◎ SOLIGOR (ソリゴール) AUTO SOLIGOR 50mm/f1.8(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、国産の
SOLIGOR製標準レンズ・・・・、
AUTO SOLIGOR 50mm/f1.8 (M42)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Украине!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

今回オーバーホール済でヤフオク! 出品する個体は当方がオーバーホール作業を始めた10年前からの累計で1本目にあたり、オーバーホール/修理ご依頼分でも「M42マウント規格」品の扱いがありません。

そもそも製産されていた時代がミランダカメラの終盤期で1974年の発売から1976年の倒産するまでの期間なのでそれほど多くありません (従って市場に出現する率はそれほど多くない)。

・・今回の扱いに際し調達を決断した最大の理由は「暴れるボケ」です(笑)

不思議な魔力を持っていて後でご案内する実写のとおり可もなく不可もない至って普通な写りに見えますが (悪く言うなら平凡すぎるからつまらない) と思いきや実写を数多く眺めていくと気がつけば全く以て虜に堕ちていたという魔性のオールドレンズです(笑)

まず被写界深度が開放f値「f1.8」にしては少々狭めの印象なのと合わせてアウトフォーカス部の滲みに盛大な特徴があり、エッジ境界から外れた途端にいきなり滲み始めるのでまるでピント面だけが浮いている如く「下手すれば違和感以外の何物でもない写り」みたいな写真が撮れてしまいます・・が然し、これが堪らないのです!(笑)

しかも最近凝り始めてしまった「暴れるボケ系」の面白さをこれでもかと堪能できるある意味数少ない特徴を持つオールドレンズとの評価からです。

ちなみにこの「暴れるボケ系」と言うコトバは当方のファンの方がお話しになっていた表現で初めて聞いた時にアッと言う間に琴線に触れてしまいそれ以降当方も愛用させて頂いています (まさに的確に表現し得たコトバで目から鱗だった)(笑)

従ってこのオールドレンズが吐き出す写真はパッと見で「フツ〜じゃねぇ〜?」とつまらなく見えるものの、何処か次の写真に移動したい気持ちが湧かない何とも見た瞬間に既に魔性に 堕ちていると言う恐ろしさを併せ持ちます(笑)

そしてコントラストをこれでもかと高く採ってきているつもりなのに何処となくナチュラルな印象しか残らない不思議さが堪らず、この表現性に似ている光学メーカーとしてすぐに頭に 浮かんだのがSIGMAだったりします (レンズで言うなら最近のArtシリーズ)(笑)

もっと言うならまるで知る人ぞ知る (彼の有名な) 撮像素子『FOVEONセンサー』の如く写りの匂い/雰囲気を感じ取ってしまったからもぉ〜堪りません!(笑) たかが当時の (しかも倒産前の断末魔のタイミングで)「廉価版」格付として世に出たオールドレンズなのだと当方には 決してバカにできない、壮大に匂い立つ画の虜に堕ちてしまったオールドレンズなのです・・人は時としていっときの気の緩みからこのように人生を踏み外し深淵なオールドレンズ沼の底へと堕ちていくのです(怖)

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wikiによると日本国内に「SOLIGOR (ソリゴール)」と言う社名の光学メーカーは存在しない ようですが、その前進は1948年に東京の世田谷に創設された「オリオン精機産業」で初期の頃は主に報道用フィルムカメラの修理や改造、写真機材や周辺機器類を扱っていたようです。

1955年に「オリオンカメラ (Orion Camera Co.)」に社名変更し、さらに1957年には「ミランダカメラ (Miranda Camera Co.)」へと変わります。

今回扱うモデルAUTO SOLIGOR 50mm/f1.8 (M42)』はマウント規格が「M42マウント 規格」なのでネジ込み式ですが、ミランダカメラでは独自仕様のスピゴット式マウント規格「MIRANDA Bayonet (MB)」が主体で中盤期までマウント内側に「M44ネジマウント規格」まで併せ持つ複合マウント規格と言うとても先進的なマウント方式を採っていました。

従って今回扱うモデルの「M42マウント規格」が登場したのは終盤期の1974年からになり、その際原型モデルになった一眼レフ (フィルム) カメラがミランダカメラの「MIRANDA SENSOMATシリーズ」です (センソマートと発音する)。

↑上の写真 (3枚) は、原型モデルとなったミランダカメラから発売されていた一眼レフ (フィルム) カメラのモデルをビクしています。下記列記はモデル銘とその発売時期から生産終了時期を示しています。

MIRANDA SENSOMAT1968年1973年
MIRANDA SENSOMAT RE1971年1976年
MIRANDA SENSOMAT REII1975年1977年

↑上の写真 (3枚) は「M42マウント規格」を採用したモデルをピックアップしています。製品マウント部右直上にある「TM」刻印は「Thread Mount (スレッドマウント)」の略でネジ 込み式である事を表しています (当時も今現在も基本的にネジ込み式マウント規格を指してThread Mountと特に海外で呼称する)。

MIRANDA TM1974年
SOLIGOR TM1974年
PALLAS TM1974年

ミランダカメラのスピゴットマウント規格だった「 MIRANDA SENSOMAT RE」を原型にして「M42マウント規格」に仕上げた輸出専用機です。またSOLIGOR (ソリゴール) は1968年頃に米国の写真機材商社AIC (Allied Inpex Corporation) 出資により創設されたブランド銘で他にも複数のOEM製品を扱っていたようです。その一方でPALLAS (パラス) は旧西ドイツ側の写真機材商社でやはり複数のOEMモデルを扱っていたようです。

いずれのモデルも発売時期 (1974年) のタイミングとして原型モデルを「 MIRANDA SENSOMAT RE」としている為、フィルムカメラトップ端の巻き上げ部に台座が備わる時代のタイプですがそれぞれ単発で終わっているようです。

↑上の写真 (3枚) は同様ミランダカメラの「 MIRANDA SENSOMAT REII」を原型としているのでフィルムカメラトップ端の巻き上げノブの台座が消えています (つまりREIIが原型という意味合い)。いずれのモデルも1976年にやはり単発で受注して輸出していた輸出専用機のようで日本国内での発売はなかったようです (この後すぐに米国AICからの資金途絶により倒産してしまいます)。ちなみにフィルムカメラの刻印は同じ「TM」のままですが巻き上げノブの台座が省かれている点を以て「バージョン2」との認識のようです。

MIRANDA TM-21976年
SOLIGOR TM-21976年
PALLAS TM-21976年

なにしろ当方は極度のカメラ音痴なのでこのミランダカメラのオールドレンズを扱う時はその調査だけで4〜6時間を要する始末で本当に疲れます(涙) 個人的にはこのミランダカメラの一眼レフ (フィルム) カメラはその製品フォルムや造りの良さに惚れ込んでいるので大好きなのですが、如何せんパッとすぐにいろいろ文章が出てきません(笑)

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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して、且つ口径食の影響が甚大に現れるので歪な円形ボケへと滲んでいく様子をピックアップしています。左端はおそらくエクステンションチューブを介在させて撮影しているようで疑似マクロ化になりますが、エクステンションの製品仕様が悪いのかご覧のように「色ズレ」が起きています (シャボン玉ボケのエッジにブルーフリンジを帯びている)。仮にもしも光学設計から来る収差とすれば放射状にピント面から外れる位置に同じようにフリンジの色付きが現れますが「光軸ズレ」の場合は一部の側にのみフリンジの色付きが現れるので判明します (左端写真で言えばピント面の上方向に向かってのみフリンジが現れている)。

今現在もヤフオク! で自らオールドレンズを解体して整備しているプロのカメラマンがいますがその仕上がった個体で撮影した実写を見ると一部の改造マウント個体はピント面から外れた位置で「パープルフリンジ」が憑き纏っているので (他の位置に現れていない) おそらくマウント部を切削した際に光軸ズレが起き「色ズレ」を招いているように見えます。きっと元は「Altixマウント規格」の個体だったのでしょうが爪やリリースキーを切削してそこに「M42マウント環 (外径M42 x ピッチ1mm)」をエポキシ系接着剤で接着、或いは備わるイモネジで締め付け固定していると推察しますが肝心な検査具を使った光軸ズレのチェックをちゃんとしたのでしょうか?

こういうイモネジ締め付けによるマウント部改造はそのイモネジの締め付け度合いで容易に「色ズレ」を招くので要注意です。もちろんそれならエポキシ系接着剤で接着すれば良いかと言えば同じなので、とにかく検査して「光軸ズレ」解消が必須だと思います。

そして2枚目〜4枚目がまさに冒頭でお話した「暴れるボケ系」とも表現できそうな「ピント面のエッジはこれでもかと鮮明なのにそのアウトフォーカス部がアッと言う間に滲んでいる」のが堪らないのです(笑) ボケ味についてはこの一段目の写真でノックアウトでした!(笑)

二段目
さらに赤色の発色性をチェックする為にピックアップしています。特に特徴なく(笑)、フツ〜に鮮やかな赤色ですが花弁や松ぼっくりの素材感、材質感などを写し込む質感表現能力の高さに唸ります。そしておそらくですが光学設計と蒸着しているコーティング層からの影響なのでしょうか、本当に極僅かながらまるで当時のMINOLTA製オールドレンズやαマウント機種、或いはTAMRONの如く「アンバー成分が強調されている」ように印象を受ける色付きです。

三段目
そしてこの段の実写を見て冒頭解説のSIGMAに通ずるような表現性の濃さを感じ入りもぉ〜 一瞬で虜に堕ちました!(笑) 特に撮像素子『FOVEONセンサー』の如く写りの匂い/雰囲気を感じた要素とは生い茂る木々や芝生など植物の違いに拠るグリーンの表現性がシッカリ色飽和せずに残せている点、さらにその背景の山々に帯びる「空気層を含む青色に霞む表現性」こそがまさに撮像素子『FOVEONセンサー』の如くリアルであってまるで自分の瞳で観ているが ままに感じ入ってしまいます。撮像素子『FOVEONセンサー』の素晴らしさはそういう色表現が人の瞳で観たがままに自然に残せてしまうところにセンサー技術の概念性の素晴らしさを見出せます (いわゆる創られた色表現に至らない純粋さが素晴らしい)。プールの水面の表現性からその色合いの相違など、或いは建物の壁面に微かに帯びる水の映り込み、背景の山の上に広がるまさにこの通りの空の様子など、なかなか今ドキの撮像素子のセンサーで表現できないと感嘆しています。そこにSIGMAの飽くなきこだわりの素晴らしさがあるのだと思いますね。
(このモデルはSIGMAとは関係ありませんが)

光学系は一部ネット情報では5群6枚としていますが現物は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成でした。

ほぼミランダカメラの一眼レフ (フィルム) カメラ取扱説明書に印刷されている構成図に準拠しますが特に光学系後群側のサイズや曲率などが違っています (前玉も厚みが違う)。

右図は今回のオーバーホールに際し完全解体したおり、光学系の清掃時に逐一各群を当方の 手でデジタルノギスを使って計測したトレース図です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の扱いが初めてですが完全解体してみると内部構造は至って合理的、且つ簡素化を進めた設計なのが分かります。

しかし今回の個体は当初バラす前のチェック時点で幾つか問題が発生している状態でした。

《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
距離環を回すと相当なトルクムラを感じる。
距離環を回すトルクが重すぎる。
 絞り環を回すと最小絞り値側で詰まってしまう。
そもそもアンダーインフ状態で全く無限遠に到達していない。
 鏡胴に僅かなガタつきがある。

《バラした後に新たに確認できた内容》
光学系内にカビと汚れが多く残っている。
白色系グリースが塗布されている。
マウント部内部のバネ類が曲げられている。

・・とこんな感じでした。

そもそもバラす前の実写チェック時点で完璧にアンダーインフ状態に陥っており、無限遠が 到達したおらず遠景を写すとピントが合いません(泣) 「オーバーインフ」状態なら距離環刻印指標値の「∞」刻印の手前で一度無限遠合焦してから「∞」に向かって回すと再びボケていく状況を指しますが「アンダーインフ」状態の場合は「∞」刻印位置に到達しても遠景でピントが合いません。つまり無限遠撮影できないオールドレンズになっている状況を指し一般的にこのような状況は正常と言いません。

すると今回のオーバーホールに於いて当方は「無限遠位置でピント合焦する適切なヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置を調べる」必要が発生しますから面倒くさいですし、そもそもバラした直後の様々な部位の構成パーツ固定箇所すら信用できません。

・・つまり本来あるべき姿 (適切な状態) を探索する工程が必要になります。

特に初めての扱いとなると厄介極まりない話でアンダーインフ状態となれば無限遠位置も確定していないので何から何まで調べていく必要があり面倒極まりない話です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根をキレイに清掃してから組み込み鏡筒最深部に絞りユニットをセットしたところです。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上方向が前玉側になります。すると鏡筒外壁には全周に渡りヘリコイド (オス側) のネジ山が切削されその途中には両サイドに「直進キーガイド (溝)」が備わっています。この直進キーガイド部分を「直進キー」と言う板状パーツがスライドして行くので距離環を回した時のチカラが伝達されて鏡筒を繰り出したり/収納したりする原理です。

鏡筒のトップ外廻りにはフィルター枠をネジ込む為のネジ山が備わりますが、そこに「2箇所イモネジを締め付けた痕跡」が残っています (グリーンの矢印)。

すると1箇所は製産時点ですがもう1箇所は過去メンテナンス時の整備者により締め付けられた位置と判定でき、且つズレているのが分かります。さらにそのイモネジ締め付け痕をしっかり観察すると複数回締め付けられた痕跡がないので過去メンテナンスは1回と判定できます。(その根拠はフィルター枠のネジ込みは最後に至ると相当堅いので複数回イモネジを締め付けていればその締め付け痕は必ずズレるから)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑真鍮 (黄鋼) 製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けたポジショニングでネジ 込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイドオス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けたポジションでネジ込みます。このモデルは全部で10箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

当初バラした直後の無限遠位置を既にマーキングしてありますが前述のとおり今回の個体は アンダーインフ状態なのでそもそもヘリコイドのネジ込み位置が合っていません。従ってそのまま同じ位置で合わせてネジ込むと当然ながら不適切なので無限遠位置のアタリをつけて別のポジションでネジ込みます。

↑ヘリコイドをネジ込んだところでひっくり返して裏側を撮影しました。鏡筒両サイドのヘリコイド (オス側) の途中にある「直進キーガイド (溝)」にちゃんと「直進キー」が刺さっています (赤色矢印)。また基台の裏側/上の写真奥の位置にはちょっと隠れてしまい見えにくいですが「絞り値キー」と言う各絞り値に見合う箇所に溝が刻まれています。ここにベアリングがハマってカチカチとクリック感を実現する仕組みです。その一方手前側には鏡筒から飛び出ているコの字型の爪開閉アーム」が備わりブルーの矢印のように動く事で絞り羽根を閉じたり開いたりしています。

↑マウント部内部の写真ですが既に当方の手により各構成パーツを取り外して「磨き研磨」し終わった状態です。過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」により一部のパーツはサビが出たりしていました。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施しグリースなど塗らずとも滑らかに 抵抗/負荷/摩擦がない状態でちゃんと動くようにしてあります。また捻りバネの角度を過去 メンテナンス時にペンチで掴んで曲げてあったので、それも正しいカタチに戻してあります。
3枚ある座金も1枚にサビが出ていたのでちゃんと磨いて機能するよう処置してあります。

↑絞り環をセットしたところです。するとマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) 捻りバネのチカラが作用して「連動アーム」が動いて途中にあるキーが「制御キーのなだらかなカーブに突き当たる」事により (グリーンの矢印②) 絞り環で設定された絞り値に「連動アームが動く」ので絞りユニットの開閉アームが動く仕組みです (ブルーの矢印③/つまり連動アームが開閉アームに刺さっている状態)。

この時、上の写真でグリーンの矢印②のキーが絞り環と連結している「制御キー」がなだらかなカーブの一番勾配が大きい位置に突き当たっているので、上の写真の状態は「開放f値なので絞り羽根が閉じない」事を意味します。その一方でなだらかなカーブの坂が下った麓部分 (薄い黄色の矢印) は「最小絞り値側」なので「連動アーム」に備わるキーの移動量が増える為なだらかなカーブの一番麓部分に突き当たったところで絞り羽根が最小絞り値「f16」まで閉じる仕組みです。

つまりマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」押し込みに伴い捻りバネでそのチカラが増幅されてなだらかなカーブにキーが突き当たるのでその分の移動量で「連動アームが動く」から刺さっている先の絞りユニットから飛び出ている「開閉アームが動いてリアルに絞り羽根が閉じる」と言う原理です。

するとこのマウント部内部の「捻りバネのチカラがとても重要」なのがご理解頂けるのでは ないでしょうか? その一方で上の写真にも写っているスプリングのチカラは「常に絞り羽根を開こうとするチカラ」が連動アームに及んでいて、このようにスプリングとネジの2種類のバネ類を駆使して絞り羽根が開くチカラと閉じるチカラの「相反するチカラのバランスの中で絞り羽根が正しく開閉動作する」仕組みがオールドレンズに於ける「自動絞り方式の原理」である事を整備者は知るべきです。

従って捻りバネだけをペンチで曲げてしまうのはバネ類の経年劣化を促す結果に至り最終的に「製品寿命を短くしてしまっている」事に気づきその場凌ぎの「ごまかしの整備」をやめる べきですね!

ではどうして同じバネ類を使わずに「捻りバネとスプリングなのか?」を説明するなら「マウント面から飛び出ている絞り連動ピンを押し込むチカラはバネ類が関わっていないから」なのであって、ここにフィルムカメラ時代に於けるボディ側マウント部内部の「ピン押し板」の存在が必ずあって、フィルムカメラのシャッターボタン押し込みにより勢い良くピン押し板が動いて瞬間的にマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」を押し込むからマウント部内部の一方のバネ類は「捻りバネ」を使う設計なのです。

これこそがフィルムカメラ時代に於ける絞り羽根を閉じる原理なので、その原理を今ドキの 強制的に「ピン押し底面」で最後まで絞り連動ピンを押し込みきってしまう概念のマウント アダプタに適用して考えること自体が「本来想定されていたチカラバランスとは全く異なる 使われ方」をオールドレンズ側に強いている事を整備者や、もっと言うならオールドレンズを使っている人達/勢力が確実に認識するべきと当方はこのブログで何度も何度も執拗に述べ続けているのです。

それをあたかも「同じM42マウント規格どうしだからマウントアダプタでの装着でも関係なく動くのが正しい」と勝手に決めつけて文句を言う人達/勢力が必ず相応の数居るのですが、当方には100%受け入れられませんね(笑) そういう人達は「ごまかしの整備」が得意な一般的な整備会社にオーバーホール/修理をご依頼されるべきだと当方は強く宣言致します!(笑)

↑完成したマウント部を基台にセットしたところです。既にこの時点で鏡筒裏側に飛び出ている絞りユニットからの「開閉アーム」にマウント部内部の「連動アーム」が刺さって連係しています (当然絞り環操作に従い絞り羽根が開閉動作する)。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を格納して無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。ハッキリ言って製品としてのこのオールドレンズは「当時は廉価版だった」格付ですが、まるっきりアンダーインフ状態で無限遠位置が合致していないとなればゼロから減りのネジ込み位置を調べて (ネジ山の数10回分) キッチリ無限遠位置を適合させた次第です。現状は僅かなオーバーインフに設定してありますが、当初バラす前の位置からは何と距離環距離指標値で「5目盛分も足りなかった」ので微調整だけでどうにかなる話ではありませんでした (これでは無限遠位置で合焦しないのが当たり前です)。

ちなみに上の写真のとおりレンズ銘板の一部に製造番号の「先頭3桁」を消さずに残してあります。「108」なのでトキナーによる製産で2008年に出荷されていたのが分かります。

左の一覧表はSOLIGORモデルのレンズ銘板に付番されている製造番号「先頭1桁目3桁目の暗号」を示しており、それらの符番に従いそれぞれの製造メーカーが当時OEM生産していたようです。

すると今回の個体は「1桁目」なのでトキナー製である事が分かりますし、実際に完全解体してバラしてみるとまさにトキナー製なのが判明します。

また続く数字が「08」なので2008年の製産出荷品なのも判明します。暗号符番の次の2桁が製造年度の下2桁を現しています。例えばレンズ銘板の先頭が「KA88」なら協栄光学が 製造して1988年に出荷した個体だったのが分かると言う感じです。

ところで本来供給元だったハズのミランダカメラは1976年に米国AICからの資金途絶が起きて倒産しています。関係会社 (販売元) が残っていた部品を引き取って製品の組み立て工程を図ったとしてもせいぜい1977年までが精一杯でしょう。するとこの製造番号の数値たる2008年はいったいどうして現れたのか/刻印されたのかと言う疑問が湧きますが、そもそも米国AICは 写真機材を取り扱う商社なのでVivitar同様それ以降も製造会社との受託契約を取り同じ意匠を踏襲しながら製品を供給し続けていた事が伺えます。

つまり米国AICとの契約としてトキナーがその後を受け持ったのなら「外面たる筐体外装の 意匠が同じなのに内部はトキナー流」なのが納得ですが、実はミランダカメラ時代からトキナーが製産していたとの判定が相当強くなりました。

以前当方でオーバーホール/修理を承ったMIRANDA製「AUTO MIRANDA 50mm/f1.8 (MB)」ですが、マウント部の仕様が異なるもののその多くの構成パーツが同一仕様である点と共に、何と鏡胴「前部」側までそれこそ鏡筒などひっくるめて全て同一だったのです。

するとその個体の製造番号をチェックすれば自ずと同じ符番ルールに則っていたのではとの 推測に立ち、調べてみると「先頭197」でありやはりトキナー製だった事が見えてきますし (だから内部に同一パーツばかり多用していたのが納得) 合わせて製産年度が1997年と言う話になります。

・・?????

はたして1997年時点でもMIRANDA製品の輸出供給が米国やヨーロッパに及んでいたのでしょうか??? さすがにここまで来ると当方にはもぅ分かりません。何方かご存知の方がいらしたら是非ご教授下さいませ。

余談ですが上の一覧表を用意している最中に「サン光機」を調べていて意外な背景を知るに つけなかなか感慨深い想いに至りました。

話は大正時代まで遡りますが今現在の千葉県大網白里市北今泉町の上代平左衛門 (かじろひらざえもん) は同じく北今泉町四天木に住まう斎藤四郎右衛門 (さいとうしろうえもん) 次ぐ大網元だったそうで、要は九十九里浜という場所が場所なだけに当時大正時代までイワシ漁が盛んな漁村だったようです。

そのイワシ漁に見切りを付けて大正八年に廃業した後、当主の上代斎氏が昭和四年〜五年に 200ヘクタールの農地を開放し実弟上代格氏を戦前ドイツに留学させて光学レンズの研究に道を開いたそうです (つまり大網元とは当地の地主でもあったのか?/農地解放で得た資金を 基に実弟をドイツ留学させた)。

この時格氏の帰国時にドイツ人娘ヘルタさんを伴っていたので当地で評判になったようです。東京に出た斎氏は茂原の高橋民之助氏と共に「五條光機製作所 (ザイカ)」を創設しレンズ研磨を生業としてライカの下請けなども手掛けていたようです。

やがて大東亜戦争に突入し技術院総裁井上匡四郎名を以て反射鏡試験研究の下令を受け投光器の製産に勤しんでいたようです。昭和十九年七月米軍による東京空襲がピークを迎え時の総理大臣東条英機より文章を以て五條光機製作所本社を千葉県市川市に、工場を千葉県大網白里市北今泉に疎開との下令を受け転居したそうです。

敗戦後五條光機製作所は「サン光機」と改名し (1961年) 米国へのオールドレンズ輸出が盛んになり斎氏の従弟上代正一氏が「オーションレンズ」縁者の泉氏が「泉光学」とそれぞれ創設してその周辺にはさらにレンズ研磨の下請けが密集し、さながら九十九里浜の北今泉辺りは まるでレンズ村の如く変貌し実に昭和三十年代には盛況を来していたようです。まさに閑散とした過疎化が進む一方の一漁村が高度経済成長の荒波に乗って一気に賑わっていた時代の匂いを感じます。

サン光機の社長を継いだ長男上代道夫氏は香港に拠点を創設し本格的に欧米への進出を果たしますが志半ばで本社が倒産し撤退を余儀なくされたようです。その際、オーションレンズは ベトナム戦争中も輸出を続け昭和五十年代 (1980年代初頭) に廃業しています。
(以上引用元:千葉県大網白里市広報より)

ちなみにサン光機は後に「サンレンズ」に改名し、その後大沢商会に子会社化され1981年には「ゴトー・サン」に社名変更しています。1984年に倒産していますが、その時合わせて大沢商会 (OSAWAレンズ) マミヤ光機なども同じタイミングで倒産しています。大沢商会は当時世界第3位の1250億円もの負債額で倒産しているので相当なレベルです。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。ひいて挙げるなら後玉外周部分に極微かな汚れ状の キズなのかコーティング層の劣化が僅かに残りますが言われなければ気がつかないかも知れ ません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無ですが前述のとおり後玉外周部分に微かな 汚れ状が僅かに残っています (写真に影響せず)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:20点以上、目立つ点キズ:16点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
(前後玉に微かな点状カビ除去痕が複数あり)
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(前後群内に極微細な薄い10mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
(前後玉外周附近に僅かな汚れ状の痕残っています)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(但し後玉外周にLED光照射で視認できる極薄い汚れ状があります/清掃で除去できず)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・特に後玉はとても微細な点状カビ除去痕が無数に残っていますがパッと見で塵/埃のように見えてしまいます。おそらく経年で繁殖したカビによるコーティング層侵食痕とみています。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が指に伝わります(擦れ感軽め)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
LinoLite製UVフィルター (新品)
本体『AUTO SOLIGOR 50mm/f1.8 (M42)』
汎用樹脂製ネジ込み式M42後キャップ (新品)
汎用樹脂製スナップ式前キャップ (新品)

いくらSOLIGORモデルとしても特に「M42マウント規格」の場合、市場出現率はそれほど高くなく多少は希少的な位置付けなのかも知れません。いつもそうですがオーバーホールで完全解体すると相応に軽いトルク感に仕上がり操作性が向上するのできっと撮影時にも扱い易く感じられると思います。またその一方で必要外の部位には一切グリースを塗ったくらないので経年に拠る揮発油成分の心配は極力少ないのが当方が仕上げた個体の特徴です。今のところ7年前までの個体までは「黄褐色系グリース」の液化進行が進んでいないことを確認済なのでそれ なりに長く使い続けられると思います。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮っています。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。