◎ MIRANDA (ミランダカメラ) AUTO MIRANDA 50mm/f1.8(MB)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
先日このモデルの上位格に位置付けされる『AUTO MIRANDA 50mm/f1.4 (MB)』をオーバーホール/修理してブログ掲載しました。
今回のモデルも同じ「AUTO MIRANDAシリーズ」であり、後に登場した「AUTO MIRANDA E/AUTO MIRANDA ECシリーズ」ではないのですが (レンズ銘板にE/EC刻印が無い)、マウント面には新たな「棒状ピン」が1本余計に附加されています (グリーンの矢印)。
左写真は今回オーバーホール/修理を承った個体の仕上がり状態ですがマウント面に従前から備わる「開閉レバー」もあります (赤色矢印)。
ネット上でMIRANDAのカメラに関するサイトを見ても、なかなかこの「棒状ピン」のことが案内されていません。
何の為に新たに用意されたのでしょうか?
それで仕方なく当時のMIRANDA製フィルムカメラ取扱説明書を片っ端に調べると、ようやく1972年発売の「MIRANDA AUTO SENSOREX EE」の取扱説明書でこの「棒状ピン」を解説していました。
どうやらフィルムカメラボディ側への「開放f値の伝達ピン」のようです。それもそのハズで、この「棒状ピン」は固定なので、フィルムカメラに装着するとマウントのリリースマーカー位置で合わせた後、マウントを回してロックした時に一緒に回っていく事になります。
するとフィルムカメラのマウント内部に何か刺さる「環 (リング/輪っか)」が存在しないと伝達のしようがありません (マウントをロックさせる際に一緒に回らないと意味が無い)。一方、最小絞り値に関しては絞り環から飛び出ているアームが、フィルムカメラに装着した時、勝手にカチッと填るのでそのまま最小絞り値はフィルムカメラボディ側に伝達されています。
さらに言えば、後には絞り環から飛び出ているアームが省かれて一般的な当時のオールドレンズ同様「絞り環だけ」の製品が用意されましたから、その際やはりマウント面には「設定絞り値伝達/連動レバー」が備わり、全部で3つの突起がマウント面に用意されています(レンズ銘板にE/EC刻印があるモデル)。
フィルムカメラボディ側の案内だけではなく、装着するオールドレンズの情報もできれば案内してくれると有難いですね (意外とネット上の解説はフィルムカメラのボディ側に偏っている事が多い)(笑)
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
開放ではピント面も含め画全体の印象がマイルドに仕上がるようにも見えますが、一段絞り値を上げると (絞ると) 途端にMIRANDA製オールドレンズの独特な描写性に戻ります。これはどうしてこのような写り方になるのか以前から不思議に思っていたのですが、光学系の設計時に明暗部ピークの設定が影響しているようにも考えますが、当方は光学系の知識が無いのでよく分かりません(笑)
◉ 二段目
左端から被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力をチェックしていますが、シ〜ンによって質感表現に違いが出てくるのが却って特徴的に感じます (普通はある程度共通項としてどのようなシ〜ンでも質感表現能力は同じ表現性になる事が多いハズ)。
◉ 三段目
空間表現能力に優れており「空気感/距離感」などを留めたリアルな写真が残るようです。
◉ 四段目
このモデルの実写をチェックしていて、ある一つの答えを見出したように感じたのが「白黒写真」でした。フィルム/デジタルの別なくカラー写真に比べて「白黒写真」になると俄然雰囲気が変わって素晴らしい描写性を感じました。256階調へのまとまり方が素直でダイナミックレンジも広くなり適しているのかも知れません (白黒写真はグレースケールの世界なので総天然色のカラー成分は256の階調に振り分けられて記録される)。
つまりカラー写真では明暗部のピークが誇張的で違和感にさえ感じられていたのが、白黒の世界では色成分は純粋に明暗成分へ振り分けられるだけなのが功を奏して、逆に滑らかな階調表現 (つまりダイナミックレンジの広さ) とリアル感の演出効果に至っていると考えられます。
それは例えばカラー写真で鋭いピント面のエッジに纏わり付く輝度成分が、白黒写真では鋭さの強調としてもしろ逆にボカし効果になってピント面のインパクトをより自然に補強できているように感じました。白黒写真のピックアップの中で、一番右端の実写などはまさに「日射し感」を写真に留めながらも、然し柵の扉の背景はちゃんと明るさが確保できているワケで、決して陽の当たっている箇所だけが誇張的に強調されていないのが「リアル感」として表現できているように思いました (きっとこの写真がカラーなら少々露出オーバー気味に写った印象だったかも知れません)。
光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型構成で、尚且つ当時の取扱説明書に印刷されている光学系構成図と100%同一でした。
今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「正」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造が非常にシンプルで構成パーツ点数も少なめなので簡単そうに見えますが (実際当方も簡単だと最初は高を括っていた)(笑)、組み立て始めるととんでもないモデルでした。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側)です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を立てて撮影しました (写真上が前玉側方向)。
鏡筒側面にはヘリコイド (オス側) が切削されており、途中に「直進キーガイド」と言う「溝」も用意されています (1箇所しかない)。
「開閉アーム」は絞りユニットから飛び出ており「開閉環」に繋がっていますから、左右に操作される事で絞り羽根が開閉します (ブルーの矢印)。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
◉ 直進キーガイド
直進キーが距離環 (ヘリコイド:オスメス) の回転に伴い行ったり来たりスライドする溝
↑距離環やマウント部が組み付けられる基台 (指標値環) です。
↑真鍮製 (黄銅) のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をネジ込んだ状態でひっくり返して裏側を撮影しました (後玉側方向から見た写真)。
すると前述の「直進キーガイド」にはまだ「直進キー」が刺さっていないので、このまま黄銅でできているヘリコイド (メス側) を回してもヘリコイド (オス側) である鏡筒が全く繰り出されません (単に一緒に回ってしまうだけの状態)。
↑上の写真はマウント部内部ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。
このマウント部は非常に重い「真鍮製」でできているワケですが (バヨネットマウントの爪があるから)、何とそのマウント部の縁に「直進キー」が用意されていました。しかも真鍮材の
一体削り出しなので「一切微調整ができない」事になります。
つまりこのモデルはヘリコイド (オスメス) のトルク調整機能を装備していません。こんな設計のオールドレンズは初めてですね(笑)
↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」して組み込みます。
◉ プレビューボタン
フィルムカメラ装着時開放状態の為、設定絞り値まで絞り込めるボタン (絞り羽根を閉じる)
◉ 絞り環ツマミ
フィルムカメラ装着時に勝手にカメラ側連結アームにカチッとハマる設定絞り値伝達の役目
◉ 操作アーム
鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」に刺さり絞り羽根をダイレクトに開閉する役目
◉ カム
「なだらかなカーブ」に突き当たる事で絞り羽根の開閉角度を決める
「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、勾配 (坂) を登った頂上部分が開放側になります (グリーンの矢印)。
すると、これら「プレビューボタン/操作アーム/カム」が互いに同じ目的 (絞り羽根の開閉角度の伝達) で使われている事になります (ブルーの矢印)。
今回の個体で最大の難関がこの工程でした・・。
当初バラした時にこのマウント部内部には過去メンテナンス時に「潤滑油」が注入されていたのですが (その為一部にサビが発生)、各構成パーツを組み付けてからオールドレンズを仕上げると不具合が発生しました。
それはマウントアダプタ装着時とフィルムカメラ装着時とで最小絞り値の閉じ方が異なる現象です。マウントアダプタ装着時よりもフィルムカメラ装着時のほうがより小さく閉じてしまいます。念の為に簡易検査具で検査するとマウントアダプタ装着時の最小絞り値は「f16」で正常なのですが、フィルムカメラ装着時は「f22」に至っています (もちろんフィルムカメラ側絞り値はf16のポジショニングで適正になっている)。
結局、4回このマウント部まで戻って全部バラした後に組み付けし直しながらいろいろと試しました。すると犯人は「操作アーム」が用意されている (上の写真で黒色の) アームでした。
このアームの底面 (裏側) が擦り減っていたのですが、よ〜くチェックすると真鍮製マウント部の表層面もヤスリ掛けされていました。おそらく過去メンテナンス時に削ったのだと推察しますが、その抵抗/負荷/摩擦から逃げる目的で「潤滑油」を流し込んでいたのではないかと推察します。
つまり過去メンテナンス時の時点で既にこの「操作アーム」の動きが適正ではなかった事が想像できますが、それを改善するつもりで真鍮製のマウント部内部をヤスリ掛けしたものの改善できなかった為に「潤滑油注入」に至ったと考えられます。
↑こちらは完成したマウント部を基台にセットして後玉側方向から撮影した写真です。ご覧のようにフィルムカメラ側に飛び出る「開閉レバー」にはスプリング (引張式コイルばね) が1本附随します。このスプリングが及ぼしているチカラは「常に絞り羽根を閉じるチカラ」なのですが、おそらく既に経年劣化で弱り始めているように思います。
このモデルは一般的なオールドレンズが「常に絞り羽根を閉じるチカラ/開くチカラ」の2つの相反するチカラバランスの中で適正な絞り羽根開閉を行っている設計が多い中で、どう言うワケか「閉じるチカラ」しか備わっていません (他に捻りバネやスプリングが存在しないから)。
つまり、今回のオーバーホールでこの「閉じるチカラのスプリング」を強くしてしまうか考えたのですが、その結果下手すると今度は「開放時に絞り羽根が顔出しする/完全開放しない」現象に至る懸念があります (上の写真がまさに開放時の絞り羽根顔出し状態)。
従って、今回はマウント部内部の微調整をさらに試みて5回目で諦めました (潤滑油を注入しました)。現状マウントアダプタ装着時は適正な最小絞り値「f16」ですが、フィルムカメラ装着時はシャッターボタン押し込みで場合によって「f22辺りまで閉じてしまう」現象が発生しています (必ずしも発生しない再現性が無い状態)。つまりフィルムカメラ装着時に最小絞り値「f16」に設定していた時、時には「f16」で時には「f22」と絞り羽根の閉じ具合が不安定になります。
申し訳御座いません・・。
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を格納し無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑結局、先日の『AUTO MIRANDA 50mm/f1.4 (MB)』オーバーホールに引き続き、今回のモデルも絞り羽根の開閉でハマる結果になりました。
まさに当方の技術スキルが低いが故の話であり、本当に申し訳御座いません・・。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
↑光学系後群側も極薄いクモリが皆無ですが、CO2溶解に伴う極微細な点キズは数点残っています (パッと見で塵/埃に見えますが清掃しても除去できません)。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環操作共々確実に駆動していますが、前述のとおりマウントアダプタ装着時は正常としてもフィルムカメラ装着時に不安定な閉じ方をします (最小絞り値の問題だけでf1.8〜f11までは正常の範疇を検査済)。絞り羽根が閉じる際は「ほぼ正六角形を維持」しています。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗っていますが、こちらも前述のとおり距離環を回す時のトルク調整ができない設計なので「バラす前のトルクと同程度」とのご指示でしたが、組み上がった個体のトルク感は「バラす前より軽め」になってしまいました。
申し訳御座いません・・。
距離環を回すトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。ピント合わせの際は極軽いチカラだけで微動できる操作性に仕上がっていますが、ご指示からは逸脱した結果になっているので、この分ご請求額よりご納得頂ける分の金額を「減額申請」にてご申告の上、減額下さいませ。
もちろん、前述の最小絞り値の問題 (フィルムカメラ装着時) の件も合わせて減額をご検討下さいませ。本当に申し訳御座いません・・。
↑無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当モデルによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。極僅かに「回折現象」の影響が出始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。