解体新書:LZOS (Lytkarino) INDUSTAR-61 L/Z-MC 50mm/f2.8《後期型》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます


今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧ソ連時代のLZOS製標準レンズ『INDUSTAR-61 L/Z-MC 《後期型》(M42)』です。


この企画『解体新書』は、ヤフオク! で「オーバーホール済/整備済」などを謳って出品されているオールドレンズをゲットし、当方で再び解体して内部の状況を調査していく企画です。
(当方の技術スキル向上のために参考にさせて頂くことを目的としています)

  ●                 

今回の機会を得たのは、いつも当方を懇意にして頂いている方の御協力です。「人柱精神」の賜物であり本当に感謝しています。この場を借りてこのような機会を得たことにお礼申し上げます。ありがとう御座います!

今回扱ったオールドレンズは、現在もヤフオク! で毎週10本前後のオールドレンズをオーバーホール済で出品していらっしゃるプロの方の出品商品です。ロシアンレンズや旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製広角レンズ「Flektogon 35mm/f2.8 zebra」などを定番的に取り扱っていらっしゃいます。

その中から今回は、ロシアンレンズのLZOS (Lytkarino:リトカリノ光学硝子工場) 製標準  レンズ『INDUSTAR-61 L/Z-MC 《後期型》(M42)』を扱ってみました。俗に「ダビデの星」と呼ばれる「星ボケ」が表出する、最短撮影距離30cmの「なんちゃってマクロ」な寄ることができる標準レンズです。

ロシアンレンズを初めてご覧になる方のために基本的な前提を話しておきます。

当方では「ロシアンレンズ」と呼んでいますが、第二次世界大戦後の旧ソビエト連邦 (ソ連) 時代から現在に至るまでに生産されていたオールドレンズの総称として使っています。

ソ連 (現ロシア) は社会主義体制国家でしたから、戦後1949年のCOMECONを基に旧東ドイツを初めとする東欧圏の技術と市場を手に入れ、中央集権型の計画経済 (統制型経済体制) を推し進めていました。私企業の概念を廃した国営企業 (旧東ドイツでは人民所有企業/VEB) の体系として、5カ年計画に則り全ての産業工業を国家一元管理していたようです。
よくネット上で頻繁に「人民公社」が使われていますが、同じ社会主義体制でも国によって企業の呼称や概念が違うので「人民公社」はどちらかと言うと中国のほうが当てはまるのではないかと考えます (中国製オールドレンズはまだ知識が皆無なので何とも断言できませんが)。

従ってオールドレンズに於いては、ひとつのモデルを複数工場で並行生産しており、どの工場で生産されたモデルなのかを表すためにレンズ銘板に「生産工場を表すロゴマーク」を刻印しています。実際には光学系の設計だけが同一で、それ以外は各工場の設計に任されていたようなので、同じモデル銘でも異なるカタチのタイプが混在していますし、マウント別に違う工場で生産している場合もあるようです。

【旧ソ連の戦後に於けるカメラの生産】
旧ソビエト連邦に於ける公示されている各産業分野別の商品別生産台数統計値を見るとレンズの項目は無くカメラのみ公示されている。
カメラの生産は戦後1948年の157,400台から始まり、1955年には100万台を突破し1970年に入り200万台に達している。従って、戦後1945年〜1947年の2年間に於ける年間数百台の生産数はプロトタイプの生産数を示し、量産化開始は1948年と捉えるのが適切と考える。

【旧ソ連の各工場の性格】
旧ソビエト連邦に於ける産業工業5カ年計画に基づく各工場の性格をみると、特にオールドレンズの分野に関して大きく2つに区分けされる。旧ソ連軍を含む軍需生産を主体とした重機械工業生産 (艦船・戦車/装甲車などを含む軍用車両・軍用航空機) を行っていた「工廠」と、各民生品分野別の「専業工場」とに大別されると考えられるので、例えばKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) では軍用重機械工業を主体としながら、光学硝子製品の生産も並行して行っていたと考えられる。

  ●                 

今回出品するモデルは「LZOS (Lytkarinskii Zabod Opticheskogo Stekla):リトカリノ光学硝子工場 (専業工場)」にて生産された標準レンズで、1958年にGOI (Gosudarstvennyy Opticheskiy Institute) 光学研究所でプロトタイプが試作された、3群4枚のテッサー型光学系実装のモデルになります。
後の1965年にはLZOSでの量産化が始まり、最短撮影距離30cmの諸元を満たすため光学系が再設計され生産がスタートしました・・2000年代まで生産が続けられたようなので、相当な息の長さです。なお、LZOSのロゴマークの意味は「三角や丸形の硝子レンズを生産する光学硝子工場」の意味になり、それらのカタチをマークにしています。

M42マウントのモデルバリエーションは少なく、光学系の設計変更もないままに筐体外装の指標値刻印を変更しただけの相違しかありません。左の写真で左側が「前期型」で右が「後期型」です。

しかし、光学系はコーティング層を多少イジった個体が存在しており、「アンバーパーブル」「アンバー」「アンバーパープル/グリーン」の3つの光彩を放つタイプが混在して市場には流れています。今回出品する個体は、その「アンバーパープル」の光彩を見る角度によって放つタイプになります。

  ●                 

なお、前述のプロの方の情報として、生産年代別の一部にカタチが異なる絞り羽根が実装されている個体が存在するとのことです・・。その結果「星ボケ」が表出しないようですが、当方ではまだ未確認の情報です。

その写真を見ると確かに絞り羽根のカタチが全く異なりますが、そもそも「キー」と言う絞り羽根に打ち込まれている金属棒が片側に2本集まっているので、鏡筒の仕様自体が全く異なります。そのプロの方は、星ボケが出るモデルから絞り羽根を移植しようと試したようですが (つまり絞り羽根を入れ替えれば解決すると言う安直な考え)、このモデルの場合は絞り羽根の表裏に1本ずつキーが打ち込まれているので、適合するワケがありません(笑)

つまり絞り羽根が刺さる「位置決めキー」の位置からして鏡筒の設計仕様が全く異なります。どのモデルだったのかスッカリ忘れてしまいましたが、このモデルのプリセット絞り機構とほぼ同一の仕組みを実装した別モデルが存在したと思います。おそらく、その鏡筒を移植してきたいわゆる『創作レンズ』の類ではないかと推測しています。


上の写真はFlickriverにてこのモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「シャボン玉ボケ・円形ボケ・玉ボケ・星形ボケ」で下段左端に移って「油絵風?・被写界深度・動物毛・逆光」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

このモデルの特徴であるダビデの星「星形ボケ」は、上段右端の4枚目ですが、シャボン玉ボケやリングボケ、或いは玉ボケなどの真円に近い円形ボケもちゃんと表出させることができますが、基本的にボケのエッジが際立ってくるので円形ボケはスキルが必要かも知れません。

そして下段左端の1枚目「油絵風」と言うのは、何だか分かんない写真だからなのですが(笑)、二線ボケなのか背景のエッジが出過ぎているのか、そもそも何を撮影したのか全く分からないにしても、この描写には魅力を感じてしまいます。

被写界深度はそれほど狭くありませんし動物毛や逆光もこなれた感じです。フツ〜に使い出があって、しかも最短撮影距離30cmと「なんちゃってマクロ」なところが良さそうですね。

光学系は典型的な3群4枚のテッサー型ですが、もちろんオールドレンズのモデルに拠って光学系の設計は全く別モノになります。
右図は当モデルの構成図ですが、最短撮影距離を30cmに採ってきたことからも硝子材の屈折率を考慮していることが窺えます。

なお、レンズ銘板の刻印はロシア語のキリル文字で刻印表記されているので「ИНДУСТАР-61 Л/З-МС 2.8/50」ですが、マルチコーティングを表す「MC」はキリル文字なのでラテン語/英語の「Multi Coating/Multi Coated」のMCではありません。一部のネット上サイトで解説されている「MCだけ英語表記」と言うのも、少々こじつけ的な発想だと考えます。

従って、このモデルのロシア語キリル文字表記をそのままラテン語/英語にすると「INDUSTAR-61 L/Z-MS 2.8/50」になり「MC」は「MS」です。つまり「MC」の表記は、ロシア語キリル文字の「Многослойное Cлоев (多層膜重ね合わせ/多層レイヤー)」ではないかと考えています (まだ確証は得ていません)。

また、実際にGOI光学研究所の光学仕様諸元の附随ファイルを確認すると、モノコーティングのモデルよりもマルチコーティング化したモデルのほうが、具体的な収差や解像度の実測データで改善/向上が顕著であり、その描写にも相違が表れていると考えます。

先ずは、今回調達した前述のプロの方がオーバーホール済でヤフオク! に出品していた個体の整備状況から調べていきます。

↑まず解体する前にチェックしたところ、上の写真のとおりグリーンの矢印箇所に「油染み」が出てきています。この個体がヤフオク! に出品され落札されてから (つまりオーバーホール されてから) まだ一カ月しか経過していませんから、経年劣化に拠る揮発油成分が染み出て くるとは考えられません。

また、距離環を回すと「擦れている箇所」があるように感じます。この擦れる感触は「白色系グリース」に多い現象なのでバラしてみれば分かります。同時に、実際にピント合わせしてみると「スリップ現象」が極僅かですが発生しており合焦点でククッと微動するような印象です。

↑このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割方式なので、マウント部にある鏡胴「前部」締め付け環を外せばゴロッと「前部」が取り出せます。

その締め付け環が上の写真ですが、2本あり本来は上の写真左側が下側環で右が上側環 (つまり露出しているほうの環/リング/輪っか) です。その証拠として「固着剤」で固定していた痕が残っています (赤色矢印)。

ところが、今回バラしてみると固着剤が付いている環が下側でした。故意に逆に入れているのですが、これはヨロシクありません。ワザワザ2本の環で締め付け固定している理由を全く 考察していません。

下側環をキッチリ締め付けた後に上側環を再び締め付けることで、下側環の経年の緩みを防ぐ目的で2本の環を使って締め付けています。これを逆にすると固着剤が残っている分締め付け時に「浮き」が生ずるので、経年の間に緩みが発生しかねません。この締め付け環が少しでも緩むと鏡胴「前部」が浮くのでガタつきの原因になりますし、最悪の場合は光路長がズレてしまい甘いピント面に陥ります。

単なる固定用の締め付けリングだと考えバカにすると、このようなことになります。おそらく固着剤が残っている環が外側だとみっともないので逆に入れたのだと推察しますが、だとすれば固着剤を溶剤で除去してしまえば済むだけです。「手間を掛けずに隠した」と言うのが本当のところでしょうか(笑)

↑鏡胴「前部」を取り外してから鏡胴「後部」をバラしました。鏡胴「後部」はヘリコイドが配置されているだけなのでシンプルです。基台と共にヘリコイド (オスメス) を解体したところです。

グリーンの矢印で綿棒を指し示しましたが、たった一カ月間で既にグリースは「濃いグレー状」に一部が変色しています。

↑拡大撮影しました。グリーンの矢印のとおり、相当な量のグリースが塗られています。

↑こちらはヘリコイド (オス側) を拡大しましたが、やはり一部に「濃いグレー状」に変色したグリースがあります。

↑当方が「変色した」と明言している理由が上の写真です。何と綿棒を4本も使うほどの量で グリースが塗られていましたが(笑)、ご覧のような「半透明な乳白色」のグリースです。乳白色が「グレー状になる」原因は、ヘリコイドのネジ山であるアルミ合金材が摩耗してしまったからです (摩耗粉が混じっているからグレー状に変色する)。

このプロの方は、オーバーホールのためにバラす時に「ニトリスト (ビニル手袋)」を使っていらっしゃいます。当方はそのような手袋の類を一切使用せず、バラす時も組み上げ時もすべて素手です。これには理由があり、バラす時は古いグリースの粘性を確認するためにワザと素手で触って、且つ指でグリグリします(笑) もちろん洗浄や「磨き研磨」が終わって組み上げの工程に入っても、やはり素手です(笑)

1月末に金属加工会社を経営していらっしゃる社長さんに、ロシアンレンズに使えるグリースを見立てて頂きましたが、その時のお話でグリースが変色するのは、アルミ合金材が反応して摩耗粉が混入しているからだと伺いました (従って当方の考察が正しかったことになります)。

また、その時持参したロシアンレンズの古いグリースを、やはり社長さん自ら指でグリグリされましたが (当方と同じだったのでビックリ)、油成分が非常に強いグリースとのことです。

ロシアは国土に氷点下40度と言う極寒地帯を含む為「金属凍結を防ぐ」意味から油成分の強いグリースを多量に塗布していると言うのが当方の考察でしたが、それも正しいとのお話です。普通オールドレンズの場合は、絞りユニット内部にまでグリースを塗布しませんが、ロシアンレンズは多量に塗られているのが常です。絞りユニット内部が金属凍結で凍ってしまい、それを察知しないまま絞り環を強く回すとアッと言う間に絞り羽根 (のキー) が破断します。それを防ぐ意味から絞りユニット内部にまでグリースを塗るので、必然的に「ロシアンレンズ=絞り羽根の油染みが酷い」と言う方程式が成り立ちます。

ところが、それはあくまでも氷点下40度の地域でのお話であり、日本で使うことを考えれば市場に流通している大抵の一般的なグリースがマイナス20度まで対応している状況からすれば、金属凍結に至る環境も日本では極一部の地域でありグリースを多量に塗布する必要性は少ないハズです (山岳での使用など以外はあまり考えられない)。そのように考えれば、今回の個体のように多量のグリースを塗布すること自体がナンセンスだと考えます。

なお、このプロの方が使っているグリースは生産メーカー名も型番もほぼ把握できていますが (ホームセンターでも手に入る)、レンズ用のグリースではなく一般的な機械メンテナンス用の類です(笑)

↑こちらは鏡胴「前部」のプリセット絞り環周りを解体したところです。グリーンの矢印のとおり、ここも多量のグリースが塗られています。この状況は、当初のロシアンレンズの状況と全く同一で、ロシアンレンズをバラすとまず間違いなくこのくらいの多量のグリースが塗られています。

↑さらにプリセット絞り機構部をバラしていきます。

↑ようやく鏡筒が出てきました。全くロシアンレンズを初めてバラした時の状況と同一です。このプロの方の考えは、当初のグリースと同量を塗るべきと言うことなのでしょうか。しかしそうだとすると、何のためにバラしてオーバーホールするのか意味が分かりません(笑)

おそらく早ければ1年、遅くとも2〜3年でこの多量のグリースは一部が揮発油成分としてオールドレンズ内部に廻り、さらにその一部が光学系に侵入してコーティング層の劣化を再び促します

当方のオーバーホールは「DOH」ですが、その目的は「オールドレンズの延命処置」です。
必要最低限のグリース塗布に絞ることで、既に生産されてから数十年を経て劣化が進行している光学系コーティング層の経年劣化を、可能な限り抑えたいのが理由です。何故ならば、そのオールドレンズがこれから先数十年後にも活躍してほしいからで、例えその時カメラボディ側が進化していたとしても、必ずやオールドレンズとの媒介が存在しオールドレンズは使い続けられるだろうと言うのが当方の考えだからです。その時、必然的にオールドレンズの絶対数は今から大幅に激減している状況のハズですが、現時点でその激減を促すようなメンテナンスはするべきではないと言うのが、当方の方針です。

↑こちらの写真は、プリセット絞り環 (絞り環を兼ねる) の内側にあった「腐食/錆」を撮影しました (グリーンの矢印)。グリースを塗る場所なので錆があっても、その抵抗/負荷/摩擦が影響することはありませんが、グリースの油成分に拠り水分の吸着が起きますから「錆の拡大」の懸念が残る以上、除去したほうが安心です (しかし現状はそのままになっている)。

なお、この状況は今回の個体が相当長い年数同じ向きのまま放置されていたことが判明します。つまりこの箇所に経年の揮発油成分に拠る水分の引き寄せから水気が局所的に溜まり錆を促していたことになります。

↑こちらは絞りユニット内部やプリセット絞り環内部で使われている「固定用C型環」です。
外側の大型のC型環は当方による「磨き研磨」を施しています。内側はワザと現状のまま撮影しました (つまり内側は磨き研磨未処置)。銅製パーツなので内側のC型環は酸化/腐食が進行したままです。

このC型環は共に駆動する (回る) 環 (リング/輪っか) を固定する役目なので、このC型環自体が酸化/腐食して抵抗/負荷/摩擦の原因になっていては意味がありません。従って当方の「DOH」では必ず駆動箇所は「磨き研磨」が必須です (キレイにする目的ではなく表層面の平滑性を担保するため)。

↑当初バラす前に実写確認したところ、本来のこのモデルの鋭いピント面にまで至っていない/少し足りないような印象を受けました。そんな印象が残っていたのでバラしてチェックしたところ、上の写真の光学系硝子レンズ第1群 (前玉) 〜第3群 (後玉) までのグリーンの矢印で指し示した部分が酸化して抵抗/負荷/摩擦の原因になっていました。つまり、鏡筒内部で最後まで格納されていなかったと推察します (第2群が鏡筒内で引っ掛かりなかなか取り出せなかった/つまり光路長が極僅かに適正ではない)。当方による「磨き研磨」で平滑性をキープします。

このことから、このプロの方は出品ページで簡易検査具で光軸確認していると謳っていますが実際は光軸確認 (偏心含む) を実施していないことが明確になります。もしも実施しているなら検査時点で解像度が甘いのに気がついていたハズです。そして再度バラせば第2群が取り出せないことに気がついていたでしょう。つまり出品する前に第2群は格納し直されて本来の鋭いピント面に至っていたハズです。

最近ヤフオク! で整備済を謳って出品しているオールドレンズが増えつつありますが、それはとても良いことだと思います。しかし、簡易検査具で一切検査せずに単に実写確認しただけで適正な状態になっていると判断する (このプロの方も含め) 整備者/出品者が多いのではないでしょうか?
だとしてもプロともなれば信用/信頼が高いから人気があるのでしょうね・・(笑)

ちなみに、このプロの方の出品ページでは、実際に「適正な写りになっていると判断できます」などと記載しているので、この時点で検査具を使って確認していないことがバレバレです (つまり実写確認しか行っていない)(笑)

  ●                 

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。既にプロの方の手により洗浄済でしたが、一旦当方にて再度洗浄し、その後「磨き研磨」を施してから撮影しています。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割方式なので、ヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」に配置されています。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。C型環の抵抗/負荷/摩擦も除去したので大変滑らかに駆動します。

↑この状態で鏡筒を立てて撮影しました。赤色矢印のとおり縦方向に刻まれている「溝」に プリセット絞り環の内側に用意されている金属棒がカチカチとハマることで「プリセット絞り値」がセットされる仕組みです。

↑いつもは撮影しないのですが(笑)、当方の黄褐色系グリースを塗ったところを撮りました。
ご覧のとおり必要最低限の量しか塗りません (日本なので)(笑)

↑当初バラす前の時点では、このプリセット絞り環とフィルター枠との隙間にもグリースがハミ出ていましたから、それだけ多量のグリースを塗っていたので仕方ありません。
プリセット絞り環はマウント側方向に引き戻して回し、希望する絞り値で指を放すとカチッとロックされ開放〜設定絞り値との間で絞り羽根が開閉する仕組みです (つまりプリセット絞り機構)。

従って、プリセット絞り環を操作するたびにグリースがハミ出てくるのは、どうでしょうか?
当方はキレイ好きではありませんが(笑)、それでもいずれは操作するたびに油っぽくなって指が滑るのはイヤだと感じますね(笑)

鏡胴「前部」はこの後、光学系前後群を組み付ければ完成です。

↑鏡胴「後部」の組立工程に移りますが、至ってシンプルでヘリコイド (オスメス) とマウント部だけの構成です。

↑こちらも普段撮影しません。ロシアンレンズ用に用意した黄褐色系グリースを塗りました。
この程度しか当方ではグリースを塗りません (グリーンの矢印のところで少しだけ盛り上がっているので分かるでしょうか)(笑)

↑こちらの写真は距離環 (ヘリコイド:メス側) の内側を撮っていますが「梨地仕上げ」が施されています。生産時の焼き付け塗装時に施される微細な凹凸がある塗膜ですが、これは経年の使用に於いてグリースや揮発油成分が内部の部位に廻るのを防ぐ目的で処置しています (グリーンの矢印)。

↑無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で10箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こんな感じで余分な (必用の無い) グリースは極力抑えていますが、それは前述の「梨地仕上げ」の目的に適う理由だからです。

この後は完成している鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

↑今回塗布したロシアンレンズ用に用意している黄褐色系グリースです。

↑白紙 (光沢紙) の上でこのグリースを綿棒でグリグリと50回ほど回してみました。グリースの中の成分が摩耗してグレーの色に変色しているワケではないことを実験しています。
ご覧のとおり、白紙 (光沢紙) にも油成分が染み込んでいません (つまり摩耗させていない証)。当方が黄褐色系グリースを好んで使っている最大の理由が「アルミ合金材の摩耗を極力抑える」ことだからです。従って、白色系グリースのように濃いグレー状にヘリコイドのネジ山であるアルミ合金材が摩耗してしまうのは、今後さらに数十年の使用に耐えることを考えるなら好ましくないと考えています。

但し、そのように黄褐色系グリースに拘っているのはあくまでも当方だけですから、圧倒的に整備業者で多用されている白色系グリースのほうの信頼性が高いのは仕方ありません (実際に市場流通しているレンズ用グリースも白色系グリースばかりですし)。その意味で当方の考え方/主張が一切認められないのも自業自得だと思っています(笑)

なお、白色系グリースとアルミ合金材の摩耗に関する実験は「検証:白色系グリースはヘリコイドのネジ山を摩耗しているか」で解説しています。興味がある方はご覧下さいませ。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回の出品個体にはオリジナルのプラスティック製ケースと保証書 (あくまでも生産当時の保証書で効力は消失してます) が附属します。他に前後キャップ (オリジナルではない) とケンコー製PRO1Dプロテクトフィルターが附属です (フィルターも清掃済)。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。プロの方が出品されていた時の写真を見ると、さすがプロだけあって写真が上手で、光学系内には極微細な点キズが数点あるだけのように見えましたが、現物はコーティング層の点状ハガレなど「カビ除去痕」が数点ありました (その時の出品写真には写っていない)。当方は包み隠さずの方針なので、そのまま撮影してしまいます(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群も非常に透明度が高い状態をキープしています。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:14点、目立つ点キズ:10点
後群内:8点、目立つ点キズ:6点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
・前玉表面に極微細なカビ除去痕が数点あります。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り/絞り環共々確実に駆動しています。

但し、プリセット絞り環側の操作で最小絞り値「f16」にプリセット絞り値をセットする際は少々ハマりが悪く1回の操作でカチッと言わないことがあります。この原因は、前回のメンテナンスで内部のコイルばね (スプリング) を逆向きに組み付けてしまったために潰れているからで、改善はできません (もう一度巻き直ししないと戻らない)。

当方ではバラす際に必ずコイルばねの向きをチェックしてますが、組付けの際にミスるとこのようにプリセット絞り環のハマりが悪くなります。「観察と考察」ができていない「証」ですね(笑)

↑もちろんちゃんと絞り値「f5.6」でご覧のように「星形」の開閉幅 (開口部/入射光量) になります。

ここからは鏡胴の写真ですが、ほとんど経年の使用感が感じられない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

絞り環や指標値環の一部指標値が「シルバー」になっていたので、おそらく前回メンテナンス時の洗浄で褪色してしまったままだと推測します。当方にて視認性アップ (鮮やかさ向上) の ためにホワイトに着色しています。

赤色矢印のとおり距離環を回して鏡筒を最短撮影距離の位置まで繰り出すと、プリセット絞環/絞り環と距離環との間に「隙間」が空きますが、これはこのモデルの設計上の仕様なので改善できません (クレーム対象としません)。

【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜軽め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「ほぼ均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回すと一部にヘリコイドネジ山の擦れを感じる箇所があります。
・プリセット絞り環のセット時に最小絞り値「f16」の入りが悪いことがありますが内部のスプリング変形が原因なのでこれ以上改善できません(クレーム対象としません)。何度か試していると確実にセットされます(入りが悪い時は絞り環操作が重く感じるので分かります)。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・距離環を最短撮影距離まで回すと絞り環と距離環との間に隙間が空きますが、設計上の仕様なので改善はできません。

↑今回の『解体新書』で明確になったことがあります・・。

当方が独りで勝手に拘っている「DOH」で内部の状況を可能な限り理想的に仕上げるよりも、そんなことよりむしろプロの手によるオーバーホールであることのほうが重要度が高い・・・つまり信用/信頼が高いことのほうが重要なのだと理解できました。ある意味日本人の悪い癖ですが(笑)、ブランドやプロの手によることのほうに重きを置かれるようです。それが今回痛いほどよく理解できました・・勉強になりました!

しかし、独学に頼っている当方はプロの域までどうあがいても到達し得ませんから、悪あがきしても仕方ありません(笑)

ロシアンレンズでは、やはり適わないことがよ〜く理解できたので、ムリな調達はせず今後は気が向いた時だけロシアンレンズに手を付けたいと思います。反省然り・・ですね(笑)

当初バラす前の時点から、距離環を回すと「擦れる感触」がありました。しかし、今回のオーバーホールではヘリコイドグリースを最低限の量でしか塗布していないので改善できていません。それは「直進キー」と言うパーツが経年劣化で既に摩耗しているのが原因で、ピント合わせ時には極僅かですがガタつきも感じます (当初よりガタつき有り)。

そんなことは、もちろんプロの方が出品された際には一切記載が無く「スムーズです」と一言だけだったのですが、それでも皆さん誰も指摘せずに毎週必ず5〜6本ずつ落札されていくワケで、そもそも修行中の身の上である当方が適う相手ではありません(笑)

解体新書は、なかなか勉強になり身になります。

なお、当初バラす前の状態 (つまりプロの方のオーバーホール完了状態) では、プリセット絞り環指標刻印「」と指標値基準「Ι」マーカーの位置が一直線上になくズレていました(笑)
ズレていたとしても撮影にも写真にも一切影響はありませんが、オールドレンズの整備をする者のジョ〜シキとして(笑)、マーカー位置は一直線上に揃えて仕上げるのがフツ〜ではありませんか?
そもそも鏡胴「前部」の締め付け固定環 (2本) の締め付け自体が緩かったので (カニ目レンチですぐに回せた)、構成パーツの役目をあまり深く考えずに作業しているのではないかと感じました。

  ●                 

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。距離環を回す際のトルク感は当初の軽さを参考にして同程度に仕上げています。「擦れ感」や「極僅かなガタつき (言われて注意すれば気がつく程度のレベル)」が僅かにありますが、ピント合わせ時のスリップ現象は解消できています。トルクは「ほぼ均一」なので、操作性は良いレベルで仕上がっていると思います。グリースを大量に塗布していても擦れ感は残っていたので「直進キー」の摩耗である以上、改善できません (グリースの量を増やせば僅かに擦れ感は少なくなります)。また、指標値刻印もすべてシルバーに脱色していたので、当方にて視認性アップ (鮮やかさ確保) のために着色しています。

グリースの種別と粘性、或いは塗布する量も、どうしてもグリースが馴染んでくる1〜2年後のことを考えてしまうので(笑)、当方は「スムーズに動きます」の一言で済ませられません。
ましてや擦れ感や僅かなガタつきのことも隠してヤフオク! に出品することができません。光学系内のコーティング層のハガレや点キズ (カビ除去痕) なども分からないように撮影するのはキライです (と言うか写真が下手クソなのでスキルそのモノが無い)(笑)

なお、当方では実際に過去に当方がオーバーホールした個体がヤフオク! に出品されているのを発見した場合、可能な限り再度落札して入手しています。目的は経過年数に於ける塗布したグリースの経年劣化レベルを確認することです。7年間オーバーホールをやってきて、今までに「1年後・2年後・3年後」の個体を回収できていますから、取り敢えず1〜3年間はオーバーホール時に塗布したグリースが経年劣化でどの程度変質 (劣化) しているのかを、ちゃんと把握済です。今後も続けて回収を行い、5年7年と経過年数を積み上げていきたいと考えています。

当方で使っているグリース (7種) も決してレンズ専用ではありませんが、一応業界関係者の方に見立てて頂いた種別/粘性を揃えています。そもそも大手の光学メーカーでない限り、ヘリコイドネジ山の金属材質 (成分) や設計諸元値に見合う専用の配合グリース (つまり特殊グリース) などは入手不可能ですから、生産当時に使われていたであろうグリース種別 (黄褐色系グリース) を専門の方に見立ててもらうしかできません。さらに、そのグリースの経年劣化まで確認すると言っても何かしらの検査機械設備を有するワケではありませんから、単に一応やれることはやるべきかなと言う程度のスタンスです(笑)

プロの方の出品ページでは、限られたオールドレンズ資産を有効活用する社会的意義があると明言されていますが、単にご落札者様に喜んで頂きたい (愛着/思い入れに繋がってほしい) と願っているだけの当方には、そんな大それた理念も信念もありません(笑) 先ずはそこから
して立ち位置が違うのですね(笑) 理念/信念ありきがご落札される方には重要な選択時の要素なのが理解できました。反省しきりです・・しかしウソは付けないし隠せないし・・ウ〜ン。

つまりは、当初プロの方が出品された時の「ストレス無く使えます」「スムーズに動きます」と言う表現よりも、具体的な今回の個体の気になる点を包み隠さず列挙していますから、必然的に「改悪」な状況に至ります。これが悲しい現実であり自らの性格ですね(泣)

今回の『解体新書』企画は当方にとってとても勉強になりますが、それは同時にリスクが伴うことも理解できました。要は「正直者がバカを見る」とでも言えば笑えるでしょうか・・。
そんな結末でしたね(笑)
今回のオーバーホール対価を含めた現在の即決価格ではきっと落札されないでしょうから、
まぁ気長に待ちます。
それが当方に今回与えられた「アホな企画」の試練なのでしょう・・最初にタイトルバナー
だけバッチリ決めてしまったのですが、この企画ちょっと失敗だったかなぁ〜?

↑当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値「f8」で撮っています。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。