◎ OLYMPUS (オリンパス光学工業) OM-SYSTEM ZUIKO MC AUTO-W 28mm/f2《後期-I型》(OM)

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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


ネット上を検索すると当モデルの情報はそれほど多くヒットしません (海外/国内数件程度)。
しかしどのサイトを見ても、このモデルの光学系に「昇降機能」が備わっていることを案内していません。特に国内の整備している人のサイトを見ても何ら記載がありません。

同様に、国内のサイトを見ると当モデルの描写性について、ピント面は格下廉価版モデルの「28mm/f2.8」のほうが鋭いと案内されており、明るい開放f値に採ってきた当モデルは意外と酷評だったりします(笑)

ところがキッチリ「昇降機能」の調整を施せば、このブログ一番最後の実写のとおりとても鋭いピント面を確保してくれます。今回オーバーホール/修理を承った個体の状況も、過去メンテナンス時の「不適切な整備」からピント面の鋭さが足りなかったことが判明しています (証拠あり)。

逆に言えば、ネット上で酷評を得ている個体は過去メンテナンス時の調整が上手くない懸念が高いとも考えられますね。そもそもコストを掛けて割高な価格設定で発売してきた上位モデルが下位モデルよりピント面の鋭さが劣るなど、いくら当時の話だとしても日本の光学メーカーに於いて考えられない話です (当時の日本工業技術はそれほどいい加減ではなかったハズ)。

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1972年にOLYMPUSから発売されたフィルムカメラ「OM-1」の交換レンズ群として用意された広角レンズ群の中で最も明るい開放f値「f2」を採ってきたモデルです。同一開放f値では他の焦点距離で「21mm/24mm/35mm」まで用意されています (1973年5月にOM-1と改名)。

上の一覧は当時の「OM-1」説明書に記載されているオプション交換レンズ群から広角レンズの部分だけを抜粋しました。するとモデル銘が「I.ZUIKO AUTO-W 28mm/f2」と印刷されています。

一方上の一覧は1975年に発売されたフィルムカメラ「OM-2」の取扱説明書から同様に交換レンズ群の広角レンズ部分を抜粋しました。
既にモデル銘が「MC」タイプに変わっています。

すると1972年〜1975年の僅か3年の間にマルチコーティング化が進んで一斉に (順次) モデルチェンジしてきたことになりますから、相当な意気込みだったのではないでしょうか? かく言う当方も社会人に成り立ての頃なので(笑)、カメラ店に足繁く通ってはフィルムカメラに魅入っていたのを覚えています。硝子ケースの中のOM-1が何とも小ぶりで粋に見えて必ずその場で立ち止まっていましたね (数年後実際に買ったのは職場の上司が執拗に勧めたNikonのF-3だったりします)(笑) まぁ〜当時から長いモノにはグルグルと巻かれてしまうタチだったのでしょう(笑)

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

後期-I型

レンズ銘板MC刻印:あり
フィルター枠/絞り環の銀枠飾り環:あり
コーティング:マルチコーティング (パープルアンバー/シアン)
光学系構成:8群9枚 (レトロフォーカス型)

後期-II型

レンズ銘板MC刻印:無し
フィルター枠/絞り環の銀枠飾り環:無し
コーティング:マルチコーティング (パープルアンバー/グリーン)
光学系構成:8群9枚 (レトロフォーカス型)

本来は「前期型」として「I.ZUIKO AUTO-W 28mm/f2」があるハズなのですがネット上を探しても写真が見つかりません (発売されていたのか?)。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様を集めています。繊細でキレイな真円のシャボン玉ボケ表出は難しいようですが、意外と汚く破綻せずに円形ボケへと変わります。

二段目
ピント面を左から2枚ピックアップしましたが、ご覧のとおり酷評されるほど甘い印象のピント面ではないと思います。コントラストもナチュラル的な印象ですがシ〜ンによってはガラッとコッテリした発色性にもなるのでよく分かりません。

三段目
ダイナミックレンジがそれほど広くありません (左端) が、ディストーションが非常によく抑えられており気になる歪みが出てきません。数多くのジッ社保観て感じたこのモデルの魅力は「リアル感」ではないかと考えました (現場の臨場感溢れる描写性)。

光学系は8群9枚のレトロフォーカス型構成です。右図の構成図はOLYMPUSの当時のカタログに印刷されていた図からトレースした構成図ですが、各群のサイズや曲率が今回の「後期-I型」とは異なります。それは第1群 (前玉) からして違いますし第4群のカタチでより明確ではないでしょうか

そして今回の個体「後期-I型」及びその後に登場した「後期-II型」共に右の構成図になり光学系が再設計されています。

特に最も分かり易い相違点は第4群のカタチで「前期型 (カタログからトレース)」では貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) が「両平レンズ」として設計していました。

ところが「後期-I/II型」では曲率が加わった「凸平レンズ」に設計変更されています (前玉側が緩やかな凸)。もちろん「前期/後期」の別なく最短撮影距離も同じ30cmのままですから、この光学系の再設計は「マルチコーティング化」による解像度向上と収差改善に伴う設計変更ではないかと推察しています。
右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

なお冒頭解説のとおり、このモデルは後群側に「昇降機能」が附加されており、第8群 (後玉) を固定として ( 部分) その直前第5群〜第7群までが一体になって昇降します ( 部分のグリーンの矢印)。つまり光学系後群格納筒に固定されるのは最後の第8群 (後玉) だけであり、その直前が丸ごと距離環を回すと一緒に直進動していることになりますね。

すると当モデルの描写性を決定づけてしまうのは「昇降機能の調整が命」と明言できます。その根拠を今回のオーバーホール工程の中で解説していきたいと思います。

なお余談ですが、海外のオークションサイト「ebay」で以下のようなレンズが出品されています。なかなか惹かれるモデルですね(笑) オールドレンズを改造してしまうのではなく、このように「創作」するのも、また新たな所有欲に駆られますョね?(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。OLYMPUS製オールドレンズは、そのほとんどのモデルがフィルムカメラ本体の大きさに倣い「コンパクトな筐体サイズを大前提」としている設計なので、必然的に内部の構造は複雑化して、且つ限られたスペースを可能な限り有効活用しています。ある意味当時の日本の工業技術を目の当たりにするような「細部まで考え尽くされた設計」であることがバラせば一目瞭然です。

もちろん各部位との連係やチカラの伝達経路は「ビミョ〜な調整」が必須なので、ハッキリ言ってOLYMPUS製オールドレンズをキッチリ完璧な状態に調整して仕上げられる人はそれほど多くないと思います。「原理原則」を熟知していない限り調整の良し悪しを判断できないと考えますね。

↑上の写真は当初バラした直後の清掃する前に撮影した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返した写真です。

今回のオーバーホール/修理ご依頼は以下内容のになりますがチェックしてみると今回もいろいろと出てきました。

【当初バラす前のチェック内容】
 オールドレンズを振ると内部からカラカラ音が聞こえる。
距離環を回した時∞刻印手前で詰まって停止してしまう。
 絞り環操作すると時々動かなくなることがある。
実写確認するとピント面が甘い印象 (ピントの山が不明瞭)。

【バラした後に確認できた内容】
内部パーツが1個外れていた (上の写真赤色矢印)。
 絞り値伝達アームが変形していた。
昇降筒内部がフリーになっている。
昇降筒制御環の調整がテキト〜。
距離環固定位置が不適切なので相当なオーバーインフ量。

・・とこんな感じです。

上の写真で解説すると、まずオールドレンズ内部にカラカラ音を伴い脱落していたのは「昇降キー」のシリンダーネジでした (赤色矢印)。このキーは本来グリーンの矢印のように昇降筒に刺さっていなければイケマセンが、脱落してしまったので昇降筒内部の光学系第5群〜第7群までが勝手な位置でテキト〜に動いていました。

つまりこんな状況だったので、当初バラす前の実写確認で非常に甘い印象のピント面に堕ちていたのが (もぅこれだけで) 納得です(笑)

何故そう言えるのか?

そもそも「昇降機能」を附加した設計をしてきた時点で、当モデルの描写性が甘い印象の画に堕ちてしまうハズがありません。逆に言えばそんな描写性のモデルにどうしてコストを掛けてまで開発したのか納得できる説明が思い付きません(笑)

次に、過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」をブルーの矢印で指し示していますが「昇降筒」内部は経年劣化から「濃いグレー状」に変質し、且つ粘性を帯びていました。

↑こちらの写真は、さらに「昇降筒」を取り出して撮っていますが、ご覧のように「濃いグレー状」です。ベトベト感が分かるでしょうか?

↑さらに問題だったのが絞りユニットから飛び出てくる「設定絞り値伝達アーム」がご覧のようにひしゃげて変形している点です (赤色矢印)。

すると、実はこれらの事柄から過去メンテナンス時の所為が目の前に浮かび上がり、同時にどうして今回のような不具合に至ったのか、その経緯までが明確になってしまいました。

根本的な原因は、過去メンテナンス者が「原理原則」を理解しておらず、単にバラしたのを組み戻しただけだからです。その際ミスをしており前述の脱落していた「シリンダーキー (ネジ)」を最後まで締め付け忘れています。

おそらく「シリンダーキー」の頭部分が飛び出たまま組み上げてしまったのだと推測します。するとこの昇降筒の真ン前に上の写真の「設定絞り値伝達アーム」が弧を描いて移動しているので、飛び出てきたシリンダーキーによってアームが変形したことが予測できます

そのまま操作しているうちに、とうとうシリンダーキーが脱落しましたが、その際シリンダーキーのネジ山まで損傷しています (正しくはネジ山の一部が擦り減っている)。

やがて脱落したシリンダーキーは光学系前後群の露出している箇所に当たったりしながら (一部にキズが付いているから分かった) 絞りユニットに到達して最後は絞り環操作にまで影響を来していました。

つまりは行き着く処まで行ったと言うワケで長い旅の終わりだったのでしょうか・・。

↑ここからは完全解体したパーツに当方による「磨き研磨」を施し、組み上げていく工程を解説していきます。絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

↑OLYMPUS製オールドレンズのほとんどのモデルで、ご覧のような絞りユニットのベース環が使われています。このベース環に様々な制御系パーツがギッシリとセットされます。もちろん絞り羽根をセットした後に右側の「メクラ環」を被せて絞り羽根が脱落しないようにします。

つまりほぼ全ての制御系を鏡筒内 (しかも光学系の前後群に挟まれた限られた空間) に詰め込んだが為に、絞り羽根を固定することを諦めてしまいました。ほぼ全てのモデルで絞り羽根は「単にメクラ環を被せて脱落を防いでいるだけ」と言うある意味簡素な絞り羽根固定方法を採っています。しかしその被せるメクラ環はちゃんと絞り羽根に負荷を与えず、然しシッカリ脱落を防ぐ「凹凸処理」が施されており、且つ「鏡面仕上げ」になっています。

よくOLYMPUS製オールドレンズをバラしていると、この「メクラ環」が錆びたまま使われていることが多いです。しかし絞り羽根が接触する箇所なのだとすれば製産時点の「鏡面仕上げ」の理由も明確なワケで、それを錆びたまま過去メンテナンス時に使ってしまう理由が分かりませんね(笑) そもそもこれだけで「原理原則」が蔑ろにされていることが分かります。

↑OLYMPUS製オールドレンズニ使われている絞り羽根の多くは、ご覧のように片方が「単なる穴」でキーの代用としている設計です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

↑絞りユニット内部で使うので、当初バラした直後に変形していた「設定絞り値伝達アーム」を正しいカタチに戻します。

とは言っても、ここでは仕方ないので単に垂直に戻すだけです。実際は最後まで組み上げてマウント部がセットされて初めて「適正な弧を描いた動き方をしているのか」をチェックしなければイケマセンし、もしもその時点で引っ掛かりが生じていればここまで戻って (再びすべて解体して) 調整をし直さなければダメです。

変形していた箇所は垂直状に立ち上がっている部分ですが、赤色矢印は伝達アームそのモノです。しかしブルーの矢印の箇所はマウント部がセットされた時点で「弧を描いて動く為に避けている箇所」なのでカタチが問題になります (つまり最後に再調整が必要)。またグリーンの矢印のスリット (切り欠き部分) が少しでも変形していると「絞り羽根の開閉異常」に至る原因になるので要注意です。

たかがアームですが、これだけの「原理原則」が関わっているワケで、それを気がついているか否かが整備時のポイントになってきます。

↑ベース環に各構成パーツをセットします。このベース環裏側には既に絞り羽根 (8枚) を組み込んでおり「メクラ環」を被せています。

↑こんな感じで鏡筒 (ヘリコイド:オス側) 最深部にセットされます。

↑ここからが「昇降機能」の解説になります。光学系後群の格納筒は上の写真中央の「格納筒」です。右端の「昇降筒」が中央の「格納筒」の中に入り、それから「格納筒」がそのまま左側の「制御環」に入ります (ブルーの矢印の順番)。

今回の個体で内部に脱落していた「シリンダーキー」は、本来グリーンの矢印 (左側) のように「制御環」に入りますが、実際は「格納筒」を貫通して内部の「昇降筒」の穴に刺さります (右側のグリーンの矢印)。従って上の3つのパーツが1セットで光学系後群を構成していることが分かると思います (つまり昇降機能)。

するとここからがポイントなのですが、過去メンテナンス時に調整されなかった箇所 (の問題点) がオレンジ色矢印になります。

格納筒」には切り欠きが用意されており、そこを「シリンダーキー」が貫通して内部の「昇降筒」に刺さっているワケですが、外側の「制御環」が回ることで同時に内部の「昇降筒」も回っていることに気がつかなければイケマセン。

しかも・・!

実はこの「制御環 (左側)」も距離環と接続 (連係) します。つまり距離環を回すと同時に (連動して) 最終的に内部の「昇降筒」が回っている点に思い至らなければイケマセン。その時、中央の「格納筒」の切り欠き部分は、よ〜く観察すると斜め状に「勾配が用意されている」のがポイントです。

その高低差「僅か1mm弱」ですが、この高低差で内部の「昇降筒」が前後動しているワケで、且つそれは距離環を回した時の動き方です。

何を言いたいのか?

中央のオレンジ色のラインで囲った「格納筒」の切り欠き部分の長さ (範囲) が距離環の駆動範囲と大きく関わっていることが非常に重要なワケです。過去メンテナンス時にここの調整をミスったから「甘いピント面に堕ちた」ワケであり、それは距離環の動きに適した「昇降筒」の位置に設定されていなかったことに至ります。

つまり過去メンテナンス時の調整が拙いのです (制御環と距離環の連係部分の固定位置が違っていたから)。

こんな感じで「シリンダーキー」がセットされ (グリーンの矢印) ますが、今回のオーバーホールでは赤色矢印で指し示したとおり、当方は一切グリースを塗りません。

何故なら、前述の解説をご覧頂ければ一目瞭然ですが、右端の「制御環」がアルミ合金材であるのに対し中央の「格納筒」と右端の「昇降筒」は真鍮製です。しかも「昇降筒」の外側は一面「鏡面仕上げ」の設計です。

何を言いたいのか?

真鍮材を使ってワザワザ鏡面仕上げにしている箇所に「グリースを塗ってはイケナイ」のが「原理原則」だからです。そもそも製産時点で「鏡面仕上げ」した理由を考えなければダメなのに、それをしません(笑)

何も考えずに単にバラして組み戻しているだけだからこのような過ちを平気で起こします

どうしてアルミ合金材のパーツなのか? どうしてそこに真鍮材を使うのか?・・逐一「観察と考察」するのが最終的に適切な調整を見出し完璧な状態に仕上げられる近道でもあります。

なお、当初バラした直後にこの「昇降機能」の内部に「濃いグレー状」に白色系グリースの劣化進行していた理由は、真鍮材よりも軟らかいアルミ合金材のほうが摩耗してしまったからです (だからグレー色/真鍮材の茶色ではない)。と言うことは「鏡面仕上げ」が重要なのだと気がつかなければダメですね(笑)

また、印を附加したのは理由がありますが後ほど出てきます。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑変形していた「設定絞り値伝達アーム」が隙間から顔を出しています。この隙間部分を弧を描いて動くので、ここで引っ掛かっていてはダメだと言うワケです。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。当初バラした直後はこの内部にも過去メンテナンス時に塗られてしまった「白色系グリース」が経年劣化で液化が進行しヒタヒタと附着し、一部パーツにはサビが生じていました。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施しセットします。

↑完成したマウント部を基台にセットします。

↑距離環を仮止めして組み付けます。

さて、ここがポイントで、前述のとおり「昇降機能」からすれば「制御環」がこの距離環と連結しているハズです。実際既に連結が終わっている写真ですが、具体的な描写性をチェックしないかぎり「昇降機能」が適正か否か判断できません。つまりここの工程では単に距離環を組み付けて「制御環と連係させるだけ」です。

↑絞り環を組み付けてこの後は光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

↑しかし、前述のとおりこのモデルは「昇降機能」を有する為、ご覧のようにマウントアダプタを装着して描写性を調整していく作業に入ります。

つまり、ここからが本番であり距離環を回して実写チェックし、ちゃんと鋭いピント面が出ているのか確認します。例えば距離環が無限遠位置「∞」の時のピント面の鋭さは「昇降筒」の位置が、その高低差「1mm弱」の中でどの位置の時に最も鋭いのか?

或いは距離環を回して1m刻印の時「昇降筒」のポジショニングはどうなのか? 前述の「格納筒」にあるオレンジ色ラインで囲った切り欠き部分の範囲と距離環の駆動域との関係を調整するのが必須作業です。それがOLYMPUS製オールドレンズに「昇降機能」が附加されている際のポイントになりますね。

このモデルはそんな簡単な整備では仕上がらず、ハッキリ言って単に組み上げるだけでは全く刃が立ちません。その意味で「高難易度モデル」の一つです。今回のオーバーホールではここまで組み上げて実写確認後に期待通りの鋭いピント面に至らなければ、前述の途中の工程印まで戻って (再びバラして) 再調整している次第です (だから時間が掛かる)。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑「昇降機能」の調整で4時間ほど費やし、ようやく納得できる鋭いピント面に至りました。これがプロのカメラ店様や修理専門会社様ならばおそらく2時間もあれば組み上がってしまうのでしょう。技術スキルが低い当方はビッチリ8時間掛けての「一日仕事」です(笑)

しかも当方は、ヤフオク! で信用/信頼が非常に高い出品様が仰るとおり「勘に頼った手による整備」であり(笑)、検査機械など一切無く、単に「簡易検査具」でチェックするしかできませんから、このブログをご覧頂く皆様も重々ご承知置き下さいませ。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。第3群のメクラ環にキズがあり擦れて用になっていたので目立たないように処置しています (だから光学系内が真っ黒になっている)。

↑光学系後群側も極薄いクモリが皆無ですが極薄い微細なヘアラインキズ (実際はコーティングの細線状の剥がれ) が数本残っています。コーティング層の経年劣化が相応に進行しているので、前述のとおり当方では「昇降筒」に関わる箇所には一切グリースを塗っていません。少しでも将来的な揮発油成分を減らしてコーティング層の劣化を防ぎたいからです。

設定絞り値伝達アーム」もご覧のように引っ掛かりも無く正しく機能しています。

↑8枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生ずることもありません。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリースの「粘性中程度軽め」を使い分けて塗りました。距離環を回すトルクはこのモデルのピントの山がアッと言う間で、しかも広角レンズなのでワザと (故意に)「軽め」のトルク感に仕上げています。「普通」か人により「軽め」に感じるトルク感で「全域に渡り完璧に均一」です。

距離感を増すと一部でヘリコイドのネジ山が擦れる感触を伴いますが黄褐色系グリースの性質なので改善できません。

↑マウント部ロック解除ボタンの操作が不確実だったり、プレビューボタンでちゃんと絞り羽根が絞り込まれなかったり、或いは距離環を回して無限遠位置まで回らなかったり、絞り羽根が閉じない/開放まで開ききらない等々 (いずれも再現性が無い現象ばかり)、様々な問題点がありましたが全て完璧に改善できています。

無限遠位置 (当初バラす前の位置は相当なオーバーインフ量だったので適正化しています)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

当初バラす前の実写確認では、ここまで鋭いピント面に至らなかったので (ピントの山が分からないくらいだったので)、だいぶ改善できていると思います

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」での撮影です。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響がだいぶ抑えられているので、やはり開放f値「f2」としての光学設計がモノを言っているのではないかと考えます。決してピント面が甘い印象のモデルではないと思うのですが・・。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまいホントに申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。

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【事後談】

オーバーホールが完了しお届けしたところ、届いたご依頼のオールドレンズを試写されている最中に小さなネジがポロッと1本出てきてしまい、且つ距離環が動かなくなり絞り環も停止してしまいました。また無限遠位置が適合していないとのこと・・。

【お届け後の不具合内容】

小さなネジが1本出てきた。
距離環が動かなくなってしまった。
絞り環が最小絞り値で停止。
マウントアダプタ装着時に無限遠合焦せず。

↑お届けしてポロッと出てきてしまった小さなネジは上の写真赤色矢印のネジでした・・。

4時間掛かりで光学系内の「昇降筒」の制御位置を微調整している最中に、何度も何度もバラして調整し直していたのですが、その最中にマウント部内部の赤色矢印のネジ締め付け (硬締め) を失念してしまったのです。

過去メンテナンス時のミスを散々指摘しておきながら、このような失態・・(泣)
誠に申し訳御座いません・・。
恥ずかしい限りです。

お届け後の不具合の原因の解説でした。また不具合については次の解説になります。

↑上の写真赤色矢印のパーツは鏡筒内部の絞りユニットから飛び出てきているアームですが、このアームの傾きが適合していませんでした。つまり最初のほうの工程で解説していた「設定絞り値伝達アーム」の他にこのアームもほんの極僅かですが変形していたようです。

オーバーホール工程の最中は単に垂直状態を維持していればOKなのだろうと考えてチェックしただけだったのですが、極僅かにカタチが適合していませんでした。申し訳御座いません・・。

やはり「コの字型」部分の捻りが足りていなかった為に連係する環から外れてしまい距離環/絞り環が共に停止してしまいました。原因が判明したので適切な傾きに再びバラして調整しセットしました。

これが不具合の原因と解説です。

なお、マウントアダプタ装着時に無限遠が足りていない (つまりアンダーインフ状態) なのは、当方の基準マウントアダプタ「K&F CONCEPT製」ではやはりピタリと合致していました。しかしご依頼者様のRayqual製マウントアダプタ (或いは他の中国製も含め) アンダーインフ状態とのお話です。

今回一緒にRayqual製マウントアダプタをご返送頂ければ良かったかも知れませんが、取り敢えず無いので当方の基準マウントアダプタにて僅かにオーバーインフになるよう再びバラして調整しました。現状∞刻印僅か手前位置で無限遠合焦するよう再調整しました。

これ以上オーバーインフ量を増やすとだいぶ手前位置で無限遠合焦してしまうので、それはそれで問題ではないかと考えました。

なお、星座を実写されて極僅かな偏心が確認できるとのお話ですが、大変申し訳御座いません。当方では簡易検査具を使ったチェックしかできないので、現状の「昇降筒」調整が限界です (これ以上の精度は目視でチェックできません)。もしもご納得頂けないようであれば電子コリメーターを使って検査 (10倍の精度で検査できます) されているプロのカメラ店様や修理専門会社様宛に、大変お手数ですが再度「偏心」についてのみ調整依頼をお願い申し上げます。大変申し訳御座いません・・。

以上、オーバーホール完了後の不具合についての原因と解説、及び再調整が完了しました。

ご面倒ご迷惑をお掛けし大変申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます・・。
当方の技術スキルはこの程度ですので、このブログをご覧頂いている皆様もどうか重々ご承知置き下さいませ