◎ KMZ (クラスノゴルスク機械工廠) ЮПИТЕР-3 (JUPITER-3) 5cm/f1.5 Π《1955年製》(L39)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧ソビエト連邦は
KMZ (クラスノゴルスク機械工廠) 製標準レンズ・・・・、
『ЮПИТЕР-3 (JUPITER-3) 5cm/f1.5 Π《1955年製》(L39)』です。
このコロナ禍にあって、先月再び緊急入院してしまい体調が優れない日々が
続いています。皆様も同様大変な毎日を送っていらっしゃることとお察し
します
然しながら厳しさが募り悠長な事は言っておられず、今回に限り断腸の思い
でやむなくオーバーホール作業分の対価を省いた価格で出品します是非とも皆様のお力添えでお助け下さいませ・・
(ちなみに作業対価分の金額がバラバラなのは微調整など難度の違いです)
ご入札頂きありがとう御座います!本当に助かります・・(涙)
然しながら、オークションのスタート価格はまさに調達コストそのものなので計算すると現在のところオーバーホール作業分の対価が「僅か3,000円未満」という現実です (あまりにも哀しすぎる対価)(笑)
正直な話、通の方ならこの個体の希少価値は相応に認められるべきものであり遙々ロシア (ウクライナとジョージアに挟まれた黒海に面するクラスノダール 地方) から届いた個体を、ロシアンレンズにしては信じられないほどの操作性に仕上げています (手に取って触ってみればすぐ分かる/しかもピッカピカ!)
願わくば・・相応しいオーバーホール作業対価に達する事を期待します!
久しぶりにロシアンレンズです。このモデルの当方での扱い数は累計で今回が21本目にあたり、その中で1956年までにKMZで製産された個体数は累計で約半数の11本目という状況です。前回の扱いが2018年だったので3年ぶりといったところでしょうか・・。
特に敬遠しているワケではなく、むしろ必ず海外オークションebayでチェックし続けている モデルが今回扱う「ЮПИТЕР-3 (JUPITER-3)」シリーズですが、ハッキリ言ってそろそろ「1956年までにKMZで生産された個体」が市場に流通しなくなってきているのが現状です。2〜3年前ならまだ必ず数本が流れていましたが、今では気合いを入れて数ヶ月探し続けな ければ見つけられません(泣)
どうしてそれ程までに「1956年までにKMZで製産された個体」にこだわるのでしょうか?(笑)
左写真は当時のGOI州立光学研究所からKMZ製産工場宛に発出された「指示書」ですが、その署名欄を見ると「1955年」と書き込まれています。これが何を表す指示書なのか不明ですが、翻訳 (右側部分) すると光学系の諸元値を指示している内容なのが少なからず掴めます。
ソ連は戦前に旧ドイツのZEISS IKONが発売したレンジファインダー カメラ「CONTAX」及び、同じくドイツのCarl Zeiss Jenaが供給したオプション交換レンズ群に相当な関心を持っており、特に光学系の設計について軍用面からも技術を手に入れたがっていたようです。
例えば爆撃機による爆撃には射爆照準機の精度向上が課題ですし、砲撃する際の弾着観測の 精度も求められていたと推測できます。それは特にソ連のみならず、何処の国の軍事面でも 求められていた要素の一つでしょう。
そう考えた時、実はドイツ敗戦直前の1945年4月時点で連合国軍のアメリカ/イギリスとソ連が互いに競ってベルリン入りを目指していたワケですが、ここでアメリカ軍が一旦進軍を緩和してしまったタイミングがあったそうです。その結果ベルリン陥落の手柄はソ連軍が掴むことになりました。
ちょうどその進軍が緩んだ時期にアメリカ軍はCarl Zeiss Jenaの本社や工場から主要設計陣や技術者、或いは設計図面など重要書類を先に接収し持ち出していました。ベルリンが陥落してからすぐソ連軍はCarl Zeiss Jenaの工場に出向き、残っていた技術者と図面や機械設備、資材などありとあらゆるモノを引き上げ本国に接収しました。
当時敗戦時のCarl Zeiss Jenaの状況を写真などでチェックすると、工場内はスッカラカンで 全ての機械設備が接収されたのが分かりますが、アメリカ軍の動きは早かったワケです(笑)
後に戦後旧西ドイツはOberkochenに「Carl Zeiss」を立ち上げると接収した人材や図面を 基にさっそく開発/生産をスタートしています。またそれによりCarl Zeiss Jenaも戦後旧東西 ドイツに分断されたまま、それぞれ独自開発/製産が進むと言う特異な状況が長らく続きます。旧西ドイツ側OberkochenのCarl Zeissは商標権所有を主張し旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaが海外向けに輸出する製品に関し、特にヨーロッパ圏や米国への商品流出に相当厳しい条件を 附加しました。
そもそも「Carl Zeiss銘」の使用を認めなかったので当時の旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製 オールドレンズは「aus JENA」(ausは〜製の意味) などブランド銘を使えないままレンズ銘板を用意しなければならず、また一時期には製品名の刻印すら認められずに頭文字だけを使って海外向け輸出をしていた時期もありました (例:Flektogon=F、Biotar=B、Tessar=T等)。合わせてモノコーティングを示す「zeissのT」すら認められなかったので、仕方なく「◇」を刻印して代用していた個体も輸出されています(笑)
(これら制約は互いの会談により制約/競合地域と内容に関し徐々に緩和/融通されました)
さすがにいくら競合地域だけの話としても外貨を稼ぐには相当厳しい状況が続き、そもそも旧東西ドイツでの経済格差が深刻化していただけにとうとう旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaが1953年に「商標権裁判を提訴」してしまいます。凡そ18年間にも及ぶ東西ドイツ分断期で最も長い裁判と言われた「商標権裁判」はようやく1970年に結審し、1971年旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaの敗訴が確定しました。
その間例えば、1961年には旧東西ドイツの経済格差から西側への亡命者が後を絶たず、ついに「ベルリンの壁」を敷設したりします (当初戦後は有刺鉄線のみ)。そのような旧東西ドイツの背景の中、ソ連は接収した技術者と図面に資材から「まんまコピーのオールドレンズ」をすぐに開発し生産スタートします。
長い解説になりましたが、このようなドイツ敗戦時の背景があったからこそ戦前ドイツのCarl Zeiss Jenaの潮流を汲む戦後の発展が、何とも珍しい話ですが「旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaと旧西ドイツのCarl Zeissにソ連」と言う三つ巴の展開が始まった次第です。数多くある光学メーカーの中でもこのような展開/発展をしたオールドレンズは後にも先にも戦前Carl Zeiss Jenaから端を発するオールドレンズ達だけなのではないでしょうか。
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旧ソ連は共産主義体制国家なので「私企業」の概念が存在せず全ての企業が「国営企業」でした。例えば中国では「人民公社」と呼び、旧東ドイツでは「人民所有企業 (VEB)」と呼称していましたから、それぞれの国で呼び方も概念もビミョ〜に異なるので、ネット上で氾濫している何でもかんでも「人民公社」と言う言い回しを統一的に使うのはどうかと思いますね(笑)
ましてや当時のソ連も統治権を有した旧東ドイツも共に「5カ年計画に基づく産業工業体制」を執っていたので、中国とは明らかに異にします (従って中国以外は人民公社と呼称しない)。
結果、ある一つの製品の増産体制を組む時に「複数工場で併行生産し出荷」する手法を執っていたので、ソ連では何処の製産工場から出荷した個体なのかを明確にする意味合いから「製産工場のロゴを刻印していた」ワケです。それがレンズ銘板に刻印されているロゴマークの意味であり「製産工場を現すロゴ」という次第です。
今回扱う『ЮПИТЕР-3 (JUPITER-3) 5cm/
f1.5 Π《1955年製》(L39)』を製産していたのはKMZ (Krasnogorski mekhanicheski zavod) クラスノゴルスク機械工廠だけでした。戦時中はプリズムを表す台形のロゴマークを使っていた ようです。
KMZは主に軍用まで含めた光学製品を主体的に開発/設計/製産していましたが、1956年時点で今回のモデル「JUPITER-3」はZOMZ (ザゴルスキ光学機械工場) へと製産移管してしまいます。さらに1975年にはVALDAI (ジュピター・バルダイ光学工場) でも並行生産をスタートしています。
従ってロシアンレンズはレンズ銘板に刻印されている製産工場のロゴマークを必ずチェックする必要がありますし、たいていの場合製造番号の先頭2桁が製産年度を表すルールなので、それも製産時期の参考になります。例えば今回オーバーホール済でヤフオク! に出品する個体は「KMZ製の1955年製産個体」といった具合に製産工場と製産年度が確定できますから、ありがたいですね(笑)
そもそも今回のモデル『ЮПИТЕР-3 (JUPITER-3) 5cm/f1.5 Π《1955年製》(L39)』は戦前ドイツのCarl Zeiss Jenaが発売した前述ZEISS IKON製「CONTAX I〜II/IIIa」向けの供給オールドレンズ「Sonnar 5cm/f1.5」が原型モデルにあたります。
(左写真は1934年製のNickel & Blackバージョン)
左の図面は当時の州立GOI光学研究所の 諸元書から「JUPITER-3」諸元図とマウント規格にそのフランジバックが記載されている図面を転載しました。
フランジバックが28.8mm±0.02mmとあるので「L39マウント」である事が明白です。
するとここで冒頭の話が大きく関わってきます。「どうして1956年までにこだわるのか?」
もっと正しく言い替えるなら・・・・、
① KMZ製であること (レンズ銘板にKMZのロゴマーク刻印がある)
② 製造番号先頭2桁が「56xxxxx」以内であること
③ マウント規格が「L39」であること
・・・・にこだわっている次第です。その理由は接収した戦前ドイツのCarl Zeiss Jenaが使っていた「光学硝子資材」がそのまま使われて光学硝子が精製されているからなのです。
逆に言えば1955年の途中からZOMZに製産移管しますが、このタイミングで光学系も再設計されて「ロシア産の光学硝子材に変わった」と言われているからです。
つまり1954年時点でCarl Zeiss Jenaから接収した光学硝子資材が枯渇してしまったとまるで都市伝説の如く語られ続けていますが(笑)、現在も「ZENIT (KMZの現在名)」のサイトが存在し解説されています (こちら)。
ここでのポイントは「どうせ使うならCarl Zeiss Jenaの硝子材で精製された個体が欲しい」という話です。逆に言うなら1956年以降のZOMZ製モデルは光学性能が変化した為に蒸着するコーティング層の成分まで変更しています (コーティング層が放つ光彩が違う)。
もちろん「Π」刻印がレンズ銘板にあるので同じコーティング層と捉えるべきですが、明らかにその放つ光彩が異なるのでできたらCarl Zeiss Jenaの硝子材に蒸着したコーティング層の「Π」が欲しいと言う我が儘です(笑)
すると1954年に接収した硝子材が枯渇したとしても「製産の都度精製していない」要は計画的に製産していたハズなので一度精製した光学硝子を在庫として保有した上で、次のロシア産光学硝子材での製産目処がつくまでの期間は順次在庫からピックアップして出荷していたとみています。それ故、1954年後半から1955年にかけて出荷台数が激減したもののポツポツと出荷は続いていたのが納得です(笑)
その検証をしたのが右構成図です。3群7枚のゾナー型構成ですが、右図は以前扱った「1951年製KMZ品」の光学系清掃時に当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成図になります。
すると各群の曲率や厚み、カタチなどがビミョ〜に違っていて確かに1956年以降のZOMZ製個体の構成図と相違点があります。
実際こちらの構成図がやはり以前扱ったZOMZ製個体の光学系清掃時に同様当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成図になります。
このように掲載するとまたウソを公然と載せていると批判の的なので、やはり証拠写真を撮影しました。
左から光学系第1群 (前玉) に第2群3枚貼り合わせレンズ、そして第3群の後玉の順で並べて撮っています。
すると赤色矢印で指し示した箇所に窪み (凹) がちゃんとありますし、第3群のグリーンの矢印
部分は「斜め状に切削されているコバ端」での 貼り合わせレンズなのが一目瞭然です。
そしてまさにこの写真の如く「Carl Zeiss Jenaの硝子材で精製すると薄く淡い緑色の硝子」の色合いなのが目視で確認できます。1956年以降のZOMZ製モデルの硝子材は無色透明に変わっており、凹みも存在せず第3群も角張ったコバ端に変化しています。
実際前述の「ZENIT」サイトに載っていた個体写真の製造番号を見れば「550xxxx」なので間違いないワケですが、当方がウソを載せていると言われるので今回執拗に確認した次第です(笑)
つまり1955年の途中で接収したCarl Zeiss Jenaの硝子資材で精製した光学系の在庫が潰えたので、1956年からZOMZに製産移管した (ロシア産硝子使用)
・・と、こんな感じで今回は特にこだわって海外オークションebayから調達しましたが、さすがに探すのが大変でした(泣)
・・さらに、ロシアンレンズともなればたいていの整備者なら知っていますが、そのトルク感や絞り環など凡そ日本製オールドレンズと同等の操作性で仕上げるのは大変難しいとの認識がありますが、それを何処まで突き詰めて「おぉ〜!」と唸り声を上げるような操作感・・それは距離環を回すネットリしたトルク感に決してスカスカではない適度なトルクが掛かる絞り環など、結果的に撮影に没頭できる (残念ながら没頭している時にこのオールドレンズの存在感は消失してしまうほどに) 違和感なく使えている事こそが、実はオールドレンズのオーバーホールに於いて最も重要なポイントなのだと思います(笑)
その意味で、当方が狙っている先は単にバラして「グリースに頼った整備」で組み上げるだけの「整備屋モドキ」からは逸脱しているのかも知れませんね(笑) プロにもなれず、かと言って整備屋モドキにもなりきれない「何をやっても中途半端」というのが日々の反省です!(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造も簡単で構成パーツ点数も少ないので組み立て自体は容易です。逆に言えば鋭いピント面を確保する術さえ知っているなら、簡単な部類に入るモデルの一つですね(笑)
↑鏡筒は相当な深さがあります。絞りユニットや光学系前後群が格納される鏡筒です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑13枚のカーボン仕上げの絞り羽根を組み付けて絞りユニットを最深部にセットします。この時点で絞り羽根が滑らかに開閉動作するよう仕上げないと組み上げてからではどうにもなりません。
↑今回の個体も赤色矢印の箇所に過去メンテナンス時に着色された「反射防止黒色塗膜」のせいで肉厚が増してしまい、絞り羽根開閉が重くなってしまったので絞りユニット内部にグリースを塗ったりしてごまかしていました(笑)
↑絞り羽根をダイレクトに開閉する「開閉環」をセットしますが、そもそもネジ部に回してネジ込むので、いったいどの位置で停止させれば良いのかの判定が必要になります。
↑こんな感じで「開閉環」のさらに下部に「固定環」がセットされ、これで初めて「鏡筒位置が確定する概念」です。つまりここまでのネジ込み位置をミスると「何となく甘い印象のピント面にしか仕上がらない (本来の鋭さに達していない)」のがある意味ロシアンレンズの難しさでもありますが、お構いなしに組み上げている整備者がヤフオク! にも居ますね(笑)
↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で4箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
グリーンの矢印で指し示していますが絞り環用の基準「●」マーカーの位置がちゃんと合致しているのか後ほど組み上げで問われます。
↑基準「▲」マーカー刻印が備わるマウント部をセットします。前述の絞り環用の基準「●」マーカーとこの基準「▲」マーカーが互いに同一ライン上に来ています。
↑ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置が正しかった証がご覧のようにグリーンのライン状に縦一直線で2つの基準マーカー「●と▲」が配置できています (当たり前ですが)(笑)
しかし市場流通品をチェックすると、時々基準マーカーの位置ズレや鏡胴「前部」のネジ込みが適切ではない「絞り環の絞り値が基準「●」マーカーからズレた個体」などが出回っています。自ずと鏡筒の固定位置が極僅かに異なるので「本来のピント面の鋭さに至っていない個体 (もっと鋭いピント面になるハズ)」なのだと容易に推測できます(笑)
それは前のほうの工程で説明した「鏡筒固定位置が適切ではないから」の話とここでちゃんと辻褄が合っているワケで、決して大袈裟な表現をしていたワケでもありません(笑)
「原理原則に則り物理的にも整合性がシッカリ執れている状態」と言う表現が最も適切なコトバではないでしょうか?(笑)
このように指摘すると今度は「細かい部分にこだわって整備していません」などと逃げ口上を公然と言い放つ整備者も居たりするので、さすがとしか言いようがありません(笑)
はたして・・ピント面の鋭さを追求して仕上げていない整備とは、いったい何を目的に整備 しているのでしょう?(笑)
確かに下位格版の「JUPITER-8 50mm/f2」などはお手頃価格で手に入れたいモデルでしょうから、あたかも「格付相応の写り方」と言わんばかりにテキト〜整備で仕上げて流していますが、それでもそのモデル本来の市場流通価格からすれば凡そ1万円は乗っている価格帯で、整備の対価分が加算されていると考えられます。
果てはロシアンレンズだからと、プロの写真家自らがハイキ〜な写真ばかり載せて、如何にも「オールドレンズライクな写りが楽しめる」如く拡散させているので、当方にしてみれば開いた口が塞がりません(笑)
プロならプロらしく振る舞うのが整備者でも写真家でも同じなのではないでしょうか。ある 一つの方向性を恣意的に決めつけて印象づけさせてしまうその手法には強烈に違和感を感じます。それで収益をちゃんと得ているのだから、当方などは本当に敵いません(笑)
世の中得てして真面目に本質を突き詰めようと頑張ると、結果はその分だけ収入は減っていくかの如く哀しい結末を迎えるのが常で、一にも二にもコネと名声にたむろしている世渡りの 上手い人達だけが生き残るのでしょう。
これで鏡胴「後部」も完成したので光学系前後群を組み込んでから鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑今となっては年々貴重度が増している「KMZ製の1955年製個体」です(笑) 完璧なオーバーホールが終わりました。光学系の状況は経年並みに拭きキズなどが残っていますがキレイな部類です。
ちゃんとレンズ銘板に「Π」刻印がありΠコーティングされていますし、淡くパープルアンバーにブル〜の光彩を放つのが何ともステキです。この翌年1956年から製産が移管されたZOMZ製個体になると、もちろんレンズ銘板に刻印の工場ロゴマークは変わりますが、それ以前に前玉が放つ光彩のコントラストが高くなってしまい強烈な光彩を放ちますから、前玉方向から見比べるならパッと見ただけでも「1955年までのKMZ製」との選別ができたりします(笑)
逆に言うなら、それほど光学硝子材の成分や配合率をイジると言うのは大問題なのだと言えるのではないでしょうか。
もっと適確な表現で説明するなら、それほど強烈な光彩を放つコーティング層を蒸着しなければ「ロシア産の光学硝子材では諸元値をキープ/達成できなかった」とも推測でき、それはそもそもコーティング層の役目/目的が、入射光/自然光の透過率向上であって、敗戦時に接収したCarl Zeiss Jenaの資料 (材料のこと) とロシア産資料との差異としてコーティング層の光彩を見ただけでも分かるワケで「ここに決して都市伝説的にこだわって持ち上げているだけの話ではない物理的な違いが明らか」なのだと明言できるのではないでしょうか?
オールドレンズの判定とは、そのような具体的なエビデンスを基に語ったほうがより説得力があるのだと当方は考えているワケで、だからこそ「Carl Zeiss Jena産の硝子材を使った個体が欲し〜ぃ!」とこだわっている次第です(笑)
↑光学系内は経年並みに拭きキズが残っているものの透明度は非常に高く、LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。光学系内にはこの当時の硝子精製で必ず発生していた「微細な気泡」が複数残っており、パッと見で「塵/埃」に見えますが気泡です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群側にも経年相応に拭きキズなどが残っていますが透明度は相当なレベルでLED光照射で極薄いクモリが皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
1枚目の写真で後玉の中心辺りに白っぽい円形のクモリが3箇所ほど移っていますが、撮影時の反射なので現物にはありません。また3枚目の写真左上辺りに楕円状の気泡が写っていますが、これは現物にもある気泡の大きい箇所です。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:14点、目立つ点キズ:9点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内経年並み)
(前後群内に極微細な薄い18mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり、一部は一見すると極微細な塵/埃に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷されていた為クレーム対象としません)。「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは僅かしかありません。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑13枚のカーボン仕上げの絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り環は多少トルクを与えてスカスカにならないよう施しましたが、それでも軽い操作性です (これ以上重くできません)。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
当方のシルバー筐体「磨きいれ」はその工程の中で薬剤など使っておらずベタつき感もなく、もっと言うなら「現物を手に取ってジックリ眺めれば磨いているのがちゃんと分かる」レベルで仕上がっています(笑)
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・距離環の締め付け用イモネジ穴(3箇所)が既に摩耗し(ネジ側ではなく距離環側が摩耗)、イモネジの硬締めが最後までできない状況です。最後まで硬締めすると完全にネジ山が潰れてしまいスカスカになるため、寸前で硬締めをやめています。結果距離環には極僅かなガタつきが発生しています。経年摩耗によるネジ山の消失が原因の為これ以上改善できません(事前告知済なのでクレーム対象とせず)。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
↑今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。なお距離環はローレット (滑り止め) も含め極僅かにガタつきを感じますが、これはイモネジのネジ山が摩耗している為で、強く締めつけすぎると完全に削れてしまいバカになります。事前告知済なのでクレーム対象としません。
《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
① HAKUBA製MCレンズガード (新品)
② 本体『ЮПИТЕР-3 (JUPITER-3) 5cm/f1.5 Π《1955年製》(L39)』です。
③ 純正樹脂製ネジ込み式L39後キャップ (中古品)
④ 汎用金属製被せ式前キャップ (中古品)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑f値「f16」になりました。もうほとんど絞り羽根が閉じているのでそろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。当初バラす前の実写チェック時点ではこんな鋭いピント面ではありませんでしたが、ちゃんと鏡筒の固定位置を適合化させたのでキッチリ鋭いピントに戻りました(笑)