◎ KMZ (クラスノゴルスク機械工廠) ЮПИТЕР−9 (JUPITER−9) 8.5cm/f2 Π (silver)《初期型》(L39)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回オーバーホール/修理が終わりご案内するモデルは、旧ソビエト連坊時代に
KMZで製産されていた中望遠レンズ・・・・、
ЮПИТЕР-9 (JUPITER-9) 8.5cm/f2 Π《初期型》(L39)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回ご案内する個体はオーバーホール/修理ご依頼分として承りました。当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で、当時のロシアンレンズ「JUPITER-9 8.5cm/f2」の括りで捉えると45本目の扱いですが、その中でモデルバリエーション上のKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) 製だけでカウントすると20本目にあたり、さらに1955年までにKMZからの出荷個体だけに限定してカウントすると少なくなり・・僅か6本目と言う状況です。

まず最初に今回のオーバーホール/修理のご依頼者様にお礼を申し上げたいです・・ありがとう御座います!(涙)

実はスッカリ忘却の彼方に追いやられてしまい、ロシアンレンズたる「JUPITER-9シリーズ」の中に今回扱った『初期型』が存在する事を失念していたのです!(驚) そもそもご依頼者様
より一番最初のお問い合わせが着信した時点で「ちゃんと1951年製のJUPITER-9と明記」されていたのに・・全く気づいていなかったのです(汗)

・・いや、何と恥ずかしい話だことか!(恥)

1951年製造となれば旧ドイツ敗戦時にCarl Zeiss Jenaの工場から接収した光学硝子材資料 (ここで言う資料とは光学硝子レンズを精製する際に配合する原材料を指す) を使って精製した硝子レンズを実装していることが最大限に期待できるものの、そればかりに頭が行ってしまい「肝心な内部設計や構造が全く別モノであること」を露にも思い出さなかったのです(笑)

オーバーホール/修理のために完全解体している最中に分かり「あ゙!」と冷や汗が・・(笑)

そうなんです! 今まで12年間に45本も「JUPITER-9シリーズ」を扱っていながら、同じ「1951年製の初期型」は1本だけで、今回が2本目なのです (1955年まで含めた括りで捉えるならカウント上は6本)!(驚)

そしてオドロキはそれだけではなく・・何と今回扱った個体は「現状ネット上で発見できるJUPITER-9シリーズ解説サイトの何処にも記載がない全くの特異な個体」だったのです!(驚)

・・もぉ〜冷や汗を通り越して鳥肌で風邪ひきそうなくらいです!(笑)

単に接収硝子を使って製造された点の確認をしたかっただけだったのに、何と浅はかだったことか・・結果、このように3倍の歓びに至ったことに改めてご依頼者様にお礼を言いたかったのです! ありがとう・・(涙)

  ●               

当方は「ロシアンレンズ」と呼称していますが、正しくは先の大戦後の旧ソビエト連邦時代に生産されたオールドレンズの総称として使っています。

当初旧ソビエト連邦は戦前から続く共産主義体制国家だったので「私企業」の概念が存在せず主だった企業体は「ソビエト連邦共産党」に一元管理された「国営企業」でした (専門研究者の間での呼称)。その中で5年ごとに実施される党大会に合わせ、特に戦後の経済混乱期に於いて「産業工業5カ年計画」を立ち上げ、国家=共産党=労働者 (国民) の概念の基、全て使役により国民は国家からその成果を配分されるものとして社会体制の構築を急いでいたようです。

また合わせて敗戦後のドイツも連合国軍により分断占領統治され、旧東ドイツを占領統治した旧ソビエト連邦は本国と同じ「産業工業5カ年計画」に基づき「VEB (人民所有企業)」を最小単位の企業体と定義づけ、その収益吸い上げから人民給与が確定していく流れを組織体系の要とし「政治委員会」との関係性など含めた巨大な組織体系として旧ソビエト連邦を倣っていたようです。

従って本国旧ソビエト連邦で「国営企業」との呼称は、旧東ドイツに於いては (当然ながら
ドイツ語なので
)「VEBVolks-eigener Betrieb (フォルクス・アイゲ(グ)ナー・ヴィトゥリーブ)」の頭文字を採り、そのまま直訳和訳にすると「公営企業」になってしまいますが、専門研究者の間では「人民所有企業」とするのが常識のようです (いずれも過去に旧ソビエト連邦の体制に関する産業工業論文を読み漁り勉強した/人民公社とは呼ばない)。

実際は本国旧ソ連でもキッチリ5年で結果/成果が得られず、共産党指導の下「7カ年計画」に訂正されるなど、同じ指令が旧東ドイツにも適用され本国と連動させていたようです。

するとオールドレンズに関して調べると「一つのモデルを複数工場で並行生産していた」が為に、いったいどの工場で生産出荷されたのか不明瞭な為に「ロシアンレンズのレンズ銘板には必ず製産工場を現すロゴマークが刻印されていた」次第です。

一方で旧東ドイツでは国家体制自体の歴史が浅かったために、且つ戦前まで私企業の概念が浸透していたこともあり「増産体制は競合企業の買収により傘下に加えて規模を拡大していく手法」を積極的に執ったようです。従って「ベルリンの壁崩壊事件」が勃発した1989年時点で旧東ドイツの光学メーカーで最大規模を誇っていたのがCARL ZEISS JENAだたようです。

ロシアンレンズ」の呼称に関する背景はそのような話になりますが、現実には当時各国共に「光学技術の進捗に最も関心が強かったのは民生よりもむしろ軍のほう」だったようです。

その際たるものが「射爆撃照準器 (爆撃機に搭載)」や「測距儀」或いは照準器まで含め様々な軍需品に於いてそのピント精度の向上や視認性などその冀求が甚だしかったのも納得です。

従って旧ソ連軍も戦前ドイツのZEISS-IKONが世に送り出したレンジファインダーカメラ「CONTAX I型」とそれに附随するオプション交換レンズ群の光学設計に相当な関心を寄せていたようです。

実はこのような当時の背景こそが、戦後旧ソビエト連邦時代に本家たる旧東西ドイツとは全く異質な別系統として発展を遂げた「ロシアンレンズ」を知る上での基礎的な概念とも指摘できます。

今回扱った「JUPITER-9シリーズ」にターゲットを絞ると前述の「CONTAX I型」向け中望遠レンズとして登場したCarl Zeiss Jena製「Sonnar 8.5cm/f2 (CONTAX C)」の光学設計が羨望の眼差しで旧ソ連軍に捉えられていたのも薄々感じ入るところです(笑)
(左写真は戦前の製産になるBlack & Nickel Sonnar 8.5cm/f2)

ここに来てようやく旧ドイツ敗戦時に旧ソ連軍が「どうしてCarl Zeiss Jenaの工場から何もかも接収したのか?」それこそ技師は当然ながら設計図面から工場の機械設備、果ては光学硝子材の資材含め「旧ソ連軍が去った後には工場の建物しか残っていなかった」と言う状況だったのが納得できます(笑) 実際ネット上で研究している方のサイトを観ると、掲載写真でがらんどうの工場建屋だけが残っているのが確認できます。

ここがポイントで、単に「ロシアンレンズ」との認識だけに囚われず、当時の背景や状況を認知するなら、本家戦前ドイツ時代に発展していった光学製品群が、その後戦後の旧東西ドイツ「旧東ドイツCARL ZEISS JENA旧西ドイツCarl Zeiss (oberkochen)」 そしてさらにもう1系統「ロシアンレンズ」の3系統で発展を遂げていった、特異で固有な存在であることを理解できると思います (他に国を跨いでこのような発展を遂げていったオールドレンズが存在しないから)。

左の図は1963年時点の旧ソ連邦時代に存在していた国立GOI光学研究所から発刊されたレンズカタログ (仕様諸元書) からの抜粋です。

CONTAX Cマウント規格」のモデルとしての設計諸元値を含む図面として一ページ割いています。

するとここに3群7枚ゾナー型光学系構成図が示されていますが、ネット上で一般的に出回っている「JUPITER-9シリーズ」の構成図とは少し違うように見えます。
(実際マウント規格もフランジバックも異なるので光学設計が
違うの至極は当然の話)

その違いを分かり易くする目的で左図の構成図をトレースした図を
右に示しつつ、その後に登場した主だった「JUPITER-9シリーズ」の構成図も合わせて掲載していきます。

仕様諸元書からのトレース図ですが、明らかに光学系第3群の貼り
合わせレンズで5枚目にあたる光学硝子レンズが表裏面で対称な両凹レンズなのが分かります。

次の右構成図はロシアンレンズで時系列的にモデルバリエーションを探っている大変詳しいサイトSovietCAMS.comに掲載されている一番最初に登場した「PT7005」の構成図をトレースしました。

1948年〜1949年にプロトタイプとして製産された接収硝子材を使った「ZK (Sonnar Krasnogorsk)」をモデル銘とし「ZK-85」で登場しています (まだこの時点ではJUPITER-9銘ではない)。

ここでのポイントは光学系第1群前玉が凸平レンズである事です。

さらに右構成図は今度は同じサイトから「PT7015」の構成図
をトレースしていますが、この世代で初めてモデル銘が「JUPITER-9銘」に変わり、且つ「最短撮影距離1.15m」と大幅に短縮化してきたモデルです (必然的に光学系を再設計している)。

図面を計測するとビミョ〜に曲率などが違うのですが (特に光学系
第3群の3枚貼り合わせレンズが違う
)、一方で光学系第1群前玉は凸平レンズで同一です。
(但し厚みと曲率が僅かに違う)

それでは今回扱った個体をオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。

ちょっと図が小さいので明確に分かりにくいですが、実は光学系第1群前玉が「凸メニスカス」に変わっているのです (つまり中心部が極僅かに凹んでいる/平坦ではない)。

従って製産されたタイミングとして「JUPITER-9銘」に変化していながら、だとすれば「最短撮影距離1.8m」が合致せず (何故ならPT7015は最短撮影距離1.15mだから)、しかもその途中の「PT7010」とも筐体外装の刻印文字の違いや、そもそもモデル銘が「ZK-85」から「ZK ZORKI」に変更されている点も全く合致していません。

・・さらに決定的な設計上の相違点が完全解体して組み立てていく工程で判明しました!(驚)

要は前述の時系列で探索している詳細を究めたサイトにも全く載っていない「未知のモデル
バリエーション
」が今回の個体だったことになります!(驚)

↑上の写真は当初バラす前の時点で撮影した今回扱った個体の写真です。順に赤色矢印でバラす前の段階で問題となる点、或いは違和感を抱く事柄に関して逐一指し示し解説しています。

【当初バラす前のチェック時点で気になっていた点】
隙間
光学系前群格納筒 (光学系第1群〜第2群を格納する格納筒) と鏡筒との間に0.1mm程度の隙間が残っている。これは適正な光路長から捉えれば例え0.1mmでも悪影響を及ぼします。

最短撮影距離:1.8mまで到達しない
このモデルの最短撮影距離は仕様上「1.8m」なのですが、距離環を回していくとその1.8mの手前でカツンと突き当て停止してしまいます。もちろん反対側の無限遠位置「∞刻印」は
ピタリと合致し、ちゃんとカツンと突き当て停止しているので違和感がありませんが、仕様上の最短撮影距離まで距離環が到達しないのは「違和感を通り越して製品としてあり得ない話」の何ものでもありません(泣)

距離計連動ヘリコイド部分の反射防止黒色塗料着色
パッと見で最初気づきませんでしたが、完全解体して溶剤で拭っていくと、この部位の塗膜が
溶けて剥がれました。つまり製産時点にメッキ加工していないのを過去メンテナンス時に「反射防止黒色塗料で着色した」のが明白です (何故ならメッキ加工は溶剤で溶けないから)。

合わせてヘリコイド (オスメス) のネジ山はもちろん、何と鏡筒内部にまで「黒っぽいインク成分」が飛んでいる状況でした・・これは製産時点ではやはり考えられない話です(泣)

距離環が経年の手垢で褐色化・・(汗)
これはロシアンレンズにとても多い特徴ですが、アルミ合金材の表層面の仕上げが簡素なので、個体によってご覧のように経年で手垢が蓄積して褐色に変質します (必ず全ての部位で同じように蓄積しない)。

さすがに手垢の蓄積となると、いくらオールドレンズと言えどもキモイと感じる人には相当辛い話です(涙) 当方もキモくてキライなので(笑)、この後のオーバーホール工程で写真掲載しますがピッカピカに磨き上げています(笑)

絞り環/距離環のトルクに擦れ感が多い
絞り環を回すと完璧に金属材が擦れている緩衝句が指に伝わります。同様距離環側も多少グリースの粘性の影響が残るものの「擦れ感」は指に伝わってくる印象でした。特に絞り環操作についてはモデルバリエーションで言う処の「前期型中期型」は「無段階式 (実絞り)」の手動絞りですから擦れ感無くスルスル回るのが普通です。

以上、まで当初のバラす前のチェック時点で気になっている事柄について明記しましたが、これらの問題は全て以下のオーバーホール工程で完全解消させています。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。他の市場流通が多い「前期型中期型」ともほぼ同一の内部構造と構成パーツですが、上の写真で赤色矢印で指し示した光学系第2群貼り合わせレンズが「格納筒とのモールド一体成形」なのがこの「初期型」の最大の特徴です。

合わせてグリーンの矢印で指し示した「ヘリコイドメス側 (筒)」が極端に長く得意なカタチをした設計なのもこの後の「JUPITER-9シリーズ」では設計変更されダブルヘリコイド方式に変わっており、この点も「初期型固有の特徴」です。

さらに今回初めて目にしたというか手にした「真鍮 (黄鋼) /ブラス製の鏡胴マウント部」です (ブルーの矢印)。前回扱った1本目の「初期型」だった個体は「製造番号5102xxx」と同じ製造年度1951年製でしたが「鏡胴マウント部はアルミ合金材」でしたから、これもオドロキでした!(驚)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒でアルミ合金材であり、後の時代に登場する「JUPITER-9シリーズ」と同一素材です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

ちなみにグリーンの矢印で指し示して解説しているのは、製産時点にこの絞り羽根が「グリーンの矢印箇所で枝にぶら下がって、まるで枝豆の房のようにブラブラしていたのをニッパなどを使って切り取っていた証拠」です(笑) 何しろ作業しているのがロシア人ですから、大雑把と言うかほとんどどんなふうに切り取られているのか全く気にしていないように思います(笑)

酷い絞り羽根は切り込みがキーにまで到達してしまい、下手すると「キー脱落の因果に至る」懸念さえ残り、堪ったものではありません!(怖)

↑15枚のペラペラの絞り羽根を組み付けて絞りユニットが完成しました。最小絞り値まで閉じていくとご覧のようにキレイな真円の円形絞りに閉じます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上方向が前玉側方向にあたります。まずブルーの矢印で指し示した箇所に一つだけ「光学系前群格納筒を締め付け固定する為のイモネジ用の穴がある」のが分かります。

鏡筒の最下部には鏡胴「後部」にネジ込む際のネジ山が備わり、且つそこに締め付け固定用にイモネジを締め付けた痕跡が残っていますが (グリーンの矢印)、そもそもこんなに数多くのイモネジ締め付け箇所が存在しませんし、このモデルはここにイモネジで締め付けするよう設計していません。

当然ながら今回の個体でもここに締め付けるような穴が「鏡胴後部側にそもそも用意されていない (当然ながらイモネジも存在しない)」のに、どうして赤色矢印のように削れた痕が残っているのか「???」です。

↑絞り環用のベース環をネジ込んだところです (赤色矢印)。このベース環の上からさらに「絞り環」が被さり均等配置のイモネジ3本を使い締め付け固定する設計です。

ところがその締め付け用のイモネジが刺さる下穴はグリーンの矢印で指し示した位置になるものの、何とオレンジ色矢印で指し示しているように相当数のイモネジを締め付けた痕跡が残っています(笑)

これらの位置は全て「製産時点とは異なる位置」であるのを当方が今回のオーバーホールでちゃんと確認しているのでオレンジ色矢印で指し示すことができている次第です。

絞り環用ベース環」に鏡筒内部の絞りユニットから飛び出した「開閉キー (開閉環に刺さっているシリンダーネジ)」が刺さり、絞り環用ベース環を回すと、合わせてブルーの矢印❶のように開閉動作する原理です。従ってこの上から被さる「絞り環」を回すと絞り羽根が開閉動作する「その連係動作はこんな仕組みになっている」次第です(笑)

↑同じ鏡筒に絞り環用ベース環をネジ込んだままの写真ですが、今度は反対側を撮影しています。すると縁部分に赤色矢印で解説している「絞り環用の基準 マーカー刻印」があるのが分かります。当初黒色になっていましたが、過去メンテナンス時に黒色に着色されてしまったようです (もちろん正しいのは赤色)(笑)

↑鏡筒が完成したのでこの後は先に光学系前後群をセットしてしまうのですが、取り敢えず第1群前玉 (左) 〜第3群貼り合わせレンズ (右) までを並べて撮影しました (赤色文字)。

↑すると冒頭解説の通り、光学系第2群の3枚貼り合わせレンズは「前群格納筒との一体モールド成形」なのが判明します。このようにモールドの設計は「初期型だけの特徴」なので、この後すぐに第2群貼り合わせレンズは格納筒に「締付環で締め付け固定する設計に仕様変更」しています (つまり数年の極短い期間だけこの仕様で造られていた)。

・・さてここが今回の個体で大問題でした!(泣)

赤色矢印で指し示している箇所が剥離しており極僅かな隙間が生じていたようで、たまたま手に持って清掃作業をしている時に「カタコト音」が聞こえたように感じ、振って調べてみたら「まさしくカタコト音が聞こえている始末」で、これが当初バラす前の実写確認時点で何となくピント面が甘いと言うか「色ズレを生じていたような錯覚に見えていた」因果関係と判定しました。

実際オーバーホールが終わり組み上げてから確認すると、本来の鋭いピント面をどの絞り値でも維持しています。当然ながら光学系第2群貼り合わせレンズを今一度固定し直した次第です。

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す

バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態

ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態

フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く

コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない

ハレーション
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す

フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す

↑こちらは光学系第3群の、やはり3枚貼り合わせレンズです。とても細かい話ですが、赤色矢印の箇所が面取りされているのも「初期型だけの特徴」ですし、グリーンの矢印箇所は平らな部分がほんの僅かに用意されていて、そこがちゃんと格納筒の縁に当たって固定するような設計です。合わせてブルーの矢印部分も最後後玉の締め付け環を締め付けた際に当たるよう面取り加工が施されており、同様「初期型だけの特徴」です (つまりこれらの箇所は光学硝子レンズのコバ端とは別にもう一段面取りが施されているという意味)。

↑こんな感じで光学系前群格納筒をセットします。

↑後群も格納筒をセットしたところです。

↑ようやく絞り環を被せてイモネジ3本〜締め付け固定しました。ちゃんとピタリと「絞り環用基準 マーカー」に開放f値「f2」が合致しています。もちろん最小絞り値側「f22」もピタリと合います (それが当然の話)。

しかしそうは言っても市場流通品を観ていると意外にもピタリと合っていなかったり、まるで反対側に回ってしまっている個体も普通に流れていたりして笑ってしまいます(笑)

・・これで鏡胴「前部」が完成です。製造番号「5102xxx」だけ見せています。

↑ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入りますが、鏡胴「後部」は純粋にヘリコイド (オスメス) だけなので簡素です(笑)

↑ズッシリと重たい真鍮 (黄鋼) 製/ブラス製の鏡胴マウント部です。今回初めて手にしました (今までアルミ合金材の個体しか触ったことがない)。

↑ヘリコイドメス側筒ですが、ご覧のようにとても長さがあります。赤色矢印で指し示している箇所だけが (全周で均等配置の3箇所) 距離環を締め付け固定する時に使うイモネジ用の下穴です。

絞り環同様オレンジ色矢印で指し示したように複数の過去メンテナンス時の下穴 (一部は電気ドリルで敢えて穴開けしているし残りはムリヤリ締め付けてしまった痕) であり、いわゆるごまかしの整備ですね(笑)

どうして赤色矢印の箇所が製産時点の正しい下穴だと明言できるのか???」と問われれば「原理原則」から考察すれば自ずと自明の理だからです(笑) 何も難しい事など一つも在りません(笑)

なお、この「初期型」の特徴でもあるブルーの矢印の領域が空いている空間がいったいどんな理由で備わるのか? 或いはグリーンの矢印で指し示した高さがどうして必要なのか? なども「観察と考察」もちろん「原理原則」から考察していけば納得できる話です(笑)

・・が然し、過去メンテナンス時の整備者は全くこれらを理解していなかった!(泣)

↑ヘリコイドのオス側とメス側を並べて撮影しています。オス側は一つ前のメス側筒にネジ込みます。するとオス側には「直進キー用の穴」が備わり、一方メス側にも「直進キーガイド」が用意されています (赤色矢印)。ところがもう一つ穴が開いているグリーンの矢印は一体何の役目でしょうか?(笑) さらにオレンジ色矢印のとおり至る箇所にイモネジの下穴を過去メンテナンス時に量産している始末です(笑)

・・ここでのポイントはブルーの矢印の制限壁です!

この「制限壁」が「直進キーガイド」と交差しているのがオーバーホール工程で組み立てる際に「軽いトルク感に仕上がるか否かを決める」ポイントです(笑) おそらく極僅かな整備者しか・・理解していないでしょう (たいていは白色系グリースを塗って頼ってしまうから)(笑)

もちろん当方は製産時点と同じ「黄褐色系グリース」しか使わずとも、ちゃんと気持ちの良いトルク感に仕上げています(笑)

↑ヘリコイドつつを全てネジ込んだところです。複合ヘリコイドなので一対だけの減り (オスメス) ではありませんね(笑)

↑鏡胴マウント部をセットしたところです。この後は距離環を組み込んでから完成している鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑スッカリ忘却の彼方に追いやられてしまった「初期型」です!(涙) まさにご依頼者様のおかげです!(涙)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。「気泡」が対称複数残っていますが、中望遠レンズなので円形ボケ、特に玉ボケを表出した時にはこの大きめの気泡が写り込む可能性は捨てきれません (標準レンズ域だとほとんど見えないので気にならないハズ)。

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

↑後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。光学硝子レンズのコバ端着色したので光学系内を覗き込んでも気にならないレベルです。

赤色矢印で指し示していますが、冒頭解説の通り過去メンテナンス時に「反射防止黒色塗料」でこの距離計連動ヘリコイド部分を着色していたので、今回のオーバーホールで溶剤により除去しています。下手にヘリコイド (オスメス) や鏡筒内部にまでインク成分が飛ぶとクモリの因果関係に至るので厄介です。

↑15枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま気持ち良く閉じていきます(笑)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、当初の擦れ感を可能な限り排除して仕上げています。距離環を回すトルク感は「普通」人により「軽め」に感じますが、当方で重要視しているのは「ピント合わせする時のビミョ〜な前後動」であり「指の腹にほんの僅かにチカラを伝えただけで前後に微動する」ピント合わせ時の操作性を優先しています。

どんなにトルクが軽くても、ピント合わせの時にピントのピークを逃してしまうほどククッと動いてしまったら意味がありません。従って距離環を回すトルク感にとても拘る人が多いですが「現実はピント面に到達する前までのトルクと到達後のピント合わせ時との2種類のトルクに拘る必要がある」のが当方の持論です(笑)

・・まぁ〜それをバカにして貶す人も少なからず居ますが(笑)

ご覧のとおり距離環の「経年の手垢の蓄積」はキレイにピッカピカに戻りました(笑) これでもぅキモくないです!(涙)

↑凡そ冒頭で挙げた問題点や違和感を感じた箇所は全て改善が終わりました。総じて納得できるオーバーホールの仕上げ利に至っています (特にご報告すべき点がありません)。

グリーンの矢印で囲った長さは距離計連動ヘリコイドの突出分ですからライカカメラにも装着されるとのお話しだったので「当初位置のままセット」しています。

↑当初バラす前のチェック時点では、上の写真のようにグリーンのラインで指し示した一直線上に「絞り環用基準 マーカーと鏡胴指標値基準 マーカーが並んでいない」状況でしたが (赤色矢印)(笑)、ちゃんと位置合わせして仕上げてあります (これが当たり前の話)。

↑今回の個体が「何処にも掲載されていない/案内されていない特異な固有種だった根拠」が上の写真解説です。「制限キー」が2箇所に刺さっているのです (赤色矢印)!(驚)

ハッキリ言ってグリーンの矢印で指し示した位置に刺さっている「制限キー」の個体を今までに見た記憶がありません!(驚) 本当にこんな個体を手にすることができて、誉れに思って感動しています!(涙)・・ありがとう御座います!

↑基準マーカー同士を一直線上に並べ (グリーンの矢印)、且つ前群格納筒と鏡筒との間の極僅かな隙間を解消し光路長を正し (ブルーの矢印)、合わせて赤色矢印のように「最短撮影距離1.8m」までちゃんと距離環が到達するよう仕上げました (当たり前の話ですが)(笑)

その反面、絞り環の擦れ感が強かった因果関係の一つ「実際に鏡胴後部側に擦れていた」要素についてもオレンジ色矢印で指し示したように隙間を介在させています。これはこの後に登場した「JUPITER-9シリーズ」でも同じ設計概念ですが、最短撮影距離位置側まで距離環を回すと「隙間が空く」仕様です・・逆に言うなら、最短撮影距離位置で隙間が空かない個体は何かの微調整が適切ではないと言えますね(笑)

いずれにしても、ちゃんと光路長を合わせたので、この後に登場した「JUPITER-9シリーズ」の描写とは打って変わり「どちらかと言うとロシアンレンズならぬ本家Carl Zeiss Jenaに相通ずる繊細感をそのエッジに見出せる描写性」なのが、最後にオドロキでした!(驚)

以上、超長文にて解説してきました・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

なお、当方は基本的に「極度のカメラ音痴」であり「光学知識も疎く」ここで述べている事柄
/内容はその多くに信憑性を伴わず、且つ当方自身の思い込みなども影響してネット上の様々なサイトとの比較には値しない事を事前に告知しておきます (それら比較元サイトのほうを正として捉えて下さいませ)。

従ってこのブログをご覧になりご不満や不快感を抱いた場合は平に附してお詫び申し上げますが、誹謗中傷メールを送信してくることだけはどうかご勘弁下さいませ。

ウソを拡散するような考えなど一切なく、合わせてヤフオク! での出品についても決して詐欺的商法など執る気持ちはなく、どのようなクレームにも必ず対応させて頂く所存です。

そしてこのブログも決してヤフオク! での出品商品を高く売らんが為に煽る目的で掲載しておらず、むしろ純粋にヤフオク! のようなオークションで単にご落札頂くよりも、さらに楽しくそのオールドレンズの素性を知る事ができる事を目指して、その目的にのみ限定してこのブログを添えている次第です (その他の他意は御座いません)。

今このブログをご覧頂いている皆様も、何かご指摘事項が御座いましたら以下までお知らせ下さいませ。

ご指摘事項は・・・・
   出品者のひとりごと・・・・pakira3kara@pakira3.sakura.ne.jp
までお知らせ下さいませ。

・・即座に改善/訂正致します。お手数おかけする事になり本当に申し訳御座いません。

↑当レンズによる最短撮影距離1.8m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値「f5.6」での撮影です。

↑f値「f8」に上がりました。

↑f値「f11」です。そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めており、ピント面の解像度とコントラスト低下が確認できます。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑f値「f16」での撮影です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。3本全てのオーバーホール済なのでとてもお得ですが完了したので本日発送しております・・ご確認のほう宜しくお願い申し上げます。

なお皆様に告知していますかが以下ご検討下さいませ。

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。