◎ YASHICA (ヤシカ) AUTO YASHINON-DS 50mm/f1.4《富岡光学製》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、YASHICA製標準レンズ『AUTO YASHINON-DS 50mm/f1.4《富岡光学製》(M42)』です。

YASHICA製オールドレンズは過去に何本もオーバーホールしていますが、意外にもDSモデルの標準レンズ「50mm/f1.4」は今回が初めてでした。但し「DS-M」モデルを何本もオーバーホールしているので内部構造は近似しています。

まず最初に、様々なオールドレンズの中に存在する「放射能レンズ (俗に言うアトムレンズ)」についてネット上で大騒ぎしている人が居るので、少々解説しておきます(笑)

光学硝子材成分中に「酸化トリウム」を含有している場合に「放射能レンズ (アトムレンズ)」と呼ばれているようですが、そもそもは1948年に開発された超低分散光学硝子に10%〜30%の割合で酸化トリウムを含有させたことから始まっているようです。その後1950年代から1973年頃まで世界中の光学メーカーで光学硝子材の成分として活用されたようですが、経年に於いて「ブラウニング現象」により光学硝子材が赤褐色化 (俗に言う黄変化) するため、後にはランタノイド (ランタン) に置き換えられたようです。

光学系の「黄変化」よりも放射能のほうが怖いじゃないか、と言う気持ちが働いてしまうのかも知れませんが(笑)、ネットでは実際にオールドレンズの放射線量を計測して怖がっていらっしゃる方も多いようです。仮にあるオールドレンズの後玉直下で放射線量を計測した時に「10.0μSv/h」と言う計測結果が出たとしましょう (実際に多いのはおそらく1桁台前半の計測値だと思いますが)。

この時の放射線量単位「μSv」はマイクロシーベルトと読み、且つ「μSv/h」なので1時間放射線を浴び続けた場合の放射線量と言うことになりますね。ここで思い浮かべる放射線量の目安があるとすれば、年間に於ける一般市民の被曝線量目安「1mSv (医療/自然被曝を除く)」かも知れませんが・・一桁です (日本放射線医学総合研究所などによる調査)(笑)

ところが単位が違うので「mSv」ですから「ミリシーベルト」と読み「1mSv=1000μSv」になります。つまり、一般市民の年間被曝線量は「1,000μSv」です。

ここで普段生活している中でどの程度自分が被曝しているのかを考えてみます。放射線の被曝には「外部被曝」と「内部被曝」があります。外部被曝は一般的には自然界被曝が中心になるかと考えられますし、内部被曝は食品からの被曝が多いでしょうか。

例えば、当方の居住地千葉県のある日の午後に於ける放射線量が年間平均値として「0.044μSv/h」だとすると8時間外出していた場合凡そ「0.35μSv/h」で外部被曝です。外出していて昼と夕飯を食べてきたら、その食品中に含まれていた放射性物質セシウムの放射線量が仮に「0.002μSv/h」ほどなのでたいした量ではありませんが内部被曝です。

ところが、ビルの中に居たらコンクリートからの放射線量として「0.1μSv/h」の外部被曝になり自宅に居ても「0.05μSv/h」の外部被曝が憑き纏います(笑) 仮に一日の被曝線量をザッと計算すると「2μSv/h」程になり年間では「700μSv/h」みたいな感じです。

さて、オールドレンズに話を戻すと実際にはフィルムカメラやマウントアダプタ経由デジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着して使いますから、後玉直下「10μSv/h」だった放射線量は1/8〜1/10程度まで低減してしまいます (実際にフィルムカメラで装着していてフィルムが感光してしまうのは希でしょうか)。つまり撮影時の線量はせいぜい「1μSv/h」程度と考えられるので何ら大騒ぎする話ではないですね(笑)
当方などは、むしろ水銀値のほうが気になるので、大好きな鮪のお刺身をグッと我慢しているほどです・・つまり放射線も内部被曝のほうが怖いかなと。

これはあくまでも大変大雑把な考察と計算ですが「酸化トリウム」に於ける話です。これがランタン材を含有していたとすると極端に低下してしまいほとんど計測外の話になってしまいます。ひと言にランタン材と言っても種類は38種類もあるので、いったいどの同位体を成分として含有しているのかで変わります。仮に半減期が最も長いランタン材の場合は「105億年」で問題の酸化トリウムは「140億年」のようですが、ほとんどのランタン材は数時間〜数日程度で半減してしまいます。

酸化トリウム含有の場合は光学硝子レンズの屈折率をザックリ最大で20%ほど改善できますし後釜のランタン材のほうは10%の改善が期待できます。そして、当方が7年間に渡りオーバーホールしてきた中での印象として、酸化トリウム含有の硝子レンズをUV光の照射により黄変化改善処置を施した場合24時間の照射が必要ですが、ランタン材の場合は1時間〜数時間程度でほぼ透明に戻ってしまいます。

  ●                 

前置きが長くなりましたが、この話が必要だった理由は後で出てきます。

【この当時のYASHICA製標準レンズ】

  

上の写真のモデルは、1967年に登場したフィルムカメラ「TL SUPER」用セットレンズである「AUTO YASHINON-DX 50mm/f1.4 (M42)」のモデルバリエーションです。ブラック鏡胴の他ツートーンとシルバー鏡胴が存在していました。

こちらは今回出品するモデル『AUTO YASHINON-DS 50mm/f1.4《富岡光学製》(M42)』で1972年に発売のフィルムカメラ「ELECTRO AX」用セットレンズです。

そして、M42マウントのモデルとしては最後の登場になるのが、マルチコーティング化してモデルチェンジした「AUTO YASHINON DS-M 50mm/f1.4 (M42)」ですね。

この中で年代時系列で捉えると先に登場したのが「DX」モデルですが自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を装備していました。ところが何を血迷ったのか後に登場したモデル「DS」はスイッチを外してしまいオート専用機としました。当方では長い期間そのように区分け/認識していたのですが、何と過去にオーバーホール済で出品した個体の中に「DS」モデルでありながらもスイッチを装備していた個体が存在しました (こちらのページで解説しています)。

・・となると、スイッチの有無で「DX/DS」と分かれていたと言う説明が成り立たなくなってしまいましたし、そもそもスイッチ付が先に登場していること自体、何だか進化の系統として違和感を感じます(笑)

ところが、違和感を感じつつも「ウフフッ。ホントは違うだろぉ〜」とニマニマしながらこれらのモデルをバラしていくと、進化系統としては紛れもなく「DX」は初期の富岡光学製オールドレンズの構造を採っており、次に登場した「DS」は一部構成パーツの簡略化/コスト削減策 (工程管理面での話) を執っていたことが判明します。まさに歴史は嘘を着かないワケですね(笑)

この「初期の頃の富岡光学製オールドレンズ」と言う表現なのですが、マウント部内部の絞り連動ピンに関わる機構部に「必要以上のチカラが常時掛かること」を一切想定していない設計が成されています。結果、昨今のデジカメ一眼/ミラーレス一眼にピン押し底面を有するマウントアダプタ経由装着すると、途端に「絞り羽根の開閉異常」を来しますからピン押し底面が無い「非ピン押しタイプ」のマウントアダプタに装着してスイッチ操作で使う必要があります。

今回出品するモデル「DS」では富岡光学も実は密かに認識していたのか(笑)、マウント部内部の設計を一部変更して「チカラを逃がす工夫」を採り入れました (実際にすべてバラしているので明言できる)。ところが、やはり血迷ったままなのかマウント面から突出している「絞り連動ピン」の長さを変えなかったのです。つまり、ピン押し底面を有するマウントアダプタに拠ってはやはり「絞り羽根の開閉異常」を来しますが、オート専用機なのでどうにもなりません (スイッチ無いですから)。同様に「DS-M」も同じ現象が発生する懸念が残ったままです。

そこで、今回のオーバーホールでは特にこの点に拘り「ピン押し底面の深さ」が異なる3種類のマウントアダプタに装着して、絞り羽根が正常駆動するよう改善処置をマウント部内部の構成パーツに施しました (と言っても改造したワケではなく調整だけです)。元のオリジナルの状態に戻したければ、また整備依頼して頂ければいつでも戻せますが、敢えて不便にする方もいらっしゃいませんね)(笑) その意味では、マウントアダプタを選ばない「DS」は貴重かも知れません。

   

   

上の写真はFlickriverにてこのモデルでの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしましたが、上段左から「リングボケ①・リングボケ②・質感表現能力・ピント面エッジ」で、下段左端に移って「色飽和・発色性・動物毛・逆光」です (クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)。

どの写真を見ても一番最初に感じた印象は、後に登場したマルチコーティングの「DS-M」のほうがピント面のエッジインパクトが強調されています。さすがマルチコーティング化の恩恵なのだと感じ入りましたが、富岡光学製の描写性として捉えると、むしろ「味」を楽しめるのは「DS」かな・・という気持ちもあります。好みの問題でしょうか・・。

そもそもピント面のエッジが際立って出てこないのでシャボン玉ボケはまず表出できません。リングボケも苦手でしょうか。口径食の影響を受けるので真円になりにくいのも好き嫌いが分かれるかも知れません。

上段3枚目の写真は「被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さ」が富岡光学製オールドレンズの特徴ですが、まさにそのような写真です。花びらの肉厚感がちゃんと出ています。4枚目はピント面のエッジとしてピックアップしましたが、もう少し明確な輪郭を示すのが本来の富岡光学製オールドレンズの特徴でしょうか・・「DS」は大人しめな感じです。

下段に移って左端1枚目は色飽和ギリギリのところでキッチリ収められていると考えますし、次の発色性もナチュラル派までは至らずとも近いニュアンスでしょうか。

動物毛の表現性の素晴らしさは富岡光学製オールドレンズの特権です。逆光耐性は今一つですが楽しみなゴーストも出にくいので少々気落ちです。

光学系は6群7枚のウルトロン型ですが、バラしたところ右構成図の第5群 (ピンク色) がランタン材含有の硝子レンズでした。ランタン材なので数時間のUV光照射でほぼ透明にに戻っています。これが「酸化トリウム」だと数時間レベルではほとんど変わらないのでランタン材だと推測しています。

「酸化トリウム」含有の場合のブラウニング現象に拠る「赤褐色化」だと、さすがにデジカメ一眼/ミラーレス一眼ボディ側のAWB設定でも階調への影響は取り除けませんからマジッにUV光照射しないとイケマセン(笑) その点ランタン材は楽チンです。

↑上の写真 (2枚) は、ランタン材を含有している光学系第5群の硝子レンズに対するUV光照射の前後を撮影しています。1枚目が照射前で黄変化が現れている状態で、2枚目がUV光照射後です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部の構造面では「DS-M」にほぼ近いのですが、別件でオーバーホール済出品している「AGFA COLOR MULTI-COATED 50mm/f1.4《コシナ製》(PK)」と比較して、富岡光学製モデルにどのような相違点/特徴があるのか各工程で解説していきます。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。この当時の富岡光学製オールドレンズでは、まだ絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 調整機構が備わっておらず、別の方法で開閉幅を調整する仕組みです。

↑いきなし出てきましたが、完成した鏡筒をひっくり返して裏側を撮影しました。富岡光学製オールドレンズの特徴のひとつでもありますが (他社光学メーカーでも一部に存在) 鏡筒裏側に制御系の構成パーツをギッシリと一極集中配置してしまう設計思想を採っています。

  • 絞り環連係アーム
    絞り環で設定した設定絞り値を伝達させる目的の板状パーツ。このアームが回ることで直下の「制御環」が回るので、途中に用意されている「なだらかなカーブ」部分が移動して設定絞り値まで絞り羽根の開閉を決めています。
  • 開閉アーム
    マウント面の絞り連動ピン押し込み動作に連動して勢いよく絞り羽根を瞬時に開閉する役目の板状パーツ
  • 停止板
    絞り羽根が開放時に顔出ししないよう調整する役目 (調整箇所)
  • カム
    制御環に用意されている「なだらかなカーブ」の勾配にカムが突き当たることで、具体的な絞り羽根の開閉角度を決めているパーツ

・・こんな感じで、ほぼ中心的な制御系パーツが一極集中配置されています。制御環に用意されている「なだらかなカーブ」の頂上は「開放側」にあたり、麓部分が「最小絞り値側」になります。上の写真ではカムが最小絞り値側に位置しているので、開閉アームが操作されると絞り羽根は最小絞り値まで瞬時に閉じます。

別件のコシナ製オールドレンズでは、この制御系の一部分が「格納環」と言う専用の器にセットされて基台側に組み付けられており、そもそも富岡光学製オールドレンズとは設計思想が異なります。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

この当時の富岡光学製オールドレンズでは、まだ同じアルミ合金材でヘリコイド (オスメス) を切削する技術が到達していなかったので従来の材質が異なる「真鍮材」ヘリコイド (メス側) を介在させることで、アルミ合金材によるカジリ付現象を防いでいます (金属同士が噛んでしまい固まる現象)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この解説も富岡光学製オールドレンズにしか採用されていない独特な設計思想です。絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 調整を、何と鏡筒の固定位置を調整することで直接絞り羽根の開閉を変更しています。つまり、鏡筒の格納位置をズラすことで絞り羽根が閉じる時の角度を強制的に変更する「荒療治」的な発想です(笑)

そのため、鏡筒はネジ止めなどでヘリコイド (オス側) には一切固定されず、前玉側方向からワザワザ用意されている「締め付け環」で締め付け固定する方式です (グリーンの矢印)。鏡筒自体に絞り羽根の開閉調整機能を持たせて単に鏡筒をネジ止め固定すれば、もっと簡単な仕組みになっただろうと考えるのですが・・。

↑このような感じで「締め付け環」で鏡筒を締め付けて固定しているだけです。実は、この方式は東京光学の「RE,Auto-Topcor」シリーズでも採用されており (富岡光学製の委託生産モデルなので) やはり鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を変えています。当然ながらコシナ製モデルとは全く異なる設計思想です。

↑この状態でひっくり返して撮影しました。「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツが両サイドにネジ止め固定されます。

距離環を回す際のトルクを決めるのは「ヘリコイドグリース」だと思い込んでいる方が非常に多いですが、実はこの「直進キー」の固定如何によってもトルクが大きく変わるので、必然的に「直進キー」は要調整箇所と言うことになりますが、意外と過去メンテナンス時には蔑ろにされている (グリースを塗ったくって済ませている) ことが多いのも事実です。当方ではこの直進キーには一切グリースを塗りません (必要ないので)。もちろんそれでも滑らかに駆動します。

上の写真で注目するのはグリーンの矢印で指し示しているコイルばね (2本) です。「開閉アーム」と「絞り環連係アーム」の2つから及ぶチカラの伝達を適正に処理する目的で「異なる強さのコイルばね」をそれぞれ用意しています。従って、逆にセットしてしまうとアッと言う間に絞り羽根の開閉異常が発生します。

絞り羽根を「開こうとするチカラ」と「閉じようとするチカラ」が互いに常時及んでおり、そのチカラのバランスの中で適正な絞り羽根の開閉をしていますから、どちらか一方のコイルばねが経年劣化で弱った時点で「絞り羽根開閉異常」がやはり発生します。つまり、経年の「絞り羽根油染み」が原因で一方のコイルばねのみチカラが弱ってしまうと、絞り羽根の油染みを清掃して改善させても正しい動きをしてくれません。

しかし、問題なのは、マウント面に「絞り連動ピン」を有するモデル (つまりM42マウント) ですから、もう一つチカラを及ぼす機構部が存在しているワケで、単にこの鏡筒裏側のチカラのバランスだけを改善しても、マウント部をセットした時点でアウトです(笑)

逆に言えば、オールドレンズ内部のチカラの伝達経路をすべて調整し直さなければ適正な調整にはならず、単に「絞り羽根の油染み」を清掃したらかと言って絞り羽根の開閉が元に戻るとは限らないことがあります (もちろん絞り羽根の清掃だけで正常に戻ることもありますが)。
なお、コシナ製モデルではコイルばねではなく「捻りバネ」を使って絞り羽根に対するチカラを及ぼす考え方でした。

↑マウント部内部の構成パーツを一旦取り外して、当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。当初バラした直後は、このマウント部内部にもグリースが塗られており、一部パーツにサビを発生される原因になっていました。

↑コシナ製モデルでは「格納環」と言う別の器をワザワザ用意して上記のような絞り連動ピンに関係するパーツをセットしていましたが、富岡光学製オールドレンズでは、このようにマウント部内部 (或いは基台内部) に格納してしまいます。この場所の構成パーツに変更が加えられて必要以上のチカラが絞り連動ピンに及んでも対応できるように改善されています (但し絞り連動ピンの長さは変更せず)。

マウント面に突出している絞り連動ピンの長さが長いので、デジカメ一眼/ミラーレス一眼にピン押し底面を有するマウントアダプタ経由装着した場合に、絞り羽根の開閉異常を来たすことがあります。今回のオーバーホールで調整をしたのが上の構成パーツですから、一応どのようなマウントアダプタに装着されても絞り羽根は正常に開閉するハズです (当方所有の3種類のマウントアダプタではチェック済)。

そのような処置を施した「DS」モデルは出回らないと思うので、ちょっとは貴重でしょうか・・(笑) まぁ、フィルムカメラで使われる方には全く関係ない話です。

↑ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。

↑鏡筒から飛び出ている2つの板状アームとキッチリ噛み合わせて完成したマウント部をセットします。もちろんこの段階で絞り羽根が正常に開閉していなければ意味がありません。

↑この工程も当時の富岡光学製オールドレンズ独特な設計で、他社光学メーカー製オールドレンズには一切存在しない思想です (実際に今まで7年間様々なオールドレンズをオーバーホールしていて存在しないので明言している)。

このモデルの絞り環操作はクリック感を伴う操作性なので、当然ながら「ベアリング+コイルばね」が必要です。ところが、富岡光学ではベアリングとコイルばねをそれぞれ別の場所にセットする設計を採りました。

指標値環の裏側には「絞り値キー」と言う「溝」が用意されており、そこにベアリングがカチカチと填ることでクリック感を実現しています。ところが、その「ベアリング+コイルばね」は絞り環側に組み込まれるので、必然的に「絞り環と指標値環の位置が適合しないとチグハグなクリック感に陥る」ことになります(笑)

実際、そのような個体が出回っていたりするのですが、まずオークション出品ページに書かれることがありませんね(笑) しかも「溝」がある指標値環側はイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で好きな位置に固定できる設計ですから、ここの調整をミスると絞り羽根の開閉が「どの絞り値になっているのか分からない」ことになります (例えばf4なのか半段分先なのか?)。まぁ、実際の写り具合を見ながら撮影しているので大きな問題ではありませんね(笑)

↑指標値環の位置をキッチリ合わせて組み付けました。

↑距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

↑今回の個体は残念ながらフィルター枠に打痕があります (赤色矢印)。フィルターを装着する際のネジ込みが少々し辛いのですが、一応ちゃんとネジ込めます。

↑専用工具を使って直せるだけ直したのですが、完全ではありません。

フィルターをネジ込む際は、一旦外す方向に回してネジ山が噛むところを探してからネジ込むと良いでしょう。さらに、ネジ込んでいる最中もネジ込みムラが酷いので締め付けて良いのかどうか考えてしまうと思います。なので、ワザと中古ですが (キズだらけですが) どれだけムラが生じるのか分かるよう、お試しのフィルターを装着済でお届けします。そのままフィルターをお使いなられても良いですが、外してみるとどの程度回す際にムラが発生するのかの確認にはなると思います。

このお試しのフィルターを外す際にムラが生じますから、結構強めに回してもいいとか、弱めがいいとか、ご自分のチカラの入れ加減をご確認下さいませ。なお、フィルターネジ込みの際は、必ず横方向から水平なのかチェックしてからネジ込んで下さい。

修理広告

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが終わった出品商品の写真になります。

↑まぁ、敢えてモノコーティング時代の富岡光学製オールドレンズを手に入れたいとお考えの方も少ないかも・・ですね(笑)

当方などは、この富岡光学製にしてはピント面が誇張されない描写性がまた味があっていいと考えてしまうのですが・・一応、市場では安値でしか出回らない特に珍しいモデルでもないので気長に待ちますョ(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。残念ながら、各群裏面のコーティング層は経年劣化が進行しており、清掃時にヘアラインキズ状に見える細線のコーティング層ハガレが複数本見えます (コーティング層なので角度を変えて光に反射させると視認できる)。

透過光に翳して光学系内を見ると、それら複数本の微細なコーティング層ハガレは硝子面に付いたキズではないので見えなくなってしまいます。逆に言うと、硝子面のキズは透過光に翳すと必ず視認できてしまうので、コーティング層のハガレなのか硝子面のキズなのかの判断にはなります。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群も非常に透明度が高い状態です。前述のコーティング層の微細なヘアラインキズ状のハガレは、後群側のほうが多めです。

↑上の写真 (4枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:16点、目立つ点キズ:10点
後群内:19点、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・光学系内各群のコーティング層は経年劣化が進行しており清掃時に付いた非常に薄く細いヘアラインキズ状のコーティング剥がれが複数本ありますが光に反射させて斜めから覗くなどしないと視認できません (透過光で光学系内覗いても硝子面に付いたヘアラインキズではなく視認できません)。当方の認識では硝子面のヘアラインキズではないのでそれを理由としたクレームは受け付けません。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り環の操作性は軽めに仕上がっています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感を僅かに感じられる個体ですが、当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので梨地仕上げの大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。なお、指標値近辺に塗膜ハガレが少々ありますがそのまま着色していません (着色できません)。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜重め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「ほぼ均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回していると擦れる感触を感じる箇所がありますが経年に拠るネジ山摩耗の影響ですので改善はできません (クレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・フィルター枠に1箇所打痕があり凹んでいます。フィルター着脱は可能ですが少々きつめです。フィルター装着時は外す方向に回転させながらネジ山が入る位置を探してからネジ込むようにして下さい。またネジ込んでいる最中にムラを感じるので注意しながらネジ込んで下さい。

↑このモデルは、撮影時にピント面の山がアッと言う間なのでワザと距離環を回す際のトルクを「重め」に調整しています。人によっては「普通」に感じられるでしょうし「重め」に感じられるかも知れません。距離環を回す際のトルクムラはほぼ無く均一に近い状態ですが、ネジ山が擦れる感触を感じる箇所が僅かにあります。

距離環のラバー製ローレット (滑り止め) はちゃんと業務用中性洗剤で洗浄したので、経年の手垢など一切残っておらず大変清潔です (当方では除菌剤の類の薬剤は却って劣化を促す原因になるので一切使いません)。もちろん筐体外装に生えていた経年のカビ (光に翳すと塗膜が斑模様に見える部分/領域) も完全除去しているので気持ち悪くないです(笑)

元々家具屋にも勤めていたので塗膜表層面のことは多少なりとも詳しいです。最近のヤフオク! を見ていると「除菌剤」で処置済を出品ページに謳っている出品者が居ますが、正直何をしているのか理解しているのだろうかと思ってしまいますね(笑) 除菌剤に含まれている成分をちゃんと見て/理解して使っているのでしょうか?(笑)

もっと言えば、整備工程で除菌していると平気で書いている人も居ますが、何で除菌しているのでしょうか?(笑) いったい何に対しての除菌なのでしょうか? 清潔とかキレイとかの意味合いで「除菌」のコトバを誇張的な表現として使っているのでしょうが・・笑ってしまいますね(笑)

カビの胞子は100%オールドレンズ内部に侵入してきますし、溶剤などで経年の手垢や汚れが完全除去できていると思っているのでしょうか(笑)
なお、カビに関する解説を解説:カビの発生と金属類の腐食/サビについてに掲載していますので、興味がある方はご覧下さいませ。

↑このモデルのマウント面を撮影しました。ご覧のとおり、後玉の突出がありますから、マウント面より最大約8mmの出っ張りになりますのでご留意下さいませ。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」になっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。