◎ KONICA (コニカ) HEXANON AR 57mm/f1.2 AE(AR)

KONICA3今回もヤフオク! への出品用ではなく「オールドレンズのご予約」を承った分のオーバーホールの工程を掲載します。そのため、ご依頼者様へのメッセージも含んだ内容になっています (写真付で解説したほうが分かり易いため)。ヤフオク! には出品していませんので予めご留意下さいませ 。

過去にこのモデルの前期型「HEXANON AR 57mm/f1.2 EE」の整備をしたことはありますが、今回の後期型「HEXANON AR 57mm/f1.2 AE」をバラしたのは初めてでした。内部の構造化としては前期型のほうが理に適った造りをしていたように記憶していますが、今回の後期型では「AE」の機構部が入ってきたために相当苦心して考えられた構造化が成されているようです。

ご予約を承ってから実に5カ月目にしてようやく入手できました。実際には1カ月前にカナダから調達しましたが、日本への輸出を拒まれたために仕方なくアメリカを経由して輸入しました。元々はギリシャのディーラに依頼しており、2本の個体について連絡が来ました。1本目は2カ月ほどで連絡が入り、外観が大変キレイなのですが写真を見ると光学系にカビが多く入手する気にはなりませんでした。2本目はさらに1カ月半ほどしてから連絡が届きましたが、光学系も外観も共にキレイなレベルなのですが距離環が変形しているように見えます。やはり入手を断念したところ今回のカナダのディーラから突然連絡が入りました・・。

今回の個体は距離環のラバー製ローレットがオリジナルではなく「ブチルゴム」をグルグル巻きにしてある個体でした (恐らく経年劣化で緩んでしまい剥がしたのか、ボロボロに切れてしまったのか)。さらに外観は距離環や絞り環に経年相応のスレキズやハガレなどが見受けられます。しかし光学系は大変キレイで、海外オークションのebayなどで見ていても高額な部類に含まれるようなレベルでした。光学系の状態を優先して調達した次第です。

ちなみに、海外オークションでは現在も数本が出品されていますが「即決価格+輸送コスト+通関料+消費税」で計算すると優に60,000円〜100,000円の範囲で推移しており、その平均価格は「75,000円」といった感じです。5〜6年前は2〜3万円で入手できたと思うので、相当な高騰ぶりです。それでも出品ページの写真を注意深く見ると、光学系の特にコーティング劣化が相応に生じている個体が多いようです。

当レンズはモデル・バリエーションの中では最後期型「第4世代」のモデルにあたり、第1世代発売の1957年から1987年まで生産が続けられていたようです。

  • 第1世代:金属製距離環、シルバー絞り環、EE表記、一部に酸化トリウム含有
  • 第2世代:金属製距離環、オールブラック鏡胴、EE表記、酸化トリウム含有
  • 第3世代:距離環ラバー製ローレット、オールブラック鏡胴、EE表記
  • 第4世代:距離環ラバー製ローレット、オールブラック鏡胴、AE表記

光学系は6群7枚のBiotar/Xenon型の発展系でUltron型に属し、後群の第5群を拡張して2枚構成にしています。そのため後玉は「平凸レンズ」を採用し「真っ平ら」です。


オーバーホールのために耐買い足し後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

AR5712(1216)11ここからは解体したパーツを使い実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

AR5712(1216)12いつもはここで絞りユニットや光学系前後群を収納する鏡筒を移しているのですが、このモデルでは絞りユニット自体が独立した機構部を持っています。上の写真は絞りユニットの絞り羽根を組み付けるベース部分です。

AR5712(1216)13先の写真の反対側に6枚の絞り羽根を組み付けて、メクラ蓋を取り付けた状態の写真です。メクラ蓋には各絞り羽根の角度を指定する「楕円形の穴」が用意されており、ここに絞り羽根のキー (絞り羽根を固定する金属の突起棒) の片側が入っています。

AR5712(1216)14絞りユニットの反対側です。既に6枚の絞り羽根が組み付けられていますが、写真上部にある絞り連動カムにより、強制的に「開放位置」に絞り羽根は開いている状態です。

AR5712(1216)15こちらが本来の鏡筒で、この中に絞りユニットが収まります。

AR5712(1216)16絞りユニットを組み付けた状態でひっくり返して撮った写真です。写真手前のカーブ状の「真鍮製パーツ」は、絞り羽根の開閉幅 (絞り羽根が開く角度) を決定しているパーツです。鏡筒の周りにはグルッとスプリングが巻かれており、マウント部の絞り連動ピンの動きに連動してスプリングのチカラで絞り羽根の開閉が制御されます。

AR5712(1216)17こちらは鏡筒の表側 (つまり前玉側) に装備している「絞り環連係環」のベアリング部分を拡大撮影しました。全部で88個のベアリングが入っており、絞り環連係環 (絞り環の駆動に伴い絞り羽根の開閉を制御する部分/輪っか) 自体は「宙に浮いた状態」で、組み込まれた88個のベアリングによって保持しているので、ここをバラすとコツが判らない人はパニクると思います・・当方はもうコツが判っているので、今回は砂の混入からジャリジャリした感触だったので、バラしてキレイに清掃をしました。

AR5712(1216)18こちらは鏡筒の反対側 (つまりマウント側) に装備している「絞り連動ピン」の環 (輪っか) を撮りました。やはり6個のベアリングで宙に浮いている状態の絞り連動ピンの環を保持しています。僅か2cmほどの厚みしかない鏡筒の表裏は、このような機構部を装備しており、この部分が前期型とは異なる構造化をしていました。

AR5712(1216)19上の写真はヘリコイド (オス側) →鏡筒→ヘリコイド (メス側) の組み立て手順に沿った順番で並べてみました。

AR5712(1216)20真鍮製のヘリコイド (メス側) の内側にスッポリ鏡筒が入ってしまう仕組みです。そしてその鏡筒には両サイドに幅広の「溝」が刻んであり、そこに「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツが2本入ります。

AR5712(1216)21まずはヘリコイド (オス側) を真鍮製のヘリコイド (メス側) に、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので、ここでは大凡のアタリで構いません。

AR5712(1216)22この状態でひっくり返して、先の鏡筒をヘリコイド (オス側) の裏側にネジ止めします。このような構造化のモデルはあまり見かけませんね、ちょっと珍しいです。結局、鏡筒が複雑な機構部を装備しているので、真鍮製のヘリコイド (メス側) はとても深さのある長いヘリコイドになってしまったようです。

AR5712(1216)23マウント部をセットしてからでは光学系後群を組み付けることができない為、この段階で先に光学系後群を組み付けます。後群はマウント部の開口部の面積ギリギリまでを使って最大限に口径を大きく採っている階段状の苦肉の策です。

AR5712(1216)24後玉は平凸レンズなので写真のように「真っ平ら」です。大きなキズや除去できないカビ除去痕が無い、大変キレイな後群です。

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AR5712(1216)27上の写真 (3枚) は光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は外周附近の微細なキズ (2mm長) です。2枚目は極微細な点キズを撮っています。3枚目も極微細な点キズと外周附近のキズ (カギ型) を撮りました。

AR5712(1216)28ようやく基台にヘリコイド群をセットできます。一般的に多い組み立て手順では、基台にヘリコイド群をネジ込んでから鏡筒を組み込むパターンなのですが、このモデルは違う手順で組み立てるようになっています。

AR5712(1216)29基台に各絞り値でカチカチとクリック感を伴う操作性を実現する「絞り値キー」と言う真鍮製のパーツを両サイドにネジ止めします。既に直進キーも両サイドに固定してあります。他社光学メーカーではこの絞り値キーはひとつだけなのですが、コニカのオールドレンズはほとんどが両サイドに装備しています・・片側のひとつだけで充分機能するのですが (試しに片側だけで組み立てて動かしてみました)、どうして2セット必要なのかがいまだに不明です。

AR5712(1216)30やっと絞り環を組み付けられました。絞り環にはスプリング+ベアリングが内部にセットされていますから、すぐにマウント部を組み付けて蓋をしてしまわなければベアリングが飛んでしまいます・・上の写真では既にマウント部もセットしてあります。

AR5712(1216)31距離環を仮止めしてこの後は光学系前群を組み付けます。

AR5712(1216)32光学系前群も大変良い状態を維持した個体です。

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AR5712(1216)34上の写真 (2枚) は光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。極微細な点キズが僅かにある程度で、角度に拠っては極微細な薄いヘアラインキズが1本見えますが、薄すぎて写真には写りませんでした。

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ここからは組み上げが完了したオーバーホール済の写真になります。

AR5712(1216)1銘玉中の銘玉と言われている開放F値「f1.2」を誇る大玉のモデルです。

AR5712(1216)2海外からの調達ですと、なかなか光学系の状態が掴めずにハイリスクなのですが、今回は事前にディーラから写真を送信してもらったので確認済で入手できました。それでも極微細な点キズや薄いヘアラインキズ、後群の外周附近のキズなどは確認できませんでしたが・・今までで一番状態の良い光学系だと思われます。

光学系のレンズ部分を白色の紙の上に置くと、多少黄色味を帯びて見えますが、これは前期型での「酸化トリウム含有 (尽くに言う放射能レンズ/アトムレンズ)」ではなく、コーティング層が経年劣化で黄変化しているので、UV光の照射でも改善はできません。カメラ側でのAWB (オート・ホワイト・バランス) の設定で充分改善できますから、写真への影響も (階調への影響など) 全くありません。

AR5712(1216)3絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。特に絞りユニットには砂が混入していたためにジャリジャリした感じで、実際の絞り羽根の開閉も緩慢な状態でした。オーバーホール後は全く問題なく正常に小気味良く動いています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年相応のキズやハガレ、一部には打痕 (距離環に1箇所) がありますが、当方にて着色しています (使用中に剥がれてきます)。また距離環は元々オリジナルのラバー製ローレットではなく「ブチルゴム」が新たにグルグル巻きにされており、既に癒着していましたがすべて剥がしてキレイに磨いています。さらに当方にてオリジナルのラバー製ローレットに「近い」モノを用意して貼り付けてあります。恐らくそのように言われなければ気がつかないレベルだと思います。

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AR5712(1216)7ヘリコイドには「粘性:軽め」と「粘性:中程度」の2種類のヘリコイド・グリースを塗布して調整済みです。距離環のトルクは完璧に均一になっておりトルクムラはありません。また駆動はとても滑らかで古いオールドレンズ特有の「スルスルと回る」状態ではありませんが、程良い重さだと感じます。

AR5712(1216)8稀少な銘玉を完璧なオーバーホールにてお届け致します。外観は経年相応ですが光学系の状態最優先と言うことで、きっとご満足頂けると思います。

AR5712(1216)9光学系後群も後玉も、大きなキズやカビ除去痕も無く、大変キレイな状態を維持しており、それだけでも貴重です。特にコーティングの劣化が進んでいないのがとてもラッキーでした。

AR5712(1216)10当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。ピントは手前のヘッドライト・・さらに、被写界深度が浅いのでベッドライトの本当にライト部分にしかピントは合っていません。すぐにアウトフォーカス部が滲み出すので、このようなトロトロのボケ味になります。これがこのモデルの最大の魅力でしょうか・・。

AR5712(1216)35せっかくなのでピント面の?ッ戸が鋭くなり始めるF値で撮影してみました。上の写真はF値「f2.0」に設定して撮っています。それでもこれだけのボケ味を表現しますから、相当使い出のあるモデルではないでしょうか・・素晴らしいオールドレンズです。


5カ月間も何の催促もなくお待ち頂き、大変ありがとう御座いました。妥協のない渾身の整備を施しましたのできっとご満足頂けると思います。是非末長くご愛用下さいませ。ありがとう御座いました。