◎ PORST (ポルスト) COLOR REFLEX MC AUTO 50mm/f1.4 G(PK)

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CR5014(0406)レンズ銘板

PORSTポルスト-logo①今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。

「PORST (ポルスト)」はレンズやフィルムカメラなどの光学製品に対するブランド銘で、会社は1919年にHanns Porst (ハンス・ポルスト) 氏によって旧ドイツのバイエルン州ニュルンベルク市で創業した「PHOTO PORST」と言う、主に光学製品を専門に扱う通信販売会社です。よく間違われているのが、この「PORST」が旧東ドイツの会社だという認識ですが、東西ドイツ分断時期に於いて特に会社所在地のバイエルン州自体が複雑に東西ドイツに跨がっていたために誤解され易いようです。当時の会社所在地ニュルンベルク市は「西ドイツ」地域に位置していたので「PORST」は正しくは旧西ドイツの会社と言うことになります。同じPORSTでも「Porst市」とは全く関係がありません。

ブランド銘としては当初1930年〜1950年代にかけては、自身の名前の頭文字を採って「HAPO」ブランドを展開していました。その後「PORST」になりますが、自社での開発や製造を一切せずにすべての商品を光学メーカーのOEM供給に頼っていた通販専門会社 (商社) になります。1996年にはベルギーの投資会社に買収されますが2002年に倒産しPixelnetを経てRingfotoに商標権が移譲されました。

PORSTのオールドレンズはモデルのバリエーションが多く、恐らく単発で決まった契約台数で造りきりのOEMレンズを調達していたと推測しています。従って、今回のモデル「PORST COLOR REFLEX MC 50mm/f1.4 G (PK)」も当方での扱いは今回が初めてでした。

CR5014(0406)仕様

CR5014(0406)レンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

CR5014(0406)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部の構造化や使われている構成パーツを観察すると、富岡光学製モデルに共通した要素が見られるパーツもあれば、全く異なるモノもあります・・結論としては、富岡光学製OEMモデルと推測しています。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

CR5014(0406)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。この鏡筒の仕様は他社光学メーカーの富岡光学製OEMモデルにも採用されている仕様なので、富岡光学製との判断です。

CR5014(0406)138枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。やはりこの絞り羽根に打ち込まれている「キー」も中心が空洞な「円筒」を使っており富岡光学製モデルの特徴です。富岡光学製モデルと異なるのは絞りユニットの「メクラ蓋」で、上の写真のようにダイレクトにネジ止め固定しています・・これは初めてでした。しかし、固定するネジの穴にマチ (隙間) が用意されており、ちゃんと「絞り羽根の開閉幅調整機能」が用意されています。

CR5014(0406)14距離環やマウント部を組み付けるための基台です。焦点距離50mmのモデルにしては少々奧が深い基台でしょうか。

CR5014(0406)15ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が備わっているのでここでのアタリ付けは大凡で構いません。

CR5014(0406)16鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず)、再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

CR5014(0406)17この状態でひっくり返して絞り環をセットします。このモデルには「鋼球ボール+マイクロ・スプリング」ではなく「ピン+板バネ」を使ってクリック感を実現させていました・・ピン (金属製の棒状) を使っているのはこの時代にしては珍しいです。

CR5014(0406)18鏡筒の裏側が見えるように撮影しました。このモデルではマウント部の内部に連動系・連係系の機構部を配置せずに鏡筒の裏側に配しています。

「絞り羽根開閉幅制御環」に用意されている「なだらかなカーブ」部分をカムの金属製突起 (棒状) が沿って移動することで、絞り羽根の開いたり/閉じたりの「開閉幅」を決めている仕組みを採っています。これも富岡光学製モデルに多く採用されている特徴で、例えば他社光学メーカー向け富岡光学製のOEMモデルとしては、RICOHの「XR RIKENON (前期/後期)」や東京光学の「RE,Auto-Topcor」シリーズなども同様の機構部/構成パーツを使っています。

「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツになり、両サイドに1本ずつセットされています。

「絞り環連係アーム」はそのコトバ通り絞り環との連係を行っているパーツです。

CR5014(0406)19実際に「絞り環連係アーム」と「絞り環」との間を連係させているのは、上の写真のような「連係環」という輪っか状の構成パーツになります。そのままアームを絞り環に差し込んでしまう方式にすれば、もっと合理的且つコスト低減が図られたと思いますが、実際には何かしらの懸念があってわざわざこのように分けたのかも知れません。富岡光学製モデルに多い「意味不明の構造」です。

CR5014(0406)20マウント部内部の連動系・連係系パーツを外して既に「磨き研磨」を施した状態で撮影しています。

CR5014(0406)21マウント部内部に連動系・連係系パーツを組み付けた写真を撮り忘れてしまいました。「絞り連動ピン」のアームが組み付けられています。上の写真はそのマウント部をセットした状態の写真です。ブラックの爪と言うのもなかなか洒落ていますね・・普通多いのはクロームメッキが施されている爪です。

CR5014(0406)22距離環を仮止めして光学系前後群を組み付けた後、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認を執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

・・のハズでしたが、ここで躓きました。絞り羽根の開閉幅調整がなかなか上手く仕上がりませんでした。最終的に数時間取り掛かりましたが諦めました。今回の個体は絞り環を回していくと「f16」と「f22」の処で絞り羽根の開閉が正しく行われません。

具体的には、開放から回していくと「f16」と「f22」で開口部の大きさが変わらず「f16」のままになっています。一旦絞り環を「f16」側に戻そうとすると、絞り羽根がようやく反応して「f22」まで閉じます。その後は最小絞り値「f22」に閉じた絞り羽根は開放まで正しく開いていきます。

内部のマイクロ・スプリングが一部経年劣化で弱くなっていたので強めに調整しましたし、他に考えられる影響箇所も調整しましたがどうやっても改善できません。根本的な絞りユニットをメクラ蓋でネジ止め固定している方法が影響しているようです。富岡光学製モデルには珍しい方式でしたが、あまり完成した仕組みではないのかも知れません。

撮影時には面倒くさいですが、最小絞り値にセットする際は一旦少しだけ半段分絞り環を都度戻せば最小絞り値「f22」まで閉じてくれます。当初は「f11」までしか閉じてくれなかったので、これでも改善できたほうなのですが、そもそも最初のバラした時点で絞りユニット内部までヒタヒタと揮発油成分が侵入して油染みしていた時は問題なく機能していました (清掃してから不具合が生じています)。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

CR5014(0406)1光学系の前玉外周の縁にカビが菌糸状に生えていました。除去しましたが一部はカビ除去痕として僅かに残っています (菌糸部分はほぼ除去できています)。

CR5014(0406)2光学系内も経年のコーティング層劣化に拠る薄いクモリがLED光照射では僅かに浮かび上がりますが、写真への影響は無く透明度は高い部類です。光学系は全ての群をバラして清掃できていますが、経年の拭きキズやヘアラインキズ点キズなど極微細なモノは残っています。

CR5014(0406)9後群もキレイになりました。極薄い微細なヘアラインキズが後群内に数本あります。

CR5014(0406)3問題の絞りユニットです。絞り羽根に打ち込まれている「キー」が1枚傾いているのか (?) キレイな六角形になっていませんが、絞り羽根開閉幅の確認では適正値内に入っていました。最小絞り値「f22」と「f16」との間での開閉の不具合は残ったままです。誠に申し訳御座いません・・いくつかの要素が影響し合って生じているようなので、調整を諦めました。スミマセン。

ここからは鏡胴の写真になります。今回も筐体は「磨き」をいれたので相応に落ち着いた仕上がりになっています。

CR5014(0406)4

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CR5014(0406)7使用したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を使っていますが、もう1本のREVUENONと比較すると「重め」のトルク感に感じると思います。これは同じグリースを使っていてもヘリコイドの材質が異なるからなので調整できません。申し訳御座いません。

CR5014(0406)8REVUENONのほうも同じですが、こちらのモデルも市場にはほとんど出回らない貴重なモデルです。ほぼ間違いなくこちらのモデルは富岡光学製ではないかと推測していますが、だいぶ後の時代に生産されたモデルのようです。特に光学系を格納する手法や硝子レンズ格納筒などは全く富岡光学製そのモノの格納筒です (同じ輸出向けOEMモデルのSEARSやargusのモデルと同一です)。

CR5014(0406)10当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。REVUENONと比べると光学系構成の相違から、こちらのモデルのほうがコントラストが高く、ボケ味は柔らかく、階調がなめらかです。またピント面の鋭さも高いですね・・素晴らしいモデルです。

今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。