◎ Miranda Camera Co. (ミランダカメラ) Soligor Miranda 5cm/f1.9 (black)《興和製》(MB)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


オーバーホールに際しこのブログに載せる気持ちになると何とも複雑怪奇な印象にしか至ら ない「カメラ音痴」な当方にとっては非常に厄介なオールドレンズなのが今回扱うSoligor Miranda 5cm/f1.9 (black)《興和製》(MB)』です。

《興和製》としているのはレンズ銘板の製造番号先頭が「」からスタートするシリアル値なので、このミランダカメラ界隈に通の人達で語られている「興和のK」との話からそのように受け取っています。

ところが実は2016年にこのモデルの「前期型」にあたる (だろうと目している) シルバー鏡胴モデルのオーバーホールをしました。Soligor Miranda 50mm/f1.9 (silver)(MB)です。

鏡胴の配色がシルバークロームメッキ仕上げなので意匠が今回扱ったモデルと異なるのは当然ですが、このシルバー鏡胴の個体のレンズ銘板に刻印されている製造番号には「Kが附随しない単なるシリアル値 (12xxx)」なのです。

ならば「製造元がきッと違うのだろう」と言う話で妥協できれば良かったのに完全解体したら何と「内部構造も使っている構成パーツもほぼ80%が同一 (凡そ20%の構成パーツに相違が認められる)」だったのです。

・・これ、通の人達はどのように解説されるのかしら???(涙)

ちなみに当方の判定は例え凡そ20%の構成パーツに仕様の相違が認められたとしても、残りの80%が同一の構造とパーツなら「100%間違いなく同じ製造元」と見なすのが「作る側の言い分」として以前取材した金属加工会社の社長さんのお話で納得しています。

仮に自社で開発し設計/製造するなら、ワザワザお金を掛けてまで別の会社が生産している構造と構成パーツに似せて用意する必要が一切ありません。もちろん一番最初に諸元値を掴むが為にコピーしてみると言う思考回路はあると思いますが、量産型に関してそこまで踏襲する必要性が全くありません (あくまでも自社に都合の良い方向性で設計し製産すれば良いだけの話)。

すると「前期型」と受け取っているそのシルバー鏡胴モデルも同じく「興和製」だったことになりますが、どうして製造番号の符番ルールが違うのでしょうか???

さらにもっと言うなら (今回は相当疑心暗鬼になっています)「前期型」たるシルバー鏡胴で 焦点距離表記を「50mm」と刻印していたのに、その後に登場した今回のモデルでは「どうして5cmに戻したのか」どう考えても当時の日本国内のオールドレンズの流れに沿っていま せん (まるで逆行している話です)!!!

証拠として後ほどオーバーホール工程を載せていきますが「前期型」たるシルバー鏡胴モデルのオーバーホール工程と比べてみれば「構造と構成パーツが同じ」なのは整備していない人が見てもすぐに分かります。

同じ製造元で同じモデル銘系列を踏襲しながら、どうして製造番号の符番ルールを変更する 必要があったのか? どうして焦点距離表記を退化させたのか?

・・腑に落ちないことばかりです(泣)

  ●               

ミランダカメラの前身は戦後すぐの1948年 (昭和23年) に東京の世田谷に創設した「オリオン精機産業」で、主に報道用フィルムカメラの修理や改造、写真機材や周辺機器類を扱っていたようです。

そんな中で当時使われていたバルナック型ライカ判を筆頭に流行っていたレンジファインダーカメラの距離計連動機構に限界を感じ、当時国内で二例目となるペタンダハプリズム装備の一眼レフ (フィルム) カメラ「Miranda T」を1955年に発売したのが量産型モデルのスタート地点になるようです。

なおオリオン精機産業は発売に合わせて「オリオンカメラ (Orion Camera Co.)」に社名変更し、さらに1957年には「ミランダカメラ (Miranda Camera Co.)」へと変わります。

ちなみに世界初のペンタダハプリズムを装備した一眼レフ (フィルム) カメラは旧東ドイツのPENTACONがやはり1948年に発売した「CONTAX S」であり、また国内では旭光学工業が1952年に「Asahiflex I型」を発売しています。

まさにペンタプリズムを装備した一眼レフ (フィルム) カメラの黎明期だったワケですが、当方がこの「ミランダカメラ」が好きな理由は、その開発者が大日本帝国海軍の設計技師だった 荻原彰氏と大塚新太郎氏という、ロケット/ジェット機の技術者だった点にスポットを当てその洗練された、然し決して妥協しないミランダカメラの造りの良さに一目惚れしたからです(笑)
(但しそれら技術で製産された航空機は決して擁護されるべきではない特攻機でしたが)

1955年に発売された「Miranda T」は、1952年に先んじて発売された旭光学工業の「Asahiflex I型」に次ぐ一眼レフ (フィルム) カメラですが、例え国産機として二例目だったとしても翌年1956年に紆余曲折を経て「砕氷船宗谷で向かった第1次南極地域観測隊」が装備した 公用一眼レフ (フィルム) カメラとして使われ (2台) 故障もなく任務を全うしたと曰く付きのフィルムカメラなのが何とも誇らしいです!(涙)

また1956年には最高シャッター速度1/1,000秒を装備した「Miranda T2」が登場し、合わせてこのタイミングでシャッター連動式自動絞り方式を初めて採用した標準レンズが発売され、それが前述の2016年にオーバーホールしたSoligor Miranda 50mm/f1.9 (silver)(MB)』なのです。

↑上の写真はいずれも「Soligor Miranda 50mm/f1.9 (MB)」ですが、一番左端が前述のSoligor Miranda 50mm/f1.9 (silver)(MB)で製造番号先頭に「英語文字が附随しない」単なるシリアル値の個体 (12xxxx) です。

一方左から2枚目〜右端までの3枚はいずれも同銘柄ながら「製造番号にYが附随」します。

この「Y付タイプ」は同銘柄のモデルとしても当方がチェックすると「内部構造が違う造り」なのが何となく分かりますが、まだ扱いがないので確かなことは不明です。但しこの「Y付」モデルの中に「M44マウントタイプ」が同一の意匠のままで存在し、そのマウント部の造り「マウントネジ部内側にメクラ板を締付ネジ止め」する設計概念が、当方が希に扱う「藤田 光学工業」の特徴であり、さらに指摘するなら「プリセット絞り機構の仕組みとツマミ意匠が同一」なので、おそらく藤田光学工業製モデルと踏んでいますが定かではありません。
(当然ながら今回扱う個体とも異なり今回の個体は製造番号先頭にKが附随する/興和製)

《後日談》
前述した「前期型」たるシルバー鏡胴モデルの所有者から (オーバーホール/修理ご依頼者様) から製造番号の訂正をご連絡頂きました。ありがとう御座います!

当方のデータベース記録では「製造番号先頭に英文字の附随無し」と残していましたが、当方が見落としており正しくは「先頭にYが附随」と判明しました。

するとさらにここで「???」が増してしまいました(笑)

Y付製造番号」なら上のサンプル写真で掲示したように全く異なる作りのモデルにも「Yが附随」しているにも関わらず同じ符番ルールを執っています。さらに指摘するなら内部構造も使われている各構成パーツもほぼ8割方同一な今回扱った個体の製造番号が「先頭にK付」である点とさらに整合性が執れなくなっている事になります。

一般的に通の方々達の定説として「興和のK」としている話が「Yも興和」になっしまいますし、上に掲示した全く異なる構造と思しき (当方でまだ扱っていないので構造も構成パーツの仕様も総てが不明なままの) モデルとの共通性も無いままになります。

そこで考えられる話は「製造番号先頭の英文字は製造メーカーを示さず別の意味を表す暗号として使われていたのではないか」と言う想定です。

このように考えればモデルが異なる説明もできそうですし、後に一時期顕在していたとされる「先頭にTYが附随するモデル」の説明も適いますが、はたしてその意味する内容が何なのか余計に気になりますね(笑)

・・何とも消化不良極まりない話です(笑)

 

  ●               



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して溶け始めて円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系の設計が典型的な4群6枚ダブルガウス型構成ですが、それにしては珍しく円形ボケの真円度が維持できているようで不思議な印象です。

特にシャボン玉ボケやリングボケのエッジ部分が明確に際立つ特徴は、今まで扱ってきた一般的な4群6枚ダブルガウス型構成のモデルに比べると大変素直に出ており唸ってしまいます(笑)

しかし収差の影響を受けて滲んでいくとこれらのMirandaモデルにある意味共通的に現れる「暴れたボケ味」が徐々に顕著になります。

二段目
この段では左端から二線ボケとも受け取れないような非常に乱れた収差ボケがピント面の背景 (しかもアウトフォーカス部すぐ) に現れ、ハッキリ言ってピント面と競ってしまうので撮影シ〜ンによっては相当撮影スキルが問われる写真を残してしまいそうです。

ある意味この制御しきれていない乱れ方こそがMirandaモデルのオールドレンズに共通項と して認められる要素なのでしょぅか。

三段目
さらに開放で撮った場合にはピント面の被写界深度が薄く (狭く) なってくるのと相まり、前述のとおりアウトフォーカス部がすぐに隣接しながらも乱れまくるので、パッと見で「え?どこにピント合わせた?」みたいな錯覚さえ抱きそうなくらいの乱れ方をします(笑)

もしもこの要素を以てして「収差が未制御状態で酷すぎる光学設計」と判定するなら、それでは次の右側2枚の写真をとくとご覧あれ!

驚いたことにダイナミックレンジで特に暗部が弱い性質ながらも明部は相当耐性があって見事なまでのグラデーションをキッチリ写し込んでしまいます。画の四隅の流れも今まで見てきた収差ボケの酷いシ〜ンに比べると大人しめで「???」な印象です(笑)

他の写真を見ればすぐに分かりますが、ハッキリ言ってこのモデルは高コントラストの色乗りで写真を仕上げるだけかと思いきや、こんな低コントラストでキッチリ「空気感や距離感まで感じさせる表現性」を吐き出すワケで、ちょっとダメダメとひと言で済ませない「ダ〜クな 魅力が強すぎ」みたいな、何だか「磁石的な惹き寄せ方をする」変わった写り方をします(笑)

光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成です。特に前述の 相当乱れまくった収差の影響を強く醸し出している要素は第2群の 貼り合わせレンズで凸メニスカスと凹メニスカスの比率が影響して いるのではないかと、他のオールドレンズと比べた時に妙な印象を 覚えました。

が、ハッキリ言って光学知識が皆無な当方の話なので何の意味もありません(笑)

右構成図は今回のオーバーホール/修理で完全解体し光学系を清掃する際に当方の手でデジタルノギスを使って逐一各群を計測した実測値 (平均値) に基づくトレース図です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。冒頭解説のとおり「前期型」たるSoligor Miranda 50mm/f1.9 (silver)(MB)』とは内部構造の設計概念が 100%同一なので、必然的に各部位の構成パーツも同じ役目/目的で用意されており同一の 製造メーカーによる設計/製産と判定することができます。

従ってどうしても冒頭でご案内した疑問点「製造番号の符番ルールの相違」と「焦点距離表記の違い」について推測する事すら叶いません。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが、このモデルは距離環や絞り環などの 外装だけがアルミ合金材で、筐体の内外ほとんどが真鍮 (黄鋼) 製で重量感があります。

上の写真は鏡筒を前玉側方向から撮影していますが、最深部に絞り羽根が刺さるべく「位置 決めキー用の穴」が6個用意されています (赤色矢印)。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

するとこのモデルは絞り羽根の片面側に「開閉キーと位置決めキーの両方が備わる」設計を 採っています。鏡筒最深部には「位置決めキー用の穴」があるので、もう一方の「開閉キーが刺さる開閉環が他に存在する」ワケです。

従って「開閉環」が絞り環の操作によりカチカチと回るので、設定絞り値に従い絞り羽根が 開いたり閉じたりする仕組みです。

《当初バラす前の懸念事項》
当初バラす前のチェック時点で絞り羽根を最小絞り値まで閉じると「彗星の ような尾を引いたカタチ (水滴のようなカタチ) の開口部になる

↑このように円形状にならず、或いは絞り羽根が全部で6枚ある事から正六角形を維持できずに台形型のような開口部に至る (閉じていく) オールドレンズも数多くありますが、まるで水滴が落ちる時のカタチのように閉じる場合、絞り羽根に打ち込まれているキーの一部脱落している懸念が高くなります。

この工程まで進んでその懸念が現実になりました・・(涙)

残念ながら絞り羽根のうち「1枚の位置決めキーが脱落」しており、鏡筒最深部の位置決め キーの穴に刺さったまま外れていました。

従ってこの工程から先に進むことができず、とにかく外れて脱落したキーを回収し絞り羽根に再びセットしなければ絞り羽根が1枚だけ正しく動かなくなり入射光制御が適いません。

但しセットするにも製産時点に一度プレッシングされたキーが脱落した場合「穴が既に広がってしまっている」ワケで、ただ単に押し込んでも固定できません。

従ってエポキシ系接着剤を使いキーを絞り羽根の穴に軽く打ち込みますが、何しろ絞り羽根の厚みが薄いので乾燥させてから絞りユニット内にセットしても再び外れてしまいキーが脱落します。

従ってこの脱落したキーの対処だけでいろいろ一日がかりで試し思考錯誤を繰り返しました。

↑先の工程に進めないので別の部位に取り掛かります。上の写真はマウント部とシャッター ボタン機構部ですが理由があってシャッターボタン機構部を外しました。

前の工程で「どうして絞り羽根のキーが脱落したのか???」その因果関係をちゃんと見つけ出さなければ組み上げても再び脱落します (つまりオールドレンズとして機能しなくなる)。

その因果関係として影響を与える要素の一つにこのシャッターボタンから飛び出ている「開閉アームのチカラ」があります。

この「開閉アーム」が適切なチカラで動けば絞りユニット内の絞り羽根開閉にも適切なチカラが伝達されキー脱落に至る原因には至りません。

するとシャッターボタン機構部をバラして各パーツの動き方からその時のチカラの強さ/弱さが適切なのか否かチェックする必要があります。

結果、当初バラす前の時点から気になっていた「A/M切替スイッチのツマミが硬すぎる」問題があったので、開けて調べるとやはり経年の酸化/腐食/錆びで摩擦が増大していた為、構成 パーツの動き方が硬めだったことが判明しました。

特に「A/Mスイッチのツマミと開閉アームのカムの動きを改善」させ、極僅かですが当初より軽めのチカラで自動/手動の切替ができるようにしました。

↑こちらの写真はマウント部の反対側を写していますが、既に改善を試みたシャッターボタン機構部は蓋をセットしてシャッターボタンも軽く押し込めるように改善しました。

一方マウント部のロックツマミが固定されていた箇所の「締付ネジ2本が硬締め過ぎた」事が起因してマウント部の真鍮 (黄鋼) 材に本当に極僅かな撓りが生じていた事が分かりました。

従ってご覧のようにツマミ部分を解体していますが、非常に強い捻りバネでツマミに反発力がかかるので、この部位を解体すると組み立てがとんでもなく大変です(涙)

単にツマミを締め付け固定している締付ネジを付け直したいだけなのですが、バラさない限りアクセスできないので仕方ありません。

↑2時間かかりましたが(涙)、やっとの事で非常に強いチカラの反発力を持つ捻りバネを組み 込んでマウント部用のロック用ツマミを再び締め付け固定しました。

案の定、バラした際はマイナスネジの溝が削れるかと言うほどにガッチリ締め付けられていたので、その分の撓りが発生していたと考えられます。

逆にその直下に位置するマウント部の飾り環/ローレット (滑り止め) 部分は、アルミ合金材なので締付ネジが多少強めに硬締めされていても真鍮 (黄鋼) 材の撓りには影響が少ないです。

このように過去メンテナンス時には「締付ネジを相当強く締めつける」整備者が多いのですが実際そのネジ種 (皿頭ネジなのか鍋頭/丸頭ネジなのか)、或いはイモネジなのか、その用途や目的は何なのかなど、凡そ考察すべき要素が幾つも在るのに「お構いなしに片っ端から硬締めする整備者が多い」のが現実で、本当に毎度ながら泣かされます!(怒)

特に今回のように真鍮 (黄鋼) 材の場合、必要以上に締め付けたその応力が撓りとなって他の 部位に影響を及ぼします。

↑こちらはやはり真鍮 (黄鋼) 製ですが距離環やマウント部が組み付けられる基台です。基台の両サイドには「直進キーガイド」なる溝が縦方向に備わる箇所が用意されています。

この「直進キーガイド」に「直進キー」が刺さって行ったり来たりするので距離環の回転に 伴い鏡筒が繰り出されたり収納する原理です。

↑同じく真鍮 (黄鋼) 製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

基台には1箇所に「制限壁」なる壁が備わり、そこにヘリコイド (メス側) から飛び出たキーがカチンカチンと突き当たるので「無限遠位置で突き当て停止」或いは「最短撮影距離の位置でカチンと音がして停止」する仕組みです (グリーンの矢印)。

↑さらにやはり真鍮 (黄鋼) 製のヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

上の写真では既に「直進キーをガイドに刺した」為ヘリコイド (オス側) の動き (ブルーの矢印①) に従い直進キーが上下動 (ブルーの矢印②) するようになっています。

↑こんな感じでヘリコイド (オス側) の動きに従い「直進キー」が上下動します (ブルーの矢印)。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑長々と基台〜ヘリコイド (オスメス)〜さらに直進キーと解説を進めてきましたが、ここの 工程で今まで解説してきた理由が分かります。

前述の基台とヘリコイド (オスメス) はいずれも「真鍮 (黄鋼) 」なので、上の写真で赤色矢印で指し示した「締付ネジ (それぞれ3本ずつ)」の合計6本が強く硬締めされすぎると「前述 同様に真鍮 (黄鋼) 材が撓る為ヘリコイドのトルクが影響を受け、同時にシャッターボタンからの開閉アームのチカラが強調されてしまう」因果関係に至ります。

過去メンテナンス時の整備者の「自己満足大会」で強く締め付けされすぎた締付ネジの応力が真鍮 (黄鋼) 製の各部位のパーツに影響して、結果的に撓ったチカラが「開閉アームのチカラを増大させてしまった」為に「絞り羽根の開閉に影響を来した」と推察できます。

さらに絞り羽根の油染み放置から粘性を帯びていた時期があり、絞り羽根にムリなチカラが 及びつつもそのまま使うと「最終的に全ての必要以上のチカラが絞り羽根のキー打ち込み箇所に集中した」結果、キー脱落に至ってしまったのです。

どうしてそのように明言するのかというと「脱落したキーの穴周辺が錆びていなかった」からであり、穴周辺がサビによってモロくなって脱落したのではないと見ただけで判るからです。

今回の絞り羽根のキー脱落因果関係は、絞り羽根の油染みの放置が仇となり粘性を帯びてきた時、運の悪いことに過去メンテナンス時の整備者による「自己満足大会」のせいで真鍮 (黄鋼) 材の撓りが増大し、最終的にシャッターボタンで駆動する開閉アームのチカラが強くなり余計に絞り羽根のキーが耐えられなくなった結果だと推察できます。

ちなみにこのモデルに実装されている絞り羽根は「カーボン仕上げ」なので、後の時代に普及し当たり前になった「フッ素加工仕上げ」のタイプにはまだ変わっていない頃の仕上げ加工です。カーボン仕上げなので表層面にカーボンを被せていますが、経年の使用で絞り羽根が互いに擦れ合いカーボンが剥げ落ちていきます (地の金属材が露出してくる)。

するとその剥がれたカーボンは経年で絞り羽根のキーの周囲に溜まるため、いずれ酸化/腐食/錆びに至り「キーの周囲が錆びる」因果関係になるそうです (以前取材した工業用光学レンズ製造会社の聞き取りから)。

ネット上の解説を調べていると希に「鉛筆の芯を削って塗すと良い」などと書かれていることがありますが(笑)、単に同じカーボンだからという事でそんな話が一人歩きしてしまったようです。当然ながらその削った鉛筆の芯の粉は絞り羽根に定着しないので「やはりキーの周囲に溜まる」為、むしろ経年で酸化/腐食/錆びを促す原因の一つに至るようです(笑)

このような話は結構今まで雑誌などの記事で広まり語り継がれてきたようですが、実際に光学レンズを設計/製造している会社で取材すると「あり得ない話」だと判ります(笑)

然し光学系内に何某かの「」が広がっていく状況は、特に光学硝子レンズ表面に蒸着した コーティング層レベルから考えれば全く以てお勧めできない話だと当方は考えますね(笑)

↑鏡胴のヘリコイド (オスメス) 駆動部分を前の工程で完璧に組み上げたので (真鍮/黄鋼剤の 撓りが発生していない状態) ここからは問題の絞り羽根の組付けへと工程を進めます。

上の写真は鏡筒をひっくり返して後玉側方向を上にして取っています。もちろん当初バラした直後はこんなにピカピカではなく、経年の酸化/腐食/錆びで「焦茶色に変質」していたワケですが「磨き研磨」で可能な限り製産時点に近づけてあります。

↑やはり真鍮 (黄鋼) 製の「開閉環」と言う絞り羽根を開いたり閉じたりする環 (リング/輪っか) を光学系後群が入る格納箇所の周囲にセットしたところです。

ご覧のように全部で112個の僅か⌀ 1㍉径のベアリングをギッシリ周りに詰め込んでツルツルと滑らかに回転するようにしますが、実はグリーンの矢印で指し示した下にも同様112個の⌀1㍉径のベアリングがギッシリ詰め込まれています (ちょうどベアリングとベアリングの間に開閉環がサンドイッチされるようなイメージ)。

何と過去メンテナンス時の整備者はこれらベアリング上下のセットを一切解体せず「潤滑油を注入しただけで済ませた」が為に、結果的に経年劣化進行に伴い一部の真鍮 (黄鋼) 材に酸化/腐食/錆びが起き、且つ酷いことに数十個のベアリングにまで酸化/腐食/錆びが起きてしまいました。

つまりこの「開閉環自体の平滑性も失われていた」のが実状です。仕方ないので酸化/腐食/錆びていたベアリング数十個の平滑性を戻して (酸化/腐食/錆びを除去して) 再び組み込んだ次第です (さすがに⌀1㍉径のベアリングのサビ取り作業は本当に面倒くさい)。

↑さらに悪いことに過去メンテナンス時の整備者は上の写真で赤色矢印指し示している「黒色のベアリング封入環」の向きをミスッて (反対向きに) 組み込んでおり、結果的にベアリングに負荷が掛かり、それでおそらく「潤滑油注入でごまかした」のではないかとみています。

はたしてグリーンの矢印側がベアリングと接触するべきなのかブルーの矢印側が接触するべきなのか、それはこの「封入環をちゃんと観察すればすぐに判る話」です。

ついにここの工程に辿り着きました・・!!!(涙)

問題のキーが脱落した絞り羽根に外れていたキーをキッチリエポキシ系接着剤で接着し組み 込んで絞りユニットを鏡筒最深部にセットできました!(涙)

絞り羽根の開閉角度を決める黒色の「制御環」が見えていますがブルーの矢印のように回転 する仕組みですから、その縁部分が「銀色に平滑面」なのですが (赤色矢印) それも過去メンテナンス時の整備者は全く処置していません。

↑絞りユニットが組み込まれた状態で鏡筒を立てて撮影しました。写真上部が前玉側方向に なります。

鏡筒外周には絞り環用ベース環がネジ込まれるネジ山がグルッと用意されていますが、相当なネジ山数があります。前述の「制御環」が鏡筒の切り欠き部分 (スリット) から見えておりまだ「平滑面」が見えたままの状態です。

上の写真で緑色の養生テープで止めているのは「絞り羽根に必要以上のチカラが及んで動いてしまい再びキーが脱落するのを防ぐ為」貼り付けています。何故なら現状まだ適切なチカラで「制御環が回転できない」からです。

逆に言うなら冒頭の解説で少しだけ話しましたが、絞り羽根が最小絞り値「f16」まで閉じた時に「必要以上に閉じすぎていた」事からキー脱落のチカラが及んでいたことも容易に推察 できます。

単にバラして清掃し再び組み上げるだけの整備しかできない整備者は「観察と考察」をしないので、結局再び絞り羽根に必要以上の抵抗/負荷/摩擦が及んでしまい、経年で「キー脱落」の懸念を高めていくことになります。

養生テープで仮止めする」事にはそんな考えがあるワケで、すべては「オールドレンズ内部に於ける各部位からのチカラ伝達経路の確保」が重要なのであって、単に組み上げていくだけが決してオーバーホールの目的ではないのです。

この点に於いて「オールドレンズの整備者にとって本当に必要なスキルは何なのか?!」と いう命題が常に憑き纏うのではないかと当方は考えています。

↑鏡筒に絞り環用のベース環 (リング/輪っか) がネジ込まれました。合わせて絞り値でカチカチとクリック感を実現するための「絞り値キーと言う溝が刻まれている環/リング/輪っか」を セットします。

まだその絞り値キーの環はネジ止めしていませんが、グリーンの矢印で指し示した箇所にネジ穴が2つ写っています。

実は当初バラす前の時点で絞り環の位置が半段分ズレて固定されていました。

その因果関係がこのネジ穴で、何と過去メンテナンス時に電気ドリルで穴開けしています!(驚)

ちょうどグリーンの矢印で指し示した箇所の「ちょっと下にズレた穴がごまかしのネジ穴」で、このように絞り値キーの溝位置がそもそもズレていたので「絞り環がズレたまま組み上がっていた」ワケです!(怒)

いよいよ終盤に近づきました・・!(涙)

前述の「制御環の平滑面」には締付環 (グリーンの矢印) を硬締めしましたが、ちゃんと平滑性を戻したので硬締めして固定してもスルスルと無抵抗で回転してくれます (つまりこの時点で 絞り羽根に抵抗/負荷/摩擦が生じていないことの証)←これが重要なんです!!!

もちろん「絞り値キー環」の溝もバッチリ絞り環のクリック感に適合させて固定しベアリングも組み込んで適度な硬さでカチカチと鳴るように仕上げました!(笑)

↑もう気が付かれたでしょうか???(笑)

ず〜ッと鏡筒下部の「開閉環」に貼り付けてあった緑色の養生テープがとっくに剥がされています。つまり「絞り羽根が正常に開閉するよう戻ったから」です!(涙)

上の写真は先に光学系前後群を組み込んだ状態で撮影しています。

結局オールドレンズ内部の各部位から伝わってくるチカラが適切な状態にしないと残念ながら今回の個体は1枚の絞り羽根のキーが接着で固定している為、必要以上に及んでしまうチカラが天敵とも言えます。

それを極限まで突き詰め「必要以上に絞り羽根に対して抵抗/負荷/摩擦を与えない」確信が 持てたからこそ養生テープを外した次第です。逆に言うならエポキシ系接着剤を使って脱落 したキーを絞り羽根に固定する作業を一日も続けていた理由がそこにあったワケで、瞬間接着剤を使ったところで必要以上にチカラが及んでいる限り「組み上げると必ず脱落してしまう」ワケです。

キーを脱落させた本当の原因」を突き止めない限り確信は持てないとも言い替えられます。
当方のオーバーホール工程にはその手順まで含め総て意味があるのです・・
(今回途中から工程手順を変更した理由がそこにあった・・)

↑最後の工程です。ご覧のとおり当初ズレていた絞り環の絞り値はピタリと基準「」マーカーに合致し、且つカチカチとクリック感も当初より僅かながら軽めの印象に仕上げてあります (当初バラす前は少々硬すぎた)。

この後は完成したこの鏡筒を鏡胴後部画のヘリコイド内部にセットして固定し、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑バッチリ組み上がったSoligor Miranda 5cm/f1.9 (black)《興和製》(MB)』です。

ハッキリ言ってこの写真を撮れるかどうか少々心配だったのですが、絞り羽根さえちゃんと動いてくれれば最後まで組み上げが叶います!(涙)

さすがに3日掛かりの作業になってしまいましたが晴れの姿を拝むことができました・・(涙)

懸案の「絞り羽根のキー脱落」は、おそらくここまで解説した様々なごまかしやミスから既に過去メンテナンス時に生じていた不具合だと推察しますが、確かな事は当然ながら不明です。

しかし、今回のオーバーホール/修理では「本来の正しい工程を踏まずに逆の手順で進めるしかなかったのが辛すぎた」と言えます。

ヘリコイド (オスメス) の組み込みと合わせて、そもそも「真鍮 (黄鋼) 材の撓りが原因の一つ だった点」に辿り着くまでに1日費やしていたのが、何とも当方技術スキルの低さを物語っています(涙)

このブログをご覧の皆様も是非とも当方の技術スキルはこのようにまだまだ未熟である事を ご承知おき下さいませ

これがプロのカメラ店様や修理専門会社様なら、おそらく1日でオーバーホール/修理が完遂 できてしまうと思います。

↑せめてもの救いは光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体と言う点です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

光学系後群の貼り合わせレンズにパッと見で動物毛のように見える、実は拭きキズ/ヘアラインキズが1本ありますが、写真には影響しません。

↑前述のヘアラインキズも目視はできず、もちろんスカッとクリアな状態です。

↑この写真を撮りたかったのです・・(涙)

確かに絞り羽根の閉じ具合が変形していますが、当初のキーが脱落していたままである「水滴のようなカタチの開口部」からすれば全然まともな閉じ具合ではないでしょうか。

そもそも絞り羽根が閉じすぎている状態だったので「制御環の微調整」や各部位からのチカラの伝達をキッチリ適合化させ、且つ「平滑面の回復」を処置したのでこのように絞り羽根に 対する余計な抵抗/負荷/摩擦が消滅したからこその駆動です。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したグリースは「黄褐色系グリース」を使い、ピントの山が掴み辛いことから「軽めのトルク感」に仕上げてあります。

そして最も重要な「真鍮 (黄鋼) 材の撓りを解消した」ので「開閉アームのチカラが適正化」し絞り羽根への可能な限りの抵抗/負荷/摩擦を排除しています。

総てはそれが目的で組み立て工程の手順を今回変更して作業を進めたワケで、それが仇となり3日掛かりになりました(笑)

然し絞り羽根のキー脱落の因果関係をちゃんと掴むべく頑張った甲斐があったと言うモノです・・!(涙)

↑シャッターボタンを押し込む時の強さもスムーズに滑らかに動くよう処置しましたし、冒頭のA/M切替スイッチの硬さも僅かですが軽くしました。もちろん自動/手動共に絞り羽根の動きが正常に戻っています。

また絞り環の位置ズレも正し、クリック感も僅かながら軽めに仕上げました。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で採っていますが、開放が「f1.9」なのでほとんど変化がありません(笑)

↑さらに回してf値「f2.8」で撮っています。

↑f値は「f4」に上がりました。

↑f値「f5.6」です。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。