◎ Asahi Opt. Co., (旭光学工業) Takumar 83mm/f1.9《後期型》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回初めての扱いになりますが非常に珍しい初期の頃のTakumarシリーズから中望遠レンズ『Takumar 83mm/f1.9《後期型》(M42)です。

この「後期型」だけでもなかなか市場に出回らないので希少価値が高いですが、ましてやキラキラにクロームの光沢を放っている「初期型」やさらに「中期型」などはなおさら出回る事がありませんから、何年かに1本レベルの話でしょうか。

皆さんもよくご存知「PENTAX」の創業はとても古く、第1次世界大戦終結の年である1919年 (大正8年) に福岡県出身の創業者「梶原熊雄氏」により開設された「旭光学工業合資会社」なので、相当な歴史を持っています。

五人兄弟の三男として生まれた「梶原琢磨氏」の名前がそのまま「Takumarシリーズ」モデル銘の由来にもなっていますが (切磋琢磨もかけている?)、渡米し最終的には画家に転向し市民権を持っていたようです (画家転向前に写真レンズの設計を手掛ける)。

1952年(5月)に日本初となる35ミリ判一眼レフ (フィルム) カメラ「Asahiflex I型」をオプション交換レンズ群と共に発売しました。

この一眼レフ (フィルム) カメラは「エバーリターン方式」のミラーを搭載しており、シャッターボタン押し込みで印画紙に対して露出を行い、シャッターボタンから指を離すとミラーが戻ってブラツクアウト状態が解消される仕組みです。「クイックリターン方式」のミラーが実装されたのはその後1954年発売の「Asahiflex IIB」からになります。

この時の取扱説明書を見ると、ちゃんと今回扱う中望遠レンズ「Takumar 83mm/f1.9」がオプション交換レンズ群として掲載されていますが、クロームメッキが施されている「初期型」なのでマウント規格は「M37マウント」のネジ込み式になります (内径⌀37㍉ x ピッチ1㍉)。真鍮 (黄銅) 製なので350gと相応に重さがありますが内部構成パーツは一部がアルミ合金材です。

光学系は独特な構成を採っていて4群7枚のゾナー型構成です。当時のオプション交換レンズ群の多くがまだ2枚貼り合わせレンズの設計だった中で、このモデルでは第2群に3枚貼り合わせを配置してきたワケで、それだけを考えても相当な技術力だと思います。しかしそうは言っても3枚目の接着は曲面にできなかったのがまたよりリアル感を増しているように見えてしまい、何とも感慨深い想いです(笑)

2年後の1955年にはクロームメッキからブラツク&シルバーのツートーンにモデルチェンジしますが、マウント規格は変わらず「M37マウント」のままでした・・「中期型

そして今回扱う「後期型」から「M42マウント」のネジ込み式にマウント規格が変更され、光学系も再設計してきます。

右構成図はネット上を見るとそこいら中のサイトで貼られている光学構成図ですが、第2群の3枚貼り合わせレンズは「初期型」の平坦な凹メニスカスから曲面の凹メニスカスに設計変更できているのが判ります。

それだけ光学硝子レンズの精製技術が向上すると同時に貼り合わせ面と接着剤との関係性もより確実に進歩したのでしょう。しかし、実は光学硝子レンズを細かくチェックしていくと何と「気泡」が数点含まれています。まだまだ郷学硝子材の精製に課題が残っていた事の証とも言えそうです。

そして右図が実は今回扱った個体をバラした際に、光学硝子レンズの清掃時に逐一各群を当方の手でデジタルノギスを使って計測を行い、トレースした構成図になります。

ネット上に氾濫している (貼り付けられている) 構成図とはビミョ〜に違うのです(笑)

またこのように指摘するとウソを平気で載せていると批判対象になるので証拠写真をちゃんと撮影しました(笑)

左写真は今回の個体をバラして光学系を清掃する際に取り出した第2群の3枚貼り合わせレンズと第3群の2枚貼り合わせレンズです。

すると第2群のグリーンの矢印で指し示したコバ端部分がネット上で掲載されている構成図の幅広ではなく細いのが一目瞭然です。また第3群の グリーンの矢印箇所も短めです。そもそも第2群のコバ端部分を幅広にする目的/意味がよく分からないので、この構成図はプロトタイプ開発時の図ではないかと推測しています。実際当時も今もカタログや取扱説明書に掲載される構成図は、当初特許取得時や量産化前のプロトタイプの構成図だったりしますから、敢えて量産向けの最新版を載せないのだと考えています。それは当然のことながら開発時点の意図などにより光学系の設計も変わりますから、敢えて最終版を公開しないのだと思います。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

一段目
左端から円形ボケが破綻して滲んでエッジが消えていく様をピックアップしていますが、口径食や収差の影響で特に中央から外れるに従い真円を維持できなくなるのがよく分かります。
しかしこのモデルの光学系の凄さは円形ボケなどの特徴よりも、単に中心部の解像感の鋭さだけではない独特なリアル感が魅力なのだと感じ入りました。

二段目
それがこの段で集めた実写の4枚です。一番左端の写真を見るとハチドリが飛来している花の陽が当たっている様のリアルさがハンパないです。同じように2枚目の写真では手前の枝から奥行き方向への「空気感」を見事に表現しています。それは3枚目〜4枚目にも続き、特に外周部/周辺部の収差による酷い乱れなどもよ〜く分かりますが、その影響が強く出るのか妙なリアル感を醸し出しています。

三段目
その傾向機様々な写真で顕著に残るので、ある意味このモデルの光学系はもしかしたら「未完成」なのかも知れません。非常にリアルな写真なので何かしら光学設計時の意図が現れているのだろうと感じますが、それに光学硝子材の成分配合技術がまだ追いついていなかったのではないでしょうか。実際このモデルは黒色鏡胴の時代に入ると「85mm/f1885mm/f19」と変遷し、光学系は4群5枚へと設計変更してきます。必然的に技術革新により当初残っていた「気泡」も解消した時代へと移り変わります。

なおハチドリの写真もそうですが、この段の一番左端写真のとおり郵便ポストの赤色がこのモデルでは鮮やかなピンク色に変わるので、これがまた不思議感を強くしています(笑) いずれにしても歴史観を十分に汲んだモデルとして大変貴重な銘玉なのは間違いなさそうです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルはモデル銘に「Auto」を含んでいないのでプリセット絞りの単なる手動絞り (実絞り) 方式のモデルです。必然的に内部構造も各構成パーツもその理に適った設計を採っているのがバラせば一目瞭然です。

しかしこのモデルを解説する時、どうしてネット上ではもっと丁寧に説明しないのでしょうか???

冒頭解説のとおりこのモデル「初期型」が発売された1953年時点では「M37マウント規格」の手動絞り (実絞り) だとしても「後期型」発売の1957年時点では「M42マウント規格」へと設計変更し、特に標準レンズにもチャージレバー装備の「半自動絞り方式」が登場していますから、どうして手動絞り (実絞り) 方式を相変わらず採ってきたのでしょうか?

特に鏡胴が「前部/後部」の二分割方式ながら、後玉側方向から内部を覗くと「妙に空間/隙間が多い特異な構造」なのがまた独特です。

その答が実はこのモデルの光学系の設計に大きく関係しており、鏡胴を二分割方式にしながら半自動絞り方式のチャージ機構を組み込むことができなかったのだと推察しています (何故ならチャージ機構を組み込むと後玉の位置が適合せず/内部に隠れてしまう為製品化できない)。

つまりどうしても4群7枚のゾナー型構成で光学系を設計したかったので、その結果/それを 優先させたが為に半自動絞り化は見合わせざるを得なかったと当方では結論しています

逆に言うなら光学硝子材の技術革新により、冒頭で指摘した外周部/周辺域の極端な乱れ/収差が改善された4群5枚のエルノスター型構成に、その後の時代1958年以降の黒色鏡胴になると「85mm/f1.885mm/f1.9」として完全なる自動絞り方式を採ってきたモデルへと大きく 舵を切ったのだと踏んでいます。

もちろんその際合わせてコーティング技術も革新化され「世界で初めて7層にも及ぶ多層膜の蒸着を実現」したマルチコーティング化により、光学硝子材の技術進歩と共に一気に光学系の設計が発展したのだと思います。

その意味でこのモデルを語る時、必ずこの辺の背景もちゃんと説明してあげないと「単に初期の光学設計だから中心部の解像度しか追求していない」的な物言いをされかねないと危惧しています (それほど外周部/周辺域の乱れ方が極端だから)。

もっと銘玉なら銘玉たる素質を丁寧に説明してあげるのが礼儀のような気持ちになってしまいますね(笑)

当方は単にオーバーホールした作業対価分が回収できないからと、それだけの理由で大好きな旭光学工業の「Takumarシリーズ」を普段扱いません。市場で好きなだけ大量に流通している各世代のモデルが存在するのに、誰一人ちゃんと最大限に整備された状態を求めないと言う 日本人の浅ましさ (ブランド志向) が何とも残念でたまりませんね(泣)

どんなに市場に相変わらず氾濫しているモデルだとしても、自分のお気にのモデルはシッカリと万全な整備で遺してあげたいと考えるのが本当の人情なのではないでしょうか?

いつの間にかかつて世界に名声を轟かせた「思いやり大国ニッポン」のその日本人らしさが、徐々に消えていくように思えてなりませんね(涙)

従って今回のオーバーホール/修理ご依頼が、特にこのモデルに関してどんなに嬉しかったことか・・(涙) まだまだ影ながら極少数ながらも「大和魂」は遺っていると感激した次第です!

↑絞りユニットや光学系の前後群を格納する鏡筒です。単なる手動絞り (実絞り) なのでとてもシンプルです。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

実は左写真はこのモデルの「初期型中期型」にも採用されている 絞り羽根の格納方式を示した写真です (別モデルからの転載)。

すると各絞り羽根は「十字に切り込みを入れてプレッシングする事で4枚の羽根/爪を押し出したキーの概念」を採っているので、ご覧のように絞り羽根を取り外すことができません (外す際に下手すると折れてしまう/ジャンク化してしまう)。

一方反対側の先端部も単にプレッシングで折り曲げただけの直角L字型ですから、やはり扱いを注意しないと簡単に折れます (とにかく絞り羽根は薄い)。

その意味で、今回扱ったモデルで「絞り羽根に金属製の棒状ピンをプレッシングで打ち込む」技術は革新的だったと考えられます。

↑特に珍しくもないフツ〜の手動絞り (実絞り) 方式たる絞り羽根の開閉動作ですが、前述のようにちゃんと絞り羽根の製造過程/歴史や変遷を丁寧に解説してあげると、また新鮮な気持ちで眺めることができるのではないでしょうか?(笑)

もっと適確な解説をするなら、このように「金属製の棒状ピンをプレッシングしてキーとして使う概念」が開発されたことで「単なるプレッシングで折り曲げただけのキーによる耐久性の低さを解消できた」点で画期的だったワケです。

↑完成した鏡筒を立てて横方向から撮影していますが、絞りユニット内には前述のとおり「開閉環」が絞り羽根に被さっていて、その開閉環を左右に回転させることで絞り羽根が開いたり閉じたりをする原理です。

この「開閉環」には「開閉キー」と言うシリンダーネジ (円筒形にネジ部が備わる特殊ネジ) をネジ込み、それが絞り環と連結するので「絞り環操作で (結果的に) 絞り羽根が開閉動作している」仕組みです(笑)

ところが今回の個体は「その開閉環に何と3つもネジ穴が存在する」ワケで(笑)、これは間違いなく過去メンテナンス時に整備者自身がドリルを使ってネジ穴を切削して用意した「ごまかしの整備」だったことが判明してしまいます。

何故なら、製産過程でもしも仮にミスッたとしても「純粋に新たなパーツでちゃんと正しい 位置で切削すれば良いだけの話」なので、部品がもったいないからとかそのような理由で幾つも切削して使い回すことはあり得ません(笑)

そんな説明をしているサイトが一部ありますが(笑)、こと日本人の技術者のばあいそんな事を認めないハズです (パーツ単価などはたいしたコストではない/そんなコストは不良率で事前にちゃんと計算済なのが日本人設計者のハズ)。

このような話はかつての日本の技術を世界に誇っていた時代の名残ですが、現実的には昨今「大手企業の不正」による不始末が次から次へと告発されて「技術大国ニッポン」までも揺るぎ始めています!(涙)

もっとシッカリしてもらいたいですね!(怒)

↑さらに今度は鏡筒のすぐ内側にある「板バネと締付ネジ」を拡大撮影しています (赤色矢印)。この板バネのすぐ真上に位置するネジ山部分はフィルター枠ではありません。ここに光学系前群の格納筒がネジ込まれる設計です。

↑再び鏡筒を立てて横方向から撮影して解説していますが、要は「鏡筒の外周部には均等に 3箇所鋼球ボールが入る (穴が備わる)」ことを説明したかったのです (グリーンの矢印)(笑)

実はこの鋼球ボールの場所には「プリセット絞り環」がセットされるので、カチカチとクリック感を実現したプリセット絞り値の設定操作ができるよう配慮されています。

そのカチカチとクリック感を実現する役目が鋼球ボールの存在なのですが・・どうして3個も用意しているのでしょうか???

要はここでも過去メンテナンス時の整備者が「またもごまかしの整備」をしていた事が判明してしまいます(笑)

それは鋼球ボールを3個も使って設計してきた「設計者の本当の意図」にまで、過去メンテナンス時の整備者は思惑が及んでいなかった事の証にもなり得ています。

↑実際にこの位置にシルバーな細かい凹凸がある梨地仕上げ (メッキ加工) の「プリセット絞り環」をセットしたところです。

するとカチカチとクリック感を実現する為に「プリセット絞り値の箇所に鋼球ボールがハマる為の穴が用意されている」が明白ですが (グリーンの矢印)、クリック感の為だけなら「鋼球ボールは1個あれば十分」だと誰が考えてもすぐに分かりますョね?(笑)

ここがポイントです・・!!!

ここで使っている (敢えて用意した) 3個も存在する鋼球ボールは、もちろんカチカチとクリック感を実現する目的を持ちますが「同時にプリセット絞り環を適切な位置で (中空に) 保持させる」必要があるのが最大の理由です (1個だけでは環/リング/輪っかを中空に保持できない)。

だからこそ (中空に保持させる為に)「均等配置で鋼球ボールを用意する必要があった」ワケで、これが仮に3個だとしても均等配置でなくなると「中空に保持できなくなる」原理です。

何故ならプリセット絞り環を回した時に回転する方向と反対側の応力が働き滑らかな操作性を実現できなくなるからで、とてもカチカチとクリック感などと悠長な事を言っていられなくなります(笑)

要はこう言うところにも「観察と考察」がシッカリとできているのかが重要になってくるワケで、この結果が実は「プリセット絞り環と絞り環の操作」だけではなく、ひいては「鏡胴全ての整合性」として製品の仕上がりに大きく影響してくるのです。

この点については後ほどまた詳しく説明します。

ちなみに上のプリセット絞り環の鋼球ボール用の穴の位置をチェックすると「プリセット絞り値の位置に穴が空いている」のが明白です。すると上の写真一番左端の絞り値が「f11」なので、最小絞り値「f22」の位置に裏側の鋼球ボールの穴が来ていない事に気が付きますか?(笑)

最小絞り値「f22」の鋼球ボール用の穴は裏側の鋼球ボールの穴の位置からだいぶ手前に空いているハズです。すると3個用意されている鋼球ボール用の穴は「実際は2個を使って中空にプリセット絞り環を維持させている」ので残りの1個は「穴にハマらないままで均等の滑らかさを維持させる必要がある」から板バネなのです!

このような点にちゃんと気が付いて整備しているのかどうかが、実は最終的な製品の仕上がり今回の話で言えば「オーバーホールの仕上がり」として必ず現れてくるのです

↑再び鏡筒を真横から拡大撮影していますが、プリセット絞り環がセットされています。さらにその直下に今度は「絞り環用ベース環」がネジ込まれている状態です。

この「絞り環用ベース環」に「絞り環」がネジで締め付け固定されるので、絞り環を回すと絞り羽根が開いたり閉じたりする仕組みですね(笑)

グリーンの矢印でちゃんと鋼球ボールがカチッと穴にハマっている状況を証拠として撮影していますが、ここでのポイントは実は「そのグリーンの矢印直下にある出っ張っているネジに接触していない」点なのです!

そしてもっと言うなら「絞り環用ベース環も直上に隙間がある」ことを赤色矢印で説明しています。

これらは実は過去メンテナンス時の整備では全く以てデタラメに組み込まれていた為に本来なら (製産時点なら) 痕が付かないハズの擦れ痕や摩耗が鏡筒やプリセット絞り環/絞り環などに残っていました。

このような非常に細かい点こそが「設計者の目線/意図」なのであり、ちゃんと意味や目的があってこのように隙間や位置がズレていたりしますから「単にバラして逆の手順で組み立てれば良い整備」で仕上げている限り「まともな操作性の仕上がりに至らない」ので、それをごまかす必要性があるから「白色系グリースを好んで使っている整備者が多い」のです(笑)

このブログで何度も何度も指摘していますが「黄褐色系グリースはトルクが金属材の状態に神経質」なので、適切な状態にセットされない限りトルクムラや重くなったり擦れ感が酷かったりなど具体的な現象として組み上げ後に必ず現れます。

それを何とか解消しようと考えれば「白色系グリースを使うのが最も簡単」と言うお話です!(笑)

↑実際に絞り環をプリセット絞り環の直下にセットしました (下方向から締付ネジで締め付け固定)。従って締付が緩いと「絞り環にガタつきが生じる」ワケですが、キッチリ最後まで本締めすると「適切な位置でない場合は互いが擦ってしまう」のが歴然ですね(笑)

↑三度真横方向から拡大撮影していますが、赤色矢印の指摘のとおり隙間 (0.3㍉くらい) や空間 (0.8㍉くらい) がちゃんと適切な量で確保されているので、もちろんプリセット絞り環のカチカチ感/クリック感は何度もイジッて遊びたくなるくらい気持ちいいですし(笑)、その直下の絞り環はスカスカにならず適度なトルク感 (重み) をちゃんと持っています。

これが本当のオーバーホールのレベルなのです!(笑)

↑前の工程で鏡胴「前部」が完成したので (最後に光学系前後群をセットするだけの状態)、ここからは鏡胴「後部」の工程に移ります。上の写真は距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

すると基台には側面に「直進キーガイド」が備わりますが、手前側は貫通した楕円状 (赤色矢印) に対し、後方の内側部分には溝の状態で切削されています (グリーンの矢印)。

↑向きを変えて撮影しました。左側の楕円状が貫通した切削で (赤色矢印) 右側は貫通しない溝状態なのが分かります (グリーンの矢印)。

↑これら2箇所のガイドを上下方向 (前後玉方向) に行ったり来たりするのが「直進キー」であって、楕円状の貫通側に赤色矢印のシリンダーネジが入り、奥の溝部分は爪のタイプが入るのが分かります (グリーンの矢印)。

そして実は当初バラした時にはこの「爪側がペンチで潰されていて爪になっていなかった」ワケです。その理由は楕円状に貫通した側はシリンダーネジなので切削するとガタついてしまうからです。だから爪側のほうの爪を潰すことでトルクを軽くしようと「ごまかした」のが過去メンテナンス時の整備者の所業です(笑)

↑真鍮 (黄銅) 製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑アルミ合金材で作られているヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

なお一つ前の工程写真を見れば明白ですが、真鍮 (黄銅) のヘリコイド (メス側) には3箇所にネジ穴が備わっており、そこに距離環を締め付け固定するネジが入ります (グリーンの矢印)。

つまり距離環を回した時「回転するチカラが手の指から伝わるのは真鍮 (黄銅) のヘリコイドメス側」である事が分かりますね(笑)

すると距離環を回して伝わった「回転するチカラ」が「直進キー」によって「直進動するチカラに変換されている」からこそヘリコイド (オス側) が繰り出されたり/収納したりする動きをするワケで、且つその内側にストンと入るのが「光学系前後群を格納した鏡筒」だからピント合わせできる原理なのが分かります(笑)

↑この時ひっくり返して実際に「爪がある直進キー」を撮影してみました (グリーンの矢印)。ちゃんと爪が (既に潰されていたのを広げてある) ガイドの溝部分に入っています。

ちなみに当初バラした直後は「白色系グリース」が過去メンテナンス時に塗られていましたが、この直進キーガイド部分にもビッチリ塗っています。しかし今回の当方での作業では「基本的に当方では直進キーガイドにはグリースを一切塗らない」ので、まさに「金属材の本来の滑らかさだけで駆動している」状態と言えますから、それが仕上がりの気持ち良さにちゃんと繋がっているワケですね(笑)

↑「M42マウント規格」のマウント部 (指標値環を兼ねる) をセットします。

↑するとここでもポイントがあり、実は基台にはグリーンの矢印で指し示したとおり「距離環が回転しながら回る駆動域が事前に切削されて用意されている」設計です (グリーンの矢印)。そしてその駆動域を真鍮 (黄銅) のヘリコイド (メス側) に備わる3つのネジ穴の内「1本に制限キーを兼ねた締付ネジが入る」ので、その出っ張り部分のキーが駆動域を行ったり来たりするので無限遠位置「∞」でカチンと突き当て停止したり、或いは反対側の (上の写真では写っていませんが) 最短撮影距離位置でやはりカチンと突き当て停止します (オレンジ色矢印)。

これが距離環が無限遠位置/最短撮影距離位置の両端でカチンと突き当て停止する原理の解説ですが、重要なのはそんな事ではなくて「距離環の固定位置が決まっていて駆動域まで決まるので無限遠位置の微調整機能を装備していない設計である事が明白」である点です。

つまりこの当時のモデルの多くで「無限遠位置微調整機能がまだ装備されていない時代」なので、実際の個体別の無限遠位置微調整は「シム環」などと呼ばれている「薄い環/リング/輪っかを鏡胴の前後で挟んでサンドイッチする事で調整していた」概念です。

実際のこの個体も3枚の薄い真鍮 (黄銅) の環/リング/輪っかをサンドイッチしています。

↑長々と解説してきましたが(笑)、距離環がセットされました。この後は鏡胴「前部」に光学系前後群を組み込んでから鏡胴「後部」にセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。このデルを実際に手に取って撮影してみればすぐに分かりますが「ピントの山が不明瞭なのでしょっちゅう前後に微動させながらピントのピークを探すハメに陥る」という撮影時の状況です。

もちろん多くのオールドレンズでスパッと瞬時にピントの山がピタリと合致する気持ちのいいモデルもありますが(笑)、このようにピントの山が不明瞭なモデルもあったりします。

するとその時必ず一番鋭い合焦面を探そうとするので距離環を前後の微動させながらピント合わせしているハズです。

ならば・・自ずと距離環を回す時のトルク感は軽いほうがありがたい!

そんな点までちゃんと配慮できるのがオーバーホールの良さだったりしますね(笑) 今回の個体の仕上がりを触ればすぐに分かりますが、抜群な軽いトルク感でしかしシッカリとした印象の感触で操作できます。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

極僅かに「微細な気泡」数点視認できますが、一部はパッと見で「微細な塵/」に見えますが微細な気泡です。

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

↑光学系後群側の貼り合わせレンズもスカッとクリアです。ご覧のとおり冒頭で解説したとおり後玉の周りがスッカスカに空きまくっている隙間だらけの状態です。こんだけ空間があればチャージレバー機構部を組み込めそうに思えますが、現実としては僅かに空間が足りず諦めたのだと考えています。

↑前述のとおり開閉環に3つあったネジ穴もキッチリ正しいネジ穴の位置を調べ上げたので、ご覧のとおり完全開放するし最小絞り値側でも適正な閉じ具合で閉じていく円形絞り方式です。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い全域に渡り完璧に均一なトルク感で仕上がっており、もちろん前述のとおり非常に軽い操作性でピント合わせできるよう (実際に自分でピント合わせしながら確認している) トルク感を微調整済なので気持ちいいです!(笑)

逆に言うならピントの山のピークがスパッと決まるモデルなら、むしろあまり軽すぎるとピント合わせが煩雑になり却って面倒だったりします。そう言う場合は極僅かにトルクを持たせて重めにセットしたほうが使い易いワケで、オーバーホールすると言う事はそういう部分までちゃんと配慮するのが本当なのではないでしょうか???(笑)

↑何しろ大変キチョ〜なモデルですし、当方にとっては大好きなタクマーなのでちゃんとお金を掛けてオーバーホールしてまで時代に遺していきたいと言うポリシー保有者がいらっしゃるのだと、今回は特に嬉しくて楽しくてスッカリヤル気満々で臨みました!(笑)

当初ぎこちない感じのプリセット絞り環操作はカチカチととても気持ちの良いクリック感に変わり、且つ絞り環操作には適度なトルク/重みを与えてスカスカ感に堕ちないよう配慮しました。

また距離環のトルク感もピント合わせ時の操作性の良さを最優先に軽めのトルク感で仕上げ、且つ全域で全く以て均等なヌメヌメッとした当方独特な印象で仕上げてあるので(笑)、きっとご満足頂けると思います。

↑そして最後になりましたが冒頭でさんざん解説した適切な位置で各構成パーツ/部位を固定している (逆に言うなら適切な隙間が介在している) からこそ鏡胴「前部」の赤色矢印や、鏡胴「後部」のグリーンの矢印など適切で全く以て製産時点に匹敵するくらいに滑らかで操作性の良い仕上がりで完成しているのが分かると思います。

まさに当方の強み/メリットたる「DOH」の結果であり、時代に遺していく為のオーバーホール/整備なのだと自負しています。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1.1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮っていますが、当方の写真撮影スキルがド下手なので(笑)、既に中央にフレアが出てしまっています (フードが必要か)。

↑f値は「f5.6」にあがっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」になりましたが、本来絞り羽根が閉じてきているので解像度が低下してしまう「回折現象」に至っていますが、それでもこのモデルは光学系の素晴らしさから解像度低下がまだギリギリ現れずに頑張っています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。引き続き3本目の作業に入ります。