◎ CHINON (チノン) AUTO CHINON MULTI – COATED 55mm/f1.7《後期型:富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、CHINON製標準レンズ『AUTO CHINON MULTI-CAOTED 55mm/f1.7《富岡光学製:後期
型》
(M42)』です。


CHINONから1976年に発売されたフィルムカメラ「CHINON CEII」辺りのセットレンズとして用意されていたようですが、後の1979年発売のフィルムカメラ「CHINON CM-3」時点では最終型になる濃いグリーンの光彩を放つセットレンズへと変わっていました。その間3年ですが、いつのタイミングでチェンジしたのかは不明です。
しかし、市場に出現する頻度を見ていると、今回出品するモデルの出現頻度が海外オークションのebayでさえ年に数本レベルと言う極僅少なのに対し、最終型である濃いグリーンの光彩を放つタイプのほうが少々多めに出回っていることから、1年くらいでチェンジしてしまったのではないかと推察しています。

これら2つのモデルはレンズ銘板の刻印を見るとカラーリングが違っており、見る角度によってブルーの光彩を放つほうのレンズ銘板は「AUTO CHINON MULTI-CAOTED」のカラーリングですが、最終型は濃いグリーンの光彩から「AUTO CHINON MULTI-CAOTED」に変わっています。
ところが、今回出品する個体のレンズ銘板は「AUTO CHINON MULTI-CAOTED」にも拘わらず、コーティング層の光彩は極僅かにグリーン色っぽく見えます。前回出品個体よりも後に生産された製造番号なのでコーティング層がグリーン色に変更されたのかも知れませんが、よく分かりません。

光学系は5群6枚のウルトロン型で、同時期にOEM輸出されていた他のブランドモデルと同一です。「前期型」モデルの光学系構成4群6枚ダブルガウス型と比較すると、特にピント面の先鋭化という相違が顕著に表れています。さらに、マルチコーティング化されたことからコントラストのメリハリ感がグッと向上しているように感じます。
当方は、好んで富岡光学製OEMモデルの「55mm/f1.7」をオーバーホールしていますが、その理由は開放F値「f1.2」や「f1.4」のモデルと比較して、富岡光学製オールドレンズとしての質感表現能力の高さや立体感、リアル感を継承しつつも扱い易く仕上げられていると言う、富岡光学の良いところをギュッと凝縮したような印象を感じるからです。

   
   

上の写真はFlickriverにてこのモデルでの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしましたが、上段左から「円形ボケ・リングボケ・玉ボケ・被写界深度」としてピックアップしています。下段左に移って「トロトロボケ・背景ボケ・光源・動物毛」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

元々、富岡光学製オールドレンズはピント面のエッジが繊細なので円形ボケもアウトフォーカス部がすぐに破綻していくことからシャボン玉ボケの表出は難しそうです。2枚目のリングボケや3枚目のような玉ボケになってしまうようです。また、4枚目は被写界深度の狭さとして選択してみました。

下段に移って左端からトロトロのボケ味を現している例としてピックアップしましたが、背景のボケ具合でエッジを強調すると次の2枚目のような味のある写真も撮れます。3枚目は光源ですが美しいゴーストが表出しています。動物毛のリアル感は富岡光学製オールドレンズに共通した特徴ですね。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造やパーツ点数含め完全に他のブランド銘で輸出されていた富岡光学製OEM輸出モデルと同一であり、違うのは距離環ローレット (滑り止め) とレンズ銘板、そして光学系のコーティング (マルチコーティング化) の相違だけです。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており、別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させ格納します。

↑「前期型」と比べると「後期型」では絞り羽根の開閉幅調整に関して「開放側調整機能」を省いてきたことが判ります。上の写真の通り、絞りユニットの固定には調整用のマチ (隙間) が無くなり単なる固定に変わっています。結果、絞り羽根が開ききった際の開放時に於ける開閉幅 (開口部/入射光量) 調整はできないことになりますね。一方、絞り羽根が閉じた時の最小絞り値側調整機能は残されています。

また、「前期型」で存在していた「シム環」と言う無限遠位置調整のスペーサーのような役目のパーツも省かれていますが。そもそも距離環側に無限遠位置調整機能が装備されているので、ダブルで調整させる必要は無く、理に適った改善処置と考えられます (逆に言うと前期型モデルのほうが意味不明な設計だった)。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

「前期型」ではヘリコイドのネジ山はネジピッチが大きかった (粗かった) のですが「後期型」ではピッチを小さくして切削のネジ山数を多くしてきています。これは、アルミ合金材の切削精度が向上したことを受けて改善された設計変更であり、細かいピッチのネジ山でも平滑性をキープできることに至ったことが窺われます。

つまり、当時共産圏であった旧東ドイツやソ連などにも日本からNC旋盤 (コンピューターソフトによる厳密な切削が実現) などが輸出されていたことからも判るとおり、日本の当時の工業技術が大きく進歩していたことが窺えます。

↑完成したヘリコイド (オス側) の内側に鏡筒をストンと落とし込んでから、前玉方向より固定環で締め付け固定する従前の組み立て方法は「後期型」にも踏襲されています (上の写真グリーンの矢印)。
しかし、この当時の富岡光学の経営状況からすると1968年には経営難でヤシカ傘下に入っており、そのヤシカさえも倒産の危機に瀕していた時期ですから (後に京セラに買収され消滅)、海外OEM輸出に活路を見出そうとしていたのかも知れません。しかし、既にこの当時他社光学メーカーでは、鏡筒の固定はネジ固定にするなど合理化が進んでおり、コスト削減を設計に反映させていたワケですが、富岡光学は時代遅れの設計しかできていなかったことになります。

↑こちらはマウント部内部を撮っていますが、当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。

↑外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施し、錆などを除去した後に表層面の「平滑性」を取り戻しています。

従って、当方のオーバーホール工程ではこのマウント部内部には一切グリースを塗布しません。その理由は、この位置に光学系後群〜絞りユニットまでが下がってくるため、必要外のグリースを排除することで将来的な揮発油成分に拠る経年劣化 (特に光学系内コーティング層の劣化) を防ぐ意味合いがあります。

  • 絞り連動ピン
    フィルムカメラ装着時シャッターボタン押し下げと同時に押し込まれ設定絞り値まで絞り羽根を強制的に閉じさせる連動ピン。
  • 絞り連動ピン連動アーム
    絞り連動ピン押し込みに連動して押し込み量分移動するアーム。
  • 開閉アーム
    絞り連動ピン押し込み量分移動して鏡筒の絞り羽根を開閉するアーム。
  • 捻りバネ
    絞り連動ピン連動アームを常に戻して絞り羽根を常時開こうとするチカラを及ぼすバネ。
  • コイルばね
    絞り連動ピン連動アームにチカラを及ぼし絞り羽根を閉じようとするチカラを及ぼすスプリング。

・・こんな感じでそれぞれの構成パーツには役目が決まっています。上の写真グリーンの矢印で指し示した「絞り連動ピン」が押し込まれることで (ブルーの矢印①)、絞り連動ピン連動アームが絞り連動ピン押し込み量の分だけ移動して先端部の「開閉アーム」を動かします ()。

 

↑完成したマウント部を基台にセットしますが、後から指標値環を組み込むことができないので、ここで先に入れておきます (従って指標値環はダラっと斜めになっている)。

↑ベアリングを組み付けてから絞り環をセットします。

↑自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 機構部であるスイッチ環を、やはり辺をセットして組み込みます。

↑飾り環をスイッチ環に被せてイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使ってを締め付け固定します。

この薄い肉厚の「飾り環」をイモネジで均等固定 (上の写真グリーンの矢印) している方式が、外観から唯一判定できるこの当時の富岡光学製オールドレンズの「証」になっています (但しM42マウントの場合のみ)。他社光学メーカーで採用している方式は、飾り環のネジ込み、或いはマウント面側からネジ止め固定する方式ですから、側面からイモネジで固定しているのは富岡光学製オールドレンズだけです。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑市場には年に数本レベルでしか出現しない極僅少の珍しいモデルです。さらに、富岡光学製オールドレンズの特徴でもある、光学系内にカビの発生率が高いことを考慮すると今回の個体にはカビがほぼ生じていなかったので大変ラッキ〜です。

↑光学無形無いの透明度は驚異的です(笑) 唯一後玉表面にカビ除去痕が複数残っていますが、点状ですしLED光照射しない限り視認できないレベルなので写真には一切影響しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群内の透明度も素晴らしい状態を維持しています。こうなると後玉表面のカビ除去痕だけが本当に残念ですねぇ。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

なお、当方のオーバーホールでは工程の最後で簡易版ですが専用具を使って「光軸確認」を行っているので光軸ズレはありません (自作コリメーターではありません)。

【光学系の状態】</B>(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:7点
後群内:11点、目立つ点キズ:6点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・後玉表面にはコーティング層浸食のカビ除去痕が極僅かにありますが写真には一切影響しません。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑6枚の絞り羽根も綺麗になり絞り環操作共々確実に駆動しています。もちろん絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) も専用具でチェック済ですので絞り値との整合性もとれています

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感を殆ど感じない大変綺麗な状態を維持した個体です。当方による筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろん、ラバー製のローレット (滑り止め) も業務用中性洗剤でキッチリ洗浄しているので経年の手垢や汚れなど一切残っていません (当方では却って劣化を促すので除菌剤など一切塗布しません)。また、筐体外装の金属塗膜面に経年で根を生やしていたカビ (光に翳すと斑模様に見えるカビ) も「磨きいれ」により根から完全除去しているので再び生えてくることはありません

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「重め」で滑らかに感じに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑この開放f値「f1.7」の富岡光学製OEMモデルは、本当に良くできたモデルです。内部の各部調整がキッチリ行われていれば、距離環を回すトルクは滑らかになり、A/Mスイッチも小気味良く切り替わり、もちろん絞り環操作シッカリしたクリック感で駆動します。そしてはき出される描写は、まさに富岡光学製であることを示す素晴らしい写りになりますから、是非ともご堪能頂きたいですね。

ちなみに、このモデルは他社製OEMモデルも含めてほとんどがモノコーティングばかりですから、ハッキリ言ってCHINONのマルチコーティングはキチョ〜です。少なくとも当方はそう思っているのですが、どうなんでしょうか・・。

↑このモデルは他社ブランド品も全く同一ですが、上の写真のように後玉が突出しています。グリーンのラインで示した分の出っ張りがあるので、距離環を無限遠位置「∞」まで回した状態のまま後玉が下になる向きで置かないようにご注意下さいませ。当てキズが後玉中心部に付いたりしてしまいます。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」になっています。

↑f値「f5.6」で撮りました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。