◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Xenar 5cm/f2.8 “S2.8″《戦前型》(exakta)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツは
Schneider-Kreuznach製標準レンズ・・・・、
 『Xenar 5cm/f2.8 “S2.8″《戦前型》(exakta)』です。


今回が初めての扱いになる戦前ドイツで発売されたSchneider-Kreuznach製標準レンズです。この「戦前型」モデルを表す (鏡胴に刻印されている) “S2.8” 付個体をもうかれこれ2年前から探していました。何しろ戦前に製産された個体ですから特に「光学系の状態」が一番気になり当然ながらクスミやクモリが生じていたらまず除去できないので、そのような個体は避けたいワケです。

ところがクスミ/クモリがある個体を「オールドレンズらしい写り方」と却ってメリットのように謳って出品しているヤフオク! の出品者も居ますが(笑)、当方の認識では決してそのような 描写性だけを指して「オールドレンズの写り方」とは認識しておらず、オールドレンズでも
イッパシに高いコントラストやコッテリした配色なども当然ながら認めるべきとの考えです。

従っていくら「戦前型」だからと言って決して盛大なクモリで「まるで霧の中での撮影」の ような低コントラストな写り方に偏った写真に対し魅力的だと考え当方は感心を示しません。それゆえ2年がかりで光学系の状態が良い個体を探し続けていた次第です。

そもそも年間で数本しか海外オークションebayでも出現しないレベルなので、2年で見つけ られたのはむしろラッキ〜だったのかも知れません。

後ほど説明しますが、同じ時代に造られていたCarl Zeiss Jena製標準レンズ「Tessar 5cm/
f2.8 T
(exakta)」と比べても独特な「ソフトト〜ン」の表現性が期待できると思しきや、真逆のカリッカリに鋭いピント面と共にコントラストで写し込む写真も吐き出す、このモデルのほうが断然当方の琴線に触れまくりです・・!(笑)

決してテッサーを貶しているワケではありませんが、むしろこのような「柔らかい表現性」はなかなかテッサーでは追求しにくい要素ではないかと受け取っているので、当方は目一杯で 反応を示してしまうワケです(笑)

  ●               

Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) は戦前ドイツの老舗光学メーカーの 一つで1890年創業、戦前は大判/中判からシネレンズ/ムービーレンズを含め相当な数を供給 していたようですが「Xenar (クセナー)」銘の標準レンズとしてこの当時登場しています。

いわゆる後の時代でフィルム印画紙の業界標準フォーマットになった「24 x 36㍉ライカ判」として括ると戦前ドイツKodakが1934年に 発売したレンジファインダーカメラの標準レンズがスタート地点になると思います。

この時Schneider-Kreuznachから供給された標準レンズは「Xenar 5cm/f3.5」でした。実装したレンジファインダーカメラ機は「Kodak Retina type 117」で右写真になりますが、Kodak製のEktar 5cm/f3.5をコンパーラビットで搭載したモデルも他にもあるようです。

その後1936年ライプツィヒ見本市でIhagee Dresdenの前身でもあるIhagee Kamerawerk Steenbergen&Coから発表された「Kine
Exakta
(キネエクサクタ)」のセット用レンズとして供給されたモデルが「Xenar 5cm/f2.8 S2.8 (exakta)」であり、開放f値「f2.8」版のクセナーとしては初めての登場と言えます。

当時戦前ドイツでは開放f値の競争がスタートしていましたが「Tessar 5cm/f3.5」で競った後、すぐに「Tessar 5cm/f2.8」に対しても各社が鎬を削ることになります。

今回オーバーホール済でヤフオク! 出品する個体は、その製造番号から「1938年1月」の製産出荷分と推察できるので、まさに戦前ドイツ隣国オーストリアへの侵攻僅か2カ月前の背景であり、当時のドイツ国内は高揚に満ち溢れていた時期だったようにも思います。当時オーストリアの例えばウィーン市民は侵攻してきたドイツ陸軍の行進に市民総出という大歓迎で迎えたようです (元はドイツ=オーストリアの呼称だったので/ドイツ人/ゲルマン民族という認識)。

ちなみに戦時中ドイツ軍に対する一眼レフ (フィルム) カメラの供給が決められており、ドイツ空軍には「Otto Berning社製robotカメラ」またドイツ陸軍には「Leica」そして海軍には「Ihagee Exaktaシリーズ」だったので、今回の個体はもしかすると海軍向け供給された一つなのかも知れません (詳細不明)。例えば日本も大日本帝国陸軍向けには「東京光学」或いは 大日本帝国海軍に「日本光学」であり「陸のトーコーに海のニッコウ」などと当時言われて いたようです(笑) 特に東京光学などは戦後もアメリカ海軍向けに製品を供給していた時期がありました。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケのエッジが破綻して滲んで溶けていき、円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。そもそも光学系の設計にムリがあるのでハッキリ言って背景には収差の影響が強烈に現れます(笑) その意味では「端正な完成の域に到達した描写性」を望むなら、このモデルではなくCarl Zeiss Jena製Tessarのほうが無難です(笑)

特に大変柔らかい表現性で被写体の背景のザワツキをむしろ収差のおかげでごまかせているとでも良く言えばの話です(笑)

二段目
右側2枚の写真がおそらく同じ時期に造られていたCarl Zeiss Jena製テッサーではどうヒックリ返っても撮れないと思います。例えば光学系内にクスミ/クモリが生じた個体のテッサーなら低コントラストも撮れますが、その時のピント面の表現性はここまで明確な合焦を維持できません (クスミ/クモリの影響で解像度不足に陥るから)。

従ってCarl Zeiss Jena製テッサーではこれら「ソフトト〜ン」な柔らかさの表現性は相当厳しいモノがあると受け取っています。さらに次の3枚目のカップの写真は、撮影者自らがピント位置をズラして (ちゃんと) 撮影していますが、取っ手の右側に写る「非常に微かな光の光線」がメインだったりします(笑) これはさすがにCarl Zeiss Jena製テッサーでは撮れないと思います。そのクセ右端のようなカリッカリのピント面も撮れるのがこのモデルXenar 5cm/
f2.8 “S2.8″《戦前型》
(exakta)』の素晴らしさです。

三段目
左端の写真などはどちらかと言うとまるでCarl Zeiss Jena製テッサーのようないわゆるコッテリ系とも受け取れる写真ですが、実は被写体の金属質、或いは木部など素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さがモノを言っている写真としてピックアップしました。また2枚目の白黒写真を見ると分かりますが、ダイナミックレンジが狭くて特に暗部の黒潰れが顕著である事が分かります。またやはり収差が改善されていない分、どうしてもディストーションの歪みレベルも高い印象です。

従って光学設計の優秀さを競いたいのなら、何も言わずにCarl Zeiss Jena製テッサーを入手したほうが間違いがありませんが(笑)、当方のような異端児はむしろこちらのXenarのほうがとても魅力的にしか映らないワケですョ (しかも83年前の戦前型ですし!)(笑)

光学系は当時のカタログや説明書などを紐解いて調べると右図のような構成図として載っていることが多く、実際ネット上の解説ページを観てもよく使われている構成図とも言えます。

4群5枚の変形エルノスター型光学系構成と当方では受け取りました。特に第4群の貼り合わせレンズが凹両凸レンズの接着として敢えて設計している部分が標準レンズ狙いたる由縁でしょうか。

一方、こちらは今回のオーバーホールで完全解体した際、光学系の 清掃時に各群の硝子レンズを逐一当方の手でデジタルノギスを使って計測したトレース図です。

ブツを確認すると例えば第1群 (前玉) は前述の両凸レンズではなく凸メニスカス (裏面側がほんの微かに凹の曲率) であり、且つ第2群も計測すると何度計測しても凹メニスカスで中央部の落ち込みが高い凹メニスカスでした (前述では凸メニスカス)。

おそらく前述のトレース図は当時の大判・中判向けカタログから採ってきたトレース図ではないかと推測していますが、さすがに一眼レフ (フィルム) カメラ向けの光学系は再設計していますね(笑)

なおモデルバリエーションは一つしか無く「戦前型」ですが、一丁前に絞り環が独立しているので距離環でピント合わせした後に「ボケ具合」をイジる一般的な操作方法で構いません。 この当時のオールドレンズとしては珍しく絞り環まで距離環と一緒に回らない独立型なので、その意味でもなかなか使いでのあるオールドレンズと言えます。逆に説明するなら、絞り環 操作しても距離環側に一切影響を与えないのでピント合わせが先でもボケ味の微調整が先でもどちらでも構わないワケです。戦後に登場する多くのオールドレンズでは当たり前ですが (特に黒色鏡胴モデル) この当時としては珍しいのです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。パッと見でも内部構造が簡素で構成パーツ点数まで少なめの「まるで初心者向け」のような印象を受けるかも知れませんが(笑)、実は「高難度モデル」です!

まずヘリコイド (オスメス) が真鍮 (黄銅) 製なので、このトルク感を「軽め」に仕上げようとすると普通のヘリコイドグリースではどうにもなりませんし、ましてや「白色系グリース」では無機質なトルク感にしか仕上がらないので、当方の特徴たる「ヌメヌメッとシットリ感タップリなトルク感」には至りませんね(笑)

当方がオーバーホール済でヤフオク! 出品したオールドレンズをご落札頂いた方から時々数ヶ月ご使用後に「このヌメヌメ感がたまんねぇ〜!」みたいなメールを頂戴するので、思わずウケてしまいますが、実のところ整備している当方もこのヌメヌメ感が大好きだったりします(笑)

どうしてかと言うと、何はともあれオールドレンズで撮影する醍醐味と言うか楽しみと言うのは、一つには「シャッターボタン押し込みまでの挙動」が楽しいのだと考えているからです。今ドキのデジタルなレンズで「ピピッ!」とアッと言う間に瞬時にピント合焦するのとはかけ離れた (ある意味毎回毎回チョ〜面倒くさい) ピント合わせの操作自体が、それが楽しいのだと思います(笑)

如何にも「撮影してるぞ〜ぉ!」みたいなその挙動が愉しみの一つと言えるので、そのピント合わせの瞬間に「ここにピント合わせたい!」をその前後でヌメヌメッとやるところが「整備している最中の当方の妄想」でも当方自身が愉しんでいたりします (あんまし褒められる趣味ではありませんが)(笑) 従ってそのヌメヌメ感に「納得できるか/納得できないか」のこだわりがこもっていたりしますね(笑) そのような思い入れがあるだけにご落札者様に共感頂けるとやはり整備した甲斐があったと嬉しいワケです(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。モロ真鍮 (黄銅) 製なワケですが、後の工程で散々この鏡筒のせいでエライ目に遭います!(泣)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑何しろ83年も前の製産/設計なので絞り羽根もこの後に当たり前になる「フッ素加工」ではない「カーボン仕上げ」なので、経年の赤サビで真っ赤っかでした。しかし14枚の絞り羽根を組み付ける工程だけで丸ッと一時間半もかかってしまいましたが (当方の技術スキルは低いので) 、重ねては最後数枚のところで先に重ねた絞り羽根が外れてしまう同道巡りを何回も続けてようやく組み上がった時の写真です (ちょっと恨めしい気分!)(笑)

絞り羽根の厚み自体が薄いのもありますが、自重が無いので (軽いので) 隣り合わせの絞り羽根を干渉し合って抵抗/負荷/摩擦が加わると途端に浮いてしまい外れます。従って何度も何度もヤリ直しを繰り返すワケで(笑)、何ともイラッと来ます。

この絞り羽根重ね合わせの工程での最優先課題は「打ち込まれているキーの保全」なので、この工程でムリな事をしてキーを痛めてしまうとオールドレンズの寿命に大きく影響しますから要注意です (たいていの場合キー脱落はそのまま製品寿命に堕ちる/修復不可)。

従って赤サビ落としと言ってもいい調子になってゴシゴシやっていると「キーがポロッ!」と目が点になって大騒ぎになります(笑)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側方向が前玉側方向になりますが、この写真を見てすぐに気が付いた人は相当な技術スキルの持ち主です(笑)

上側に切削して用意されているネジ山は「絞り環用」ですが、下側は鏡筒のネジ込み用です。するとこの鏡筒が何処に格納されるのかが決まっていれば簡単な話なのですが、もしも決まっていないとすると「光路長確保がメチャクチャ大変!」と言う結末に至り、その工程で何時間も同道巡りになります(怖)

↑まず先に「絞り環のローレット (滑り止め)」をセットしたところですが、ここの工程ではあくまでも「仮の状態」です。何故なら「鏡筒の格納位置が確定していないから」と言う前述の話ですね(笑)

↑さらに絞り環の下側にヘリコイド (オス側) がセットされるのですが「この工程も仮の状態」です(笑) 何しろ鏡筒の位置が確定しない限りヘリコイド (オスメス) さえも決まりません。

↑マウント部と指標値環を兼ねた部位です。

↑最初の意志決定になりますがヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

それは他のオールドレンズと全く同じ概念ですが、問題なのは何度も言っているとおり「鏡筒格納位置が確定しない限り何も決まらない」ワケであって「全ては仮の話」で工程を進めていくしかありません。

↑ (一応) 完成している鏡胴「前部」をネジ込んで如何にもらしく仕上がりました!(笑)

が然し、実はここからが本番で光学系前後群を組み付けてから鏡筒の固定位置を見極める工程がここからスタートします。つまり当然ながらそれに従ってヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置も微調整が必須なのであって、このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

すると「鏡筒の固定位置確定が先?」それとも「ヘリコイドネジ込み位置が先?」どちらが先でしょうか?(笑)

実は両方とも同時進行ですね・・(笑)

鏡筒のネジ込み位置を数ミリずつ微調整していって、ある任意の位置で今度はヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置を変更したりする場合もあるので (必ず変更するワケでもない) その辺の判定が重要だったりします。

従って出品ページにも記載したとおり過去メンテナンス時にテキト〜やられてしまったのは、おそらく「光路長確保が必須」なのを理解していなかった整備者が「らしく組み立てた」個体だったのかも知れません (意外とそういうのが多い)(笑)

実際、バラす前の時点で撮った実写ではピント面の鋭さが「クスミ/クモリ無いのにこれはないでしょぉ〜!」みたいな甘〜いピント面だったので、もう既にその時点で「あぁ〜ぁ、光路長確保しなきゃダメか!」とガックシでした(泣)

前述のように鏡筒のネジ込み位置の微調整で実写確認しつつ、一方でヘリコイド (オスメス) のネジ込み場所をむしろ一つ分ズラしたほうが解像度が増すのか (もちろんヘリコイドネジ込みをズラしたらもう一度最初から鏡筒の格納位置をチェックし直すハメに陥る/最も離れた位置から再び数ミリずつズラしつつ実写確認で解像度チェック)、要は必ずしも最後までネジ込めば何もかもベストな描写性能に落ち着くとは限らないからです。

逆に言うなら、何でもかんでも最後までネジ込むのが正しいと信じてやまない整備者が意外にも多いのが現実です(笑) 最後まで締め付けて良いのかどうか、それは詰まるところどうしてそのパーツのカタチなのか、材質なのか、隣り合わせ/近接するパーツの関係性はどうなのか などなど、凡そ「観察と考察」のレベルが問われる話であり、もちろん同時にその根本として「原理原則」の熟知を前提とした話である点がどんなオールドレンズをバラしていても最も 重要な要素です(笑)

そう言えば、海外オークションebayのこの個体の出品者が落札後に「戦前のモデルだからそういう写真しか撮れないのは理解しているか?!」みたいな、下手すると「えッ?脅迫してるの???」みたいな感覚で物言ってきたワケですが「あぁ〜、修理マンだからオマエが気にする問題じゃない!」と一言カチンと来て送ったら、チョ〜速の輸送で届きました(笑)

要は光学系内の本格的なクモリが無いことだけは出品者に事前確認していたので、その経緯もあった事から心配になったのかも知れません(笑) おかげで超速輸送費が少し浮いて助かりました!

・・そんなワケで、この後は6時間がかりで鏡筒固定位置の確認とヘリコイド (オスメス) ネジ込み位置確定を散々これでもかと言わんばかりに何度も何度も繰り返して (組み直しつつ) とうとう完成した次第です(笑) 無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行って終わりですね。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑モロ完璧なオーバーホールが終わりました!(笑) 製造番号から83年前の「1938年1月製造」と推測できますが、距離環の刻印距離指標値が「メートル表記だけ」なのでさらに言うなら「ドイツ国内流通品」だった事になり、且つこれだけキレイなキズが無い筐体から「高官向けの頒布品」だった可能性も捨てきれません (海軍高官なのか政府系なのかは不明)。いずれにしても現場で実使用されていたならこれだけ綺麗な状態を維持していなかったハズなので、ず〜ッと長年保管され続けていたとみています。鏡胴に1箇所「 (エル)」の飾り文字がそのデザインのままマーキングされているので何か意味があるのかも知れませんが不明です。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でも経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。また内部に見える (上の写真にも写っている) 点状はキズではなくて「気泡」です。この当時のオールドレンズにはこの「気泡」が混入したまま出荷されていました。

気泡
光学硝子材精製時に適正な高温度帯に一定時間維持し続けたことを示す「」と捉えていたので、当時光学メーカーは正常品として出荷していました。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

各群の硝子レンズをチェックすると一部には僅かに剥がれた箇所が視認できるので (単独の硝子レンズでチェックした場合) おそらくシングルコーティングかSchneider-Kreuznachの「」に至る前の単層コーティングか蒸着されているとみています。

↑光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。もちろん「気泡」も入っていますが僅かに多めでしょうか。この後群側は第4群にあたりますが貼り合わせレンズです。

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

2枚目の写真で中央付近に「汚れ状」が見えますが、この部分が微かに薄く剥がれているようにも見える箇所なのでコーティング蒸着の判定にも影響しています。また無色透明ならば (つまりノンコーティングならば) 剥がれようが何しようがキズ以外は視認できません。逆に光学硝子面に完全に削れているキズとして残っているなら「LED光照射して同じように同じ位置でそのキズが視認できる」ので、LED光照射で光学系内を覗き込んだ時に「視認できないのはキズとは呼ばない/コーティング層のハガレ」と言う当方の認識です。

その意味では例えば光学系内を光に反射させて覗き込んだ時に「細線のキズが見える」としても、同じ位置でLED光照射で視認できなければ「それはキズではなくコーティング層の細線状の剥がれ」と言う当方の判定になるので注意が必要です。物理的に削れたキズはどんな角度で観ようとも必ず視認できるので、そこが判定の分かれ目になります (コーティング層の線状ハガレは入射光が透過するので基本的に写真には影響しない)。逆に言えば物理的なキズはその部分を入射光が透過できないのが普通なので場合によっては写真に影響する事もあります

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:12点、目立つ点キズ:8点
後群内:15点、目立つ点キズ:10点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い3ミリ長が数本あります)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり、一部は一見すると極微細な塵/埃に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷されていた為クレーム対象としません)。「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは数点しかありません
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑カーボン仕上げの14枚の絞り羽根も経年の赤サビがほぼ除去できてとてもキレイになり絞り環操作共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」して閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

↑マウント部直前に基準「」マーカーが刻印されていますが、一方絞り環側の刻印絞り値が開放f値でズレています。これはこのモデルの設計上の都合で「f5.6を中心としてその位置で固定するよう設計されている」事が判明しています (位置をズラすことができません)。

距離環を回すトルク感は前述のとおり「ヌメヌメッとシットリ感」をお楽しみ頂けます(笑)

↑社外品のihagee製紙製レンズケースと皮革製被せ式前キャップに、当方で用意した3D印刷の樹脂製後キャップを附属させています (後キャップは結構シッカリ入ります)。またこのモデルはフィルター枠にネジ切りが存在しないので (その下のネジ山状に見える部分はハス状なのでネジ山ではない) 外径Ø:32mmの被せ式フィルターやフードなどをご用意下さいませ。

↑上の写真 (2枚) は、絞り環操作した時の状態をそれぞれ撮影していますが、開放f値側も最小絞り値側も共に「刻印絞り値先まで回る」仕様になっています。これは内部構造上開放f値でピタリと停止させたり最小絞り値側で停める事が不可能です (従ってクレーム対象になりません)。

特に開放f値側は一応ちゃんと「f2.8」位置で絞り羽根が顔出しし始めるよう位置調整してあります

↑前述のフィルター枠部分にネジ切りが存在しない解説です。ハス状部分にムリヤリフィルターをネジ込もうとすれば可能かも知れませんが相当キズが付くと思います。また絞り環側のローレット (滑り止め) ジャギーは回転しますがフィルター枠に見える部分のジャギーは回転しません (グリーンの矢印で囲った部分)。

逆に言うなら、この部分をムリに回したりすると「アッと言う間に光路長が狂う」のでご留意下さいませ。イモネジなどを使って内部で固定されていません (そういう設計だから)。

以下の各絞り値での実写をご確認頂ければ明白ですが、ピント面の解像度は相応に高いレベルと評価しています。もともとの光学系が3枚玉トリプレットからの発展系たる「エルノスター型光学系」を、ある意味当時のSchneider-Kreuznachの意地を架けてどうしても開放f値「f2.8」を達成したかった覚悟の表れとして「後群貼り合わせレンズの接着方向を反転」させて焦点距離の短縮化と解像度確保を狙ったのではないかと疎い光学知識を総動員して考えて いますが、もちろん当方の認識の話なので確証は何一つありません(笑)

その意味で実装光学系を「変形エルノスター型構成」としましたが、正しいのかどうかは不明です (解説しているサイトが存在しない)。

本来「エルノスター型光学系」は焦点距離85mm以上の中望遠レンズなどに当時多用された「中望遠域で明るさを確保できる光学系」との位置付けだったようにも考えられるので、この最後の後群側でムリヤリ辻褄合わせしたのかも知れません(笑)

ところがその他には光学系の発展がまだ伴っている時期ではなかったのか、特に「収差の影響がそのまま〜ぁ」と言うレベルですから(笑)、その点を指摘されればこのモデルは決して端正な優れた描写性能のモデルとは評価し難いかも知れません。しかし当方のような「収差もオールドレンズの (魅力の) うち」という認識の人達には、むしろこれが堪らなく愉しい要素だったりするので、案外キチョ〜な話だったりします(笑) 然しそうは言っても前述のヤフオク! 出品者のような「霧中撮影」をオールドレンズの特徴かのように謳うのは、当方としてはちょっと許せませんね・・(笑) 当方はそう言うスタンスです

なお以下の実写で写真が「何となくコントラストが低め」に写っているのは、一つにはフード未装着だからかも知れませんし、そもそも光学硝子レンズ面のコーティング層蒸着が弱いので入射光透過率が低い点も光学系の設計上やむを得ない因果関係と言えます。その意味で今回の個体の価値観は「1938年1月の製産個体」と言う83年の歳月を是として捉えるのか否かだとも言えます (当方などはそれだけで十分に酒の肴ですね)。つい最近もまさしくその年齢の 政治家が女性蔑視発言が問題になって世界規模で大騒ぎしましたが(笑)、83年間と言うのはそれほど重きのある時間なのではないかと、特に戦後からの経緯で考えるとあの焼け野原の中からどんだけ苦労に苦労しかなかった先達の方々の人生、まさに血と汗と涙の結晶なのかと
・・ロマンは廻りますね(涙)

突き詰めれば・・鏡胴にマーキングされている飾り文字「 (エル)」の意味が知りたくて仕方ないですね(笑) 戦前ドイツの名だたる貴族の紋章代わりなのかしら・・?

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離75cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。