◎ ЗОРКИЙ (ZORKI:ロシアンレンズ) ЗК (JUPITER-3) 5cm/f1.5《初期型》(L39)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
今回オーバーホール/修理を承ったモデルはロシアンレンズの標準レンズ『JUPITER-3 5cm/f1.5 Π (L39)』なのですが、当方はこのモデルが好きで何度か扱っています。今回大変珍しい「ZKモデル」のご依頼を頂き、この場を借りてご依頼者様にお礼申し上げたいと思います (2カ月にわたりお待たせしてしまい本当に申し訳御座いません)。
旧ソ連軍はドイツ敗戦時にCarl Zeiss Jenaから主だった技術者も含め工場の産業機械や生産資材などを接収し、戦後すぐに光学製品の開発/製造に着手しています。1947年にGOI Leningrad (Gosudarstvennyi Optichaskij Institut Leningrad) と言う光学研究所にて、Carl Zeiss Jena製Sonnar 5cm/f1.5 Tをコピーしたプロトタイプを試作し、翌年1948年にはKMZ (Krasnogorski Mekhanicheski Zavod:クラスノゴルスク機械工廠) にて量産型となる初期型モデル「ZK 5cm/f1.5 Π」を再設計した光学系を実装して生産を始めました (左写真)。このモデルは絞り環の両サイドにツマミが備わっていますが、さらに翌年の1949年にはツマミを省いた今回オーバーホール/修理を承ったモデル『ZK ZORKI 5cm/f1.5 Π』へと仕様変更し量産化へと進みます。
ところが、その後1950年になると再び絞り環の両サイドにツマミを用意しています・・従って「初期型」モデルの範疇で捉えると、絞り環にツマミが無いタイプについてネット上のサイトでは「1949年に限る」との案内でしたが、今回ご依頼を承った個体の生産年度は、製造番号から「1950年」であることが分かっており、実証個体として大変貴重であると考えます。
さらに大きな発見だったのが3群7枚のゾナー型光学系設計です。右図は今回オーバーホール/修理のためにバラした個体の光学系を基に当方がスケッチした構成図ですから、各硝子レンズの曲率などは正確ではないイメージ図になりますが、特に第2群の貼り合わせレンズ (3枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) ・・さらにその2枚目・・が僅かに窪んでいる設計を採っていました。また、光学系後群の3枚貼り合わせレンズもカタチが極僅かに異なっています (光学硝子レンズの5枚目縁が僅かに切削されている)。
その他の (今回オーバーホール/修理した個体の前後の) タイプをまだチェックしていないので、どのように光学系の変遷があったのかは不明ですが、大変興味深い事実です。なお、左の構成図はGOIの仕様書に掲載されている光学系構成図です。
今回オーバーホール/修理を承った個体は、レンズ銘板の刻印文字がロシア語のキリル文字であり「ЗОРКИЙ」はそのままラテン語表記にすると「ZORKI」になります・・ロシア語キリル文字では末尾の「ИЙ」でラテン語表記の「i」になるので発音としては「ゾルキー」ではなく「ゾルキ」のようです。また、モデル銘はこの1950年時点では「JUPITER-3」ではなく「ZK (キリル文字でЗК)」になっていますね。従って「ZK ZORKI」がラテン語表記による正式なモデル銘と言うことになりますが、同じ1950年の後半からは、レンズ銘板の刻印が「JUPITER-3」に変わり、絞り環にも再びツマミが備わった状態で生産されています・・その意味でも (極短期間にツマミ無しで設計されたタイプ)、大変貴重な個体「ZK ZORKI」ではないでしょうか。ちなみに、レンズ銘板の刻印「Π」はラテン語表記では「P」になりモノコーティングを表しています。また、光学硝子材は、Carl Zeiss Jenaから接収した硝子材を使って生産されていると推測されます。
なお、「JUPITER-3」のモデルバリエーションは非常に多いので様々なタイプが混在していますが、このモデルの実写をFlickriverで検索したので、興味がある方はご覧下さいませ。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部の各構成パーツは、この後に登場する「JUPITER-3」とほぼ似た設計なのですが、よ〜く観察すると細かい相違点があったりします。なお、今回のご依頼内容のひとつに「筐体外装の光沢研磨」がありましたので、当方にてピッカピカに仕上げてあります。
当方の「光沢研磨」は、よく海外オークションebayでも出回っている処理とは異なり、筐体外装のクロームメッキ加工を剥がさない処置ですので、筐体外装パーツの表層面はツルツルで、平滑性を保った状態 (極端に金属質のヘアラインが強調されていない状態) に仕上がっています。おそらく当時の状態に近い光沢感に近づいていると思います。最近はヤフオク! でも整備時に磨く方が増えてきたようですが、写真を拝見すると当方とは磨き方が少々異なるようですね・・。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割なので、ヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」側に配置されています。
↑13枚の「カーボン仕上げ」の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。ところが、まずはこの工程で躓きました。当初バラす前のチェック時には、絞り環を回しての絞り羽根開閉操作は正常駆動できており何も問題が無かったのですが、バラしたところ以下の問題が発生しています。
- 絞り羽根の「キー」が脱落
「制御キー」側の金属製突起棒が1個絞りユニットからポロッと出てきました。絞り羽根1枚のキー脱落が発生しています。 - 絞り羽根の5枚が変形
過去の油染みにより絞り羽根同士が密着し膨れあがる現象が発生し「変形」しています。 - 絞り羽根の赤サビが酷い
この頃の絞り羽根はカーボン仕上げですが油染みによる赤サビが発生しています。
このモデルの絞り羽根は「カーボン仕上げ」の頃のタイプになります (後にはフッ素加工に変わります)。このモデルの場合、絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製の突起棒が1本ずつ打ち込まれています。裏側のキーが「位置決めキー」で絞り羽根の格納位置を決めており、もう一方の表側が「制御キー」で、絞り環操作時の絞り羽根の角度を制御しています。
過去に酷い油染みが生じていた時期があり (現状油染みがない状態)、その際に絞り羽根同士が「癒着」してしまい互いにくっついていました。くっついた絞り羽根は互いに引っ張り合うので、絞り環操作で閉じた後に開放に戻る際「制御キー」側のキーが制御環 (リング/輪っか) の「溝」の縁に干渉してしまい、癒着している絞り羽根が膨れあがります (への字型に膨れる)。結果、膨れあがった絞り羽根は、そのまま「への字型」に変形してしまいます。すると、何度も絞り環操作をしているうちに (或いは絞り環操作時に抵抗/負荷が架かる違和感を感じつつムリに操作していると) キーが脱落します。
或いは、カーボン仕上げのカーボンが錆びてしまい、金属製のキーが打ち込まれている微細な「穴」が錆びてしまいます。すると穴が弱くなるか広がってしまうためにキーが脱落する原因にもなります。
今回の個体は前者の場合で、絞り羽根の癒着による変形からキーの脱落に至っていますが、特にカーボン仕上げの絞り羽根に関しては「油染み」は放置していると (或いは絞り環操作時の違和感をムリに操作していると) 致命的な結末を迎えます・・脱落してしまったキーは下手すれば二度と元には修復できませんから、イキナシ製品寿命を迎えることになります。
オーバーホール/修理を承っていると、絞り環操作で絞り羽根が飛び出してくる個体が時々あったりしますが、まさしく「キー脱落」の現象になりますね。絞り羽根の油染みは放置していると怖いことに至りますから要注意です。
今回の個体は、1. に関しては仕方ないので (もう元の穴には填りませんから) 瞬間接着剤で接着しました。しかし、あくまでも応急処置であり、将来的に脱落しない保証はありません・・絞り環操作していて抵抗/負荷を感じるなどの違和感がある場合には注意して下さいませ。
2. に関しては、13枚の絞り羽根を組み付ける際に10回近くトライしましたが、何度試しても残り3〜4枚のところで絞り羽根が浮いてしまいバラけてしまいます。仕方ないので変形している絞り羽根を探してへの字型に曲がっている箇所を平坦な状態に戻す作業を行い、最終的に正しく組み付け完了しています。なお、3. の赤サビに関しては、絞り羽根の清掃時にキレイにしています。
↑この状態で鏡筒を立てて撮影しました。このモデルは前玉側に絞り環が位置しますから、この次の工程では絞り環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で固定するための「ベース環」と言う環 (リング/輪っか) をネジ込みます。
上の写真でグリーンの矢印で指し示していますが、本来絞り環がイモネジで締め付け固定されるのは「ベース環」側のハズなのに、どう言うワケか鏡筒にイモネジが入る「下穴」が用意されています・・しかも、3箇所あります。絞り環を締め付け固定するイモネジが入る箇所は3箇所ですが、均等配置されているので上の写真のように1箇所に集中することはあり得ません。
このことから、過去のメンテナンス時にイモネジを強く締めつけすぎてしまった、或いはベース環をネジ込んだままの状態でドリルで下穴を用意してしまったことが推察できます・・つまり、ベース環を貫通して鏡筒側にまで下穴が空いてしまった次第です。3箇所ありますから、少なくとも3回実施しています (或いは3回メンテナンスされたのか?)。もちろん、オリジナルの状態は鏡筒には一切このような下穴は存在しませんから、これを見ただけで過去のメンテナンス時に不適切な (本来必要ない) 所為が成されていたことが判明します。おそらくロシアンレンズに慣れていない人の手による整備だと考えます。
↑絞り環用のベース環を鏡筒の下側からネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと絞り環操作が適正に操作できなくなりますし、このベース環の次 (下) に入る「押さえ環」と言う環 (リング/輪っか) 自体の固定位置までズレますから、結果的に無限遠位置のズレが生じます。しかも、このモデルの場合は基準「●」マーカーが鏡胴「後部」側に用意されていますから、その位置との整合性も取れなくなってきます (つまり位置もズレる)。
上の写真をご覧頂くと判るのですが、3箇所に集中的にイモネジ用の下穴が集まっています。さらにそのひとつ左端の穴を見ると「貫通」しているのが判りますね (実際は右端も貫通している)・・本来生産時は貫通などしておらず削れているだけです。3箇所に下穴として均等配置されているのが生産時の状態ですから、今回の個体には全部で9個の下穴があるので、その中から適正な正しい下穴の位置を探さなければイケマセン・・少々厄介です。安易に絞り環の位置が合わない (つまり刻印指標値と位置がズレている) からと、故意に位置合わせしてイモネジをネジ込んでしまうと、このようなことに至ります。
オールドレンズは、バラせば過去のメンテナンスの全てが、まるで目の前で繰り広げられているかの如く白日の下に曝されますから、ごまかしはすぐに判明してしまいます (しかもどうしてそうなったのかの因果関係までバレます)。
↑9箇所のイモネジ下穴の中から正しい適正な下穴3箇所を探し出し、絞り環を組み付けました。今回の個体は前述のように1本の絞り羽根制御キーに脱落が発生していましたから (今回瞬間接着剤で接着している)、将来的な抵抗/負荷をかけない配慮からワザと故意に「軽め」の絞り環操作になるよう仕上げていますのでご留意下さいませ。しかしこの件、もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額分を減額下さいませ。申し訳御座いません。
↑最後でも良いのですが、ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。これで鏡胴「前部」が完成したことになりますから、この後は鏡胴「後部」の組み立てに移ります。
↑こちらは距離環やマウント部が組み付けられる基台になります。
↑無限遠位置のアタリを付けた場所までヘリコイド (メス側) をネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このヘリコイド (メス側) は、距離環用のベース環を兼ねているので、絞り環と同様やはりイモネジ用の下穴が用意されています・・本来生産時にはイモネジ用の下穴は「3箇所の均等配置」になります。ところが、こちらも上の写真をご覧頂くと明白ですが、やはり3箇所に集中して下穴が集まっています。もっと言えば、下部に用意されているネジ山の中にもイモネジを締め付けた痕が数箇所集まっています。これは何を意味するのでしょうか???
つまりは過去のメンテナンス時に絞り環の位置ズレが発生してしまい、その結果鏡胴「後部」の基準「●」マーカー位置とのズレが生じたので、位置ズレをごまかして合わせる所為が成されていたことが判ってしまいます。やはり、貫通させていますから、おそらく過去のメンテナンスは1回だったのではないかと推察します。ドリルを使って穴を開けてしまったワケですが、本来削るだけで用が足りるものを貫通させていますから、このメンテナンスをした人はロシアンレンズの (特にこのモデルの)「原理原則」を全く理解していない人であることが判明します。
↑基準「●」マーカーが用意されているヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で4箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
適正位置でヘリコイド (オス側) をネジ込んだ後に「直進キー」と言うシリンダーネジ (ネジ頭が無くマイナスの切り込みを入れた円柱にネジ部が備わっているネジ種) を「直進キーガイド」と言う「カットされた箇所」にネジ込みます。「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツですから、必然的に鏡筒を直進動させるガイド (溝/切り欠き) が必要になります。直進キーはそのガイド部分を距離環を回すことで行ったり来たりしているワケです。
過去のメンテナンス者は、ここの部位にもテキト〜に手を加えてしまいました。距離環を回した時に相当なトルクムラが発生していたようで、重くなる箇所があるために直進キーガイドを削ってしまったのです!(泣) 従って両サイドに1本ずつある直進キーのガイド部分は、片側のみスカスカ状態になっていますから、その「直進キー」が意味を成さない状態に陥っています。残念ながら、一度削れてしまったアルミ材を元に戻すことはできませんから、仕方なくもう一方の直進キーだけでトルク感の調整を行うことになります (ロクなことをしません!)(怒)
ちなみに、ヘリコイド (オス側) の内側にマーキングされている「223」は当方が刻んだマーキングではありませんし製造番号の一部でもありません・・おそらく生産時に施されたものと推測します。
↑L39のマウント部 (指標値環を兼ねる) を正しい位置までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。この「初期型」の「ZKモデル」でも、特に今回の1949〜1950年に生産された個体 (絞り環にツマミが存在しないタイプ) は、上の赤色矢印で指し示したようにマウント部の固定用イモネジが3箇所均等配置されていました。しかし、この他の「JUPITER-3」では固定用イモネジは1箇所のみですから、今回初めて3箇所の均等締め付け個体を見た次第です (何故ならば距離環が被さると固定用イモネジは隠れてしまい外見では一切判らないから)。
↑さて、ここでも躓きました・・ヘリコイド (オス側) をネジ込むと、過去のメンテナンス時同様と思しき「トルクムラ」が発生してしまいます。グリースの粘性を入れ替えて組み直してみたりしましたが、どの粘性 (軽め/中程度/重め) に入れ替えてもトルクムラが改善できません。それでおかしいと考え、一旦組み付けたマウント部を取り外してヘリコイド (オスメス) の状態まで戻して撮影したのが上の写真です。シルバーな環 (リング/輪っか) のほうがヘリコイド (オス側) になり、オリーブ色側の環がヘリコイド (メス側) です。上の写真グリーンの矢印で指し示している箇所をご覧下さいませ。ヘリコイド (オスメス) の間の隙間に極僅かな相違があることが判ると思います。1箇所だけ隙間が狭くなっており、他は均等に近い状態で一定の隙間になっています。これは何を意味するのか??? 残念ながらヘリコイドのオス側かメス側一方が (下手すれば両方が) 変形しています。距離環や絞り環、或いは鏡胴を見ても過去に酷い落下があった痕跡が一切無いので、この個体は何か重い物に押し潰されていたように考えます。
或いは、ヘリコイド (オス側) の内側にマーキングされている「223」が製造番号の下3桁を意味している、いわゆる「ニコイチ」の個体なのかも知れませんが、正確なところは不明のままです。ちなみに、他の「А」や「Ч」はロシア語のキリル文字で、それぞれラテン語表記の「A」と「C」を現しています (何を現すのかは不明)。
↑今回のオーバーホール/修理ご依頼内容の一つ「距離環を回す際の感触がザラザラしている」と言う現象は、過去のメンテナンス時に塗布されていた「ウレア系白色系グリース」が原因でした。おそらくトルクムラが酷かったために、それを改善させる目的で「白色系グリース」を塗ったのだと推測します。今回のオーバーホールでも「白色系グリース」を塗布すればトルクムラは改善方向に期待できるのですが、同様に「ザラザラ感」が憑き纏います。ご要望に従いザラザラ感が無い「黄褐色系グリース」を塗布しました。
この後は、完成している鏡胴「前部」を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ「解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認について」で解説しています) を執り行えばいよいよ完成です。
ここからはオーバーホールが完了した依頼品の写真なります。
↑大変貴重な「初期型」『ZK ZORKI 5cm/f1.5 Π (L39)』ですが、レンズ銘板の「ЗОРКИЙ (ZORKI)」部分が赤色に刻印されている個体も今回初めて目にしました (ネット上でも見た記憶が全くありません)。恐ろしく貴重な個体です・・! やはりレンズ銘板に刻印されている「Π」刻印が誇らしげですが、まさにそのとおりのパーブルアンバーな美しい光彩を放っておりウットリしてしまいます・・何と羨ましい。しかも、製造年度が「1950年」ですからCarl Zeiss Jenaから接収したキチョ〜な光学硝子材を使って生成されている光学系を実装しているワケで、もしもこのオールドレンズに飽きられてしまったら、是非是非当方にお譲り下さいませ・・いつまでも恋い慕いお待ち申し上げています(笑)
↑光学系内の透明度が恐ろしく高い個体です・・1950年から優に67年が経過しているワケですから、半世紀以上であり、もちろん当方よりも長い歳月を経て様々な歴史を体験してきた素晴らしいオールドレンズです。
↑光学系後群の透明度も素晴らしいです。上の写真は当方の撮影スキルが下手クソなので反射してしまいましたが、コーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。光学系後群の硝子レンズ格納筒を見ると、全周に渡ってジャギーが用意されているのも今までに無く今回初めて目にした仕様です (他のJUPITER-3には明確な凹凸状のジャギーがありません)。
なお、光学系内のカビなどについては「解説:カビの発生と金属類の腐食/サビについて」に掲載していますので、興味がある方はご覧下さいませ。
↑13枚の絞り羽根のうち、5枚に発生していた「への字型の変形」は可能な限り修復しましたが、必ずしもキッチリと平坦な状態に戻っているワケではありません。また、脱落していた1本の「制御キー」も瞬間接着剤で接着しましたが、いつまた脱落するか保証はありません。それを考慮してできるだけ「磨き研磨」を施して絞りユニットに架かる抵抗/負荷を低減させましたが、一応ご留意下さいませ (次回絞り環操作で違和感を感じたらすぐに整備をお願い申し上げます)。前述のとおり、絞り環の操作性をワザと「軽め」に仕上げていますので、ご納得頂けない場合はご請求額より必要額分減額下さいませ。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感を感じさせない大変キレイな個体でした。ご依頼内容の一つ「筐体外装の光沢研磨」がありましたので、当方による「光沢研磨」を施しピッカピカに仕上げています。
↑塗布したヘリコイド・グリースは、ご要望によりザラザラ感のない「黄褐色系グリース」の「粘性:軽めと中程度」を使い分けて塗布しています。然しながら、前述のとおり直進キーと直進キーガイドが片方しか機能していないこと、及びヘリコイド (オスメス) 自体に僅かな変形が確認できていることなどから、トルクムラが発生しています。
そもそも「黄褐色系グリース」はヘリコイドのネジ山の状態に神経質な性格であるのが欠点ですから、そのままトルク感として現れています。この点も、実際に現物を操作頂きご納得頂けないようであればご請求額より必要額分を減額下さいませ。申し訳御座いません。
↑実は、清掃時に指標値刻印が褪色したワケではなかったのですが、元々のバラす前の段階で既に刻印指標値が薄く感じていました。視認性をアップさせる目的で全ての刻印指標値を着色しています (上の写真の赤色矢印で指し示している指標値刻印)。ご依頼のご指示にはない作業ですので、もしもご納得頂けないようであれば、こちらもご請求額から必要額分減額下さいませ。
また、ご依頼内容の一つであった「怪しいキズ (グリーンの矢印で指し示している箇所)」に関しては、当方ではアルミ材削り出しパーツに経年で付いてしまったキズまでは「消す作業」を執り行っておりません。理由は、研磨し過ぎると地が出てきてしまい光沢感まで変わってしまい違和感を抱くからです。あくまでも「表層面の光沢研磨」までしか執り行っていませんが、今回は傷が浅かったのでほぼキレイに改善できたのではないかと思います。
この「怪しいキズ」状に削れてしまった理由も、過去のメンテナンス時に距離環を固定するイモネジを強く締めつけすぎたことが原因で、距離環に凹凸の膨らみが発生してしまい、結果的に当たって擦れてしまったキズです。ましてや、今回の個体は「貫通」している下穴が複数あるので、イモネジはどんどんネジ込まれますから、必要以上にネジ込むとヘリコイド (メス側) にも影響し兼ねません。本当にロクなことをしません。
なお、基準「●」マーカーの穴も、どう言うワケか貫通ギリギリ状態でしたから、視認性アップを兼ねて赤色着色しています。
↑ヘリコイド (オス側) には前述の基準「●」マーカーが当然ながら「一つだけ」存在するのですが、今回の個体は過去のメンテナンス時に位置ズレか生じてしまい、ごまかしのために用意されたであろうマーカーがもう一つありました。上の写真では絞り環が最小絞り値「f22」まで回している状態なので、開放位置に「●」マーカーが来ているハズがありません。つまり明らかに絞り環 (ひいてはベース環) の固定位置をミスったか、或いは距離環側の固定位置ミス (ひいてはヘリコイドのネジ込み位置ミス) が原因してズレてしまった結果、故意に穴を開けて用意した誤魔化しマーカーです。今回のオーバーホールでは完全に見えない状態には復元できないのでパテ埋めだけしておきました。
↑フィルター枠外壁部分が当初の状態では塗膜ハガレが酷かったので、当方にて黒色着色しています。一部ムラがありキレイに塗れておらず、申し訳御座いません。
絞り環/距離環のローレット (滑り止め) は可能な限りジャギーの洗浄を行いました。また、距離環を回すトルク感も可能な限りトルクムラを少なくするよう努めた次第ですが、いろいろと不本意なるメンテナンス結果になってしまい大変申し訳御座いません (しかも2カ月間もお待ち頂いたのに)。
海外オークションebayやヤフオク! でも、ロシアンレンズを専門に整備/メンテナンスして出品していらっしゃる方が多くなってきましたが、当方は残念ながら、まだまだ技術スキルが低く、ロシアンレンズはシンプルな構造であるが故に非常に神経質な調整が必須であり、然しながらその調整は意外にもイモネジの締め付け具合やヘリコイドのネジ山の状態などでガラッと変わってしまいます。もちろん、塗布するグリースの種別 (白色系グリース/黄褐色系グリース) などの相違によってもダイレクトに感触が出てしまうので、まだまだ全く以て修行が足りていない未熟者です。
大変貴重なモデルのご依頼をお受けしながらも、このような不本意なるオーバーホールに終わりましたこと、改めてお詫び申し上げます。スミマセン・・。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていないつもりでしたが (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)、どうもピント面がズレて撮影してしまったようです。
↑絞り環を回して設定絞り値を「f2」にセットして撮影しています。
↑最小絞り値「f22」による撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。