◎ Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) Telefogar 90mm/f3.5 V(Altix)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

今回オーバーホール/修理を承ったモデルも同じご依頼者様になりますが旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製中望遠レンズ『Telefogar 90mm/f3.5 V (Altix)』になります。当方にとって「Altixマウント」となれば、本来真っ先に思い浮かぶモデルは『Telefogar 90mm/f3.5 V (Altix)』と言うくらい大好きなモデル・・オールドレンズ沼に浸かった頃、いの一番に手に入れたモデルでもあります。どうしてそんなに好きなのか? 当方の琴線に触れる描写性の特徴として次の3点があります。

  1. 質感表現能力の高さ:
    被写体の材質感や素材感を写真に写し込んでいるかどうか
  2. 立体感:
    距離感や空気感までも感じさせる画造りなのかどうか
  3. リアル感:
    現場の雰囲気や臨場感 (暖かさ/冷たさ) などを感じて感情移入できるかどうか

・・これら3つの要素の有無により見ている写真に感動したり、そのシーンが目に焼きついたりしています。

例えば、1番目の「質感表現能力」は、被写体が花ならば、その花弁の肉厚までも感じさせるか、或いは古く錆びついた蛇口の赤サビが表現されているか、外れかかっている看板のペンキが浮いている様が写っているかどうか・・そんな部分は質感表現能力の高い描写性が必要になってきます (つまり写り込んでいる)。しかし、それは単に解像度の高さだけではなくボケ味や発色性・コントラストなどの要素が関係してきて最終的に感じている感覚ですから、今ドキのデジタルなレンズでも全く質感表現能力の高さを感じ得ない場合も多くあります。その意味では緻密で情報量の多いレンズで撮ったとしても、一見して記録写真にしか見えないならば当方にとっては単なる写真でしかありません。

また、2番目の「立体感」は、どんなにトロトロのボケ味だとしてもノッペリした写真には頷けませんし単なる街角スナップにしか見えない写真にも目は留まりません。ボケ味が粗くても距離感が感じられる写真には釘付けになりますし、例え暗部が黒潰れしていても路地の吸い込まれそうな空気感には自然と魅入っています。

そして、それら2つの要素が備わった上で3番目の「リアル感」を感じて、いつの間にか感情移入していれば、あたかもその場に居合わせたかのように (既に) 錯覚ギリギリの感覚があります。『Telefogar 90mm/f3.5 V (Altix)』は、そんな3つの要素を余すところ無く備えた (当方にとっては) 銘玉のひとつです。

当方の記録データベースを調べたところ、今回のオーバーホールは6本目 (オーバーホール/修理ご依頼分を含む) にあたります。ところが、当方が手に入れた個体も含めて今までの5本はすべてが改造個体ばかりでした・・マウント部を改造してある個体ばかりだったのです。従って、オリジナルの状態のオーバーホールは今回が初めてになり、正直とても楽しみにしていた次第です。それもそのハズで「Altixマウント」用の変換マウントアダプタは、なかなか手に入らないので改造レンズばかりに目が行ってしまうワケですね・・近年ようやくマウントアダプタが出回り始めて本当に幸せな時代になりました。ご依頼者様に教えて頂いたので、また別の「Altix→SONY Eマウントアダプタ」をご紹介します・・海外オークションebayで販売されています。ありがとう御座います!

1957年〜1960年の間に生産されていたようですがマウントは「Altixマウント」のタイプしか出荷されなかったようです。光学系は3群4枚のエルノスター型になりますが、絞り羽根のカタチは前回掲載の「Trioplan 50mm/f2.9 (Altix)」と同じカタチですし (サイズも同一か?)、枚数も同じ12枚です。しかし、もちろん内部構造や構成パーツにはひとつとして同一のモノは存在していません。Flickriverにてこのモデルの実写を検索してみましたので興味がある方はご覧下さいま。また、「プリコラージ工房NOCTO」さんのページには、このモデルの特徴を上手く活かした写真も載っています。

↑こちらの写真は当初バラした直後に清掃する前に撮った写真です。ヘリコイド (オスメス) を撮っていますが、今回の個体はオリジナルの純正ヘリコイド・グリースしか塗られていなかったので過去のメンテナンス時にはヘリコイド・グリースの交換をしていないようです (既にヘリコイド・グリースの経年劣化でグリース切れがだいぶ進行しています)。

上の写真をご覧頂くと分かりますが、塗られているグリース (黄褐色系グリース) は、ほぼ黄褐色が残った状態を維持しています・・経年の使用で僅かにヘリコイドのネジ山が摩耗して摩耗粉がグレー状に附着していますが、この程度だとヘリコイド・グリースを過去には交換していなかったレベルになります (だから僅かな量しか摩耗粉/グレー状が無い)。前回掲載の「Trioplan 50mm/f2.9 (Altix)」をご覧頂くと「白色系グリース」を塗布した場合の経年状態が分かる写真を載せているので比較できると思います。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部の構造は至ってシンプルなので原理原則を理解している方ならば簡単にメンテナンスできると思います。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑Trioplanと同じカタチの12枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑この状態で鏡筒を立てて撮影していますが、このモデルは絞り環の組み付け位置を簡易化させた設計を採っており、上の写真のように光学系前群 (第1群/前玉〜第2群) の硝子レンズ格納筒 (レンズ銘板/フィルター枠を兼用) を先に組み付けておかなければ絞り環の位置が確定しないようになっています。

上の写真で鏡筒に「縦方向の溝」が何本も刻まれていますが、これは「絞り値キー」と言って絞り環操作でカチカチとクリック感を実現しているベアリングが填る「溝」になります。この「絞り値キー (溝)」に横方向のライン (写真では白線) が二重線で写っています・・絞り環に組み込まれたベアリングが絞り環操作で擦れていくので白線が付いてしまうのですが (削れてしまうのですが)、よ〜く考えるとベアリングは1個だけですから二重線になるハズがありません。つまりは過去のメンテナンス時に一度はミスッて絞り環を相応の期間、ズレた位置で組み付けていたことが判明します。

↑ベアリング+コイルばねを絞り環の内側に組み付けてから絞り環をセットします・・もちろん今回は正しい位置で絞り環を組み付けています (当初バラす前の状態でも正しい位置でしたが)。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するモデルなので鏡胴「前部」はこれで完成したことになります。

↑ここからは鏡胴「後部」の組み立てに入りますが、鏡胴「後部」はヘリコイド (オスメス) とマウント部だけの構造です。まずはヘリコイド (オス側) ですがひっくり返して撮影しています。このモデルではヘリコイド (オスメス)〜マウント部までが積み上げ式の構造になっているので、ひっくり返したまま作業していきます。

↑ヘリコイド (オス側) には両サイドに「直進キーガイド」なる「溝」が用意されており、そこに直進キーである「尖頭筒+コイルばね」が刺さって距離感を回すことで回転するチカラが直進キーにより「直進するチカラ」に変換されて伝わり鏡筒が繰り出されたり収納されたりします。直進キーのセットは上の写真の緑色の矢印のように組み込まれます。今回のモデルではMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズで多く採用されているタイプの「直進キー」ですが、その大きさは小さいサイズです。その理由が次の写真です。

↑こちらの写真は「直進環」になりますが上の写真の赤色矢印の「穴」(2箇所あり) に前述の直進キー「尖頭筒+コイルばね」が刺さります。この環 (リング/輪っか) の厚みが薄いので直進キー自体の大きさが小さいのです。

しかし、よ〜く考えると、絞り環はクリック感を実現させるために「ベアリング+コイルばね」の組み合わせで設計していました。それにも拘わらず直進キーのほうは、ワザワザMeyer-Optik Görlitz独自の特異な方式「尖頭筒+コイルばね」で設計しているワケで、さすがに理由は今となっては不明です。簡単に「ベアリング+コイルばね」でも良かったのではないかと思いますが (他社光学メーカーでは多く採用されている)、きっと設計者には何かしら拘った考え方があったのでしょう・・。

↑「直進環」に直進キーをセットしてから距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で4箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑マウント部を組み付けて鏡胴「後部」が組み上がりました。この後は鏡胴「前部」を差し込んで固定環で後玉方向から締め付け固定し無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。

修理広告

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了しました。今回初めてオリジナルな状態の「Altixマウント」でオーバーホールする機会を与えて頂きご依頼者様にとても感謝しています・・ありがとう御座います!

↑光学系内の透明度はピカイチレベルでLED光照射でもコーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら「皆無」です。光学系内に塵が侵入しているとのご指摘でしたが、塵ではなく第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 外周附近についている「引っ掻きキズ」です・・約2mm長の少々深いキズになりますが、端っこのほうなので写真には全く影響しないと思います (第2群の表側)。

↑光学系後群もとてもキレイな状態をキープしています (後群と言っても硝子レンズ1枚だけですが)。光学系内には点キズに見える「極微細な気泡」が数点ありますが気泡なので写真には影響しません。

↑12枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。絞り羽根には、やはり赤サビが僅かに出ていたのでキレイにしています。上の写真の右側に第2群のキズが写っています。

ここからは鏡胴の写真ですが経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな個体です。アルミ材削り出しの距離環や絞り環などは当方による「光沢研磨」を施したのでピッカピカに光り輝いています・・可能な限り経年の腐食やサビなども研磨して除去しています。また、筐体外装の中で「黒色」の部分は当初バラす前の状態では「マット (艶消し状)」になっていましたが、マウント部を見ると筐体が絞られている部分は同じ黒色でもフツ〜に光沢感がありました (金属質の光沢感の意味合いであり艶ありの塗膜仕上げのことではありません)。つまりマット塗装していたのではなく経年の使用で手垢や汚れなどが附着しカビが生じている状態なのでマットになっていた次第です。今回のオーバーホールでは筐体の黒色部分も「磨きいれ」を処置したのでマウント部の絞られている部分と全く同一の塗膜に仕上がっています。

これは筐体の黒色部分を光に反射させてジックリ眺めると「斑 (まだら) 状」に見えるのでカビだと判断できます・・昔、家具屋にも居たので多少なりとも知識があります。長い間に使っている際に附着した油脂 (手の脂) に生じたカビの類ですが別に気にしなければそのままでも (もちろん) 大丈夫です(笑) 一応今回はオリジナルの塗膜状態に戻しておきました。

↑塗布したヘリコイド・グリースは黄褐色系グリースの「粘性:中程度」と白色系グリースの「粘性:中程度」を使い分けて塗っています。このモデルの場合はネジ山がヘリコイド部分の1箇所しか存在しないのでヘリコイドを黄褐色系グリースで塗布するとトルクムラが出てしまい今回は白色系グリースにしました (当初バラす前に僅かなスカスカ感/古いヘリコイド・グリースの液化進行が発生していたため)。このモデルも、やはりピントの山が掴みにくいので、それを考慮しています。

↑このツートーン「クロームシルバーブラック」が何ともドイツ臭さを感じさせる配色で本当に好きなモデルです。開放F値を「f3.5」と欲張らずに採ってきたのがコンパクトな筐体サイズを実現しており、エルノスター型光学系構成の良さを十分惹きだし高い次元でそつなくこなしている素晴らしいモデルです。上の写真ではフィルター枠に手の指紋が残ったまま撮影してしまいましたが、後でちゃんと拭き取っています・・そのくらいピッカピカですから「新品同様の未使用品」だと言われても、そのまま信じてしまうくらいです(笑)

↑当レンズによる最短撮影距離1.5m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値をF値「f4」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f5.6」で撮りました。

↑F値は「f8」になっています。

↑F値「f11」になりました。

↑F値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール時ご依頼、誠にありがとう御座いました。