◎ LEITZ CANADA (ライカ) SUMMILUX-M 35mm/f1.4《前期型》(LM)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

今回オーバーホール/修理を承ったモデルは、製造番号から1936年に生産された個体の中の一つで無限遠ロック機能を装備していないCANADA LEITZ製広角レンズ『SUMMILUX-M 35mm/f1.4 《前期型》(LM)』になりますが「第2世代」のタイプです。モデルの詳細に関してはネット上の解説でも数多く案内されているので今回は省きます。光学系は5群7枚の変形ダブルガウス型ですが典型的なダブルガウス型の第3群貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) の直前に1枚追加して拡張した光学系になり (つまり結果として追加した1枚が第3群になっている)、Carl Zeiss製広角レンズ「Planar 35mm/f2」も同じ光学系を採用しています。

オーバーホールを承ったのは標準レンズの50mmと、この広角レンズの2本になります。届いた現物を確認したところ、標準レンズに関してはご依頼者様も仰っているとおりオーバーホールの必要性が無い状態を維持していると判断しました。こちらの35mmに関しては、距離環を回す際のトルクムラが酷く、重いトルク感でしたので広角レンズのほうのオーバーホールを執り行った次第です。

しかし、この2日間悪戦苦闘をするハメに陥りました・・理由は、別の標準レンズのトルク感が非常に滑らかで、当方の判定では「普通〜軽め」なのですが、ご依頼者様のご指摘では「重い」とのこと。ご依頼者様のトルク感に対する感覚を参考にして、こちらの35mmの作業を進めたワケですが、ヘリコイドのトルク感調整だけに丸2日を要してしまった次第です。

従って、標準レンズ50mmは、届いたままの状態でご返却致します。また、こちらの広角レンズ35mmはオーバーホールが完了しましたが、当初の距離環トルクムラは改善できたものの、標準レンズと比べると明らかに「重い」トルク感に感じます。

当方で用意しているヘリコイド・グリースは「白色系グリース:軽め/重め」「黄褐色系グリース:軽め/中程度/重め」の5種類なのですが、ご依頼者様のトルク感を勘案すると、そのすべてを塗布して試す必要も無く、必然的に黄褐色系グリースの「軽め」を使いました。しかし、空転ヘリコイド側に「軽め」を塗りつつヘリコイドにも「軽め」を塗るとピント合わせ時に「スリップ現象」が生じてしまい、ピント合わせの微動時に「ククッ」と滑ってしまいます。仕方なく「空転ヘリコイド側:軽め」「ヘリコイド側:中程度」の組み合わせにて組み上げました・・この組み合わせに落ち着くのに丸2日かかったと言うワケです。

最終的に、今回は標準レンズの50mmは一切触らずに、そのままご返却させていただき、こちらの広角レンズ35mmもオーバーホールが完了しましたが、このトルク感ではご請求できる範疇ではないので一切ご請求せず無償扱いとさせて頂きます。大変申し訳御座いません・・当方で用意しているヘリコイド・グリースや当方の技術スキルでは、ご依頼者様のご期待 (トルク感覚) に応えることができず、どうにも歯が立ちません。

↑こちらの写真は、バラした直後に撮影した「空転ヘリコイド」の写真です。真鍮製ですから本来は「黄金色」のハズなのですが、既に経年劣化から酸化が進んでしまい黒色に変色しています (一部には緑青も生じています)。距離環のトルクムラが生じている根本原因は、この「空転ヘリコイド」の経年劣化です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回初めて扱ったモデルなのですが、当初バラす際には一般的なオールドレンズのような手順では解体できず、まずはバラし作業で通常の3倍近い時間がかかってしまいました。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは「距離計連動ヘリコイド」を装備しているワケですから、ヘリコイド部は上下構造のダブルヘリコイドになっていますが鏡筒とは独立して存在しています。

↑10枚の厚手でシッカリした造りの絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させますが、上の写真の状態では絞りユニットが一切固定されていません・・光学系第2群が絞りユニットを固定する役目も担っている設計なので、上の写真の状態のまま絞り羽根を動かすと浮いてしまいバラけてしまいます。

↑このような感じで光学系第2群の組付けで、ようやく絞りユニットが固定されます。

↑この状態で鏡筒を立てて撮影しました。

↑後からでは組み込むことができないので、ここで先に絞り環用のベース環をセットしておきます。このベース環に「ベアリング+板バネ」によるクリック機構を組み込むことで絞り環操作時のクリック感を実現しています。

↑こちらも後からでは組み付けられないので、先に光学系後群 (第3群〜第4群) をセットしてしまいます。

↑光学系後群が後から組み付けられない理由が、上の写真です。光学系後群の第5群 (つまり後玉) の硝子レンズ格納筒には「ヘリコイド:オス側」がセットされているからです。この光学系第5群の硝子レンズ格納筒 (ヘリコイド付) は、ネジ込み式でセットされるのですが、当然ながらネジ込みの停止位置をミスると描写性能が低下してしまいます・・ヘリコイドの位置がズレるだけでなく入射光の光路長自体もビミョ〜に伸びてしまうため。

↑さて、問題の「空転ヘリコイド」です。既に当方による「磨き研磨」が終わっているので、本来の真鍮製「黄金色」の輝きが戻っています。キレイに輝かせるために「磨き研磨」をしているのではなく(笑)・・あくまでも「経年劣化に拠る酸化=表層面の摩擦」を排除することが目的です。

「空転ヘリコイド」とはグルグルと360度いつまでも回り続けることができる (つまりネジ山が存在しない) ヘリコイドのことを言います。しかし「空転ヘリコイド」を回す (つまり距離環を動かす) ことで鏡筒が直進動して繰り出されたり収納したりしなければ意味がありません。従って「ヘリコイド:メス側」のネジ山が反対側には備わっているワケですね。この「空転ヘリコイド」には距離環を固定するための溝が用意されており、同時に距離環が駆動する範囲を決めている「制限キー」と言う金属パーツも備わっています。この「制限キー」の裏側に (写真では見えないので写っていません)「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツが一緒に固定されています。

上の写真で「空転箇所」と説明している部分が「面と面」が接触した状態のまま回転する場所なので、特にこの部分の「抵抗 (負荷)」が最終的に距離環を回す際のトルク感に対して大きなポイントになってきます。何でもかんでも「軽め」のグリースを塗れば軽い操作性になると言うのは、単なる思い込みであり、実際には同じ真鍮材の金属が互いに接触したまま回転する場所ですから、それに見合うグリースの種別と粘性・成分を選択しなければイケマセン。従って、ライカ製オールドレンズの難関は、まさに「空転ヘリコイド」の処置如何で決まっていくことになるワケです。

↑指標値環 (基準マーカー) と距離環を組み付けますが、これらのパーツも後から組み込むことができないので、ここで先に「空転ヘリコイド」にセットしておきます。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で4箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらはマウント部の写真ですが「距離計連動ヘリコイド」が一式組み込まれることになります。上下に互いに関係し合うダブルヘリコイド方式ですから、こちらにも「直進キー」が存在します・・「直進キー」が「直進キーガイド」に入ってスライドすることでヘリコイドが繰り出されたり収納したりします。

↑前出の「空転ヘリコイド」の内側に用意されている「直進キー」を咬み合わせた上でマウント部をセットします・・上下に2つのヘリコイド (オスメス) を装備したダブルヘリコイドですから、ヘリコイド (前:距離環側) の駆動量がそのままマウント側の「距離計連動ヘリコイド」にも伝達されなければイケマセン。従って「空転ヘリコイド」の内側に用意されている「直進キー」が「距離計連動ヘリコイド」の「直進キーガイド」に入り、逆に「空転ヘリコイド」に用意されている「直進キーガイド」にマウント側の「直進キー」が入るワケです。この後は光学系前群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑オーバーホールが完了しましたが当方の判定では、これでも「普通」レベルのトルク感です。しかし、冒頭の説明のとおり標準レンズのほうのトルク感に比べると「重め」の印象です・・そもそも標準レンズのほうはヘリコイド・グリースの経年劣化が進行しているのか (バラしていないので判りませんが) とても「軽い」(当方の感覚では) 印象のトルク感です。その基準となる標準レンズのトルク感 (普通〜軽め) を「重い」とのご指摘でしたので、さすがに当方ではどうにもできません。申し訳御座いません。

↑光学系内の透明度はピカイチレベルです。

↑この光学系後群の清掃にも通常の3〜4倍の時間がかかってしまいましたが、一部 (第3群〜第4群) が落とし込みの方式で硝子レンズ格納筒に収納される設計です。少々深さがあるので、どうしても落とし込む際に非常に微細な塵やホコリが入ってしまいます。ブロアーで吹きながら作業しているのですが、後玉を締め付けると拡大されてハッキリ見えるので非常に微細な塵やホコリが目立ちます・・何度も何度もバラしては清掃して最も塵や埃の進入が少ない状態で仕上げた次第です。申し訳御座いません。

↑10枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。絞り環の操作性も当初は僅かにクリック感が強めの印象でしたので軽いクリック感に改善させています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が感じられない大変キレイな状態をキープした個体ですが当方による「磨きいれ」を施し落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑すべての指標値が清掃時に褪色してしまったので当方にて着色しています。塗布したヘリコイド・グリースは前述のとおり「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗っています・・トルクムラも解消されていると思います。

↑前回に引き続き、今回もご期待に応えることができませんでした・・お詫び申し上げます。当方で用意しているグリースでは対応できないので、次回からはプロのカメラ店様や修理専門会社様宛整備のご依頼をして頂くのが最善かと存じます。申し訳御座いません。

↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値を「f2」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f2.8」で撮りました。

↑F値「f4」で撮影しています。

↑F値「f5.6」になりました。

↑F値「f8」になります。

↑F値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」になります。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。