◎ PORST (ポルスト) COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.2 F《前期型》(PK)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツのPORST製標準レンズ『PORST COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.2 F《前期型》(PK)』ですが、このモデルは『富岡光学製』のオールドレンズになります。原型モデルは、同じ「PK」マウントのオールドレンズが存在しているワケではないのですが、過去にオーバーホールした経験からYASHICA製標準レンズ「AUTO YASHINON DS-M 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)」であると判定しています (構成パーツの中でマウント部の機構を除いて、ほぼ同一)。当方で『富岡光学製』の判定をする際は、内部構造も然ることながら、各構成パーツの類似性や、特に光学硝子レンズの格納方法 (格納筒の設計) を優先的に判断しており、前述のYASHICA製TOMIOKAダブル銘のモデルは光学系は全く同一です (コーティング層の成分は異なります)。ネット上を検索していると、今回のPORST製オールドレンズに対して、頑なに「富岡光学製ではなくコシナ製」との案内も見られますが(笑)、当方の考えでは『富岡光学製』です (当方も頑固です)(笑)

PORST (ポルスト) はブランド銘で戦前の1919年にHanns Porst (ハンス・ポルスト) によって旧ドイツのニュルンベルク市で創業した、主に写真機材を専門に扱う通信販売専門会社「PHOTO PORST」で使われていたブランドです。会社所在地のニュルンベルク市はバイエルン州に属する街ですが、敗戦後の東西ドイツ分断の時期に於いてはバイエルン州自体が複雑に東西ドイツに跨がっていたためネット上の解説では旧東ドイツの会社だと案内されていることがあります・・正しくは「旧西ドイツ」になります。同じPORSTでも創業者の名前を採ったブランド銘ですから当時実在していた「Porst市」とは一切関係がありません。ちなみに、1930年〜1950年代に駆けては自身の名前の頭文字から「HAPO」ブランドを展開していたようですが、PORSTブランドの製品も含めて自社での開発をせず他社光学メーカーからのOEM製品供給に頼っていたようです。終盤期にはPORSTブランドに追加して「carenar (カリーナー)」ブランドが新たに加わりますが、愛娘の名前をあしらってブランド銘にしています (カリーナーではありません)。

最も初期の頃のモデルだけは、まさしく「TOMIOKA」銘が附随するダブル銘ですから (レンズ銘板の刻印のことです)、疑いようがありません・・。

【富岡光学製55mm/f1.2のバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

YASHICA:AUTO YASHINON 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 55mm

CHINON:AUTO CHINON 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 55mm

COSINA:AUTO COSINON 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 55mm

Revue:AUTO REVUENON 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 55mm

YASHICA:AUTO YASHINON DS-M 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 55mm


・・これら5つの富岡光学製OEMモデルは、すべてのモデルで光学系後群側はマウント面に配置されている「絞り連動ピン」を避ける必要から独特なカタチに切削されている光学硝子レンズで、第4群〜第6群の全てのコバ端が一部切削されています。
(右写真は光学系後群が鏡筒にセットされている状態)

逆に言えば、使えるスペースを最大限に使い切って設計された拘りの光学系とも言えます。

TOMIOKA:AUTO TOMINON 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 55mm

そして何と言っても本家本元の富岡光学のオリジナルモデルとなれば、上記モデル「AUTO TOMINON 55mm/f1.2 (M42)」になりますね。もちろん光学系の設計から仕様諸元値まで
全く同一です (特にAUTO YASHINONモデルはオリジナルモデルのレンズ銘板すげ替え版と
言える)。

この後に登場したモデル (おそらく1970年代) が、レンズ銘板から「TOMIOKA」銘が省かれてしまったが為に、ネット上であ〜だこ〜だと騒がれる一因になっています(笑)

前期型PORST COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.2 F (PK)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f22
フィルター径:⌀ 55mm

後期型PORST COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.2 F (PK)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f22
フィルター径:⌀ 55mm

YASHICA:YASHICA LENS ML 55mm/f1.2 (C/Y)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.5m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 55mm

・・こんな感じですが、これら後に登場したOEMモデルは光学系後群の仕様が初期のモデルとは変わっており、従前の切削をやめています (当然ながら光学系は再設計されています)。


 

左写真は前述のレンズ銘板に「TOMIOKA」銘が刻印されているモデル「AUTO REVUENON 55mm/f1.2 TOMIOKA」をオーバーホールした際に撮影した写真から転載しています。

ご覧のとおり第4群は片面側 (後玉側) が非常に
緩い (平坦に近い) 凹レンズになった両凹レンズです。

それら「TOMIOKA」銘がレンズ銘板に刻印されているモデルの光学系は、6群7枚の拡張ウルトロン型であり本家ウルトロン型構成の後群成分を1枚追加しています。描写性能は折紙付きで富岡光学製オールドレンズの特徴を最大限に堪能できる、まさに銘玉中の銘玉です。

右の構成図は過去にオーバーホールした際のバラした清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

また今回のモデルは「PKマウント」なので右の光学構成図になり、後群側の切り欠き部分が消失した光学設計に変わっています。

Flickriverでこのモデルの実写を検索したので興味がある方はご覧下さいませ。

最後に、騒がれているもう一つのモデル、コシナ製「COSINA 55mm/f1.2 MC (PK)」についてご案内しますが、当方はまだこのモデルをオーバーホールした経験が無いので、何とも判定できていません。しかし、最も関心を引く相違点は、これらのモデルの中で唯一フィルター枠径が「⌀58mm」であり、当方ではコシナ製ではないかと踏んでいます・・どうでしょうか。
ネット上では、最短撮影距離が60cm (最小絞り値:f16) がコシナ製であるとの解説が多い
ようですね。

COSINA:COSINA 55mm/f1.2 MC (PK)
光学系:6群7枚
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:0.6m〜∞
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀ 58mm

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部の構造化から構成パーツに至るまで、マウント部の設計が異なることを除くとYASHICA製「AUTO YASHINON DS-M 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)」と大きく異なる点は発見できていません。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

↑8枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞りユニットの位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を調整する仕組みを採っています。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側を撮影しました・・冒頭のDS-Mの鏡筒裏側の写真と比べてみてください。

この方式で鏡筒の裏側に制御系を一極集中させているのが富岡光学製オールドレンズの特徴でもありますが、似たような他社光学メーカーのモデルではRICOH製「XR RIKENON」のシリーズ (前期型) や、YASHICA製「YASHICA LENS ML」シリーズ、或いは「AUTO YASHINON DS-M」シリーズなどがあります (他にも複数あり)。

  • 絞り環連係アーム:
    絞り環との接続を介在させるアーム
  • 絞り羽根開閉幅制御環:
    絞り環操作に連動して絞り羽根の開閉角度を制御している環 (リング/輪っか)
  • 絞り羽根開閉アーム:
    マウント面の絞り連動レバーの操作により絞り羽根を勢いよく開閉するアーム
  • カム:
    絞り羽根の開閉角度を絞りユニットに伝達させる役目のパーツ

上の写真では「絞り羽根開閉幅制御環」に用意されている「なだらかなカーブ」部分の解説 (グリーンの矢印) をしていますが、カムから飛び出ている金属製の突起棒がカーブの勾配に当たることで絞り羽根の開閉角度が決定し、それが絞りユニット内の絞り羽根に伝達されていきます。「なだらかなカーブ」の「麓」部分は最小絞り値側になり、坂を登りつめた「頂上」部分は開放側にあたります。上の写真ではカムが麓部分に位置していますから絞り羽根は最小絞り値まで閉じた状態になっています。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑指標値環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定します。イモネジをワザワザ使っているワケですから、この指標値環は「位置調整」する箇所であることが判ります・・実際、この指標値環に用意されている「壁」の部分に距離環が突き当たって停止することから「無限遠位置」と「最短撮影距離」の位置が確定するようになっており、指標値環の固定位置をミスると無限遠位置が狂うばかりか最短撮影距離の位置まで全く違ってしまいます (つまり実距離と距離環指標値との整合性が無くなる)。従って、単にヘリコイドのネジ込み位置の問題だけではなく、指標値環の固定位置も調整していかなければ適正状態で組み上げられない調整が厄介なモデルです。

↑ここでひっくり返して、後から組み付けできないので先に光学系後群をセットしてしまいます。

↑絞り環を組み付けますが、絞り環操作はクリック感を伴う操作性になっています・・しかし、クリック感を実現しているのは鋼球ボールではなく、上の写真のような「棒状のピン」を使っていました (クッション性は当然ながらコイルばねではなく板バネを採用)。絞り環の裏側に用意されている「絞り値キー (溝)」に棒状のピンが填ることでカチカチとクリック感を実現しています。

↑絞り環をセットした状態を撮影しました。もしも、前の工程で指標値環の固定位置が適正ではないと、絞り環を回した時の各絞り値とクリック感の位置もチグハグになってしまいます・・「Ι」マーカーが絞り環絞り指標値の中央に来ないと言う面倒な設計です。

↑前回オーバーホール/修理で同型モデルを扱った際に、ここの工程で数時間を費やしてしまいました・・上の写真の3つのパーツの関わり合いが理解できていないと、このモデルは正しく組み上げることができません。

↑これら3つのパーツは上の写真のようにひとまとめになって組み付けられます。

↑ところが、実際には「1本のスプリング」で、これら3つのパーツを束ねているような設計を採っており、当初バラす時にマウント部の固定ネジを外してマウント部を持ち上げると、途端にアッと言う間にスプリングが飛んでしまいます・・それこそ、まるで「知恵の輪」のように複雑に3つのパーツが関わり合っている仕組みを採っています。前回のオーバーホール/修理では、スプリングを飛ばしてしまったワケですが、どのようにこれら3つのパーツが関わっていたのか観察しておく時間すら無く、組み上げの際に散々考えさせられてしまった次第です。もう理解できているので今回は楽でした(笑)

↑完成したマウント部をセットします。

↑距離環を仮止めしてから光学系前群を組み付けて、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすればいよいよ完成です。

 

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑市場でも滅多に回らないPORST製『COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.2 F《前期型》(PK)』であり、『富岡光学製』の開放F値「f1.2」を余すことなく堪能できる素晴らしいモデルです。レンズ銘板に刻印されている「F」がいったい何を意味するのか、いまだに分かりません。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体であり、LED光照射でもコーティング層劣化に伴う極薄いクモリすら「皆無」です。今までの経験から富岡光学製オールドレンズは、光学系内にカビが発生する率が高く、且つコーティング層の劣化も酷い個体が多いのですが、今回は久しぶりに状態の良い個体です。富岡光学ファンの方には生唾モノの個体ではないでしょうか・・。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズと微細な拭きキズや薄く細いヘアラインキズなどを撮っています。

↑光学系後群も透明度が高く良い状態をキープしています。上の写真では円形状の反射が写ってしまいましたが (後群内の硝子レンズの曲率が高いためのミニスタジオの写り込み)、実際には上の写真のような円形状のモノはありません。

↑上の写真 (5枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目〜4枚目までは極微細な点キズや細く薄いヘアラインキズなどを撮っていますが、最後の5枚目は後玉外周附近に1箇所ある目立つカビ除去痕 (芯) を拡大撮影しました。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:20点以上、目立つ点キズ:18点
後群内:16点、目立つ点キズ:11点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ有り)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・汚れ/クモリ (LED光照射/カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度は非常に高い個体です
・光学系内にはコーティング層を反射させると拭き残しのように見える箇所が一部ありますが、清掃でも除去できなかったコーティング層の経年劣化に伴う非常に薄いムラですのでクレーム対象としません。
・ホコリが侵入しているように見える箇所がありますが清掃でも除去できなかった拭きキズです。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑8枚の絞り羽根もキレイになり絞り環の操作性共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態をキープした個体です。当方による「磨きいれ」を施したのでとても落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「ほぼ均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑富岡光学製オールドレンズは経年の使用に於いてカビの発生率が高くコーティング層の劣化も進行してしまう個体が多い中で、今回出品個体の光学系は大変良い状態をキープしています。銘玉中の銘玉と言われ続けている開放F値「f1.2」の大玉で富岡光学製オールドレンズの魅力を存分にお楽しみ下さいませ。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f2.8」で撮りました。

↑絞り値はF値「f4」になっています。

↑F値「f5.6」になりました。

↑F値「f8」で撮っています。

↑F値「f11」になりました。

↑F値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。