◎ Made by Rollei Planar 50mm/f1.4 Rollei-HFT《後期型》(QBM)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回完璧なオーバーホールが終わってご案内するオールドレンズは、旧西ドイツRolleiから発売された標準レンズ『Made by Rollei Planar 50mm/f1.4 Rollei-HFT《前期型》(QBM)』
です。

昨日は体調を崩しているなどの言い訳を平然と述べまくったワケですが (本当にスミマセン)、
実は3日掛かりでこのオールドレンズに係りっきりでした。

マウント規格「QBM」は「Quick Bayonet Mount」の略なのですが、基本的にこのマウント規格は「M42マウントをベースにした移行マウント規格」と説明できます。敢えて「移行」と記載したのにはちゃんと理由があり、世界規模で当時既に陳腐化してしまったスクリュー式 (ネジ込み式) マウント規格から、爪が噛み合う事で固定する「Bayonet (バヨネット)」規格 への移行を各光学メーカーが挙って行っていた時期である事を意味します。

従ってこのマウント規格を「バヨネット」として認識してしまうと実は拙い問題があるので、このような解説を試みました。それはバヨネットマウント規格でありながら「マウント面に 絞り連動ピンが居るじゃん!」と言う問題です(笑)

この点についてちゃんと正しく認識できている人が意外にもマニアの中でさえ少ない事に甚だオドロキを隠せませんが(笑)、基本的に「M42マウントの欠点を全て継承してしまったバヨ ネットマウント規格」と表現できます。

つまり一言で簡単に言ってしまえば「ネジ込みが爪に変わっただけ」と受け取って頂けると より正しい認識に至ります。逆に言うなら今回扱う個体が当方では累計で18本目にあたり ますが、その凡そ90%近く16本のオーバーホール/修理ご依頼分が「全て絞り羽根開閉異常の問題改善」だったと言えます。但しその中には一部に「マウントアダプタ側の問題」だった個体も含まれていますが、いずれにしても「絞り連動ピンの押し込み量と絞り羽根開閉制御の問題」なのだと断言できてしまいます。

それゆえに「M42マウントの欠点を継承」したと説明できるワケです。

即ち今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する時「ピン押し底面の深さが深すぎると絞り連動ピンが最後まで押し込まれずに絞り羽根が最小絞り値まで閉じない」と言う不具合/トラブルに見舞われます(泣)

それを閉じさせようと絞り環をガチャガチャとムリにイジッていると、今度は内部の「開閉 アーム」が曲がってしまい、どんどん「製品寿命」へと近づいていく話になるから末恐ろしいと言うワケです(笑)

ならばガチャガチャとムリな操作さえしなければ末長く使用に耐えられると考えるとそれも 違います(笑) 要はこのモデルは「設計 (概念) が拙い」のだと明言できてしまいます。絞り 羽根開閉制御に係る設計概念が拙いからそのようなトラブルが発生するワケで、その意味で このモデルは「宿命」を背負わされてしまったとても可哀想な運命のモデルではないかと
捉えています(涙)

  ●               

1970年に旧西ドイツの光学メーカーRollei (ローライ) から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「Rolleiflex SL35」が採用したマウント規格が「QBMマウント」です。

このフィルムカメラは本来旧西ドイツのZeiss Ikonが扱っていた「ICAREX (イカレックス) シリーズ」の最終モデル「SL706」などの製産を旧西ドイツのバーデン=ヴェルテンベルク州Oberkochen (オーバーコッヘン) の工場で行っていた事から複雑な背景になります。

そもそも旧西ドイツの光学メーカーZeiss Ikonが1971年にフィルムカメラ事業から撤退して しまったので、その時の背景がこの当時のフィルムカメラやオールドレンズとの関わりを難しくしています。

【旧西ドイツZeiss Ikonを取り巻く背景】
1756年:オーストリアのウィーンでVOIGTLÄNDERが創業
1849年:戦前ドイツのブラウンシュヴァイクに本社/工場を移転
1889年:戦前ドイツでCarl Zeissを傘下にしたカールツァイス財団発足
1926年:戦前ドイツのDresdenでZeiss Ikonが発足
1932年:Zeiss Ikonがレンジファインダーカメラ「CONTAX I型」発売

ドイツ敗戦時に旧東西ドイツに分断される

1945年:旧西ドイツのシュトゥットガルトを本拠地としてZeiss Ikonが活動開始
1945年:旧東ドイツのドレスデンを本拠地のままZeiss IkonがCarl Zeiss Jenaに吸収
1956年:旧西ドイツでVOIGTLÄNDERとZeiss Ikonがカルテル提携
1969年:旧西ドイツでZeiss IkonがVOIGTLÄNDERを完全合弁化 (吸収合併)
1971年:旧西ドイツのZeiss Ikonがフィルムカメラ市場から撤退
1972年:旧西ドイツでZeiss Ikonがカメラ事業とVOIGTLÄNDERをRolleiに譲渡
1974年:旧西ドイツのCarl Zeissが日本のヤシカと提携し「CONTAX RTS」発売
1974年:旧西ドイツのRolleiが工場をブラウンシュヴァイクからシンガポール工場に移管
1981年:旧西ドイツのRolleiが倒産
1989年:「ベルリンの壁崩壊」事件勃発
1990年:東西ドイツ再統一によりCarl Zeiss JenaがZeissに吸収される

・・このような感じの年表で捉えると分かり易いかも知れません。

すると上の年表で赤色表記の年代部分が工場との関わりになります。当初は旧西ドイツの
oberkochenにあった製産工場は1969年VOIGTLÄNDERブラウンシュヴァイク工場に 移管されます。その後今度は1974年Rolleiに譲渡された為、後にはシンガポール工場へと 引き継がれていきました。

従って最終的にこれらの光学メーカーから登場していたフィルムカメラ製品やオールドレンズなどはシンガポール工場へと移管されていった話になりますね。

今回扱う個体はバリエーションとしては「後期型」にあたりますが、鏡胴に「Lens made in West Germany」刻印があるので大変貴重なシンガポール工場に移管する直前の (ある意味 最後のヴラウンシュバイク製) とみることができます。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
※Rolleiflex SL35用Carl Zeiss製「Planar 50mm/f1.4」からの展開として掲載しています。

前期型

レンズ銘板刻印:Carl Zeiss銘
生産工場:旧西ドイツCarl Zeissブラウンシュヴァイク工場
コーティング:グリーンアンバー

後期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:パープルアンバー

他にマウント種別が「CONTAX/YASHICAマウント (C/Y)」のモデルとして・・、

ヤシカ製 (富岡光学製)
Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4 T*
光学系構成:6群7枚ウルトロン型
絞り羽根枚数:8枚
コーティング:マルチコーティング
フィルター枠:⌀ 55mm

コシナ製
Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4 ZS T*
光学系構成:6群7枚ウルトロン型
絞り羽根枚数:9枚
コーティング:マルチコーティング
フィルター枠:⌀ 58mm

・・などがありますがコシナ製に関しては興味関心が無いので詳しいことはよく知りません。

  ●               



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して単なる背景ボケへと変わっていく様をピックアップ仕様と探しましたが、残念ながらシャボン玉ボケの実写が見つけられず、リングボケからのスタートになっています。基本的にアウトフォーカス部がすぐに大きく滲み始めるのでピント面との境界/エッジを際立たせる事ができずに二線ボケの傾向や収差ボケの程度も良く言えば「上手く馴染んで溶けてくれる」ようなボケ方の表現性です。

二段目
特に動物毛の表現性については日本製オールドレンズで言えば富岡光学製モデルのようなとてもリアルな毛質感を残してくれますから、ある意味動物好きには堪らないオールドレンズではないでしょぅか。コントラストが相当高く出てくるのですが違和感には至らず自然な表現の中にもちゃんとインパクトを保持してくれる、さすがPlanarと言う写りです。またピント面だけではなく、むしろ背景のボケ方のほうが独特で「遠近感や空気感/距離感を感じる特異な滲み方をする」特徴があるので、右側2枚の写真のような大変現場の雰囲気を留めた写真を残せます。

三段目
左側2枚の写真を見てもダイナミックレンジが相応に広めなのが理解できると思います (明暗部がギリギリまで粘ってくれる)。

光学系は6群7枚の拡張ウルトロン型ですが、Rollei Reportと言うオプション交換レンズ群の仕様書を見ると右図のように掲載されていますが、ハッキリ言って今までの17本の個体にこのカタチの光学系をまだ見た事がありません (右図は諸元書からのトレース図)。

今回オーバーホールの為に完全解体して光学系を清掃する際に当方の手でデジタルノギスによる計測を基にトレースした構成図が右図になります。同様6群7枚の拡張ウルトロン型構成ですが、ビミョ〜に各群の光学硝子はその外径も厚みも曲率も全て違いました。

左は「Rollei Report」の今回のモデルに関する諸元ですが
ドイツ語なので翻訳すると・・。

General: The specification QBM or For TM connections, please refer to the tables “Differences between the Rollei QBM ovjective bayonets and Voigtlander lens connections”.

Manufacturing locations: Carl Zeiss Germany, licensed construction; OV and Rollei Germany, Rollei Singapore.



1.4 / 50mm – Planar Carl Zeiss, Oberkochen
Super bright normal lens, excellent corrected and razor sharp drawing even with full aperture. Light and compact, distance adjustment up to 45 cm. Universally applicable.

Execution – 7 lenses, 6 left. 46 degrees. 230g. Fiter size E49.
Production – October 1972 to the end of 1993 by Carl Zeiss and license production.
From October 1972 with HFT.

Rollei
PR618 / 1 – Planar PR I QBM working area.
Order No./Price – 979 710 1973: DM 360.-

PR618 / 2 – Planar PR II QBM open aperture.
Order No./Price – 969 110 1975: DM 315.-

PR618 / 3 – Planar PR III QBM open aperture.
Order No./Price – 969 240 1976: DM 293.-

PR618 / 4 – Planar PR IV QBM f-stop.
Order No./Price – 969 230 1993: DM 998.-

PR618 / 5 – Planar PR V TM open aperture.
Order number / price – sold, but no price list found.

Rollei for the former Eastern Bloc
PR618 / 11 – Opton PI PR I QBM working areas.
Order number / price – no listing, price identical / 1

PR618 / 12 – Opton PI PR II QBM aperture.
Order number / price – no listing, price identical / 2

PR618 / 13 – Opton PI PR III QBM aperture.
Order number / price – no listing, price identical / 3

PR618 / 14 – Opton PI PR IV QBM f-stop.
Order no / price – no listing, price is identical / 4

Voigtlander no execution for Voigtlander.
Note – The Planar 1.4 / 50mm PR V TM was offered as a light-stable normal lens in the Voigtlander VSL 1 TM instructions for use.

 

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。前述したとおりシンガポール工場に移管される前の旧西ドイツ「ヴラウンシュバイク工場」製なので、内部構成パーツの一部が異なります。

【当初バラす前のチェック内容】
 冬になると絞り羽根が開閉しなくなると言うご依頼内容。
しかし既に絞り羽根が固着していて出てこない (完全開放のまま変化無し)。
 距離環を回すと重めのトルク感でトルクムラがある。
 無限遠位置は相当なオーバーインフ量の設定。
マウント面絞り連動ピンが時々引っかかる。
絞り環操作が重い (擦れ感あり)。
ピント面が極僅かに甘い印象。

【バラした後に確認できた内容】
過去メンテナンス時に白色系グリースを塗布。
経年劣化進行により「濃いグレー状」に変質。
ヘリコイドのネジ込み位置が違う。
一部構成パーツに後期型のパーツが混じっている。
各部位の微調整がデタラメ。

・・とまぁ〜こんな感じです。紛れもない「Lens made in West Germany」であり内部の構造と使用構成パーツには「前期型」からの継承を見てとれるハズなのですが「そのパーツが無い!」と言う状況です(泣)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

左の絞り羽根の写真を見ると「キーの周囲が黒っぽく変質している」ワケですが、これは経年に拠るサビなので除去できません。申し訳御座いません・・。

↑上の写真は絞りユニット内部で使う「開閉環」と言う絞り羽根を開閉する際に回る (動いている) 環 (リング/輪っか) です。すると両サイドに「アーム」が突き出ていますが「開閉アーム/制御アーム」共に単に板金をプレッシングしただけで折り曲げた簡素な構造です。

特にグリーンの矢印で指し示した根元の箇所が弱くなるので、冒頭で指摘した「絞り環のムリな操作をし続けると曲がる」場所がまさにこのアームになります。この根元部分が非常に弱いので、垂直を維持していない、或いは斜め状に曲がっていると絞り環操作で設定した絞り値まで (曲がっているから) そもそも動こうとしない (動かせない) 話になり「絞り羽根の開閉異常」に繋がります。

従って例え内部構造に興味が無いとしても、念の為に構造を知っておけば「やってはイケナイ操作 (製品寿命を縮めるから)」が自ずと理解できるのではないでしょうか。

↑こちらは「位置決め環」であり、ここの溝部分に「絞り羽根の位置決めキー」が入るワケですが、溝自体が長めに用意されているので「開閉環の回転に伴い位置決めキーの位置がズレる」設計を執っている事が分かります。むしろ逆に「開閉キー側は単なる穴」なので、これら絞りユニットの構成パーツをセットする際にどのような点に注意するべきかが決まってきます。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを鏡筒最深部にセットします。この時点で「開閉環」が引っ掛かりも無くとてもスムーズに動く事を確認する必要があります。逆に言うと「開閉アーム」を操作する時のスプリングが小さく弱いので「開閉操作時のチカラが小さいから」とも言えます。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して今度は後玉側方向から撮影しました。鏡筒裏側に「開閉アーム/制御アーム」がそれぞれ飛び出てきてブルーの矢印のように動きます (絞り羽根が開閉する)。

従ってこの時点で絞り羽根の開閉に引っかかりなどが生じていないのか必ずチェックします。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) 裏側に制御系パーツを組み付けます。長めのスプリングが「開閉アーム」に接続されて「常に絞り羽根を開こうとするチカラ」が引張力で及ぼしている事が明白です (スプリングのチカラのせいで完全開放している状態)。

従って長さのある薄い板状「開閉アーム」側に「スプリングの引張力が常時架かりっ放し」である事が重要な構造です。逆に言うと絞り環をムリに操作しただけでこの「開閉アーム」が変形する因果関係なのがご理解頂けると思います (ブルーの矢印)。

↑さらに同じ後玉側方向からの撮影で別の場所を撮りました。「制御環」と言う真鍮 (黄銅) 製の環 (リング/輪っか) の一部に用意されている「なだらかなカーブ」の麓部分に「カム」が突き当たると最小絞り値側に絞り羽根が閉じ、勾配 (坂) を登りつめた頂上部分が開放側になります (ブルーの矢印)。

また「制御環」の一部には絞り環との連結をするガイドが用意されており、絞り環操作がダイレクトにこの「制御環」を回している事が分かります。

だからこのモデルに関しては「絞り環をムリに操作してはイケナイ」ワケです (ブルーの矢印)(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリをつけた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルはこのヘリコイド (メス側) をどんどんネジ込んでいくと「最後は基台を貫通して脱落する」要は外れてしまう設計なので、いったいどの位置で停止させれば適切な無限遠位置になるのかが重要なポイントです。

↑同様に完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリをつけた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

やはりこのヘリコイド (オス側) を停止させる場所もヘリコイド (メス側) との兼ね合いが強いですが、無限遠位置が何処なのかを理解していないとどうしようもありませんね(笑)

後のほうで出てきますが、このモデルの距離環は「イモネジ」による締め付け固定です。イモネジを使うので後から無限遠位置に合わせて任意の位置で固定すれば良いと考えている整備者が多いのですが、実はこのモデルは意味不明な設計をしており「距離環の固定位置が1箇所で決まっている」です。

従って何でもかんでもイモネジなら自由に固定できると認識している整備者が非常に多いですが、このモデルに関してはそうではない根拠が後で出てきます(笑)

↑この状態でやはりひっくり返して後玉側方向から撮影しました。鏡筒から「開閉アーム」が飛び出ていますね。一応バラしている時にヘリコイド (オスメス) の当初のネジ込み位置に対して「過去のメンテナンスが正しかったのかどうか」が分かるよう当方でマーキングしています。

逆に言うと当方のオーバーホールでは必ずしも当初の位置 (マーキングした箇所) に合わせて組み上げていません(笑) それは各工程で各部位の微調整を経て最終的に決まる話なので必ずしも正しいとは限らないからです。

こういう要素について「単にバラして組み戻すだけの整備」とは当方の「DOH」は明らかに異なります。ではどうして当初の位置をわざわざマーキングしているのかと言うと「当方が施した微調整との整合性を確認する為」です。当方が施した微調整には当方の「意志/考え」を必ず伴うので (こうあるべきと言う考え) その最終的な位置と当初の位置とのズレを見る事で、どうして最初に不具合が発生していたのか、或いはちゃんと機能していなかったのかなどの因果関係が掴めます。

従ってもしかすると当初マーキングした位置と同じ位置で組み上げるかも知れませんし、全く違う位置で組み上がるかも知れません。その都度違うワケです(笑)

↑絞り環をセットします。ただ単に置いただけで鋼球ボールによるクリック感などはまだありません。

↑上の写真がマウント面から飛び出てくる「絞り連動ピン」と、その押し込み動作に伴い絞りユニットの「開閉アーム」を動かして絞り羽根を開閉させる「操作爪」の機構部を並べて撮影しています。

グリーンのライン部分をマウント面と見たてて解説していますが、ご覧のように「絞り連動ピンの軸部分にはストッパーが備わるのでこれ以上絞り連動ピンを出す事ができない」のが明白です。

どうしてこのような点を指摘するのかと言うと、絞り羽根の開閉異常に関して「絞り連動ピンがちゃんと飛び出ていないから」と指摘されてご依頼される方がいらっしゃるからです。

見ての通りこのモデルの設計では「絞り連動ピンの突出量は固定で可変ではない」事がご理解頂けると思います。すると例えばマウントアダプタ側にある「ピン押し底面の深さの問題」かも知れませんね(笑)

このように当方のオーバーホール「DOH」では必ず全ての因果関係について100%解説できるので、ご依頼者様がどのような疑念を抱かれても逐一ご説明可能です。従って当方の返答の中には「数十年も前の製品なので劣化は仕方ない」と言う非常に曖昧で抽象的な答はありません(笑) 確かに経年劣化が原因なのだとしても「何処のどんな構成パーツがどのように摩耗したのか」ちゃんと解説できるワケです(笑)

上の解説ではマウント面から飛び出る「絞り連動ピン」が左側に位置する「操作爪 (機構部)」に刺さるので (オレンジ色矢印)、絞り連動ピンか押し込まれる (ブルーの矢印①) とその押し込まれた時の量に比例してチカラが伝達される事を示しています。

さらにその伝達されたチカラは「操作爪」の内部に附随する小さなスプリングのチカラを借りて「さらに増幅されて爪の駆動を大きくしている」設計なのが分かります (ブルーの矢印②)。

従ってマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の押し込み量が足りないと「絞り羽根の開閉異常」に繋がるワケですね(笑)

↑こちらはマウント部内部の写真ですが既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮っています。

↑取り外していた各構成パーツも「磨き研磨」を施してセットしていきます。上の写真ではまず「絞り連動ピン」と「操作爪 (機構部)」を組み込みました。絞り連動ピンが押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量に従い爪が左右に首を振ります (ブルーの矢印②)。

↑さらに別の場所に「直進キー」をネジ止めしました。この「直進キー」かせ「逆T字型」のパーツである事を覚えていて下さい。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑後からセットしにくいのでここで先に光学系前後群を清掃して組み込んでしまいます。

↑完成したマウント部をセットして各部位の動きと連携を確認します。

↑実は一つ前の写真 (マウント部をセットした写真) を撮影したのは1日目の話で、上の写真は2日目に既に6時間も作業した後の撮影です(笑)

当初距離環を回した時重めのトルク感で、且つトルクムラも生じていた原因がここの工程解説です。「直進キー」をマウント部の横方向から締付ネジで締め付け固定していますが、このモデルは「Lens made in West Germany」なので「後期型」で採用した「横方向からの直進キー固定方式」を採っているハズがありません!(笑)

↑「直進キー」を締め付け固定する場所は「微調整機能」が備わっているので距離環を回す際のトルク調整ができるよう配慮されています。

ところが上の写真のとおり「鋳造時の凹凸が残っている」為に、締付ネジで締め付ける際に必要以上の反発力が及んでしまい「直進キーが撓る」事が判明しました。

上の写真で赤色矢印で指し示している箇所は「凹んでいる」ので埋める事ができません。つまりこの場所に締付ネジを使う設計ではない事が自明の理です (だから既に擦り減っている)。

↑このモデルの「前期型」では上の写真の解説の通り「爪が被さる場所に直進キーが固定されていた」ワケですから、ちゃんとそのように設計されているのが分かります (赤色矢印)。

↑このモデルに於いて本来使われている「直進キー」と「締付ネジ (2個)」は上の写真のパーツになります。

つまり過去メンテナンス時にこの個体は「後期型」個体から横方向で締め付け固定する「直進キー」を転用してニコイチした個体である事が判明してしまいました(笑) 上の写真は当方にて持っているジャンク品の中から「COLOR-ULTRON 50mm/f1.8」の「直進キー」を仕方ないので持ってきました (同じヴラウンシュバイク製のジャンク品より転用)。

↑こんな感じで「直進キー」が固定されます (赤色矢印)。上の写真を見れば分かりますが「固定位置を微調整できるマチが用意されている」ワケで、これが距離環を回す時のトルクを重くするの否かを決定づけています (つまり塗布するヘリコイドグリースの問題ではない)。

↑ひっくり返して再びマウント部内部を撮影しました。すると「直進キー」が固定されていますが、他に「鋼球ボール+スプリング」が入る穴もあり (赤色矢印) さらにこのマウント部が決まった位置で固定されるべき「ガイドの役目」たる「位置確定溝」なね切り欠きまで備わっています (赤色矢印)。

一方このマウント部には3箇所にマウント部を締め付け固定する締付ネジ用の穴もあります (グリーンの矢印)。

何を言いたいのか???(笑)

このモデルはマウント部をセットする際、以下の要素について完璧に適切な微調整が施されないと固定できない設計なのです。従ってよく出くわすのですが「マウント部を最後まで締め付け固定せずに僅かに浮かせた状態」の個体が意外にも多かったりします(笑)

それはこれら微調整箇所の微調整が適切にちゃんとできていないからであり「原理原則」を理解していない整備者による過去メンテナンスなのだと断言できますね(笑)

【マウント部セット時に完了しているべき微調整】
ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置が適正
絞り羽根の開閉制御の微調整が適正
直進キーとガイドの位置微調整が適正
開閉アームと操作爪の掴み合いが適正
無限遠位置の停止位置が適正
絞り環と制御環との連係が適正
 カムのなだらかなカーブ突き当たり位置が適正
マウント部のセット箇所が1箇所で適合している
(確定位置)

従ってこれら8つの要素についてピタリと合致していて初めてこのマウント部を基台にセットできるワケで、相当な「高難度モデル」なのではないかと当方では受け取っています(笑)

左写真は実は当初バラした時に使われていた「絞り連動ピンの反発力を与えているスプリング」の状態です。

ご覧のように途中からスプリングが崩れてしまい外に伸びているのが分かります。要は本来必要とされるべき反発力が無かった事になりますね。さらに伸びている箇所がマウント部内部で噛んでいたのでその引っかかりのチカラが及んでいた事も分かります (納得できます)。

だから当初バラす前に時々絞り連動ピンが止まっていたワケです(笑)

↑上の写真はマウント部内部の「絞り連動ピンが刺さる穴」を拡大撮影しています。今回この個体の作業をしていて「何だかシックリ来ない気持ち」だったワケですが、散々「観察と考察」をしてようやく気が付きました!(笑)

ご覧のように絞り連動ピンが刺さる穴には「受けの凹みがある」事が分かります。

左写真は同様に当方が持っているジャンク品「COLOR-ULTRON 50mm/f1.8」から転用した真鍮 (黄銅) 製の絞り連動ピン用保持パーツです。このパーツもやはり欠品しており「絞り連動ピンがダイレクトに刺さっているだけだった」為にスプリングがアッチの方向を向いてしまい、且つ経年で使っているうちにスプリングの端がマウント部の隙間に刺さってしまいビョ〜ンと伸びた因果関係まで突きとめられました(笑)

↑こんな感じで絞り連動ピンに刺さって適切な絞り連動ピンの動き方になります (スプリングも当方で代用品を用意)。

↑「直進キー」も正しい位置で固定でき「絞り連動ピン」も適切な軽い操作性でポチポチと動くように戻りました(笑)

↑再び完成したマウント部を基台にセットして各部位の動きと連携をチェックします。ここまでの工程作業が2日目でした(笑)

そしていよいよ3日目。距離環を回した時のスムーズさとトルクの軽さは相当なレベルまでアップしましたが、肝心な絞り羽根の開閉動作がダメです!(泣)

絞り羽根が「f5.6」止まりでそれ以降閉じてくれません。3日目はほとんど一日を費やしてその絞り羽根の開閉動作改善に費やしました。

これで改善すれば最後に無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑本日はこの個体をイジり始めてからついに4日目になりましたが、一応完成です。「一応」と言うのは、どうしても絞り羽根の開閉動作が不安定で確実ではありません。

「f5.6」で停止していたのは調べたところマウント部の例の「絞り連動ピンが刺さる穴」の内側にほんの微かなササクレが経年で削れてしまい生じていました。そこが擦れるので時々止まってしまい「f5.6」から先に閉じなかったようです。穴の内側を研磨して改善しました。

また6枚の絞り羽根はキーの周りにサビが残っているのですが、やはりそこでも抵抗/負荷/摩擦が増大する為に絞り羽根の動きが不安定なようです。仮に例えばフィルムカメラに装着して、まさしくシャッターボタン押し下げ時のように「瞬時に絞り連動ピンが押し込まれる」なら、距離環がどの位置まで回っていても、或いは絞り環操作で正しく最小絞り値「f16」までちちゃんと閉じますが、残念ながらマウントアダプタに装着すると「距離環の位置によって絞り羽根が不安定」です。

具体的には以下になります。

【オーバーホール後の状態】
距離環が∞位置の時、f1.4〜f8で停止するが距離環をほんの僅かに回すか、或いは絞り環操作すると最小絞り値「f16」まで閉じる (抵抗/負荷/摩擦で止まっているようです)。
距離環を2〜3m辺りまで繰り出すとf1.4〜f11で停止しますが同様距離環を僅かに回すか絞り環操作で「f16」まで閉じます。
距離環が最短撮影距離45cmの時、f5.6で止まってしまい、距離環を回しても絞り環操作でも変化無し。

・・このように距離環の繰り出し状況により絞り羽根が閉じるf値の違いが現れるのは、要は「開閉アーム」に及んでいるチカラとスプリングの引張力のバランス、或いは絞り羽根のキー周囲に残っているサビによる抵抗/負荷/摩擦増大など、幾つかの要因が重なって絞り羽根が最小絞り値まで閉じないので不安定なのです。

3日間頑張りましたが申し訳御座いません・・。症状がバラバラなので一つの因果関係だけで発生している不具合では無いと判断し諦めました。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

↑光学系後群側も極薄いクモリが皆無の透明度を維持しています。当初ほんの僅かにピント面の鋭さが甘い印象だったのは第5群の締め付けが足りなかった為でした (現状本来の鋭さに戻っています)。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々スムーズに駆動しますが、前述のとおり距離環の位置によって絞り羽根の開閉が不安定になります。ほとんどの場合で一発では上の写真最小絞り値「f16」まで閉じてくれません。距離環/絞り環操作する事で動いて閉じます。

また左写真のように赤色矢印で指し示した箇所1箇所だけ裏から突かれたような凸痕が残っていますが、これは当方の仕業では無く過去メンテナンス時の問題では無いかと思います (当初よりこの状態のままです)。

↑距離環には全周に均等の位置で3箇所赤色矢印で指し示したような「イモネジ」で締め付け固定されます。ところが1箇所だけ別の位置にイモネジがあります (グリーンの矢印)。これが冒頭で解説した無限遠位置「∞」の位置が決まってしまう話であり、必ずこの位置に確定用イモネジが入る為、このヴラウンシュバイク工場製モデルの場合は無限遠位置の微調整機能がありません。

それを実際には様々な箇所でイモネジで締め付け固定していたので、今回の個体は複数の痕跡が残っていました。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」で軽めと中程度を使い分けて塗り「普通」人により「軽め」のトルク感に仕上がっており、全域に渡り均一でピント合わせ時も極軽い操作だけで微動可能です。もちろん当方の特徴たる「ヌメヌメッとシットリ感のある感触のトルク」に至っています。

また絞り環操作も確実にクリック感を伴いつつ小気味良く動作します。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」も押し込み動作自体は小気味良く確実なので、むしろフィルムカメラに装着すればこの個体は正しく絞り羽根が開閉してくれます(笑) しかし残念ながらマウントアダプタ経由では絞り連動ピンが押し込まれたままになる為、非常に不安定です。

↑3日掛かりの「DOH」になってしまいましたが、結果的にちゃんと完璧に仕上げられず本当に申し訳御座いません。お詫び申し上げます。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮っています。

↑f値は「f4」に変わりました。

↑f値「f5.6」に上がっています。ここまではたいていの場合ちゃんと閉じてくれますが、ここから先の「f8〜f16」間が閉じたり止まったりという不安定な状況です。

↑f値「f8」です。同様止まって閉じない場合があるのでチェックが都度必要です。

↑f値「f11」になります。閉じる時はちゃんとここまで閉じてくれます。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。少々頻度は低くなりますが「f16」まで閉じる時がありますが、基本的に閉じない事のほうが多いのでやはり都度チェックが必要です。大変長い間お待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。

なお次は引き続き「Angulon 35mm/f2.8」の作業に入ります。