシュ撮影を実現してしまった当時としては先進的な仕組みでした。
但しこれら❶〜❷と❸は互いに同じ「35mm/f4」としても最短撮影距離が全く異なり❶〜❷が「19cm」なのに対し❸は「38cm」と大幅に後退してしまいました。
これは「Flashmatic (フラッシュ・マチック)」機構を実装するが為にあくまでもその基準をガイドナンバーとしたことから、絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) と共に鏡筒の繰り出し/収納量まで別の設計で制御する必要性が生じたからです (つまりヘリコイドのオスメスは今回のモデルとそのネジ山の勾配が違う)。
この点については以前「Blitzモデル」を扱った際にヘリコイド (オスメス) のネジ山勾配が異なることを確認しており、且つフラッシュマチック機構の実現に内部でギアを介在させていて「絞り羽根の開閉幅を限定してしまった設計」を採っているのを掴んでいます。オーバーホール工程も含めた内部構造の詳細は『CONTAREX B-Distagon 35mm/f4 “Blitz“ (CRX)』のページをご参照下さいませ。
つまりフラッシュ撮影時のガイドナンバーを基準にしている為に最短撮影距離が「38cm」と後退してしまったと共に最短撮影距離が転じたのなら「光学系の設計も異なるハズ」との仮説が浮かび上がりました。
↑上の掲載図は1959年発売の一眼レフ (フィルム) カメラ「CONTAREX I型」取扱説明書に載っている説明書きから転載しました。
↑一方上の図は1960年発売「CONTAREX special」の取扱説明書からの転載です。
すると❹の「Distagon 35mm/f2 (silver)」の発売時期をwikiでは1965年としていますが上記「CONTAREX special」取扱説明書のオプション交換レンズ群解説欄に「ZEISS B-DISTAGON f/4, 35mm」或いは「New:ZEISS DISTAGON f/2, 35mm」とも掲載されているので「CONTAREX special」の発売年度が1960年からも辻褄が合いません・・。
先ず当初発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「CONTAREX I型」の取扱説明書に掲載されているこのモデルの光学系構成図を右に示します。
この構成図は取扱説明書からトレースして作図していますが、当然ながら1959年と言う発売年度からして今回扱った個体の『CONTAREX Distagon 35mm/f4 (silver)《前期型》(CRX)』内に実装している光学系構成図を指していると考えられます。
ところが実際に今回の個体を完全解体して調べると違う結果でした。
右構成図は今回の個体を完全解体した際に当方の手で光学系の清掃時に各群の光学硝子レンズを逐一デジタルノギスで計測してトレースした構成図です。
大きく異なるのは光学系第2群と第3群です・・。
左の写真は光学系第2群の光学硝子レンズを取り出して真横から撮影していますが、ご覧のように取扱説明書に掲載されている構成図のカタチとは全く違います。
実はこの光学系第2群は「Blitzモデル」でも同じカタチで光学系前群格納筒に収まっていました (但し曲率などは僅かに異なる)。
一方左写真は今回の個体から取り出した光学系第3群の3枚貼り合わせレンズをひっくり返して撮影しています。
絞りユニット直下の面が上向きに置いて撮影していますがグリーンの矢印で指し示している箇所の形状が違います。
さらに右図は前回扱った『CONTAREX B-Distagon 35mm/f4 “Blitz“ (CRX)』を完全解体した際に同様デジタルノギスを使い逐一計測してトレースした構成図です。
第2群のカタチが同じであるものの第3群の3枚貼り合わせレンズのカタチは一番最初の取扱説明書に掲載されていた構成図のそれと同一です。
↑証拠写真を載せておかないとまたウソを拡散していると批判対象になるので(涙)、今回の個体をバラして取り出した光学系第1群〜第4群までを表裏で並べて撮影しました。
そして極めつけは右構成図になりますが、2つ前に掲載した構成図と同じであり今回の個体をバラして光学系をトレースした構成図です。
光学系後群側の3枚貼り合わせレンズに 色の着色を施しています。
実はこの第3群だけが無色透明ではなく「僅かに褐色系の光学硝子材だった」のです。全体的に均一に褐色を帯びているので「経年に伴うコーティング焼けではなく光学硝子材そのモノの色合い」と判定を下し、実際に放射線量を計測してみました。
すると驚いたことに「0.56μ㏜/h (光学硝子直上で計測)」の計測値をはじき出しました。一方他の第1群 (前玉) 〜第2群、及び第4群 (後玉) は「0.02μ㏜/h〜0.08μ㏜/h」との計測値になり光学硝子材の色合いは「無色透明」です。
すると計測値からおそらくこの第3群3枚貼り合わせレンズは最大で10%ほど屈折率を向上 (1.13%) させる狙いとして「酸化ランタン材」を光学硝子材に含有させているのではないかとみています (ネット上の何処にも記載がないので当方の憶測ですから信憑性は低いです)。
ちなみに当時流行っていた「酸化トリウムを光学硝子材に含有」させる、いわゆるアトムレンズ (放射線レンズ) は最大で20%の屈折率向上 (1.22%) を狙うものの、経年に伴い「ブラウニング現象」が生じ「赤褐色化」する為に後の1970年代後半辺りからは高屈折率の光学硝子レンズ精製が適い含有されなくなりました。
ちなみに前回扱った『CONTAREX B-Distagon 35mm/f4 “Blitz“ (CRX)』の光学系とは第1群〜第3群までの光学硝子レンズについて径も厚みも曲率も何もかも異なる計測値だったものの「何と最後の第4群 (後玉) だけは全て100%同一の計測値だった」ことからいわゆる「Blitzモデル」との最短撮影距離の相違がこのような光学硝子レンズの計測値相違として現れているとみています。
◉ 貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す
◉ バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態
◉ ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態
◉ フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーやパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く
◉ コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない
◉ フレア
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す
◉ フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す
◉ アトムレンズ (放射線レンズ)
光学硝子材に酸化トリウムを含有 (10%〜30%代) させて屈折率の向上 (20%代) を狙った光学硝子レンズ
◉ ブラウニング現象
物質の経年変化に拠り褐色に着色し褐変 (かっぺん) する現象を指す (食品や光学硝子レンズ等)
◉ 黄変化 (おうへんか)
光学で言う処の黄変化とは光学硝子レンズの経年変化に拠る変質で褐色に色付く現象を指す
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。前回扱った「Blitzモデル」のフラッシュマチック機構部が組み込まれていない分、内部構造も簡素で各構成パーツの点数も少なめです。
・・が然し、今回は全く別の問題で悩むことになってしまいました(涙)
↑上の写真 (2枚) は、今回扱った個体の写真ですが当初バラす前の段階で撮影しています。周囲にギザギザの刻印を伴う「黒色のレンズ銘板押さえ環/締付環」とレンズ銘板との間の隙間をグリーンの矢印で指し示しています。
・・何を言いたいのか???
当初バラす前の時点でこの個体の「鏡筒が前後方向にカタコトしていた」のを示す為に撮影しています。1枚目は鏡筒を後玉の方向から押し込んで/押し上げてレンズ銘板と「押さえ環/締付環」との間の隙間を減じた状態を撮っています。
一方2枚目は後玉方向から押し込んでいた指を離して「隙間が増えて空いている状況」を撮っています。凡そですが「0.8mm前後」の隙間が空いているようで、実際に鏡胴を保持したまま振ってみると「カタコト音」が聞こえてくるのです(汗)
このCONTAREX版オールドレンズの各モデルには内部に絞り羽根の開閉を司る「制御環」が必ず存在しますが (このモデルは鏡胴に絞り環自体が存在しないから)、その「制御環」に鋼球ボールが入っているので「サラサラ音」が聞こえるのは当然であるものの「鏡筒はフツ〜ちゃんと固定されている」のが当たり前です。
実際カタコト音を聞いてこの状況に気づいたのではなくて「バラす前の実写確認時に突然ピント面がボケてしまった」という、まるでオートで合焦する今ドキのデジタルなレンズに於いて合焦位置で迷っているようなボケ方をしたのです。
それで気づいて鏡胴を振ってみたところ「カタコト音」が聞こえてきて鏡胴の隙間を発見しました。
ちなみにこれら「CONTAREX版オールドレンズ」はそのほとんどのモデルで「レンズ銘板と押さえ環/締付環との間に隙間が空く」のが正常ですが (空かないように密着させる事ができない設計)、然しそうは言っても「鏡筒は当然ながら固定されている」ワケです (そうしないとピント面がしょっちゅうズレて使えない)。
↑さらに極めつけが上の写真です(涙) 上の写真は光学系第1群の前玉を撮っていますが、ご覧のとおり2枚の光学硝子レンズが接着されている貼り合わせレンズのハズなのに、一番最初の完全解体時に「光学系前群を取り出そうとした時にポロッと剥がれてしまった」次第です!
確かに市場流通品を見ているとこの「Distagon 35mm/f4」モデルは光学系第1群の貼り合わせレンズにバルサム切れが生じている個体が多いですが、まさか剥がれるとは!(驚)(汗)(泣)
さらにご報告するとオーバーホール工程の中でこの第1群前玉の貼り合わせレンズ面バルサム剤を溶剤で除去しようと試したところ「全く剥がれない/一切溶けない」状況で、急きょ別の溶剤を注文しました (それでこのブログに載せるのが3日遅れてしまった)。
複数の溶剤を入手したものの、どの溶剤を試しても全く歯が立たず一切溶けない状況です・・おそらく近年に一度整備されていてその際「二液性レジン液」を接着剤として使っているのではないかとみていますが不明です。
結果何をヤッても一切剥がれない/溶けない状態なので仕方なくそのまま薄くバルサム剤を流し込んで再接着しました。今回使ったバルサム剤はカナダバルサムではなく高屈折タイプの「屈折率1.54%光学硝子レンズ専用」を取り寄せました。
↑ま上の写真は今度は光学系後群側の光学硝子レンズ格納筒を撮っています。写真下側が後玉側方向にあたります。するとグリーンの矢印で指し示している箇所に「マットで微細な凹凸を伴う黒色梨地仕上げメッキ加工」が施されているのが分かります。
どうして分かるのかと言うと溶剤で溶けないからです。逆に言うならこの格納筒は当初取り出した時に全体が黒色着色されていましたが、溶剤で拭くと次から次へと溶けて剥がれました。
つまり過去メンテナンス時にこの格納筒を「反射防止黒色塗料」で着色していたようです。ところが製産時点にちゃんとメッキ加工しているグリーンの矢印で指し示した箇所だけは一切剥がれません/溶けません。
今回のオーバーホール工程では全ての構成パーツを溶剤で洗浄しており、他の部位にも塗布されていた「反射防止黒色塗料」を全て剥がしています (光学硝子レンズのコーティング層保護のため)。
↑光学系前後群と絞りユニットを格納する鏡筒です。上の写真手前側が前玉側方向にあたります。赤色矢印で指し示している箇所だけはアルミ合金材の無垢状態ですが、ここに「反射防止黒色塗料」を着色すると光学硝子レンズが最後まで格納できなくなって光路長ズレを起こしかねません (過去メンテナンス時に着色していた痕跡が少し残っている)。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑上の写真は同じ鏡筒を撮っていますが、今度は後玉側方向からの撮影です。このモデルは「後玉側方向から絞り羽根を組み込む設計」を採っているのでそれを解説しています (赤色矢印)。
↑実際に絞り羽根を組み込んで後群格納筒をセットするとこんな感じに仕上がります (再び前玉側方向から撮影しています)。
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上方向が前玉側にあたります。すると鏡筒側面に「開閉アーム」が突出しブルーの矢印の範囲内で移動します (赤色矢印)。この「開閉アーム」が動くことで絞り羽根が開閉する仕組みです。
↑さらに右横に「制御環」を並べて撮影しました。制御環に備わる「ガイド (溝)」部分にこの「開閉アーム」が刺さり (グリーンの矢印) 上下動するので設定絞り値がちゃんと伝達される仕組みです。
さらに指摘するならこの「ガイドの長さ分 (ブルーの矢印) が鏡筒の繰り出し/収納量」とも言え、要はヘリコイド (オスメス) のネジ山分の長さと一致しています。
↑こちらは距離環やマウント部が組み付けられる「基台」で「直進キー環/リング/輪っか」です。両サイドに特大の「直進キー」が垂直状に備わります。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
↑この直進キー環/リング/輪っかのさらに内側に前述の「制御環」が組み込まれる設計です。
↑「直進キー環/リング/輪っか」をひっくり返して今度は後玉側方向から撮影しています。内側に「制御環」が入っているのが分かりますが、赤色矢印で指し示している箇所に鋼球ボールが入ります。
左写真のような鋼球ボール2種類が上の写真の赤色矢印で指し示している箇所にセットされます。
鋼球ボールは大小2つの径で用意されていて、且つ素材も異なります。シルバー色の大きい径の鋼球ボールが「24個」に対し茶褐色系の径が小さいほうは「48個」合計72個の鋼球ボールが入ります。
必然的にシルバーとシルバーの間に茶褐色が2個入るワケですが、今回の個体は7個の鋼球ボールにサビが出ており当方にて「磨き研磨」して転がりを戻しています。
↑72個の鋼球ボールを実際に組み込むとこんな感じになりますが、希にデタラメにセットされている個体があったりしますから要注意です。何故ならこの「制御環」の回転するチカラに抵抗/負荷/摩擦が及ぶと「絞り羽根にプレッシングされているキー脱落の危険性が上がる」からです(怖)
↑さらにヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑同様今度はヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で10箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑ヘリコイド (オス側) をセットしたところで内側を覗き込んで撮影しています。「直進キー」がブルーの矢印の長さ分移動するので、前述のとおり絞り羽根の開閉動作も連係が必要ですから「制御環のガイドの溝も同じ長さ分用意されている」のが分かりますね。
なおご覧のとおり当方のオーバーホール工程ではこれら「直進キー」やガイドの類には一切グリースを塗布しません。何故ならちゃんと「磨き研磨」できていればグリースなど塗らずとも何の抵抗/負荷/摩擦なく駆動できるからです。
今回のオーバーホール/修理ご依頼者様お一人様だけが手に取って理解できますが、実際にこの個体の距離環を回して/イジッてみればすぐに分かります・・どんだけ軽いトルク感でヌメヌメッとした印象で駆動できるのか(笑)
・・ピント合わせ時の前後微動すらとても気持ち良いです!(笑)
↑この状態で再びひっくり返して後玉側方向から撮影しました。絞り環の環/リング/輪っかが見えます (制御環のこと)。
↑マウント部を組み込んだところです。絞り環は「板バネ状」の設計なので、フィルムカメラのマウント部に装着される時に「バチンッ!」と言う音が聞こえるのはその所以です (板バネ方式だからです)。
↑さらに距離環ローレット (滑り止め) 直下に距離指標値環/リング/輪っかを組み付けました。
↑フィルター枠も兼ねる鏡胴をセットしたところです。この後は光学系前後群を鏡筒に組み込んでからセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。鏡筒がカタコト音していたのは因果関係が判明すれば特に何の問題にもなりませんが、さすがに光学系第1群 (前玉) の貼り合わせレンズが剥がれたのには参りました・・(涙)
そもそも当初バラす前の時点ではちゃんとしていたのだから焦らないワケがありません!(怖) こう言うのが他人様の個体をオーバーホール/修理していて本当に恐怖心しかありません(涙)
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
ハッキリ言ってこのモデルの光学系第1群 (前玉) は、製産時点の治具が手元に無いと貼り合わせレンズの再接着が相当難しいと今回のオーバーホール/修理で思い知りました(泣)
貼り合わせレンズの2枚目は鏡筒の格納筒に入るので保持されますが、その上の1枚目は貼り合わせるにしても格納筒も何も無いので「まるでフリ〜のまま」と言う心許ない状況で、単にレンズ銘板をネジ込んで固定する設計です。
ところがそのレンズ銘板を押さえ込むギザギザのジャギーを伴う「締付環/押さえ環」は裏側の内径がレンズ銘板よりも数ミリ大きいので実際にレンズ銘板を押さえ込んでいません(汗) ネジ込んでいくと最後レンズ銘板に突き当たって停止する際に凹凸でシッカリレンズ銘板が固定されるのではなく「数ミリ大きい内径の分だけマチがある為に1枚目の前玉がズレ易い」のです。
従って光学系第1群の貼り合わせレンズを再接着して組み込んだ後、簡易検査具を使って確認するもののその検査を実施した時点では硬化が進行した状況なので、もしも再び剥がしてもう一度貼り直す必要がある場合はいちいち剥がす工程を経なければならず、この第1群との戯れだけで丸っと一日必要だった次第です(泣)
・・ちょっとこのモデルの第1群再接着はもうやりたくないですね(泣)
↑後群側も透明度が高くLED光照射で極薄いクモリが皆無です。
↑8枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。絞り羽根が閉じていくと絞り値「f22」辺りから開口部は上の写真のような「四角いカタチ」に至るのがこのモデルの特徴です (このモデルには円形絞りで閉じていく個体が存在しない)。そう言う設計だからです。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使いましたが、過去メンテナンス時も「黄褐色系グリース」を使っていましたから相応に年数が経っているのか、或いはもしかしたら光学系だけ取り出して清掃したのかも知れません。いずれにしても過去メンテナンス時に樹脂系バルサム剤を使っていると思います。なおトルク感は「軽め」の設定にしてありヌメヌメッとした当方のいつもの感触に仕上げてあります(笑)
↑納得できる状態でオーバーホールが仕上がりました。剥がれてしまった光学系第1群貼り合わせレンズもちゃんと再接着できホッとしました(汗) 軽いトルク感で当初バラす前の少々重みを感じる操作性からすれば相当使い易く仕上がったのではないでしょうか。
なおこのモデルの最短撮影距離は「19cm」と驚異的に近寄れますが、実際計測したら「まさに19cm」とピタリでした。最短撮影距離はカメラボディ側撮像素子面までの距離を表すので、実際は被写体からフィルター枠端迄の距離は「僅か9cmしかない」のでまるでマクロレンズみたいな話しです(笑)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離19cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑最小絞り値「f65」での撮影です。モデルの仕様上は「f22」が最小絞り値なので相当キャパが残っているのが分かります・・素晴らしいオールドレンズです!(涙)
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい申し訳御座いません。引き続き2本目の作業に入ります。オーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。