◎ YASHICA (ヤシカ) YASHICA LENS ML 50mm/f1.4《後期型》(C/Y)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルはヤシカ製標準レンズ『YASHICA LENS ML 50mm/f1.4《後期型》(C/Y)』です。
個人的には高い描写性能を持ち相当な実力を秘めた魅力的なモデルと評価して、ず〜ッと立て続けにヤシカ製「MLシリーズ」のモデルをオーバーホールして出品してきましたが、残念ながら人気があまり無いようです(笑)
そして今回出品する標準レンズ『YASHICA LENS ML 50mm/f1.4《後期型》(C/Y)』は当方では初めての扱いだったワケですが、こうまで人気が無いとなれば旭光学工業の「TAKUMARシリーズ」やOLYMPUS製オールドレンズの如く今後の取り扱いをやめることにしました。
非常に残念ですが今回の扱いが最後になります。どうして海外勢のオールドレンズばかりが 評価されるのかなかなか理解に苦しみますが、これが昔も今も続く日本人からみた評価なのだと真摯に受け止めざるを得ません。
もちろんヤフオク! なので即決価格が高すぎると言われるのだと思いますが、そうは言っても完璧なオーバーホールをして出品しているのでその対価を乗せているに過ぎません。
例えば今回の個体をオーバーホール/修理として承った場合は以下のようなご請求になります。
※「オーバーホール/修理受付の概要と料金」掲載の料金表を基に実施作業で加算した金額。
◉ 単会員様の場合
(2) 着手料:2,000円+ (3) オーバーホール:13,000円
+ (6) 難度加算 (トルク改善):8,000円 =ご請求額:23,000円
◉ 本会員様の場合
(3) オーバーホール:10,000円+(6) 難度加算 (トルク改善):6,000円
=ご請求額:16,000円
なので今回のヤフオク! 即決価格「29,500円」は実質13,500円が個体単価になります (本会員様の場合)。
ヤフオク! に於ける 過去3カ月間の同型モデル落札価格は平均単価:9,690円 (2本) なので確かに割高なのでしょうね(笑)
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このモデルはネット上の解説を見てもそこいら中で「富岡光学製」と案内されています。既に出品している広角レンズ (35mm/28mm) のほうは富岡光学製と案内しているサイトは少ないですし、むしろコシナ製であって光学硝子レンズのみ富岡光学から供給されていたとも案内されています(笑)
この違いは何なのでしょうか?
何の根拠を基に今回のモデルを「富岡光学製」と案内するのでしょうか・・不思議です。当方は決して何でもかんでも「富岡光学製」と決めつけている「富岡狂」ではありませんが(笑)、どのサイトを見ても根拠を示さないまま言い切っているように見えます。
よく過去に発刊された書籍や解説書などで明言されていたことを引用して製造メーカーを案内しているサイトがありますが、はたしてそれらの書籍はどのような根拠を基に結論づけしているのでしょうか?
もしも内部構造や構成パーツからの考察ならば (つまりバラしているなら) 当方も容易に納得できるのですが、それら書籍を読んでも執筆者自らの見聞や取材を基に明言しているに過ぎないように思います。
例えばオールドレンズに関して、ある製造メーカーが他社の設計やパーツにソックリ似せて ワザワザ用意し自らの製品に組み込む必要性にどうしても当方は妥当性を見出せません。自社の製産設備や組み立て工程の都合に合わせて開発/設計するのが自然ではないでしょうか。 コストを掛けてまで模倣したパーツを造り出す必然性をどうしても説明できません。
その良い例がロシアンレンズだと思います。敗戦時のドイツから接収したCarl Zeiss Jenaの 人材や製産設備/資材などを基に新たな製品を起こしていますが、当初の試作品こそ光学系の「まんまコピー」を用意したとしても量産品の段階では似ても似つかない独自の設計で別モノとして造り出されています (近似した製品は極限られている)。それらロシアンレンズをバラしてみれば一目瞭然で、内部構造や構成パーツには何ひとつ模倣元と同じ設計思想が見出せません。要は製産工場に適合させた自らに都合の良い製品として再設計しているワケです。
どうして日本製オールドレンズだけが模倣した構造や構成パーツを用意したと明言できるのか、当方には納得できませんね(笑)
内部構造や構成パーツが近似しているなら、それはその似ている製品を製産したメーカーのOEM供給品、或いは委託生産品だと考えるのが筋が通っていると言うのが当方の持論です。
距離環や絞り環の回転方向が違っていたり、それこそ外観上の相違や刻印指標値の違いなどから製産メーカーを割り出している検証がありますが、そんなのは製造メーカーにしてみれば どうにでも変更できるワケで何等根拠にもなり得ません。重要なのは「設計 (設計思想)」であり一つ一つの構成パーツであり、そして最も決定的なのは「どうしてそのパーツがそこに必要だったのか」なのだと考えます。そこまでソックリ似せて設計する必然性に何度考えても辿り着けませんね(笑)
そんなワケで、今回のモデルも内部構造や構成パーツから結論付けした「富岡光学製」であることを以下オーバーホール工程の中で解説していきます。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
距離環/絞り環意匠デザイン:銀枠飾り環あり
レンズ銘板:金属製
距離環/絞り環意匠デザイン:銀枠飾り環なし
レンズ銘板:プラスティック製
広角レンズ (35mm/28mm) のほうでマウント面にセットされている「開放絞り値伝達キー」の有無の相違で監視カメラ用か否かを解説しましたが、今回のモデルを扱うに際してネット上のサンプル写真を50本程チェックしたところ「開放絞り値伝達キー」がセットされている個体が皆無でした。それどころか全ての個体で「シリンダーキー」がセットされていたので爪付の「開放絞り値伝達キー」だけではなくシリンダーキーも使っていたのかも知れません。
ちょっとよく分かりませんが「太目の円柱」がセットされている個体だけは監視カメラ用だと判定できます。
上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ①・円形ボケ②・円形ボケ③・背景ボケ」で、下段左端に移って「人肌・被写界深度・空気感・逆光」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
発色性はナチュラルにまで偏らずとも素直で、やはりピント面のエッジが細く出てきますがコントラストが高いのでインパクトの強いピント面を構成します。被写界深度は富岡光学製にしては浅くなくむしろ深めなくらいです。このモデルの素性の良さは下段左端1枚目の人肌に現れるでしょうか。また下段右端から2枚目のタイヤの写真もその空気感を感じる写りに溜息が出ます。
光学系は6群7枚のウルトロン型でよく比較されるPlanar 50mm/f1.4 T*と近似していますが、パワー配置が異なります。
右構成図はそのPlanar 50mm/f1.4 T* (MMJ) になり同じく6群7枚のウルトロン型です。MLが徐々に入射光を料理していくのに対しPlanarは前群側で集中的に料理しているのでその違いが描写性にも現れているように感じます。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は広角レンズ (35mm/28mm) とは異なり従来の富岡光学製オールドレンズと同じ設計思想が反映しています。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。大口径の前群を 格納するので大ぶりです。
↑8枚の絞り羽根をセットして絞りユニットを完成させます (上の写真は後玉側方向からの撮影)。広角レンズで「意味不明な設計」だった要素は微塵も無く一般的なオールドレンズ同様「位置決め環」が固定されています。
このモデルはヤシカから一番最初に発売されたC/Yマウントのフィルムカメラ「FR」のセット用レンズとして登場しているので1976年の発売とみていますが、後に他社光学メーカー向けOEM供給品に採用されている設計思想の一部を既に持っています。
その一つが「絞り羽根の開閉幅調整機能」で広角レンズ (35mm/28mm) で採用していた従前の「鏡筒の位置調整による絞り羽根開閉幅調整」から調整機能を単独化させ絞りユニット自体の位置を微調整する方式に変更しています。しかし後の時代に登場するOEM供給モデルで採用している簡素化された (より合理化が進んだ) 調整機能にまでは到達しておらず、少々粗削り的な設計でまだまだムダな要素を多く含んでいます (洗練されていない)。
そもそも光路長の長さ分を確保しなければならないので筐体サイズを大きく採ってきた (大口径でもある) ことから内部の有効使用寸法が増大したため、本来富岡光学製オールドレンズの考え方からすればヘリコイド (オス側) を分離して独立させた従前の設計思想を踏襲しても違和感が無いのですが、敢えて鏡筒の外側にヘリコイド (オス側) のネジ山を切削しています。
この考え方が後の時代のOEM供給モデル設計に於いて基本思想に繋がるワケですが、実は当時既に他社光学メーカーは挙ってこの方式を採っていたのでむしろ富岡光学が遅れを取っていたとも言えるでしょう。
そう考えると、では何故に広角レンズにはこの考え方を採用しなかったのか?
おそらくセットレンズたる標準レンズと交換レンズ群の中の一部分でしかない広角レンズとのポジショニングの差が従前の設計思想を引き継ぐか否かの分かれ目に至ったのではないかと 推測しています。つまり一気に新規のC/Yマウント交換レンズ群の全てにまで新しい設計思想を採り入れていくほどの余裕が富岡光学に無かったことの表れではないかと考えられます。
結果、同じタイミングで登場していながら従前の設計思想と新しい構造を採り入れた製品とが混在することになったのではないでしょうか・・このようにバラすことで外観からだけでは 一切垣間見ることができない要素が現れロマンが広がります。
↑この状態で完成した鏡筒をひっくり返し裏側を撮影しました。既に鏡筒内部の絞りユニット裏側に制御系が一極集中しているので鏡筒の後から出てきているのは2本のアームだけとシンプルです。
◉ 開閉アーム
マウント面にある絞り連動レバーに連動して一気に絞り羽根を開閉させるアーム
◉ 制御アーム
絞り環連係環と接続することで絞り環設定絞り値に従い絞り羽根の開閉角度を変更するアーム
↑距離環や真マウントアダプタトブを組み付けるための基台です。
↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
真鍮材をアルミ合金材の間に挟んでいるのは同じ材によるカジリ付 (ネジ山が咬んでしまい 固着してしまう現象) を避けるためです。
↑基台に対してさらに絞り環用の連係環を格納する延長筒を用意している設計です (ここで必要な光路長を確保している)。
↑この状態でひっくり返して撮影しました。延長筒の中には「絞り環用連係環」がセットされ鏡筒から飛び出ている「制御アーム」をちゃんと掴んでいます。
「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に 変換する役目のパーツですが、今回の個体は当初バラす前のチェック時点でトルクムラが出ており、過去メンテナンス時に白色系グリースを塗られてしまい経年劣化からヘリコイドネジ山が摩耗していました。さらに無限遠位置「∞」と最短撮影距離位置「50cm」でも互いに詰まった感じで距離環が停止していました (無限遠位置は適正)。
上の写真を撮影した時点では既にトルクムラを解消していますがオーバーホール工程の中ではこのトルクムラの根本原因を探るため (改善させるため) 9回にも及ぶ組み直しをしました。
距離環を回した時トルクムラが生じていた場合、その原因が経年劣化したヘリコイドグリースなのか、ヘリコイドのネジ山にあるのか、或いはそれ以外のパーツなのかを見極めていく作業がどうしても必要です。逆に言うとトルクムラなどの原因はヘリコイドグリースだけとは限らないことを知るべきです。
例えば「絞り環」を考えてみて下さい。一般的な撮影スタイルとして考えると距離環を回してピント合わせした後に絞り環操作して絞り値を追い込んでいきます。その時距離環を回した後ですからヘリコイドが繰り出されたり収納されたりしています。その後に絞り環操作しますが距離環と絞り環がくっついて動いているワケではありませんね?(笑) つまり絞り環の位置はそのままに距離環だけが伸びたり縮んだりしています (距離環を回している時によ〜く観察すると極僅かに距離環の位置が前後しているのが分かる)。
このことからヘリコイドの繰り出し/格納時には絞り環との連係に何かが介在しない限り絞り環で設定した絞り値を鏡筒内にセットされている絞りユニットまで伝達できないことがご理解頂けると思います。
従って距離環を回した時のトルクムラ解消はヘリコイドグリースだけの問題ではなく他の部位からの影響も考慮しなければならない (つまりグリース交換だけでは改善できない) ことを知るべきですね。
↑絞り環をセットしたところですが、ここで「富岡光学製たる証」が出てきます。上の解説のとおり「ストッパー」を用意する設計思想そのものが当時の富岡光学製オールドレンズに共通して採用されていた考え方です。このストッパーは指標値環の位置を確定時に微調整する際のそのマチ幅を決めている役目です。
何故ならば指標値環がイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で固定されるため位置が決まっていないからであり、モデルによりこのストッパーの厚みやカタチ、位置までも異なります。
↑ストッパーが必要な理由が上の写真です。絞り環側に「鋼球ボール+スプリング」がセットされるのに対し、絞り環を回した時にカチカチとクリック感を実現させるために必要な「絞り値キー (溝)」が指標値環側に用意されているのです。
この当時の他社光学メーカーでは既に絞り環の裏側に溝を用意して鋼球ボールを基台側に組み込んでいたのでこのような面倒な問題はありませんでした。例えばNikon製オールドレンズは鋼球ボールの代わりに「カタチを付けた板バネ」を使っていましたし、富士フイルムやCanonでも基台側に鋼球ボールを埋め込んでいました。つまり「絞り環をセットすることでクリック感まで実現していた」単独工程で済みますが、どう言うワケかこの当時の富岡光学製オールドレンズは全てのモデルで絞り環と指標値環の2つのパーツを組み合わせて初めてクリック感が実現する設計思想を延々と続けていたのです。
この設計思想がどうして拙いのか?
絞り環に刻印されている絞り値とクリック感との整合性 (刻印絞り値の場所でクリック感を感じる) は指標値環の位置調整でズレが生じることになるからです。その結果、工程としては2つのパーツが関係するので工程数が増え、同時に指標値環の位置調整が必須になります。それ故前述の「ストッパー」の存在が必然になるワケですね。
ではどうしてそのようなムダな設計を続けていたのか?
それこそが富岡光学が経営難に喘いでいた根本原因であり旧態依然の慣例に倣う考え方が蔓延っていたと当方が考える由縁です。つまり部位別に設計権限を持つチーム (部署) が分かれていたと推測します。そのために関係するチームが設計を変更しない限り同じ設計思想のまま延々とムダな工程数だけが増え結果的に人件費の抑制が適わずいつまで経っても利益を食い続けていたと考えます。
イモネジなどで指標値環を締め付け固定せずに「プラスネジ」で固定してしまえば良いのです。そうすれば指標値環の位置は決まってしまいますし、絞り環の裏側に絞り値キーの「溝」を用意してしまえば自ずと鋼球ボールは基台側に埋め込まれ「絞り環のセット共にクリック感も実現」になります。たったひとつの工程で完了してしまい、且つクリック位置微調整などのムダな工程も省けます (既に他社光学メーカーは当時そうしていた)。
当方が富岡光学を「意味不明な設計をする会社」と結論づけている根拠の一つです。
↑ストッパーに対して指標値環に4mm程マチが備わっているのを写した写真です (赤色矢印)。従って富岡光学製オールドレンズをオーバーホールする際は必ず絞り環を回してクリック感と刻印絞り値との整合性をチェックしなければならず面倒です(笑)
↑後からセットできないのでここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。
↑こちらはマウント部内部の写真ですが既に当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。
ここで一つの疑問が浮かび上がります・・。
このマウント部を見る限り広角レンズ (35mm/28mm) と全く同一の構造です。だとするとC/Yマウントの仕様である絞り連動レバーによる常時開放状態へのセット概念はマウント部の設計に何等影響していないことになり、何故に絞りユニット側の仕様をワザワザ広角レンズで変更していたのか理解に苦しみます。
1968年に経営難からヤシカに吸収されるものの、その母体たるヤシカさえも経営難 (1975年から京セラの支援を受ける) から倒産し、ついには1983年に京セラに吸収されます。結局このモデルが登場した時期1976年時点でもヤシカは富岡光学に対して充分な予算を与えていなかったことが窺えますし、もっと言えばヤシカも富岡光学も旧態依然のある意味日本的な思想から脱却できなかった会社だったのかも知れません。それは年功序列、終身雇用、天下りなどが至極当たり前で暗黙の了承の基に世の中が動いていた時代の名残なのでしょうが、既に日本の経済は高度経済成長が終焉し坂の頂上から下り坂へと転がり始めている時代でもあり (第一次オイルショック) 世界経済の混乱期に乗り切る施策を講じられなかった経営陣の不甲斐なさでもあったのかも知れません。
たかがオールドレンズですが、バラすことで内部の構造化や構成パーツから当時の設計思想が窺え、その会社の独特で且つ外見からは想像にもし得ない要素が時代背景と共に浮かび上がりロマンを掻き立てます。
↑完成したマウント部をセットして距離環を仮止めした後、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑大変美しく光り輝くマルチコーティングの大口径標準レンズ『YASHICA LENS ML 50mm/
f1.4《後期型》(C/Y)』です。今回初めて扱いましたがなかなか良くできたモデルだと感じました。特に大口径となれば富岡光学の場合光学系を清掃していても本当に楽しくて仕方ありません (富岡光学の光学系硝子レンズ格納方式は非常に理に適っているから)(笑)
このような洗練された (それこそ拘りと意地を感じる) 光学系の設計を筐体内部側にも採り入れていればきっと今も「世界のTOMIOKA」として現存していたのかも知れませんね・・光学系を清掃しながらそんなことを考えていました(笑)
↑光学系内の透明度は「驚異的」です(笑) LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。経年のCO2溶解に拠る極微細な点キズは少々多めですが、それよりも問題だったのはコーティング層の経年劣化進行です。
実は光学系を清掃していると、当初バラす前のチェック時点でカビの発生を視認できていなくとも薬剤を塗布した段階で繁殖している目に見えないカビ菌の領域 (根を下ろしている箇所) を知ることができます。さらにカビ除去の後に洗浄液で清掃すると今度はコーティング層の具体的な経年劣化状態までちゃんと指に伝わってくるので、そればかりはどんなにLED光照射しても外から確認できる要素ではなく「まさにバラしている醍醐味」と言えます。当方が「光学系もキレイになって」と表現している裏には実はそんな背景が含まれていたりするのですね(笑)
今回の個体は残念ながら蒸着されているマルチコーティングがそろそろ限界に到達しています。過去メンテナンス時に白色系グリースが塗布されていたので揮発油成分の廻りが多い分、コーティング層への影響も致命的だったのでしょう。
今回のオーバーホールで黄褐色系グリースに入れ替えられたのがちょうど良いタイミングだったのかも知れません・・後数十年後にはコーティング層の浮きが始まり製品寿命を迎えることになるでしょう。
適うならば、その数十年後には「塗布するだけで済むコーティング液 (いわゆる疑似的な味付けのような考え方の製品)」の開発や、そもそも光学硝子研磨を簡単にできる器具が出回っていれば楽なのですが・・それほどオールドレンズの絶対個体数が激減しているハズなので、今のようにヤフオク! や海外オークションebayなどでポチポチッと落札できる状況ではないかも知れません(笑)
だとするならば、せめて整備する人は製品寿命を見据えたメンテナンスを是非とも施して頂きたいと切に願いますね。まぁ、その頃には当方はもう居ませんが、その意味では当方にとって「一期一会」とはまさしくオーバーホールする個体をどんだけ適正な (理想的な) 状態に近づけられるのかがそのコトバ通りになります。決してその個体を所有することに拘らず製品寿命を延ばす「延命処置に関われた」ことだけが当方にとって最大の歓びですが、星の数ほど流通している中で僅か2,000本程度の話なので何ら価値にも価しない話です (つまりただひたすらに 自己満足だけの世界)(笑)
これがプロともなれば1日に数本、当方と同じ年数7年で捉えれば優に1万本は越えているでしょうから、そう言う方々こそが「後世に名を残す匠」なのだと思います。素晴らしいことです。当方などは7年経った今でも相変わらず1日1本しか仕上げることができません(笑)
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑後群側も極微細な点キズが少々多めですが透明度はもの凄いです。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
こうやって写真に撮るとキレイですが(笑)、実は清掃時に大変な思いをしているのはコーティング層の「拭き残し」だったりします。上の写真2枚目のようにコーティング層 (裏面側) が剥き出しに光に反射している時 (ワザとそのように撮影しているのですが) 拭き残しがあると明確に汚れ状に見えてしまいます。
この「拭き残し」が残るのは洗浄液で清掃した後ではなく、清掃が終わってLED光照射状態で (硝子面に貼り付いてくる) 極微細な塵や埃を取り除いている最中に「その拭いた箇所が残る」ための拭き残しです。従って最後の最後に光学硝子を実際に格納筒の中にセットする時に塵や埃が気圧差で吸い寄せられてペタリと貼り付いてくるので、セットしては取り出して再び清掃しまたセットするのを何度も繰り返して、ようやく上の写真のように一切拭き残しが無い状態で組付けが完了します。
その意味で当方の光学系洗浄工程は非常にシビアな判定をしているので、結果的に手にされた方々がその透明度に感激されるワケであり、当方もアホの如く時間ばかり掛ければ良いのかと毎回自問自答 (反省ッ!ポーズ) しながら作業している次第です(笑)
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内: 9点、目立つ点キズ:6点
後群内:18点、目立つ点キズ:13点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑8枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。
上の写真は最小絞り値「f16」に閉じた状態を撮っていますが、ご覧のとおり本当に微々たる開口部です。にも拘わらずちゃんとコントラスト低下もほぼ招かずにf値「f16」でキッチリと端正な写真が撮れるのは、まさに光学設計の賜物と言えるのではないでしょうか。
一方、開放側の時はf値「f2」辺りまで収差の影響から色ズレが生じますから、その分当モデルはPlanarと比較した時に故意に解像度を求めていなかった光学設計なのが分かります。つまりより富岡光学製オールドレンズに共通する傾向が強く描写性に残ったモデルと考えています (逆にPlanarはそれを敢えて消している/改善させている)。その辺の拘りの相違が光学設計の 構成を見ても窺えますね (パワー配分が異なる)。
ここからは鏡胴の写真になりますが経年の使用感を僅かに感じるものの当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によっては「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑このモデルはピントの山が明確なので、敢えて今回のオーバーホールでは距離環を回す際のトルク感を「ちょい軽め」に仕上げました。9回も組み直しをしましたがおかげでトルクムラは解消し (原因が判明したので解消できた) 全域に渡って完璧に均一なトルク感で仕上がっています。無限遠位置のアタリ付けのチェックは3回も組み直しすればOKなので、トルクムラ改善のために9回プラスしているので組み直し回数は全部で12回になります。その中でトルクムラの原因箇所を探り対策/改善処置を施しているワケで、単純にヘリコイドグリースの種別や粘性を変更していません (と言うか種別/粘性はシットリ感漂うトルク感が大前提なのであまり変更しません)。
この「シットリ感漂うトルク感」と言うのはちょっとコトバで表現しにくいですが(笑)、敢えて表現するならピント合わせ時にヌルヌルっと微動する (下手すれば慣性の法則でず〜ッと回り続けるのではないかと錯覚するような) 感触を指しています。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
既に出品している広角レンズ共々、残念ながら人気が無いので今回の扱いを最後にヤシカ製「MLシリーズ」はやめます。もしもお探しの方がいらしたら是非ご検討下さいませ。
詰まるところ、当方のオーバーホールに対して存在価値を見出さない方が圧倒的多数なのだと真摯な気持ちで受け取らざるを得ません。その意味では年初に考えたとおり、いずれオーバーホール/修理の受付を止めて最後は転売屋/転売ヤーからも撤退と言うのがやはり道筋のように感じます。オーバーホールはプロの方々にお任せするべきではないかと最近よく考えるようになりました・・(笑)
↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。