◎ PENTACON (ペンタコン) PENTACON auto 50mm/f1.8 MULTI COATING《後期型ーI》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、PENTACON製
標準レンズ『PENTACON auto 50mm/f1.8 MULTI COATING《後期型ーI》 (M42)』です。


PENTACONのブランドのロゴにもなっている「ERNEMANN TOWER (エルネマン・タワー)」がそびえ立つ、戦前ドイツDresden (ドレスデン) 市で1889年創業の光学メーカー「ERNEMANN
-WERKE (エルネマン工場)」全景で、1925年当時のカタログに載っている図です。

ERNEMANNは後の1926年にはZeiss Ikonの設立母体にも参画し、1945年以降本社工場はそのままZeiss Ikon本社として使われ、その後PENTACONへと引き継がれたのでZeiss Ikon含め社の象徴的な建物として今も現存しています。現在はタワーがあるビル一角のみですが、ちゃんと隣接棟への連絡橋まで残っています (さすがに煙突は無い)。当時最大規模の時は、地下1階まで含み12階建てだったようですからその全景は壮観な眺めだったのではないでしょうか (今も12階建てですがタワーの階数が違う)。右写真はGoogleMapで前の道路から見上げた写真です。

ちなみにPENTACONブランドのロゴマークにこの「ERNEMANN TOWER」が使われていますが、元のエルネマンのロゴは右図になり全く別です。またネット上で「エネルマン」と案内されていることが意外と多いですが、正しくは「エルネマン」だと思います・・。

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ドイツは敗戦時に旧ソ連軍と連合国軍によって占領され、国が二つに分断されました。ソ連軍が占領統治したのがドイツ民主共和国 (旧東ドイツ) であり (左図ピンク色)、連合国側であるアメリカ・イギリス・フランスが分割占領統治した国がドイツ連邦共和国 (旧西ドイツ) になります (ブルー色)。

ところがベルリンは旧東ドイツ側に位置しており (左図の緑色の矢印) 旧東ドイツの首都になりました。一方旧西ドイツの首都はボンになるので旧西ドイツ側なのですが、ベルリン自体も連合国側と旧ソ連によって分割統治することが決まりました。

そして後の1961年には「ベルリンの壁」が登場します。意外と「ベルリンの壁」がぐるりとベルリン全体を覆っていたかのように認識している人が多いのではないでしょうか・・。

実際にはベルリンも2つに分断されており、連合国側の管轄地であった「西ベルリン」側が「有刺鉄線」によってグルリと囲まれていたのです。それもそのハズでベルリンが旧東ドイツの中に位置していたことから囲まれていたのは実は「西ベルリン」だったワケですね(笑)

そもそも「ベルリンの壁」が建設されたのは戦後すぐではなく1961年であり、東西ドイツの経済格差がより顕著になってきたことから旧東ドイツから旧西ドイツ側への逃亡者が多くなり敷設された壁だったようです (初期の頃は有刺鉄線のみ)。ちなみに、西ベルリンもアメリカ・イギリス・フランスの3カ国による分割統治になります。

旧東ドイツは社会主義体制ですから「私企業」の概念が存在せず、すべての企業は国に従属した企業体でした。この企業体を指して様々なサイトで「人民公社」と解説されますが、どちらかと言うと「人民公社」は中国のほうが当てはまります。

旧東ドイツでは、敗戦後の初期に於いては「人民所有経営 (Volkseigene Betriebe:VB)」と呼ばれ後に「人民所有企業 (Volkseigener Betrieb:VEB)」に変わります (以降、最小単位の企業体として使われ続けた呼称)。ちなみに旧ソ連も社会主義国家ですが企業体を指して「国営企業」と呼称しています (専門に研究している方の論文を読んで勉強しました)。

上の一覧は、旧東ドイツが敗戦時からスタートした国の社会主義体制確立と同時に様々な産業工業再建のために策定された「計画経済」であり、その中で特にCarl Zeiss Jenaを中心にまとめたのが上の表です。

敗戦時からすぐに様々な企業体が分野別にVEBの集合体として国に接収されますが、その中でオールドレンズが関わっていたのは「光学精密機械VVB (局)」です。
(人民所有企業連合:Vereinigung volkseigener Betriebe)
当初は国の直轄管理で分野別に各局の隷下で各VEBがバラバラに集められ連合化していましたが、社会主義体制の確立に手間取り経済格差が拡大し、ついには旧東ドイツから旧西ドイツへの逃亡者が増大した為に1961年8月13日未明から「ベルリンの壁」敷設が始まっています。

そして、1967年にようやく国の産業工業体系図に局から独立した「光学機械製造コンビナートVVB」が登場し、そこにとりまとめ役として初めてCarl Zeiss Jenaの名前が登場します。この時点でCarl Zeiss Jenaは、既に17企業体 (VEB) を手中に収めており、従業員数は44,000人に上っていましたから、それまでに多くの光学メーカーを吸収合併していたことになります

また翌年の1968年には州/県を跨いで統括指揮できる「コンビナート令」が公布され、光学機械製造コンビナートVVBではCarl Zeiss Jenaの絶大なる権威が名実共に確立しています。ここで注目するべきは、実はCarl Zeiss JenaではなくPENTACONのポジショニングです。当時PENTACONはCarl Zeiss Jena配下のVEB格付のままであり、特にオールドレンズの開発/生産に苦慮していました。一方敗戦後に運悪くどう言うワケか軍需産業VVB (局) に編入されてしまったMeyer-Optik Görlitzは、軍需用光学製品を生産する傍ら民生用光学製品の開発/製造も続けていましたが、念願の光学精密機械VVBへの編入を、自社工場をCarl Zeiss Jenaに売却してしまうことで達しています。

ここがポイントで、自社工場をCarl Zeiss Jenaに統合されてしまったMeyer-Optik GörlitzはCarl Zeiss Jena配下のPENTACONへと製品供給が義務づけられますが、経営難から脱することができずMeyer-Optik Görlitzは1968年ついにPENTACONとの吸収合併により統合され長い歴史の幕を閉じます。
従って、1970年以降オールドレンズのレンズ銘板にはMeyer-Optik Görlitzの刻印が消えてPENTACON銘で生産されていくことになります。

そしてPENTACONも4つの企業体を吸収 (従業員数:8,500人) しながら1975年にはVEK (Volkseigenes Kombinat:コンビナート) に昇格しますが、最終的に経営の建て直しには至らず1981年にとうとうCarl Zeiss Jenaに吸収統合され消滅していきます。第六次5カ年計画中の1981年時点では、肥大化したCarl Zeiss Jenaしか残っていなかったことになりますね。

つまり、Carl Zeiss Jena製オールドレンズは、吸収統合していった様々な光学メーカーの技術を飲み込みながら結実していったオールドレンズであることがご理解頂けると思います。その中にはMeyer-Optik Görlitzの技術があり、同時にPENTACONへと引き継がれ、最後はCarl Zeiss Jena製オールドレンズとして何かしらの匂いを漂わせるだけだったのかも知れません。

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今回扱うモデルPENTACON製標準レンズ『PENTACON auto 50mm/f1.8《後期型−I》(M42)』の系譜をみていきます。

ORESTON 50mm/f1.8 zebra(Meyer-Optik Görlitz製)
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

前期型1961年発売
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (細かいストライプ)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ (右回転)

後期型
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (大柄なストライプ)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ (右回転)

PENTACON auto 50mm/f1.8(PENTACON製)

前期型−I1969年発売
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (大柄なストライプ) レンズ銘板入り替えのみ
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ (右回転)

前期型−II
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:黒色鏡胴に変更 (ゼブラ廃止)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ

中期型−I1971年発売
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MC (赤色刻印)
絞り羽根形状:新形状に設計変更 (PENTACONのカタチ/左回転)

中期型−II
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (赤色刻印)
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

中期型−III
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING(赤色刻印)
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−I
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−II1975年発売
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環) 廃止
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−III
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

AUTO REVUENON 50mm/f1.8(PENTACON製/OEM)
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

後期型−I
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−II1975年発売
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環) 廃止
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

 

上記モデルバリエーションを分かり易くする為に冒頭で当時の時代背景を解説しました。上のモデルバリエーションでを附記したPENTACON銘「前期型−I (1969年発売)」は、実際にはMeyer-Optik Görlitz製モデルのレンズ銘板だけをPENTACON銘に入れ替えて出荷していたワケですが、それを検証してみました。

左は1969年にPENTACONから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「PRAKTICA L」の取扱説明書の抜粋ですが、オプション交換レンズ群はMeyer-Optik Görlitz製とCarl Zeiss Jena製モデルだけで占められています。

さらに同じ1969年の後期に追加で発売された「PRAKTICA LLC」取扱説明書から、同じように交換レンズ群一覧を抜粋しました。Meyer-Optik Görlitz製のモデル銘が消滅してPENTACON製とCarl Zeiss Jena製モデルのみに変わっています。

Meyer-Optik GörlitzがPENTACONに吸収合併したタイミングが1968年なので、その時点で既に製産していた個体がそのままMeyer-Optik Görlitz銘でフィルムカメラにセットされ、吸収合併後の新たな製造出荷分よりPENTACON銘にモデル銘がチェンジしたという話もこれで検証できます。

また上のモデルバリエーション中印で示したタイプは、実際にはモデルバリエーションではなく「市場動向をみて都度製産していたelectricモデル」です。つまり製造番号で捉えると、それぞれの「中期型ーIII」或いは「後期型ーIII」の中で混在してしまうので、純然たるバリエーションの相違として捉えてしまうと時期を跨ぐ説明ができません。
(electricモデルはマウント面に電気接点端子を装備したタイプ)

これらの事柄から、実際にMeyer-Optik Görlitz製広角レンズ「ORESTON 50mm/f1.8 (M42)」がPENTACONへとそのまま継承されたことが確認できますが、では光学系はどうなのでしょうか?

右の光学系構成図はMeyer-Optik Görlitz製標準レンズ「ORESTON 50mm/f1.8 (M42)」の構成図で、4群6枚のダブルガウス型です。

ネット上でよく掲載されている光学系構成図に使われているのは右図ではなく、下のマルチコーティング化された時の光学系構成図ばかりです。何故なら、そもそもMeyer-Optik Görlitz製の時代は「モノコーティング」だったワケであり、後にモデル・バリエーションで言う「中期型ーI」が登場した時点で「マルチコーティング化」されています。

すると、光学系構成図を見る時に、マルチコーティング化により解像度が向上して収差も改善されるとなると、そのまま同じ屈折率のまま光学系を設計できるハズがありません。つまり「マルチコーティング化のタイミングで光学系は再設計された」と捉えるのが正しいと当方は考えます (当方は光学系の知識が皆無なので信憑性の低い考察です)。

一方右図は今回のモデル『PENTACON auto 50mm/f1.8《後期型−I》』の光学系構成図です。同じ4群6枚のダブルガウス型ですが、マルチコーティング化されている関係からビミョ〜に各硝子レンズの曲率などが変更されており (つまり再設計している) 特に第3群貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) が小さく (屈折率を上げて) 変わっています。

右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性は低いですから、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり当方のトレース図は参考程度の価値もありません)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

せっかくオーバーホールのためにバラすのだから、その機会に光学系の各群を計測しているに過ぎません。決してウソを掲載しているワケではないのですが、ネット上に掲載されている 大多数の光学系構成図と違うと嫌がらせや誹謗中傷メールを送信してくることはおやめ下さいませ (心が折れそうになります)。

なお、下記にそれぞれの絞り羽根の形状と向きの相違を示します。

Meyer-Optik Görlitzのカタチ

絞り羽根枚数:6枚
形状:L字型、右回り
キーの配置:片面に2個

PENTACONのカタチ

絞り羽根枚数:6枚
形状:円弧型左回り
キーの配置:両面に1個ずつ




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが半足してMへと変わっていく様をピックアップしていますが、典型的な4群6枚のダブルガウス型光学系だとしても真円に近い繊細なシャボン玉ボケを表出できているところがMeyer-Optik Görlitzから続く血統の表れでしょうか。

二段目
左端から収差の影響を受けて汚く滲んでいく背景ボケの様子を集めてみました。このアウトフォーカス部の滲み方にクセがある (極端すぎる) 要素がこのモデルの好き嫌いを隔ててしまう一因かも知れません。

三段目
左端の写真を見ると一目瞭然ですが「ダイナミックレンジが狭い」ことが分かります。つまり暗部が突然ストンと真っ黒に堕ちてしまうので (明部は白飛び状態に陥り易い) これが影響して被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力が低くなっています。また2枚目の写真 (紅葉) のとおり「独特な色付き/発色性」することからも好き嫌いが分かれる一因になっていると考えられます。この発色性はある意味「ヨーロピアンテイストな味」を現すにはむしろ重要な要素になってくるので、いかにも東欧的な色付きだと感じるのがメリットになることもあります (つまり一概に貶せない)。なお、次の被写界深度を示す写真でピント面に「ブル〜フリンジ」を帯びているのは、このモデルの描写特性ではなく「光軸ズレ」であり、それは光学系後群の組付けをミスっているからに他なりません (それについては以下のオーバーホール工程の中で解説しています)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ハッキリ言ってこれでもかと言わんばかりにカツカツに合理化してしまった設計で、多少の誤差は調整を前提として結果オーライ的な感覚で作られていますが、それは裏を返せば「神経質な調整が必須」なモデルとも言えます。何処が神経質なのかと言えば、それは「絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/入射光量)」に「光軸ズレ」そして「絞り連動ピン連係機構部」と、凡そ主要部位別に厄介な調整をするハメに陥る面倒なモデルです。その意味で簡素な構造だからと食ってかかるとバカを見ます (構造面だけなら初心者向けの設計)(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

↑絞りユニットには「位置決め環/開閉環」がセットされます。

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り環を回すとことで「制御部」が連動して動き絞り羽根の開閉角度が決まるので、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれることで絞り羽根の「開閉キー」が瞬時に移動して「位置決めキーを軸にして絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。

また絞り羽根の開閉制御を司る「チカラの伝達」手法として「アーム」が用意されており、
開閉アーム/制御アーム」の2種類により具体的な絞り羽根開閉動作を実現しています。

開閉アーム
マウント面絞り連動ピン (レバー) が押し込まれると連動して動き勢いよく絞り羽根を開閉する

制御アーム
絞り環と連係して設定絞り値 (絞り羽根の開閉角度) を絞りユニットに伝達する役目のアーム

↑上の写真は「開閉環」に用意されている「開閉アーム」を拡大撮影しましたが、赤色矢印で指し示したように棒状のアームは単に「穴に打ち込んだだけ」という設計です。これが経年使用で問題になってきます。

開閉環」は絞り羽根が刺さって具体的に絞り羽根を開閉させている環 (リング/輪っか) ですから、それに附随する「開閉アーム」は「常時横方向からのチカラを受け続けている」ことになります。従って絞り環をムリに操作してしまうと、その際にかけたチカラがそのままこの「開閉アーム」に伝達されます。すると穴に打ち込んでいる根元の軸部分が極僅かでも緩んだだけで、根元からアーム端に向かうに従いブレが大きくなっていきます。

つまりその時点で「絞り羽根開閉異常」に陥り、且つ一度広がってしまった穴は元通りに修復できませんから (つまり緩んだアームは元通りに復元できないから) そのまま「製品寿命」に至ります。

これを例えばアームの根元にネジ山を切ってネジ込んだ後に反対側からナットで締め付けるなどの設計にしていれば、まだ修復の可能性も期待できますが、この設計ではどうにもなりません。従って市場に流れている流通品の中で絞り羽根の開閉が不安定 (絞り羽根の戻りが緩慢/最小絞り値まで閉じない/完全開放しないなど) な個体は、残念ながら修復不可能な懸念が相当高いと言わざるを得ません (少なくとも当方はどんなに安くても絶対に手を出さない)。

今回の個体が累計で47本目にあたりますが (オーバーホール/修理ご依頼分を含む)、その中で16本がこの原因による修復不可能な個体でしたから相当な率です。

↑6枚のフッ素加工された絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して裏側 (後玉側) 方向から撮影しています。ご覧のように「開閉アーム」が飛び出てきておりブルーの矢印のように左右に動くことで絞り羽根が開閉します。

ヘリコイド (オス側) には1箇所「」が用意されており「直進キー」がスライドする場所になっています。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑距離環を仮止めしておきます。

↑ひっくり返して後玉側方向から撮影しています (写真上が後玉)。するとやはり「開閉アーム」が飛び出ていますが「直進キー」が既にセットされており、それはつまり前述解説のとおり鏡筒 (ヘリコイド:オス側) にある「直進キーガイド (溝)」にささっていることになります。

↑スプリング用の穴にスプリング+ベアリングを組み込んでから絞り環をセットします。絞り環の駆動域は決まっており (調整機能なし) ブルーの矢印の間で動きます (つまり絞り環刻印絞り値と実際のクリック感の位置合わせ調整機能は存在しない)。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施しセットします。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルー矢印①) その押し込まれた量の分だけ絞り連動ピン連係アームが移動して先端の「開閉爪」が移動します ()。

すると「絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけ」しか「開閉爪」は移動しないので、正しく調整されていない場合は鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」も正しく移動せず「絞り羽根開閉異常」に至る原理です。なおA/Mスイッチを操作すると絞り連動ピンの状態が自動的に変化するので、結果的に「開閉爪」もそのまま移動します ()。

↑最大の難関の工程に差し掛かりました。後からセットできないので、ここで先に光学系後群の格納筒を組み込みます。光学系後群の格納筒には光学系の第3群〜第4群が格納されています。一般的なオールドレンズではこの格納筒をネジ込むことが多いですが、旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズと、それを吸収したPENTACON製オールドレンズは、共に光学系後群格納筒は「イモネジ (3本) による締め付け固定」を採っています。このイモネジ (3本) による締め付けが問題であり「光軸ズレ/偏心/光路長過不足」などの要因になりますから、それはそのまま実際の描写として写真に影響してきます。

この「イモネジによる締め付け固定」にはコツがあり、単に3本のイモネジを順に締め付けていっても適正な調整には至りません。それ故、整備者の中には故意にこの光学系後群側のイモネジを外さずに光学系の清掃をしている場合があります。

実際、整備済でヤフオク! している出品者の出品ページや解説を読んでいても、イモネジを外さずにその他の光学系 (たいていは前群側) だけを清掃していたりします (或いはせいぜい後群側格納筒を外さずに後群側の硝子レンズだけを清掃)(笑)

しかしちょっと考えてみてください・・。

冒頭の光学系構成図を今一度ご確認頂ければ一目瞭然ですが、光学系前群側に入ってきた入射光が料理されて後群側で正しい正像として結像します。すると前群側だけを取り外して清掃したとしても、或いは一歩進んで後群側も外して清掃しても、肝心な後群側の硝子レンズ格納筒の位置がイモネジを外していない限り変化しません。

何を言いたいのか?

つまり光学系を清掃するなら、前群/後群に拘わらず全ての群を取り外して清掃し、且つ格納する際は必ず光路長確保しつつも「光軸確認 (偏心含む)」が必要だと言うことです。

例えばモノは言いようではありませんが(笑)「製産時点の調整が施された状態を維持したいのでイモネジは外しません」と平気で (公然と) 謳っている整備者が居ます(笑)

この言い分は一瞬ご尤もな話のように聞こえますが、実は「最もらしい逃げ口上」であり、その整備しているオールドレンズ (個体) がどうして製産時点を維持していると確証を得ているのかが明示されていません。

或いはもっと酷い場合には、光学系前群側だけを外して (或いは後群側も硝子レンズだけを外して) 清掃していた場合、どんなにイモネジで締め付け固定されている後群側格納筒がそのままだとしても、一度でも「光学硝子レンズの締め付け環」を外したら「光路長は変化する」のが当たり前です。つまり前述の「製産時点を維持」と言っている話と作業がチグハグです(笑)

光学系前群側を外したら (清掃したら) 必ず後群側も調整が必須になります。本当に製産時点を維持している点を重視するなら「光学系の清掃はしない」のが正しいやり方です。もっと言えば、ヘリコイド (オスメス) の組み込みをやり直している以上 (つまりヘリコイドグリースの入れ替え) やはり光路長は変化するので「光軸確認 (偏心含む)」は必須です

この当時のオールドレンズは、たいていの場合製産していた光学メーカーでは「±0.02mm」が誤差の範疇なので、いったいどうして光学硝子レンズの締め付け環を一度でも外したのに、その締め付けの際 (つまり光学硝子レンズ格納時に) その誤差が生じていないと言い切れるのか、当方は常々不思議でなりません。当方にはそんな高い技術スキルが無いので (当方の技術スキルは低い)(笑)、必ず最後は簡易検査具でチェックして必要があれば再調整している次第です (そうしないと落ち着かない)。

要は、整備済でヤフオク! 出品している場合に、イモネジで締め付け固定しているモデルは「光軸確認の有無」が大前提になります。なお、冒頭のピックアップ写真で三段目の「ブル〜フリンジ」が輪郭に帯びている写真は、まさにこの「光軸ズレ」の影響と言えるでしょう。

↑完成したマウント部をセットしてから光学系前群を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回1年ぶりにオーバーホールしましたが、一見すると初心者向けに見えがちなこのモデルも、実は「光軸確認 (偏心含む)」が必須のモデルであり、それは何らMeyer-Optik Görlitz時代のオールドレンズと変わりありません。

最短撮影距離33cmと、この当時の標準レンズにしては僅かですが寄れるモデルです。ピント面の鋭さも相当なモノで (このページ一番下の実写をご覧頂ければ分かります) 残存収差のあるボケ方が特徴的ですが、その発色性に「ヨーロピアンテイスト」を感じる方にはお勧めの逸本ですね。

↑光学系内の透明度が非常に高く「これでもか!」と言わんばかりにクリアです。もちろんLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。残念ながら第3群裏面に1本4mm長の少々目立つヘアラインキズがありますが、それが無ければ「新品同様品」と謳っても信じてしまうほどにクリアな状態を維持しています。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側もただただひたすらにクリアです。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:8点、目立つ点キズ:4点
後群内:10点、目立つ点キズ:7点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系第3群裏面側に4mm長の僅かに目立つ薄いヘアラインキズが1本視認できます。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り環操作は極僅かに (クリック感が) 軽めの操作性です。絞り羽根が閉じる際はほぼ正六角形を維持しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・A/M切り替えスイッチがプラスティック製ですが経年劣化なのか擦り減って(溶けたように)なっており切り替え操作は少々硬めです(切り替え動作は確実です)。

↑A/Mスイッチはプラスティック製なのですが、経年劣化が進んでいるのか少々溶けたような感じでジャギー部分が擦り減っています。スイッチ操作自体も少々硬めですが、絞り羽根の切り替え動作自体は正しく (適正に) シャコンと切り替わります。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下の実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離33cmでの開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。そろそろ「回折現象」の影響が出始めています。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。