◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Rollei SL-Tele Xenar 135mm/f3.5(QBM)

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今回初めての扱いになります、旧西ドイツはSchneider-Kreuznach製中望遠レンズ『Rollei SL-Tele Xenar 135mm/f3.5 (QBM)』です。

1970年に旧西ドイツの光学メーカーRollei (ローライ) から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「Rolleiflex SL35」が採用したマウント規格が「QBMマウント (Quick Bayonet Mount)」で「爪同士が噛み合う事で固定する方式 (バヨネット方式)」になります。

今回扱うオールドレンズは「Rollei Report」 から1972年に発売され1976年まで製産が続けられたモデルと案内されています。

それを見ると全部で4つのモデルバリエーションに分かれて設計され、最後の4つ目のモデルのみ絞り環が無段階式 (実絞り) 方式に変わっています (今回の個体はクリック感を伴う絞り環操作です)


上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
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※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して単なる円形ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、すぐにアウトフォーカス部が滲んでしまうのかエッジが明確に残らず、どちらかと言うと玉ボケが精一杯なのでしょぅか。収差ボケの影響もそれほどキツくはなくあまり背景に気を遣う必要も無いのかも知れません。

二段目
実写が少ないのですが発色性は多少コントラストが高く出る分Schneider-Kreuznach製オールドレンズとしては珍しくコッテリ系の部類です。背景のボケ具合から特に中望遠レンズとなれば圧縮効果も重なり遠近感や距離感の表現性が高くなります。ところが右側の写真のようにフレアが酷く出ることがあり (今回の実写でも開放からフレアが出ている) 内蔵フードを装備している分、何だかもったいない感じです(笑)

光学系は5群5枚のエルノスター型構成です。特に珍しいワケではありませんが、第4群〜第5群の向きが一般的なエルノスター型と比較すると凹凸が逆向きです。

右図は今回のオーバーホールでバラして光学系の清掃した際に、当方によりデジタルノギスを使って計測したトレース図になります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は基本部分の概念が他の「SLシリーズ」に準拠しますが、組み立て工程の順序をミスると組み上げられない気難しさが加わっています(笑) また他の焦点距離同様「空転ヘリコイド」を内包する為
やはりその部位のトルク微調整について「原理原則」を理解している必要があります。逆に 言えばやみくもにヘリコイドグリースを塗るだけでは「空転ヘリコイド」は滑らかさを発揮しませんし、もっと言えば今回の個体も同様でしたが「白色系グリース」を塗ってしまうと意外にも結果は「重めのトルク感/シャリシャリ感」に至るので、まず以て「黄褐色系グリース」の塗布によりスス〜ッと滑らかに然しヌメヌメッとシットリ感タップリに軽い操作性で微動できるトルクはなかなかクセになります (当方のファンの方々が喜ばれる感触です)(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

中望遠レンズなので鏡筒と言っても実際は「延長筒」なので、むしろ鏡筒自体は1/3の長さしかありません(笑)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑最深部に完成した絞りユニットをセットしたところです。

↑完成した鏡筒 (延長筒含む) を立てて撮影しました。写真上部が前玉側方向になります。すると鏡筒には「開閉アーム」が飛び出ておりブルーの矢印のように動く事で絞り羽根がダイレクトに開閉します (つまり非常にシンプルな構造です)。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑基台の左横に「空転ヘリコイド (ヘリコイド:メス側)」を並べて撮影しました。今回のモデルは材質がアルミ合金材削り出しのアルマイト仕上げなので、ここをどうすれば「空転状態に仕上げられるのか」と言う「原理原則」を知らないとなかなか滑らかな駆動に至りません(泣) 上の写真をご覧頂ければ分かりますが、グリーンの矢印で指し示したとおりヘリコイド (メス側) が噛み合うネジ山が存在しないので間違いなく「空転ヘリコイド」と言う話です(笑)

↑当方はもぅ「原理原則」を熟知しているので簡単に仕上げられ、とても滑らかで気持ちの良いトルク感に到達しています(笑)

↑ここに真鍮 (黄鋼) 製のヘリコイド (オス側) が無限遠位置のアタリをつけた正しいポジションでネジ込まれます。このモデルでは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

すると前述同様アルミ合金材削り出しのアルマイト仕上げに対して真鍮 (黄鋼) 材が接触する状況なので、ここでもやはり「原理原則」を知らないとどの成分のヘリコイドグリースを塗れば良いのかがピ〜ンと来ません(笑)

当方には「黄褐色系グリース」だけでも全部で13種類の成分/基剤の異なるグリースを用意しているので、ほぼたいていのオールドレンズには対応できます。どうしてそれだけの種類が必要なのかと言えば、今回のようにヘリコイド (オスメス) の材が違う場合、或いは「空転ヘリコイド」の場合、ヘリコイドのネジ山の相違、ネジ山の勾配の違い等々、数多くの要素について判断する必要があるからです。

↑上の写真は距離感を最短撮影距離位置まで回して鏡筒を最大限まで繰り出した時の内部の状況を再現して撮っています。するとご覧のとおり「直進キー」と言う板状パーツの先っぽ先端部分に真鍮 (黄鋼) 製ヘリコイド (オス側) が辛うじて引っかかっている状態なので、この状態のまま距離感をムリな操作で回そうとしたら「直進キーが変形する」原理が分かると思います (直進キーはブルーの矢印のようにスライドします)。従って最短撮影距離位置まで繰り出した状態のままぶつけたり落下するとトルクに対して致命的な影響を来します。

↑さらに基台の内側に「開閉レバー環 (リング/輪っか)」をセットしたところです。この環 (リング/輪っか) はブルーの矢印のようにクルクルと回転する動きをします (直進動ではなく回転)。

ところがこのパーツ「開閉レバー環 (リング/輪っか)」はエンジニアリング・プラスティック製なので、抵抗/負荷/摩擦なくスムーズに回転させる為に6個のベアリングを使って駆動させる設計です。

今回の個体は当初バラす前のチェック時点で絞り羽根の動きが緩慢だったので、このベアリング部分も完全解体して清掃した次第です (現状改善しました)。

↑ベアリング+スプリングを組み込んでから絞り環をセットします。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に当方の手により「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。当初バラした直後はここにも過去メンテナンス時に「白色系グリース」が塗られており、経年劣化進行に伴い「濃いグレー状」に変質していました。

↑取り外していた各構成ハーツも「磨き研磨」を施し組み付けます。マウント面から「絞り連動ピン」が飛び出ており、それが撮影の際に押し込まれると (ブルーの矢印①) 押し込まれた量の分だけ右横の「カム」が動きます。「カム」はマウント面から飛び出ている「絞り連動ピンの押し込み動作=直進動」に対して水平方向に変換する役目を持たせています。

さらに「カム」はよ〜く観察すると「ギア」になっており、鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」を操作する際、ギアとラック/ピニオン式で接続される設計です。

↑「カム」とギア部分を噛み合わせ、且つスイッチ部を連係させると同時に絞り連動ピンの動きが伝達されるようマウント部をセットします。従って単に完成したマウント部を被せれば良いのではなく、それぞれの部位を噛み合わせ/連係させつつ組み上げる必要があるので「ある意味難度が高い部類」のオールドレンズとも言えます。実際、マウント部を最後まで締め付けずに (正しく連係していないので締め付け固定できないから) ガチャガチャと僅かに浮いたまま仕上げられている個体があったりしますね(笑)

↑距離感を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。オーバーホール/修理ご依頼内容だった「絞り羽根の動きの問題」或いは「光学系の汚れ/カビ」「僅かに甘めのピント面」等々すべて改善しました。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑光学系後群側も同様極薄いクモリが皆無です。過去メンテナンス時に後群側のガラスレンズが締め付けが緩かった為に僅かな甘めのピント面に至っていたようです。

↑5枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正五角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑前述のとおり非常に滑らかでスムーズに軽い操作性のトルク感で仕上がっており「ヌルヌルのシットリ」です(笑) このモデルには内蔵フードが備わっていますが樹脂製です。

↑当初バラす前のチェック時点で少々ぎこちなかったA/M切替スイッチの動きも確実になり瞬時にシャコンシャコンと絞り羽根の開閉動作がちゃんと切り替わります(笑)

なおマウント部内部で使われているスプリングが既に弱っており、特に「A (自動絞り)」にセットしている時、マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」をゆっくり操作すると「絞り羽根の戻りが緩慢になる」のですが改善できません。仮にフィルムカメラに装着するとしてもシャッターボタン押し下げ時に「絞り連動ピンが押し込まれる勢いにより正常に機能」します。つまりゆっくり押し込んで離すと絞り羽根が緩慢になるワケです。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1.5m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影していますが、絞り環の刻印は「●」の単なるドットです。開放から既にフレアの影響を受けていますが内面反射でしょうか。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮っています。さらにフレアが強い傾向に出てますが、冒頭の実写の通り「f5.6」でも盛大なフレアの影響を受けるようなので (二段目の写真) 設計の問題でしょうか。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」での撮影です。

↑最小絞り値「f22」で撮りました。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。