◎ YASHIMA (八洲/ヤシマ) AUTO OSANON 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、八洲 (ヤシマ) 製
標準レンズ・・・・、
『AUTO OSANON 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)』です。
おそらくフィルムカメラ通の方しかご存知ないと言うほどに「超珍品」なオールドレンズですが、市場流通もなく年間に1本出回るかどうかと言うレベルの「幻のオールドレンズ」では ないでしょうか (少なくとも当方は9年間で初めてです)。
確かにモデル銘を見て稀少品である事は理解していましたが、実は今回このモデルに目を付けた本当の理由があります。調達時の掲載写真を見ていてマウント面直前にイモネジが見えたからです。「M42マウント」規格品でマウント面直前のカバーを横方向からイモネジ (3本) で 締め付け固定する設計を採っていたのは『富岡光学製』オールドレンズだけだからです。
ところがマウント面には「絞り連動ピン」以外にもう一つ特異な装置が用意されていました。旭光学工業製の「SMC TAKUMAR」シリーズに見られる「設定絞り値伝達レバー」であり、このモデルは旭光学工業製フィルムカメラに装着すると開放測光機能が働きます。
『富岡光学製』オールドレンズの「M42マウント」規格品で、そのようなモデルを今まで (9年間で) 一度も見た記憶がありません。そこで今回扱ってみる気持ちがフツフツと湧き出したと言うワケです(笑)
ちなみにこのモデルは市場動向を調べると製造番号が「300番台」までしか見当たらないので (10本ほどサンプルチェック)、極少数しか製産されなかったのかも知れません。ゲテモノ食いがお好きな方(笑)、是非ご検討下さいませ。
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そもそもこの会社「株式会社八洲 (ヤシマ)」をご存知ない方が多いと思いますが、カメラ通には常識の話であり、戦後すぐの1949年に長野県諏訪市で創立した「八洲精機株式会社」が、その後社名を「八洲光学精機株式会社」を経て1958年に「株式会社ヤシカ」としました。
そうですね、あの「YASHICA (ヤシカ)」です。
翌年1959年には「ニッカカメラ株式会社」や「ズノー光学工業株式会社」を買収し、1968年にはヤシカに光学レンズを供給していた「富岡光学器械製造所 (後の富岡光学/現:京セラオプテック)」を吸収合併しますが、その後経営悪化に伴い1974年に大規模な人員整理 (いわゆる リストラ) を行い、京セラからの経営支援を受けながらもついに1983年に経営破綻し京セラに吸収合併し消滅しました。
この時、1974年の人員整理の際に解雇された元社員が集まって創設したのが「株式会社八洲 (ヤシマ)」になるそうです (何しろカメラ音痴なのでwikiより)。
さてここからは、今回の出品に当たりいろいろブチ当たった壁についてご案内していきます。
【このモデルに関する不明点】
① 発売元「八洲 (ヤシマ)」にしても「製造元」が不明
② 登場時期のタイミングが不明
③ 究極の疑問として「光学系設計主」が不明
・・これら3点が当方にとっては大きな謎のままなので、このモデルを当方にとっての「謎のオールドレンズ」の中に組み入れました。どなたかこれらの謎について解明頂ける方がいら
したら、是非是非ご教授下さいませ。
取り敢えず、オーバーホールが終わった現時点での当方の考察を、先に述べておきます。
① 発売元「八洲 (ヤシマ)」にしても「製造元」が不明
完全解体して内部構造と使われている構成パーツを逐一チェックしてみれば、自ずと同じ設計概念と構成パーツを使っていた会社が「製造元」とみなす事ができます。その結果『富岡光学製』と言う判定に至ったワケですが、上記不明点の③の問題が出てきた為に、当方の頭ン中は完全にシャットアウト状態に陥りました(笑)
② 登場時期のタイミングが不明
そもそも今回のモデルが一眼レフ (フィルム) カメラ用セットレンズとして登場した標準レンズである事が分かっていますから、まずはそのカメラボディ側を探索した次第です。その結果 ネット上で「産業技術史資料データベース」センターの情報に1976年5月の発売である事が 記載されていました。ところが用意されていたセットレンズが2種類存在することが判明し、且つ製造番号の符番ルールが互いに異なる為に「どちらのモデルが先に登場したのかが不明」に陥ったワケです。
③ 究極の疑問として「光学系設計主」が不明
ここが最大のネックになってしまいました。今回のオーバーホールで完全解体して、光学系の各硝子レンズを清掃すると共にデジタルノギスで逐一計測しました。すると何と「東京光学製RE TOPCOR 55mm/f1.7」の光学系構成に非常に近似した結果 (実測値) に至りました。その段階で当方は完璧に思考回路停止状態です (ターミネーターの赤い眼が消える寸前状態)(笑)
例えば、バラした結果で内部構造が「シマ光学製のオールドレンズに見られる要素」が顕在していればコトは簡単だったのです(笑) 何故なら、東京光学はカメラ業界から撤退してしまった1981年以前の、1976年時点からカメラボディとオールドレンズの製産をシマ光学に委託していたからです (設計のみ東京光学)。
従って今回のモデル登場時期が1976年なので、内部構造にシマ光学の要素さえ認められれば 何も面倒な事に陥りませんでした(笑)
何故に構造が『富岡光学製』で光学系が「東京光学」なのか (さらにそこに旭光学工業も絡んでいる)??? たった1本のオールドレンズなのに、どうしてここまで畑違いが絡んでいるのかまるでドサクサに紛れてソ連軍に侵攻されてしまった敗戦時の北海道のような感覚です(笑)
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1976年5月八洲 (ヤシマ) から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ『OSANON Digital 750』がセット先のカメラボディにあたります。右写真のとおりセットレンズたる標準レンズが今回のモデル『AUTO OSANON 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)』ですが、ご覧のように製造番号が「300番台」が最高値だったのです (他のネット上サンプルは以下ばかり)。
サッサと探索をやめれば良かったものの、飛んでもないモノを見つけてしまったワケです。同様に八洲 (ヤシマ) が発売した『OSANON Digital 750』ですが、何とセットレンズが違うバージョンになっています。「55mm/f1.8」と開放f値が「f1.8」の「OSANON銘」標準レンズをセットしています。
さらに驚いた事にこのセットレンズは当時の旭光学工業製「SMC TAKUMAR」シリーズのまるッきしOEMモデルだったのです (左写真はひっくり返してマウント面を撮影した写真)。
すると先に登場したのがこの「TAKUMARモドキ」なのか(笑)、或いは今回のモデルなのかが全く分かりません。何故なら製造番号の符番ルールが互いに違うからです (前述疑問点の②)。
そして実は今回のモデルを扱う以前に、その装着先カメラボディのほうで既に先に情報を得ていたのです。
右写真は先日当方がオーバーホール済でヤフオク! 出品したフランスの「RONY Paris (ロニー)」製一眼レフ (フィルム) カメラで「Rony RS1」ですが、セットレンズになっている標準レンズは東京光学製「RE TOPCOR 55mm/f1.7」の「PKマウントバージョン」です。
この時完全解体して内部構造に使われている構成パーツ、或いは光学系の各硝子レンズに至るまで完璧に把握しています。
「RONY LENS MC 55mm/f1.7《シマ光学製》(PK)」でオーバーホール工程などご案内していますが、シマ光学製OEMモデルで光学系の設計も全く別モノでした。
ところが話はこれだけで終わらずにさらに複雑化していきます。このフランスの写真機材を扱う商社「RONY Paris (ロニー)」は、なんとこのモデルの一世代前に八洲 (ヤシマ) 製「OSANON Digital 750」を原型モデルとしたOEM輸出専用機を自社製品「RONY EMC/750」として扱っていたのです (右写真)。
しかもバツの悪い事にセットレンズが「55mm/f1.8」の旭光学工業製OEMモデルの「OSANON銘」標準レンズです。
もぉ〜頭ン中はグッチャグチャです(笑) 全く以てこの2つの標準レンズの発売時期/タイミングが分からなくなりました。そしてストーリーはいよいよクライマックスに向かいます。
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今回扱うモデル『AUTO OSANON 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)』は、典型的な4群6枚のダブルガウス型構成を実装していました。右構成図は、今回のオーバーホールに際して完全解体した時に各群をデジタルノギスで計測してトレースした図です。
この構成図が判明した時点でブラックアウトしました!(笑)
右図は東京光学製「RE TOPCOR 55mm/f1.7 (RE/exakta)」の構成図ですが、その実測値の誤差は今回のモデルとほぼ僅差の範囲内でしか ありません。
パッと見でこの構成図だけ見せられたら、どちらがどちらか言い当て られないくらいです。
そして最後にご案内するのが、途中で登場していた旭光学工業製のOEMモデルたる「OSANON 55mm/f1.8 (M42)」光学系構成図が右図です。
光学系前群側の貼り合わせレンズを分割した、いわゆる5群6枚のウル
トロン型構成です。
如何でしょうか・・(笑) この三つ巴の展開に当方の頭ではもぅついて
いけません (前述問題点の③)(笑)
おそらく旭光学工業が途中で登場しているのは、マウント面の「設定絞り値伝達レバー」機構を採り入れているからなので、それは理解できますが、はたしてどうして東京光学の光学系が出てくるワケですか?! それは内部構造が『富岡光学製』だからに他なりませんが、そもそもヤシカとの繋がりが太いのが富岡光学である以上、八洲 (ヤシマ) が同様に富岡光学を頼るのも自然な成り行きと考えられます。すると東京光学の光学系を模してきた理由が、全く以て思い付きません (何故なら富岡光学には自前の55mm/f1.7光学設計があるから)(笑)
光学系だけ東京光学 (ひいてはシマ光学) 製と言うのも「アリ」なのでしょうが、はたして自前の光学設計を持っている富岡光学にとっても、委託製産の発注元である八洲 (ヤシマ) にとっても、コストばかり嵩張るだけで何もメリットが無いと考えます。
ちなみに東京光学製オールドレンズは最短撮影距離が60cmですが、今回のモデルは最短撮影距離「50cm」なので、光学系の設計が僅差で違うのも至極納得できます (逆に言えばだから こそ東京光学製/シマ光学製のOEMモデルにあたらない)。また「OSANON銘 (一部には
YASHIMAプレートもあり)」のカメラボディ側の設計開発は、まさしく八洲 (ヤシマ) そのもののようです。
誰か・・助けて・・(笑)
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上の写真はFlickriverで、このモデルの実写が一切存在しないので、光学系の設計が近似している事から東京光学製「RE TOPCOR 55mm/f1.7」の特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から円形ボケが破綻して滲んで溶けていく様を順にピックアップしています。そもそも光学系が4群6枚のダブルガウス型構成なので、真円を維持した明確なエッジを伴うシャボン玉ボケの表出が苦手です。しかしそうは言っても非常に素直でイヤミのないピント面を構成するので、繊細で細いエッジながらも決して誇張感だけに偏らずに「自然な印象のピント面」なのがたいしたものです。
◉ 二段目
ピント面に微かにハロを伴うソフト的な印象の写り方が開放時の特徴でもありますが、被写界深度が極端に浅く (狭く) ないので、きっと扱い易いのだと思います。人物撮影もそつなくこなしてくれますね。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。もうここまで完全解体してバラした時点で、当方にとっては一目瞭然なのですが、内部構造の概念も使われている各構成パーツも全ては『富岡光学製』を示す「根拠」であり「証」でもあります (これは疑いようがありません)。
その根拠の基になるモデルがあり、レンズ銘板に刻印されている発売メーカー刻印以外に「TOMIOKA」銘を刻んでいるいわゆる「ダブルネーム」のオールドレンズが存在します。
「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」の特異的な構造要素から判定しています (右写真は過去オーバーホールした際の写真)。
具体的には『富岡光学製』の構造的な要素 (特徴) として大きく3点あり、いずれか1点、或いは複数合致した時に判定しています。
① M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
② 内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
③ 内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。
上記3点は今までに2,000本以上のオールドレンズを扱ってきて、富岡光学以外の光学メーカーで採っていない設計なので『富岡光学製』判定の基準としています。
今回のモデル『AUTO OSANON 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)』は、上記判定の①と②のみ適合しており、当時のM42マウント規格のオールドレンズ中で同一の設計仕様品は存在しません (外観だけではなくバラした上での内部構造面から判断)。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
左写真は以前扱った『富岡光学製』OEMモデルたる「CHINON製AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.7 《富岡光学製》(M42)」からの転載です。
極僅かに絞り羽根のカタチが異なるのは「光学系の設計が違う」からです (CHINONのほうは5群6枚のウルトロン型構成)。
しかし2種類の「キー」の使い方が同一なので、結果的に絞り羽根開閉の制御概念 (設計) が 同一と見なせます。
↑絞りユニットを拡大撮影していますが「位置決め環/開閉環」が組み込まれていて (開閉環は絞り羽根の下側にセットされている) グリーンの矢印の箇所 (コの字型切り欠き) に、マウント部から長〜く伸びてきた「開閉アーム」が刺さり、ダイレクトに絞り羽根を勢い良く開閉する仕組みです。
上の写真 (2枚) は、過去に扱ったモデルバリエーションの「前期型 (左)」と「後期型 (右)」の鏡筒です。
㊧:「前期型」PORST製AUTO REFLECTA 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)
㊨:「後期型」CHINON製AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.7 (M42)
↑完成した鏡筒を立てて撮影しましたが、内部に組み込まれている絞りユニットの位置微調整機能が付加されています。
↑アルミ合金材のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
左写真は以前扱った「前期型」PORST製AUTO REFLECTA 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)の同一工程写真を転載しました。
ヘリコイド (メス側) が真鍮 (黄銅) 製ですが、設計上のサイズは全く 同一です。
↑やはりアルミ合金材のヘリコイド (オス側) を、同様無限遠位置のアタリを付けた正しいポジション手ネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
左写真は以前扱った「前期型」PORST製AUTO REFLECTA 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)の同一工程写真を転載しました。
やはりヘリコイド (オスメス) のサイズもネジ山の仕様も、もっと言えば回転方向まで全て100%同一なので、ニコイチさえもできてしまいます。
↑完成している鏡筒をヘリコイド (オス側) の内側にストンと落とし込んでから、締付ネジ (3本) で前玉側方向から締め付け固定する方式です (グリーンの矢印)。
↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に当方により各構成パーツを取り外して「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。
上の写真 (2枚) は左側が今回のモデルの構成パーツで、右側が以前扱った「前期型」PORST製AUTO REFLECTA 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)の同一パーツです。細かい部分の相違が (前期型にはA/M切替スイッチがあるので) ありますが駆動する為の設計概念が全く同一です。
↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し、今回のオーバーホールではグリースなど一切塗布せずに組み込みますが、それでも各部が大変滑らかにスムーズに駆動しています。
マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけカムが押されて移動し (②) 先端部に位置している「開閉アーム」がその移動量分だけ動きます (③)。
つまりこの先端部の「開閉アーム」が前述の鏡筒内絞りユニットにある「開閉環」のコの字型切り欠き部分に刺さって、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると瞬時に勢い良く設定絞り値まで絞り羽根を閉じる原理ですね。
上の写真 (2枚) は、過去に扱ったモデルバリエーションの「前期型 (左)」と「後期型 (右)」のマウント部です。
㊧:「前期型」PORST製AUTO REFLECTA 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)
㊨:「後期型」CHINON製AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.7 (M42)
すると「開閉アーム」を介在してダイレクトに絞りユニット内の絞り羽根を動かす設計概念が100%同一であり、それは「開閉アーム」が配置されている位置をみれば一目瞭然です。つまり上の写真右側側面に「絞り環に用意してある絞り羽根の開閉角度を決める部分」と接触するからであり、これら3つのオールドレンズは「制御系の設計概念が全く同一」とみなせる「根拠/証」になります。
↑完成したマウント部を基台にセットします。向かって右側面が絞り環と接触して絞り羽根の開閉角度が決定する機構部のパーツです。
↑指標値環側に「絞り値キー (溝)」が用意されており、そこに「絞り環に用意されている鋼球ボール」がカチカチと填る事でクリック感を実現するという、ワザワザ2つの構成パーツに鋼球ボールと溝を分けて設計していた『富岡光学製』オールドレンズを示す大きな特徴です。
これが当時の一般的な他社製オールドレンズになると、絞り環の裏側に鋼球ボールが入る (つまり基台側の穴に鋼球ボールが入る) ので、組み立ての際は絞り環をセットするだけで終わってしまいます。
『富岡光学製』オールドレンズでは、必ずこの指標値環の位置と絞り環の鋼球ボールの位置の整合性を執らなければ「クリック感と刻印絞り値がチグハグ」と言う不具合に陥ります (つまり要微調整箇所)。
左写真は以前オーバーホールしたレンズ銘板に「TOMIOKA」銘のダブルネームがある「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」から転載した同じ工程写真です。
「絞り値キー (溝)」と鋼球ボールが別々に別れている為要微調整箇所と言えます。
このように微調整する為に工程を一つ要してしまう設計を好んで採っていたのが当時の『富岡光学製』オールドレンズの大きな特徴であり、冒頭でご案内した「富岡光学製を示す判定根拠の②」にあたります。
↑このモデルには「A/M切替スイッチ」が無いので単なるマウントカバーですが、横方向から「イモネジ (3本)」を使って締め付け固定します (グリーンの矢印)。
上の写真 (2枚) は、過去に扱ったモデルバリエーションの「前期型 (左)」と「後期型 (右)」のマウントカバー固定方法です。
㊧:「前期型」PORST製AUTO REFLECTA 55mm/f1.7《富岡光学製》(M42)
㊨:「後期型」CHINON製AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.7 (M42)
これら3機種のモデル共に外見上最も判別しやすい「富岡光学製を示す根拠」であり、冒頭でご案内した「富岡光学製を示す判定根拠の①」にあたります。
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑年間でも1本出回るかというくらいの「超珍品」たる「幻のオールドレンズ」ですが、同時に当方にとっては今までの解説のとおり「謎のオールドレンズ」にも入ってしまいました(泣)
レンズ銘板を見ると残してありますが「製造番号」の最後に「E」を附随するシリアル値になっているので、実はこの意味も不明なままです。開放f値「f1.8」のほうのOSANON銘モデル (つまりSMC TAKUMARのOEMモデル) にはこの英語の符番ルールがありません。
↑光学系内が非常に透明な状態を維持した個体なのですが、残念ながら前後玉 (表面側) は経年相応にカビ除去痕が残っており、特に後玉表面はほぼ全面に渡るコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリがLED光照射で浮かび上がるので、逆光撮影時や光源を含む場合などフレアの確率が上がる懸念があります (事前告知済なのでクレーム対象としません)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑後群側も内部は透明度が高いですが、後玉表面側はLED光照射でほぼ全面に渡って極薄いクモリが浮かび上がる状況です。一部は菌糸状のカビ除去痕が外周附近にそのまま目視もできます。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:19点、目立つ点キズ:15点
後群内:11点、目立つ点キズ:7点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い数ミリ長が数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
(コーティング層経年劣化に伴う非常に薄いクモリが後玉表面側に全面に渡りあります)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・前後玉表面側に経年相応なカビ除去痕が数箇所残っておりLED光照射で微かに極薄いクモリを伴い浮かび上がります。また特に後玉表面側はほぼ全域に渡りコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが浮かび上がる為、逆光撮影時や光源を含むシ〜ンは、ハレの出現率が上がる懸念があります(事前告知済なのでクレーム対象としません)。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
(一部にカビ除去痕としての薄いクモリあり)
・光学系内のコーティング層には一部に拭き残しのように見えてしまうコーティング層経年劣化が線状に見る角度により光に反射させると視認する事ができますが拭き残しではありません。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。
なお、マウント面に装備している「設定絞り値伝達レバー」も正しく機能するよう調整済です。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽めと超軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・附属の中古フィルターは清掃済ですが経年なりの極微細なキズや汚れが残っています。
・附属品の樹脂製前キャップが少々キツメです。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。このモデルのピントの山がアッと言う間で一瞬なので、距離環を回すトルクは故意に (ワザと)「軽め」に仕上げています。距離環は「全域に渡り完璧に均一なトルク」で操作でき、且つピント合わせ時には「軽いチカラだけで微動できる」のでだいぶ扱い易く仕上がっています。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑f値「f11」です。そろそろ「回折現象」の影響が出始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。