◎ CHINON (チノン) AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA(M42)

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chinon-logo100今回の掲載はヤフオク! 出品用ではなく、オーバーホール/修理ご依頼を承ったオールドレンズの掲載になります (有料にて掲載しています)。ヤフオク! には出品していませんので、ご注意下さいませ (オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています)。

cn55140911281972年にチノンから発売されたフィルムカメラ「CHINON M-1」のセット用レンズとして用意された標準レンズです。今回ご依頼頂いたオーバーホール/修理のモデルは、大変ありがたいことに『TOMIOKA』銘がレンズ銘板に刻印されている「初期型」の個体でした・・このような貴重なモデルを扱う機会を得たことにお礼申し上げます。

tm5514レンズ銘板の「TOMIOKA」銘からもこのモデルは富岡光学製なのですが原型は富岡光学純正のオリジナルブランド「AUTO TOMINON 55mm/f1.4」であり富岡光学製OEMということになります。当時富岡光学は相当な種類のOEMモデルを供給していたようです・・どのようなモデルが存在するのかは「こちらのページ (AUTO RIKENON 55mm/f1.4)」で解説しているので興味がある方はご覧下さいませ。

ネット上の解説などを見ていると「富岡光学製かも知れない」「一説によると富岡光学製」などと案内されていることが多いですが、せっかくなので今回のオーバーホールに際し前述のOEMモデル「AUTO RIKENON 55mm/f1.4」との比較を行う意味からすべて同じ角度で写真撮影しました・・「かも知れない」ではなくて『富岡光学製』であることがよく分かると思います。これは一般的にはオールドレンズの外観 (筐体) から判断するしかないワケで、意匠の相違や距離環や絞り環の回転方向の違い、或いはスイッチの形状や指標値の相違など様々な要素を基に判断している人が多いのも仕方ありません。しかしバラしてみれば一目瞭然であり内部の構造化や構成パーツには明らかな「証」が顕在しています。

ちなみに今回の個体は「初期型」にあたりますが当時のフィルムカメラ「CHINON M-1」の1973年に印刷された取扱説明書を確認すると掲載されている「AUTO CHINON 55mm/f1.4」は「前期型」のタイプになっていました。従って発売から僅か1年足らずで一部仕様を変更し、且つレンズ銘板からは「TOMIOKA」銘を省いてしまったことになります・・如何にこの「初期型」が稀少なのかがお分かりでしょうか。

cn551409118「初期型」1972年発売当時

コーティング:モノコーティング
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印あり
最小絞り値:f16
A/M刻印位置:指標値環

cn5514%e5%89%8d%e6%9c%9f2「前期型−Ⅰ」1973年

コーティング:モノコーティング
レンズ銘板:TOMIOKA銘なし
最小絞り値:f16
A/M刻印位置:スイッチ左右

cn5514%e5%89%8d%e6%9c%9f2「前期型−Ⅱ」1975年?

コーティング:モノコーティング
最小絞り値:f16
A/M刻印位置:刻印なし

cn5514mc2「後期型−Ⅰ」1977年発売

コーティング:マルチコーティング
最小絞り値:f22

cn5514mc1「後期型−Ⅱ」1978年?

コーティング:マルチコーティング
最小絞り値:f22

cn5514%e6%a7%8b%e6%88%90%e5%9b%b3光学系は5群7枚の拡張ダブルガウス型で富岡光学製オールドレンズらしいとても線の細いエッジと共に被写界深度が大変浅い鋭いピント面を構成します。そして被写体の素材感や材質感を写し込んだ質感表現能力の高さと同時に空気感や距離感までも表現し得る立体感、さらに現場の雰囲気や臨場感を漂わすリアル感はたいした描写性です。動物毛の表現性やガラスの質感、或いは金属質の硬質感などをシッカリと写し込む表現性は素晴らしいですね・・。

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cn5514091111こちらの写真は当初バラした直後に清掃も何もしていない状態で撮影しました。今回のオーバーホール/修理ご依頼は「ヘリコイドがスカスカ」と言う内容でしたが届いた現物は距離環を回すとスカスカであると同時に砂が混入しているのかジャリジャリしていました。

距離環は無限遠位置の状態で外さなければ直進キー (距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツ) が変形、或いは最悪の場合破断してしまいます・・つまり最短撮影距離の位置まで鏡筒を繰り出した状態で距離環を回したりすると距離環を回そうとして入れたチカラが直進キーの先端部に一極集中してしまいアッと言う間に直進キーが曲がってしまいます。特にこのモデルの場合直進キーは非常に細いパーツなので無限遠位置の状態で回すとしても専用工具を使ってムリに回すのは恐ろしいワケです。

数回試しましたが全く距離環が外れず仕方なく専用工具を使いました・・がしかし、それでも外れません。これで最後 (つまり整備せずご返却する) と覚悟を決めて専用工具でもう一度試したら「パキッ」という音と共にようやく距離環が回りました。そして恨みを込めて撮影したのが上の写真です (とにかく直進キーを折ってしまいそうで怖いので)。

何とイモネジ3箇所の周囲には内部のヘリコイド (メス側) に「接着剤」が塗布されていました。すぐさま直進キーを確認しましたが全く変形していません・・ホッと一安心です。そもそも真鍮製のヘリコイド (メス側) にはイモネジ用の「下穴」が用意されているワケですが、それにさらに接着剤を塗ってしまう意味が分かりません。将来的に距離環が空転してしまうのを防ぐ目的からこのような愚策 (接着剤の塗布) をしたのでしょうが、それは将来的なメンテナンスができない原因にもなり得ます。全く以て腹立たしい限りです。オールドレンズをバラしているとこのような事柄が時々あるのですが、緩まないようにとイモネジをキツく締め付けてしまったり今回のように接着剤を使ったり必要ない箇所にまでグリースを塗ったくったり・・凡そ愚策であり原理原則を全く理解していない輩の行いです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

cn5514091112ここちらは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

cn5514091113絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。冒頭でご案内した「AUTO RIKENON 55mm/f1.4」の鏡筒とも全く同一の仕様で設計されたパーツです。

cn55140911146枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。やはり同じ角度で写真を撮っていますのでRIKENONも同じ鏡筒と絞りユニットであることがご確認頂けると思います。

cn5514091115ここでヘリコイド (オス側) の上に組み上がった鏡筒を乗せて撮影してみました・・クイズです。

アルミ材削り出しパーツであるヘリコイド (オス側) に1箇所切り欠きがあります。上の写真で「ここ」と書いてあるネジ部分がヘリコイド (オス側) のこの切り欠き部分に入るワケですが、この写真を見てすぐに気がついた人は相当なスキルを持っているメンテナンス経験者です・・さて「ここ」と書かれたネジ部分は一体何のために用意されているのでしょうか?

ヘリコイド (オス側) に鏡筒を差し込む際の位置固定 (鏡筒の位置決め) の役目・・と答えた方はまだまだ修行が足りません。確かに鏡筒の位置固定用の役目もありますが、それだけではなくもう一つ別の役目を担っています。富岡光学製オールドレンズにしか採用されていない独特な役目を持った部位です。ネジ部分を見ると真鍮製の「円盤 (円形の薄い板)」をネジで固定してあります・・しかし、よ〜く観察してください。

真鍮製円盤の中心をネジ止めしていないことがヒントになります。答えは・・鏡筒の位置決めと同時に「絞り羽根の開閉幅調整」機能も担っているのがこのネジ部分になります。円盤の端寄りにネジが入っているのでネジを回すと円盤が回ります・・しかし回る円盤はそのままの位置で回るのではなく大きく左右にブレながら回ります。つまり鏡筒の位置を水平方向に0.5mmほどズラせる調整ができるようになっているワケですね。これにより絞り羽根が閉じた際の開口部の大きさ (正六角形の開口部/入射光量) の微調整が可能になる仕組みです。富岡光学製である「証」のひとつです。方法は幾つかバリエーションがありますが「鏡筒の位置調整によって絞り羽根の開閉幅調整を行う」と言う考え方で設計しているのが富岡光学製オールドレンズの特徴のひとつです。

cn5514091116こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。上の写真で解説している「穴」は距離環を回す際に無限遠位置と最短撮影距離の位置で距離環が停止するための「制限キー」と言うパーツを固定するためのネジ穴で、且つ制限キーの位置調整ができるよう複数のネジ穴が用意されています。

cn5514091117こちらの写真は真鍮製のヘリコイド (メス側) を撮っていますが解説のとおり上下段の二段にネジ山が切削されています。これもこの当時の開放f値「f1.4」クラスの富岡光学製オールドレンズに多く採用されていた方式です。上段が「ヘリコイドのメス側」であり下段が基台へのネジ込みで使うネジ山です。この当時の他社光学メーカーで多く採用されていた方法はヘリコイドの表裏にそれぞれ違うネジ山を切削していましたが富岡光学では上下の二段式でした。

cn5514091118真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを着けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。距離環用の駆動域制限キーも既にネジ止めしてあります。この制限キーの調整をミスると無限遠も出なく (合焦しなく) なります。

cn5514091119ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを着けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

cn5514091120こちらはマウント部内部の写真ですが既に一部の連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮っています。

cn5514091121取り外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。マウント部内部の構造や使われている構成パーツまでRIKENONのほうも全く同一ですね・・。

cn5514091122この状態でマウント部をひっくり返して絞り環をセットします。写真右側の「絞り値キー」は「溝」が彫ってあるのですがクリック用のベアリングがカチカチと填る場所になります。また左側の開口部には自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) が入るのですがこのモデル「初期型」ではスイッチは最後でなければ取り付けできません。

cn5514091123梨地仕上げのシルバーな「絞り環用固定環」の内部に「ベアリング+マイクロ・スプリング」を組み込んでからセットします。仕込まれたベアリングが先の絞り環に用意されている「絞り値キー (溝)」にカチカチと填ってクリック感を実現しているワケです。この固定環を組み付けてからでなければ自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) のツマミをセットできません。そしてシルバーな「絞り環用固定環」を固定する方法はやはりイモネジ (3本) です。「絞り環用固定環」が存在し、且つイモネジで固定する方法の場合にはまず富岡光学製と疑って間違いありません。

ここも調整必須箇所になります。絞り環用固定環の位置をミスると絞り環を回しても刻印されている絞り値とはチグハグな位置でクリックすることになってしまい正常ではなくなります・・最悪開放f値「f1.4」まで絞り環が到達しなくなるか逆に最小絞り値「f16」まで絞り環が回りません。たま〜にそのような個体に出くわしますが過去のメンテナンス時の整備不良です。

このような面倒で厄介な調整が必要になるのが富岡光学製オールドレンズの特徴です。当然ながら今回の整備はキッチリ調整が終わっています。

cn5514091124組み上がったマウント部を基台にセットします。

cn5514091125指標値環をやはりイモネジ (3本) で締め付け固定します。この時絞り環指標値と「Ι」マーカー位置がピタリと合致していなければ整備不良になってしまいます。

cn5514091126この当時の富岡光学製オールドレンズでは鏡筒の固定方法がネジ止め固定ではなかったので、このモデル「初期型」では鏡筒カバー (フィルター枠) をネジ込んでやはりイモネジ (3本) で締め付け固定することで鏡筒まで同時に固定できます。逆に言うと鏡筒カバーをセットしない限りは鏡筒はず〜ッと未固定 (フリー) のままと言うことになります。鏡筒の位置がズレると当然ながら絞り環指標値との整合性もズレてきます。最悪指標値環の「Ι」マーカー位置も合わなくなってきます。そのようなチグハグに固定された個体を数多く見てきました(笑)

距離環を仮止めしてから光学系前群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

 

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

cn551409111とても珍しい『TOMIOKA』銘が刻印された「AUTO CHINON 55mm/f1.4」・・つまり「初期型」です。レンズ銘板はネジ込み式なので『TOMIOKA』の刻印位置は必ず7時の位置に来ます。しかし、鏡筒カバー (つまりフィルター枠) の取り付け位置をミスる (イモネジ3本分の位置がある) と当然ながら『TOMIOKA』の刻印位置もズレます。実際にはイモネジの「下穴」がヘリコイド (オス側) に用意されているので、その下穴の位置とイモネジの位置が合致しているか否かでオリジナルの取り付け位置なのかどうかが分かります。ところが中にはテキト〜な位置でムリにイモネジを締め付け固定してしまっている個体が市場には出回っているのも事実です(笑)

cn551409112光学系内はとても透明度の高いクリアな状態をキープしています。

cn551409119光学系後群もクリアですが僅かにヘアラインキズが付いています。後玉のコバ塗膜が一部剥がれていたので着色しました。上の写真解説のとおり自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) のツマミは片側が短いタイプです。「前期型〜後期型」では左右対称のツマミに変遷していきます。折れてしまったツマミが付いているのではなく片側が最初から無い成形の非対称ツマミが「初期型」には使われています (一部には前期型−Ⅰにも見受けられますが)。

cn551409113絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。絞り環の操作も当初は軽い印象でしたのでシッカリとクリック感のある操作性に調整しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感を感じる個体ですが筐体外装の「磨き」をいれたので相応に落ち着いた美しい仕上がりにしてあります。当方による着色は一切施していません。

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cn551409117塗布したグリースはご希望により「粘性:重め」を塗っています。当初バラす際に距離環が外れにくかったワケですが直進キーは全く変形していませんでした。しかし、実は直進キーの1本に既にヤスリ掛けがされていました。過去のメンテナンス時に削ったようです。その部分が僅かにササクレ状になっておりその影響で距離環を回すトルクに支障を来しました。そのササクレ部分を当方にてキッチリ磨きを入れてトルクの改善処置を施したためオーバーホールとしては全域に渡って均一で滑らかなトルク感に仕上がりましたのでご安心下さいませ。

「粘性:重め」のヘリコイド・グリースなので距離環はジックリと回す操作性ですがピント合わせ時には軽いチカラでシッカリとピント合わせができるシットリ感のあるトルクです。

cn551409118距離環ローレットのエンボス加工が施されたラバーもキッチリ清掃してあるので経年の汚れなど除去できています。清潔ですよ・・その他附属の前後キャップも清掃してあるので砂や埃の類もとれています。

cn5514091127ローレットの繋ぎ合わせ部分は当初の時点でラバーが縮んでしまっていましたがキッチリ合わせてあります。

cn5514091110当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。