解説:M42マウントアダプタにみるフランジバックとの関係②
現在ヤフオク! にオーバーホール済で出品中のオールドレンズで、当方のブログ解説が拙い為になかなか理解できない点をご指摘頂いたので、ここで改めて解説したいと思います。
ご指摘頂いたオールドレンズのモデルは、以下のCarl Zeiss Jena製標準レンズです。
◉ Tessar 50mm/f2.8 T silver《初期型》(M42)
◉ Biotar 58mm/f2 T《中期型-I》(M42)
なかなか分かりやすい解説ができず、大変申し訳御座いません・・。
まずは、オールドレンズを使う時に問題になってくる事柄を列記します。
① 装着先がフィルムカメラなのか今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼なのか。
フィルムカメラに装着して使う場合は、カメラボディ側マウント部内部にあるクィックリターン式ミラーが干渉して撮影できない場合があるので、オールドレンズ側の「マウント面からの突出 (ネジ部から先の出っ張り)」を確認する必要があります。
一方、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼でオールドレンズを使いたい場合、カメラボディ側の「マウント規格」と「オールドレンズ側マウント規格」が違う為に、それら異なるマウント規格を適合させる (仲介する) 役目の「マウントアダプタ」と言う製品を、オールドレンズとカメラボディの間に挟んで使う事になります。
以降、このブログページで解説していく内容は、この「マウントアダプタ経由装着する場合」に限定します (フィルムカメラへの装着は解説を省きます)。
② オールドレンズ側マウント規格に対する認識の問題。
するとデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する際に「オールドレンズ側マウント規格」を正しく認識しているか否かが、様々な不具合の原因を掴む一つの改善策にも繋がります。
例えば今回解説する「M42マウント規格」を正しく認識できているかどうかが、所有している (或いはこれから手に入れる) M42マウント用のマウントアダプタに対する製品評価にも繋がってくるワケです。
ここで皆さんが仮に「M42マウント規格同士なら同じ規格だから何も問題が発生しないハズ」と考えていたら、それは思い込みです。
今回の解説ではこの思い込みになり易い事柄を解説していきます。
③ 基本的な光学知識の有無。
デジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着するだけで、そのまま簡単に使えるハズなのですが、実はこの時「基本的な光学知識」を知らないままだと、問題を発見した時にその原因/因果関係を調べる術がありません。
今回ご指摘頂いた内容にはその基本的事項が含まれていますが、これがまた大変分かりにくい内容なので多くの誤解を招いてしまいます (間違った認識のまま使おうとしている人が非常に多い内容)。
④ それらから導き出される問題改善策が分かるかどうか。
具体的な問題点が分かったとしても、その改善方法が分からない人がいらっしゃいます。するとそのオールドレンズの問題なのか使っているマウントアダプタの問題なのかを特定できない話になり、最後には手に入れたマウントアダプタが返品できない (ことが多いので)「オールドレンズの調整が悪い」と言う結論に達しクレームになります (意外とそう言う人が多い)(笑)
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↑今回の解説では冒頭のヤフオク! 出品中標準レンズを使って解説していきます。
上の写真は解説用に作った合成写真なので、正しくセットされていないように見える箇所がありますが (サイズも厳密に正しくない) ご容赦下さいませ。
カメラボディはSONY製α7IIと言うモデルです。装着するオールドレンズは冒頭の「Biotar 58mm/f2 T《中期型-I》(M42)」になり、カメラボディとの間にRayqual製M42マウントアダプタ (日本製) を介在させてセットしている写真です。
カメラボディには「撮像素子」がマウント最深部に備わり、そこにオールドレンズを透過して入射してきた「入射光」が記録されて写真が撮影できます。「撮像素子」の位置は必ずカメラボディのトップに「丸を串刺ししたマーク (∅のようなマーク)」が白色刻印されているので確認できます。
すると、まずここで「光学基本知識」が必要になってきます。
◉ フランジバック
レンズマウント面から撮像面 (フィルムカメラならフィルム面でデジカメ一眼/ミラーレス一眼ならば撮像素子面) までの距離を指す。
(上の写真で①赤色矢印の距離、或いは②グリーンの矢印の距離)
すると、写真では2つの製品が関わってセットされているので「フランジバックも2つ存在する」事をまず認識している必要があります。
① カメラボディのフランジバック:SONY Eマウント:18mm
② オールドレンズのフランジバック:M42マウント:45.74mm
何故なら、装着されているモノがオールドレンズとマウントアダプタだから、2種類のマウント規格が関わっている点をちゃんと認識しているか否かです。
カメラボディ側フランジバックは「18mm」と確定している為 (現在のSONY Eマウント規格だから) 問題ありませんが、オールドレンズ側マウント規格「M42マウントのフランジバック」が問題になってきます。
するとここで「M42マウントのフランジバックは45.46mmでしょ?」「45.74mmは間違っていますよ!」と指摘してくる人が居ます(笑) これがまず最初の「思い込み」です。
◉ M42マウントのフランジバック
ネジ込み式のプラクチカスクリュー・マウント「ネジ内径:42mm x ピッチ:
1mm」を俗に「M42マウント」と呼び、新旧2種類のフランジバックが顕在
している。
・旧フランジバック:45.74mm
・新フランジバック:45.46mm
この事を知らない方が非常に多いワケですが、ちゃんと新旧の存在がWikiに明示されています。しかし小数点以下1桁に丸めてしまっているので、オールドレンズの整備経験者の掲載ではありません。当方はCarl Zeiss Jenaの設計諸元書 (ほんの数本)、或いはロシアンレンズの設計諸元書をちゃんと調査して具体的なフランジバックの記載 (当時の数値) を確認しており、且つ「誤差は小数点以下2桁:±0.02mm」とも記載されています (Carl Zeiss Jenaでも±0.02mm)。
従って装着するオールドレンズが「新旧どちらのフランジバック」なのかを知らなければ、そもそも無限遠のピント面が甘いと感じていても、具体的な改善処置は一切思い付かないまま仕方なく使うハメに陥ります(笑)
今回の「Biotar/Tessar」など、この当時のCarl Zeiss Jena製シルバー鏡胴モデル (他にも
広角レンズFlektogonなども多くある) は多くの個体で「フランジバック:45.74mm」を採って設計している為、まずはそれが「光学基本知識」の事前情報になると言えますね。
或いはもっと言えば、今回の当方オーバーホールのように「オールドレンズ側内部で既にフランジバック調整を終わらせている」場合もある為 (大抵のオールドレンズは過去メンテナンスされている事が非常に多い)、一概にモデルだけで判断できない難しさがあります。
するとフランジバックが判明したので残りのサイズが引き算で算出できます。
◉ 計算上のマウントアダプタ製品全高
(旧規格) M42:45.74mm ー SONYE:18mm = 製品全高:27.74mm
(新規格) M42:45.46mm ー SONYE:18mm = 製品全高:27.46mm
つまり上の写真③マウントアダプタの製品全高 (ブルーの矢印) が具体的に新旧の相違で算出されました。このサイズで使っているマウントアダプタが作られていれば何ら問題が発生しません。仮に問題が生じていたら、それはまさに「オールドレンズ側の調整が悪い」ことになりますね。
以上が、まずは問題が発生していた時の計算上の因果関係特定方法です。では実際に代表的なM42マウントアダプタを計測してみましょう。
↑当方で今回用意したのは上の写真 (以下製品) です (いずれもSONYEマウント用)。
① Rayqual製M42-SαE マウントアダプタ (日本製)
② K&F CONCEPT製M42-NEXマウントアダプタ (中国製)
③ FOTGA製M42-NEXマウントアダプタ (中国製)
①Rayqual製マウントアダプタの製品全高 (ブルー矢印のサイズ) は「27.51mm」です。
すると前述計算値「27.74mm/27.46mm」いずれともピタリと合致していません。それぞれ「ー0.23mm/+0.05mm」の結果です。
はたしてこの実測値をどう釈明すれば良いのでしょうか?(笑)
次は② K&F CONCEPT製マウントアダプタです。製品全高は①の日本製と同一の実測値「27.51mm」でした。
すると必然的にそれぞれ「ー0.23mm/+0.05mm」の結果です。この事からこの中国製マウントアダプタは日本製マウントアダプタを真似て仕様を決めている事が覗えます。
最後は③ FOTGA製マウントアダプタですが、製品全高は何と「27.81mm」とさらに厚みが増してしまい、それぞれ「+0.07mm/+0.35mm」と言う計算値 (超過分) です。
つまり3種類とも計算上の数値には全く合致していない製品のまま流通していると言えませんか?
これらの計測から「マウントアダプタを過信するのは危険」と言う結論に当方は到達しました (当方の手によるデジタルノギスでの計測値/平均値なので信憑性は低い)。
マウントアダプタのサイズが「M42マウントとして統一規格で作られていない」以上「装着するオールドレンズ側フランジバック調整が必須になる」と言えるのではないでしょうか (他に調整する箇所がありません)?
冒頭でご案内したとおり、皆様の仰る話として「M42マウント規格同士なら同じでしょ!」が通用しない話と言えませんかね(笑) それでもご納得されない方が実は結構いらっしゃるので、いまだに「アンタの整備が悪い!」クレームが絶えません(笑)
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↑復習ですが、オールドレンズ側マウント面は上の写真グリーンの矢印で指し示している箇所であり、その面 (マウント面) からカメラボディ側「撮像素子面」までの「距離が②フランジバック」ですね。
↑上の写真 (2枚) を見て②フランジバックを交え具体的に相違点を答えてください。
こんな問題があったらちゃんと答えられるでしょうか?(笑)
Biotarの距離環が無限遠位置「∞」の時と最短撮影距離位置「0.5m」の時のフランジバックに関する相違点を答える問題です。答えは、②フランジバックに関してはどちらも全く同一です (相違無し)。
つまり距離環を回してズズ〜ッと繰り出されているのは「鏡筒」でありマウント面ではありません (収納する時も鏡筒が収まっているだけの話)。従って「使用者が操作方法だけでどうにかできる問題ではない」のがフランジバックの話である事を、まずはご認識下さいませ。
(実際は少し詳しい方はフランジバックを微調整する方法を一つは知っている)
一方、この当時のCarl Zeiss Jena製シルバー鏡胴モデルは、一部に
ネジ部 (赤色ライン) から先に「すぼまった突出」があります。
この突出部分は全てのオールドレンズに必ず存在するワケではないので、出っ張りがあった場合だけ注意すれば良い事にになりますね。
今回のBiotar/Tessarモデルには両方とも突出があります。
すると、この突出は「マウント面の話ではない」ので②フランジバックには一切関わりのない話とも言えます (マウント部から先の話)。
ではここでもう一度今回検証している3つのマウントアダプタを思い出すと「逆に問題になる箇所」が出てきます。
左写真は① Rayqual製M42-SαE マウントアダプタ (日本製) ですが、M42マウントアダプタのネジ部の奥、さらに深い位置に「棚のようにさらに内側に迫り出している部分」がグルッと全周に渡って用意されています。
この「棚のように迫り出している部分」の役目が多くのM42マウント規格のオールドレンズで「マウント面から飛び出ている絞り連動ピンを強制的に最後まで押し込んでしまう」目的です。オールドレンズをネジ込んでいくと、それに伴いマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれていって、勝手に絞り羽根が設定絞り値まで閉じていく考え方ですね。
この迫り出し部分を「ピン押し底面」と呼んでいます。
するとRayqual製ではその「深さ:5.9mm」です (オレンジ色矢印)。
左写真は② K&F CONCEPT製M42-NEXマウントアダプタ (中国製) ですが、やはり「ピン押し底面」が備わっており「深さ:5.9mm」と同一です。
やはり日本製マウントアダプタたるRayqual製品の仕様をそっくり真似て作ってきているマウントアダプタではないかと推測できますね。
③ FOTGA製M42-NEXマウントアダプタ (中国製) にはその「ピン押し底面」が用意されていません。
つまり現在市場で唯一手に入る「非ピン押し底面タイプ」のマウントアダプタです。しかし対応するカメラボディ側マウント種別が、どう言うワケか「SONYEマウント用」しか市場に流れておらず、他のカメラボディの人は困ってしまいます。
それでは3種類のマウントアダプタについて具体的に検証してみます。
↑この「ピン押し底面」は② K&F CONCEPT製M42-NEXマウントアダプタ (中国製) だけが「着脱可能」な仕様として製品化されていますが、実はメーカーサイトに一切告知がありません (さすが中国)(笑) 片面は「さらに0.5mm深い切削が用意されている」ので、装着するオールドレンズによっては「絞り連動ピンの長さ」に対応でき、不具合などを解消できる非常に有難い仕様です (今回の解説は省きます)。
上の写真 (6枚) は、上段がBiotarで、下段がTessarに3種類のマウントアダプタをネジ込み装着した状態を撮っています。
すると赤色矢印箇所に「隙間が空いてしまう/最後までネジ込めるかどうか」の相違と、一部は最後までネジ込めない事から「指標値位置がズレてしまう」問題まで発生します。
つまりBiotarとTessarでそのネジ込み状況が異なる点に注目する必要があります。特に① のRayqual製はBiotarが最後までネジ込めるのにTessarは隙間が空いています。一方② K&F CONCEPT製はBiotar/Tessar共に隙間が空き、逆に③ FOTGA製は両方とも最後までネジ込めています。
パッと見で③ FOTGA製なら問題が無いように考えがちですが (最後までネジ込めるから)、前述のとおりフランジバックの問題が計算式に適合していません (最も超過が大きい製品)。前述の解説で、これはマウントアダプタ側ではどうにもできない為「オールドレンズ側の調整で対応するしかない」と結論しましたね (従って必ずしもお勧め品とは言えない)。
ではどうして同じようにマウント部に突出があるのに別々の異なる結果になるのでしょうか?
その答えです。Biotarのマウント部ネジ部から先のすぼまった突出は、その「最大径:37.98mm」です。
先端部に向かってカタチがすぼまっているので、先端部分はもっと少ない最大径になりますね。
一方Tessarが全く違う実寸です(驚)「最大径:38.01mm」なのでBiotarよりも大きなサイズで設計されています。
これが異なる結果に至る原因ですね(笑)
同じようにマウント部から先に突出があっても同一の規格になっていないワケです。こんな事はオールドレンズを数多く扱っている「転売屋/転売ヤー」しか知りませんが、誰も知らしめようとしません(笑)
左写真は、Biotar/Tessar共に最後までネジ込めなかった② K&F CONCEPT製マウントアダプタの「ピン押し底面内径」を実測した数値です。
「ピン押し底面内径:36.63mm」なので、必然的にBiotar/Tessar共に途中で引っ掛かってしまい最後までネジ込めない事が分かります。
実際に② K&F CONCEPT製の「ピン押し底面」を被せてみました。
するとご覧のように途中で引っ掛かって止まってしまいます。これがマウントアダプタに装着した時「マウント面に隙間が空いて最後までネジ込めない」理由なのです (左写真はBiotar)。
同様に今度はTessarのマウント部突出に「ピン押し底面」を被せてみました。結果は、Biotarよりもさらに入らず全くネジ込めないのがこれで分かります。
これらの事柄から「同じM42マウント規格なのだから」と勝手に思い込みしていた事が明白なのではないでしょうか?
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↑最後に「フランジバック」に対する「アンダーインフ/オーバーインフ」の違いを解説します。上の解説図は、説明する上で簡略化して作図したものなので厳密に正しい距離やサイズで縮尺していません (イメージ図です)。
上の解説図では「新規格フランジバック:45.46mm」としてご案内していますが、仮に規格上のフランジバックそのままに無限遠合焦していたとします。グリーンの矢印で指し示した無限遠位置「∞」でピタリと無限遠合焦している場合です。
この時のオールドレンズ側 (上の図ではBiotarを例にしています) の距離環に刻印されている「距離指標値」を併記しました。
するとやはり、距離指標値の「∞」位置でピタリと無限遠合焦しており縦方向で上下一致しています (グリーンのライン)。
この状態で3種類のマウントアダプタ①〜③を順に無限遠合焦する位置を示したのが上の図です。つまりマウントアダプタの製品全高 (前述のブルーの矢印で計測した実測値) を元に実際に無限遠合焦する位置をオールドレンズの距離指標値に合わせて示した図です。
またオールドレンズ側 (上の解説ではBiotar) は既に内部調整済で、① Rayqual製マウントアダプタに装着した時「適正な無限遠合焦をする」状態にセットしてあります。
従って、無限遠位置に到達する僅か手前の位置 (∞より僅か左位置) で無限遠合焦します。一方②と③のマウントアダプタはそれぞれの赤色矢印位置に到達するまで無限遠合焦しません (つまり∞を右側方向に超過した位置)。
これは実際に検査具でチェックしての赤色矢印位置なので、分かりにくい為に「例 (赤色矢印)」を示しました (一番左端)。
この時「例」の赤色矢印で指し示した位置 (凡そ距離指標値の5m辺り) で無限遠合焦した後、その位置から「∞」方向に向かって距離環を回していくと再びピントがボケ始めます (つまり∞の手前で一度無限遠合焦している)。前述のマウントアダプタ実測値で算出した「差分:ー0.23mm (①Rayqual製)」などは、まさしくヘリコイド (オスメス) の高低差として考えると「距離指標値の2〜3目盛分のズレ」になるので、この「例」の位置に近くなります (∞から3目盛も手前の位置)。
この状態を「オーバーインフ」と呼びます (グリーンのラインから左側の領域)。一方、普通のオールドレンズは距離環の「∞」位置で突き当て停止してしまいますが、仮に停止せずにその先まで回ると仮定すると「∞位置をさらに越えた先でなければ無限遠合焦しない」つまり「∞」位置になっても一度も無限遠合焦していない状態であり、それを「アンダーインフ」と呼びます (グリーンのラインの右側領域)。
この「オーバーインフ/アンダーインフ」の「インフ」はオールドレンズの距離環に刻印されている無限遠位置「∞」を指すので、実際に合焦する「実写する上での無限遠位置」ではありません。すると距離環刻印距離指標値の「∞」の位置が、実写した時の無限遠位置に対して「どの位置に居るのか?」を表したコトバだと考えられます。
【距離環刻印距離指標値の無限遠位置∞と無限遠合焦の関係】
◉ オーバーインフ
無限遠位置「∞」の手前位置で無限遠合焦した後「∞」に向かって再び
ボケ始める状態
(つまり一度直前で無限遠合焦している)◉ アンダーインフ
無限遠位置「∞」刻印に到達するまで一切無限遠合焦せず後少しで
ピントが合うところで「∞」になり突き当て停止してしまう状態
(つまり一度も無限遠合焦していない/甘いピント面のまま)
この解説から今回のBiotar/Tessarに対する3種類のマウントアダプタは①がオーバーインフ状態のマウントアダプタで、②と③はアンダーインフ状態の製品である事が分かります (あくまでも今回検証したオールドレンズBiotar/Tessarに対する話であり他のオールドレンズではまた異なる結果に至る)。
するとオーバーインフ状態のマウントアダプタはフランジバックを調整する方法がまだ残っていますが、アンダーインフ状態のマウントアダプタはオールドレンズ内部の調整を施す意外に解決策がありません。ちゃんとそれが理解できているかどうかが問題になります。
距離環を回してカチンと音がして突き当て停止する刻印距離指標値「∞」の位置で正しく無限遠合焦すると言う事は (上の図のグリーンの矢印∞位置)、その時「鏡筒が最後まで格納されている状態 (最もカメラボディ側に近くなっている状態)」と言えます。そこまで深く (最後まで) 鏡筒が格納される前の位置で無限遠合焦しているのが「オーバーインフ状態」ですから、それは「鏡筒が深く格納されすぎている状態」とも言えます。
と言うことは「鏡筒」がそこまでカメラボディ側に近づかなければ (カメラボディからもう少し離してあげれば)「より∞位置でちゃんと無限遠合焦するようになる」とも考えられます。つまりオールドレンズのマウント面とマウントアダプタのマウント面の間に「薄い紙」などを1〜数枚挟んであげれば (鏡筒の格納位置が遠ざかるので) ちゃんと∞刻印の位置でピタリと無限遠合焦します。
これが「オーバーインフ状態を改善する方策の一つ」です。
ところが「アンダーインフ状態」の場合は距離環の「∞」位置でもまだ無限遠合焦していない状態なので、それこそマウントアダプタのマウント面を切削するかしない限り改善策がありません (さらにもっと鏡筒が深く/カメラボディ側に近い位置まで格納される必要があるから)。
逆に言えば「アンダーインフ状態」は「鏡筒が本来の適正な位置まで格納されていない状態」とも言えるワケで、従ってオールドレンズ側をバラして再調整する以外方策がありません。
ちなみに、この「インフ」とはラテン語/英語の「infinity (無限)」を現しますが日本で勝手に流行ってしまった和製英語のようなイメージです (海外でインフと言っても通じない)。また「∞」は数学では「無限大」ですが光学の世界では「無限遠」と言います。何故なら、数学上「無限大」は限りなく大きくなっていく状態を示す数値で特定の数値に留まりません。また逆の「無限小」の概念も存在するので光学の世界では意味が伝わらなくなります。それは「無限遠」がある特定の実距離から遠方に向かって画角内全てにピント合焦している状態を維持している事を示すコトバであり「向かっている状態を示すコトバではない」からです (無限遠合焦する実距離が決まっているから)。
従ってヤフオク! の出品者などで「無限大」と記載しているのはおかしいですね(笑)
つまり「オーバーインフ」は「実際に無限遠合焦する位置から超過した位置にinfinity (∞) がある」事を現し (だからオーバー)、逆に「アンダーインフ」は「infinity (∞) の位置でもまだ無限遠に到達しない/足りていない状態 (だからアンダー)」を意味します。
なお、上の図で④の赤色矢印が①と重なっています。つまり4番目として「非ピン押し底面化処置を講じたマウントアダプタ」を当方で用意し、それをK&F CONCEPT製マウントアダプタで実施したワケです (ピン押し底面を除去する処置を講じた)。
すると何がメリットなのか???
高価な日本製マウントアダプタ① Rayqual製を買わずとも、安価にSONYE、m4/3、FX、EOS Mなどの他、さらにCanoonのEOS R、或いはNikon Z用マウントアダプタでさえも「非ピン押し底面タイプ」を入手可能になることを意味します (FOTGA製だけではなくなると言う意味)。それは数多くのカメラボディで使える話になり幅が広がると言う意味です。
詳細はこちらの「M42:マウントアダプタのご案内 (非ピン押し底面タイプ化に改変)②」で
ご案内しています。