◎ Tanaka Kogaku (田中光学) TANAR 50mm/f2.8(L39)
神奈川県川崎市にあった「田中光学(株)」は本来はシネレンズやライカ用アクセサリーの生産を主としていたようですが、1953年に「Tanack 35」と言うバルナックライカ型のコピー機を試作し、1954年に東京の銀座に本社を移転してカメラ業界に参入したのが1954年発売の「Tanack 35」フィルムカメラだったようです。当レンズはその後の1955年に発売された後継機「Tanack IVS」用セットレンズとして用意された標準レンズのようですね・・しかし1959年には倒産してしまい、僅か7年足らずで消えていった幻の光学メーカーの一つです。
今回扱うのは初めてになりますが、テッサー型光学系にも拘わらず「ふんわり」した描写性に惹かれて調達しオーバーホールをしてみることにしました。最近歳のせいか、こう言う緩めな画に惹かれるようになってしまいました(笑)
オーバーホールのためにすべて解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
今回の個体は鏡筒固定環がどうしても外せなかったので「一部」のみをバラしての作業になります。
バラしたパーツの全景写真です。パーツ点数自体はとても少ないです。
ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程の写真になります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリスの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
まずはヘリコイド (オス側) を含む鏡筒です。鏡筒固定環が固着化していたのでバラせずにそのまま整備しています。
絞り羽根9枚を実際に組み付けて絞りユニットを完成させますが、酷い油染みだった絞り羽根を1枚外した時点で「しまった!」・・このモデルはレンズ銘板の焦点距離表記が「50mm」となっており「cm」表記ではなかったので、安心して絞り羽根を外してしまいました。絞り羽根は片側に「キー」が存在しないタイプでまだ生産されていました。通常、絞り羽根には端のほうに表裏に1個ずつ「キー (金属製の棒状の突起)」が打ち込まれています。しかし、当初は片側 (大抵は表側) にしかキーは打ち込まれず、裏面側はキー打ち込み位置に「穴」を開けた際の「バリ状の折り返し部分」をそのままキーの代用としていました。
従って、このタイプの絞り羽根は一度外してしまうとまず二度と使えません (折り返しのバリが外れてしまうから)。仕方なく (既に1枚外してしまったので) 他の8枚も外して当方にて「キー」を入れる細工を施し再び使えるように処置しました。
キレイに絞り羽根9枚がセットされ絞りユニットが完成しました。上の写真では既に光学系後群も組み付けています。
このままの状態で鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を立てて撮影しました。この次は「絞り環」を組み付けていきます。
まずは絞り環用の「ベース環」を組み付けます。このモデルはすべてのパーツが「真鍮 (黄銅) 製 (ガンメタル)」なのでズッシリと重みを感じる非常に硬い材質です。すべてのパーツは「磨き研磨」が終わっているので、表層面の腐食も除去されて当初の滑らかな表層面が復活しています。
「絞り環」をセットするためには、その位置決めが必要になるので先にフィルター枠 (レンズ銘板の環) と光学系前玉を組み付けてしまいます。フィルター枠には「基準マーカー●」の刻印があるので、これと絞り環を回した際に各絞り値の指標と一致させないと意味がありません。
前玉を組み付けたので光学系の状況を撮影しました。前後群ともに経年相応の拭きキズやコーティング劣化などがあります。
光学系の状況:順光目視にて様々な角度から確認。カビ除去痕としての極微細な点キズ:前群内15点目立つ点キズ4点、、後群内:6点、目立つ点キズ3点。コーティング経年劣化:前後群あり、カビ除去痕:あり、カビ:なし。ヘアラインキズ:前後群ともに順光目視で視認可能なレベルの経年相応なヘアラインキズが複数あります。後玉には中央附近に3mm長の引っ掻きキズもあります。その他:この当時のモデルで多い極微細な「気泡」も数点見受けられます。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
次は後群です。
後群にも引っ掻きキズやヘアラインキズなどが順光目視にて確認できます。
後群は写真撮影をしていて内部に「埃」が混入しているのを発見したため、再度バラして清掃をしています。上の写真3枚目がその「埃」を除去した痕の写真になります。光学系の清掃時にはレンズを組み付ける際に必ずブロアーしていますが、それでも埃や塵が引き込まれて混入してしまうことがあります・・クリーンルームではないので。
ようやく「絞り環」を組み付けることができました。絞り環操作は「無段階」の実絞りになります。
このモデルは筐体が「前部」と「後部」の2つに大きく分割されるので「前部」はこれで完成しました。次は「後部」であるマウント側の組み上げです。
ヘリコイド (メス側) を組み付けます。ヘリコイド (メス側) はこの内部で「フリー」の状態になっており、いくらでもグルグルと回ります。
指標値環を組み付けますが、先の「前部」にあったフィルター枠直下の「基準マーカー●」とこの後部をセットした際にその位置がお互いに一致していないとおかしいですね・・。つまりはヘリコイド (オス側) このモデルでは「前部」になりますが、そのネジ込み位置があるワケで、そのアタリを正しく把握していないと面倒なことになります。
前部をネジ込んで無限遠位置確認と光軸確認、絞り羽根開閉幅の確認を執り行えば、完成間近です。
上の写真 (2枚) はフィルター枠にある打痕の凹み2箇所を撮影しました。フィルターの着脱には一切影響がありません。目立つ凹みとさらにその下に僅かな凹みがあります。
上の写真は絞り環にある「錆」を拡大撮影しました。経年の使用感はそれほど感じませんが錆が僅かに出ています。
上の写真は出品ページにも記載しましたが、このモデルはツマミのピンがマウント面側に極僅かに「突出する」タイプですので、楊子を挟んでいますがマウント面から僅かに出っ張っているのがお分かり頂けるでしょうか?!
ツマミのピンを押し込まなければ出っ張りませんから、そのままストッパー位置までツマミを回してしまうのですが、次に距離環を回そうとしてツマミを押し込んでも距離環が動いてくれなかったりします。ツマミを押し込まなければいいのですが、押し込むとこのようになるワケです・・。
なので、ストッパー位置にツマミが格納される「手前」辺りで「無限遠位置」になるよう、この個体ではワザと少々多目のオーバーインフに設定調整しました。あくまでもミラーレス一眼にてマウントアダプタ経由装着を想定してのことです。
M39用のマウントアダプタの中には、この現象を想定して面取に削りを入れているモデルもあるのですが (さすがの配慮です) 大多数のM39用マウントアダプタではそのような配慮は成されていないので、レンズ側で調整をした次第です。
楊子は撮影のために出っ張り具合が分かるよう挟んでいるだけです・・。
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ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。
この個体だけは絞り羽根の細工を施したので、万一次回のメンテナンスの必要が生じても安心ですね・・。
ここからは鏡胴の写真になります。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所あります)。
鏡胴の「錆」自体は極僅かなので全体的には梨地塗装面も含めた「光沢研磨」により当時の艶めかしい輝きと艶が復活した「超美品」です。