◎ Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) Primoplan 58mm/f1.9 V《後期型−III》(M42)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツの
Meyer-Optik Görlitz製標準レンズ・・・・、
『Primoplan 58mm/f1.9 V《後期型−III》(M42)』です。
巷で今ドキふうの「インスタ映え」する写真が撮れるオールドレンズとして、いの一番に挙げられるモデルと言えば、何と言っても旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズではないでしょぅか。
【インスタ映え】
写真投稿SNSインスタグラムに写真を載せた時、キレイで (ステキに) 映える
美しい (感動的な) 写真などが注目されて「いいね!」を獲得し易いことを
含めた形容的な表現
もちろん投稿者の撮影スキルが試される要素を多分に含んでいるのですが、実はそこには写真の良し悪しだけで決まらない「美的感覚/芸術性/意外性」など、パッと見て瞬時に反応させる感覚的な要素も求められるのかも知れません。そう考えた時に有利になるのが「オールドレンズの味」とも言える「残存収差の度合い」ではないかとも言えます。すると今ドキのデジタルなレンズやスマホの撮影だけでは満足できない (表現できない) 領域に足を踏み入れることに なるので「インスタ映えするオールドレンズ」がもて囃されるようになってきたのではないでしょうか。
この時、今ドキのデジタルなレンズで撮った精緻で高解像度な写真に知らぬ間に満腹感を覚えているのは、実は「見えすぎていない」というかつて壮大な時間を掛けて追求してきた光学系の発展と精度の向上に、むしろ退行する要素が求められている証なのかも知れません。
詰まるところそれはまさに「人の目で見た光の捉え方」を指すのであって、決して最新の技術や精度に裏打ちされたイメージの世界ではない「人の五感に訴える」まさに感覚的な写真の捉え方の一つなのかも知れません。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと滲んでいく様をピックアップしています。
焦点距離:100mmの中望遠レンズ「Trioplan 100mm/f2.8」ほどは特大のシャボン玉ボケを表出できませんが、標準レンズ域のモデルでこれだけ明確で繊細なエッジを持つシャボン玉ボケを表出できるというのが、実はオドロキモノなのです。
いわゆるクセのない (誇張感のない) 自然な滲み方でシャボン玉ボケを表出させられるからこその安心して見られる画造りです。
◉ 二段目
ここではさらに一歩踏み込んで、収差ボケによる背景の滲み方を効果的に使ってしまった実写をピックアップしています。単に背景をトロトロボケにしてしまわないことで、むしろインパクトのある写真に仕上げている「残存収差を上手く背景の効果として使ってしまった例」ですね。
◉ 三段目
残存収差が滲んでいく限界点を超越させてしまい、まさに背景紙の如く利用してしまった例としてピックアップしています。モワモワっとした背景 (左端)、まるで「油絵」のような印象画的な写真 (2枚目)、さらに背景にノイズが入っているようなちょっと画像ソフトで加工したような印象の実写 (3枚目)、そしてまさに「テクスチャ (模様)」の如く写し出してしまった例です。このテクスチャにそれこそブル〜系の花などを一本だけ置いたら、相当美しい写真に仕上がります。
◉ 四段目
被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に優れ (左端)、距離環や空気感まで表現し得る「空間表現」の素晴らしさ (2枚目) としてピックアップしていますが、実はMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの「欠点」を示しているのがその次の右側2枚です。
Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズのほぼ全てのモデルがダイナミックレンジの狭さを「欠点」として挙げられます。明暗部がギリギリまで粘らずにアッと言う間にストンと堕ちてしまうので、白飛びや黒潰れが酷く出てきます。ところが右端の写真のように「白黒写真」にしてあげると「細かい階調幅でグラデーションを描く」特性に変わるので、これはこれでまた素晴らしい要素です。
◉ 五段目
人物写真ですが標準レンズの開放f値「f1.9」レベルで、これだけリアルなポートレートを残せるのはたいしたモノです。前述のとおりダイナミックレンジの狭さがここでも表れていますがそれでもこれだけ生々しい人物を撮れるというのはオドロキです。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
「戦前型」Hugo-Meyer製:戦前の1936年発売
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:70cm
筐体材質:真鍮材がメイン
フィルター枠:⌀ 40.5mm
「前期型-I」Meyer-Optik Görlitz製:1949年発売
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:75cm
筐体材質:アルミ合金材のみ
フィルター枠:⌀ 40.5mm
「前期型-II」Meyer-Optik Görlitz製:1950年発売
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:75cm
筐体材質:アルミ合金材のみ
フィルター枠:⌀ 40.5mm
「後期型-I」Meyer-Optik Görlitz製:1954年 (?)
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:65cm
筐体材質:アルミ合金材がメイン (一部真鍮製か?)
フィルター枠:⌀ 49mm
「後期型-II」Meyer-Optik Görlitz製:1957年発売
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:75cm
筐体材質:アルミ合金材のみ
フィルター枠:⌀ 49mm
「後期型-III」Meyer-Optik Görlitz製:1958年発売〜1959年まで
絞り値:f1.9〜f22
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:60cm
筐体材質:アルミ合金材のみ
フィルター枠:⌀ 49mm
左写真は今回のモデルが一番最初に開発された際の特許概要で1936年の申請/認可になります。モデルバリエーションで言えば「戦前型」にあたるワケですが最後の「後期型−III」に至るまで、光学系構成の基本概念は変化していません。
右図はこの「戦前型」の光学系構成図をトレースしたものです (最短撮影距離70cm)。
一方、左写真は現在のMeyer-Optik Görlitzのサイトに掲載されているこのモデルの構成図で、モデルバリエーションで言えば「後期型−II」にあたります (最短撮影距離75cmのタイプ)。
さらに「前期型−I」は最短撮影距離が75cmに延伸してしまった関係から (戦前型は最短撮影距離:70cm) 光学系の再設計が行われており、右図になります。
この光学系はその後「前期型-II〜後期型-II」まで踏襲され続けますが、途中「後期型-I」で一度光学系を再び再設計しているかも知れません。
(扱いが無いので現状不明のまま)
そして最後期に発売された「後期型−III」では最短撮影距離60cmの変更から三度光学系を再設計しています (右構成図)。
いずれも構成図はオーバーホールの際にバラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性は低いですから、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「正」です (つまり当方のトレース図は参考程度の価値もありません)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造や構成パーツ点数はこの当時のオールドレンズとしてみれば普通で、特に複雑でもなく理に適った設計をしています。
しかし、他のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズにも当てはまる話ですが、解体できるかどうかがポイントになります。
左写真は「シリンダーネジ」と言って、絞りユニット内の「開閉環」と絞り環を連結するネジです。絞り環を回した時にこのネジが刺さっているからダイレクトに絞りユニット内部の「開閉環」が同じ量だけ回って「絞り羽根を開閉する」仕組みです。
ところがこの当時のオールドレンズを解体しようとした時、Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズの場合はほとんどのモデルで鏡筒は回して外します。すると鏡筒を保持して目一杯のチカラを掛けて反時計方向に回した時、たいていは最も出っ張っている絞り環を保持したまま回します。
つまり鏡筒の固着が酷かった場合は、その掛けたチカラの全てがこの「シリンダーネジ」の軸部分に集中し、僅か1mm程度のアルミ合金製ネジは折れてしまうワケです(怖) もちろん絞り環を保持しないで回すことができれば怖がる必要はないので、そのような専用の治具が手元にあるのかどうかですね(笑)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
なお、左写真でグリーンの矢印で指し示した箇所をご覧頂くと、そこだけ削れています (絞り羽根の他の箇所には切削面がない)。つまり絞り羽根は「まるで枝豆の房」のようにブラブラと1箇所だけでブラ下がった状態でプレッシングされ、組み立て工程の中でパチンパチンと人の手でカットしていたことが分かります (つまり切削面のカットがバラバラ/キレイだったり汚かったり)。
すると例えばロシアンレンズなども同じようにプレッシングして絞り羽根をニッパーか何かの工具を使って人の手でカットしていたようですから、上手くカットできていない絞り羽根があったりします (バリが残ったままだったりする)(笑)
こんな箇所も注意深く「観察と考察」すると知らない一面が浮かび上がり、当時の組み立て
工程の様子を思い浮かべることができます(笑)
↑14枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットが完成します。ご覧のようにキレイな真円の「円形絞り」として閉じていきます。
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上部が前玉側になり下が後玉側の向きですが、ご覧のように鏡筒の内外全てが「梨地仕上げメッキ加工」です。前の工程を見れば分かりますが絞りユニット周囲も全て同じ「梨地仕上げ」ですから「経年の揮発油成分の侵入/流動を防ぐ」目的があったことが分かります。すると製産時の組み立て工程の時にこの絞りユニット内部にグリースを塗っているはずがないワケで、もしもバラしていてグリースを塗っていた痕跡があれば、それは過去メンテナンス時にグリースが塗られていたことになります。その場合、過去メンテナンス時に既に何かしらの「絞り羽根開閉異常」が発生していて、動きを滑らかにする為にグリースを塗ったと推測できますね。
「梨地仕上げメッキ加工」の意味と目的とはそのような設計時の意図があるので、バラしながら「観察と考察」することで過去メンテナンス時の処置が見えてくるワケです。すると自分がオーバーホールする際に逆に何処に気をつければ良いのかも自ずと明確になりますね(笑)
オールドレンズをバラす際は単にバラしていくだけではなく、そのような「観察と考察」を伴いつつ解体していくのも重要になってきます。
従ってその「観察と考察」から導き出される「本来あるべき姿/機能」が具体的に明確になる事で、それを実現させる上での各構成パーツの微調整が自ずと決まり、最も適切な (本来設計時に意図されていたであろう) 組み立て工程を経て仕上がっていく次第ですから、ただ単にバラしてグリースを塗って再び逆の順番で組み戻していくと言う「一般的なグリースに頼った整備」を、当方はヨシとしていません。
目指すべきは「本来あるべき姿」であり、それはそのままイコール「個体の延命処置」でもあるのだと考えています。
↑鏡筒外壁に「絞り環用制限板」を固定します。この「制限板」が無い箇所だけが「絞り環が駆動する領域」になります。すると前述のとおり一番最初の解体の時、絞り環を保持したまま目一杯のチカラを掛けて回そうとすると「シリンダーネジがこの制限板に突き当たる」事がご理解頂けるでしょうか(笑)
そうですね、シリンダーネジの軸部分で折れる/破断してしまう原理がご理解頂けたのではないでしょうか(怖)
↑「絞り環」をセットします。解説のとおり上部には「絞り値キー」と言う「溝 (切り込み)」が用意されており、そこにカチカチとハマる事でプリセット絞り値が決まる仕組みです。
↑さらに「プリセット絞り環」を組み込みます。するとやはり前述のとおり「プリセット絞り環が溝に填っている」状態ですから、最も出っ張っている箇所がこの「プリセット絞り環」になります。つまり「プリセット絞り環」を保持したまま反時計方向に回せば鏡筒を外すことが叶いますが、その時に掛けているチカラの全ては「シリンダーネジの軸部分」に集中している原理をご理解頂けるのではないでしょうか。
これがこの当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズのほぼ全てのモデルに当てはまる設計であり、鏡筒の固着はそのまま「シリンダーネジの破断」に繋がる話であり、解体する際には恐怖心が憑き纏います(怖)
↑光学系前群を組み込んでからレンズ銘板も兼ねるフィルター枠をセットします。
↑完成した鏡筒をひっくり返して後玉側方向を上に向けて撮っていますが、解説のとおり光学系後群用の光学硝子レンズ格納筒が備わっています。そこに右側に並べた「光学系第3群」の格納筒がストンと落とし込まれ (ブルーの矢印) 外側から「イモネジ (3本)」で締め付け固定することで「光学系後群が固定される」方式の設計です (グリーンの矢印)。
何を言いたいのか?
つまりこの当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズのほとんどのモデルが、ご覧のように「イモネジで光学系後群を締め付け固定する」方式を採っているので「イモネジの締付ミス=光軸ズレ」と言う方程式が成り立ちます。最も分かり易い例では「色ズレ」なので、組み上がったオールドレンズで実写した時「パープルフリンジ/ブルーフリンジ」と言う「色付きの影」が憑き纏っていたら、それが「光軸ズレ」の証でもありますね(笑)
Meyer-Optik Görlitz製の最も廉価版である標準レンズ「Domiplan 50mm/f2.8」なども同じ設計でイモネジ固定による光学系後群の固定方式を採っていますから、実写を見れば (等倍確認すれば) 一目瞭然です(笑)
↑光学系後群をセットします。グリーンの矢印でイモネジを指し示していますね (合計3箇所ある)。従って組み上がった後に単に実写確認だけで光軸ズレをチェックしているのか、ちゃんと検査具を使ってチェックしているのかが問われる話になるワケです (何故ならフリンジは光学系の設計によっても憑き纏うモデルがあったりするから一概にフリンジの存在だけで光軸ズレを確定できないから)。
↑距離環やマウント部を組み付ける為の指標値環を兼ねる基台です。
↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑上の解説では両サイドの「直進キー」がどのようにセットされるのかを説明しています (グリーンの矢印)。この当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの多くのモデルで採用されている「直進キーによる駆動方式」です。
これらこの当時のオールドレンズが登場していた時代「1950年代」になると、多くのモデルで「直進式ヘリコイド方式」を採っていますから、距離環を回した時にズズ〜ッとそのままの位置で鏡筒が繰り出されたり/収納したりします。戦前の頃のクラシックレンズなどになると「回転式ヘリコイド方式」を採っていたりしますから、その場合は距離環を回すと一緒に鏡筒までクルクル回りながら繰り出し/収納をしますね(笑)
従って距離環を回す「回転するチカラ」が「直進するチカラ」として何処かで変換されている事がご理解頂けると思います。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
この「直進キー」は光学メーカーの設計によってネジだったり四角いカタチだったりと千差万別ですが、この当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの多くのモデルで、ご覧のような「尖頭筒 (先が尖った金属製の筒状)」を採用しています。さらに「尖頭筒」の内部にスプリングが入ることで、常に一定の圧を掛けながら鏡胴側の「直進キーガイド (溝)」を行ったり来たりするので、鏡筒が繰り出されたり/収納する原理ですね。
ここで問題になるのが「スプリングの強さ」です。スプリングと言ってもほぼ手のチカラでは縮まない非常に硬質なスプリングですからスプリングと言うよりはコイルに近いかも知れません。
すると「V字型の溝」が直進キーガイドの役目ですから、その「V字孔」のカタチと「尖頭筒のカタチ」が合致していなければ、それがそのまま「距離環を回した時のトルクムラ」に繋がる話になります。
何を言いたいのか?
つまりこの当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの多くのモデルで「トルクムラ」或いは「重いトルク感」が多かったりするワケで、実際今回の個体も当初バラす前のチェック時点で既に「トルクムラ」が生じており、且つ「ピント合わせできないほどの重さ」だったりしました。バラしてみれば案の定「白色系グリース」が過去メンテナンス時に塗られており、既に経年により変質して「濃いグレー状」になっていました。
そこで過去メンテナンス時の「常套手段」として、このスプリングを外してしまった個体が市場には多く流通していますが、バラさない限り確認することができませんね(笑)
【Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズの注意点】
① 光学系後群のイモネジ固定 (光軸ズレがないか否か)
② 距離環を回すした時のトルクムラとトルク感 (重い/軽い)
この当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの仕上がり状態は、凡そこの2点に集約されるのではないでしょうか。だからこそ「検査具を使ったチェックが重要」なのだとも言えますね(笑)
この後は完成している鏡胴「前部」を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが完了しました。当方でのこのモデルの累計扱い本数は、今回の個体が13本目にあたりますが、その中でLED光照射で視認できる極薄いクモリが伴うカビ除去痕やコーティングハガレなどが全く無いレベルを維持した個体は「僅か3本目」と言う現状です。つまりはその驚異的な透明度を維持した光学系である個体なので「即決価格:69,500円」の価値としていますから、逆に言えば同じ価格で今までに手にした方が2人いらっしゃると言う話でもあります (つまり同一価格での出品です)。
見る角度を変えるとご覧のようなコーティング層の光彩を放ちますが実はこのような光彩で光り輝いているのは第1群 (前玉) ではなくて、貼り合わせレンズである第2群なのです。
つまり市場に出回っている個体の角度に近くなるよう撮影しましたが(笑)、貼り合わせレンズのコーティング層の状態とも言えるワケです。
◉ 貼り合わせレンズ
2枚〜3枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム) を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群
従って、単なる油汚れ (経年の揮発油成分) 附着による汚れなら清掃でキレイに落とせますが、ほぼ間違いなくそんな簡単な話ではありません。つまり発生しているクモリは「バルサム剤の白濁」かも知れないワケで、或いは本当にコーティング層の経年劣化に伴うクモリかも知れませんが、いずれにしても清掃ではどうにもなりません。
◉ バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態
その意味で、この当時のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズは光学系のチェックが必須とも言え、まず以てクモリや汚れが残っている個体はどうにもキレイにできませんし、ましてや貼り合わせレンズとなれば入射光を収束させている箇所でもあるので、そこに生じてしまっているクモリは「致命的」とも言えます (コントラスト低下/解像度不足に至る)。
ヤフオク! などを見ていても平気でフツ〜な価格で光学系の状態が悪い個体を流していますが(笑)、知っている人はどんなに安くなっても誰も落札しませんね(笑) そのような個体は残念ながら哀しいですが「製品寿命」と考えるしかありません。
そして当方が出品するとなればもちろんオーバーホール済ですから、それは光学系だけの話で終わらず「距離環を回すトルク感」まで含めた「相対的な価値としての即決価格:69,500円」である事をご理解下さいませ。
↑光学系内はご覧のとおり飛んでもない状態です(笑) 光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体で、LED光照射でコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリも皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群側は特に第4群 (後玉) の表面側に経年相応な極薄い微細なヘアラインキズが残っていますが、拡大撮影しないと見えないレベルです。もちろん透明度は飛んでもない状態のままです(笑)
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
前述のとおり、後玉表面側には非常に微細なヘアラインキズが複数残っており、且つ第3群側のコーティング層に経年劣化進行部分があり「拭き残しのように見える」箇所が全面に渡ってありますが、4回清掃しても除去できなかったコーティング層の経年劣化です (拭き残しではありません)。
なおご覧のように拡大撮影しても写せませんでしたが「極微細な気泡」が複数残っており、パッと見で「微細な塵/埃」に見えてしまいますが、これも同様清掃では除去できない気泡です。
◉ 気泡
光学硝子材精製時に適正な高温度帯を一定時間維持し続けたことを示す「証」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として出荷していました。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
(極微細な点キズは気泡もカウントしています)
(気泡の数を除けば極微細な点キズは数点です)
・第2群の貼り合わせレンズ外周の縁部分に経年でバルサム剤が視認できている箇所がありますが写真には全く影響ありません(黄色っぽく見える)。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内のコーティング層には一部に拭き残しのように見えてしまうコーティング層経年劣化が線状に見る角度により光に反射させると視認する事ができますが拭き残しではありません。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑14枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際はご覧のとおり「真円の円形絞りを完璧に維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろんクロームメッキ部分も当方にて「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・フィルター枠に打痕を修復した箇所が1箇所ありますがフィルターの着脱は全く問題ありません。
(信用して頂く為に中古品を1点附属しています)
(一応附属の中古フィルターも清掃済です)
↑もちろん指標値として刻まれている基準「▲」マーカーもご覧のとおり一直線上にちゃんと並んでいます (ズレたままで平気で組み上げたりしません)(笑)
今回の出品個体はモデルバリエーションで言うところの「後期型−III」ですから、敢えて「最短撮影距離:60cm」をメリットと考えチョイスしています。それでいて驚異的に透明な光学系を維持していてトルクも重くないとなれば、きっとご満足頂けると思います。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑以前の話ですが、フィルター枠部分を締め付け固定している「イモネジとイモネジ用の穴」部分を「ドリルによる穴が空いているのに明記されていない (整備の不具合を隠すごまかしとして穴開けしているとの意)」として返品キャンセルした方が居ましたが (もちろんブラック
リスト)(笑)、もっと言えば光学系に「カビ除去痕」が残っていると因縁付けてクレームして
くる人も居ます(笑)
はたしていったい誰が「カビ除去痕は一切残らない」などと言っているのでしょうか?(笑)
例えば現実的に菌糸状に光学硝子面を浸食して生えてしまった、カビに食われてしまった光学硝子材をどうやって再生すればよいのでしょうか?(笑)
清掃しているならカビ除去痕は一切残らないものと、マジッに信じ込んでいる人が居るので 堪りません(笑)
もしその言い分がとおるなら、経年で摩耗してしまった金属製パーツの擦り減った部分も復元できる話になりますが、是非ともその方法をご教授頂きたいものです(笑)
↑今回の個体はフィルター枠の1箇所に打痕修復が残っています (赤色矢印)。フィルター着脱には一切影響しませんが、当方がそう言っても信用してもらえないらしいので、ちゃんと中古品ですがフィルターを附属させました (嘘つきとSNSで評判らしいです)(笑)
↑ご覧のようにちゃんとフィルターをネジ込めていますし、もちろん回して外すことも可能で全く以て普通に操作頂けます。信用/信頼が無いと言うのはこのようにコストが掛かってしまい本当に悲しい現実ですね (一応ちゃんとフィルターも清掃していますが経年のキズは残っています)(笑)
↑ここからはこのモデルの「プリセット絞り機構」の概念と操作方法を解説していきます。「プリセット絞り機構」を理解する際に、そもそも「プリセット絞り環/絞り環の区別」を間違えて認識していたら全く理解できません(笑) 恐れ入ることにプロの写真家でさえもこの「プリセット絞り機構」の概念を正しく認識できていない人が居るらしいのでオドロキです(笑)
このモデルでは上側のジャギーがあるローレット (滑り止め) が「プリセット絞り環」であり、その直下の絞り値が刻印されている環 (リング/輪っか) が「絞り環」です。このように説明すると「指を離したらプリセット絞り環/絞り環とも一緒に動くので関係ないだろう」と言う人が居ますが(笑)、実はそう言う人に限ってちゃんと「プリセット絞り機構」の説明ができなかったりします。
何故なら「プリセット絞り機構」とは撮影前に事前に設定絞り値を決めておく概念なので、この「プリセット絞り環/絞り環の区別」が正しく認識できていないと説明すらできないのです。
すると「プリセット絞り環」に用意されている基準「●」マーカーが「設定絞り値」を示しており (赤色矢印)、且つ鏡胴側の基準「▲」マーカーの位置に来ている絞り値が「現在の絞り羽根の状態を告知」してくれています (グリーンの矢印)。
上の写真では現状設定絞り値が開放f値「f1.9」であり、且つ現在絞り羽根は完全開放状態にあることを示しています。解説では「設定絞り値:f4」で説明していきます。
まずは「プリセット絞り環」側を指でガシッと掴んで上に引き上げ (ブルーの矢印①)、そのまま指で保持したまま設定絞り値まで持っていき (②)「f4」の箇所で指を離してカチンと填め込みます (③)。
↑この時、鏡胴側の基準「▲」マーカーの位置にはまだ「開放f値:f1.9」が居り (グリーンの矢印)、且つ「プリセット絞り値:f4」に設定したのが基準「●」マーカーで示されています (赤色矢印)。
絞り羽根が完全開放したままを維持しているので (何故なら絞り環側はイジっていないから)、ここで距離環を回してピント合わせを行います。ピントが合ったらシャッターボタンを押して撮影するので、その前の一手間として「設定絞り値まで絞り羽根を閉じる」動作が入ります。従ってブルーの矢印④のように「プリセット絞り環」のローレット (滑り止め) を指で保持して回しますが、この時「プリセット絞り環」は溝に填っている状態なので、その直下の絞り値が刻印されている「絞り環」まで一緒に動きます。
つまりこのモデルは「プリセット絞り環が絞り環を兼務」している設計であることになり、それを正しく認識しているか否かが「プリセット絞り機構」の把握に繋がるワケですね(笑)
↑「プリセット絞り環/絞り環」が回って鏡胴の基準「▲」マーカー位置 (グリーンの矢印) に「設定絞り値:f4」が来て (赤色矢印) 絞り羽根が設定絞り値まで閉じたことを表しています。シャッターボタンを押し込んで撮影します。
つまり「プリセット絞り環/絞り環」は反時計方向に回せば (上の写真では右方向)「絞り羽根が閉じる」ワケで、その逆 (上の写真では左方向) は「絞り羽根が開く」動作になりますから、いちいち中を覗き込んで絞り羽根の状態をチェックする必要も無く、カツンカツンと突き当たる場所まで回しきってしまえば「設定絞り値〜開放f値の間で絞り羽根開閉が実現する」仕組み/概念こそが「プリセット絞り機構」と言えるワケです。
従って一番最初に設定絞り値さえセットしてしまえば、後は撮影に専念できるのが「プリセット絞り機構」の操作方法です。
撮影が終わったら再びプリセット絞り値を戻すので「プリセット絞り環/絞り環」のローレット (滑り止め) を指で保持してカツンと停止するまでブルー矢印⑤方向に回します。
↑すると現在の絞り羽根の状態は基準「▲」マーカーの位置に「開放f値:f1.9」が来ているので、絞り羽根は完全開放していることが分かります (グリーンの矢印)。しかし「設定絞り値:f4」のままですから (赤色矢印)「プリセット絞り環」を指で掴んで保持したまま上に引き上げ (ブルーの矢印⑥) そのまま「開放f値:f1.9」まで回し (⑦) 指を死なすとカチンと填ります (⑧)。
↑一番最初の状態に戻っただけの話ですが(笑)、このように基準「▲」マーカー (グリーンの矢印) に対して設定絞り値も現在の絞り羽根の状態も共に「完全開放」である事が分かります (赤色矢印)。
如何ですか?(笑)「プリセット絞り機構」の概念の認識がちゃんとできたでしょうか。これで説明ができますね(笑)
↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑f値「f16」での撮影です。そろそろ僅かですが「回折現象」の影響が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。