◎ RICOH (リコー) XR RIKENON 35mm/f2.8《前期型:富岡光学製》(PK)

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XR3528銘板

RICOH-logo②久しぶりにRICOHの「XR RIKENON」シリーズのモデルを出品します。前回出品したのは昨年の7月でした。

基本的にあまり取り扱いたくないオールドレンズです・・。

理由は、富岡光学製のOEMモデルなのですが「光学系内」の状態が非常にリスキーだからです。前後玉のコーティング劣化はほぼ確実、下手すれば光学系内のコーティングも劣化が進んでいます。さらに光学系各群へのカビ発生率が高いのであまり手を出したくないモデルになってしまっています。

コーティングの劣化は一旦剥がしてから再蒸着をしない限り元の状態には戻りません。それができるのはプロのカメラ店様や修理専門会社様ですので、相応に割高なメンテナンス代金になってしまうと思います。よく光学系内のクモリは「清掃すればキレイになる」と思い込んでいる人が居ますが、コーティング劣化に拠るクモリは清掃などでは全く改善されず、一切除去できません。その意味で「光学系内に薄いクモリあり」などと言うオークション出品物に関しては、それこそイチかバチかのお話になります。運良くレンズ内部の揮発油成分で薄くクモリが生じていたのならば、清掃だけでキレイになりますね・・やってみなければ全く分からない世界です。

描写性能のよい有名モデルだけに出品のリクエストを頂くことも多く、今回はそのリスクを覚悟で久しぶりに調達しオーバーホール済にて出品しますので、お探しの方は是非ご検討下さいませ。どんなに有名でも、或いはどんなに優秀な描写でも、光学系がハイリスクなモデルである以上、次回扱う予定は全くありません・・

1978年にRICOHから発売されたフィルムカメラ「XR500」用の交換レンズ群として用意されたモデルで、2つのモデル・バリエーションがあります。

  • 前期型:富岡光学製、総金属製、最短撮影距離35cm、絞り羽根6枚、最小絞り値「f16」
  • 後期型:日東光学製、総金属製、最短撮影距離30cm、絞り羽根5枚、最小絞り値「f22」

 

XR3528銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

XR3528(0212)11前回オーバーホールした時は、光学系前群の固着が酷く、光学系前群〜絞りユニットまでを全くバラすことができませんでした。今回の個体も固着剤の塗布量が多く難儀しましたが、完全にバラすことができました。ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ちなみに、上の写真で光学系硝子レンズの中玉 (中央の背の高いヤツ) の周囲に「白色のモノ」が附着しているのは、硝子レンズの固定剤で「カビではありません」のでヨロシク。たま〜に「カビですよね?」とのご質問を頂くので(笑) もしもカビならばちゃんと記載しています (隠したりしませんよ!)。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

XR3528(0212)12絞りユニットや光学系前後群を格納するための鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

XR3528(0212)136枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。上の写真に写っているマイクロ・スプリングは、絞り羽根を常に「閉じた状態」に引っ張っているスプリングです。

XR3528(0212)14このままの状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました。上の解説の通りですが、開閉幅制御環に用意されている「なだらかなカーブ」部分を開閉幅制御カムの飛び出ている金属棒がカーブに沿って行き来すると、絞り羽根は閉じたり開いたりします。上の写真向かって右端が最小絞り値側になり、逆の左端が開放側になります。絞り羽根開閉アームはマウント面の絞り連動ピンの動作に従ってダイレクトに絞り羽根を開閉する絞り羽根に直結したアームです。

XR3528(0212)15こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

XR3528(0212)16真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が用意されているので、大凡のアタリで構いません。

XR3528(0212)17鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で10日処理ネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず)、再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

先日、当方のこのブログ掲載写真で「ヘリコイドのオスメス」の写真に「ヘリコイド・グリースは塗ってある状態ですか?」というご質問を頂きました。当方の掲載写真はオーバーホール作業工程の途中を撮影した写真ですので、すべてグリースの類は塗布した後の状態を撮っています。ご質問者が何を意図していたかは分かりませんが、塗布しているヘリコイド・グリースの量は、そんなに少ないのですか?・・と言う意味合いも含まれているのかも知れません。つまりはそんな微量で将来的に問題が無いのか心配なのでしょう(笑)

写真では全部キレイに写ってしまうので (スポットライト浴びてますし)、実際の現物を見ればそれなりの量を塗布しています。しかし、グリースなのだから多目のほうが将来的にも安心ではないかと言う考えは、むしろ誤りです。必要量 (適量) があり、それ以上のグリースを塗ってしまうと、すべて将来的な揮発油成分をワザワザ用意してあげているようなものです。何度も記載するように、揮発油成分は将来的にレンズ内部を廻ってしまい、下手すれば最終的に光学系硝子レンズのコーティング劣化を促す原因にもなり兼ねません。光学硝子レンズの研磨は凡そ生産時の諸元値に対して1%未満程度です。つまりは光学硝子を研磨して削れるチャンスは「1回限り」と考えたほうが良いワケで、次回のコーティング層研磨はできないと言う寿命が尽きてしまう時期を意味しています。

最悪のパターンでは、過去のメンテナンスで「液体潤滑油」を塗布されてしまっている個体などが時々出てきます。これはもう最悪で、ヘリコイドのネジ山の摩耗は酷いですし、金属製構成パーツの腐食や光学系のコーティング劣化も相当に進んでしまっています。オールドレンズの寿命を短くする極悪のメンテナンス手法なのですが、意外と距離環はスルスルと気持ちよく回っており、気づかずにそのまま使ってしまうでしょう(笑) 哀れなそのオールドレンズは、やがて距離環の負荷が増大して重くなり、それをムリに回してさらにヘリコイドのネジ山が削れてしまい、最後は噛んで動かなくなります・・確かに、星の数ほどに市場に出回っているワケですから、また新しい中古品を安値でゲットして入れ替えれば良いでしょう(笑)

XR3528(0212)18こちらはマウント部内部の連動系・連係系パーツを外して既に「磨き研磨」が終わっている状態の写真です。

XR3528(0212)19「絞り環連係環」をセットして撮っています。

XR3528(0212)20マウント部を基台にセットします。

XR3528(0212)21「絞り環連係アーム」は絞り環に刺さり、絞り環を回すと設定した絞り値に「連係アーム」が動きます。すると絞り羽根開閉幅制御環が動くワケですから、前述の「なだらかなカーブ」が動いてカムが動き、絞り羽根の角度が変わって設定絞り値に見合う開口面積になる・・と言う仕組みですね。絞り環から直接的にダイレクトに絞り羽根を駆動しているワケではありません (そのように思い込んでいる人が意外と多いですが)。

XR3528(0212)22マイクロ・ベアリングを入れ込んでから絞り環をセットします。

XR3528(0212)23マウントをセットして絞り連動ピンのマイクロ・スプリングを引っ掛けます。

XR3528(0212)24距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ行い、距離環を本締めして最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成間近です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

XR3528(0212)1あまり頻繁には市場にも出回らない、少々貴重な焦点距離「35mmのXR RIKENON」です。もちろん富岡光学製の「前期型」です。

XR3528(0212)2ご多分に漏れず、今回の個体にもコーティング劣化やカビの発生が見受けられました。しかし、幸運にもその劣化状態はそれほど危惧するレベルのモノではなく、どちらかと言うと良い部類に入る個体でした。ラッキ〜でしたね。

XR3528(0212)2-1

XR3528(0212)2-2上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影した写真です。1枚目は極微細な点キズとコーティングハガレや拭きキズの状態を撮っています。2枚目は第2群の外周附近にある清掃でも除去できなかった黒点状の汚れなどを撮っています

XR3528(0212)9光学系後群です。

XR3528(0212)9-1

XR3528(0212)9-2上の写真 (2枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。2枚共に極微細な点キズの状態を撮っています。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:13点、目立つ点キズ:9点
後群内:9点、目立つ点キズ:5点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。LED光の照射にて各群にコーティング劣化に拠る、非常に薄いクモリやカビ除去痕が浮かび上がります。前玉にはコーティングハガレや拭きキズが僅かにあります。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。

XR3528(0212)3絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かに感じられる個体ですが、オールドレンズとして捉えた場合の当方の判定では「美品」として掲示しています。

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XR3528(0212)7【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:重め」を使用。
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・清掃時に指標値が褪色したため着色しています。

「磨き研磨」は極力グリースの類の塗布を少なくして、今後の経年使用に於いても「揮発油成分」が光学系まで回らないよう配慮した処置です。それは既に光学系、特にコーティングの劣化が相応に進行しており、さすがに硝子材だけはいくらメンテナンスと言えども、おいそれと何度も研磨することはできません (せいぜい当初生産時諸元値の1%以下程度までしか研磨できません)。それを考えるとグリースを塗ったくったり、或いは液化の早い滑らかな (粘性が軽めな) グリースばかりを好んで使うのもどうかと思いますが・・。

その意味では、使い倒すつもりならば整備する必要は無いでしょうし (スルスル回るのは既にグリースの限界が来て液化が始まっているからです)、少しでも長く使うならば整備したほうが良いコトになります (グリースを入れ替えるワケですから、トルクはそれなりに変化します)。その辺のリスクが分からない (気がつかない) 方が最近は多くなってきました・・当然ながら、当方のスキルレベルは低いですから、完璧な整備を望まれる方は「プロのカメラ店様/修理会社様」に整備をご依頼されるのが最善かと思いますヤフオク! に出品しているオールドレンズの入札/落札も、このブログをご覧頂き「オールドレンズ/修理」のご依頼をされるのも、すべてスルーして頂くようお願い申し上げます。

それでもヤフオク! の当方評価に「非常に良い/良い」をお付け頂ける方がいらっしゃるのは、或いは「オーバーホール/修理」のご依頼を頂けるのは、市場に出回っているオールドレンズの状態を既にご存知だからです。問題なのは、このブログが検索でヒットして「オーバーホール/修理」のご依頼をされる方々の中で「認識」「感覚」が「プロのカメラ店様で販売しているオールドレンズしか知らない」と言う方々です。そのような方々からのご依頼では、トラブルになることが最近は多くなってきました・・ご勘弁下さいませ。何度も言いますが、当方の技術レベルは低いです・・。

XR3528(0212)8市場でもそんなに頻繁には出回らない富岡光学製の「前期型」モデルです・・月に1〜2本のレベルでしょうか。当然ながらオーバーホール済ではまず出回らないので、お探しだった方は是非ご検討下さいませ。

XR3528(0212)10当レンズによる最短撮影距離35cm附近での開放実写です。