◎ AGFA (アグファ・ゲヴァルト) AGFA COLOR MULTI – COATED 50mm/f1.4《コシナ製》(PK)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、ベルギーのAGFA製標準レンズ『AGFA COLOR MULTI-COATED 50mm/f1.4《コシナ製》(PK)』です。

このメーカーの正式名称はAGFA-GEVAERT (アグファ・ゲヴァルト) ですが、AGFAは1867年にベルリンで創業した化学薬品メーカーで「Aktien-GesellschaftfürAnilin-Fabrikation」の頭文字を取った染料加工協会です。一方、1894年にベルギーのAntwerp (オランダ語:アントウェルペン/英語:アントワープ) で創業した写真印画紙会社がGEVAERTになり、1964年の統合で現在の社名に変わっています。

このモデルの扱いは今回が初めてなのですが、当時世界第3位の写真フィルムメーカーだったAGFA製の標準レンズですから、だいぶ以前から気になっていました。AGFA製とは言っても、全く同一デザインのモデルが別会社の標準レンズ (REVUENON) でも存在しており (レンズ銘板が違うだけの相違)、そのモデルには「JAPAN」刻印がレンズ銘板にあるので日本製であることは間違いないと考えていました。

ところがこの当時の標準レンズで捉えると、焦点距離「55mm/f1.4」に関しては富岡光学製のOEMモデルが様々な会社から出回っていましたから、はたして「50mm/f1.4」はいったい何処の会社から出ているのか・・不明でした。

と言うのも、右写真のとおり指標値環の基準マーカーのカタチが富岡光学製OEMモデルには一切存在しないからです。もちろんマウント種別がPENTAX Kマウントと言う点もあるのですが、PKマウントでも例えばRICOH製標準レンズ「XR RIKENON 50mm/f2《前期型》(PK)」などは富岡光学製OEMモデルです。

ネット上などの解説で、距離環/絞り環の回転方向や鏡胴デザインなど外観の特徴の相違点を基にOEMモデルか否かの判断を下していますが、実はそのような要素はいくらでも製造メーカー側では容易に変更でき、筐体を構成するパーツの配置や内部構造設計に大きな影響を与えません。ところが制御系の格納方法 (配置位置) や筐体構成パーツの固定方法などの相違は、すべてのパーツ設計に影響を及ぼす話しなので、構造設計段階から考慮しなければイケマセン。つまりはバラして内部の構造をチェックしてみなければ判定できないことになります。

そこで今回のモデルに話を戻すと以下のような近似した筐体意匠のモデルが存在しています。

   

左端から・・、

  1. Revue製:AUTO REVUENON MC 50mm/f1.4 (PK)
  2. COSINA製:MC COSINON-S 50mm/f1.4 (PK)
  3. CHINON製:AUTO CHINON MULTI-COATED 50mm/f1.4 (PK)
  4. PORST製:COLOR REFLEX MC AUTO 50mm/f1.4 G (PK)

・・の順番になります。当方ではまだ1.〜3.まで扱ったことがありませんが、ハッキリ言って1.〜3.までは距離環の回転方向の相違があっても同一のOEMモデルとみています。最後の4.だけは過去にパラしたところ富岡光学製OEMモデルでした (こちらのページでオーバーホールしています)。

実はその根拠は外観からすぐに察しが着きます。1.〜3.まではフィルター枠を兼ねる鏡筒カバーの固定に「イモネジ」を使っていませんが、最後の4.だけはイモネジ固定しています (赤色矢印)。これはどう言う事実が隠されているのか? イモネジ固定ではない場合は「ネジ込み式」か「内部でネジ固定」のどちらかと言うことになるからです。つまりフィルター枠兼鏡筒カバーの固定方法に拠っては鏡筒の設計が変わり、且つ生産時の組み立て手順 (工程) まで変わってしまいます。これはコストに直結する話になるワケで、外観上から判断する際に重要なのは「相違点」ではなく「構造面」から考えなければ意味が無いと言うことになりますね (従って1.〜3.までは同一OEMモデルと考えられる)。

※1.については過去にオーバーホールしていました (こちらのページ)。ご指摘頂いた方ありがとう御座いました!
従って、2.〜3.を扱ってみればいろいろとまた分かるかも知れませんね。

前置きが長くなりましたが、今回バラしたところ内部構造化には富岡光学製を示す構成パーツは一切含まれておらずコシナ製であることが判明しました。その点については以下のオーバーホール工程の中で解説していますが、当方にとっては長年気になっていた指標値環基準マークのカタチがコシナ製モデルの判定材料になることが判った次第でスッキリです(笑)

   

   

上の写真はFlickriverにてこのモデルでの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしましたが (REVUENONモデル他から引用)、左上から「リングボケ・開放時①・開放時②・開放時③・開放時④」下段左端に移って「ポートレート・被写界深度・ゴースト・発色性」です (クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)。

元々ピント面のエッジが中庸的なのでアウトフォーカス部がすぐに破綻してしまいシャボン玉ボケの表出は厳しいかも知れません。それどころかリングボケや玉ボケも苦手でしょうか (上段左端1枚目)。

2枚目〜4枚目がこのモデルの不思議な特徴なのですが開放時のピント面がカリカリと際立たずかと言って「甘い癒し画」に堕ちているワケでもなく、何とも表現できない独特な描写性を持っており、ハッキリ言ってクセになりそうです。

その特徴は下段左端のポートレート撮影でも如実に表れており、このマイルド感タップリ漂う柔らかな描写性は、まさに標準レンズでもポートレート撮影をキッチリこなせるような印象です。

従って被写界深度もそれほど狭くなく、同じ開放f値「f1.4」の富岡光学製オールドレンズと比べると少々消化不良的な深度です。またゴーストは盛大に出せるみたいでオモシロイ写真が期待できそうです(笑) 発色性は光学系のマルチコーティングが放つ光彩からは意外にもナチュラル派的な傾向で被写体色に限りなく近似しているのかも知れません。

コシナ製となれば、どうしても現行コシナのデジタルカメラに対応したマニュアル・フォーカスレンズと比較してしまうのですが、ハッキリ言って当方は現行コシナ製デジタルレンズが大キライです。と言うのも、ZEISSやVoigtländerの商標権を獲得していながら、かつての銘玉の描写性を一切引き継がずにコシナの描写性に一貫しているからです。当方は商標権を単なる営業 (利益確保) 手段としている企業戦略にそもそも違和感/抵抗感を覚えます。

それはどのブランドのモデルで撮影した写真を見ても、極細部まで非常に緻密な描写性を追求した精緻な写りなのですが、それだけしか感じられず「寒々しい写真/冷たい写真」にしか見えないからです。それは例えウォームなシ〜ンだとしても画全体に漂う冷たさを感じてしまいます (既にある先入観が働いているからかも知れませんが)。

ところが、今回のモデルの写真にはその「冷たさ」は微塵も感じられず、それどころかこのマイルドな表現性はMINOLTAやLEICAに相通ずるモノを感じ、はたしてAngenieuxレンズのようなリアルさをも感じた次第です。なかなか魅力的な写りをするオールドレンズですね。

ネット上では一部に4群6枚と解説されていますが、バラしたところ正しくは6群7枚のウルトロン型構成を採っていました。バラして各群の硝子レンズをチェックしたところ、一部ネット上に出ている光学系構成図とは異なる要素があるのを発見しました。第4群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) は凸側の外径が大きくなっており出っ張っています。また第5群の肉厚はかなりあり、第6群の後玉は両凸レンズではなく凸平レンズでしたので、光学系の清掃時にスケッチした構成図を右に掲載しています (従って曲率や厚みなどは正確ではないイメージ図です)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。一部解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。コシナ製オールドレンズに多い話なのですが、固定環の固着剤が全周に渡って生産時に塗られているのでフィルター枠と光学系硝子レンズの第2群〜第3群を外すことができませんでした。

4回溶剤を流し込みビクともせず、仕方なく加熱処置を2回施しましたがダメです。諦めてそのまま工程を進めたので光学系第2群〜第3群〜絞りユニットまでがバラせていません。従って、加熱処置を施した際に第2群〜第3群内に閉じ込められていた空気が熱せられ、湿気分が結露したのでその痕が第2群中央付近に残っています。パッと一見するとカビ/カビ除去痕のように見えますが結露痕です (写真には影響しないレベルです)。

この加熱処置は、加熱した後の溶剤流し込みで固定環が回ってくれれば有難いのですが、回らないとなると今回のように閉じ込められている空気の湿気分が結露してしまう懸念が高く、あまりヤリたくない作業です。しかし、固定環が回せないとなれば、仕方ないですから絞りユニット側から硝子レンズの裏面を清掃するしかできません。ましてや絞りユニットの絞り羽根に至っては、綿棒を使って「溶剤で抜く」ことしか叶わず、絞り羽根の油染みが酷かった場合にはたいした改善を期待できませんが、今回の個体には油染みが発生していなかったのでキレイに清掃できました。

↑外せない第2群になります (この下に次の第3群も入ったままです)。絞りユニットの絞り羽根がキレイだったのでラッキ〜でした。

↑いつもの工程とは違いますが、ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。上の写真は第1群 (前玉) を組み付けた状態を撮っています。

↑こちらは光学系後群を組み付けた状態ですが、後群側は完全解体できたのでキレイに清掃できています。

↑鏡筒の裏側には「開閉アーム」以外の制御系構成パーツがほとんどありません。開閉アームはマウント面に配置されている「絞り連動レバー」の動きに伴い絞り羽根を勢いよく開閉するアームです。

↑こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。富岡光学製オールドレンズとの大きな相違点は、この基台に指標値環をセットする際に締め付けるイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 用の溝がワザワザ用意されている点です (富岡光学製ではダイレクトにイモネジを締め付けるだけ)。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑距離環を本締めして固定します。いつものオーバーホール工程では必ず最後の無限遠位置確認を執り行うので、本来この工程では距離環を仮止めに留めなければ後で調整できません。

しかし、今回は鏡筒 (ヘリコイド:オス側) がバラせていないのでそのままネジ込むことになる為、ここで無限遠位置のアタリ付けをした位置で距離環を固定しなければイケマセン。組み上げ後の無限遠位置確認でズレていた場合には、再びすべてバラしてここまで戻らなければ位置調整ができません。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツが両サイドに締め付け固定されます。

↑指標値環をイモネジ (3本) で締め付け固定します。

↑ここからが富岡光学製オールドレンズには一切存在しない工程になります。絞り環との連係を執る「絞り環連係環」やマウント面に飛び出る絞り連動レバーを備える「開閉アーム操作環」を収納するための「専用格納環」が用意されている点が大きな相違点です。ここで1工程分増えますが、富岡光学製オールドレンズではマウント部 (或いは基台) 内部にこれら構成パーツ (環/リング/輪っか) を格納するよう設計されているので、ワザワザ専用の格納環を用意していません (つまりコシナ製ではここで1工程分増えている)。

また、そもそも富岡光学製オールドレンズでは鏡筒裏側に、このような制御系パーツを一極集中配置しているモデルが多いので、その点も設計が異なります (なだらかなカーブを備えた制御環が鏡筒裏側に配置されることが多い)。

↑このような感じで制御系の各パーツが格納環の中にセットされます。ここで富岡光学製オールドレンズとの大きな設計思想の相違点が明確に出てきます。絞り羽根の開閉を行う「開閉アーム」に対するチカラの伝達として、コシナでは「大きチカラ」を必要としますが、富岡光学製オールドレンズではむしろ「小さなチカラ」で駆動できるよう考えられています。しかも、上の写真をご覧頂くと分かりますが「捻りバネ」1本だけでそのチカラを用意しているので、この捻りバネが弱ったらアウトと言うことになります (富岡光学製オールドレンズでは捻りバネではなくコイルばねを2本使っていることが多い)。

↑完成した制御系格納環を基台にセットします。

↑ここでベアリングを組み込んでから絞り環をセットします。ここまでの工程2工程分が富岡光学製オールドレンズより多いことになりますね。

↑マウント部を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが終わった出品商品の写真になります。

↑何ともパープルアンバーに美しい光彩を放つ意外と大玉なAGFA製標準レンズ『AGFA COLOR MULTI-COATED 50mm/f1.4《コシナ製》(PK)』です。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。残念ながら第1群 (前玉) には擦れキズやヘアラインキズ、コーティング層の経年劣化部分が一部ありますが写真には一切影響しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。前玉の擦れキズやヘアラインキズは写っていますが、極薄いクモリとして見える一部のコーティング層の経年劣化部分はLED光照射しなければ視認できません。

↑光学系後群も大変透明度が高い状態を維持しています。これだけ後玉が出っ張っているにも拘わらず擦れキズやヘアラインキズがありません・・。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な<B>点キズ</B>:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:18点、目立つ点キズ:13点
後群内:15点、目立つ点キズ:10点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・前玉の表面のみコーティング層の経年劣化による非常に薄いクモリがLED光照射では視認できます。写真には一切影響しないレベルです。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが使用感を感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜重め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑距離環のローレット (滑り止め) だけがラバー製で絞り環側は金属のままです。このモデルのピントの山がアッと言う間なので距離環を回す際のトルクはワザと少々 (心もち) 重めに調整して仕上げています (従ってクレーム対象としません)。また、絞り環に僅かなガタつきがあるのはこのモデルの構造上の問題なので、これもクレーム対象としません (設計の問題なので改善できません)。

完璧なオーバーホールが終わりましたので操作性は大変良いと思います。特に開放時の撮影で是非ともこの独特なマイルド感漂う柔らかな描写性をお楽しみ頂けたらと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

↑当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」にセットして撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」になっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」での撮影です。

↑f値「f16」になりました。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。