◎ VOIGTLÄNDER (フォクトレンダー) COLOR-ULTRON 50mm/f1.8(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツVOIGTLÄNDER製標準レンズ・・・・
COLOR-ULTRON 50mm/f1.8 (M42)』です。


当方ではこのモデルのデザインを「SLタイプ」と呼んでおり、個人的に距離環や絞り環に配された「銀枠飾り環」の意匠がとても美しく好きなので、状態が良さそうな個体を見つけるとつい調達してしまいます(笑) 当方での扱いは今回の個体が30本目にあたります。

30本このモデルをオーバーホールしてきて今回初めて結論に至りましたが、レンズ銘板が「COLOR-ULTRON」と赤色で刻印していない個体が極僅かに存在することを認めました。
過去オーバーホール/修理を承った個体の中に「白色刻印のまま」のCOLOR-ULTRONが2本存在し、きっと過去メンテナンス時の洗浄で「COLOR」の赤色が褪色して白色に着色したのだと勝手に思い込んでいました。

ところが今回の個体でやはり白色刻印のままであるのを見て、もしや「製造番号に関係性があるかも知れない?」と考え調べたところ以下のような結果になりました。

【製造番号 (時系列) によるレンズ銘板刻印とコーティング層光彩 (M42限定)】
※当方扱い分+ネット上サンプルの合計44本を調査
230xxxx:白色刻印COLOR-ULTRON/濃いグリーンの光彩
231xxxx:赤色刻印COLOR-ULTRON/薄いグリーンの光彩
232xxxx〜:赤色刻印COLOR-ULTRON/パープルアンバーの光彩のみ

これらの検証結果から製造番号 (時系列) で捉えた時、モデル銘「COLOR-ULTRON 50mm/
f1.8 (M42)」は「230xxxx」スタートだった事が判明しました。またコーティング層蒸着で「濃いグリーン色/薄いグリーン色/パープルアンバーのみ」の違いも、ほぼ製造番号と関係性が強い事が見えてきました (ほぼと言うのは一部に混在が認められるがニコイチか否かの確認ができない為)。

これは例えばレンズ銘板の「COLOR-ULTRON」刻印が白色だったのを「赤色で着色」して市場に出ている場合もありますし (見てくれが違うので塗ってしまう)、或いはもっと厳しい見方をすれば「フィルター枠部分だけがネジ込み式」である点を知っていれば「ニコイチ」の懸念も捨てきれません (それゆえ検証の中に混在値があるのも推察できる)。ところが、逆に赤色だった刻印を白色に塗るのは難しいです (裏写りする為)。もっと言えば「白色を褪色させるとシルバーなアルミ合金材の地が出てくる」のと同様に「赤色も褪色するとシルバー」なのですが仮に下から白色が出てきたら「赤く塗った」事がバレますね (ワザワザ白色にメッキ加工してから赤色に再び加工しないから必ず褪色すると地の金属質が現れる)(笑)

この見てくれの問題は、例えば極端な話「Planar 1.8/50」が「Planar 1.8/50」のレンズ銘板刻印でオークションに出品されていたら、はたして欲しいと思うかどうかです(笑)

たかがレンズ銘板の刻印の話ですが、思い込みで考えてしまっていた事から意外な事実が見えたりして、いろいろ考察するとオールドレンズはなかなか楽しいですね(笑)

なお、光学系内のコーティング層蒸着で第何番目の群にグリーン色の光彩を放つコーティング層を蒸着しているのかで、組み上がった時のコーティング層の光彩レベルが変わってきますから、これは具体的にバラして光学硝子レンズを清掃すれば自明の理です (グリーン色の蒸着面の数で光学系全体的な外見上の濃い/薄いは決まってしまうから)。

  ●               ● 

【このモデルに於ける問題点】
絞り連動ピンの突出が短い
絞り羽根開閉異常
距離環を回すトルクが重すぎる

当モデルに多く見られる問題点をまとめると上記3点に集中します。

はマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の突出量 (長さ) ですが「約2.8mm」と
一般的なM42マウントのオールドレンズに装備している「絞り連動ピン」の突出量:3.2〜3.6mmよりだいぶ短い点を指しています。

これはフィルムカメラに装着して使うなら何ら問題になりませんが、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する際に問題が発生します。この問題についてはこのページの一番最後のほうで解説します。

またとの関係が大きい話ですが、特にマウントアダプタ経由装着した時に発生する「絞り羽根が閉じる時途中で止まる」症状から、ムリなチカラで絞り環を回しているウチにさらに悪化させてしまう問題です。逆に言えば、フィルムカメラでの使用やオールドレンズ単体の状態に於ける「絞り羽根開閉異常」の発生率は意外と低いです。

つまり近年マウントアダプタに装着使用する機会が増大したことによる不具合の発生と言える現象です。

はこのモデルの設計上ヘリコイド (オスメス) のネジ山が微細な仕様なので、特に過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」の経年劣化進行により粘性を帯びてくると非常に重くなる現象です。それは過去メンテナンス時に「黄褐色系グリース」ではなく「白色系グリース」が塗られている事が多いのが因果関係にもなっています。

しかし、これらの問題点が顕在したまま流通している現実は、実はこのモデルのメンテナンスに於いて相当ハイレベルな技術スキルを要求される事から、適切な整備が施されないまま市場に流されている事が背景にあります。

意外にも、当方宛オーバーホール/修理を承る個体は、ご依頼者様のお話しを伺うと「何処の会社でも整備を断られた」と言う経緯で当方に流れてくる事が多いようにも感じます。当方の低い技術スキルながらも、整備してくれる当てが無く仕方なく当方にご依頼頂くのだと常日頃肝に銘じ、誠心誠意作業に勤しんでいる次第です。

  ●               ● 

旧西ドイツRollei社から1970年発売のフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」用セットレンズとして用意された標準レンズ「Carl Zeiss Planar 50mm/f1.8 SL (QBM)」の派生型になりVOIGTLÄNDER向けのOEM製品と考えられます。

どうしてRollei製フィルムカメラのセットレンズに当時のZeiss IkonからCarl Zeiss銘のPlanarが供給され、且つVOIGTLÄNDERにもOEM供給されたのか? この3つの会社の繋がりを知るには当時の背景が分からなければ掴めません。

【当時の背景について】
 Voigtländer (フォクトレンダー)

1756年にオーストリアのウィーンで創業したVoigtländer社は、その後1849年ドイツのニーダーザクセン州Braunschweig (ブラウンシュヴァイク) に移転し工場を拡張しています。戦後イギリス統治領となった旧西ドイツのブラウンシュヴァイク市でフィルムカメラなど光学製品の生産を始めますが、日本製光学製品の台頭により業績は振るわずついに1969年Zeiss Ikon (ツァイスイコン) に吸収されます。しかし1971年にはZeiss Ikonもフィルムカメラから撤退したため1972年にはブラウンシュヴァイク工場の操業が停止しました。その後、商標権はRolleiに譲渡されています。

 Rollei (ローライ)

1920年にドイツのハンブルクで創業したRollei社はフィルムカメラの生産を主として、旧西 ドイツのCarl ZeissやSchneider Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) 社からレンズの供給を受けていました。1970年にフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」を発売しCarl Zeiss製の標準レンズ「Planar 50mm/f1.8 (QBM)」などをセット用レンズとしていましたが、1972年に生産工場が操業停止したため、Voigtländer社の商標権譲渡も含め自社のシンガポール工場へと生産を移管しています。

その結果1974年に発売されたのがVoigtländer製フィルムカメラ「VSL1」から始まるシリーズ (〜VSL3) でセット用標準レンズとして今回のモデル『COLOR-ULTRON 50mm/f1.8 (M42)』が発売されました。
従ってマウント種別は従前の「QBM (Quick Bayonet Mount)」の他「M42」マウントのタイプも存在しているワケですね。

時代背景と共に各光学メーカーのポジショニングを踏まえるとこのような流れになります。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
※Rolleiflex SL35用Carl Zeiss製「Planar 50mm/f1.8」からの展開として掲載しています。

前期型

レンズ銘板刻印:Carl Zeiss銘
生産工場:旧西ドイツCarl Zeissブラウンシュヴァイク工場
コーティング:アンバーパーブル

中期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:アンバー

後期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:アンバーパープル

COLOR-ULTRON 50mm/f1.8」

レンズ銘板刻印:VOIGTLÄNDER
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:パープルアンバー

 

COLOR-ULTRONはシンガポール工場での製産が スタート地点のように見えますが実際は旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場で製産された個体が存在しておりVOIGTLÄNDERへのOEM供給は1970年の時点から既にスタートしていたと考えられます。
つまり製産工場を軸として捉えると製産時期が見えてくるワケですね。
(右写真は1962年当時のブラウンシュヴァイク工場)

なお派生型としてIFBAFLEX用セットレンズである「IFBAGON 50mm
/f1.8 (M42)」も存在しますが生産数が非常に少なく稀少品です。

単にレンズ銘板をすげ替えただけのようなので内部構造も構成パーツも全く同一だと推測しています (今まで扱い無し)。

さらに上位格モデルとして開放f値「f1.4」の以下2種類が存在します。

左側のモデルは「Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4 (QBM)」で旧西ドイツ製ですが、右側モデルは「VOIGTLÄNDER COLOR-ULTRON 55mm/f1.4 (QBM)」になり日本製です。取り扱いがまだ無いので日本製モデルの製産メーカーは不明ですが、当時「Rolleinarシリーズ」を富岡光学がOEM生産していたので富岡光学製ではないかと踏んでいます。

  ●                

光学系は6群7枚のウルトロン型です。本来の4群6枚ダブルガウス型構成の前群成分で貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 部分を分割してしまった拡張ダブルガウス型構成に、バックフォーカスを稼ぐ意味から1枚第1群 (前玉) として追加した設計です。

この光学系構成図を見てすぐに思い浮かぶのが彼の有名な銘玉として巷で俗に「凹Ultron」と呼ばれている同じく旧西ドイツのCarl Zeissから1966年に発売された「Ultron 50mm/f1.8」です。

まさに操業を停止してしまう直前のブラウンシュヴァイク工場で製産されていたであろうモデルですが、その名のとおり本当に第1群 (前玉) が中心部に向かって凹んでいます。

単にバックフォーカスを稼ぐ目的で追加された第1群 (前玉) なのでこのような独創的な発想に至ったのかも知れませんが、凹メニスカスにした為に前玉で一旦入射光を拡散させて第2群へと進めています。
特に第2群と後群側成分の第5群貼り合わせレンズを見ると性格の違いが分かります。

今回のモデルではその概念をやめてしまったが為に描写性には大きな相違が表れてしまい、時代背景とも相まり (シンガポール工場に移管される/Rolleiへの売却という背景も加味して) 何かしら戦略的な要素が含まれていたのかも知れませんが、当のRolleiにしてみれば凹Ultron同様にメインの格付として用意したつもりの標準レンズだったのではないかと考えます。

それは今でこそ凹Ultronが銘玉と揶揄されていますが、発売された1966年当時から既にそのような評価だったのでしょうか (当方は当時のことは全く知りません)?

つまりある一部の描写特性は凹Ultronから受け継いでいるものの、当時の潮流に倣いコントラストと解像度を向上させることに主眼が置かれ、ビミョ〜な表現性を犠牲にして (見切って) しまった為に今現在になって凹Ultronとの描写性の相違を指摘されているようにも受け取れます
・・ロマンが広がりますね。

  ●                




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系がウルトロン型構成なので真円の繊細なエッジを伴うきれいなシャボン玉ボケの表出が苦手です (収差の影響を受けて変形してしまう)。この性格は有名な銘玉凹Ultronとも共通しますが、ピント面のインパクトが凹Ultronのほうがマイルド (繊細) なので余計にこのCOLOR-ULTRONのほうが誇張的に見えてしまいます。

二段目
左からピント面のインパクト (誇張感) と葉っぱなども含めた発色性を4枚集めてみました。
これらの実写を見ると植物の葉っぱなどは旧西ドイツ製オールドレンズの特徴たる「シアンに振れる発色性」と言う要素が感じ取れる、非常にナチュラル的な表現性ですが、ところが原色などは相応にコントラストが高く出てくるのがいつもながら不思議な魅力です (つまり何でもかんでも高いコントラストに偏らないのが不思議)。

三段目
左端写真のようにこのモデルは凹Ultron同様にダイナミックレンジがそれほど広くありません。但し凹Ultronと比べると暗部の粘りが頑張っている分、多少はダイナミックレンジに有利な働きをしています (それでも暗部はストンと急に堕ちてしまうので真っ黒になる)。

ところがアウトフォーカス部の滲み方のクセとピント面の鋭さ (誇張感) とが相まり「独特な空気感/距離感」を表現できる数少ないモデルとして指摘する事ができます。左から2枚目 (空気感)、或いは3枚目 (距離感) をピックアップしました。アウトフォーカス部の滲み方がトロトロすぎると「空気感」の演出効果が減衰するので、ある意味「トロトロ派」の方には受け入れられない魅力とも言えます。一方「距離感」のほうはご覧のようにアウトフォーカス部の滲み方よりも階調表現の滑らかさが演出効果に功を奏するので、この写真がノッペリした記録写真に留まらないのがまさに光学系の実力だと考えています。

さらにこのモデルの不思議なところは、原色に反応する場合とそうではない場合、つまりシ〜ンによって発色性が変わってくるオモシロイ反応をするのがこの街中スナップを見ても分かります (植物写真やその他の写真と比較してもコントラストの表現性に一貫性が無い)。

四段目
左端は被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力の高さとしてピックアップしました。単にピント面が鋭くても質感表現能力を高める効果にはなりません。滲み方や階調の制御などが複雑に絡み合って質感を表現している写真に至ると考えています。またそれは人物写真にもそのリアル感として表れるので参考になります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の個体は当初バラす前のチェック段階で以下の不具合が確認できていました。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環を回すとピント合わせですぐ微動してしまうほどトルクが軽すぎる (スルスル状態)。
光学系内に全面に渡るクモリが幾つかの群に視認。
 絞り環を回すとほぼクリック感を感じない (無段階絞り/実絞りに近い操作感)。

バラしてみるとつい最近メンテナンスされている事が塗布されている「白色系グリース」の状態で判りました (経年劣化がほぼゼロ)。さらに塗られていた「白色系グリース」は相当に軽い粘性なので、まだ数ヶ月レベルの経過と推測できますが、僅かに揮発油成分が液化して構成パーツに附着しています。

問題点の原因は塗布された「白色系グリースの粘性が軽すぎる為」と考えられます。何でもかんでも軽い粘性のグリースを塗ると、逆にスリップ現象 (ピント合わせ時にククッと微動してしまう) を生じる原因になったりします。

の光学系内のクモリが問題で、各群の硝子レンズには相応に微細な拭きキズやヘアラインキズ数多く視認できるのですが、それにも増して「薄いクモリ」は清掃しても一部が全く除去できません。通常「コーティング層の経年劣化に伴う薄クモリ」は、清掃では一切除去できないので (コーティング層を剥がさない限り除去できない)、一部でもキレイになる箇所があると言うことは「この薄いクモリの原因はコーティング層の経年劣化ではない」ことになります。

それを確認する方法があるので処置してみると、確かに薄く曇っている箇所の一部がほんの僅かですが「パリパリと透明パラフィンのように膜となって剥がれていく」事が判明しました。

つまり過去メンテナンス時に「カビ除去の目的で化学薬品を使った」ことがこれで判ります。一番分かり易い例として「カビキラー」の類が挙げられますが、そのような化学薬品を使った場合、揮発していく段階で含有成分の一部が薄膜となってコーティング層に張り付いて残る事があります。その残った残留成分にグリースなどから揮発した揮発油成分が重なり化学反応で「極薄いクモリ」となって視認できるようになるので、例えば数年経つと実際に過去メンテナンス時の「拭いた痕」が拭いた時の順でちゃんと浮き上がっていたりします。

結局今回の個体は、まだ新しい「白色系グリース」から1年未満の時間経過と推測できますが既に揮発油成分が廻り始めていて、それがコーティング層の化学薬品と反応して薄いクモリに至っていた事になります。今回のオーバーホールで相当な時間を掛けるハメに至ったのは、それら薄いクモリの除去作業でした(泣)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑上の写真は絞りユニット内の構成パーツ「開閉環」を撮影しました。絞り羽根枚数6枚なので、絞り羽根に打ち込まれている「開閉キー」がささる為の切り欠きも6箇所用意されています。また「開閉アーム/制御アーム」の2本の薄い板状アームが垂直状態で飛び出ています (赤色矢印)。

↑「開閉環」をひっくり返して裏面を撮影しましたが、2本の薄い板状アーム「開閉アーム/制御アーム」はこの「開閉環」製産時にプレッシングだけで (単に折り曲げて) 用意した設計です。これがこのモデルで (QBM/M42共に)「絞り羽根開閉異常」を来す根本原因に至っています。単にプレスして曲げただけのアームなので、根元部分 (グリーンの矢印) が弱ると途端に絞り羽根が正しく駆動しなくなります

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。この状態で絞り羽根が無抵抗のままスルスルと軽く動かないと組み上げた状態で「絞り羽根の開閉異常」に至りますが、そのような完璧な状態に組み上げるにはコツが必要なので簡単な話ではありません (このモデルの場合)。もちろん絞り羽根が閉じていく際に「正六角形を維持」したままキレイに閉じていくかどうかもこの工程で決まります。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して撮影しました。「開閉アーム/制御アーム」が鏡筒裏側から飛び出ています。

そしてこのモデルで距離環を回した時に「重い」トルク感に陥ってしまう個体が多い根本的な理由が上の写真で分かります。ヘリコイド (オス側) のネジ山がご覧のとおり「微細なネジ切り」だからです。

つまり塗布するグリース種別をミスると途端に重い印象のトルク感に仕上がってしまいます。それゆえつい最近実施されたメンテナンス時には「緩い粘性の白色系グリース」が塗られてしまったようです(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。赤色矢印で指し示した箇所には、やはり距離環用のネジ山が切削されていますが「さらに微細なネジ切り」なので、塗布するヘリコイドグリース種別も距離環を回す時のトルク感を決める重要な要素の一つになります。

↑ヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

左写真は、この状態でひっくり返して裏側 (後玉側方向) から撮影していますが、ご覧のようにヘリコイド (メス側) をネジ込んでいくと、最後は基台を貫通して抜けてしまいます。

つまり停止する箇所が用意されていないので (そういう設計なので) 何処でヘリコイド (メス側) のネジ込みを止めれば良いのか、つまり「無限遠位置の確定」が重要な話になってきます。

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この鏡筒 (ヘリコイド:オス側) は、どんどんネジ込んでいくと最後はネジ込めなくなり止まってしまうので貫通しません。

するとどんな事が言えるのか?

前述で無限遠位置のアタリを付けてネジ込んだヘリコイド (メス側) が適正なのかどうかが問われる話であり、光学系前後群をセットして最後まで組み上げて無限遠位置を実写確認したら大幅にズレが生じていた場合、再びここまでバラして戻らなければイケマセン(笑)

整備業者がこのモデルを嫌う一つの理由が、この無限遠位置アタリ付けの難しさです。当方は数多く手掛けているので、凡そどの辺でヘリコイド (メス側) のネジ込みを停止すれば無限遠位置に近い位置なのかが分かっています(笑)

同様、この状態で再びひっくり返して撮影しました。ちゃんと鏡筒裏側に「開閉アーム/制御アーム」が飛び出てきています。

もっと言えば、ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置をミスった場合、この2本のアームの長さが足りなくなるので最短撮影距離の位置で「絞り羽根開閉異常」が発生します。

↑鏡筒裏側に各制御系パーツを組み込みました。ほとんど全ての制御系パーツがこの鏡筒 (ヘリコイド:オス側) 裏側に一極集中します。「直進キーガイド」の環に「カム」が備わり「制御環」の途中に「なだらかなカーブ」が用意されていて、そこに「カム」が突き当たることで具体的な絞り羽根の開閉角度が決まる仕組みです。

なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側で坂 (勾配) を登りつめた頂上部分が開放側です (グリーンの矢印)。この「制御環」にはコの字型の部分が用意されており、ここに絞り環からの連係アームが刺さって絞り環操作がダイレクトに伝達される原理です (つまり絞り環を回すとなだらかなカーブが移動する)。

↑絞り環をセットします。このモデルの絞り環操作時はクリック感を伴いますが、まだこの段階ではベアリングがセットされていません。

左写真はこの「M42マウント」モデルだけに備わるエンジニアリング・プラスティック製パーツで「絞り値伝達制御環」です。

このプラスティック製の環 (リング/輪っか) が経年で削れてしまったり変形するとフィルムカメラ側への伝達絞り値が正しくなくなるばかりか、実は絞り環操作にまで影響してきます。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。このマウント部はアルミ合金材削り出しパーツですが、当初バラした直後は経年の酸化/腐食/錆びから黄褐色に変質しています (つまりたいていの場合錆びたまま使われ続けている)。

左写真は今回の個体のマウント部 (上の写真と同一のパーツ) で、当初バラして溶剤で洗浄した後に撮影した写真です。

ご覧のように黄褐色化しているのは、アルミ合金材の経年による酸化/腐食/錆びです。もちろん溶剤で洗浄済なので油分などは一切残っていませんから、通常の整備ではこのまま組み上げていくワケです(笑)

するとビミョ〜なマチ (0.1〜0.2mm程度) の段差が経年の酸化/腐食/錆びなどで残ったりするので、それが各構成パーツで積み重なると「正しい動きをしない箇所」或いは「チカラが正しく伝達されない」などの具体的な不具合が発生します。

↑上の写真はこのマウント部内部に組み付けられる「絞り連動ピン機構部」の主要パーツを撮影しました。右側の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ左側の「操作爪」が動きます ()。

この「操作爪」は鏡筒 (ヘリコイド:オス側) から飛び出てきている「開閉アーム」を爪部分で掴んでいます。従って「開閉アームは横方向から爪によって常時チカラが及んでいる」ことがこの解説で明確になりますね。

するとどのような懸念が出てくるでしょうか?

絞り環操作が重いから/引っ掛かりを感じるからとムリなチカラを加えて操作し続けると、そのムリなチカラがそのまま伝わり「開閉アームの根元部分」に集中します。これが経年使用で「絞り羽根開閉異常」へと繋がる因果関係です。

またその時、マウント面から飛び出た「絞り連動ピン」が押し込まれると「操作爪」が動いて絞り羽根を開閉している仕組み (絞り連動ピンはオレンジ色矢印のように操作爪に刺さる) ですが、ここで「チカラの伝達経路」がより具体的に明確化したのではないでしょうか?

グリーンのラインで明示してありますがマウント面から飛び出る「絞り連動ピン」の長さは「約2.8mm」です。どうしてグリーンのライン部分から飛び出るのかと言えば、それは「絞り連動ピンが飛び出ないようアームが附随しているから」と言えます。つまり附随する左右のアームから先の部分しかマウント面から飛び出ないことが自明の理です

何を言いたいのか?

よくこのモデルのオーバーホール/修理ご依頼で「絞り連動ピンの飛び出ている長さが足りない (或いはオーバーホール/修理完了後も改善されていない)」とご指摘を受けるのですが、ご覧のとおり絞り連動ピンの突出量を調整できる設計になっていません。左右に飛び出ているアームでどうしても引っ掛かるので、これ以上絞り連動ピンを突出させることができません (当方の技術スキルの問題ではない/何故ならマウント面には絞り連動ピン用の穴が単に用意されているだけだから)。

・・と言っても聞く耳を持たない人が時々居ますが、当方に信用/信頼が無いのだと諦めるしかありませんね (悲しい現実です)(笑)

↑実際に各構成パーツを個別に「磨き研磨」してから組み込みました。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

ベアリング用の穴
絞り環にクリック感を実現させるベアリング+スプリングが入る穴

↑さらに「絞り連動ピン機構部」を拡大撮影しました。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれれると (ブルー矢印①)、その押し込まれた量の分だけ左隣の「操作爪」が左右に首振り運動します ()。

この時、グリーンの矢印で指し示したように絞り連動ピンが必要以上に飛び出ないよう「ストッパー」の役目としてご覧のようにアームがマウント部内部に突き当たる (停止する) 設計になっています。つまりこのモデルの「絞り連動ピン」は最大値で「約2.8mm」しか突出しないのが正常と言えます (設計上の問題なので当方には改善のしようがない)。

↑完成したマウント部を基台にセットします。この時「ベアリング+コイルばね (スプリング)」を組み込んで絞り環にクリック感を与えます。

上の写真では簡単にセットしたように見えてしまいますが、このモデルの最大のポイントがここの工程です。マウント部を組み付ける際に以下の要素について全てキッチリと微調整しない限り適正な仕上がりに至りません。

(1) 直進キーと直進キーガイドの噛み合わせ位置 (マチの調整)
(2) 操作爪と開閉アームの噛み合わせ位置とチカラの伝達レベル
(3) なだらかなカーブとカムの位置合わせ (絞り羽根開閉幅との関係)
(4) マウント部組み付け箇所の位置合わせ (1箇所のみ)
(5) もちろん無限遠位置合わせ (ヘリコイドオスメスの位置合わせ)

直進キー」と「開閉アーム」に「ベアリング」そして「ヘリコイドの位置」にもちろん「カムによる絞り羽根の開閉具合」すべてがピタリと合致していない限り適切な動きになりません。何故ならマウント部を被せるのは一発であり (カチッとハマるので位置をズラしたりできません)、且つ締め付けネジが3本用意されているので組み込みの際の微調整ができません (締め付けるしかないから)。

このモデルがどんだけ「高難易度」なのかがご理解頂けたでしょうか?

↑全ての調整が終わったのでマウントをセットします。ご覧のように「開閉アーム」が飛び出てきています。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑市場では珍しい白色刻印COLOR-ULTRON 50mm/f1.8 (M42)」です (市場に多く出回っているのはCOLOR-ULTRON銘)。もちろん製造番号は「230xxxx」なので初期の生産ロット分です (レンズ銘板の製造番号は画像ソフトで消しています)。

さらに光学系は「濃いグリーン色の光彩を放つコーティング層蒸着」でもあり、冒頭の検証と一致しています。そんな個体を今回のオーバーホールで完璧な距離環トルクの状態に改善し (シッカリした然し軽めのトルク感)、且つ光学系内の薄いクモリもいつもの2倍の時間を掛けて光学硝子レンズを清掃する事で非常にクリアな状態に戻しています。

絞り羽根の開閉異常」が多いモデルですが、今回の個体は簡易検査具でチェック済の完璧な駆動を実現できており、絞り環のクリック感まで明確な状態に改善させました。そんな完璧なオーバーホールが完了していますが唯一惜しい点は、光学系内の各群には過去メンテナンス時の拭きキズなのか極微細なヘアラインキズが少々多めに残っています

↑光学系内は非常にクリアな状態に戻りました。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。但し、極微細な薄い拭きキズやヘアラインキズが複数残っており少々多めの状態です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側も非常にクリアに戻りLED光照射で極薄いクモリすら皆無です。同様極微細な薄い拭きキズやヘアラインキズが少々多めです。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:15点、目立つ点キズ:10点
後群内:16点、目立つ点キズ:11点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内多め)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内に極微細なヘアラインキズや拭きキズ等少々多めにありますが、一部はコーティング層の極微細な薄い線状ハガレなのでキズではありません(クレーム対象としません)。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。クロームメッキの銀枠飾り環も当方にて「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り連動ピンの長さの関係からマウントアダプタによってはネジ込みの最後のほうで重くなる場合があります(最後までネジ込んで下さい)。
・距離環を回した時に1.2m〜2m辺りで微かに金属音がキーンと聞こえますが、内部の構成パーツがどのように関係しているのか特定できない為改善できません(クレーム対象としません)。
・ピン押し底面の深さ5.8mm以上の場合最小絞り値まで絞り羽根が閉じない事があります。
(例:日本製マウントアダプタなど深さ5.9mm)
当モデルの製品仕様(絞り連動ピン押し込み時の最大深さ5.8mm)の影響なので個体の問題ではありません(クレーム対象としません)。詳細は当方ブログで具体的にマウントアダプタを使い写真掲載、及び検証/解説しています。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑今回初めて判明した「初期生産ロット品 (シンガポール工場製)」であり (S/N:230xxxx)、さらに希少な「濃いグリーン色の光彩を放つコーティング層蒸着モデル」です (1万台を1ロットとして捉えた場合)。

この「濃いグリーン色コーティング層」の蒸着が光学系にどのように影響するのかは諸説ありますが、日本国内のMINOLTAで当時採用され続けていた「緑のロッコール」たる「アクロマチックコーティング (AC) 」と同じような「人の目で見た自然な発色性の追求 (当時ミノルタカタログに記載)」だとすれば、自然な写りの追求よりも解像度を追求したマルチコーティング化の次代への移り変わりとも合致します (当時のRolleiは後にRollei-HFTでマルチコーティング化)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

  ●               ● 

↑上の写真はこのモデルのマウント面を横方向から撮影しています。するとマウント面のネジ山部分が「5.4mm」なので「絞り連動ピン」を正しく最後まで押し込もうと考えると、今ドキのマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) に装着する場合、その「ピン押し底面の深さが問題になる」と言えます。

何故なら、一般的なM42マウントのオールドレンズで「絞り連動ピン」を有するモデルの場合、その突出量は「約3.2〜3.6mm」くらいが多いので、このモデルの「最大約2.8mm」は明らかに突出量が少ないと言えます (グリーンの数値)。

一方、オレンジ色矢印部分のサイズは「絞り連動ピン」が最後まで押し込まれた状態の時のマウント面からの寸法です。ほぼ「5.7〜5.8mm」なので、ピン押し底面タイプのマウントアダプタに装着した時、その「ピン押し底面の深さ」が深すぎると絞り連動ピンが最後まで押し込まれていない事になるので、それが原因で「絞り羽根開閉異常」に陥ります。

この話はフィルムカメラに装着して使うなら関係なくなります。何故ならフィルムカメラの場合は「絞り連動ピン押し込み板に適度なクッション性が用意されている」からであり、且つシャッターボタン押し込み時にしか「絞り連動ピンを押し込まない (つまり常時押し込まない)」からです。

この点が今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼とフィルムカメラとでは根本的に「絞り連動ピン押し込みの概念が異なる」のですが、頑なに「同じM42マウント規格なら同じハズ」と言い切る方がいらっしゃいます(笑)

そもそも今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼用に用意されているマウントアダプタは、単に異なるマウント種別の規格を簡易的に適合させているだけにすぎず、且つマウントアダプタの製産メーカーがオールドレンズ側マウント規格の何を重視して設計したのかが不明確なままです (つまり業界で仕様が統一されているワケではない)。

↑ここからはM42マウントアダプタに装着した時の「絞り羽根開閉異常」について具体的に検証していきます。まずは日本製Rayqual製 M42 – SαE マウントアダプタです。

マウントネジ部のさらに奥にM42マウントのオールドレンズマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」を強制的にネジ込みの際に押し込んでしまう「ピン押し底面」が備わっているマウントアダプタです (内側に棚のように迫り出している部分/赤色矢印)。

その深さ「5.9mm」になります (オレンジ色矢印)。

↑前述の解説のとおり、このオールドレンズの絞り連動ピン突出は「2.8mm」であり、それを含んでもネジ部の深さは「5.8mm」なので「必然的に0.1mmたらずに絞り連動ピンが最後まで押し込まれていない」事に至ります。

ここがポイントです (オールドレンズ側の設計上の仕様なので仕方ない)。

すると上の写真のようにちゃんと最後まで問題なく (ネジ込みの際に硬くなったりせず普通に) ネジ込め、且つマウント面に隙間も空きません (赤色矢印)。もちろんちゃんと指標値位置が真上にピタリと適合しています (マウント面に約1mmの隙間が空くのは製品仕様ですがネジ込みはちゃんと最後までネジ込みが終わっています/一部オールドレンズの開放測光用の爪などを避ける目的の仕様)。

このマウントアダプタ製品全高はフランジバック上で「27.51mm」なので (グリーンのラインのサイズ)、それに合わせて無限遠位置をオールドレンズの工程として内部で微調整済です。

この時、絞り環を回して最小絞り値「f16」まで絞り羽根を閉じていくと、左写真のとおり「f8」で閉じるのをやめてしまい「f11f16まで閉じない絞り羽根開閉異常」に陥ります。

このような話を具体的に案内せず、平気でヤフオク! などでに出品される事が多いのが現実です。
(日本製マウントアダプタを貶すのが目的ではありません)

↑次は中国製K&F CONCEPT製 M42-NEX マウントアダプタです。このマウントアダプタは「新旧2つの商品が告知されないまま現在市場流通している」状態なので注意が必要です (販売側が一切告知しないまま公然と仕様の異なる製品を販売し続けている状況)。

それにも関わらず、たいていの販売サイドは「オールドレンズ使用に係る不具合/相性問題での返品は不可」としており、知らずに手に入れた場合の不具合に関して泣き寝入り状態です (まず返品を受け付けません)。すると悔しいので、今度はオーバーホール/修理した当方の整備が悪いと因縁付けてくる始末です(笑)

それで当方も何度もイヤな思いをしているので事前にこのようにブログで告知しています。

↑上の写真は実際に当方所有マウントアダプタで「新旧の相違点」を解説していますが、例えばアマゾンで注文する際に掲載している写真は全て「旧型品」なのに実際に届くのは「新型品」だったりします。

上の写真で説明すると「旧型の製品全高27.41mm」ですから、こちらの旧型品ならM42マウントの規格上フランジバック計算からは範囲内に入り「0.05mmのオーバーインフ状態」であり、ちゃんと無限遠合焦してくれます (規格上の製品全高27.46mmから0.05mm分短いサイズだから)。

新型は「製品全高27.51mm」で前述の日本製Rayqualモデルと同一の仕様です。
(つまり極僅かにアンダーインフ状態の設計)

上の写真で赤色矢印の箇所のサイズが (切削が) 新旧の違いで異なっている事が並べると一目瞭然です。またグリーンの矢印箇所の突出有無にも相違があり、新型品は例えばFUJICA製「FUJINONシリーズ」などの「開放測光用の爪」を除けてくれる有難い突出です (他マミヤ光機のmamiya/sekorシリーズの突出ピンも避けられる)。

これらの検証から、この中国製のK&F CONCEPT製は日本製Rayqual製の製品仕様をそっくり真似て改良を加えた事がどうやら見えてきます(笑)

ネジ込んだオールドレンズの指標値位置を微調整できるよう側面にヘックスネジ (3本) が用意されていますし、ピン押し底面の微調整まで可能で、さらに一部M42マウントの爪などの突出も除けてくれる大変良くできたマウントアダプタではないでしょうか (だからこそ残るはフランジバックの問題だけ)。

その意味で当方のオーバーホールは「オーバーインフ状態に内部を調整する必要性が非常に高い状況」であると言えます。正直なところ「不可抗力」的なニュアンスとして受け取っているので、何も好きこのんでオーバーインフ状態に調整しているワケではありません

もちろん日本製マウントアダプタを決して貶しているワケではありませんし、中国製を勧めているワケでもありません。純粋にM42マウントのオールドレンズをマウントアダプタ装着する際の参考にして頂ければとの思いだけなので、SNSなどでの批判はちゃんと真摯に受け止めますから、どうか誹謗中傷などのメール送信だけは切に切にご勘弁下さいませ 。

やはりネジ部の内側奥に「ピン押し底面」が用意されていて (赤色矢印)、その深さ「5.9mm」でRayqual製と全く同一です (オレンジ色矢印)。

ところが前述のとおり「ピン押し底面の入れ替えができる」ので今回のオールドレンズに対応できるワケです。「ピン押し底面を平坦側」にセットする事で正常に絞り羽根開閉できます。

↑実際に今回の出品個体をネジ込んでみました (既にピン押し底面を平坦側にセット済です)。するとマウント面に「約1mmの隙間」が空くのはRayqual製と同一で (赤色矢印)、且つ製品全高まで「27.51mm」と完璧に製品仕様を真似ているのが分かります。

すると今回の出品個体をネジ込んでいくと「ピン押し底面を平坦側にセット済なのでネジ込みの最後のほうで硬くなる」現象が発生します。これは「絞り連動ピンが最後までちゃんと押し込まれている証」なのですが、ネジ込みの際は都度硬めです (事前告知済なのでクレーム対象としません)。

実際に今回の出品個体を装着した状態で最小絞り値まで絞り環を回して絞り羽根を閉じた状態です (左写真)。ちゃんと「f16」まで順に正しく開閉しています。

これがまさに「ピン押し底面の平坦/凹み入れ替え可能」な要素の最大のメリットです。このようなマウントアダプタが他にありません。

↑マウントアダプタの側面には「ヘックスネジ (六角ネジ)」が均等配置で3箇所締め付けられており、それを緩める事でネジ部とピン押し底面を取り出せます。

↑実際にヘックスネジを3箇所均等に緩めて取り出した写真です。ピン押し底面を平坦側にして再びマウントアダプタにセットし、ネジ部を締め付け固定すれば良いだけなので簡単です。

↑こちらは「0.5mm凹んでいる側のピン押し底面 (赤色矢印)」を撮影しました。このようにM42マウントのオールドレンズでマウント面に「絞り連動ピン」が存在する時「絞り羽根の開閉異常」が発生したら対応できる大変有難いマウントアダプタです (新旧マウントアダプタ両方でピン押し底面の平坦/凹み側入れ替えが可能)。

逆に言えば、このK&F CONCEPT製マウントアダプタは「新旧でフランジバックが異なる」問題だけがデメリットですが、それは日本製Rayqual製マウントアダプタでも同じ話です。


上の写真 (7枚) は、実際に今回の出品個体を中国製K&F CONCEPT製マウントアダプタ (新型のほう) にセットして、絞り環を回して絞り羽根を閉じていった時の各絞り値を撮影しています。当方の話がウソを書いているとSNSで拡散している人が居るので、仕方なく証拠として撮影し掲載しました(笑)

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮影しました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。