◎ MINOLTA (ミノルタ) MC W.ROKKOR – SI 28mm/f2.5(MD)

minolta-logo(old2)引き続きミノルタのオールドレンズになりますが、今回初めての扱いになる開放f値「f2.5」と明るく大柄な広角レンズです。このモデルの特徴は何と言っても光学系第3群〜第4群の硝子材に含有させている「酸化トリウム」でしょう・・。

屈折率を20%ほど向上させることによりギリギリの処で諸収差の改善を狙っています。「酸化トリウム」を含有したレンズは俗に「アトムレンズ (放射能レンズ)」と呼ばれており、その半減期の長さからもいまだに放射線を放出したままになりますが、後玉直下での放射線レベルは実際には皆さんが受診される「レントゲン撮影」時の80%に満たないレベルであり、その使用時間から考察すれば、むしろ「空気中」に含まれる様々な物質の放射線レベルのほうが問題になるくらいの程度です。それは「被曝量」として勘案した際に最も健康被害が懸念されるのは「内部被曝」であり「酸化トリウム」を硝子材に含有したオールドレンズを「いじる」程度では、カラダで受ける「外部被曝」に値するので年間の「自然被曝量」からすれば何の懸念材料にもなりません。

硝子材に「酸化トリウム」を含有させたオールドレンズは、その経年使用に於いて化学反応を生じ硝子材が黄褐色に変色する「黄変化現象 (ブラウニング)」が起きることが分かり、1977年の時点では主だった光学メーカーでは採用を取りやめています。今ドキのデジカメ一眼ならば「AWB (オート・ホワイト・バランス)」の設定で自動的に色合いの調整が適正化されますが、しかし「入射光」のレベルで影響しているワケですから、写真への影響として考えれば「階調」への影響は否定できません。従って「黄変化」は改善しないよりは改善したほうが良いと言うことになりますね・・例えば、白黒写真をメインに撮影している方にとっては、この「階調への影響」はむしろありがたいことになり、とてもメリハリ感の強いコントラストが期待できる要素になりますが、一般的な撮影として考えると「本来の性能諸元」からは想定外の影響を来すことになり「好ましくない」と言わざるを得ません。

当レンズが他社光学メーカーの「アトムレンズ」と大きく異なるのは、その「酸化トリウム」を含有させている「レンズの位置」です。多くは光学系後群に配置したモデルが多い中で当レンズは「光学系前群 (第3群〜第4群)」内に配置しており、入射光の屈折を考慮すると相当に厳しい条件下で「酸化トリウム」を採用していることになります。当方が今回このモデルを扱うコトに決めた最大の理由はここにあります・・ミノルタの「拘り」を感じました

結果としてその描写能力に歴然とした「酸化トリウム」含有の効果が現れており、他社光学メーカーのモデルに比してもなお中心部〜周辺部に於ける諸収差の改善度合いは驚異的なレベルに達しています。特に色収差については周辺域に於いてもほぼ「皆無」に近い状況であり驚くべき事実です。

そのような「拘り」からついに筐体の全長は長くなり大柄なモデルになりました。28mmの焦点域で捉えるとコンパクトなモデルが多い中で、この大きさと重量は大きなマイナス要素になりますが、それを以てしても「写真の質」に拘ったモデルが当レンズと言えるでしょう。

この辺りの事柄を理解した上でこのモデルを見ないと、単に大きくて重い取り回しにくいオールドレンズにしか見えません・・そのような方が多いのはなかなか寂しいことですが、ちゃんと正しく解説が成されていないのも今となっては仕方ないのかも知れません・・。

当レンズは1969年1月にレンズ銘板に「MC」刻印のあるモデルとして発売されましたが、その僅か一カ月後 (1969年2月) には距離環のローレットの意匠を変更しています。当初長かったジャギーのローレットは短くなって再発売され、その後1973年には「MD」タイプのモデルへと移行し終息していきます。1975年には28mmの焦点域をさらに拡充させたモデルとして開放f値「f2.0」のモデルも登場します。

ミノルタのオールドレンズは「緑のロッコール」と呼ばれ、当時世界で初めて複層コーティングを実現させた「アクロマチックコーティング (AC)」が「淡いエメラルドグリーン」の光彩を放つことでそのような異名を持っています。そして取りも直さずその技術はライカとの技術提携により認知されることになりますが、その描写性はライカのレンズに相通ずる描写性であり、同時にその血筋がシッカリと普及モデルにまで現れている「拘り」には本当に感心してしまいます。そして、その「拘り」は「モノ造り」への拘りとして内部の構造化や構成パーツ、或いは組み立て手順など様々な部分にまで考え尽くされた要素を汲み取ることができ、MINOLTAは一貫したポリシーを明確に感じ取れる貴重な光学メーカーではないでしょうか。


次の写真はその「酸化トリウム」を含有させている光学系第3群〜第4群です。放射能マーク

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RO2825(0924)12上の写真 (2枚) は、1枚目が光学系をバラした直後の「黄変化」が進行したままの状態です。2枚目が当方にて「UV光照射」にて黄変化の改善処置を施した後の写真になり、ほぼ「無色」に近い状態まで改善できています。僅かに「黄色っぽく」残っているのは「コーティングの劣化」による変色なので、これはコーティングを剥離し再蒸着させない限り改善はできません。

オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

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構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリスの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく工程の写真です。

RO2825(0924)14まずは絞りユニットや光学系前後群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在しています。

RO2825(0924)156枚の絞り羽根を実際に組み付けて絞りユニットを完成させます。このモデルには「絞り羽根開閉幅調整機能」が装備されているのですが、この状態でほぼ確実な調整ができるような仕組みになています。

ここで鏡筒に光学系前後群を組み付けて完成させます。まずは光学系前群です。

RO2825(0924)16第2群のレンズは「アクロマチックコーティング (AC)」が表裏共にコーティングされています。「淡いエメラルドグリーン」が美しく輝いていますね・・光学系前群にはカビ除去痕としての極微細な点キズなどがあります。

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RO2825(0924)18上の写真 (2枚) は、1枚目が前玉の極微細な点キズを撮影しています。2枚目は第2群のやはり極微細な点キズを写しましたが、微細すぎてほとんど写りませんでしたが、共に光学系前群はとてもクリアな状態を維持しています。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:12点、目立つ点キズ3点
後群内:10点、目立つ点キズ5点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:前後群共に極微細な薄いヘアラインキズ数本あり。
・その他:バルサム切れ無し。第2群の表裏に施されたアクロマチックコーティングは経年劣化で極僅かに浮き始めています (LED光の照射でようやく視認のレベル) が写真に影響は全く出ないレベルです。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。

次は後群です。

RO2825(0924)19後群も良い状態を維持しています。

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RO2825(0924)22上の写真 (3枚) は、1枚目〜2枚目は極微細な点キズを、3枚目はヘアラインキズと外周部のカビ除去痕を撮影しています。

光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズはなかなか容易には発見できないレベルです。

RO2825(0924)23距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

RO2825(0924)24真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた位置までネジ込みます。このモデルでは「無限遠位置調整機能」を壮語しているので大凡のアタリで構いません。上の写真のようにビミョーな隙間が残っているのが正しい状態です。最後までネジ込んでしまうと無限遠は出ません (合焦しません)。

RO2825(0924)25ヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で12箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると再度バラしてここまで戻り再調整するハメに陥ります。

RO2825(0924)26すべての連動系パーツを外してベース部分だけにしたマウント部の内部です。連動系パーツ類が接する部分も含めて、当方にて「磨き研磨」が既に終わっています。

RO2825(0924)27先に真鍮 (黄鋼) 製 (ガンメタル) のマウントを組み付けました。このモデルではマウント部の内部に「隠しネジ」として4本のマウント部固定ネジがあり、後からこのネジを締め付けることができません。

RO2825(0924)28さらに先に絞り環を組み付けます。上の写真右横に「プレビューボタン (円形型)」が飛び出ています。コイツも後から組み付けることができないので、仕方なく先に絞り環をセットしています。このレバーが邪魔になり絞り環が入らないからです。これらの組み上げ手順は全体が理解できていないとなかなか定まらないですね・・。

RO2825(0924)29各連動系パーツを組み付けた状態の写真です。もちろん各連動系パーツも当方にて「磨き研磨」が終わっており、それぞれが最低限の負荷で連係するようになっています (つまり生産時の環境にほぼ近い状態です)。

RO2825(0924)30絞り環の「固定環」を組み付けました。これでようやく絞り環が固定され問題なく駆動できるようになります。鏡胴の組み上げはこの状態でほぼ完成ですので、ここで光学系前後群を組み付けた鏡筒をセットします。

RO2825(0924)31光学系前群の第1群〜第2群がだいぶ突出していますね・・。

この当時のミノルタの説明書にも記載されているのですが、当時の各光学メーカーの開放f値「f2.5」クラス広角レンズ「28mm」では前玉が大型になり小径での高性能化実現は難しい状況でした。当初「レトロフォーカス型」が6群7枚と言う構成に対し7群9枚で開発したところに、高性能を実現しつつも「小径化」に成功した最大の理由があるようですね・・それでも大柄な筐体は敬遠されがちですが、その描写性能を知れば考え方も変わるかも知れません。それほどに「収差の無い解像感」の高さは素晴らしいものがあります。

RO2825(0924)32距離環を仮止めして無限遠位置確認と光軸確認、絞り羽根開閉幅の確認を行えば完成間近です。

 

ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

RO2825(0924)1大柄な筐体ながらも意外に小口径な、しかし開放f値「f2.5」と明るさを維持しつつも諸収差の改善に拘った高性能モデルの逸品です。

RO2825(0924)2最近では経年劣化が進んで個体が多く問題の多い第2群の「アクロマチックコーティング (AC)」も含め、光学系内は大変クリアな状態を維持した個体です。特に第3群と第7群に配置された「貼り合わせレンズ」にバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が進行していないのは非常にラッキーです。

RO2825(0924)3絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が相応に感じられる個体でキズやスレ、ハガレや凹みなどがあります。

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RO2825(0924)7【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)

距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応中古品)

距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「実用品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

RO2825(0924)8経年相応の「実用品」レベルですが、ミノルタの「拘り」を感じる光学系設計からもその描写性能は素晴らしくお勧めの逸品です。

RO2825(0924)9光学系後群も非常にクリアな状態を維持しています。

RO2825(0924)10当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。コントラストが僅かに低めでフレアも微細ながら出てますが立体的な描写性と解像感の高さはさすがです。撮影に使っている小道具ミニカーは金属製ではなくプラスティック製なので、特にバンパー部分の「銀色 (プラスティック製)」塗色と、左横のライターの金具「シルバー (金属)」部分の「金属質」の写りの違いをご覧頂ければ、当レンズの質感表現能力の高さをご納得頂けると思います。「光りモノ (金属質やガラス質)」の質感表現がキッチリでき、なおかつ「動物毛や布生地」などの表現もリアルに描写できてしまうと言うのは、なかなかたいしたものです。単に解像度が高いだけではそれらの「質」の写り込みまでには至りません・・素晴らしいです。