◎ ISCO-GÖTTINGEN (イスコ・ゲッティンゲン) WESTANAR 50mm/f2.8《Ⅰ型》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツの
ISCO-GÖTTINGEN製標準レンズ・・・・
WESTANAR 50mm/f2.8《Ⅰ型》(M42)』です。


今回このモデルをチョイスした理由は「意地悪」です(笑) 敢えてネット上で「クセ玉」と揶揄されているモデルを扱いましたが、その因果関係を知ってしまえば、人によってはオモシロイと受け取られるかも知れませんし、やはり面倒かも知れません(笑) そんな紙一重的なモデルを今回はワザと扱っています。

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ISCO-GÖTTINGENはドイツ中部辺りに位置するゲッティンゲン市を本拠とする旧西ドイツの光学メーカーです。創業は1936年で当時のドイツ政府の要請でドイツ空軍向けに軍用光学製品を供給することを主目的としてSchneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) の100%出資子会社として登場します。

 

上の写真は、左側が航空機に搭載された空撮用光学機器で、右側は地上で使う航空機偵察用望遠鏡 (105mm x 25倍) です。製品銘板を見ると製造元が「kqc」と刻印されていますがISCO-GÖTTINGENを表します (暗号名で刻印されている)。

戦後はSchneider-Kreuznachが高級品路線だったのに対し、ISCO-GÖTTINGENは廉価版の格付で始終したようです。Schneider-Kreuznach同様近年まで現存し続けていましたが、経営難から紆余曲折を経て2004年には倒産してしまいます。その後再生を果たし2014年には再び親会社のSchneider-Kreuznachに再統合され現存しています。

1952年に登場しますが当初は旧東ドイツのDresdenに位置するカメラメーカーIhagee (イハゲー) から登場したexaktaマウントのフィルムカメラ「Varexシリーズ」などのセットレンズとして供給されたようです。後にはM42マウントも一部製産されるようになりました。

右写真はM42マウントのタイプですが、シャッターボタンを装備している為にパッと見はexaktaマウントのタイプに見えがちです。しかしシャッターボタンのアーム部分が反対側に迫り出てくるのでカメラへの装着状態で明確に違いが分かります。

このアームが附随するタイプのマウント部はご覧のようにマウント面との間隔が少ない為に、今時のマウントアダプタに装着すると干渉する懸念もありますし、そもそもネジ込み式なのでカメラボディ側との干渉の心配もあります。

実はexakta/M42マウント共に光学系のサイズは同一ですが、フィルター枠径が異なり、それぞれ⌀52mm (exakta) と⌀41mm (M42) になります。従って製品外径もexaktaマウントのモデルのほうが大ぶりです。

この他、M42マウントのタイプは旧西ドイツのWirgin社から発売されていたフィルムカメラ「Edixaflex (エディクサフレックス)」用も供給されていた為モデル銘「EDIXA-WESTANAR」のタイプも存在しています。


上の写真は、当時1950年〜1960年代までに登場した同一焦点距離で開放f値「f2.8」の標準レンズですが、モデル銘が・・
ISCOLOR/ISCOTAR/EDIXA-ISCOTAR/ISCORIT/ISCOVITOR/COLOR-ISCONAR/WESTAR
REGULA-COLOR-WESTANAR・・と多岐に渡ります。これらのモデルの一部は金属鏡胴ではなくエンジニアリング・プラスティック製に変わっているので要注意です (上の写真でゼブラ柄を除く黒色鏡胴モデル全て)

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上の写真は今回扱うモデル「WESTANAR 50mm/f2.8」のM42マウントですが、実はは別モノです。このような情報がネット上を検索しても全くヒットしないので、当方もつい最近まで気がついていませんでした(笑)

は距離環に刻印されている最短撮影距離が80cmですが、75cmです (赤色矢印)。またそもそも距離環の回転方向が互いに逆です (ブルーの矢印)。そして極めつけは鏡筒が繰り出しするか否かも全く違っており (グリーンの矢印)、つまりは設計がそもそも全く別モノです。

右写真は上の写真ののタイプになりますが、距離環を回すとご覧のように一般的なオールドレンズ同様フィルター枠部分を含めた鏡筒が繰り出されますから製品全高が長くなります。

しかし今回出品するタイプはフィルター枠部分が距離環と一体成形の削り出しなので、製品全高は距離環を回しても距離環の繰り出し分「僅か1mm」しか増えません。

何を言っているのか?

つまりは内部構造/設計が全く別モノで、は「回転繰り出し式」に対しは「全群繰り出し式」の相違があります。一般的なオールドレンズは鏡筒が丸ごと繰り出される「全群繰り出し式」なのでのタイプが多く、フィルター枠部分も一緒に繰り出されますね (つまりグリーンの矢印部分で独立している)。

これらの話がネット上には一切案内されていないワケですが、問題は製品全高や操作性の相違だけに留まりません。繰り出し方式の相違はいったい何処の (パーツの) 相違に繋がるのでしょうか

答えは「光学系の設計概念が全く別モノ」と言えるワケで、モデル銘 (ひいては外見) こそ似ていても、その描写性は完璧に別モノである点に気がつかなければイケマセン。

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右の光学系構成図は今回出品するタイプの構成図で典型的な3群4枚のテッサー型です。もちろんネット上も同じく3群4枚テッサー型とどのサイトでも案内していますが、肝心な繰り出し方式を一切解説していません。

第2群〜第3群の 部分が固定であるのに対し、第1群 (つまり前玉) の 部分が繰り出される (グリーンの矢印) のが「回転式繰り出し方式」です (このモデルの場合)。

右図は上の写真のタイプの光学系構成図で、同じ3群4枚テッサー型ですが「全群繰り出し式」なので第1群〜第3群まで全てが鏡筒に締め付け固定されたまま丸ごと直進動します (つまり一般的なオールドレンズに多い方式の繰り出し方)。

当然ながら同じテッサー型だとしても光学系の設計が違っているワケで、それぞれバラして光学系を清掃した際にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

従って、今回出品するタイプは第1群 (前玉) だけが回転しながら距離環を回すと繰り出されたり/収納したりしている特殊なケースであり、単なるテッサー型と片付けてしまうには少々ムリがあります。

同時に、それがそのまま描写性として顕れているのであって、それを蔑ろにしたまま「クセ玉/駄目玉」と評価したり「ハロの発生が酷い/甘いピント面」と貶してしまうのは前提条件が違うのではないかと言いたいですね。

今回のモデルは「焦点移動」する光学設計を採っているワケで、それをフツ〜のオールドレンズと同じように評価したのではあまりにも可哀想だと思います。

 焦点移動
ピント位置がズレてしまう現象で、ピント合わせ後の絞り値変更に伴いピント位置もズレていく現象。

例えばオールドレンズの中に「バリフォーカルレンズ (可変焦点レンズ)」と言う種別があります。一般的なズームレンズは焦点距離を変更してもピント位置がズレないのに対し、可変焦点レンズは焦点距離を変更するとピント面までズレていきます。

今回のモデルで「焦点移動」が起きている理由は、そんな可変焦点などと言う大それた話ではなく(笑)、単に「球面収差の影響を受けている結果」と言えます。つまり単独で直進動 (回転しながら) している第1群 (前玉) の球面収差の影響から「焦点移動」が起きている話で、且つその影響が絞り値の変更と共に現れる点を「デメリットとして捉えるのかメリット捉えるのか」が、このモデルが「紙一重的な存在」ではないかと当方は考えています。

その意味で好き嫌いが分かれると言えば確かにそのとおりですが、はたしてオールドレンズの醍醐味とは何かを考えた時、それは今ドキのデジタルなレンズでは改善し尽くされている「残存収差の愉しみ」なのではないかと感じるので、それが「オールドレンズの味」と捉えるなら魅力にも繋がりそうな気がしますね。

その意味で「クセ玉/駄目玉」「ハロが酷い/甘過ぎ」と酷評一色に伏すのは可哀想で仕方ありません。




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
テッサー型なのでシャボン玉ボケが表出しますが「焦点移動」の影響からシャボン玉ボケは破綻して円形ボケへと変わってしまいます。

二段目
背景ボケにも収差の影響が出るので少々変わった背景ボケが現れます。二線ボケの如く現れるかと思えば (決して二線ボケだけではない)、モフモフとした背景ボケや液体のようなボケ方 (右端) などもするのが何とも楽しいです。

三段目
ピント面はテッサー型にしてはカリカリの鋭さだけで終わらないのですが (悪く言えばマイルド感タップリ)、ダイナミックレンジがとても広いので2枚目写真のようなインパクトの強い写りにも対応できますし、3枚目のように黒潰れせずに暗部の粘り良さも現れます。

四段目
他の旧西ドイツ製オールドレンズ同様シアン系に振れるので鮮やかなブル〜が出ますし、被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に優れているのでガラスの表現性が生々しいです。右端の写真などは周辺域の収差が出ていますが空気感を漂わすリアルな写真です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。完全解体しても内部構造は簡素に見えますし、構成パーツ点数も一般的なオールドレンズに比べて僅かに少なめです。

しかし、このモデルは冒頭解説のとおり「焦点移動」の光学設計概念を採っているので光路長確保の調整が非常に厄介ですし、M42マウントの「半自動絞り」とは言え、ISCO-GÖTTINGEN製となればSchneider-Kreuznachの傘下 (もとは完全子会社) ですから、一般的なオールドレンズと比べると特異な設計が含まれており、その調整も厄介です。

つまりこのモデルは「原理原則」を理解している人しか組み上げることができず、且つ「高難易度モデル」とも言えます。

↑そもそも解体する前に各部位の操作をしてみると、距離環を回した時に極僅かに距離環が繰り出されるのが視認できます (実測値で1mm∞位置から繰り出される)。従ってヘリコイド (オスメス) に「空転ヘリコイド」が存在しないことが分かります (空転ヘリコイドがあると距離環は繰り出さないから)。

また当時の旧西ドイツ製オールドレンズに多く採用されている「懸垂式ヘリコイド」も光学系第1群 (つまり前玉) の動き方を見れば違うことが分かります。

すると、ではどうして「回転式繰り出し方式」と判定できるのかと言えば、それは第3群 (後玉) が距離環を回しても位置が変化しない点と、合わせて前玉側は逆にクルクルと回りながら距離環と一緒に繰り出されているからであり「原理原則」に叶う話です。

上の写真は絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

↑こちらは絞りユニットを解体したままで撮影していますが、絞り羽根が刺さる先の「位置決め環 (絞り羽根の格納位置が確定する環/リング/輪っか)」と絞り羽根の「開閉キー」を操作して設定絞り値まで絞り羽根の開閉角度を変更する「開閉環」です。

開閉環」には長いスプリングが1本附随します。

↑絞り羽根を「位置決め環と開閉環でサンドイッチ」しつつ長いスプリングをグルッと回して内部に組み込んで絞りユニットが完成します。絞りユニットの外側に「開閉レバー」が飛び出ており、ブルーの矢印の区間で移動します。

スプリングのチカラで上の写真のとおり「常に絞り羽根を閉じるチカラ」が及んでおり、ブルーの矢印方向には相応の強いチカラで「開閉レバー」を操作する必要があります (反対側まで開閉レバーを動かすと開放状態になるが指を離すと勢いよくまた閉じる)。

↑完成した絞りユニットを鏡筒最深部にセットしました。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。3群4枚のテッサー型ですが冒頭解説のとおり第1群 (前玉) がそのまま直進動するので、ご覧のように深い鏡筒になっています。上の写真で見えているネジ山がヘリコイド (メス側) です。

↑鏡筒のサイドにチャージ用の爪を組み付けますが、この爪をセットするだけで1時間以上かかりました(笑) 絞りユニットから飛び出ている「チャージレバー」がスライドして (ブルーの矢印①) チャージ用爪でガチッと掴むとロックされて () 開放状態を維持します。

↑一方、チャージ用の爪はブルーの矢印のように鏡筒の外側と内側方向に向かってパタパタとはためきますが、そのパタパタを実現させているのが「1本の棒バネ」です。従ってこの「棒バネ」が経年劣化で弱ってしまったり、過去メンテナンス時にイジられてしまい変形していたらアウトです。

今回の個体はバラす前のチェックでチャージレバーを操作しても絞り羽根が開放状態を維持しませんでした。つまり「チャージ用の爪のロックが不完全」と言う不具合です。その一因がこの「棒バネの調整」であり、ここでも1時間かけて調整作業をしています。

つまり「チャージ用の爪」部分だけで合計2時間半かけている計算です。

↑完成した鏡筒にプリセット絞り環をセットします。やはり長いスプリングが附随します。

↑このスプリングの反対側にチャージレバーの環 (リング/輪っか) が固定されるので、チャージレバーをスライドすることでスプリングが内部で伸びる仕組みですね。

↑チャージレバー環 (リング/輪っか) 内部にスプリングを組み込んでからセットします。ここで絞りユニットから飛び出ている「チャージレバー」と「チャージレバーの爪」それぞれに連係する「連係アーム」をセットします。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。当初バラした時は過去メンテナンス時に塗られていた「白色系グリース」が経年劣化進行で「濃いグレー状」になってビッシリ附着していました。

↑ISCO-GÖTTINGEN製オールドレンズに多く採用されている自動絞り方式の設計概念です。絞り連動ピンに「棒バネ」を貫通させることでクッション性を与えている為、やはりこの「棒バネ」が経年劣化で弱ると途端に「絞り羽根の開閉異常」に至りますが、ご覧のように変わったカタチをしている長い棒バネです。

↑こんな感じで絞り連動ピンを組み付けて、同時に「棒バネの反発力」も適正な状態に調整します。この「棒バネ」の反発力が不適切だとチャージレバーを操作しても引っ掛からずに (ロックされずに) 絞り羽根がすぐに閉じてしまいます (つまり開放状態にセットできない)。

当初バラす前のチェック時点の不具合がまさにこの問題ですね・・。

↑上の写真は再び絞りユニットを鏡筒から引っ張り出して撮っていますが、実はこの後組み上げたところで「絞り羽根開閉異常」が発生してしまい、且つチャージレバーとの連係動作も不安定だったりしたので、その改善の為に再びバラして調整している最中を撮影しました (従ってグリースが既に塗ってある)。

ここの工程だけで4時間を費やしました(笑) 実はこのモデルを前回扱ったのが2014年1月なので5年が経ってしまいました。保存してあるデータベースを調べたところ、何と3日がかりで仕上げていたことが分かりました(笑)

当時は「原理原則」を100%理解していなかったのかと思いきや、今現在も躓いて再びバラしている始末で(笑)、たいして技術スキルが向上していませんね。お恥ずかしい限りです・・。

↑4時間後に撮影したのが上の写真ですが、ようやく「絞り羽根の開閉異常」と「チャージレバー駆動」が改善しマウント部をセットしました。

↑ひっくり返して距離環を仮止めしてから、この後光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

・・と書くと簡単に仕上がりそうですが(笑)、実はこのモデルで一番厄介 (大変) なのが光学系の組み込みであり、それは第1群 (前玉) の光路長確保です。何しろ前玉がそのままヘリコイド (オス側) になっていてネジ山が切られていますから、距離環を回した時のトルク調整はもちろん肝心なピント面の調整も同時進行で必要です。

そんなワケで、ここからが本番みたいな作業になるワケですが、ここの工程でさらに4時間を費やしとうとう丸一日がかりとなりました(笑)

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑結局、昨日丸一日がかりで仕上がったので、5年前の3日がかりに比べれば短縮化されているものの普通のオールドレンズに比べれば難儀していた次第で、過ぎた歳月に比して技術スキルはたいして向上していないことが分かってしまいガックシです(笑)

今回は敢えて「焦点移動による残存収差を愉しむ」ことを目的としてこのモデルをチョイスしました。「焦点移動」が具体的にどんな違いを生ずるのかは、このページ一番最後の実写で解説しています。これを魅力と感じるのか「ダメじゃん!」と言うのか(笑)、好き嫌いが分かれるでしょうか。当方は楽しいと感じたので扱った次第です。

↑光学系内の透明度がこれでもかと言わんばかりに高い状態を維持していますし、LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

ところが光に反射させてチェックしてみると光学系第2群の表裏はコーティング層の経年劣化が進んでいて「清掃時の拭き残しのような汚れ状」が角度により視認できます。これは清掃しても除去できないコーティング層の劣化部分なのでクレーム対象としません (事前告知しているから)

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

2枚目の写真で筋状に汚れが見えているように写っているのは、前玉ではなく第2群の表面側コーティング層経年劣化部分でてす (清掃時の拭き残しではありません)。もちろんLED光照射してもこれらコーティング層の汚れ状部分は視認できません (キズではないしクモリでもないから)。

↑光学系後群側も貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 1つだけですが、やはりLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

ところがやはり前群側の第2群裏面側のコーティング層経年劣化進行に伴う「清掃時の拭き残しに見える汚れ状」が光に反射させると筋状に視認できます。同様清掃しても除去できません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:17点、目立つ点キズ:14点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
(極微細な点キズは気泡もカウントしています)
・第2群表裏のコーティング層経年劣化進行により光に反射させると清掃時の拭き残しのように見える汚れ状が角度により視認できますが清掃しても除去できません(事前告知しているのでクレーム対応しません)。但しLED光照射でも極薄いクモリには至っていません(LED光照射時は視認できず)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。筐体外装は一部が真鍮材 (フィルター枠側) ですが、その他も含め全て「アルマイト仕上げ」なので光沢感を元に戻す処置ができません。

ローレット (滑り止め) ジャギーの経年の汚れを取り除いてピカピカに清掃しました。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と重め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑実は、当方のトルク感として考えると距離環を回す時もう少し「重め」のほうが適切なのですが、このモデルのピントの山が非常に分かりにくくピント合わせを考えると、むしろこの程度の「軽め」のほうが操作し易いかも知れません。

然し、そもそも塗布した黄褐色系グリースの「粘性重め」は、これ以上強い粘性のグリースが当方には無いので重くすること自体できません。全体的な印象として「軽め」ですがご留意下さいませ (クレーム対象としません)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

なお、デジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する場合は、当方で基準マウントアダプタと設定している「K&F CONCEPT製」であれば問題無くマウント面の絞り連動ピンが押し込まれますが、マウントアダプタの製品によっては絞り連動ピンが正しく押し込まれない場合があります (つまりマウントアダプタとの相性問題があります)。

これは今回の個体特有の話ではなく、当時のISCO-GÖTTINGEN製オールドレンズでM42マウントのタイプ (絞り連動ピンを有するタイプ) に共通する話であり、これを以てクレーム対象とはしません (当方の責任ではないから)。ちなみに日本製マウントアダプタ「Rayqual製」でも正常使用を確認済です。

もちろんフィルムカメラに装着して使う場合は「半自動絞り」がちゃんと正常機能していますし、チャージレバーの強さも特に強くしませんでした。あまり強くし過ぎてしまうと確かに戻りが早くてシャコンと瞬時に戻るのですが、下手するとM42マウントなのでマウントが回ってしまい外れてしまいます。そこで今回は敢えて強さを調整せず「フンワリとのんびり戻る」チャージレバーの操作性のままにしてあります (決して戻らない/途中で止まることはありません)。

↑このモデルは「半自動絞り方式」なので絞り環は「プリセット絞り環」のみです。例えば今回設定絞り値を「f5.6」にセットすると仮定して、まずプリセット絞り環をマウント側方向に引き戻します (ブルーの矢印①)。そのまま回して基準「」マーカーに「f5.6」をもってきます ()。

↑基準「」マーカーと「f5.6」が合致したところでカチッと填るので指を離します ()。

↑この時、設定絞り値「f5.6」まで絞り羽根が閉じているので (f5.6を基準マーカーに合わせたから) ピント合わせするのに絞り羽根を開放状態に戻す為、チャージレバーをスライドさせてカチンと突き当たるまで動かします (ブルーの矢印④)。

すると絞り羽根がロックされて完全開放状態を維持し続けるので、ピント合わせしたらシャッターボタンを押し込むとマウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれて瞬時に設定絞り値「f5.6」まで絞り羽根が閉じるのが「フィルムカメラ装着時の操作方法」です。

今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) に装着使用する時は、マウント面の絞り連動ピンが押し込まれたままになるので手動絞り (実絞り) 方式になり「プリセット絞り環の操作で絞り羽根開閉させる」方式になります (別に絞り環が存在しないから)。

その意味で、当初バラす前のチェック時点ではプリセット絞り環がガチガチと硬い印象の操作性だったので、オーバーホールでは軽い操作性に調整しています (軽くカチカチと各絞り値で填る)。

つまりマウントアダプタ経由装着時はチャージレバーの操作は必要ありません (ブルーの矢印④の操作必要なし)。ピントを合わせたら設定絞り値までプリセット絞り環を動かせばOKです。

↑さて、では実際の「焦点移動」がどんな感じなのかをミニスタジオでの実写で解説していきます。

上の写真 (2枚) は、当レンズの最短撮影距離80cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

1枚目がヘッドライトにそのままピントを合わせた状態で、2枚目はヘッドライトとその周辺部の解像度をチェックしながら撮影しています (設定絞り値はいずれも開放状態)。距離環を回しただけでこれだけ描写に相違が出てきます。

↑同様1枚目はプリセット絞り環を回して設定絞り値「f4」で再びピント合わせして撮っています。2枚目は1枚目の状態のままプリセット絞り環だけを「f4」にセットして撮影しました。

↑1枚目が設定絞り値「f5.6」でピント合わせをまた行って撮っています。2枚目は単にプリセット絞り環を「f5.6」にセットしただけの撮影です。

するとこの時点で2枚目のピント位置がヘッドライト (手前側) から奥方向にズレているのがお分かりでしょうか? つまり「焦点移動」が顕著に出ている写真と言えますね。

↑1枚目がf値「f8」でピント合わせ実施後で、2枚目がそのままf値「f8」にセットです。既に背景のお城の模型のほうにピント面が大きくズレ始めています。

↑f値「f11」でピント合わせ後 (1枚目)、f値「f11」にプリセット絞り環をセットしただけ (2枚目) です。ミニスタジオの背景紙の柄のボケ具合をチェックすると1枚目もちゃんと変化しています。

↑f値「f16」での撮影です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

如何でしょうか?

開放での撮影では、本当にヘッドライトの電球部分にだけしかピントを合わせないなら1枚目の写真ですが、手前側のヘッドライト全体にピント面が来るように距離環を操作すると2枚目の写真になります。

つまり開放では被写界深度が非常に薄い (浅い) ワケで、すぐにピント面の周囲にハロを伴って収差が表出するのが1枚目です。以降各絞り値にセットするたびにピント合わせをその都度行っているのが各絞り値での1枚目の写真です。2枚目は開放状態で合わせたピント面のままプリセット絞り環だけを操作して絞り値を変更して撮影しています (すると焦点移動が始まる)。

ネット上の実写を見ていると、この「焦点移動」を知らないまま (このモデルが焦点移動していることを知らないまま) 撮影している人が多いように感じます。それが「クセ玉/駄目玉」「ハロが酷い/甘い描写」と言う表現に至る原因ではないかと推測しています。

何のことはなく距離環を回しても後玉の位置が変化していないのを見れば「???」となるハズなのに見落としています(笑) 何故なら、一般的なオールドレンズは距離環を回せば後玉の位置も前玉と一緒に変化しているハズだからです。

それに気がつかずに使っているから酷評にしか成り得ません・・(笑)

当方はむしろ、この「焦点移動」がそれこそ2本分の描写性を1本で愉しめると面白くて仕方ありません(笑)

どっちで撮影しも良いワケで、ボケ味や残存収差の状況をチェックしながら写真を残していけば良いと思います。裏を返せば、このモデルは他のオールドレンズよりも、さらにジックリ撮影するのが醍醐味とも言えるのではないでしょうか?

ちなみにこのモデルの冒頭写真のタイプは一般的な光学系設計ですから (鏡筒が丸ごと直進動する全群繰り出し式)「II型」と当方では呼んでいます。もちろんその他のいろんなモデル銘で登場したタイプも同じ光学系なので、その意味では唯一前玉が「回転繰り出し式」なのが当モデルと言えます。

3群4枚テッサー型の中ではちょっと珍しい設計ですね・・。

なお、今回の出品に際しサンプルを30本調べましたが、製造番号を基に時系列で並べると「I型/II型」の区分け、或いはその後のモデルなども全て混在してしまいます。従って製造番号だけではモデルバリエーションの相違を把握できませんでした。