◎ Tokyo Kogaku (東京光学) Topcor-S 5cm/f2《前期型》(L39)

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ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
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このモデルを最後に扱ったのは2016年なのでだいぶ経ってしまいました(笑) 特に珍しい
オールドレンズでもなく、いつでも市場流通しているので容易に入手可能です。

東京光学は戦前の1932年に当時の大日本帝国陸軍要請のもとに「東京光学機械株式会社」として創設された光学兵器開発/製造会社ですが、戦後は民生向け光学製品の開発メーカーとして存続し、1989年に「株式会社トプコン」に社名変更し現存ますが1981年時点でカメラ事業 から撤退しています。

1954年に東京都葛飾区にあったレオタックスカメラから発売された バルナックライカのコピーモデルとして登場した、レンジファイン ダーカメラ「Leotax F」向けの供給標準レンズとして東京光学で用意されています (右写真はLeotax F)。

その後毎年のようにアップデートが続き新型が発売されますが、1958年にシリーズ最高峰モデル「Leotax FV」が発売された後、1959年には倒産して消滅してしまいます (右写真はLeotax FV)。


供給されていた標準レンズは当初モデル銘に「-S」が附随しない「Topcor 5cm/f2 (L39)」が初期型にあたりますが、この時の実装光学系は5群6枚の変則的なダブルガウス型構成で、後群側の貼り合わせレンズの貼り合わせ面を敢えて接着せずに分割したままにすることで空気レンズ層を間に用意して色収差補正の他諸収差改善を狙った光学系として設計しています。

その後に登場したのが今回扱うモデルシリーズにあたり「Topcor-S 5cm/f2 (L39)」になります。

↑モデルバリエーションは全部で3つに分かれ、上の写真左端から「前期型/中期型/後期型」ですが「前期型中期型」の2つのみ完全な真鍮 (黄銅) 製筐体なのでズッシリと重みを感じ ます。従って「後期型」の黒色鏡胴モデルからはアルミ合金材に変わっています。

光学系はモデル銘に「-S」が附随するバリエーションから典型的な 4群6枚ダブルガウス型構成に変わっています。

右図は今回のオーバーホールに際して完全解体した際、光学系の清掃時に逐一当方にてデジタルノギスを使って計測したトレース図です。

実際に現物を測定するとネット上で解説され載っている構成図の特に曲率と厚みなどがビミョ〜に違っており、おそらくカタログに記載の構成図は量産化される前の構成図ではないかと推測しています。
(例:光学硝子レンズの凹面の落ち込みや前玉の厚みなどがカタログ掲載図とは違っていた)

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

一段目
本当はもっとたくさん実写がピックアップできるのですが、意外にも海外の外国人が撮影した写真が非常に少なく、どれも日本人ばかりだったのでたったの4枚だけになってしまいました(笑)「トプコンの」と呼ばれる鮮やかな赤色の発色性が特徴的ですが、概ねコントラストが高めに出てくるので元気の良い写り方になります(笑) 但し白黒写真になるとまた別の表情を表すので、特に白黒写真では空気感や立体感まで感じさせるリアルな表現性がまた魅力的です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造はそれ程難しくなく構成パーツ点数も特に少ないレベルではありませんが理に適った設計ばかりです。特にやはり鏡筒のほとんどが真鍮 (黄銅) 製なので、ズッシリと重みを感じます (距離環と絞り環のみアルミ合金材)。

↑真鍮 (黄銅) 製の鏡筒ですが、このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式なので、ヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」に含まれています。当初バラした直後は真鍮 (黄銅) 製の地の金色ではなくて「経年劣化で酸化/腐食/錆びが生じた焦茶色」です。当方にて「磨き研磨」を施したので上の写真のように黄金色の光彩を放っています(笑)

これはキレイにピカピカにするのが目的ではなく(笑)、あくまでも「経年劣化の酸化/腐食/錆びを除去することで最低限のグリース塗布だけで仕上げられる」ワケであり、今後さらに経年劣化による酸化/腐食/錆びの進行を防ぐ意味合いでもあります。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑9枚の絞り羽根を組み付けて鏡筒最深部に絞りユニットをセットします。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側が前玉側方向になります。

↑鏡筒に「絞り環用位置決め環」を組み付けたところですが、絞り環用の目安になる基準「」マーカーが刻印されています。一方鏡筒の中腹にはカチカチとクリック感を伴う絞り環操作を実現する「絞り値キー」と言う「」が各絞り値に見合う位置で (縦方向で) 刻まれて用意されています。

↑実際に絞り環に鋼球ボールをセットして組み付けたところですが、前述の基準「」マーカーの位置でピタリと各絞り値のクリック感が一致するのが当たり前の話であり(笑)、その微調整がここの工程で発生します。

特にこのモデルの絞り環操作時はカチカチとクリック感を伴いますが、実はそのクリック感の感触をコトバで言い表すと「クンクン」みたいな感触なので (カチカチではないので) ハッキリ言ってこの操作はクセになってしまい、何度もイジって遊んでしまいます (それほど気持ちいい感触)(笑)

そしてその気持ちの良い感触を生み出しているのは上の写真のとおり「銅製の板バネ」による反発力であり、さらに「僅か⌀1mmの鋼球ボール」を使う事で実現できている設計なのです。

従って確かにたまたまこのような「クンクン」感触ですが、そこには設計者の何かしらの意図が及ばなければこのような「銅板を使った板バネと鋼球ボールだけ」と言う仕様には設計しません (たいていは鋼球ボールを反対側から板バネで反発力を与える方式)。

逆に言うとここの構造を見ただけでも実は設計者の何某かのこだわりを感じずには居られませんね(笑) もっと言うなら工程数や人件費を省くのなら前述のような裏側から板バネで鋼球ボールに反発力を与える方式 (つまりこの当時一般的だった方式) にすれば「クリック感のチカラの強さ微調整が必要ない」ワケであり、ワザワザ敢えてここの構造を難しく作って (しかも微調整まで必須として) いるところに設計者のこだわりの意図が隠されていると当方はみています(笑)

そしてそれを裏付けるのは、この後のタイミングで登場する「後期型」のアルミ合金材によるモデルバリエーションになると、まさに一般的なクリック感の方式にチェンジしてしまっている事からも推察できる話として当方は受け取っています。

たかが鋼球ボールによるクリック感の仕様に関する話ですが、当方にとっては何某かのロマンを感じてしまいますね (それほど特異な構造の設計)(笑)

↑実は鏡胴「前部」は一つ前の工程で残り光学系前後群をセットするだけなので終わりです。ここからは鏡胴「後部」の工程に移ります。

上の写真はマウント部 (L39) ですが「直進キー」という板状パーツが両サイドに用意されています。この「直進キー」がヘリコイドに刺さることで距離環を回した回転のチカラが直進動に変換される概念ですね。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑距離環用のヘリコイド環を無限遠位置のアタリを付けた位置までネジ込んだ状態です。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

するとグリーンの矢印で指し示していますが、この距離環用ベース環の内側は「鏡面仕上げ」です。ところが当初バラした直後にチェックしてみると「白色系グリース」が過去メンテナンス時に塗りつけられており、既に経年劣化進行に伴う酸化/腐食/錆びが相当生じており、一部には「緑青」まで出ていました。

つまり過去メンテナンスが1〜2回は施されていると考えますが、いずれもこの箇所が「鏡面仕上げ」だったことに整備者は気づいていません。或いは気づいていたとしてもグリースを塗ってごまかしています。

どうして「鏡面仕上げ」だと分かるのかと言えば、接触面が全部で3つの領域に分かれており、上下の2つの領域で互いに接触して中腹部分は非接触の空間になるので、そこでチカラの応力が逃がされると言う次第です (だから滑らかに駆動する)。

↑距離環用のヘリコイド (オスメス) が組み込まれた鏡胴「後部」部分と、さらにその内部に入る「鏡面仕上げの距離計連動筒」です。この内部に入る筒にはネジ山などは存在せず、単に「鏡面仕上げの面と面の接触だけ」でブルーの矢印のように直進動する概念です。そしてこの時「直進キー」が筒の両サイドに設けられた「直進キーガイドの溝」に刺さるので、距離環を回した時の「回転するチカラ」が「直進するチカラ」に変換されてブルーの矢印のように駆動するワケです。

従ってこの内部に入る筒と距離環用ベース環の内側とは「互いに鏡面仕上げ」ながらも「距離計連動筒」はその自重だけでス〜ッと直進キーに沿って垂直状に落ちていくほどに非常に滑らかです (だからトルクが重くならない)。

↑こんな感じで互いに組み込まれてグリーンの矢印の箇所で両サイドの「直進キー」が刺さって内部の「距離計連動筒」がブルーの矢印の直進動をします。

↑距離環のローレット (滑り止め) を組み込んで、最後に完成している鏡胴「前部」に光学系前群と後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑ご依頼者様からのご要望では前玉のキズが取れるかどうかといった話でしたが、残念ながら完璧に硝子面を削ったキズなのでどうにもなりません。硝子研磨して削り落とさない限りキレイになりません (キズは前玉表面側にワリと深めに付いています)。

これはこの前玉を締め付け固定している「固定環」を治具を使って回して外す際に締付環が微動だにせず治具によってキズが付いてしまったと推測します (それで円形状にキズが付いている)。

このモデルでは前玉の締付環には1箇所「イモネジ」で固定してあるので回るワケがありません。「観察と考察」を蔑ろにするからこんなことになってしまいます(泣)

↑光学系内の薄いクモリは除去できましたのでLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

↑後群側もLED光照射でクモリが皆無ですが、後玉の縁に1箇所だけカビ除去痕としての薄いクモリが汚れ状に残っています (写真には一切影響なし)。

↑9枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り環操作はクリック感を伴いつつ軽い操作性で動きます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の中程度+軽めを使い分けましたが、前述の「鏡面仕上げ」部分に既に経年劣化進行に伴う酸化/腐食/錆びが発生していた為、その分鏡面に戻すのに処置が必要だったためにその分が重いトルクに影響しています (つまり磨きすぎて必要以上に空間/隙間が空いてしまうと逆効果)。

一応当初バラ須前のトルク感に近い状態を目指しましたがこれ以上軽くできません。申し訳御座いません・・。

↑完璧なオーバーホールが終わったので、当初よりも極僅かですがピント面の解像度も鋭く変わったように感じます。

↑なお、現在市場に流通している個体を見てもどれもみんな上下の位置で基準「」マーカーが真っ直ぐになっておらずズレたままです(笑) 正しくは上の写真のグリーンのラインのように直線状に絞り環用基準「」マーカーと指標値側の基準「」マーカーが位置していなければイケマセン(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。