◎ carena (カリーナ) carenar 55mm/f1.8《ペトリカメラ製OEM》(M42)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツの
PHOTO PORST製標準レンズからcarenaブランドで
『carenar 55mm/f1.8《ペトリカメラ製OEM》(M42)』です。
今回の扱いが累計で3本目になりますが、某有名ショップの解説サイトで「carenaはアメリカのブランド」と解説されてしまったので、それが拡散しネット上の解説やヤフオク! 出品ではアメリカの製品と案内されています。
しかしそれは誤りで正しくは旧西ドイツのPHOTO PORSTと言う通販専門商社の最後期に登場したブランド銘です。
このモデルは鏡胴に「Lens Made in Japan」刻印があるので日本製ですが、その原型モデルはペトリカメラ製標準レンズ「C.C Auto Petri 55mm/f1.8《後期型》(M42)」になります。
外観は如何にもプラスティック製みたいなチープ感漂う意匠ですが、実はエンジニアリング・プラスティック製パーツは極一部A/M切替スイッチだけで、その他はちゃんと金属製で作られています。距離指標値/絞り値は印刷したアルミテープが貼り付けられているので、それが余計にチープ感を強調してしまいます(笑) しかし距離環/絞り環ともにローレット (滑り止め) 部分はラバー製ですから (一見するとプラスティック成形に見える) この当時の一般的なオールドレンズ同様ちゃんとした造りです(笑)
今回このモデルを扱った理由は、その汚名挽回ではなくて(笑)「描写性」に惹かれているからです。今にして考えると、当時のペトリカメラ製オールドレンズの描写能力には相当なポテンシャルが秘められていると (いつもながら) 感心しているからです。
今回のモデル、及びペトリカメラ製原型モデルともに、実は内部構造に「トラップ」が2つ隠されており、ハッキリ言って相当「原理原則」を熟知している人でない限り無事に完全解体できません (一般的な解体手順を踏むと間違いなく壊れて製品寿命に至る)。その意味で、このモデルをオーバーホール済で市場に流している機会を見ることは非常に希だと言わざるを得ません (単にヘリコイドグリースの入れ替えだけでも大変)。そこでよく見かける整備は、ヘリコイド (オスメス) の解体方法が分からないので、ネジ山の隙間からグリースを押し込んでいく手法を執っていることが多いですね (今回の個体も同じ手法)。
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「PORST (ポルスト)」はレンズやフィルムカメラなど光学製品に対するブランド銘で、会社は1919年にHanns Porst (ハンス・ポルスト) 氏によって旧ドイツのバイエルン州ニュルンベルク市で創業した「PHOTO PORST」になり光学製品専門の通信販売会社です。
PORSTは旧東ドイツの会社だとよく間違われますが、そもそもバイエルン州は東西ドイツ分断時期に於いてアメリカ統治領だったので旧西ドイツになり、別に存在する「Porst市」とは違います。
ブランド銘としては当初1930年〜1950年代にかけては、自身の名前の頭文字を採って「HAPO」ブランドを展開していました。
その後「PORST」になりますが、自社での開発や製造を一切せずにすべての商品を光学メーカーのOEM供給に頼っていた通販専門商社になります(carenaは最後期に登場したブランド銘)。
(左写真は1960年当時の500世帯分の従業員社宅も含めた本社屋)
大戦により社屋も含め全て破壊されましたが、幸運なことに13万人もの顧客台帳が焼け跡から回収でき、それを基に戦後PORSTの再建をします。1960年には長男のHannsheinz Porst氏に会社を譲渡し最盛期を迎えます。
この時に今回出品個体のブランド銘「carena (カリーナ)」が商標登録されています (carenaはHanns Porst氏の末娘の名前/会計事務所を創設)。しかしHannsheinz Porst氏は1964年に脱税容疑で逮捕され1,860万円の追徴課税と共に罰金490万円を払い釈放されました。さらに1968年にはスパイ容疑をかけられ有罪になり実刑となりました。2年9カ月服役し釈放されましたが既に会社の勢いは失せており、1978年に社長を退任します。その後従業員の為に用意した500世帯分の社宅も含め、1981年から会社の売却を試みますが失敗します (翌年1982年に社長復帰)。
なお、carenaブランド銘についてはドイツ語サイトの「こちらのページ」にモデル一覧があるので信憑性が高いです。
1996年にはベルギーの投資会社に買収されますが2002年に倒産しPixelnetを経てRingfotoに商標権が移譲されました。
今回出品するモデルは1978年に発売されたフィルムカメラ「SRH1000/SRH760」セットレンズとして用意された標準レンズの中の一つであり、当時ヨーロッパ圏で数百ページにも及ぶ通販専門誌を発刊していたRingfotoのカメラ関係広告にも載っています (右図)。この広告を見る限りRingfotoのお勧めセットのような謳い文句が並んでいるので (PHOTO PORST銘が一切出ていない) だいぶ後に発刊されたカタログのようです。
このフィルムカメラ「SRH1000/SRH760」の原型モデルがペトリカメラが1976年に発売した「FT1000/FT500」になり、すぐ後には「SRH1001」も登場しています。
そしてセットレンズも必然的にペトリカメラ製「C.C Auto Petri 55mm/f1.8《後期型》(M42)」でありOEM供給の原型になります。
ネット上解説などでペトリ製かも知れないと憶測が飛び交っていますが、これでハッキリして心もスッキリだと思います(笑)
なおPHOTO PORSTではすべての製品をOEM供給に頼っていたのでフィルムカメラやオールドレンズはペトリカメラだけではなく非常に多くの光学メーカーが関わっていますし、一部には韓国製のオールドレンズや中国製のフィルムカメラなども存在します。また今回モデルのブランド銘「carena」も商品によってOEM供給元光学メーカーはバラバラです (商品が違えば製産元も全く別)。その意味で「作りきり」のOEM品を自社ブランドで調達していたのではないかと推測しています。
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上の写真はFlickriverで、このモデルの実写が少ないので原型となったペトリカメラ製の特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系がダブルガウス型構成でシャボン玉ボケが苦手なハズなのですが意外にも真円で綺麗なシャボン玉ボケの表出ができており感心です。右端写真のように収差の影響を受けた円形ボケをバックにすることで「絵画風」なオモシロイ写真も撮れます。
◉ 二段目
残存収差の影響からまるで二線ボケのように滲んだり (実際は二線ボケではない) しますが、ピント面は鋭く基本的に繊細で細目なエッジです。
◉ 三段目
これも意外でしたが、ダイナミックレンジが相応に広めなので暗部も黒潰れせずに (明部は白飛びせずに) 頑張ってちゃんと解像させてくれます。ライトト〜ンなシ〜ンでもご覧のようにノッペリした写りに堕ちずたいしたものです。
◉ 四段目
被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に優れ、且つ前述のダイナミックレンジの広さが功を奏し左端写真のような「空気感/距離感」を漂わすリアルな写真が撮れます。また夜景写真を見てもコマ収差の影響を上手く逃げられるようでステキですね。
光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成です。初代の同一マウント種M42の標準レンズ「C.C. Petri Orikkor 50mm/f2 (M42)」が4群7枚の変形ダブルガウス型構成でしたが、そこから簡素化されていることが分かります。
また右の構成図は原型モデルペトリカメラ製標準レンズ「C.C Auto Petri 55mm/f1.8 (M42)」の構成図ですが全く同一です。
いずれもバラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性は低いですから、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「正」です (つまり当方のトレース図は参考程度の価値もありません)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
せっかくオーバーホールのためにバラすのだから、その機会に光学系の各群を計測しているに過ぎません。決してウソを掲載しているワケではないのですが、ネット上に掲載されている 大多数の光学系構成図と違うと嫌がらせや誹謗中傷メールを送信してくることはおやめ下さいませ (心が折れそうになります)。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ここからのオーバーホール工程解説では、当方の案内がウソだと仰る方が居るので(笑)、原型モデルとの比較を交えながら解説していきます。
原型モデルとは内部構造はほぼ同一なので構成パーツも同じです (一部設計が違う箇所あり)。
左写真は以前オーバーホールした原型モデル、ペトリカメラ製「C.C Auto Petri 55mm/f1.8 (M42)」から解体全景写真を転載しています。内部構造や構成パーツが非常に近似していることが分かると思います。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が別に存在するので独立しています。
同様、左写真は原型モデルの鏡筒を転載しました。開口部の位置やサイズなど実測していないので分かりませんが、おそらく全く同一だと考えられます (光学系のサイズ/カタチが全く同一なので)。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
原型モデルも同じ絞り羽根を使っており、且つ駆動方向も左回りで同一です。
↑この状態で完成した鏡筒をひっくり返して後玉側方向から撮影しました。上の写真「制御環」がエンジニアリング・プラスティック製のパーツなので、当初バラす際に普通のオールドレンズと同じ方法で解体しようとするとアッと言う間に「連係アームの根元部分」が折れます。
「制御環」に用意されている「なだらかなカーブ」に「カム」が突き当たることで、設定した絞り値に絞り羽根の開閉角度が決まる仕組みです。「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側で、勾配 (坂) を登りつめた頂上が開放側です (グリーンの矢印)。
また「開閉アーム」が鏡筒から飛び出てきており、操作されることで絞り羽根が開閉動作しています (ブルーの矢印)。
左写真は同様、原型モデルからの転載ですが、全く同一の設計なのが分かると思います。
左写真の原型モデルでは黒色鏡胴ではなくシルバーとブラックのツートーンタイプなので、基台は梨地シルバーな仕上がりが施されています。
↑アルミ合金材のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
全く同一の設計で、ヘリコイド (メス側) の肉厚まで同じではないかと考えています (実際に計測はしていない)。
ペトリカメラ製オールドレンズの多くに見られる特徴ですが、軟らかいアルミ合金材を使っていながら非常に肉厚の薄い設計を採ってしまったので、製産時点で塗布されているオリジナルな純正の「黄褐色系グリース」が経年劣化進行により「粘性を帯びてきた状態」の時、ムリなチカラで距離環を回そうとすると粘性を帯びたグリースが抵抗/負荷/摩擦となって「アルミ合金材の膨張」を促すことになり、結果的に切削されているネジ山が摩耗して (つまり撓ってしまうから) 重いトルクに陥ったり酷いトルクムラを起こします。
↑同じくアルミ合金材のヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で17箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
すると原型モデルでも全く同一のヘリコイド (オス側) なので、やはりアルミ合金材を使ってしまいました。
初代のM42マウントモデル「Orikkor 50mm」では真鍮製のヘリコイド (オス側) を採用していたので、まだ良かったのですが、ヘリコイド (オスメス) 共にアルミ合金材にしてしまった為にグリースの経年劣化に伴うトルクムラの発生は、その因果関係がより神経質になってしまったと言わざるを得ません。
するとここで一つ言えることがあり、過去メンテナンスが施されていた場合、ヘリコイドグリースに「白色系グリース」が塗られているとまず間違いなく数年で「濃いグレー状」にグリースが変質し、それは結果的にヘリコイドのネジ山摩耗なのでトルクムラを解消しにくくなる一因になります。
もちろん「白色系グリース」が経年劣化進行で粘性を帯びてくると「黄褐色系グリース」よりも抵抗/負荷/摩擦が増大するので厄介です。
↑前出の写真で「板バネ」が写っていましたが (赤色矢印)、このモデルの絞り環を回した時のクリック感を実現しているのは、鋼球ボールではなくて「板バネ」です。上の写真は絞り環をセットした状態を撮りました。
ここからが原型モデルとの設計の相違部分になってきますが、絞り環の厚みが違っています。
この設計変更をしてきた理由が「観察と考察」で明白になりますが、距離環の距離指標値と共に絞り環の絞り値まで「アルミ板に印刷」することでコストダウンさせるのが目的です。さらに構造を合理化させてより工程数を減らしていたのが分かります。
↑絞り環を組み込んだ後に後玉側方向から内部を撮影しました。ほとんど鏡筒との間にスペースが用意されていないので、ムリなチカラで解体しようとすると前述のとおりエンジニアリング・プラスティック製の「制御環」に用意されている「連係アームの根元」がアッと言う間に折れます。
↑ここまでの構成パーツの中でエンジニアリング・プラスティック製だったのは唯一前述の「制御環」だけなのですが、ここで外からも見えるパーツとして「A/M切替スイッチ環」がエンジニアリング・プラスティック製で用意されています (逆に言えばそれ以外全て金属製)。
↑こちらはマウント部の裏側を撮っていますが、既に構成パーツを取り外しています。
原型モデルでもここからはまた同じ設計に戻ります。違いと言えば、原型モデルでは無地のメッキ加工でしたが、今回のモデルはマットな「梨地仕上げ」が表裏で施されています。
「梨地仕上げ」は微細な凹凸を表層面に附加させるメッキ加工ですが、経年使用で揮発した油成分が移動することを防ぐ目的で処置されています。するとこのマウント部内部の構成パーツに揮発油成分が附着して、最終的に酸化/腐食/錆びが生じることを防いだ (考慮した) 設計を採っていたことが分かりますが、たいていの過去メンテナンス時にここにもグリースを塗ったくっています(笑)
設計の意図が台無しと言うことですね・・(笑)
↑取り外していた構成パーツも個別に当方による「磨き研磨」を施して、表層面に生じてしまった経年の酸化/腐食/錆びを除去し組み付けます。もちろん今回のオーバーホールではこのマウント部内部に一切グリースの類を塗布しません (将来的な酸化/腐食/錆びを防ぐ目的)。
原型モデルも全く同一の機構になりますが、マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①)「その押し込まれた量の分だけチカラが伝達」されます。ここがポイントになります。
チカラが伝達されると「捻りバネ」の反発力を利用して絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけ「操作アーム」が移動します (②)。
従って、このモデルで「絞り羽根開閉異常」の一つの因果関係を作っている要素が、この「絞り連動ピン機構部」の動き方 (概念) なのですが、意外とこの部分に思い至らない方々が多く、特に今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着した時の不具合で問題になってきます。
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑あまり高級感を感じない無骨なデザインのモデルですが(笑)、ペトリカメラ製標準レンズ「C.C Auto Petri 55mm/f1.8 (M42)」が原型となるOEMモデルです。
この「carena」ブランド自体が旧西ドイツの「PHOTO PORST」向け輸出品ですから、日本国内では販売されていなかったと思っていたのですが、つい最近日本語の取扱説明書を発見してしまいました。
つまり国内でも販売されていたことになります。
説明書にはちゃんと「カリーナ」とブランド銘が印刷されており、市場で一般的に「カレナ」と表記されていることが多いですが、当方の考察が正しかったことになります。
必然的にモデル銘も「carenar/カリーナー」ではないかと推測しています。モデル銘やブランド銘を考える時のポイントは、今回のモデルで言えばそれがドイツ製品である点です。つまりドイツ語で命名されたのだとすればその発音も自ずとドイツ語であるハズなので、輸出先である英語圏での発音が一般化したのかどうかを考える必要があると思います (何でもかんでも英語にするとモデル銘などが違ったまま伝承されてしまう)。
例えば、日本人に非常に多い例としてモデル銘の最後に「ール」と「ル」を附加させて表記してしまう場合です。今回のモデル銘も実はネットを見ていると「カレナール」としている事があります(笑) 確かに世界にはそのような発音をするポルトガル語圏やロシア語圏などがあると思いますが、はたしてその発音が生産国で通用する発音なのかが疑問です(笑)
如何にもそれらしく聞こえてしまうので流行りそうですが(笑)、実はちゃんとOEM依頼元のPHOTO PORSTは「カリーナ」と念押ししていたのだと思います。おそらく当時のOEM元ペトリカメラでも一番最初はカレナと発音していた事は想像に難くありません(笑)。
もっと言えば、逆に英語圏で作られたコトバとして「bokeh」がありますが、これは日本語の「ボケ」が近年英語辞書に登録されたまさに英製和語のようなイメージです。「ボケ味」などもちゃんと英語圏では「bokeh-aji」などと表記されます。するとどうして「boke (ボケ)」と辞書登録しなかったのかなのですが (日本人のローマ字的な読み方)、当の外国人が「boke」を発音すると「ボーク」になってしまう事から発案者自らが「日本語の発音に最も近いhを語尾に附随させた」と指摘しています (それでもボゥケィと発音しているように聞こえますが)(笑)。 しかしここにはちゃんと現地人の発音にリスペクトしている考え方が読み取れるワケでさすがだと感心してしまいます。
たかがモデル銘の発音ですが、オールドレンズはこうやって考察する愉しみもあったりしますね(笑)
↑光学系内の透明度が驚異的に高くLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑後群側も透明度が非常に高く、LED光照射でも極薄いクモリが皆無です。後玉表面外周附近にLED光照射で凝視すれば何とか視認できるレベルの非常に薄い汚れが少しだけ残っています。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:14点、目立つ点キズ:11点
後群内:18点、目立つ点キズ:15点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・後玉表面外周附近に非常に微かなコーティング層の汚れ状が凝視すればLED光照射でようやく見えますが写真には一切影響ありません。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環やA/M切替スイッチ共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は少々歪なカタチで閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります(特に3m〜∞辺りで擦れ感を強く感じます)。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り連動ピンの長さの関係からマウントアダプタによってはネジ込みの最後のほうで重くなる場合があります(最後までネジ込んで下さい)。
・ピン押し底面深さが適合しないマウントアダプタ装着時は最小絞り値まで閉じきりません。
(例:日本製マウントアダプタなど深さ5.9mm)
当モデルの製品仕様の影響なので個体の問題ではありません(クレーム対象としません)。詳細は当方ブログで具体的にマウントアダプタを使い写真掲載、及び検証/解説しています。
・ヘリコイド (メス側) 設計上の仕様から距離環を急いで回そうとしたり強く保持するとトルクがさらに重くなります(クレーム対象としません)。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑原型モデルのペトリカメラ製標準レンズも同じですが、このモデルで距離環を回すトルク感が軽めだった個体は今までに1本もありません。おそらく純正ヘリコイドグリースに頼った設計概念でヘリコイド (オスメス) が設計されているようなので (それでメス側の肉厚が極端に薄い)、経年劣化が進行してヘリコイドグリースに粘性を帯びてくると、トルクムラの一因になります。
もちろん過去メンテナンスされていたとしても「白色系グリース」が塗られていれば何も意味がありません (実際今回の個体も濃いグレー状になって粘性を帯びていた)。
その意味でこのモデルで軽い操作性で距離環を回すことができる個体はそれほど多くありません。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
ネット上ではチープなモデルと揶揄されていますが(笑)、左写真の赤色矢印部分のパーツは歴とした「金属製パーツ」です。またデザインの問題もありますがローレット (滑り止め) 部分もプラスティック製一体成形ではなくちゃんとした「ラバー製」です (グリーンの矢印/極僅かに弾性がある)。
筐体外装の仕上げは、鏡胴のほとんどが「梨地仕上げ」を占めているにも拘わらず、フィルター枠部分だけが「ブライドブラック仕上げ」なのがなんとも憎らしいです(笑)
今回の出品個体には純正の樹脂製被せ式前キャップと汎用樹脂製ネジ込み式後キャップが附属します。
なお、絞り環の「プリント絞り値」が極僅かにズレているのでクリック感の位置と厳密に一致していませんが、微調整できないので改善できません。
どうしても気になって仕方ないので、ローレット (滑り止め) を全て剥がしアルミ板も剥がして再接着しました。現状問題なくクリック感と絞り値とが合致していますが最小絞り値「f16」だけ「6」の数字に掛かっている程度です (やはり印刷がズレていると思います)。
↑マウント部は光学系後群の突出がご覧のように「3.87mm」あるので、一部のフィルムカメラやデジカメ一眼では「ミラー干渉」に留意する必要があります。またマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の長さが「3.9mm」もあるので、それも今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する際に「マウントアダプタとの相性問題」が発生する一因になっています。
当方がこのように言うと「自分の整備が上手く仕上がらなかった言い訳を言っている」と一部SNSで悪評が拡散していますが(笑)、決して言い訳でもウソでもなく現実的に不具合が発生するので、以下解説していきたいと思います。
ちなみに、以下解説ではワザとA/M切替スイッチを「自動 (A)」にセットして検証しますが、本来A/M切替スイッチを装備したオールドレンズなら「手動 (M)」に設定すれば何ら問題無く使えます。それを敢えて「自動 (A)」に設定する理由は、それによって絞り羽根の開閉に異常を来すマウントアダプタの具体的な原因が判明するからです。
つまり仮にA/M切替スイッチを装備していないオールドレンズの場合のシミュレーションができると言う意味も含め検証しています。
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↑今回、デジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する場合を想定して、3種類のマウントアダプタを用意し検証していきます。
これは各マウントアダプタの精度など良し悪しを指摘している話ではなく、あくまでも現実的に今回のモデルを装着した時にどのような問題点が生じるのかを公正に解説しているだけに過ぎません。従ってこの掲載についていやがらせや誹謗中傷をメールしてくることはおやめ下さいませ。
用意したマウントアダプタ3種類は以下になります。
① 日本製:Rayqual製 M42-SαEマウントアダプタ
② 中国製:K&F CONCEPT製 M42-NEXマウントアダプタ
③ 中国製:ノーブランド M42-NEXマウントアダプタ
当方では全部で12種類のM42マウントアダプタを所有していますが、その中から代表的なタイプを選択した次第です。特に③のブランド不明なマウントアダプタは、ヤフオク! でも整備済オールドレンズによくサービス品として附属されている1,000円以下で手に入る「汎用品」になります。
このモデルには指標値側の反対に「A/M切替スイッチ」が備わっているので、マウントアダプタに装着した際「手動 (M)」にセットして頂ければ、問題無く正常に絞り羽根が設定絞り値で開閉します。
しかし「自動 (A)」にセットすると設定絞り値によって正しく絞り羽根が閉じません。
↑まずは① 日本製:Rayqual製マウントアダプタです。グリーンの矢印で指し示したサイズは当方が「製品全高」と呼んでいる、カメラボデイマウント面から飛び出るサイズです (つまりフランジバックを決定づけているサイズ)。
すると「製品全高:27.51mm」になります (当方がデジタルノギスを使って手計測した平均値なので信憑性は低いです)。またオールドレンズ側のマウント面には「約1mm強の突出」が用意されています (赤色矢印)。
マウントアダプタのネジ部内側には深い位置に棚のように迫り出している面が用意されており「ピン押し底面」と呼んでいます。
これはM42マウントでマウント面に「絞り連動ピン」を有するオールドレンズをネジ込んでいった時に「強制的にネジ込みと同時に絞り連動ピンを最後まで押し込みきってしまう目的」で備わっています。
左写真赤色矢印位置に「ピン押し底面」があり、深さ「5.9mm」です (オレンジ色ライン)。
↑こちらは② 中国製:K&F CONCEPT製 マウントアダプタです。同様オールドレンズ側マウント面に「約1mm強の突出」が用意されています (赤色矢印)。「製品全高:27.51mm」で日本製Rayqualと全く同一仕様です。
「ピン押し底面」がやはり用意されていて、その深さ「5.9mm」も同一です (赤色矢印)。
この事から② 中国製:K&F CONCEPT製 マウントアダプタは① 日本製:Rayqual製マウントアダプタをそっくりそのまま真似て設計した事が覗えます。
↑③ 中国製:ノーブランド のマウントアダプタです。この製品はオールドレンズ側マウント面に突出が備わっていない一般的なM42マウントアダプタです。「製品全高:27.51mm」で不思議とまた同一仕様です(笑)
ところが「ピン押し底面 (赤色矢印)」の深さが極僅かに異なり「6.0mm」です。
これら3つのマウントアダプタを見ていくと、① 日本製:Rayqual製とこの③ 中国製:ノーブランド の2つが「ピン押し底面がネジ部と一体で切削されている仕様」なのが分かります。
一方② 中国製:K&F CONCEPT製 だけは「ピン押し底面が独立」と言えます。この違いが実は様々なオールドレンズを使う上で大きな問題になってきます。
↑実際に今回の出品個体をそれぞれのマウントアダプタにネジ込んでみます (上の写真は① 日本製:Rayqual製にネジ込んだ写真)。
赤色矢印の箇所には「約1mmの突出」があるのでご覧のように隙間が空きますが、ちゃんと最後までネジ込めています (グリーンのラインは製品全高を現します)。
この状態で絞り環を回して最小絞り値まで絞り羽根を閉じていくと、左写真のように「f5.6」で絞り羽根は閉じるのをやめてしまいます。つまり「f8〜f16」間は左写真の開口部から全く閉じません (変化しません)。
A/Mスイッチの設定を「手動 (M)」に設定すれば問題なく正常の絞り羽根開閉します (自動Aの時限定の絞り羽根開閉異常)。
↑同様② 中国製:K&F CONCEPT製 にネジ込みました。やはり赤色矢印箇所には「約1mmの突出」がある為、ご覧のように隙間が空きますがちゃんと最後までネジ込めています。
同様に最小絞り値まで絞り羽根を閉じていくと、ちゃんと最小絞り値「f16」まで順番に適正な絞り値 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) で閉じていきます。
この時A/Mスイッチの設定は「自動 (A)/手動 (M)」どちらでも正しく絞り羽根が開閉します。↑最後は③ 中国製:ノーブランド です。赤色矢印の箇所には突出が無いマウントアダプタなので、オールドレンズ側の仕様として用意されている隙間だけが空いています。ちゃんと最後までネジ込めたのですが、このマウントアダプタの個体の問題なのか指標値は反対側になってしまいます。
絞り羽根を閉じていくと「f4」の次「f5.6」の時に僅かに絞り羽根が閉じるものの「適正なf5.6まで閉じない」現象が発生します (スイッチをMにセットすれば問題無し)。
これらの検証から「フランジバックに合わせて無限遠位置をオールドレンズ内部で調整しても絞り羽根の開閉異常は別の話」である点が明確になったと思います。
つまりマウントアダプタ側の規格として同じ「M42マウント規格」であるにも拘わらず、このように製品によって仕様がバラバラなのが分かります (もちろんカメラボディ側マウント規格はSONYEマウント規格)。
逆に言えば、オールドレンズ側の「フランジバック調整」なども過去メンテナンス時の作業でイジられていますから、そもそもオールドレンズ側が正しい根拠さえありません。
このように「規格だけで考えられない世界」なのがオールドレンズの世界であり、且つ今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着するために用意されている「マウントアダプタでさえバラバラの仕様」と言えるのではないでしょうか?
ここで、しっかりこのブログをお読み頂いた方は一つの疑問が湧いてきます・・。
「どうして同じピン押し底面の深さ:5.9mmで絞り羽根開閉が違うの?」
そうですね、① 日本製:Rayqual製と② 中国製:K&F CONCEPT製 はピン押し底面の深さが同一の「5.9mm」でした。フランジバックの話が絞り羽根の開閉には一切関わらないとなれば説明ができません。
その違いを解説したのが上の写真です。② 中国製:K&F CONCEPT製 だけは前述のとおり「ピン押し底面が独立している」製品として設計されています。
従って左写真のようにマウントアダプタ側面に均等配置で用意されている「ヘックスネジ (1.3)」を緩める事で「ネジ部/ピン押し底面/本体」の3つに分割できる設計です。
これは例えばオールドレンズをネジ込んだ時に指標値が真上に来ない場合は「ヘックスネジを緩めるだけ」でネジ部の締付固定位置を微調整できます (ちゃんと真上に来るよう調整できる)。
② 中国製:K&F CONCEPT製 マウントアダプタだけが「両面使いのピン押し底面」と言う設計になっているのですが、そんなことは一切K&F CONCEPTホームページにも案内されていません(笑)
上の写真右側の「0.5mmさらに凹んでいる面」を上にしてマウントアダプタにセットしネジ部を締め付けると「ピン押し底面の深さ:5.9mm」にセットされ① 日本製:Rayqual製と同一の仕様になりますが、ピン押し底面をひっくり返して「平坦な面をセット」すれば「ピン押し底面の深さ:5.4mm」になるので、前述のとおり「ちゃんと最小絞り値まで絞り羽根が閉じる」話になります。
つまり装着するオールドレンズによって絞り羽根の開閉を微調整できる大変有難いマウントアダプタなのではないかと考えています。
なお、もっと細かい話をすると、例えば旧西ドイツ製オールドレンズで特にゼブラ柄モデルは「絞り連動ピンの出っ張っている位置がさらに外側」なのでこの② 中国製:K&F CONCEPT
製 マウントアダプタに装着すると絞り連動ピンが干渉して上手く動かない事もあります。
これらの話から「マウントアダプタの過信」はリスクを伴う事をご理解頂けたなのではないでしょうか。
念の為このモデルの絞り羽根が各絞り値でどのように閉じていくのかを以下撮影しました。
フィルムカメラに装着した時は「A/M切替スイッチ」を「手動 (M)」に設定しても「自動 (A)」設定でも同じように各絞り値で正しい開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) でちゃんと閉じていきます。
従って、残念ながらマウントアダプタ装着時に「A/M切替スイッチ」を「自動 (A)」設定にすると絞り羽根が正しく開閉しないことが分かります。この因果関係はマウント面から飛び出ている「絞り連動ピンの長さ」とマウント部内部の「絞り連動ピン機構部」の構造、そしてマウントアダプタ側の「ピン押し底面の深さの相違」が関わっていると考えられるワケです。
デジカメ一眼/ミラーレス一眼などにM42マウントアダプタ経由装着して使うならA/M切替スイッチは「手動 (M)」にセットして使えば何ら問題なくちゃんと使えます。
↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑f値「f11」です。そろそろ「回折現象」が現れ始めているでしょうか。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。